二次創作小説(新・総合)

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.186 )
日時: 2025/10/01 21:47
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 前田達と別れ、研究室らしき扉の目の前にやってきた大典太達は、早速カービィにもう一度扉を壊すよう頼んだ。またもや鬼丸が刀を貸し出すのを嫌がったため、"こいつよりは力がないが"と、大典太は自分の刀をカービィに吸わせ、大典太光世をコピーさせた。
 もそもそと暗い声で何か言いながら研究室らしき部屋の扉を破壊する様は、まるでサクヤと出会った時を彷彿させると大典太はその姿を懐かしんでいた。
 カービィは扉を破壊したのちすっぴんに戻り、ガラガラと崩れ落ちた瓦礫を避けながら部屋の中へと入っていく。三振も彼に続き、研究室らしき部屋の中へと足を踏み入れた。


 部屋の中は予測通り、簡易的な机とそれに群がる実験道具で溢れかえっていた。大方、この部屋で人間を魔物にする実験を行っていたのだろう。刀剣はその中に無いかと辺りを見渡していると、ふとカービィが声を荒げる。



「見て!あれ、刀剣じゃないかな?!」



 カービィが手を差し伸べた先には、培養カプセルの中に浮かんでいる短刀の姿があった。カプセルの中に閉じ込められているとはいえ、そこからでもそれに邪気が纏っているのを確認できた。
 すると、鬼丸がスタスタと歩いていき培養カプセルを素手で破壊した。一瞬驚いた大典太だったが、彼が破壊したカプセルから短刀を持ち帰ってくるのを見て我に返った。そして、ずいと大典太にそれを突き出したのだった。



「随分と、力業だったな」
「そうした方が早かっただけだ。……早く解呪しろ大典太」
「……あぁ、分かってる」



 鬼丸から短刀を受け取った大典太は、それを掌に乗せ自分の霊力を込め始める。すると、短刀から魔物達と同じように、紫色の靄が出てくるのが分かった。おそらく、倒れていた人間達はこの短刀の邪気によって魔物に変えられていたのだろう。
 しばらく見守っていると、少しずつ紫色の靄が出てくる量は減っていき、大典太が霊力を込め続けた結果、靄は出なくなった。その後、彼は短刀をぎゅっと握り邪気が込められていないことを確認した。どうやら解呪が終了したらしい。
 そのことを皆に伝えると、各々安心したような表情を見せた。カービィは嬉しさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねている。



「……これで大丈夫なはずだ。こいつに燻る邪気はもう存在していないよ」
「やったー!これでこの子も悪い夢から目覚められるんだね!」
「前田達も気にしていた。そろそろ戻るべきではないだろうか」
「……そうだな。戻るか」



 この短刀の解呪が完了した今、この部屋に用はない。そう判断した一同は、倒れた人達の介抱を行っている前田達に合流することを決め、部屋を後にしたのだった。
 元いた場所に戻ると、介抱のお陰で目を覚ました魔物にされた人々が、各々手を取り合って喜んでいるのが見て取れた。話を聞いてみるに、どうやら皆砂漠で彷徨っていたり、旅に出ていた人達を中心に狙われ、拉致されていたらしい。何はともあれ全員無事に助かったのを聞いて、大典太は目尻を下げた。



「大典太さん!こちらの介抱は無事に終わりましたよ。皆さん、特に身体に異常も見当たりませんでした」
「……そうか。大変な仕事を押し付けてしまってすまないな」
「いえいえ!――それで、刀剣はあったんですか?」
「……あぁ。俺にはこの刀剣が誰かは分からんが、あんたになら分かるかもしれんな」



 そう言い、大典太は先程解呪した刀剣を前田に見せる。ぐい、と前田の後ろから厚も顔を出し、その刀剣をじっと見つめた。そして、二振は顔を見合わせた後"秋田!"と声を揃えて叫んだのだった。
 どうやら、二振はこの刀剣に心当たりがあるらしい。大典太も前田と厚の言葉を聞き、何か記憶にひっかかりを覚えていた。自分は、この刀剣と会ったことがある――? そんな思いを抱きながら。



「秋田?」
「はい。童子切さん、この刀剣の名は"秋田藤四郎"といいます。僕達と同じ、粟田口吉光により作られた短刀です」
「つまり、オレ達の兄弟ってことだ!」
「そう、なのか」
「……そうか。こいつが……あの、秋田なのか」



 この短刀の名は"秋田藤四郎"だと前田は言った。元は、現在の秋田県に位置する場所に領土を構えた戦国大名である"秋田家"に伝わったことから、"秋田藤四郎"という名がついたと言われている刀だ。
 その名前を聞いて、大典太は幻の本丸で出会った桃色の髪の少年を思い出していた。あの外に興味を持っていた、自分を助けてくれた柔らかな雰囲気の刀剣男士――。
 その刀剣を改めてぎゅっと握ると、今剣も顔を乗り出し刀剣をじっと見つめた。そして、きょとんとした顔をしながら大典太に問う。



「けんげんしないんですか?」
「おれ達に顕現が出来るものか。おれ達は刀剣男士だぞ」
「……邪気を纏った刀剣の解呪は出来るが、顕現までは流石に出来ないな」
「そうですか~。では、このままもちかえってサクヤさんにけんげんしてもらうんですか?」
「それが一番、手っ取り早いだろうな」



 自分達が顕現出来ない以上、秋田はここでは目を覚まさせられない。その話を聞いて、前田と厚は寂しそうに笑った。その顔を見て、ちくりと少し心が痛んだ大典太なのであった。
 しかし、刀剣男士では刀剣男士の顕現が出来ないのも事実。一度サクヤの元に持って帰って、改めて顕現してもらうのが一番早いだろうと童子切が口を出した。それに異を唱える者は存在せず、事態が解決した今は戻ってから考えようという結論に落ち着いた。
 そう話を進めていた矢先だった。唐突に、大典太の懐が光っていることに今剣が気付く。思わずその元凶――光っている原因である秋田の刀身を取り出すと、急に目が開けられないほどの光に覆われた。



「な、なんだ?!」
「これって……まさか……」



 思わず目を覆う一同だが、光は徐々に人の姿を取っていく。そして、彼らの目の前に現れたのは――。
































「……あれ?僕……」
『秋田!!』



 ――桃色の髪が特徴的な、柔和な印象の少年だった。
 少年――秋田は自分に何が起こったのか理解できておらず、きょろきょろと周りを見渡している。同胞が顕現出来たと前田と厚は彼の手を取って喜んでいた。
 一方、大典太は光り方や力の感触に凝視感を覚えていた。まさか――。そう思い、スマホロトムを取り出しサクヤに連絡をするように頼む。通話音が何回か鳴った後、画面の向こうにサクヤが映った。悪びれもなさそうにすんと澄ましている彼女を、大典太はジト目で見やっていた。



「……主。あんただな。秋田を顕現させたのは……」
『前田くんが会いそうにしていたのを察知しましたので、ついやってしまいました』
「……あんたなぁ」



 どうやら、秋田を顕現したのはサクヤだということだった。そのことが確定的となり、彼女に力をあまり使ってほしくなかった大典太はため息をついた。それを不思議そうに見やる童子切と、彼の真意を感じ取ったのかやれやれと首を横に振る鬼丸がそこにいた。
 その様子をしばらく見ていた童子切だったが、ふと疑問が思いつき、サクヤに問うてみる。



「青龍が顕現したのであれば、秋田も青龍の刀になるのか?」
『いえ、そうではありませんよ。私は単に秋田くんを顕現しただけに過ぎません。秋田くんの主は、これから秋田くんが決めていくことです』
「あの全能神の時もそうだったが、神々はおれ達を軽々しく顕現出来るんだな」
『一定以上の格があれば、誰でも付喪神の顕現は可能だと思いますよ』
「……ある程度の格、か」
「おい。大典太、おまえまさか刀剣男士を顕現出来ればな、なんて思っていないだろうな」
「…………」
「思っているんだな」
「……ほほがいくらあってもたりんぞおにまゆ……。どうじひりもはんたいのほほをつねるのはやめてくれ、いひゃい……」
「楽しそうだった。すまない」



 太刀二振にいいようにされている大典太を発見したのか、秋田は彼に向き直り"お久しぶりです!"と笑顔で挨拶した。何はともあれ、邪気の解呪できた元気な顔を再び見ることができたのだ。今はそれを喜ぶとしよう、と頬をつねっている二振を収めた後、大典太も秋田に挨拶を交わすのだった。



「大典太さん。助けてくれてありがとうございました!」
「……いや。今の俺がいるのはあんたのお陰でもあるからな。こちらからも礼を言う。ありがとう」
「そういえば、ソハヤさんは元気ですか? あの後、顕現出来たんですか?」
「……あぁ。兄弟は新しい主の元で主命を果たしているよ」
「そうなんですね、よかったぁ!あの闇に呑まれた後、みんながどうなっていたか気が気じゃなかったんです」



 秋田と他愛ない話をしていた最中、彼の元へもう3つ、声がかかるのに気付いた。その声の方向を向いてみると、カラ松、チョロ松、十四松の3人が並んで大典太達に頭を下げているのが見て取れた。自分達も魔物になった人達の介抱の手伝いをしていたが、改めて礼を言いたくて話しかけたのだという。
 彼らから"助けてくれてありがとうございました"と礼を言われる。大典太は"……大したことはしていないさ"とやんわり頭を下げることをやめさせつつも、その表情は穏やかだった。
 鬼丸も童子切も彼らを助けることができたのには満足しており、各々反応を見せていたのだった。



「魔物にされなくて、本当に良かった」



 そう、童子切が呟いたのをチョロ松は聞き逃さなかった。この刀剣男士は見たことがないが、声色が自分の兄と似ている――いや、瓜二つなような気がしてならないのだ。カラ松に気付かれないようにそのことをやんわり十四松に伝えると、彼はじっと童子切を見つめる。童子切とカラ松の声を聞き比べて、2人で真顔になっていた。
 そうとは知らないカラ松は、呑気に"ン~?"と声を発していた。



「さてと!助けた人も送り届けなくちゃならないけど、マホロアがこの人数ローアに乗せてくれるわけないからなぁ。どうしよう?」
「でも、これだけの人をワープスターにも乗せられないよね? うーん、砂漠の中だしどうしたらいいんだろう?」



 カービィとバンダナワドルディがそんなことを言う。魔物にされた人々の数はざっと30人ほどはいる。ローアに乗れば一瞬でリレイン王国まで送り届けられるだろうが、マホロアがそんな人助けを、自分の利益にもならないのにやるとは思えなかった。
 うーん、と唸る2人の元に、向こうからふよふよとネズミのような生物が現れるのに、まだ彼らは気付いていなかった。