二次創作小説(新・総合)

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.186 )
日時: 2025/10/01 21:47
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 前田達と別れ、研究室らしき扉の目の前にやってきた大典太達は、早速カービィにもう一度扉を壊すよう頼んだ。またもや鬼丸が刀を貸し出すのを嫌がったため、"こいつよりは力がないが"と、大典太は自分の刀をカービィに吸わせ、大典太光世をコピーさせた。
 もそもそと暗い声で何か言いながら研究室らしき部屋の扉を破壊する様は、まるでサクヤと出会った時を彷彿させると大典太はその姿を懐かしんでいた。
 カービィは扉を破壊したのちすっぴんに戻り、ガラガラと崩れ落ちた瓦礫を避けながら部屋の中へと入っていく。三振も彼に続き、研究室らしき部屋の中へと足を踏み入れた。


 部屋の中は予測通り、簡易的な机とそれに群がる実験道具で溢れかえっていた。大方、この部屋で人間を魔物にする実験を行っていたのだろう。刀剣はその中に無いかと辺りを見渡していると、ふとカービィが声を荒げる。



「見て!あれ、刀剣じゃないかな?!」



 カービィが手を差し伸べた先には、培養カプセルの中に浮かんでいる短刀の姿があった。カプセルの中に閉じ込められているとはいえ、そこからでもそれに邪気が纏っているのを確認できた。
 すると、鬼丸がスタスタと歩いていき培養カプセルを素手で破壊した。一瞬驚いた大典太だったが、彼が破壊したカプセルから短刀を持ち帰ってくるのを見て我に返った。そして、ずいと大典太にそれを突き出したのだった。



「随分と、力業だったな」
「そうした方が早かっただけだ。……早く解呪しろ大典太」
「……あぁ、分かってる」



 鬼丸から短刀を受け取った大典太は、それを掌に乗せ自分の霊力を込め始める。すると、短刀から魔物達と同じように、紫色の靄が出てくるのが分かった。おそらく、倒れていた人間達はこの短刀の邪気によって魔物に変えられていたのだろう。
 しばらく見守っていると、少しずつ紫色の靄が出てくる量は減っていき、大典太が霊力を込め続けた結果、靄は出なくなった。その後、彼は短刀をぎゅっと握り邪気が込められていないことを確認した。どうやら解呪が終了したらしい。
 そのことを皆に伝えると、各々安心したような表情を見せた。カービィは嬉しさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねている。



「……これで大丈夫なはずだ。こいつに燻る邪気はもう存在していないよ」
「やったー!これでこの子も悪い夢から目覚められるんだね!」
「前田達も気にしていた。そろそろ戻るべきではないだろうか」
「……そうだな。戻るか」



 この短刀の解呪が完了した今、この部屋に用はない。そう判断した一同は、倒れた人達の介抱を行っている前田達に合流することを決め、部屋を後にしたのだった。
 元いた場所に戻ると、介抱のお陰で目を覚ました魔物にされた人々が、各々手を取り合って喜んでいるのが見て取れた。話を聞いてみるに、どうやら皆砂漠で彷徨っていたり、旅に出ていた人達を中心に狙われ、拉致されていたらしい。何はともあれ全員無事に助かったのを聞いて、大典太は目尻を下げた。



「大典太さん!こちらの介抱は無事に終わりましたよ。皆さん、特に身体に異常も見当たりませんでした」
「……そうか。大変な仕事を押し付けてしまってすまないな」
「いえいえ!――それで、刀剣はあったんですか?」
「……あぁ。俺にはこの刀剣が誰かは分からんが、あんたになら分かるかもしれんな」



 そう言い、大典太は先程解呪した刀剣を前田に見せる。ぐい、と前田の後ろから厚も顔を出し、その刀剣をじっと見つめた。そして、二振は顔を見合わせた後"秋田!"と声を揃えて叫んだのだった。
 どうやら、二振はこの刀剣に心当たりがあるらしい。大典太も前田と厚の言葉を聞き、何か記憶にひっかかりを覚えていた。自分は、この刀剣と会ったことがある――? そんな思いを抱きながら。



「秋田?」
「はい。童子切さん、この刀剣の名は"秋田藤四郎"といいます。僕達と同じ、粟田口吉光により作られた短刀です」
「つまり、オレ達の兄弟ってことだ!」
「そう、なのか」
「……そうか。こいつが……あの、秋田なのか」



 この短刀の名は"秋田藤四郎"だと前田は言った。元は、現在の秋田県に位置する場所に領土を構えた戦国大名である"秋田家"に伝わったことから、"秋田藤四郎"という名がついたと言われている刀だ。
 その名前を聞いて、大典太は幻の本丸で出会った桃色の髪の少年を思い出していた。あの外に興味を持っていた、自分を助けてくれた柔らかな雰囲気の刀剣男士――。
 その刀剣を改めてぎゅっと握ると、今剣も顔を乗り出し刀剣をじっと見つめた。そして、きょとんとした顔をしながら大典太に問う。



「けんげんしないんですか?」
「おれ達に顕現が出来るものか。おれ達は刀剣男士だぞ」
「……邪気を纏った刀剣の解呪は出来るが、顕現までは流石に出来ないな」
「そうですか~。では、このままもちかえってサクヤさんにけんげんしてもらうんですか?」
「それが一番、手っ取り早いだろうな」



 自分達が顕現出来ない以上、秋田はここでは目を覚まさせられない。その話を聞いて、前田と厚は寂しそうに笑った。その顔を見て、ちくりと少し心が痛んだ大典太なのであった。
 しかし、刀剣男士では刀剣男士の顕現が出来ないのも事実。一度サクヤの元に持って帰って、改めて顕現してもらうのが一番早いだろうと童子切が口を出した。それに異を唱える者は存在せず、事態が解決した今は戻ってから考えようという結論に落ち着いた。
 そう話を進めていた矢先だった。唐突に、大典太の懐が光っていることに今剣が気付く。思わずその元凶――光っている原因である秋田の刀身を取り出すと、急に目が開けられないほどの光に覆われた。



「な、なんだ?!」
「これって……まさか……」



 思わず目を覆う一同だが、光は徐々に人の姿を取っていく。そして、彼らの目の前に現れたのは――。
































「……あれ?僕……」
『秋田!!』



 ――桃色の髪が特徴的な、柔和な印象の少年だった。
 少年――秋田は自分に何が起こったのか理解できておらず、きょろきょろと周りを見渡している。同胞が顕現出来たと前田と厚は彼の手を取って喜んでいた。
 一方、大典太は光り方や力の感触に凝視感を覚えていた。まさか――。そう思い、スマホロトムを取り出しサクヤに連絡をするように頼む。通話音が何回か鳴った後、画面の向こうにサクヤが映った。悪びれもなさそうにすんと澄ましている彼女を、大典太はジト目で見やっていた。



「……主。あんただな。秋田を顕現させたのは……」
『前田くんが会いそうにしていたのを察知しましたので、ついやってしまいました』
「……あんたなぁ」



 どうやら、秋田を顕現したのはサクヤだということだった。そのことが確定的となり、彼女に力をあまり使ってほしくなかった大典太はため息をついた。それを不思議そうに見やる童子切と、彼の真意を感じ取ったのかやれやれと首を横に振る鬼丸がそこにいた。
 その様子をしばらく見ていた童子切だったが、ふと疑問が思いつき、サクヤに問うてみる。



「青龍が顕現したのであれば、秋田も青龍の刀になるのか?」
『いえ、そうではありませんよ。私は単に秋田くんを顕現しただけに過ぎません。秋田くんの主は、これから秋田くんが決めていくことです』
「あの全能神の時もそうだったが、神々はおれ達を軽々しく顕現出来るんだな」
『一定以上の格があれば、誰でも付喪神の顕現は可能だと思いますよ』
「……ある程度の格、か」
「おい。大典太、おまえまさか刀剣男士を顕現出来ればな、なんて思っていないだろうな」
「…………」
「思っているんだな」
「……ほほがいくらあってもたりんぞおにまゆ……。どうじひりもはんたいのほほをつねるのはやめてくれ、いひゃい……」
「楽しそうだった。すまない」



 太刀二振にいいようにされている大典太を発見したのか、秋田は彼に向き直り"お久しぶりです!"と笑顔で挨拶した。何はともあれ、邪気の解呪できた元気な顔を再び見ることができたのだ。今はそれを喜ぶとしよう、と頬をつねっている二振を収めた後、大典太も秋田に挨拶を交わすのだった。



「大典太さん。助けてくれてありがとうございました!」
「……いや。今の俺がいるのはあんたのお陰でもあるからな。こちらからも礼を言う。ありがとう」
「そういえば、ソハヤさんは元気ですか? あの後、顕現出来たんですか?」
「……あぁ。兄弟は新しい主の元で主命を果たしているよ」
「そうなんですね、よかったぁ!あの闇に呑まれた後、みんながどうなっていたか気が気じゃなかったんです」



 秋田と他愛ない話をしていた最中、彼の元へもう3つ、声がかかるのに気付いた。その声の方向を向いてみると、カラ松、チョロ松、十四松の3人が並んで大典太達に頭を下げているのが見て取れた。自分達も魔物になった人達の介抱の手伝いをしていたが、改めて礼を言いたくて話しかけたのだという。
 彼らから"助けてくれてありがとうございました"と礼を言われる。大典太は"……大したことはしていないさ"とやんわり頭を下げることをやめさせつつも、その表情は穏やかだった。
 鬼丸も童子切も彼らを助けることができたのには満足しており、各々反応を見せていたのだった。



「魔物にされなくて、本当に良かった」



 そう、童子切が呟いたのをチョロ松は聞き逃さなかった。この刀剣男士は見たことがないが、声色が自分の兄と似ている――いや、瓜二つなような気がしてならないのだ。カラ松に気付かれないようにそのことをやんわり十四松に伝えると、彼はじっと童子切を見つめる。童子切とカラ松の声を聞き比べて、2人で真顔になっていた。
 そうとは知らないカラ松は、呑気に"ン~?"と声を発していた。



「さてと!助けた人も送り届けなくちゃならないけど、マホロアがこの人数ローアに乗せてくれるわけないからなぁ。どうしよう?」
「でも、これだけの人をワープスターにも乗せられないよね? うーん、砂漠の中だしどうしたらいいんだろう?」



 カービィとバンダナワドルディがそんなことを言う。魔物にされた人々の数はざっと30人ほどはいる。ローアに乗れば一瞬でリレイン王国まで送り届けられるだろうが、マホロアがそんな人助けを、自分の利益にもならないのにやるとは思えなかった。
 うーん、と唸る2人の元に、向こうからふよふよとネズミのような生物が現れるのに、まだ彼らは気付いていなかった。

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.187 )
日時: 2025/10/02 21:44
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

「カービィ~!」
「あれ? この声って……」



 カービィを呼ぶ声がこちらに近づいてきている。思わず声の方向を向いてみると、そこには宙を舞うネズミのような生物がいた。その姿に大典太は、ネズとチューンストリートに行った時にもすれ違ったなとはっとする。それは向こうも同じだったようで、ネズミのような生物は大典太に気づいたのち、嬉しそうに近づいてくるのだった。



「あっ!バンドマンの人だぁ!こんなところで会えるなんて嬉しいな~♪」
「……バンドマンじゃない。あの時は音楽を生業とする者を護衛してただけだ」
「ところでさエフィリン。なんでこんなとこいるの?」
「あ、そうだった!ボク、カービィが砂漠に行ったって聞いたから心配してここまで追いかけてきたんだよ!ここ、最近魔物がうろついているって噂が絶えないし……」



 "エフィリン"と呼ばれたそのネズミのような生物は、ここまで来たいきさつをカービィに話した。どうやら、魔物が出るという噂の場所にカービィが行くと聞いたらしく、心配になってここまで追いかけてきたらしい。最も、その魔物の正体は悪い人物に実験に使われた結果、魔物にされてしまった普通の人間だったのだが。
 そのことを話すと、エフィリンは驚いたのち"じゃあ、もう魔物はいないってこと?"と改めて訪ねてきた。自分達が悪の元凶を追い払ったと説明すると、エフィリンはすごいすごいと自分のことのように喜んだ。彼を見るに、彼はとても純粋な性格だということが確認できた。
 そこまで聞いて、エフィリンははっとして皆を見渡す。自己紹介をしないのは失礼に当たると思ったのか、"ボクはエフィリンだよ。よろしくね!"と元気よく挨拶をしてきたのだった。



「ところで……エフィリン殿? でしたか。その魔物にされた人間の皆様をどうするか今、悩んでいるのです」
「そっかぁ。魔物にされた人達も元々住んでいる場所があるしね……。うん、わかったよ!ボクのワープ能力でこの人達を連れていくよ!」
「えぇ?!そんな簡単にいいのエフィリン?!」
「もちろんだよ!ボクの力が役に立てるなら、使ってほしいな!」



 なんと、エフィリンがワープ能力で助けた人達を連れて行くと言ってのけたのだ。その言葉に一同は驚くばかり。こんな小さな体にそんな大きな力が秘められているとは思わず、皆開いた口が塞がらない。そんな彼らの反応を見て、カービィは"エフィリンはすごい子なんだよ!"と胸を張って言ってのけた。
 どこに連れて行けばいいかと尋ねられたので、いったんリレイン王国に連れて行き、そこから各々の故郷に帰ってもらおうという話にまとまった。リレイン王国の話をすると、エフィリンは目をキラキラさせて"どんな国なの? ボクも行ってみたいな!"と喜んだ。
 これで一件落着、といけばよかったのだが、今剣が残念そうにぽつりと呟く。そう。今回の目的の片方は達成できたのだが、もう片方は未だ達成できていないのだ。



「あ、でも……。けっきょく、"さばくのはな"はみられませんでしたね」



 秋田を助けるのに集中していたあまり、"砂漠の華"探しを中断していたことをカービィは今思い出した。今から探すとしても、この人たちを送り返していたら探す時間がなくなってしまう。そもそも、自分達のわがままに彼らを巻き込んだ形でこんなところまで来ているのである。残念だが、今回は"砂漠の華"探しは諦めるほかない。
 カービィが今剣にそのことを話そうとすると、"待ってください"との声がする。



「"砂漠の華"であれば、今なら見られる場所がありますよ」
「え?!」
「本当か?!」



 その言葉を発したのは、魔物にされた人々のうちの1人だった。その人物は、この砂漠の近くにある町出身だったようで、"砂漠の華"についての噂も知っていた。今の時間ならおそらくギリギリ見られると言ってのけた彼に、今剣と厚が迫る。困ったように笑った彼は、この場所ならおそらく屋上からその景色が見られると言ってのけたので、帰る前に全員で屋上へ向かうことにした。


 屋上に到着する。秋田探しに時間を取られていたのか、そこからは夕陽がショッピングモールを照らしていた。その美しさに、思わず秋田が"綺麗ですね……"と感動している。しかし、肝心の"砂漠の華"は見当たらない。



「でも、"砂漠の華"はどこにあるのかな?」
「あれを見てください」



 心当たりがある、と言った男性が指さした先を見る。そこには、夕陽の光にキラキラと照らされ、まるで花のように舞う砂嵐があった。砂嵐一粒一粒が花の花弁のように見え、砂嵐全体が花吹雪のように見える。
 それはまさに"砂漠の華"といって差し支えないほど、美しい光景だった。



「太陽に照らされて、砂嵐の粒が花の花弁のようにキラキラと舞う現象。このことを、東の大陸の人々は"砂漠の華"と呼んでいるんです」
「そうなんだ……!キレイ!すごくキレイ!」



 男性の説明を受け、バンダナワドルディはぴょんぴょんと飛び跳ねて"砂漠の華"に見惚れている。夕陽が砂地を照らす間だけしか見られない現象。それが巡り巡って、"幻の花"と西の大陸では噂されるようになったのだろう。
 大典太達もその光景を静かに見やり、その美しさをじっと見つめていた。



「まるで、砂が花の花弁のように見えるな」
「……だから、"砂漠の華"か。風情があるじゃないか」



 興味がない、と言っていた鬼丸も、皆に感化されたのか大人しく"砂漠の華"を鑑賞し、口元は満足そうに上がっていた。その様子を大典太は見て、またくすりと微笑みを零したのだった。


 一同はそのまましばらく"砂漠の華"を楽しんだ後、エフィリンのワープ能力で帰還することにした。未だに伸びている部下の人間はどうするのかという話になり、彼はリレイン王国の警備隊に引き渡そうという結論にまとまった。
 エフィリンは皆の話を聞いたのち、自分の力でワープホールを開く。その中に1人ずつ入っていき、皆が無事に入ったのを確認したのち、大典太達もワープホールに入りリレイン王国へと帰るのだった。






















「おかえりなさい♪ あら、また可愛い子がやってきたじゃない!」
「秋田藤四郎です。ここがリレイン王国なんですね……。わくわくします!」
「秋田ちゃんね!なんて可愛らしい子なのかしら~!みんなハグしちゃうわ!」
「ちょ、町長殿?!」



 ちょうどリレイン王国の議事堂の前にワープホールは開き、掃除をしていたラルゴ達と鉢合った。彼は秋田が新しく助けられた刀剣男士だとすぐに気づき、四振そろって帰還を喜び彼らをぎゅっと抱きしめた。そんな姿を見守っていた大典太は、思い出したようにラルゴに魔物にされた人々の話をした。ラルゴはそれを黙って聞き、"帰る場所があるなら故郷に帰った方がいいわよ!"と、帰る故郷がある人々はそのまま送り届け、ない人はリレイン王国で受け入れることとなった。
 鬼丸が担いでいた部下の人間は無事警備隊に引き取られ、後日事情聴取を行われた後、再犯性がないと判断されたのち解放されるとのことだった。
 三つ子もサクヤと話したいとのことで、大典太はスマホロトム越しにサクヤと彼らの橋渡しをする。スマホの中からだが、元気そうな姿を見たサクヤは嬉しそうに笑顔を零したのだった。



「……そういえば。秋田もあんた達三つ子もだが、これからどうするんだ」
「ここがコネクトワールドならすぐにサクヤさんの手伝いをします!って言えたんだけどね……。流石にこの世界だと雇用関係は解消されてるよね……」
「僕も、右も左もわからないのでこれからどうしたらいいか」
「秋田!じゃあ、オレ達と一緒に町長さんの手伝いをしようぜ!」
「ちょうちょうさんは"ひとでぶそく"といっていました。それに、しょたいめんであんなにかわいがってくれたんです。秋田ならだいかんげいだとおもいますよ!」



 今剣と厚の後押しもあり、秋田は恐る恐るラルゴにここで働いてもいいか尋ねる。すると、彼は笑顔になって"街を盛り上げるために尽力してくれる人なら大歓迎よ!"と、秋田の滞在をさらっと許したのだった。
 三つ子の働き先も探さねばとなっていたところにもラルゴの手が差し伸べられ、力仕事を中心とした町長の手伝いを、三つ子もすることになった。



「秋田ちゃんと三つ子ちゃん達のことはアタシに任せて、光世ちゃん達はサクヤちゃんに報告に行ってきなさいな。今回のことで色々話したいこともいっぱいあるでしょうしね!」
「……感謝する。気遣い、痛み入る」
「冒険、楽しかったよー!また冒険しようねー!」
「ばいばい」



 こちらに大きく手を振るカービィ、バンダナワドルディ、エフィリンに小さく手を振ったのち、四振はサクヤの元へ向かった。
 今回起きたこと――"また、悪神の眷属が現れた"ことを話しに行くために。

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.188 )
日時: 2025/10/03 21:51
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 神域に戻った大典太達は、待っていたサクヤに早速今回あったことを報告した。
 カービィ達と共に出かけた先で、ミステリオというアンラの眷属にであったこと。そして、彼に捕まっていた秋田を救出したということを。サクヤは待っていましたといった表情でその話を聞き、彼らが今回成し遂げたことを称えたのだった。



「お待ちしておりました。秋田くんの救出、本当にお疲れ様でした」
「……今回はあんたの力も少し借りてしまったがな。その、力の具合は大丈夫なのか」
「大丈夫ですよ。先にも言った通り、物に宿った付喪神を起こすくらいであれば造作もございません故」



 そういった他愛もない話を繰り返しながらも、大典太は秋田がこれからどうするかについても話した。短刀達と話をして、今後は議事堂でラルゴの手伝いをしながら外の世界を知っていく、と。
 その話を聞いたサクヤは、満足そうに微笑み"それは何よりですね"と秋田の奪還成功について改めて喜んだ。
 秋田についての報告も終了し、再び雑談を始める一同を鬼丸が止めた。彼にはまだサクヤに聞かねばならないことが残っていた。何か用かとサクヤが問いかけると、彼はくすぶっていた疑問を彼女にぶつけることに決めた。



「主。ルルイエとはなんだ」
「"ルルイエ"……。どなたから聞いたのでしょうか」
「今回遭遇した悪神の眷属が言っていた。"ルルイエ"の浮上にはおれ達が必要だとな。この際だから聞いておく。話せないことなのか」
「いえ、そうではないのですが……」
「言いにくい、ことなのか」



 鬼丸が口にしたのは、ミステリオが言っていた"ルルイエ"という言葉についてだった。その話を聞いた瞬間、サクヤの顔が歪むのがわかった。どうやら、彼らからはできれば聞きたくなかった言葉のように大典太には見て取れた。
 鬼丸と同じことを考えていたようで、童子切もその"ルルイエ"というものについて知りたがる。二振を止めようとしたが勢いが止まらなかったため、大典太も諦めてことの成り行きを見守ることに決めた。
 サクヤは静かに深呼吸をしたのち、自分が知りうる"ルルイエ"についての知識を彼らに話し始めた。


 "ルルイエ"とは、外の世界の神である"クトゥルフ"が眠っていると言われている、海底に沈んでいる島のことである。奇怪で異様な建造物が数多く存在し、浮上したが最後その世界に住む人々の精神に異常をきたすという危険な島だ。
 それを浮上させるためには、クトゥルフに縁のある魔力が必要である。悪神が"クトゥルフの打った太刀"である天下五剣を狙うのは、ルルイエを浮上させるというミステリオの発言と一致している。つまり、天下五剣が狙われるのもサクヤは納得していた。
 しかし、何故アンラが"ルルイエの浮上"を狙っているのかについては考えあぐねていた。そんな彼女に、鬼丸が冷静に切り返す。



「あの悪神はすべてを支配し、破壊することを目的としている。クトゥルフに関しても手中に収めてから破壊するつもりなんだろ」
「そう、単純なものであればいいのですが……」
「……もしかしたら、もうあいつらはルルイエの場所を把握して、俺達を狙っているのかもしれんな」
「そうだとしたら、これから皆さんが狙われてしまうのも頷ける話です。皆さんは僕がお守りします!」
「刀剣男士が刀剣男士に守られてどうする。自分の身は自分で守れる」
「とにかく、です。彼らがいつ動き出すかわからない以上、今以上に警戒を緩めず行動をしていただきたいと思っています。大丈夫ですか?」
「……無論、そのつもりだ」



 しかし、考えてもわからない相手のことをぐるぐる考える必要もあるまい。サクヤはそう判断し、今以上に悪神への警戒を緩めず行動してくれと刀剣男士達にいったのち、その場は解散となった。
 ――しかし、大典太には一つ引っかかっていたものがあった。その疑問を解消すべきかどうか。彼は、静かに目を伏せたのだった。





















 ――深夜。神域を月が照らし、皆の寝息が木霊している。
 そんな中、大典太はサクヤの私室を訪ねていた。夕方に話した時のことが今でも引っかかっており、眠れず彼女に真意を確かめに来たのである。
 サクヤは最初こそ不思議そうに大典太に首を傾げていたが、彼の悩んでいる表情を見抜き、話を聞く姿勢を見せたのだった。



「光世さん。悩みがあって眠れないという顔ですね」
「……その通りだ。夕方にルルイエのことを話したあんたが……妙に覚悟を秘めた表情だったのが気になって。眠れなかったんだ」
「私、そんな表情をしていたでしょうか?」
「……していたよ。まるで、"未来に必ずルルイエは浮上してしまう"とでもいった表情だった」
「…………。光世さんには見抜かれてしまいますね」



 大典太が悩んでいたことを話すと、サクヤは困ったように笑った。この世界に来てから、彼女が感情を少しずつ表に出していることは喜ばしいことだ。なのに、夕方のあの"覚悟を秘めたような表情"には――まるで、彼女が目の前からいなくなってしまうような恐ろしさを感じたのだと大典太は正直に気持ちを吐露した。
 その言葉を聞いたサクヤは、そっと大典太の手に自分の手をのせる。彼の不安な心を撫でるように、その手を優しく擦ったのだった。



「夕方、皆さんにはお話しできていなかったのですが……。我々は、"ルルイエ"復活を何としても阻止せねばならないという使命があります」
「……我々? あんただけの話じゃないのか」
「そうです。アクラルとアカギにも、アンラの動向とは別に――"ルルイエの阻止"について監視もお願いしています。夕方に話した通り、"ルルイエ"は絶対に浮上させてはならない島です」
「……仮に、浮上してしまったら?」
「私とアクラル、アカギ――。四神の力をすべて使って、ルルイエの浮上を抑えます。ルルイエの浮上――クトゥルフの復活は、何としても阻止せねばなりませんから」
「…………。主は、そうなった場合どうなるんだ?」



 思わず、そんなことをぽろっと零してしまう。サクヤの話していることが何もかも耳を塞ぎたくなるようなことばかりであった。彼女は"すべての力を使い、ルルイエの浮上を抑える"と言っていた。それすなわち――。大典太は必死に頭の中で出た答えを否定するが、サクヤは大典太の疑問に静かに目を伏せつつも、答えるのだった。



「すべての力をルルイエ浮上阻止に使いますので、私の神威は消えてしまうでしょう。その先に待っているのは――"存在の消滅"。アクラルもアカギも、それを覚悟して行動してくれています」
「……存在の、消滅」



 ああ、聞きたくなかった。サクヤからその言葉が放たれた大典太の表情は、何とも言えないものになっていた。やっと自分を受け入れて、感情を表に出し始めて、それでも世界の為に動いている彼女の消滅。心を通わせた主の消滅。考えたくなかった。
 サクヤはそんな大典太の表情に気付き、手を再び擦る。"今消えるわけではないですよ。それに、ルルイエ浮上自体を阻止すればよいのです"と、彼を安心させるように震える手をきゅっと握った。
 そんな彼らの元に、静かに戸の開く音が聞こえてきた。思わずその音に顔を上げてみると、そこにいたのは不機嫌そうに顔を歪ませた鬼丸だった。



「おい。こそこそと何を話しているかと思ったらとんでもない話をしやがって。何故おれ達が寝ている間にそういう話をする」
「……鬼丸」
「これですべて繋がったな。あんたが"世界を学べ"と遠回しに新しい主を探せと言っていることが」



 鬼丸はそのまま後ろ手に戸を閉め、大典太の隣に胡坐をかく。そして、こそこそと話をしていた彼女たちに向かってキッと睨みつけたのだった。
 どうせ、童子切の記憶が戻ったら"世界を学べ"と称して新しい主探しをさせるのだろう、と鬼丸は釘をさす。しかし、彼はその主命に答えるつもりは端からなかったようで、首を横に振って自分の気持ちを伝えた。



「悪いが、おれはその主命を果たすつもりはない。あの時にあんたの刀になることを覚悟したんだ。あんたが消える可能性があるということであれば余計に離れることなどできんな」
「鬼丸さん」
「……それは、俺も同じだよ。新しい主探しなんて……まるで、あんたが本当に消えてしまうと考えてしまうようで怖い。だから、考えないようにしてたんだ。俺も、あんた以外の刀になるつもりはない。
 童子切も、それは同じだと思う」
「全く……。お二振にその覚悟があるということは分かりました。――であれば、私も消えないように悪神にも、クトゥルフにも負けていられませんね。
 光世さんがつらい気持ちを抑えて震えるのはできるだけ見たくありませんから」
「……あ、主。俺は、その……」
「震えていたのは事実だろ。受け止めろ、大典太」



 鬼丸はやっと自分の気持ちを主に伝えることができたようで、満足そうに目を閉じている。そんな彼を見て、震えていた自分が馬鹿馬鹿しくなったのか、大典太も彼の気持ちにのっかって今の気持ちを伝えるのだった。
 サクヤは二振の覚悟についてやっと理解ができたようで、"自分が消えてしまわないように"と、自分に釘を刺すように負けていられないと言ってのけた。
 とりあえずの宣言に二振は安心したように安堵の表情を浮かべ、夜も遅いからとその場は解散することになったのだった。



 ――その後。大典太は鬼丸に連れられ、縁側で酒を飲んでいた。
 相も変わらずちびちびと味わう鬼丸と、珍しく酒を口にしない大典太。その様子が気になったのか、鬼丸はじっと大典太の表情を見やる。なにか、考え込んでいるような暗い表情をしている彼にいたたまれなくなり、思わず大典太の胸倉を掴んでしまった。



「……お、おい。鬼丸」
「やっと陰気が直ってきたと思ったらまた陰気になるな。酒が不味くなるだろ」
「……別に陰気になってない」
「だとしたら何を考えていた。この期に及んで"なんでもない"とほざいたら殴るからな」
「…………。主のことを、考えていた。主はルルイエが浮上した時、本気で自分の命を賭して止めるつもりなんだ。その時に――俺は、何ができるんだとな」
「――ハァ。おまえはひとりではどうしようもできないことをぐるぐる考えすぎなんだ」



 大典太は、サクヤのことを考えていた。サクヤはルルイエが浮上してしまった際、自分の力をすべて使って浮上を止めると簡単に言ってのけた。大典太は、その時に近侍である自分は何ができる?と、その考えに囚われてしまっていたようである。
 鬼丸は大典太の話を聞いて、胸倉をつかんだまま自分の考えを伝える。"おまえはひとりで考えすぎだ"と。



「まさか、主の悪いところまで吸収するとはな」
「……別に、吸収したつもりはない」
「だとしたらひとりで考えすぎだ。おれも、童子切も、前田も、三日月も、数珠丸もいる。ひとりで背負うな。もっとおれ達を頼れ」
「…………」



 鬼丸から"自分達を頼れ"という言葉が出てくるとは思わず目をぱちくりと瞬かせている大典太。一方の鬼丸は、言いたいことを言って満足したのか彼の胸元から手を話し、再びちびちびと酒をあおり始めた。
 悩んでいた大典太の心に、鬼丸の言葉が刺さったのかどこか暖かいものを感じるのがわかった。確かに、ひとりで考えすぎていたのかもしれない。そう結論付けた大典太は、鬼丸に静かに礼を言った。



「……ありがとう、鬼丸」
「フン」



 しおらしい大典太の顔を見て満足したのか、鬼丸は酒を煽りながらも口元をほんのりと上げていた。
 それを見て大典太は"言わなきゃよかった"と少々思ったものの、彼の思いの暖かさにしばらく浸ることにしたのだった。




 Ep.04-2 【新世界の砂漠の華】 END.


 to be continued…