二次創作小説(新・総合)
- Ep.01-1【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.36 )
- 日時: 2022/01/01 00:16
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
翌日、明け方に大典太は目を覚ました。眠れはしたが、疲れはあまり取れていない様だった。思考を夢の中に追いやっていたのはいいのだが、やはり現の世界に意識が戻ってきた時に浮かんできたのは、昨晩サクヤが言った言葉の真意だった。
こればかりは一晩休んだくらいでは払拭されるものではない。隣をちらりと見やると、鬼丸がぐっすりと眠りについていた。普段の厳つい表情とは裏腹に、少々幼い顔立ちで寝息を立てている彼に思わずくすりと笑みが零れてしまう。
そして、周りの邪魔をしないようにこっそりと起き上がる。そして、彼は気付いた。
「(……主が、いない)」
サクヤがいないことに。普段であれば、少し離れた布団の中で眠っているはずだった。しかし、敷いてある布団はもぬけの殻だった。守るべき主君を見失い、焦りが彼の心を支配し始める。
こんな明け方に目が覚めるなど、急な用でなければあり得ない筈だ。さらに、彼女は昨晩 "自分はもう外の世界に出ることはない" と言ったばかりである。穴を通って表の世界にいることも考えにくい。
ならば何処に。焦りから恐怖へと感情が変わる寸前、彼の耳元に探している人物の声が聞こえてきた。念話だった。
「申し訳ありません。昨日皆さんが寝静まった後に、こっそりともう一部屋増設させていただきました。そこにいますよ」
「……主の布団の向こうに襖がある…。そこを開けばいいのか?」
「はい。布団も今日中にその部屋に持って行きますので…。お話はそこで致しましょう」
主が無事であったことに安堵のため息を大典太は漏らした。そして、彼女の言葉通りに布団を避け、襖を静かに開けた。
造られたばかりで何もない和室の向こうにサクヤは座っていた。まるで大典太を待っていたかのように。
大典太はサクヤの正面に正座で座り、向き直る。この世に顕現を受けてから、主抜きでの初めての刀だけの行動。不安が無いわけではなかったが、大典太は改めて彼女の言葉の真意を軽く探ってみることにした。
「……こんな部屋まで造るということは…。昨日の言葉は本気なんだな」
「辛い選択を押し付けてしまい申し訳ありません。恐らく、私の言葉の真意を光世さんは悟っているはず。ですから、隠し事は致しません。私は―――私の為すべきことで、光世さん達も共に滅びるべきではないと思っています。
部下としてではなく、友として皆さんを想うから……余計に願ってしまうのです。貴方達には、何としてもこの世界を守り、生き延びてほしいと思っております」
なんの遠慮も無く言い放ったその言葉に、大典太はただ目を伏せて聞いていた。彼女の慈悲深さは出会った当初から分かっていたが、ここまでくると狂気だ。そう、彼は近侍らしからぬことを思ってしまう。
サクヤは純粋に刀剣男士を友として守りたかった。彼らは道具だ。だが、意思を持ったのならそれはもう『ただの道具』ではない。彼らは一つの人格を持った『生きる者』なのだ。
彼女の気持ちが痛い程に分かる。だからこそ、サクヤの言葉を否定することなど大典太には到底出来なかった。否定してしまえば、彼女の覚悟を踏みにじることになるのだから。
「……あんたの言いたいことは分かった。出来ることもする。だが…そう信頼できる人間がぽんと出てくるわけでもない。前田はともかく、俺と鬼丸は政府に酷い目に遭わされているんだ。―――邪神もそう簡単に見つかるとは思えんが、長い時間が必要なように俺には思える…」
「何も、すぐに見つけろとは言っておりません。それと……後で鬼丸さん、前田くんにも言いますが。もし仲良くなれそうな方で『神域への出入口が見える』方がいらっしゃったら、ここを住まいとして提供しても大丈夫ですからね」
「……あんたなぁ」
「幸い、ここは完全に外から遮断された空間です。地の利を有利に利用できる方がいらっしゃるならば、私はその声に答えたいと考えております。
それに…長期戦になるのは承知の上です。皆さんは……あまりにも、長い時間迫害を受け過ぎましたから。もう解放されて、自由になってもいい時だと思うのです」
「俺は別にいいが…前田はともかく、鬼丸は断固として反対しているようだった。……俺の方でも何とか説得は試みてみるが」
鬼丸の現状を伝えると、彼女は困ったように笑みを浮かべた。どうやらサクヤも同じような考えを抱いていたらしい。彼の考え方の視野を広くするのは前途多難だな、と大典太はふと思う。
サクヤは伝えるべきことは全て伝えたと、懐から白いスマートフォンを取り出し大典太に差し出す。ゼウスの忘れ形見ともいえるその品。外の世界に出る彼を信頼しているからこその行動だった。
大典太は戸惑ったが、サクヤの目は真っすぐに彼を見ていた。その表情を見た彼は何も言わず、スマートフォンを受け取り懐に仕舞う。そして、今度こそ "失礼する" と、静かにサクヤの部屋を去ったのだった。
「(……本当に よろしくお願いしますよ。共に滅びることだけは……絶対に避けなければなりません)」
彼の去って行った襖を見守りながら、サクヤは無事に彼らが未来を歩めることを祈った。
議事堂のエントランスには太陽の光が差し込み、冬ではあるが部屋の中を明るく照らしている。
鬼丸と前田と共に、昨晩解散した場所と同じところに彼らは出向いた。近くのソファーに数珠丸が座っているのに気付き、挨拶をする。彼はくるりと振り向いた後、彼らに丁寧に挨拶を返した。
「おはようございます」
「あの…アカギ殿はどうされましたか?」
「白虎殿は、現在朱雀殿を起こしに行っておられます」
「……昨日はてんやわんやしていたからな…。ゆっくり睡眠を取りたいという気持ちは分からんでもない」
「だが、今日から忙しくなるんだろ。のんびりしている暇なんてあるのか?」
「ところで…青龍殿はどうされたのですか?ご一緒されていないようですが」
数珠丸に痛いところを突かれ、彼らは押し黙ってしまう。サクヤには自分が外に出ないことはあまり離さないで欲しいと言われていたからだ。
しかし、彼は前の世界から関係がある。元々はサクヤが預かっていた刀剣である為、彼女の心配をするのも至極当然である。事情を話さないという選択肢はないに等しかった。
大典太は、サクヤに昨日言われたことをかいつまんで話した。その話を聞いた数珠丸は、寂しそうな表情を浮かべながらも "それが覚悟だというのならば、尊重するべき事柄ではありますね" と答えた。そして、彼も今朝アカギに同じようなことを言われたと納得した。
彼の発した言葉に思わず鬼丸が横やりを入れると、彼は静かにそのことを大典太達に伝えた。
「おまえ、あの白虎と契約していなかったのか」
「はい。本来ならば…今のタイミングでしてしまった方がよろしいかと持ち掛けたのですが…。白虎殿に "これからの目的の為に、お前を巻き込むわけにはいかない" と言われました。
そして、信頼できる人間を探してほしい……と、同じようなことを提言されたのです」
「……主一人の力じゃ成し遂げられないようなことを、主はしようとしているんだろうか。恐らく…主の考えていることが、他の四神にも伝わっているんだろうな」
「はぁ…。主だけだと思ったら…。神々は何を考えているんだ。おれには理解が全くできない」
アカギも、恐らくアクラルも。サクヤと同じような目的を果たす為に動いているのだろうと推測した。神々だけで無茶を押し通すつもりだと思ったのか、鬼丸は不貞腐れる。
そんな彼らの元に、今正に噂をしていた彼らが合流した。重い雰囲気を纏わせた空気を一気にぶち破る。まるで『自分達は何も知らない』ことが前提としての会話に、鬼丸は眉間にしわを寄せた。
「よぉ!朝から重苦しい雰囲気醸し出してどーすんだよ。気張って行こうぜ気張って!」
「誰のせいだと思っているんだ」
「朝から随分と賑やかだな。これならば、新町長の手足としてしっかり動いてくれると報告せねばな」
「おはようございます、アシッド殿。小狐丸殿も!」
「おはようございます」
他愛のない会話を繰り広げている背後にもう2つ声色が増える。アシッドと小狐丸だった。
アクラルはてっきり会社に戻っているものだと考えていた為、彼の登場に驚嘆の声を隠せないでいた。
「なんでいんだよオメー?!」
「町長に挨拶を…それと、ナデシコ達をミカグラ島まで送って行かねばなるまい。彼らが起きてくるのを待っているだけさ」
「そういうことか…。小狐丸も一緒に行くのか…?」
「いえ。確かに私が正気を保っていられるのは彼のお陰。しかし、彼の業務の邪魔をするわけには参りませぬ」
一晩経てば快調に向かうかもしれない。そう思った刀剣男士の希望は呆気なく打ち砕かれた。小狐丸の言葉から、入り込んでしまった邪気は自身だけではそう簡単に取り除けるものではないらしい。
大典太は小狐丸の言葉を聞き、ものは試しと自分の考えている『可能性』を実践してみることにした。彼はおずおずと小狐丸の前に手を差し出す。
「……小狐丸。その…邪気の事なんだが…。お、俺と、握手…」
「握手…?」
190cmの大男から発せられた小さな声に、小狐丸はぽかんとする。邪気が未だに蠢いていると話したら、唐突に目の前に手を差し出された。戸惑わない方がおかしいだろう。
前田が事態を察し、大典太に手を差し伸べた理由を話した方がいいと助け船を出す。大典太は手を出したまま、自分の考えを口に出した。
「……以前。俺は邪気に侵された鬼丸以外の刀剣に会ったことがある…。その時は、そいつに触れたことで邪気が薄れたんだ。あの時は…幻の空間だったが、少しでも邪気が祓えた証拠だと俺は思っている。
そして…以前三日月が言っていた『邪気から高校生を守った』という言葉。……俺達には世界を滅ぼすくらいの霊力がある。それは……邪気を飛ばすことが出来るくらいなのではないかと考えていてな」
「三日月にも出来るということは、おれにも出来るのか」
「……恐らくな。小狐丸…。もしあんたの邪気を祓うことが出来たのなら…。俺の考えは正しかったということになる。俺達の手で…刀剣達の邪気を祓うことができるんだ。
だから…その一歩に、あんたの力を貸してほしい。そう、思ったんだが…」
曖昧な考えに自信がないのか、少しずつ声色が弱まっていく大典太。小狐丸としても、もし邪気を祓うことが出来たのであれば。アシッドにこれ以上迷惑をかけることが無くなるということだ。
ならば、彼の答えは1つしかない。震える大典太の手を、小狐丸はしっかりと己の手で握り返した。
その、瞬間だった。
「わ、わーーっ?!」
「小狐丸から…紫色の靄が……!!」
「大典太さん…!これって…おそ松殿の時と同じ…!」
小狐丸から這い出る紫色の靄。それは、以前三つ子がおそ松の中に巣食った悪魔を殴って消滅させた時。そして、罪木や東条の暴走を止める為に三日月を握らせた時と同じ現象だった。
驚いている一同をよそに、小狐丸からは紫色の靄が出続けている。それは、ぱちぱちと鈍い光を放ち続け―――飛散してしまった。彼に起こっていたその現象は徐々に少なくなっていき……小さな紫色の光を放った後、綺麗さっぱりと消えてしまった。
それを確認した大典太は握っていた小狐丸の手を静かに離し、様子を問う。小狐丸の表情は―――先程までとは変わっていた。まるで、何かの憑き物から解放されたかのように…穏やかな顔をしていた。
「……燻っていた気持ち悪さがありません。不思議です。先程まであんなに感じていたのに…」
「……そうか。成功した、んだな…」
「大典太さんの考えていたことが正しかった、ということですよね!ならば…、世界中に散らばっている刀剣達の邪気を。僕達で祓うことができます!」
「本当にありがとうございます。こんな清々しい気分になったのは…いつ以来でしょうかな」
小狐丸の邪気が完全に消えたことはアシッドも感じ取っていた。であれば、過剰に自分の力を注ぎ込むこともない。指をぱちりと鳴らすと、小狐丸の首に掛けられていた黄色い宝石のネックレスが跡形もなく消えた。
鬼丸が確認の為に大典太に『天下五剣ならば邪気を祓うことができるのか』と問う。彼は少し考えた後、自分の考えを述べた。
「……天下五剣ならば誰でも出来るという訳じゃない。……恐らく、俺達にしか出来ないことだ。世界を滅ぼしかねない程の霊力を持った、俺達にしか…」
「あれほど憎んでいた霊力で他の刀剣を救うことになるとはな。皮肉が過ぎる」
「ですが、我々で邪気を祓うことが出来るのであれば…。私は、この世界に散らばった刀剣男士殿を救いたいと思っております」
「私も微力ではございますが、助けていただいた恩もあります。お力添え致しますぞ、皆さん。それに…この世界で顕現した三日月殿ともお会いしてみたい。兄弟刀、故に」
「ならば君もしばらくは彼らと共にいるといい。この王国は様々な人間が立ち寄る。君が相応しいと思う主や―――もしかしたら、元々いた本丸の記憶が蘇ってくるやもしれんからな」
天下五剣の霊力で、他の刀剣男士に入り込んだ邪気を祓うことが出来る。その事実だけで、彼らの気持ちは明るくなった。小狐丸も助けられた恩を返す為、大典太達と共に行動してくれることを誓ってくれた。
その様子を見て、アシッドは『彼はもう大丈夫だ』と改めて思ったのだった。
そろそろラルゴが起きてくるだろうと身支度を始めた一同の元に、昨日と同じような違うような。明るい声が木霊してきた。
『あらあら~!みんな起きるの早いのね~!おはよう~!』
声色は同じなのに、口調が女性らしくなっている。刀剣男士と神々は違和感を感じていた。
明らかに様子がおかしいと振り向くと……。
「今日から一緒に働く仲間なんだから、仲良くしましょうね!これから、ヨ・ロ・シ・ク・ね!」
昨日の兵士姿とは全く違う、スレンダーな恰好をした女性のような男性が……小走りでこちらに向かっていたのだった。
- Ep.01-1【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.37 )
- 日時: 2022/01/01 23:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
こちらに向かって走ってきている人物は、果たして昨日町長を任された人間と同一人物なのだろうか。
一同が彼を見た時に最初に浮かんだ言葉はそれだった。様変わりした姿を晒し、固まっている一同に彼女……いや、彼は威勢よく声をかける。
案の定反応したのは、事情を理解していると思われるアシッドだけだった。
「あら?どうしてみんな固まっちゃっているのかしら」
「Mr.ラルゴ。皆混乱しているんだよ。きちんと説明をしなければ」
「あら、そうだったわね!ごめんなさい…。改めて自己紹介をさせて頂戴ね」
「……あ、あぁ」
アシッドに"ラルゴ"と呼ばれたことで、やっと一同は彼があの兵士と同一人物だということを理解することが出来た。
ラルゴは彼らに一言詫びを入れ、早速自己紹介を始めた。
「アタシ、 "ラルゴ" よ。昨日までと違って全然違う格好でごめんなさいね?でも、こっちがアタシの素なの。これから慣れていって貰えれば嬉しいわ。
それで…アタシは元々別の街でバーを経営していたの。そのお店がね、唐突に現れた変な連中に潰されちゃって路頭に迷っていたところをスノフェス王に助けてもらって、従業員と一緒にリレイン王国に匿って貰ったのよ。で、昨日まで恩を返す為兵士をしてたってワケ」
「ちなみになんだが…。アカギ。風の噂で聞いたことは無いか?この世界に、どんな人をも虜にする『伝説のママ』が存在するという話…」
「えっと…。サクヤを探しに聞き込み調査をしている時に…聞いたかもしれない…。世界中に彼女を慕っている人がいるって…。そんなにフットワークが凄い人なら…力になってもらえたらサクヤを探しやすいかなって…探してたこともあった…」
「その『伝説のママ』は、彼だ」
「……えっ?!そうなのですか?!」
「世界中で『伝説のママ』なーんて異名付けられちゃって恥ずかしいやら嬉しいやら。アタシはアタシのやりたいことを素直にやってただけなんだけどね~。
ま、でも!交渉術には自信があるから、力になれることがあったら気軽に相談して来て頂戴ね!」
ラルゴが元々バーを経営していた『ネオンシティ』という場所から、世界中に彼の噂が飛び交っていた。アカギもそのことを耳にしており、一時期探していたこともあったという。まさかその人物が目の前にいるとは思ってもみていなかったようで、彼は珍しく目をまん丸に見開いて驚いていた。
口調や容姿は変わったが、中身は昨日までの誠実なラルゴそのものだった。目を見れば分かる。彼は信用できる存在だ。その場にいた誰もがそう思っていた。
その後、少し雑談を続けている彼らの元に新たな足音が聞こえてきた。
音の方向を向いてみると、そこにはこちらに向かってくるルーク達の姿が見えた。どこか寂しそうだが、決意を秘めた表情をしている。昨日、アシッドに出された選択肢の答えが固まったのだろう。
ルーク達も合流し、各々挨拶を済ませる。そして、ラルゴと挨拶をしたと同時にほぼ全員が先程と同じような反応をした。
「初対面は誰でもそうなるものよね~。バーを開いた昔をつい思い出しちゃったわ」
「わぁ。男の人って化粧でこんなに綺麗になるもんなんですね…」
「フフ…。ボスもご興味があれば、ミカグラ島に戻った後にでもお教えしましょうか?」
「いやいや!大丈夫!僕に必要なスキルは変装じゃないから!」
「ボスももう26歳なのですし、身体のケアのことを考えてもいいのではありませんか?身を粉にして働くのも結構ですが、それではすぐに身体が悲鳴を上げてしまいますよ」
「オイクソ詐欺師。テメーは話を反らせてぇのかよ」
「まぁまぁいいじゃない!もう答えは決まってるんだし、さ」
「ほう。……して、どうするつもりなんだ?君達は」
『答え』という言葉を聞き、アシッドはルーク達の方を改めて向きなおした。
そして、ルークは彼に向けて真っすぐと自分の考えを伝えたのだった。
「僕達…全員でミカグラ島に戻ろうと思います。折角サクヤさん達と仲良くなれたのに、すぐに離れてしまうのは寂しいですが…。やっぱり、一度は慣れ親しんだ土地が一番だと思いますし。スイさんとナデシコさんは元々戻るつもりでいましたし、僕達もついていこうって話がまとまったんです」
「アーロンのお姉さんも一緒だかんね~。近くで合流した方が安心、ってのもあったしさ」
「うん。だから…私達が一緒にいれるのはここまで。お別れで寂しいけど…。ずっと会えなくなるって訳じゃないんだし、会いたくなったらまた会いにくればいいし。私は…そう思ってる」
「言葉通りだと思います。私も…皆さんとまたお会いできることを楽しみにしております。ね、白虎殿」
「そうだな…。お前達が決めたのなら…俺はその意見を尊重するよ…」
「不思議な経験も出来たからな。これを糧に、ミカグラでも動いていくことにするさ。私達がいなかった時間帯で、島でまた何か蠢き始めている可能性も探さなければならないからね」
「えっ…?でも、組織は潰しましたよね?ナデシコさん」
「残党がミカグラにはまだまだうじゃうじゃいるのさ。完全に撲滅するのはこれからの話だ。今はまだ小さな闇だが、それがいつ膨れ上がるかは分からないだろう?人の気持ちというのは、簡単に悪意に染まりやすいものなんだよ」
「だったら、1つずつ見つけて潰していきゃいいだけの話じゃねぇか。ハスマリーもエリントンも見つかってねぇ。だったら…やることは一つだろ」
「…………。そうだな!ナデシコさん。僕達も『チームBOND』として、もう一度ミカグラのヒーローになります!な、アーロン!」
「オレは別にヒーローになれとは言ってねぇぞドギー。履き違えんな」
「随分と威勢のいいことを言ってくれるじゃないか。ならば…その期待に答えるしかないね。動いてもらおうか。私の『駒』としてね…」
ルーク達は全員でミカグラ島に帰る選択を決めた。つまり、大典太達とはここでお別れということになる。少しの寂しさが胸の中によぎるが、数珠丸が発した"また会える"という言葉。混ぜられた世界だからこそでるその言葉をしっかりと胸に刻み付けた。
彼らの言葉を聞いたアシッドは静かに頷き、ルーク達におそ松が外で待っているから向かうように行った。既にヘリコプターの手配は完了しており、後は彼らが乗り込むだけだった。
「今までありがとうございました。サクヤさんにもよろしく伝えてください!それじゃ、またどこかで!」
「……またな。次はテメーらと戦ってみてぇな」
「白い角のおにいさ~ん!今度会ったら、おじさんと飲み歩きしようね~!まったね~!」
「どこかでまた道が交わることを…私も楽しみにしています。それでは、また」
「色々世話になったな。困ったことがあったらすぐにミカグラに連絡してくれ。出来ることであれば、我々も協力しよう。……達者でな」
「私、皆さんと出会って経験したこと…忘れません。次期ブロッサム町長として、糧にしていきます。今度ミカグラに来た時は…是非、私の歌も聞いていってほしいな!それじゃあ…また、どこかで!」
ルーク達6人は各々議事堂の面々に挨拶をし、玄関口から外に出ていった。
途端、先程まであんなに賑やかだった空気が一気に静かになる。ひと時の別れを終えたのだ。静寂が訪れるのも当然だろう。
彼らの様子を確認したアシッドも、そろそろここを出立することを伝えた。本社に戻るようだ。
「アシッドさん。リレイン城下町との業務連携、本当にありがとうございます。何かあったらすぐに連絡しますから」
「リレイン王国は『繋がり』を大切にしている国だからな。色々な情報が入る。だからこそ、私も再起することに対しては協力を惜しまない。
それに……天下五剣の面々にも、やることが出来たのだろう?」
「……やること、というか。主命と、いうか…」
「迷わず自分の『やりたい』と思ったことをやってみるといい。自ずと答えは見えてくるはずだ。―――君達の選択が、未来への道を切り開く鍵になるかもしれんからな」
「どういうことだ。さっぱり理解が出来ん」
「今は理解が出来なくても、この世界での生活を続けていくうちに分かったりするものだ。……さて。私もそろそろお暇するかな。リレイン王国が再起を始めた以上、私も忙しくなるのでね。
Mr.ラルゴ。既に王国の住民には『王族は助かった』と連絡をしている。それに……君が新たな町長になると聞き、すぐに戻ってくれるという国民もいた。すぐに忙しくなることを覚悟したまえよ」
「まぁ!行動が早いわ。流石アシッド社長」
「知的好奇心と行動力の塊だからな、この運命の神」
「それでは私も失礼する。あまり彼らを待たせてもいけないからね。困ったことがあれば、すぐに頼りたまえ」
「……あんたの言葉。その意味を…探してみるよ」
「こちらこそ今までお世話になりました。どうか…お達者で」
「あぁ。コギツネマルも、元気でな」
アシッドはこちらに小さく手を振ると、玄関口に真っすぐ歩いて去って行った。彼の小さくなる背中を見守りながら、刀剣男士達は彼の残した言葉の真意を考える。
"『やりたい』と思ったことをやってみる"。自分達は付喪神ではあるが、元を辿れば人が使う道具である。そんな存在に、どうしてその言葉をかけたのか。恐らくアシッドもサクヤの真意を知っているはずだ。
……考えても、考えても。答えは出なかった。眉間にしわを寄せる鬼丸に、大典太は声をかける。
「……あんたはすぐに答えを出そうとするな。昔からそうだ。あの社長も言っていただろう。 "この世界での生活を続けていくうちに分かる" とな…」
「どいつもこいつもなんなんだ。おれ達は道具に過ぎない。なのにどうして。一介の人間がするような助言を―――」
「……覚えているか?鬼丸。いつか天下五剣、全振揃って縁側でのんびりと茶を嗜むと言ったことを…。三日月がぼそりと呟いた言葉だったが…俺は、やってみてもいいと思うんだ。
小さな幸せを…俺達が望んでも…いいのかもしれん」
「影響されすぎだ。あのお人好しに」
「……主を悪く言うな。確かにお人好しで、狂気的に慈悲深いのはあるが……。
……なぁ鬼丸。人間というのは意外に強い生き物なんだ。俺達が思っているように遥かに、な…。だから…もう少しだけ、少しだけでいい。外に…目を向けてみないか」
「―――ふん。どうだかな」
大典太の言葉を鬼丸は突っぱねた。だが、天下五剣でのんびりと過ごしたいと夢見ていたことも事実。
それが叶うチャンスが、今目の前にあるかもしれない。それに縋っていいのであれば、縋りたい。鬼丸の心の中に、そんな小さな思いが微かに生まれていた。
他の刀剣や神々達の方向を向いてみると、何やらラルゴと話をしていた。彼らもこれからこの議事堂で世話になる身だ。働かざる者食うべからず、とはよく言ったものだ。
「サクヤと再会した時はあんなに賑やかだったのにな~。随分静かになっちまった」
「でも、これからたっくさん増えますよ。ね、町長さん!」
「そうね、ノルンちゃん!そのつもりで頑張らないとね!」
そう意気込んだラルゴの腰辺りが震える。素早くスマートフォンを取り出し耳に充てると、彼はすぐに明るい声で話を始めた。早速リレイン王国の関係者が帰ってくるという話だった。
ラルゴは一同に詫びを入れ、仕事部屋に向かって歩きながら話を進める。流石はフローレンス姫が評価した人物。傍から聞いていても、話の進め方が人智を超えていた。
その様子を見た一同も、早速今日やるべきことをする為各々行動を開始したのだった。
「さーて。これから俺達も忙しくなるぜ!」
「1週間ちょっととはいえ…落ち葉とかも結構あったからな…。先ずは掃除からかな…」
「ボク、ヴァルナさんに掃除用具のある場所を聞いてきますね!」
「お、オレも行くゾ~!おいてかないデ~!」
「風の魔法で…一気に…出来ないかな…」
「余計に散らばっちゃうから駄目だよカノンくん~?!」
アクラルとアカギ、そしてノルン、カノン、テレーゼは城下町の掃除をしに、玄関口へと歩いて行った。いくら神と実力のあるクッパ軍団の兵士達とはいえ、この人数では1日で出来る面積ではない。
刀剣男士達も加勢しに行った方がいいのは明確だった。
「僕達も行きましょう!城下町の面積ですと…掃除に加勢した方がいいです!むしろ加勢しても終わらない気がします!」
「1日でやろうと考えないで、数日に分けての掃除と考えた方がいいでしょうな。我々も早いところかれらに追いつきましょう」
「町長殿のあの話しぶりですと、すぐに人は集まりそうです。集まった方々にも協力を仰ぎ、担当区域を決めて早速掃除を始めましょう。地の利は我々よりも、戻ってくる王国の方々の方が勝っている筈ですからね」
前田、小狐丸、数珠丸もアクラル達の後を追って議事堂を去って行った。
その場には大典太と鬼丸だけが残っていた。鬼丸は何も言わず、黙って議事堂を去っていく。とりあえず、アシッドの言っていた『自分がやりたいこと』を実践してみることにしたようだ。
大典太も彼の後を追って議事堂を後にする。―――玄関口から外に出た時に浴びた陽の光。……いつか、暗闇からサクヤが引っ張り出してくれた時を思い出していた。
「……眩しい」
大典太は小さく呟く。今日からは主の刀剣としてだけではなく、自らの考えで動かねばならない。
……蔵に封印されていた時からは、全く想像もつかない経験だった。
「……正直、不安ではある。だが……やるしかないならやるだけだ。……どうせ、俺に出来ることは限られているとは思うが。……探していたら、主を消滅させない方法だって見つかるかもしれないからな」
大典太はぼそりとそう呟き、小さくなった一同の後を追いかけ歩き始めたのだった。
こうして、彼らの未来への物語がまた一歩前に進んだ。
これからどんな出会いが待っているのか。
これから…どんな出来事が待ち受けているのか。
それを知る者は―――きっと。己しかいないのかもしれない。
Ep.01-1 【繋がりの王国】 END.
to be continued…