二次創作小説(新・総合)
- Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.166 )
- 日時: 2025/09/05 21:50
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
審神者会合から1ヵ月が経過した。本格的な夏も終わりの兆しを見せ、夏の残り香がリレイン王国を駆け抜けている。
議事堂の中にある神域ではすやすやと寝息を立てる一同がいた。現在は夜も更け、月が神域を優しく照らしている。
そんな中、サクヤは縁側で1人月を見ていた。一度床には着いたのだが中々眠れず、気分を落ち着かせようと縁側までやってきたのであった。
「(童子切さんは今、いったいどこで何をしているのでしょうか)」
月を見ていた彼女は、ふとそんなことを思い臥せっていた。
クトゥルフによって鍛刀された天下五剣の残り一振、"童子切安綱"。かつてコネクトワールドが存在していた際に、鬼丸と共に悪神に奪取された刀剣の一振である。
鬼丸国綱はサクヤ、そして友である大典太達の奮闘の末取り戻すことが出来たが、童子切に関しては未だに敵の手中に堕ちている。
鬼丸は、かつて悪神の手に堕ち、大典太と死闘を繰り広げた過去がある。その行く末を知っているサクヤは、童子切にも同じ轍は踏ませたくはなかった。
どうすれば、彼を見つけられるのだろう。そもそも、彼は何処にいるのだろう。
同じ考えがぐるぐると彼女の脳内を支配する。どうすれば、どうすれば。
そんなことを考える彼女の元に、一人の人影が姿を現した。大典太だった。
「……主」
「およ、光世さん。こんな夜更けにどうされたのですか?」
「……眠れなくてな。あんたもなのか?」
大典太はそう言いながら、サクヤの隣に静かに座る。どうやら、酒を飲んでも眠りにつくことが出来ず、目が覚めたら人影が見えたのでついやって来てしまったらしい。
彼女の表情を覗き見た大典太は、サクヤに何か考え事をしているのかと問う。サクヤは困ったように少し表情を崩しながら、童子切のことを話すことにしたのだった。
「童子切さんのことを、考えていました」
「……童子切、か」
大典太も月を見ながら、サクヤの言ったことに耳を傾ける。
結局、童子切は終末の世界になる前の世界――"コネクトワールド"の時代でも、結局見つからなかった。しかし、コネクトワールドでは鬼丸しか顕現ができておらず、童子切に関しては誰も知らない状態だった。
恐らくあの悪神は童子切を持っているだろうと大典太は考えていた。誰も行方を知らない以上、そう考えるのが一番自然だった。
「……大方、あの悪神の元にいそうだがな」
「であれば、鬼丸さんと同じように邪気を注がれているはずです。救えるのであれば、早く手を打たねば手遅れになってしまいます」
そう言葉を紡いだ彼女の目には焦りが生まれていた。童子切のことを考えた以上、救えるのであれば早く救いたい。
しかし、どこにいるのか分からない以上何も手を打つことはできない。悲しそうに目を伏せる彼女に、大典太は優しく彼女の頭を撫でた。
「……急がねばならないが、焦りすぎるのも禁物だ。童子切の手がかりも、これから探していこう」
「そうですね……」
大典太の言葉によりいくらか冷静さを取り戻したサクヤだったが、一度浮かんだものが簡単に頭から消えるわけではない。
童子切のことも考えねばならないが、目に見えているものを片付けることも大事。そう考えを切り替えた。
「……風も吹いてきた。これ以上起きていると明日に響く。そろそろ寝よう、主」
「はい。ありがとうございます、光世さん」
「……近侍だからな」
照れ隠しなのだろうか。礼を言われた大典太の耳元はほんのりと赤くなっていた。
そのまま寝ている仲間を起こさないよう、静かに床へと戻った1人と一振は、眠りにつくのだった。
――わたしを……わたしを、けしてくれ……
なんなのだろう。この声は。
どこかで聞き覚えがあるような。
――わたしのこころが、すべてこわれてしまうまえに……
目の前の黒い影に、何者なのかを問いかける。
しかし、返ってくるのは沈黙。そして、黒い影はこう言い放ったのだった。
――わからない……。じぶんが、なにものなのかも、もう……
その言葉と共に、まどろみが襲う。黒い影が、消えていく。
そうして、夢の中へと吸い込まれていったのだった。