二次創作小説(新・総合)

Ep.01-s1【新たな世の初日の出】 ( No.38 )
日時: 2022/01/01 23:39
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 大典太達がリレイン王国に身を寄せてから1ヵ月が経過した。
 掃除や片付けに見舞われた初日とは打って変わって、城下町には穏やかな時間が流れていた。
 街の人間も少しずつ戻ってきている様子で、このままいけば後4日程で最低限の物流が流れるだろうと誰かが言った。ここまで動きが早いとは想像できていなかったようで、目まぐるしく変わる街の情景に大典太はついていくのが精一杯だった。


 現在、刀剣男士達は主であるサクヤの主命に従い『世界を学ぶ』為、そして世界中に散らばった刀剣男士達を探す為にラルゴの手伝いをしている状態だった。
 無論、この国は『繋がりの王国』と呼ばれているのだから情報は次々に集まる。ならば刀剣の1つや2つ、話が耳に入ってきても良い筈だ。
 だが、そう言った希望を抱ける噂話は全く彼らの元には入ってこなかった。たかが1ヵ月、されど1ヵ月。まだリレイン王国は再起を始めたばかりなのだ。長期戦になるのは覚悟の上での行動だ。


 気を緩めてはいられない、と大典太は持っていた段ボールを机に置き、一息ついた。建物の中だとはいえ、空っ風が玄関から入ってくる冷たさが身に染みる。本格的に冬なのだと、遠目で閉じていく玄関を彼は見つめていた。
 そんな彼の元に見知った声が聞こえてきた。音の方向を向いてみると、そこには鬼丸と数珠丸の姿があった。



「あけましておめでとうございます、大典太殿。リレイン王国に身を寄せてから1ヵ月程経過しましたが…。やはり、新年というものはめでたくありたいものですね」
「……正月か。あけましておめでとう」
「あけましておめでとう。流石に正月から鬼はこないよな…」
「……あんたはいつも鬼の話だな」
「それしか話題がないんだから仕方ないだろ。主には朝一に挨拶を済ませたとて、他にやることもないしな」
「……あの警察官達にも挨拶に行きたかったが、飛行船を使っても片道1日以上かかるのでは無理な話だ…。せめてもの気持ちで色々贈ったが」
「大丈夫です、大典太殿。貴方のお気持ちはきっと届いていらっしゃいます」



 他愛ない会話を続けているついでに、大典太は前田と小狐丸の行方について問うことにした。人が増えたとはいえ、議事堂に住み込みで働いている人物何てたかが知れている。見知った顔が見えないことに大典太は不安を覚えていた。
 朝にサクヤに一緒に挨拶をして別れた前田はともかく、小狐丸を朝から見かけていないのが不思議だった。
 しかし、数珠丸も鬼丸も彼らの行方については首を横に振った。この王国は新しい情報がすぐに入ってくるのが利点の1つである。ならば、王国内でなにかあったのであればすぐに耳に入る筈だった。


 そんな彼らの元に、明るく軽快なリズムを刻んで挨拶をする人物がいた。この城下町の長であるラルゴだった。



「あら~!新年早々天下五剣様のお揃いね!なんて縁起がいいのかしら!あけましておめでとう♪」
「今年もよろしくお願いいたします。あの…その大きな荷物は?」
「あぁ、これ?朝一で城下町宛に色々来てたのよ。あ、貴方達宛の荷物もあるわよ。アシッド社長は勿論、あのミカグラ島の子達からもね!」
「おや、皆さんお揃いでしたか。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、皆さん」
「……荷物」
「そうか。小狐丸と前田は町長の手伝いに行っていたのか」
「黙っててごめんなさいね~?1人で運ぶのはちょっと荷が重すぎたから、近くを通りかかった小狐丸ちゃん達に手伝いを要請してたのよ~。後で超絶美味しいお雑煮を御馳走するって報酬もつけて、ね!」
「具材におあげが入る話をされては…この小狐丸も手伝わない訳には参りませぬ故。いや、元々手伝う気ではいましたが!」
「1ヵ月も経てば変わることもありますからね。主君の主命に従い、自分にやれることを僕はやっています!」
「行方が分かって良かったですね、大典太殿」
「……あぁ」



 後ろから小狐丸と前田も顔を出した。ラルゴが荷台に荷物を積み上げながら運んでいるのと同じく、彼らも両手に段ボールを持っている。直後に口に出したラルゴの言葉で、大典太が抱いていた不安は全て消滅した。
 彼が朝から顔を出さないことを心配していたことを話すと、小狐丸は軽く詫びを入れた。なんにせよ、何事もないことが一番だった。


 ラルゴは彼らと軽く会話を交わした後、空いている場所に城下町宛の荷物を置いた。小狐丸と前田にも同じ場所に持っている物を置くように頼み、残った小さな2つの小包を大典太達に渡したのだった。
 彼らが戻ってきたところで、ラルゴは口を開く。



「こっちがアシッド社長で、もう1つのがミカグラ島から来ている奴ね。きっとあの子達だわ!」
「どっちも豪華な装飾ですね!きっと"お年賀"という奴ですよ皆さん!」
「……刀剣男士に…刀にお年賀…」
「どいつもこいつもなんなんだ」
「まぁまぁ。頂ける好意は受け取っておいた方が吉ですぞ。町長殿。これはここで開けてもよろしいのでしょうか?」
「勿論!寧ろここで開けてもらった方が、アタシも危険物がないことを確認出来て一石二鳥よ。―――別に悪いことは考えてないしね?」
「……あの運命の神も、警察の長も腹の読めん奴だ…。何が入っていても警戒は怠らない方がいい…」
「大典太さん!言った傍からネガティブな妄想を広げるのはやめましょう!折角のお正月なんですから!」
「警戒を怠らない方がいいのは当然のことだろ」
「鬼丸殿も~!」
「前田殿、落ち着いてください。―――結構な重さがあるように感じましたので、そうそう危険なものは入っていないように思えますが…」



 一時期協力し合っていたとはいえ、彼らは腹の読めない人物だというのは大典太にも分かっていた。信じたくはないが、この中に爆弾が仕掛けられている可能性だってあった。
 前田にその考えを一蹴されるも、目尻を下げたまま大典太は恐る恐る自分達宛の小包の封を少しずつ解いて行く。何もありませんように、そう願いながら。
 外側の装飾を出来るだけ綺麗に外し、あとは発泡スチロールの蓋を開けるだけとなった。



「何を戸惑っているのです?早く開けましょう」
「……そうだな」



 小狐丸に唆され、大典太は震える手で発泡スチロールの蓋をそっと開いた。その中には―――。



































 ―――立派なタラバガニが一杯、ぎっちりと詰まっていた。
 中身が意外だったのか、思わず言葉を失う一同。その身の引き締まりにラルゴがすぐに気付いたようで、隣でキャッキャとはしゃいでいた。



「凄いじゃない!蟹って今物凄く高いのよ~?しかもこんな立派な奴!みんな好かれてる証拠じゃな~い!あら?包装紙に挟まって手紙が入ってる」
「―――はっ!あまりの立派さに我を忘れていました」
「……おれ達は刀だぞ」
「……本当に俺達宛なのか。あんた達街にじゃないのか」
「違うわよ!ちゃんと宛名は確認しました!あ、それと…。多分、これあの子達からの手紙だと思うの。見てあげて♪」
「ふむ…。では読んでみることにいたしましょうか」



 ラルゴは見つけた手紙を数珠丸に手渡した。
 質感の良い封筒の封を切り、中身を取り出す。中には1枚の紙が入っており、小綺麗な文字が書かれていた。数珠丸は少々咳ばらいをした後、手紙の中を読み始めた。




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 刀剣男士のみなさん サクヤさん お元気ですか? ルークです。
 1ヵ月前は大変お世話になりました。もし貴方達と出会っていなかったら、今僕達はミカグラに帰ってこれていたのかも怪しいところでした。本当にありがとうございました。

 何かお返しをと考えていたところに、モクマさんから "マイカには『正月』という文化がある" ことを教えてもらいました。何でも新年に "今年もよろしくお願いいたします" という気持ちを込めて贈る贈り物があるらしいんです。
 まぁ、日本刀の皆さんならそんな文化知ってて当たり前か。でも、僕もその習わしには興味がありました。なので、みんなで相談して『オネンガ』を贈らせていただきました。
 一応、年末にモクマさんと色々食べ歩いた中で良いものを選んだつもりなので、気に入ってくれたら嬉しいです。うう、食べ過ぎてお腹が今もパンパンだ…。

 僕達は変わらず元気にやっています。時々喧嘩もするけど、自分達の故郷が見つかるまでミカグラで頑張ろうという気持ちはみんな同じです。だから心配しないでください!
 長くなっちゃいましたが、皆さんもお身体に気を付けて新たな年を過ごしてください。
 今年もどうぞよろしくお願いします。

 ルーク・ウィリアムズ


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「……元気にやっているみたいで良かったよ」
「実際に会ってお礼を言えないのが辛いところですね…」
「せめてこの近辺から飛べれば話は別なんだがな。空港がある街に行くまでで半日かかって時間が勿体ない」
「う~ん。再起してきたとはいえ、交通の便がもう一度動くにはもう少し時間がかかりそうなのよね。アタシもこの街から色々な場所に飛べればいいと思ってるんだけど」
「(……主の『すまほ』で今度礼を言っておかないとな)」
「こちらの小包も開けてみましょうか。アシッド殿からのようですが…おや?何やら小さな紙が入っていますな」
「ひい、ふう、みい……今いる刀剣男士全振分ありますね」



 ルーク達が相変わらず元気にやっていることを聞き、大典太達は安堵した。本当は直接礼を言いたいと前田が呟いたが、リレイン王国は情報は入ってくる場所だが、駅も空港も未だ再開はしていない。1ヵ月程度で再開できる方がおかしな話なので当然なのだが、やはり交通が不便だとはその場にいる誰もが同じ考えを抱いていた。
 彼らを横目に、小狐丸と数珠丸はアシッドから届いたもう一つの小包を開いていた。その中には、その場にいる刀剣男士全振分の枚数のチケットのようなものが書かれていた。



「『仕立券』と書かれているようですが…。何でしょうこれ?」
「……こっちにもメッセージカードがあるみたいだな。『刀剣男士諸君 折角の人生だ、お洒落を楽しみたまえ。私の馴染みの着物専門店の仕立券を人数分用意したから、そこで縁起のいい着物でも拵えてもらうと良い』
 ……この券で着物を仕立ててもらえ、だと」
「鬼を斬るには必要ない。なんだってそんなものを」
「―――あらっ?!こっちもこっちで超有名な着物専門店の名前が書かれているじゃない!こんな贅沢、アタシでも無理よ~!」
「あの方の考えていることが私には理解できませぬ…」
「……理解できなくていい。あいつはそういう奴だ」
「そんな凄いものをいただけるなんて…。アシッド殿にもお礼を言わなければですね!」



 仕立券の裏面を見たラルゴが再びキャッキャとはしゃいでいる。そんなにも有名な店なのか、と鬼丸が問うと、彼は "この世界で知らない人間はいない超有名店よ!しかも本店の場所が記されてる。アシッド社長、とんでもないコネを使ったのね…" と、至極当然に返って来た。
 好奇心旺盛の塊だということは全振知っていたが、その行動力の速さには呆れるものがあった。思わず大典太がため息をつくと、前田が "大典太さん、幸せが逃げてしまいますよ" と切り返した。



「……正月から驚きの連続だな。仕立券は各々が持っているとして…蟹はどうする。主に押し付ける訳にもいくまい」
「じゃあ、蟹は一旦アタシが預かっていいかしら?お雑煮に丁度入れたかったのよね~♪ 折角だし城下町のみんなと陛下にも食べてもらいましょ! "美味しい" はみんなで分け合わないとね!」
「出来たら主君にも持って行ってあげましょう。幸せのおすそ分けですね!」
「大典太が預かったとて、焼いて食うしか選択肢はなさそうだからな。結局は大酒呑みのつまみに消える」
「……どの口が言う」
「フン。おれはそこまでじゃない」
「それじゃ早速お雑煮作らなきゃ!人数多いし材料も多いから早く作らないと大変なことになっちゃう~!みんなはお正月だしゆっくり休んでてね!お雑煮出来たら声かけるからね!それじゃあね~♪」



 各々思ったことを口にしている最中、ラルゴは蟹が入った発泡スチロールを持って部屋を後にした。
 明るい声が部屋から消え、残った刀剣男士達には静かな空気が流れる。
 ……しばらくその状態が続いた後、流れを断ち切るかのように小狐丸が仕立券を配り始めた。


 その後、ラルゴお手製のお雑煮が出来るまで一同は一旦解散となった。やることも特に思いつかなかったからだった。
 大典太はそのまま部屋でぼーっと窓から空を見ていた。ふと、蔵に封印されていた過去が頭の中を過ぎる。あの時も、小さな天窓から青空を眺めていたことがあった。
 感傷に浸っていると思われたのか、彼の耳元に主の声が木霊してきた。



『光世さん。正月早々何を感傷的になっているのですか』
「……少し 昔を思い出してな。蔵に封じられていた頃も…こうしてたまに空を見上げることがあった」
『そうなのですね。ですが…今は違うでしょう。仲間がいる。友がいる。貴方は一振ではありません』
「……それは…分かっているんだが…。急に前向きな考えになれと言われても…俺には出来ない」
『それが光世さんですからね。無理にとはいいません。でも…光世さん。貴方少し語尾が浮ついているように私には思えます』
「……そんなつもりはないんだが。主にはそう感じられるのか?」
『ええとても。―――楽しそうで何よりですよ』
「……ふふ。どうだかな…。―――主。町長が雑煮を作るらしい。出来次第あんたのところに警察官から貰った手紙と一緒に持って行く。……食べよう。前田と。鬼丸と。みんなで一緒に」
『ありがとうございます。楽しみにしていますね。―――光世さん』



 お雑煮を持って行くと伝えると、心なしかサクヤが嬉しそうに念話を返してきた。そんな彼女の反応に、大典太は少しだけ浮ついた気持ちになる。
 ―――立ち話もし過ぎると不審に見られると気付いたのか、そろそろ念話を切ろうと動いた矢先だった。サクヤが大典太にこういった。



『光世さん。今年も…よろしくお願いいたしますね』
「…………」




「……あぁ。よろしくお願いする。―――主」




 新年こそは平和に過ごせるように。大典太はそんな祈りも込めて、サクヤにそう返したのだった。




Ep.01-s1【新たな世の初日の出】 END.