二次創作小説(新・総合)

次回予告 ( No.137 )
日時: 2022/06/09 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ここは音楽が溢れる街、チューンストリート。西の大陸の北側に点在する都市である。音楽が溢れる、とのお触れ通り、様々なアーティストがこの街を拠点として活動しているのが特徴だ。
 街の中央に点在する中枢ビルの中で、ウサギとネコの少女はとある少年の呼び出しを喰らい、顔を出していた。ウサギの少女の名を"ミミ"、ネコの少女の名前を"ニャミ"といった。彼女達は"ポップンミュージック"というアーケードゲームの宣伝マスコットを担当している、大陸中で有名なマルチタレントである。


 "社長室"と書かれたプレートが貼り付けられているひときわ大きな扉を勢いよく開き、ニャミは呼び出した張本人の名前を叫んだ。しかし、当の本人の姿が見えない。呼び出しておいてなんだ、と彼女は憤慨する。ニャミの気持ちを汲み取りながらも、ミミも呼び出した少年―――"MZD"の行方を心配した。



「んもう!MZDったら急にあたし達呼び出しといて席を外しているとは!失礼にも程があるよ!」
「まぁまぁ。もしかしたらお手洗いかもしれないし、ちょっと待ってあげようよ。まぁそんなことで待たせるような奴じゃないけど、あいつ…」



 彼から呼び出された理由は"次なるイベントの案が思いついたから聞いてほしい"という、いつもの突拍子の無いものだった。MZDは時に思い付きで大きなイベントを動かしていることが多い。毎回彼女達の興味をそそられる内容ばかりなのでいつの間にか彼に乗せられてしまっているが、振り回されているのは事実。今回もそうだと既に2人で結論をつけていた。
 しばらく待っていると、彼女達が向いている方向の小さな扉が静かに開き、目的の人物が姿を現した。隣にマゼンタの髪をなびかせた男性―――"ヴィルヘルム"も立っている。彼らは彼女達に気付き、いつも通りに挨拶を交わしてきた。



「ミミ、ニャミ。久しぶりだな」
「本当久しぶりー!ヴィルさん、元気だった?」
「久しぶりに地上に戻ったが、中々快適な時間を過ごせている。……こいつの突拍子の無いアイデアに振り回されることも多々あるがな」
「アンラの奴にコネクトワールド壊されちゃって、何処にいたのかって心配してたんだよー。元気そうで良かった!」
「というか、こいつ元々世界破壊側する側なの忘れてませんかお前さん達?」
「ヴィルさんは紳士的でとっても優しいんですー!MZDとは全然違うもん!」
「オレは"フレンドリーな神様"目指してるからね!」
「どこが"フレンドリー"なの?!あたし達にいっつも無茶押し付けてくるくせにー!」
「何だかんだ楽しんでるから結果オーライじゃん」



 他愛ない話を繰り広げながら、お互いの進捗を交わし合った。ヴィルヘルムはショウの一件を皮切りに、MZDと共に地上で活動を再開したらしい。呪縛はどうしたのかと問うと、何故かこの世界に飛ばされた際に再び発動してしまったらしく、ポップンワールドで活動していた時と同様に、自らの城を小指サイズに圧縮させて共に移動をしている状態だった。
 彼も苦労しているのだと理解した彼女達は、早速MZDに呼び出された本題について話を振ることにした。すると、彼は2人に紙の束を渡した。一番上の紙には"音楽フェス 企画書"と記載されている。



「音楽フェス…?」
「そう。実は…オレ、すっごい大々的な音楽フェスの企画してるんだよね。とにかく渡した紙束の中身見てみてよ」
「分かった。……って、えっ?!」



 1枚ぺらりと紙をめくってみると、そこにはとんでもない文字が書かれていた。開催地の候補に、終末の世界の中央を陣取る著名なリゾート地の名前が載っていた。最近チューンストリートにも噂が流れてきており、"急速に技術が発展している人工島"として世界中で話題になっている島の貸出許可証だった。
 更にもう1枚めくってみると、MZDがフェスに招待したいアーティストのリストが一覧として載っていた。名前を軽く確認するだけでも、彼女達が耳にしたことのある有名人ばかりの名が連なっていた。



「えっ。よくこんな場所貸出許可取れたよね。ここって最近話題になってる人工島じゃん」
「神の交渉力舐めないの。オレのツテと話術を最大限発揮して交渉成立に導きました」
「それに、アーティストさんのリスト初っ端からとんでもない名前ばっかり並んでるじゃん!
 "哀愁のネズ"とか、"ミカグラの歌姫スイ"とか、"超高校級のアイドル 舞園さやか"とか!ポップンパーティでお世話になってる人達の名前も勿論ずらずら並んでるけどさ!どうやって交渉するの?!」
「世界が混ぜられたなら、混ぜられたなりに面白い企画をするのが"音楽の神"ってもんだろ~? そう考えてリスト作ってたらとんでもねー名前ばっかり並んじゃった」
「一応止めたのだぞ…?」
「でも、ヴィルさんも心なしかウキウキしてない?」
「気のせいだ。気のせいということにしておけ」
「絶対ウキウキしてるよねこれ」



 連なる名前の数々を見て、思わずMZDに"どうやって交渉するのか"を問い詰めた。いくら音楽の神だとはいえ、違う世界の初対面の人物だと話が違ってくる。今までも割と無理難題を通してパーティに参加してもらったこともあった。今は彼の"自称執事"として動いている隣の男も、最初にパーティに参加してもらった際は大変なことになったなぁと彼女達はしみじみと思い出していた。
 しかし、ミミもニャミも顔つきは彼らと同じくわくわくとしたものだった。こんな楽しそうな企画、落とす方がおかしいと。そんな表情をしていた。



「面白そう~!わたし達も知らない音楽に触れられるチャンスだし!」
「ねぇMZD、こうなったら異世界から歌自慢も募集してみない? アシッドさんに頼めば異世界問題は解決するんでしょ? せっかく別世界から人を呼べるんだからさ~、やってみようよ~!」
「お、そのアイデアいいかも。検討しとくー。結局お前さん達も乗ってくれてるみたいだし? 当日はMC頼んじゃおうかな~?」
「オフコース!」



 乗り気になったら後はとんとん拍子で話は進む。しかし、まずはフェスを開催するにあたりアーティストに出演許可を貰わなければならなかった。ミミとニャミも彼女達でやることをリストアップする為、企画書を貰って一旦帰ることに決めたのだった。ちなみに、書類はコピーの為他人に見せなければ別に持って帰ってもいいらしい。セキュリティの面が実に心配である。


 ミミとニャミを玄関まで送り届け、彼女達の背中を見送る。そして、2人の姿が完全に見えなくなった後―――MZDは笑顔を真顔に戻し、ヴィルヘルムに話しかけた。



「さて。人集めはこれでよし、と。後は……サクヤ側との連携かな」
「アンラの動きがおかしくなっているのだろう? 何故彼女達に言わない。悪神には散々被害を被って来た立場なのだぞ我々は」
「分かってんでしょー? あいつらはいたいけな女の子なんです。早々危険に巻き込ませるわけにはいかないよ。
 それに…。警戒してるのが"オレ達だけじゃない"っぽいのが妙に引っかかる。あの、リレイン王国だっけ? 議事堂にいた刀剣男士以外の連中…。あいつらの中に、なんか狙いの人間がいるっぽいんだよねー。第三者っつーか…嫌な予感すんあよね。何かが"浮かび上がる"、みたいな…」
「"浮かび上がる"か。お前にしては妙に変な表現の仕方をするのだな?」
「そうとしか表現できないんだよ。嫌な予感を口に出すのは」




 MZDもヴィルヘルムも打倒アンラの為秘密裏に動いていた。音楽フェスの裏でもう1つ、大きな歯車を動かそうとしているようだったが…その正体が何なのかは、今は少年以外は知る由もない。
 ジト目になって問い詰める口調を悟ったのか、MZDはさっと音楽フェスの話に戻す。今はこれ以上踏み込んで欲しくなかった。まだ材料が揃っていない為、詳しく話をしたくないのだそうだ。
 あからさまにはぐらかされたヴィルヘルムは、それ以上突っ込むことは止め"無茶だけはするなよ"とMZDに釘を刺したのだった。

次回予告 ( No.138 )
日時: 2022/06/09 22:04
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ヒスイゾロアが現れた、ちょっとした出来事から一週間が経過した。ネズは珍しく神域に留まり作曲をしている。普段、彼は外部からの客の音を聞き逃さないようにエントランスにて作曲をしていることが多い。ラルゴも忙しい身の為、少しでも自分の特技で役に立てればというネズなりの気遣いだった。
 しかし、彼にそれを見抜かれていたのか"たまには羽を伸ばしてもいいのよ?"と、あからさまにエントランスから遠ざけるようなことを言われてしまった。留まる場所を失った結果、神域に引きこもりいつものように作曲を続けている、という訳である。


 彼が集中している最中、襖が静かに開けられる。そこから出てきたのはサクヤと大典太だった。大典太は最近までで起きた出来事の進捗を彼女に報告し終わり、お茶にしようと誘われ用意をする為に移動しようとしていた。
 珍しい人物の姿を発見し、思わず2人はネズに声をかける。彼はのっそりと動き、小さく礼をして"どうも"と返してきた。仕事中だからか邪魔しないように移動しようとすると、彼は"別にいいですよ。フレーズなんも思いついてませんし"と、ヘッドホンを耳から外して2人に向き直ったのだった。



「そういえば、最近光世さんがネズさんの作られた歌を楽しそうに口ずさんでいるのを見かけます。随分と気に入られた様子で私も嬉しくなってしまいますね」
「……恥ずかしいことを言わないでくれ主。鬼丸にばれたらまたからかわれる」
「からかわれる…というか、あの顔は明らかに嫌がっている顔でしたね。"人間の娯楽なんかに現をぬかしやがって!"みたいな」
「……言われてみれば、そうかもしれん。だが仕方ないだろ…。ネズの歌は本当にいい歌なんだ…」
「そう言ってくれること自体は嬉しいね。シンガー冥利に尽きますよ。ありがとうございます、光世」



 大典太が素直にネズの歌を褒めた為、彼は素直に礼を返す。きちんと態度に表してきた人物にはそれなりの対応をする。それがネズのモットーだった。彼と大典太が会話の幅を広げていることに対し、サクヤは"少しずつ大典太がネガティブながら前に進んでいる"と感慨深い気持ちになっていた。
 思わずそのことを口にしてしまい、大典太にジト目で見られてしまった。どうやら腑に落ちていないらしい。



「……俺が自分で進んでいるんじゃない。ネズのおかげだ」
「おれだけじゃないでしょう。議事堂…いや、この国にはお人好しがたんまりいますよ。おれがうんざりする程にね」
「何にせよ彼らの刺激を受け、光世さんが前に進んでいるのは事実です。もっと自信を持ってください」
「……善処する」



 大典太の反応にくすくす笑いながらも、ネズは気分転換が出来たと作曲に戻ることにした。再びPCに顔を向けると、右下にメールが届いているという通知があった。何かと思いクリックしてみると、宛名には自分の知らないメールアドレスが記載されていた。
 差出人が不明の怪しいメールだ。ネズの表情が崩れたのを2人も見逃しておらず、思わず彼のPCを覗き見る。最近誰かとPCでメールをやり取りした記憶は無い。そもそも、仲間内での普段のやり取りはスマホロトムで済ませているからだ。キバナやダンデからのしつこいバトルの誘いも、ノボリやクダリとのやり取りも、マリィとの連絡も。


 もしかしたらスパムメールかもしれないと思い、中身を見ずにゴミ箱へと移動させようとする。そんなネズの腕を大典太が止めた。思わず彼の顔を見てみると、心当たりがあるらしい。眉を潜めて"中身を見てみてもいいか"と小さな声で訪ねてきた。
 彼がこんなにまっすぐな目を自分に向けてきたことがあっただろうか。珍しい表情に根負けし、ネズは渋々メールを開いた。
 本文にはこんなことが書かれていた。




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 ○○月▲▲日 指定の場所にて待つ M


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「……なんですかこれ」
「指定の場所…。画像のようなものが添付されているようだが」
「どこの誰だか知りませんが、おれに何用なんですかね…」



 訳の分からない本文に、"指定の場所"であろう画像ファイル。大典太に促され、ネズはしかめっ面を続けたまま画像ファイルを開いてみる。彼らの目の前に映って来たのは、とあるビルの写真だった。この写真を見た瞬間、サクヤと大典太の表情が動く。やはり彼らには心当たりのある人物からのメールだったようだ。
 ネズが詳細を質問すると、大典太は静かに"差出人"であろう少年についてに説明を始めた。



「……ノボリとクダリがここに初めて来た時の出来事、覚えているか」
「しっかり覚えていますよ。双子を巻き込んでてんやわんやしましたよね。それがどうしたんですか?」
「……ショウを送り届けた人物の中に、茶髪のもみあげが特徴的な少年がいただろう。このメールの差出人はその少年…名前を"MZD"という」
「ん? MZD?」
「……聞き覚えがあるのか?」
「……いや。随分大層な名前を聞いちまったもんでね。MZDといえば、"六本木の悪魔"とかかつて呼ばれてた凄腕DJじゃないですか。まさかあの子供がそうだとはね…。世の中本当分からないことばかりですよ」
「(……そっちの筋でも有名人だったのか、あいつ…)」



 MZDの名を口に出され、ネズが彼を"DJ"として知っていたことに大典太は一瞬驚いた。しかし、彼も作曲家の端くれ。それくらいの知識は知ってて当然だと表情を元に戻した。あの場はショウとヒスイ地方にいたノボリを過去に送り返す為に動いており、お互い自己紹介をする時間もなかった。まさか一度邂逅していたとは、とネズはうんうんと記憶を呼び起しながら頷いている。
 サクヤも大典太の言葉に続くように少年についての印象を話し始めた。MZDには散々世話になった立場でもある為、その彼が頼み事をしてきているのならば聞いてあげてほしいとも内心彼女は思っていた。



「えむぜさんには、私が前の世界にいた時にとてもお世話になった人物なのです。彼であれば信用に足りる人物だと確信していますので、是非行ってあげてほしいと私は思っています。
 それに…彼は"音楽の神"ですし、もしかしたら音楽関係の大掛かりなイベントを企んでいるかもしれません」
「大掛かりな音楽のイベント…フェス的なものでもやるんでしょうかね?」
「……行ってみないと分からんが、あいつは元々いた世界で音楽に纏わる宴を何十回も繰り返し開催していたらしい。今回もその類だと思って向かった方がいいだろうな…」
「ふぅん。音楽関係で話を通してもらえるなら、おれも"音楽を極める"っつー目標に少し近付ける気がしますし…。行ってみますよ。情報提供ありがとうございます」



 サクヤからの話を聞いたネズは、指定の日に指定の場所に行ってみる決意をした。何を言われるかは分からないが、自分を助けてくれた人物が信頼しているのだからそう面倒ごとには巻き込まれないだろうとネズは思っていた。
 大典太も当日は何も予定がない為、ネズと共に写真の場所へと向かうことを決めたようだ。



「別に無理して一緒に来なくてもいいんですよ、光世」
「……この場所…。あんたは行ったことがないだろう。街の形状がそのままなら、俺が中を案内できる。このビルも場所が変わっていなければ覚えている。道中危険が無いわけじゃないからな…。
 ……それに、俺はあんたの音楽をもっと聴いてみたい」



 ネズは彼の言葉に深くため息をつきながらも、表情はまんざらでもなかった。そんな彼らの様子を見守りながら、サクヤは2人の絆が少しずつ深まっていることに安堵したのだった。
 音楽の街で、彼らはどんな出来事と出会うのだろうか。それは、まだ誰にも分からない。




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