二次創作小説(新・総合)

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.40 )
日時: 2022/03/01 22:36
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 冷たい風が街を駆け抜ける季節。今は冬の真っ只中。
 リレイン王国は、国民と大帝国との協力で少しずつ活気を取り戻していた。はじめはまばらだった人も、少しずつ元のさやに戻りつつある。何だかんだ、皆この国が、城下町が大好きなのだ。
 肌寒い風が窓から吹き抜ける最中、大典太は議事堂にてラルゴの手伝いをしていた。議事堂の部屋を一部寄宿舎として使わせてもらうことになった以上、何もしないという訳には行かなかった。
 人が戻って来たとはいえ、議事堂にはまだまだ人が少ない。少しでも手助けになれば、と彼らは率先して街の為に動いていた。



「いつも助かるわ~!光世さん、荷物そこに置いといてくれる?」
「……あぁ。ここでいいか?」
「うん、ばっちり満点よ~!サクヤちゃんはどう?元気?」
「……変わりない。主の仕事も俺に振ってくれればいい。必要に応じて主に連携する…」
「んもう!そういう風に言ってるんじゃないの!サクヤちゃん、外に出られないって深い理由があるんでしょ?根掘り葉掘りは聞かないけど、アタシ心配で心配で…」
「……そういうことか。まぁ…そういう意味でも主は変わりない。いつも通りだ」
「それなら良かったわ!」



 大典太が淡々と答える中、コロコロと表情を変えているこの男性が町長である"ラルゴ"である。
 元々は一介の兵士であったが、元々の経歴から町長の仕事の方が性に合っているだろうと判断され、王直々に街の為に働くよう主命を受けたのだ。
 彼がいると場が自然と明るくなる。いつもは暗い表情が多い大典太も、表情は変わらずとも不思議と朗らかな気分になったような感触がしていた。
 大典太が荷物を置いたのを皮切りに、ラルゴは彼にこんなことを言った。



「ねぇ光世ちゃん。光世ちゃんってお酒、好き?」
「……割と。過去には鬼丸と吞んでいたこともある…」
「そうなのね!なら…アタシの話、聞いてくれる?」



 何の話かと思えば、急に"酒は好きか"と問われた。
 大典太は九州で磨られた刀の為、地域柄酒には強かった。時の蔵では、天下五剣と酒を呑んでいたことを彼は思い出す。その時も彼は"呑み過ぎだ"と、悪態を突かれていた記憶が脳裏に浮かんだ。
 しかし、ラルゴの経歴があるとはいえ突拍子もない質問に大典太は黙り込んでしまった。彼の意図が読めなかったからだ。
 そんな大典太の表情を察してか、大典太の言葉を待たずにラルゴは話を続けた。



「議事堂に隣に空き家があるのは覚えてる?」
「……前の町長の家だった場所か。結構広かったな。……結局その町長は戻ってこなかった訳だが」
「それはいいの!あいつなんて戻ってきても家なんて与えてやるもんですか! それでね?光世ちゃんの言った通り、結構な広さがあるのよね~。だから、あの場所にバーを作ろうと思ってるんだけど…」
「……バー…」
「街の人の憩いの場を1つでも増やせないかなって思ってて~。でも、アタシ今町長してるでしょ?今はこの大陸の街との連携が先だと思ってるから、『出来たら良いな』って思ってるだけなんだけど…」
「……あんたがやりたいようにやればいいんじゃないか?」



 ラルゴはどうやら、議事堂の隣にある空き家を『バー』に改築したいと考えていたようだった。
 彼女……もとい彼は、"伝説のママ"との異名を持つ程の人物だ。国民や旅人の笑顔の為、憩いの場を増やしたいという気持ちが芽生えているのは充分に伝わって来た。
 しかし、大典太にはもう1つ、ラルゴが口にした言葉が"とってつけたもの"だとも感じていた。心の奥に何か思いを秘めているのではないか。
 思い切って彼の真意を問うてみると、ラルゴは驚いたような表情をしてこう返してきた。



「光世ちゃんったら、読心術持ってるの?!アタシ、今ドキッとしちゃった」
「……心理学も読心術も関係ない…。あんたが取ってつけたような表情をしていたから気になっただけだ」
「あら、そうなの!まぁ光世ちゃんの言う通りなのよね~。憩いの場を増やしたいってのは本心だけど、ママの血が疼いて仕方ないよね~。人生の路頭に迷った人達の道しるべになってあげたいのよ~」
「…………」



 ママの血が疼いて仕方がない。どうやらこちらが本心だと大典太は確信した。
 だが、酒が堂々と飲める場所が増えるのは大典太にとって悪いことではなかった。ラルゴにしっかり管理してもらえば、酒に弱い連中が泥酔することもない。自分が介抱する割合も減って助かるのだと心の中で密かに思った。
 思わずくすりと微笑みを浮かべると、ラルゴは大典太の顔を見てニヤニヤと笑う。彼が笑みを浮かべたことが余程嬉しかったらしい。



「でも今は無理ね!こっちの案件もあるし、終わってからじゃないと手が付けられないわ」
「……その紙の束か?」
「えぇ。バーを創るのはアタシの個人的な感情だけど、この紙の案件はこの城下町に必要不可欠なものだもの でも、バーは必ず開いてみせる。だから、もしお店が開いたら是非呑みに来てね!アナタ達にならサービス価格で提供しちゃうから♪」
「……出来たら、な」



 大典太は上機嫌なラルゴに反応しつつ、彼が持っている紙束に目をやった。
 一番上にはクリップで写真が1枚挟まれており、そこにはポケモンと作業員が笑顔で写っていた。何か鉄骨のようなものを持っていることが確認できたことから、建設会社か何処かと交渉しようとしているのだろう。
 その横に大きく案件の名前がプリントされている。彼はそれも読んでみることにした。
 紙には、こう印刷されていた。





「(……『リレイン城下町駅 開設計画』?)」





 チラ見している大典太に気付いたのか、ラルゴは口元に人差し指を立ててその場を去った。見たものは内密にしてほしいらしい。
 そのまま荷物を持って町長室へと去って行った彼を見送った後、大典太も一旦サクヤの元へ戻ることに決めた。午前中から働きづめだった為、少し休憩を取ろうとしていた。



「……今なら鬼丸がいるか…。あいつに酒でも分けてもらうか」



 そう、小さく呟きながらその場から離れようとした矢先だった。



「(―――揺れて、いる?)」



 大きく強い揺れを感じた。地震だろうか。立っていては危ないと大典太はしゃがむ。
 しかし、地震特有の揺れとは少し違うように彼は感じていた。
 しばらくその状態で待機していると、次第に揺れは収まった。本当にただの地震だったのだろうか。特に何も起きなかった為、目的を果たそうと右足を出した瞬間だった。









































 ガラガラと、

 寄宿舎方面から何かが崩れる音が聞こえた。



「……建物自体が崩れる音…?何があったんだ」



 物が落ちた音ではない。それよりも大きな、まるで『建物が崩れた』音。破壊された可能性があると瞬時に判断した。
 もしかしたら怪我人がいるかもしれない。そうであれば、早く助けねば手遅れになってしまう可能性がある。



「大典太さん!」



 自分を呼ぶ声が聞こえる。その方向を振り向いてみると、前田が焦った表情で走って来た。
 彼も大きな物音を捉え、何が起きたか見に行こうと急いで移動をしていたのだった。



「……前田」
「聞きましたか、先程の大きな音。普通の物音ではないような気がします!」
「……何か、建物が崩れるような音だった。もしかしたら誰か潰されているかもしれんな…」
「大変です!早くお助けしなければ!」
「……怪我をしていたら不味い。見に行こう」




 とても大きな物音だった。寄宿舎にいる誰かが瓦礫に潰されている可能性も懸念しなければならなかった。
 そうであれば、ここで立ち止まっている訳にはいかない。そう判断し、大典太と前田は音がした方向まで走って行ったのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.41 )
日時: 2022/03/02 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 大典太と前田が現場に直行していたと同時刻。
 大きな落下音が響いた地点には煙と土埃が舞っていた。余程大きな落下物だったのか、建物の右端を完全に破壊してしまっていた。
 煙の中から、咳き込みながら体制を立て直す人影が2つ見えた。数珠丸と小狐丸だった。



「けほっ…大丈夫ですか、小狐丸殿」
「ええ…。何とか寸前に気付いて避けられましたが、まさか建物の真上に墜落するとは…」
「随分と大きな落下物のようでした。下手をしたら我々が下敷きになっていたかもしれませんね」
「刀剣男士がこれしき避けられないとなれば…恥ずかしい話ではありますが。何にせよ無事で良かったです」



 数珠丸と小狐丸は、丁度音の真下にいた。しかし、寸のところで気付いて回避行動を取った為大事には至らなかったのだった。
 お互い五体満足であることを先ずは確認し、煙巻いていた場所を見やる。衝撃が落ち着いてきたのか、落下物の詳細が少しずつ明らかになっていく。
 二振はその物体を確認しようと近づく。もしかしたら魔物かもしれない。もしかしたら悪意がある者なのかもしれない。刀の鞘に手をかけつつ、少しずつ足を近付けていった。
 煙の中から出てきたのは―――。



「な、なんでしょうかこれは…」
「桃色の…物体…?奇怪な形をしていますな」



 ショッキングピンクが目を引く、豚のような形をした乗り物だった。鉄か鋼で出来ていると思われるそれに刀で傷をつけることは敵わないだろう。そう判断した二振は、刀の柄から手を離した。
 近未来的な物体を見たのは初めてだ。過去のどんな記憶にも当てはまらないそれに、数珠丸と小狐丸はただ立ち尽くすことしか出来なかった。

 そのままじっと見つめていると、背後から足音が聞こえてくる。
 思わず後ろを振り向いてみると、こちらへ向かって走ってきている大典太、前田、ラルゴの姿があった。ラルゴも衝撃の音を耳にしており、何かあったのかと二振と一緒に走って来たのだった。



「……あんた達だけか」
「はい。落下した時点では他には誰もいません。我々も寸のところで避けた為無事です」
「……そうか。怪我人がいなくてよかった…。だが…」



 "だが"。そう口にしつつ、大典太は抉れて外が丸見えになった壁を見やる。
 かつて建てられていた頑丈な壁は、今や木端微塵に崩れ去ってしまっている。落下物の衝撃が端だった為、破壊が最小限で済んだのが幸いだった。しかし、大典太の表情が明るくなることはなかった。
 前田も不思議そうに大きな塊を見つめていると、ふとラルゴがこんなことを口にする。



「これ…"UFO"じゃないかしら?」
「UFO?」
「えぇ。間違いないわ、UFOよ!まさか本当に生きている間に生で見れるなんて…!」
「興奮する程のものなのでしょうか…?」
「勿論よ!オカルトや超常現象なんて、生きているうちに見られる方が稀ですもの!」



 ラルゴが発した"UFO"という言葉。彼は興奮気味に口を抑えている。余程これが好きなのだろうか。
 前田がやや呆れ気味にツッコミを返している間、大典太はUFOの周りを観察していた。乗り物であれば、中に誰かいるかもしれないと思った末での行動だった。
 しばらくゆっくりとそれを眺めていると、ふと右目の横あたりがうっすら光っているのに気付いた。大典太は気付いた。あれは"扉"ではないかと。

 ならば、中に誰かがいるかもしれない。そう判断した大典太は、無言で足をUFOに向けた。
 それと同時に腕を掴むものがいた。小狐丸だった。



「危険ですよ。中に何があるか分からないのです」
「……しかし、中に誰かがいるかもしれん。表向きは多少傷がついたくらいで済んでいるが、落下の衝撃が大きいんだ…。もし誰かがいたら、多少の怪我では済まないだろう。中を見てくるだけだ」
「そう、ですか。ですが、油断はせぬようお願いいたしますよ」



 大典太のストレートな物言いに小狐丸は観念し、掴んでいた手を離す。ありがとう、と小さく礼を言った大典太はそのままうっすら開いている扉を開け、UFOの中へと入って行った。
 正体がどんな奴であろうが、目の前の命の方が大事。サクヤと共にして、大典太が出した1つの答えだった。それに、自分は病気や怪異を癒す逸話のある刀。それが膨張して、他の存在を助けられている現状で、手の届く存在を"助けない"という選択肢はなかった。











 UFOの中は近未来的な造りになっており、操舵室のような場所だと大典太は感じた。しかし、中は無人。今いる場所を見渡しても、誰もいなかった。だが、大典太にはここに誰かの気配を感じていた。
 建物目掛けて落下をしたというのに、無人ということはあり得るのだろうか?大典太はもう一度目を凝らして部屋の中を見てみる。しかし、目立つものは見つけられなかった。



「……気のせい、なのか」



 本当に気のせいだったのだろうか。心にしこりを残しつつも、コックピットを後にしようと後ろを振り向いた。
 その瞬間、大典太は違和感を感じた。……誰かいる。彼の察知は間違っていなかったのだ。
 意識を集中させ、気配を辿る。すると―――。扉から見て奥の壁の方向に、白いもちもちした物体が見えた。腕らしきものが震えているのが分かった。彼は物ではない、『生きているいのち』だ。
 大典太は無言のまま白い物体に近付く。気絶しているようで、腕以外が動いている気配はない。ざっと見たところ、命に別状はなさそうだがところどころに痛々しい打撲痕がある。落下した衝撃で壁に強くぶつかってしまったのだろう。



「……打ち身が酷いな。治療をせねば」



 大典太は白い物体の頭らしきところを掴み、そのままコックピットを後にする。彼の正体が何であれ、生きているいのちに変わりはない。起きてから話を聞けばいい。
 まずは彼の怪我を治すことが先決だ。そう判断し、大典太は合流を急いだのだった。











 大典太の右手にあるものを見て、一同はぎょっとする。ラルゴに至っては"宇宙人だわ~!"とはしゃいでいる。
 人ではない可能性も考えていたが、見たことのない存在に言葉を失っていた。



「宇宙船に、宇宙人…。ロマンだわ、神秘だわ~!」
「―――はっ。お、大典太さん!その右手に掴んでいるものは…」
「……中で倒れていた。腕が震えていたから物じゃない。"いのち"だ。……大きくぶつかった衝撃で、打ち身になっているところがある。エントランスで治療をしたいんだが…」
「命に別状はなさそうなのですね?」
「……あぁ。正直、あの落下の衝撃で打ち身で済んでるのは奇跡だと思いたいな…」
「素敵…。世の中には素晴らしい神秘が沢山あるのね…」
「町長殿。町長殿!しっかりしてください。エントランスですよエントランス!」
「ごめんなさい!うっとりしていたわ…。怪我人の治療、だったかしら?すぐに救急箱を取ってくるわ。エントランスのソファは好きに使って頂戴!」
「……感謝する。前田、すまないが町長について手ぬぐいの準備をお願いできるか。もしかしたら冷やす必要があるかもしれんからな…」
「承知しました。氷水もすぐにご用意いたします」
「……頼んだ」



 怪我人の治療の要請を伝えると、すぐにラルゴは我に返った。どんな存在であれ、放置は出来ない。それは誰もが思っていたことだった。
 前田にラルゴについていくことを伝え、議事堂の方まで走り去っていくのを見送る。掴んでいる白い物体を見つめ、数珠丸が口を開いた。



「気絶しているようですが。本当に命に別状はないのでしょうか?」
「……僅かだが動いたのは確認した。死んではいないだろう」
「鬼丸殿も呼んで参ります。神域におられますかね」
「……恐らくな。酒でもあおっているんだろう。呼んできてくれると助かる」
「承知しました。では行って参ります」



 数珠丸に鬼丸を呼んでくるように頼み、彼が反対方向へ走っていくのを見届ける。
 彼の姿が見えなくなったのを確認した後、大典太と小狐丸はラルゴ達が走り去っていった方向を再び見やった。



「我々も急ぎましょう」
「……あぁ。そうだな」




 お互いに頷き合った後、二振はエントランスに向けて足を進めたのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.42 )
日時: 2022/03/03 22:17
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 エントランスに辿り着くと、既にラルゴと前田が各々物を持って大典太達を待っていた。
 ラルゴは彼らが来たのを確認した後、ソファーの空いているスペースへと彼を導く。救急箱を床に置き、これを使えと指で大典太に伝えた。
 彼は掴んでいた白い生命体をソファーに横たわらせた後、前田にタオルを絞る様指示した。彼から冷えたタオルを受け取った後、腫れて赤くなっている患部に優しくそれを当てる。その間、霊力で他に異常は無いか精神を集中することにしたのだった。
 あまりの手際の良さに、思わず小狐丸は言葉を失う。そして、我に返ったように大典太にこう言ったのだった。



「こういう怪我の治療は……白山殿の十八番だったような記憶があります。まさか大典太殿が出来るとは…。しかもかなり手際がいいと見えます」
「……一応、俺も治癒の霊刀には数えられているからな。それに…。俺は、他の『大典太光世』とは少し違うんでな。……有り余る霊力で怪我の治療が出来るようになってしまった」
「主君が時の狭間に落とされてしまった時も、鬼丸殿と連携をして命を救ったんでしたよね」
「ふーむ。そうなのですか。いや、私のいた本丸のことをしっかり覚えている訳ではないのですが…」
「小狐丸殿もそうなのですか?」
「はい。元々別の本丸にいたこと"だけ"は分かるのですが、それ以上のことは…。霧がかかっているようで、よく分からないのです」
「……記憶障害というやつか。そこまでは責任は取れんな…。あくまで俺が治せるのは"病気"や"物理的な怪我"とか…呪いの類だけだ」



 小狐丸の疑問に淡々と答えながらも、彼は生命体の怪我の具合を見ていた。
 色々な場所に手を当て、霊力を込める。違和感があれば、そこを詳細に調べる。もし打ち身以外の怪我があれば、そこで判断しようと考えていたのだった。
 しかし…。大典太は全体を一通り診終わった後、なんと生命体から手を離した。置いた冷えタオルはそのままにし、彼は生命体から少し距離を置いた。



「大典太さん。大丈夫なのですか?彼?は…」
「……打ち身以外には特に気になるところはなかった。正直…奇跡だ」
「光世ちゃん。冷えタオルより湿布の方がいいんじゃない?救急箱の中にあるから、それ使って!」
「……そうだな。打ち身"だけ"とはいえ、かなり強く打っているのは事実だ」



 ラルゴの助言を受け、彼は救急箱から小さな湿布を1枚取り出した。フィルムを剥がすと、つんとした薬品の匂いが鼻に届く。しかし、目覚める可能性がある以上冷えタオルだけでその場を凌ぐには無理があった。
 大典太が湿布を貼っている最中、数珠丸が鬼丸を引き連れてエントランスへと辿り着いた。的確に処理を行っている大典太の邪魔をしないよう、彼らはソファーの脇に移動した。



「そいつが空から落ちてきた物体の中にいたのか」
「……そうだ。命に別状はない」
「被害の割に、大した怪我じゃなくて本当良かったわ~。後は彼が目覚めるのを待つだけね」



 湿布を貼り終え、大典太は静かにその場を去る。後は生命体が目覚めるのを待つだけだが…。黒いサングラスからは彼の表情が見えず、本当に気が付くのすら彼らには判別できなかった。
 そのまましばらく見守っていると、不意に小さな腕が微かに動いたのが分かった。―――目が覚める。一同がそう判断した矢先、人間とは思えない声色を出しながら……生命体が目を覚ました。



「ウーン……」



 まだ頭がぼんやりしているのか、きょろきょろと周りを見回している。そして、自分が見知らぬ場所にいることに気付き焦り始めた。
 誰かに助けを求めようとも、知り合いなど誰一人いない。そして、見回した目線の先にいるのは―――。高身長の男達。中にはヤクザの若頭のような風貌の人間もいる。
 そして、自分は地球人ではない。―――彼の頭の中に浮かんだ答えは1つだった。"売られる"。
 そう判断した宇宙人は、不意に叫び始めた。



「ワタシハ売らレテシマウノデスカ?!タスケテー!ウラナイデー!!オイシクナイデスヨ!!!」
「……何を言っているんだこいつは?」
「見知らぬ場所に落下してしまい混乱しているのでしょうか…」
「ウチューにんぢんデモナンデモ差し上げマスカラ!!!イノチダケハ取らナイデ……イタッ」
「……強く打っている。あまり動かない方がいい」



 生命体が湿布を貼った場所を無理やり動かした為、打ち身で出来た痛みが彼を襲う。大典太は素直に"動かない方がいい"と彼に提言した。
 その声色と、騒いでも襲ってこないところを見るに宇宙人は考え方を改めた。彼らは敵ではない。もしかしたら自分を助けてくれたのかもしれない。
 答えに辿り着いた宇宙人は、申し訳なさそうに"ゴメンナサイ"と謝罪をしたのだった。



「スミマセン。取り乱シテシマイマシタ…」
「……どうせ借金取りみたいな風貌だと思ったんだろう?よく言われるから分かってるよ…」
「……アレ、モシカシテ怖い人デハナイ?」
「風貌はそう見えるだろうが、おれ達は借金取りでもなんでもない。おまえに金銭を貸した覚えも、借りた覚えもないからな」
「ご自分がどうしてここで目を覚ましたか、覚えてらっしゃいますか?」
「ウーン…。白い光ニ襲われカケテ、気絶シタトコロマデハ覚えてイルンデスケド…」



 未だに頭が混乱している宇宙人に、数珠丸が助け出した経緯を話した。突如宇宙船が墜落して来て、建物の端を破壊。落下物の中で倒れていた為、介抱したのだと。
 事の経緯が当人に明らかになるごとに、彼はその白い顔を青ざめた。とんでもないことをしてしまったと自覚したからだった。



「ソ、ソンナ大事ナ場所ヲ破壊シテシマッタダナンテ…!」
「部屋の被害は幸いなかったけれど、壁の修繕費は結構かかりそうね…。これはバーの建設も、今やってる案件も延期の交渉をしなくちゃいけなくなるわ…」
「ヒ、ヒーッ!シュ、修繕費ハイクラクライニナリソウナンデスカ…?」
「ざっと500万くらいはかかるかも…。議事堂の壁、特殊な材料で建ててるから…」
「ゴヒャクマン!」



 ラルゴが発した金額に更に顔を青ざめる宇宙人。彼の反応から、金銭的な物は何もないことが把握できた。
 壁以外の被害はなかった為この金額で済んだが、もし部屋をいくつか破壊してしまった場合は本当に宇宙人として売買されていたかもしれない。青くなるだけでは済まなくなった宇宙人は遂に震え始めた。
 流石にいたたまれなかったのか、大典太が優しく背中をさする。まだどうなるかは分からない、だから売られる心配はするな、と。言葉が悪かったのか、表情が悪かったのか。余計に怯えを生んでしまい大典太はショックを受けた。



「ワ、ワタシヤッパリ売らレテシマウノデショウカ?」
「大典太さん。その言い方ですと本当に借金取りのように聞こえてしまいますよ」
「……すまん。言葉選びを間違えた」
「宇宙人ちゃんを売るなんてはしたない真似はしません!何とか金銭のやりくりを考えてみるから、あんまり落ち込まないで。ね?」
「ア、アリガトウゴザイマス…」
「焦るのは損。右も左も分からないのですから、選択を生き急いではなりませんよ」
「ですが…。不可抗力に城、壊してしまったのは事実。修繕費の一部の負担は免れないでしょうね」
「ハイ…」



 落ち込んでいる宇宙人に向かって前田が思い出したように口にした。そういえば名前を聞いていない、と。
 奇怪な姿をしているが、しっかりと言葉の受け答えは出来ている為名前もあるのだろうと判断しての行動だった。
 前田に名前を聞かれ、宇宙人―――"オービュロン"は、静かに口を開いた。



「ワタシハ"オービュロン"トイイマス。ミナサンカラ見れば"ウチュー人"トイウコトニナルデショウカ?」
「オービュロン殿ですね。覚えました!折角の機会ですし、僕達も今のうちに自己紹介を済ませておきましょう。ね、大典太さん!」
「……そ、そうだな」



 未知なる存在に興味が湧いているのだろうか。前田が大典太を見る表情は生き生きしているように見えた。
 前田の言葉を皮切りに、オービュロンと刀剣男士、そしてラルゴが軽く自己紹介を交わす。彼らが悪人でないことがはっきり分かり、オービュロンは改めて無礼な言葉を吐いた、と頭を下げた。



「コレカラドウシマショウ。わりおサンヲ探さないトイケナイノニ…」
「ワリオ、だと?」
「ふーむ。どこかで聞き覚えのあるような」



 暗い表情を覗かせながら発したオービュロンの言葉に、刀剣男士達は引っかかりを覚えた。
 『ワリオ』。彼の名は聞いたことがある。会ったことがあるかもしれない。彼の名を発していたことから、オービュロンはワリオの関係者なのだろうか。
 詳しく話を聞こうと数珠丸が口を開きかけた瞬間、オービュロンの名を呼ぶ明るい声が入口の方向から聞こえてきた。











































『おーい!オービュロンおじさまー!』

『空から君のUFOが落ちてくるのを見かけたから心配していたんだYO~!』




 一同が声の方向に振り向くと、そこには赤いワンピースを着た金髪の女子。そして、覚めるような青いアフロが特徴的な男性がこちらに向かって走って来ていたのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.43 )
日時: 2022/03/04 22:29
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 オービュロンを取り囲んでいる場所に2人が到着すると、オービュロンの無事を確認し胸を撫でおろした。
 やっと知っている人間に会えたからなのか、オービュロンはカタカタと震えていた。今まさに"これからどうしよう"となっていたところだった。旧知の存在に会えたことの安心感に変わるものはないだろう。



「もなサン。じみーサン」



 モナ、ジミーとそれぞれ呼ばれ、反応を返す。湿布が貼ってあることに驚き説明を求めると、オービュロンは事のあらましを大まかに説明した。
 すると、あからさまに2人の顔つきが変わる。オービュロンの宇宙船について何か心当たりがあるようだった。



「あはは…。それは災難だったね」
「何モナイ平地ニ落ちてクレレバ良かッタノデスガ…。ヨリニモヨッテ建物ノ上ニ落ちてシマイマシタ」
「外からでも分かったYO。建物の端っこがかなり崩れてたんだYO~!」
「お知り合いと再会出来て嬉しいことは承知の上で、申し訳ありません。本日はどんなご用件でこちらに来られたのですか?」



 話の腰を折って悪いが、と枕詞を付け加えた上で数珠丸がやんわりと話を本題に戻す。彼の言葉にモナははっと我に返り、改めてここが"議事堂か"ということを聞いた。
 ラルゴがそうだと答えると、彼女は焦ったような表情を顔に浮かべこう言ったのだった。



「ごめんね勝手に雑談しちゃって!あたしモナ、こちらはジミーさん」
「ジミーだYO~!」
「アタシはこのリレイン城下町の町長をしているラルゴよ!よろしくね♪ それで…。さっき恒次ちゃんが言ってくれてたけど、議事堂に何か御用なのかしら?」
「うん。実はね…。ダイヤモンドシティと、このリレイン城下町って街が繋がっちゃったっぽくて…」
「……えっ?」
「ボク達も混乱しているんだYO!」
「急に眩暈に襲われて、気がついたらこんなことに…」



 そう言って、モナは話を続けた。
 元々ダイヤモンドシティは、"地図のどこにも乗らない街"だった。しかし、白い光のせいで気を失い、次に目覚めたらシティの奥に知らない中性的な街並みが広がっていたのだと。
 そこまで聞いて、鬼丸は引っかかりを覚えた。確認を促すよう口を開く。



「つまり、昨日まであぜ道だった場所が街になっていた。そうおまえ達は言いたいんだな」
「うん。何が何だか理解が出来てなくて…」
「……成程。そういうことか」
「心当たりがあるのかい?!」
「あるにはあるんですけど、なんというか…。何も知らない方々への説明が…とても難しい話になります」
「それでもいい!なんで急にこの街が現れたのか教えて!」



 説明を求めるモナに、前田はこの世界の仕組みについて大まかに教えた。
 この世界は、様々な世界の要素が1つに融合されている。その中に、"他の世界をどんどん吸収し1つにする"摂理のある世界が混ざっているのだと。昨日まで何もなかった場所に、唐突に人工物が建てられたのならば、自分達の世界が"融合"に巻き込まれてしまった可能性が高いと。
 最初は訳が分からない顔で聞いていた3人だったが、言葉を解釈して呑み込んだ結果恐ろしいスピードで納得した表情を見せた。あまりの速さに驚く一同だったが、ダイヤモンドシティは元々"なんでもあり"な側面がある為、こういった現象が起きてもそんなに驚かないとのことだった。



「なるほど…。世界ごと転移しちゃったわけだ」
「ご理解が早くて何よりですが…。悩みは解決いたしましたか?」
「1個はね。もう1個の方が本題。ワリオおじさまのことについてなの」
「わりおサン、ダイヤモンドシティニイルノデスカ?」
「いるにはいるんだけど…。ちょっと大変なことになっているんだYO…」
「その"ワリオ"という人物…。行方不明なのですか?」
「そうなの。あたし達が白い光で気を失うちょっと前から行方不明で。最後にマリオパーティに参加しに行くって街を出ていったのが…二週間前くらいだったかな」



 もう1つの問題…"本題"と称して、モナはワリオのことについて説明を始めた。
 二週間前程からワリオが行方不明だったということ。そして、探している間に白い光で気を失って、気がついたらリレイン城下町と街が繋がっていたこと。
 目を覚ましたらワリオが街に戻ってきていたということ。しかし、戻って来た彼の様子がおかしいということ。
 そこまで話を終えたモナは、真剣な目つきで刀剣男士達の手を掴んだ。



「ワリオおじさまの様子がおかしいの!普通に街に戻って来たならいいんだけど、ワリオおじさまが戻ってきてからダイヤモンドシティの様子も変になっちゃったし…。お願い!あたし達と一緒に街の調査をして!」
「わりおサン、本当ニ戻ってキタノデスネ?!」
「戻って来た…はいいんだけど、本当に様子がおかしくてね…。ボク達も話しかけようとしたんだけど、とてもじゃないけどそんな雰囲気じゃなかったんだYO」
「事情は分かったわ。でも…街の状態を確認してから出ないと調査の協力は出来ない。実はね?このリレイン城下町も、再始動をしたばっかりなのよ。隣町になった…実質合体してしまったのだから、いずれ連携はしていかないといけない。
 だけど…アタシ達が介入する必要はあるのか。それだけは確認させて頂戴?」
「! ありがとう…!」
「……オービュロン。あんたも行きたそうにしているな」
「勿論デスヨ!ダイヤモンドシティハワタシノ"第二ノ故郷"ミタイナモノデス。ソレニ、わりおサンニ文句ノ1ツヤ2ツ、言わナイト気ガ収まりマセン!」
「一応病み上がりの身なんですから、無理をしてはいけませんよ?」
「ワカッテイマス」



 ダイヤモンドシティの様子がおかしい。リレイン城下町とダイヤモンドシティが繋がってしまったことから、問題を放置しておけば城下町にまで被害が及ぶのか。ラルゴはそこを懸念していた。
 自分達の町に被害が及ぶならば協力は惜しまない。しかし、そうではない小さな問題だったのであれば自分達の協力は期待しない方がいいと彼は言った。冷たい言葉に思えたが、再起を図ったばかりの街で、緊急事態に手を差し伸べられる余裕はまだまだ作れていなかった。
 モナの言葉をかみ砕きつつ、鬼丸は大典太にひっそり耳打ちをする。言葉の節々に何かを感じ取っていたようだった。



「大典太。この件……邪神が絡んでいるかもしれん」
「……邪神?」
「あぁ。微かにだが感じる。城下町の向こうだ。―――おれの思い違いであればいいがな」
「あんたの不吉な予感は割と当たるからな…。用心はしておくよ…」
「おい。おれを疫病神扱いするな」
「……そうは言ってないだろ」
「軽口を叩き合うなら別の場所でお願いします」



 些細なことから再び小競り合いを起こしそうになり、数珠丸に会話を中断された。この二振、皮肉を言い合えるくらいに仲は良い筈なのだが、お互いに言葉のコミュニケーションがまだまだ足りなかった。
 数珠丸も鬼丸の耳打ちが聞こえていたようで、もし邪神が関係しているのであれば自分達が協力せねば事態は解決しないと考えていたのだった。
 前田も小狐丸も勿論街の調査に同行する返事をした。その言葉を聞いたモナは、悲しそうな表情から一転笑顔を綻ばせた。



「じゃあ早速行こう!ダイヤモンドシティへはあたしとジミーおじさまが案内するね!」
「よろしくお願いいたします」
「……街が繋がったんだとしたら、互いの町の行き来の方法も確認しなければならんからな」
「お願いね、刀剣男士ちゃん達。もし助けが必要であれば、助けてあげて」
「無論、もとよりそのつもりです!」
「心強いYO!」






 ラルゴに見送られ、一同は議事堂を後にした。
 モナとジミーが先導し、街の外まで案内してもらう。元々野原が広がっていた橋の向こう―――。目線の先に、昨日まではなかったはずの高層ビルが立ち並ぶ景色が見えてきたのだった。
 コネクトワールドが元々持っていた世界の"融合"という摂理。この世界でも起きてしまったのだと彼らは確信した。



「こっちこっち!」



 モナは自分達が来た道を辿る様にして彼らを案内していた。そして、見えていた都会的な街へと一歩、足を踏み入れた。
 ……の、だったが。










「な……」
「街ガ…!」
「なんでしょう、これは…」
「酷いでしょ?あたし達が目を覚ましたらこうなっていたんだ」




 ダイヤモンドシティに入った大典太達が見たものは、ばい菌のような小さな生物が道端の木や花を食い荒らしている惨状だった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.44 )
日時: 2022/03/05 22:03
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

「ナ…何ナンデスカコレ…!」



 オービュロンの震える声がその場に木霊した。当たり前だ。彼はこの街を"第二の故郷"と言っていた。
 そんな場所が、訳の分からない存在に食い荒らされている現状を目の当たりにしてしまったのだ。彼の心情を思うと、悔やみに悔やみきれなかった。
 冷静に状況を紐解こうと数珠丸が口を開く。そんな彼に、苦しい顔を浮かべながらもモナは答えた。



「酷い有様ですね…。どうしてこうなってしまったのでしょう?」
「あたし達が眩暈を起こして気絶したことまでは話したよね?目を覚まして外に出たら…街がこうなっていたの。どう考えてもこんな生物なんてダイヤモンドシティでは見たことが無い。何が起きたんだろうって街の中をうろうろしてたら、ワリオおじさまを見つけたの。
 ―――今お花とか木を食べちゃってるあいつ、ワリオおじさまから出ていたんだ」
「ボクもモナちゃんから電話を受けた時はびっくりしたYO…。ワリオはスゴイ変わったヤツだけど、悪いヤツじゃないんだ。だから最初は信じられなくて…。でも、実際にワリオの姿を見に行った時に確信したんだ。話しかけようとしてもこっちに気付かないんだYO!
 ばい菌に触れたらボク達まで大変なことになりそうだったから、モナちゃんと話し合って橋の向こう……キミ達の言うリレイン城下町ってところまでやって来たんだYO!」
「成程。して、何故議事堂まで辿り着くことが出来たのでしょう?」
「それはあたしが街の人に聞いたの。そしたら、悩みなら議事堂の人が解決してくれるかもしれないって場所を教えてくれたんだ」
「おれ達は便利屋ではない」
「まぁまぁ、落ち着いてください鬼丸殿。街の惨状を見た以上、この街を食い荒らした暁には……橋を渡って城下町まで侵攻してくることは明らかです。結果的に手を差し伸べたことは正解と言えるでしょうな」



 元々ダイヤモンドシティは地図には載っていない街。人慣れしているモナでも、初めて見る街と初めて話す人間には少し躊躇を覚えたらしい。しかし、結果的に協力する選択肢は無駄ではなかったと小狐丸は言った。
 そして、タイミングよくオービュロンを介抱出来ていたことも幸いだったのだろう。彼がいたことによって、モナとジミーは安心して彼らに近付くことが出来たのだから。
 ジミーがそう伝えると、オービュロンは困ったような、照れたような表情を浮かべた。



「それにしても…。得体のしれない物体では、我々にも対処は難しいところではありますね。あれが何か"呪い"の類であれば、僕達にも解決策は思いつくのでしょうけれど…」
「……遠目で見てても何も分からん。近付いて、性質が何かを確認せねばな」
「デスガ、触れタラマズインデスヨネ?命ノ恩人ニ、ソンナ危険ナ真似ハサセラレマセン!デモ…ウーン」
「……どうした?オービュロン」
「アノ…。ばい菌ノヨウナ物体、前ニ見タコトガアルカモシレマセン」
「えっ?おじさま、何か知ってるの?!」



 オービュロンは遠目に草木を食べ続けている物体を凝視していた。彼にはあの物体に違和感を覚えていた。過去に見たことがある物。そうであれば、原因解明に一歩近付けるかもしれないと彼は思っていた。
 そのまま物体をじっと見る。そして、彼は過去の記憶と物体を1つ1つ照らし合わせた。引っかかりを感じているのなら、過去に何かヒントがある筈だ。
 ―――しばらく見続けていた矢先、オービュロンの脳裏にとある思い出が浮かぶ。……そういえば、あの事件の際に似たような形の物を見た、ような。



「アレ、モシカシテ―――」



 彼が違和感の正体を口にしようとした瞬間だった。
 道路の向こうから、こちらに猛スピードで近付いている人影が見えた。自分達を襲うつもりなのかと鬼丸は刀の柄に手を伸ばすも、大典太に止められた。斬りかかった結果、もし関係ない人間を傷付けてしまったら意味がない、と。
 音の方向に顔を向けてみると、近づいてきていた影の正体がはっきりと見える位置まで近付いてきていた。黄色いヘルメットを被った少年の姿だった。猛スピードで近付いてきていたのは、スケートボードに乗ってこちらに駆け抜けていたからだった。
 少年は大典太達の近くでボードにブレーキをかけ、下りて一同の元まで駆けてきた。その表情は焦っていた。



「みんな!ボクちん分かったんだよ!あの変な奴の正体!"バグ"だよ、"バグ"!」
「バグ……ハッ。ないんぼるとサン、ヤハリソウナノデスネ?!」
「え~っ。オービュロンに先越されてたのか~。ボクちん一番だと思ったんだけどな~」
「一番、二番ヲ考えてイル場合デハアリマセンヨ!もなサン、じみーサン、以前げーむノ中ニ吸い込まれタ事件ガアリマシタヨネ?覚えてイマスカ?」
「ゲーム…?確かにバグ退治はみんなでやったけど……。―――あーっ!!」
「確かに形が似ているYO!」
「皆さん、覚えがあるのですか?!」



 ナインボルトとオービュロンの言葉を受け、モナとジミーも自分の中の記憶を漁り始めた。そして、2人共ハッとした表情で気付く。確かにあのばい菌のような物体、以前ゲームの中で倒した経験があることに。
 同時に前田が確認を促す。全員が覚えているのならば、何か手がかりがあるかもしれない、と。問われたモナは素直に答えた。



「前にね、ワリオカンパニーのみんなで作ったゲームがあるんだけど…それがバグを起こしちゃって、みんなゲームの中に吸い込まれたの。それで、倒したバグがあの街を食べちゃってるヤツと似てる…ううん、瓜二つなんだよ!」
「瓜二つ…ですか?」
「ねぇ。そういえばこの人達…誰?ダイヤモンドシティって地図に載ってない街だったはずだよね?」
「その筈なんだけど…。ボクもいまいち理解が追いついてないんだYO~。そもそも、この街何でもありだから納得はしてるけどね!彼らは橋を超えた向こうの街に住んでいる人達さ!
 今回のバグ事件に協力してくれる人達なんだYO!」
「あ、協力者なんだ。町中にこのバグ増えちゃってるし、人手は多い方がいいよね…。あ、ボクちんナインボルト!ニンテンドーのゲームが大好きな小学生だよ!」



 ナインボルトに事の顛末を説明すると、彼は納得したように頷いた。大典太はそんな彼を見て、本当にこの街は何でもありなのだということを再び認識したのだった。
 ジミーの話を聞いていたナインボルトは、良いことを思いついたようにはっとした表情になる。そして、大典太達に向かってこう言い放った。



「そうだ!これからボクちんの家に来ない?色々話すにも、建物の中の方が安全だからさ!」
「よろしいのですか?」
「うん!おかあさんもこういうの慣れてるし、隣町の人だって説明したら納得してくれるよ!それに町中がバグだらけで、外で話をしてたらいつ襲われてもおかしくないし。
 ゲームの中ならバグ退治し放題なんだけどな~。今は現実だもんね」
「……確かに一理あるな。なら…頼めるか」
「うん。任せてよ!」




 ナインボルトの妙案に大典太は乗ることにした。確かに建物は現在食い荒らされておらず、バグが浸食しているのはあくまでも街にある草花や木だけだった。建物が被害に遭うとしても、今ではない。ならば、彼の提案に乗ってもいいのではないかと結論を出した。
 彼の答えを聞くと、ナインボルトは嬉しそうに家の方向を指さした。スケートボードを脇に抱え、一同を案内するように先導する。
 一同も、それに従ってナインボルトの家まで向かっていくのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.45 )
日時: 2022/03/06 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ナインボルトが自宅の扉を開くと、中から彼の名前を呼ぶ優しい声が聞こえてきた。
 今の方向からひょっこりと顔を出した茶髪の女性、彼女がナインボルトの母親なのだろう。ナインボルトは早速彼女の元へと駆けていき、現状を説明し始めた。



「おかあさん!街に出た奴らの解決に協力してくれるって人達がダイヤモンドシティまで来たんだ!外にいたら危険だし、しばらく家に入れてもいい?」
「あら、そうなの?ワリオちゃんもあんなになってしまったし…。街の為に協力してくれるなら良いわよ。ほら、上がって!」
「ありがとうございます、ナインボルト殿のお母上」
「そんなかしこまらなくていいわよ!わたしはファイブワット。ナインボルトのおかあさんよ♪ ほら、モナちゃんもジミーちゃんも上がって!」
「おじゃましまーす!」



 ナインボルトの話を受けて、ファイブワットは納得したのか快く玄関にいる一同を部屋まで案内した。
 彼女も街の異変について息子から聞いて、実際に変わり果てたワリオを確認している。その為、街に蔓延った物体の解決に協力してくれる人達なら"悪い人間ではない"と判断したのだろう。
 案内に従いリビングへと足を踏み入れると、そこには確かにゲーム機らしきものが並べられている。堂々と置いていることから、母親も相当なゲーマーなのだろうと一同は確信した。
 狭い家だけどくつろいでいってね、と一同をソファーに導いた後、ファイブワットは飲み物を取りにキッチンまで姿を消した。

 一同が椅子に腰を下ろした後、ナインボルトが早速街に蔓延るバグについて話を始めたのだった。



「さっきモナの話でもあったけど、ボクちん達が開発してた新作ゲームに吸い込まれたことがあってさ。ワリオのせいでゲームの中にバグが大量発生しちゃって。
 それをみんなで協力して退治したんだけど、今街の中で暴れてる奴もその『バグ』と同じ形をしてたんだよ!」
「退治出来たらいいんだけど、ここはゲームの中じゃないしなぁ…。あたしのブーメランも家に置いてきてるし、そもそもブーメランが通用するか分からないし…」
「わりおサンヲ何トカ出来レバイイノデスガ、近づけナイトお話ニナリマセンヨネ…」
「うん。それに、あのワリオもゲームの中で見たことがある奴だった。一番最後に倒した厄介な大バグがワリオに憑りついていた時と同じ姿をしてた!」



 3人の話をまとめるとこうだ。現在ワリオが『バグ』を現実世界にばら撒いており、そのせいでダイヤモンドシティがバグに浸食されている。その"バグ"自体は元々はゲームの中の存在であり、彼らは以前今暴れている存在と同じものを退治したことがあった。
 しかし、ここは現実世界である為ゲームで出来ていたことが出来ないのは当たり前である。そもそも、そんな危険な場所に一般人を巻き込むわけにはいかない。話を聞いて、刀剣男士達はそう結論付けていた。



「うーん…。ありとあらゆる世界が1つに融合している以上、通常ではあり得ない現象が起きるのも考えられる話ではありますが…」
「ボクも未だに信じられないと思ってるけど…。地図に載らない街が地図に載っちゃってるから信じるしかないんだYO」
「その『融合』ってやつのせいでバグも出てきちゃったのかな?」
「それとこれとは別問題ではないでしょうか。……しかし、げえむの中の存在であれば…。何か別の対策を取らねば解決に導くことが不可能であることは事実、ですな」
「ワリオちゃんが大変なことになってるのは、街の人大体が知ってるわ。だから、今は殆ど建物の中に避難しているの。触ったら危ないのはみんな分かっているから」



 一同の話に混じるようにファイブワットが飲み物を持って戻って来た。ここまで来て大分時間が過ぎていた為、乾いた喉に飲み物の有難さが身に染みる。
 それと同時に、彼女はスマホを取り出し撮った写真を見せた。ワリオが自宅の近くを徘徊した際、証拠を残しておけるようにと画像に残していたのだ。
 確認してみると、そこには確かに黄金に光った巨大なワリオの姿がある。像のようにおかしな体型を取っており、宙に浮いている為そこにいる誰しもが"普通ではない"と判断していた。彼からバグがまき散らされており、口が触れた場所が真っ黒になっているのも改めて確認が出来た。



「このままこいつを放置しておけば、建物を喰い始めるのも時間の問題だな。そしてこの街を食い荒らした後は…」
「橋を伝ってリレイン王国にも侵攻してくるでしょう。街が消滅してしまう前に何とかせねばなりません」
「……しかし、この黄金のワリオの現状を確認できなければ行動が起こせん」



 大典太はそこまで言って、考える仕草をした。ワリオを確認しに行かねばならないが、物の付喪神である自分達がバグに襲われないかと一瞬頭によぎったのだ。
 しかし、そうだからと言って彼らに行かせるのは良心が許さなかった。例え自分よりもこの街を知っていたとしても、得体の知れない存在に、普通の人間を巻き込むわけには行かなかった。
 ―――しばらく考えて、大典太は決断をした。"やはり確認をせねばならない。近付く必要がある"と。



「……あのワリオが今どこにいるか分かるか?」
「えっ?町中を徘徊してるから、多分海の方だと思うけど…。もしかして見に行くの?!危ないよ!」
「……だが、現状の被害やあいつがどうなっているか…実際に確認が出来ないと何も対策が取れない。それに……あんたが撮った写真からどれだけ被害が拡大しているか。速度が大きければ大きいほど、迅速に動かねばならない」
「大典太さん。僕も確認することは賛成ですが、僕達は街の右も左もわかりません。海の方向、と言っても素直に行けるわけではないでしょうに」
「……あくまで現状の確認だ。こちらにまで被害が及ぶ前に撤退する。対策も無しに、鉄砲玉みたいに突っ込むのは俺の性分じゃないんでな…」
「でも、この街広いから…。あなた達だけで大丈夫なのかしら?」



 状況確認がしたいから、ワリオがいる場所を教えてくれと大典太は頼んだ。しかし、モナに止められる。
 確かに彼女や前田の言う通り、街を把握していない上での行動は危険極まりない行動だった。だが、ここで動かねば何も分からない。じっと待っていても、ダイヤモンドシティが壊れていくのを見守ることしか出来ない。
 "動けるのに、何もしない" それが如何に許せない事かは、大典太の中で分かり切っていたことだった。
 あくまで確認、という言葉を強くして彼らを説得する。―――話が平行線を辿る中、ジミーが静かに声を上げた。



「状況確認、だったよね?なら…ボクがワリオのいる場所まで案内するYO」
「ジミーおじさま?!」
「前田クンの言う通り、君達だけじゃワリオを見つけられるか心配だ。でも…モナちゃんやナインボルトクンに案内を任せる訳には行かないじゃないか!確認だけなら大勢でぞろぞろ行かなくても良いだろう?なら、ここはボクに任せるんだYO!
 クールなダンスで油断を誘えるかもしれないからね!」
「案内の申し出は有難いのですが…。恐らく危険な任務になります。我々も少人数で確認に向かった方が良いでしょうね」
「……言い出しっぺが動かない訳にはいかないだろう。俺が行ってくる。あんた達はここで『おれも行く』 …………」
「おまえだけじゃ心配だからな。おれも行く」
「……見つけても斬るなよ。あんたが一番心配だ…」



 話し合いの結果、大典太と鬼丸がワリオの確認に。そして、ジミーがその案内を買って出ることになった。こちらに危険が生じたらすぐに戻ってくる。そして、ジミーの護衛が最優先だという条件をつけて向かうことになった。
 もし大典太の思惑通り、ワリオがまき散らしているバグの浸食のスピードが高かった場合…。ことを急がねば被害が拡大してしまう。これ以上話をしている暇はなかった。
 早速現場へ向かおうと玄関まで向かう一同についてくる白い影があった。



「……あんたは病み上がりなんだ。休んでいろよ」
「イイエ、ワタシモ行かせてクダサイ!わりおかんぱにーノ一員トシテ、事態ハ自分ノ目デ判断セネバナリマセン!病み上がりデモ関係アリマセン!」
「……そうか。俺の肩に乗っていろ。あんたの歩幅じゃ確実に遅れる」
「面目アリマセン…。デスガ、じみーサンノ言う通り、もなサンやないんぼるとサンニハ危ない目ニ遭ってホシクハナイノデス」
「……俺にとってはあんたも子供みたいに見えるがな」
「ワタシハ大人デス!今年デ2022歳デスヨ!」
「……俺よりも年上…?」
「ソンナニ驚かナイデクダサイ。傷ツキマス」
「……すまん」




 オービュロンが大典太の肩に座ったのを確認した後、先行して玄関から飛び出したジミーと鬼丸を追って大典太も走り始めた。
 ワリオがいるのは海の方向。まだ移動していないことを祈りながら、大典太達は現場へと急いだのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.46 )
日時: 2022/03/07 22:04
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 声の漂う波間まで。ダイヤモンドシティの海辺はそう呼ばれている。
 その近辺までやって来た一同は、警戒しながらワリオの元まで足を進めていた。ジミー曰く、"一定時間である程度の場所を徘徊している"らしく、今の時間ならほぼ確実に海の方向にいる筈だと彼らに話をしていた。
 都会の景色が少しずつ小さくなり、心地よい潮風が吹き抜けてくる。もうすぐ海が見える。こんな状況でなければ、少しは気分が和らぐのだろうか。オービュロンを肩に乗せながら、大典太は無言で鬼丸の後をついて行った。



「……随分と端の方に進んでいるんだな」
「浮いていたけど、何だか足取りがふらふらしていたんだYO。多分、ワリオは正気じゃない気がするんだZE」
「不愉快な気配が近い。そろそろ見えるだろ」
「わりおサン…大丈夫ナンデショウカ」



 そのまま小道を歩いていると、木陰の向こうに巨大な影が見えた。尚も進もうとするジミーを一旦止め、近くにある建物の蔭へと身を潜める。木々はバグが食い荒らしており、身を隠すには危険すぎると判断した為だった。
 陰から見えたものをじっと確認する。見せてもらった写真よりも数倍大きな金色の物体が目に入って来た。間違いない、あれがワリオだと判別するのにそう時間はかからなかった。
 話の通り、ワリオは訳の分からない言葉を発しながら身体からバグをまき散らしている。地面に落とされたバグは、浸食するものを求め道端へと這い寄って行った。
 まだ幸いなのは、ワリオの徘徊するスピードが比較的遅いということだった。しかし、既にバグは町中にばら撒かれてしまっている。このまま放置してしまえば明日には街の半分が真っ黒になってしまうだろうと大典太は判断していた。



「わりおサン…見ないウチニトンデモナイ姿ニナッテシマッテマス…」
「こんなワリオ、ゲームの中でしか見たことないYO!本当に何があったんだ」
「………チッ」
「…………」



 痛々しいワリオの姿を見て落ち込むオービュロンとジミーを横目に、大典太と鬼丸は揃って眉をしかめていた。
 ワリオから感じる霊力が覚えのあるものだったことに気付いたからだった。鬼丸が思わず舌打ちをすると、大典太は呆れたようにため息を吐いた。そんな彼の反応も気に入らなかったのか、鬼丸は大典太に刺々しい言葉を返す。



「邪神ならさっさと斬ればいい話じゃないか」
「……あいつ自身が邪神じゃない。斬ろうとするなよ…」
「アノ…。何カ分かったンデスカ?」
「……あぁ。ワリオは悪い霊に身体を乗っ取られている。―――邪神は一体何をしたいんだ…」
「エッ」
「ワリオは不死身なんだYO!それを利用したってのかい…?」
「そこまでは知らん。だが、あの男が悪霊に狙われて何かされたのは確定した。……おれ達刀剣男士だけでは飽き足らず、人間にも邪気を注いでいるのかあいつは」
「刀剣男士、ダケデハナイ?モシカシテ、わりおサンヲアンナ風ニシタ犯人ヲ知ってイルノデスカ?」
「……知ってるよ。散々世話にもなってる。……俺達は、今ワリオをこんな風にした奴の足取りを追っているんだ」
「そうだったのか…」



 ワリオから発せられていたバグ、そして霊力の正体。アンラの霊力と殆ど同じものだった。つまり、ワリオがこんなことになってしまった原因はアンラだったのだ。刀剣男士だけではなく、人間にまで被害が及んでいることに憤慨し再び鬼丸は舌打ちをした。そんな彼を宥めながら、大典太は自分の推測を2人に話した。アンラが絡んでいるのであれば、自分達が協力できるということも。



「……呪詛を受けているのであれば、あいつから呪詛を取り除けば『ばぐ』とやらも解決できそうだ。一々ばぐ退治とやらをしなくても済む」
「おれも、以前あいつと同じような呪いをこの身に受けていたことがある。……だが、おれとあいつは違う存在だ。不死身だとはいえ人間だろう。呪詛が回り切る速度は天と地の差だと思うがな」
「ってことは、ワリオがバグをまき散らすスピードが遅くても…早くワリオを元に戻さなきゃ危ないってことだよね?ど、どうすればワリオを元に戻せるんだい?!」
「……慌てないでくれ。原因が分かったなら対処のしようもある」



 ワリオの身が危ないと気付いたジミーは途端に焦り始めた。彼とワリオは幼馴染の間柄だ。心配するのも当然だろう。
 大典太はそんな彼を落ち着かせるように諭す。そして、彼を助ける為持論を一同に話し始めたのだった。



「……恐らく悪霊はワリオの自我も暴走させて失わせている可能性が高い。動いていないのなら俺の霊力だけでも何とかなるが、暴れているのであれば……あいつ自身の"心"を取り戻させる必要がある。
 無理やり邪気だけを剥がしても、そいつの自我が正しく戻らねば意味がない」
「ツマリ、わりおサンヲ元ニ戻した上デ悪霊退治ヲ行えバ、ばぐモミンナ消える、トイウコトデスネ!」
「悪霊を取り除くのはキミ達にお願いするとして…。ワリオを正気に戻すのならば任せてくれ!カンパニー総出で考えれば、案の1つや2つ出てくるさ!今までだってそうしてゲームを開発してきたからね!」
「餅は餅屋、か。……なら、さっさとそのかんぱにーの仲間とやらを呼んだ方がいいんじゃないのか」
「勿論さ!オービュロンクン、モナちゃんに電話するからそこ見張っててYO~!」
「合点承知ノ助デス!」



 恐らくやり方はおそ松と一緒だと大典太は確信していた。ワリオ自身の心を目覚めさせ、彼を正気に戻す。そして、悪霊が彼の中から出ていったところを大典太の霊力で潰してしまえばいい。
 おそ松の時は丁度兄弟が近くにいたから彼らに頼んだ。同じように辿るならば―――。目の前のワリオカンパニーの面々に頼んだ方が良いのは百も承知だった。


 解決方法はみんなで考えればすぐに分かる、とジミーは早速モナに電話をした。モナからカンパニーの仲間全員に手分けして連絡をする寸断だった。待ち合わせは勿論、彼らのゲーム開発拠点である"ワリオカンパニー"である。
 彼が電話をしている間に、オービュロンは大典太と鬼丸にカンパニーの場所を教えていた。先程バグワリオを見たら、もうすぐ移動を始める動きをしていたから建物の中に行った方がいい、と。ならばカンパニーで合流し、ワリオ救出作戦を考えようと考えていたのだった。
 オービュロンから場所を聞いた後、ジミーの連絡が終わるまでの間大典太と鬼丸は考えを共有することにした。



「もしかしたら、被害が及んでいるのはあいつだけじゃないのかもな」
「……そうだな。俺達の知り得ない場所―――。最悪、融合を逃れた世界にまで手が伸びているかもしれん」
「そこまでの話じゃない。そこまで考えたらきりがないだろうが」
「……いひゃい。頬をつねるな」
「良い目覚ましにはなったろ。おまえは唯でさえ陰気なんだからな」
「……あんたも陰気の癖に」
「おまえよりは陽気だ」
「どうだかな…」
「喧嘩ハ駄目デスヨ!メッ!」
「……喧嘩じゃない。軽口を叩き合っているだけだ」
「エッ」



 鬼丸が気が晴れたとでもいうようにつねっていた大典太の頬から指を話す。それと同時に、大典太達を呼ぶジミーの声が聞こえた。どうやら全員に連絡が終わったらしい。
 ワリオの方向を向いてみると、彼が方向転換をしているのが分かった。今は見つかっていないが、近付かれたら気付かれる恐れがある。一刻も早くこの場から退散しなければならない状況だった。



「みんなカンパニーに来るように連絡してあるYO!ボク達も急ごう!」




 ジミーの声を合図に、一同はワリオカンパニーへの移動を始めたのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.47 )
日時: 2022/03/08 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 大きなWのマークが目立つ倉庫のような会社。そこがワリオカンパニーだった。人気ゲームを次々と世に送り出している割には小ぢんまりとした会社だと二振は思うものの、恐らく既に集まっているカンパニーの社員がいる筈だと気持ちを切り替える。
 ジミーの案内に従い、一同は会社の中へと突入する。そこには彼らの思惑通り、既に何人かの人影があった。その中にいた黒髪の青年がこちらに気付き、挨拶をしてきた。



「オッス!ジミーさん、ワリオさんが大変だということで来ました!」
「クリケットクン!ありがとう!みんなも!」
「事情はぜーんぶモナはんから聞いてます。ワリオはん元に戻す為、わてらも協力いたしまっせ!」
「何が起こったかは知らへんが、わしらの全力見せたるで」



 オービュロンも大典太の肩から飛び降り、一同に合流する。二振は彼らの邪魔にならないように空いているスペースへと移動した。
 歩いている間、見たことのない人を中に入れていると一部の社員がこちらをじっと見つめている。ただでさえ高身長、片方は陰気な雰囲気を纏っており、もう片方は鬼の角を生やしている。これでは不思議がられても仕方がない。
 いたたまれなかったのか、鬼丸は大典太の影に隠れるようにして姿を隠した。だが、大典太からしてみれば全くもって隠れられていなかった。小さくため息を漏らすと、鬼丸は何故か不貞腐れた。



「隠れてナクテモ大丈夫デスヨ!皆サン良い人達デスカラ!」
「……まぁ、普段来ない奴が来れば奇異の目で見られることは分かっているが。あまり人混みは得意じゃないんだ…俺も、鬼丸も」
「チョットイレバ皆慣レマス!わりおかんぱにーノ面々はドンナ不思議ナ事モ慣れっコデスノデ!」
「それはそれでどうなんだ」



 こちらにてくてくと歩いてきたオービュロンと話をしている矢先、入口から駆けてくる姿が見て取れた。ナインボルトの家に待機していたモナ達が会社に到着したのだった。勿論、連絡を受けて数珠丸達も彼らと一緒に行動している。
 モナ達社員はカンパニーの面々に挨拶へ。刀剣男士は一同に軽く頭を下げた後、大典太と鬼丸に合流した。



「お待たせして申し訳ありません。ワリオ殿がおかしくなった原因が、邪神にあることも把握いたしております」
「我々だけではないのが辛いところですね…。世界中に分身をばら撒いている…ということは、彼の他にも被害者がいるのかもしれません」
「……俺も考えたが、鬼丸に"きりがない"と止められてな。今は目の前の問題を解決する方が先、だと…。だが、俺達が異世界に飛ばされている間にこんなことになっていようとは…」
「見えないものまで止められるわけがないだろう。まずは目に見えている邪気を取り除く。それでいいだろ」
「鬼丸殿の真っすぐな物言いに今は助けられますね。可能性はありますが、まずはワリオ殿です」



 お互いに状況を整理し終わった後、ファイブワットが人数を確認し始めた。今いるカンパニーの人数を数え、ワリオを除いた社員の数と照らし合わせる。彼女は暫く唸った後、まだ来ていないであろう人物の名前を挙げた。
 来ていないのは3人。クライゴア一家がまだ到着していなかった。



「後はクライゴアさん達だけね」
「彼らの事です。何か準備をしているんじゃないですか?」
「それにちてもおそいよ!なにやってるんだろうね、アナ?」
「ワリオはこわいけど…あたち、まちがこわれるのはもっとこわい!」



 とにかく、ワリオ以外の社員が揃わないと作戦も立てられない。先ずは彼らの到着を待つことにした。
 彼らの指示に従い、刀剣男士達もカンパニーの中で待機させてもらうことになった。そんな矢先、大典太の腰辺りが小さく震動した。ポケットに仕舞ってあったスマートフォンが震えていたのだ。
 早速取り出し通信を確認する。ビデオ電話のボタンに触れると、そこに現れたのは主であるサクヤの姿だった。



『急にご連絡申し訳ありません。大変なことになっているようですね』
「……あぁ。実は…」
『ご報告はなさらなくても大丈夫ですよ。そのスマートフォンから大体の事情は把握しておりますので』
「おれ達の行動が筒抜けということか」
「……そうなのか?主」
『そういう意味ではありません。光世さんに渡したそれは、いわばゼウス様の力の残骸と言えるべきものです。スマートフォンの形状をしているだけで、実質的には神の力を持ち歩いているようなものです』
「主君。我々はこれからワリオ殿をお助けする為、街の皆さんに協力する予定です。町長殿にもそうお伝えいただければと思います」
『はい。承知いたしました。それと…ラルゴさんから伝言を預かっています。
 "出来るだけワリオカンパニーの皆さんに恩を売っておけ"だそうです。今後の交渉に有利になるとか仰っていましたが…何なんでしょうか?』
「ちゃっかりしていますな、あの町長…」
「長なんてみんなそんなもんだろうが」
「まぁまぁ…。恩を売る売らない関係なく、この街の方々とは僕も仲良くしたいですし。それに…。リレイン城下町と地続きになってしまったこともありますし、事件が解決したら協定の流れに入るのは間違いないでしょうからね」
「……前田も言ったが、俺達も出来る限り力を貸す。あいつが狂ったのが邪神のせいだということが分かったんだからな…。対処を早くせねば、ワリオ共々この街が崩れ去ることになる」
『その回答を聞けて安心いたしました』



 サクヤの安心したような声を聴いた一同。そして、彼女はワリオの現状について改めて説明を始めた。
 ワリオの現在の状況はあまり芳しいものではないということ。そして、刀剣男士とカンパニーの社員、双方が連携し協力しなければワリオは戻ってこないだろうということを。
 主から現状を聞いた大典太は、一刻も早くワリオの邪気を取り除くために動かねばならないと気持ちを改めたのだった。



『皆さん、頼みましたよ。吉報をお待ちしております』
「はい。期待して待っていてくださいね、主君!」



 前田の返事を最後に、サクヤからの通信が途切れた。スマートフォンには黒い画面しか映っていない。
 大典太は再びズボンのポケットにスマホを仕舞い直し、社員の方に向き直る。タイミングを見計らったようにモナが話しかけてきた。彼らが連絡を取り終えるのを待っていたらしい。



「連絡終わった?」
「……すまない。今しがた終わったところだ。そちらは全員揃ったのか?」
「大丈夫デス!デモ…くらいごあサンハマダ到着シテイマセンネ」
「遅いわね…。何してんのよあいつ。クリケットさまを待たせないで!」
「きっと何か大掛かりな仕掛けを持ってくるたい!もうちょっと待つとよ!」
「では、改めまして。我々刀剣男士は、ワリオカンパニー社員の皆様と協定を結ぶことを約束します。双方の力を合わせて、必ずワリオ殿を救出いたしましょう」
「わーい!みんなが手を貸してくれるなら百人力だね!だって刀持ってるんだもん!カットやアナみたいに強いんでしょ?」
「ほんとうだ!あたちたちおそろいだね!」
「あたちもがんばる!いっちょにがんばろうね、おさむらいさん!」
「お侍さん…。まぁ間違ってはいませんね」



 数珠丸が改めてカンパニーの社員と協力することを口にすると、彼らは各々喜びの表情を見せた。結果的には自分達が世話になっている街の為とはいえ、彼らの悲しむ表情は見たくない。それが彼らの最終的な答えだった。
 お互いに握手を交わし、クライゴアと呼ばれる人物達を待つ。しばらくしないうちに、遂に入口から走ってくる足音が聞こえたのだった。









『遅れてすまない!色々事件解決の為の荷物を持ってきていたら遅くなってしまった!』
「……おそい」



 待ちくたびれたのか、現れた人影を見てアシュリーが舌打ちをする。そんな彼女をレッドは必死に宥めていた。
 現れたのは、黄色い全身スーツのようなものを身に着けている老人。そして三つ編みが特徴的な少女と真っ青なロボットの2人と1体だった。彼らが各々反応を見せている当たり、彼が名前を出していた"クライゴア"なのだろう。


 時間はかかったが、ようやくワリオ以外のカンパニー社員全員が揃った。ここから、ワリオ救出の為の第一歩が幕を開けるのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.48 )
日時: 2022/03/09 22:10
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

「クライゴアおじさまったら遅かったね!何か準備していたの?」
「遅れたことに関しては本当にすまない。こいつを運んでいたら遅くなってしまってね」



 一部の懐疑的な目に頭を下げつつ、クライゴアは合流に遅れた理由を説明し始めた。ジミーから連絡を貰った際、もしかしたら自分の発明品が事件解決に役立つのではないかとトランクに詰めてから会社に向かっていたのだった。
 クライゴアはマイクとペニーに、転がしてきた大きなトランクの中身を開けるように指示した。2人がトランクの中を開けると、そこには掃除用具のような道具が相当数入っていた。
 何故に掃除用具なのか。疑問に思ったスピッツが口を開いた。



「何や?これ。掃除用具みたいに見えるんやけど…」
「ご明察ですよスピッツさん!こんなこともあろうかと、実はおじいちゃんと開発を進めていた物がありまして。つい先程完成したのでトランクに詰めて持ってきたんですよ!
 名付けて……『お掃除ピカピカロボット』です!」



 そう言って、ペニーはトランクの中からモップのような道具を取り出した。
 ペニー曰く、この道具は発明品自体に特殊な加工を施しており、この道具群から水を噴射することが出来るという代物らしい。噴射する水には特殊な電気を纏った状態の為、水がバグに触れた瞬間に水と電気に分解して消滅する仕組みだと彼女は説明した。
 あまりにも現実離れした説明についていけない刀剣男士をよそに、ワリオカンパニーの社員は"いつものこと"とクライゴアの発明品を興味深そうに見ていたのだった。



「この発明品を使い、街のバグ退治を始めよう。そして、全方向からワリオクンに近付き噴射だ!その隙を狙って彼らにワリオクンの呪いを解いてもらうという寸法だぞ!」
「……何かしら攻撃を受ければ、あいつに取り憑いている邪気自体が外に飛び出る。その隙に、俺の霊力で消滅させればいいということだな」
「おそ松殿を助けた時と一緒ですね!」



 大典太は前田の発言を受け、確かにそうだと頭の中でおそ松の事件を思い出す。
 彼の邪気を弟達と協力して取り除いた時も、おそ松の正気を取り戻してからカラ松が憑りついていた元凶を殴って消滅させた。クライゴアの言っている"作戦"も、結論からしてしまえば同じようなものだ。
 だとするなら。今のワリオは空中に浮かんでいる為、浮遊することが出来ない大典太では霊力をぶつけることは難しい。空襲が必要不可欠だと結論をつけ、オービュロンの方に向き直った。



「……おい、あんた」
「何デショウカ?」
「……ワリオは浮かんでいる。仮にあいつらがワリオと邪気を切り離したとして、俺は空中に待機が出来ない。あんた、宇宙人なんだろう?なら浮遊とか出来るんじゃないか?」
「確かニ最近会得シマシタガ…。ワタシニ何カヤッテホシイコトガアルノデショウカ?」
「……このお守りをあんたに渡す。投げれば、俺が触れた時と同じようになるだろうな」



 大典太はそう言って、自らの霊力で小さなお守りを作りオービュロンに渡した。そして、空中浮遊が出来る彼に邪気に向かって投げてほしいと頼んだのだった。
 オービュロンはいきなり責任重大な頼みごとをされ、無意識に震えている。クライゴアの言葉からも、一番大事な仕事。失敗すれば、二度とワリオは戻ってこないことを意味していた。
 だが、大典太は真っすぐとオービュロンを見ていた。彼にだから出来ることと信頼して、このお守りを自分に渡してきたのだ。彼なりの気持ちの表れに、オービュロンは無下に返事を返す訳にはいかなかった。
 それに、大典太達には命を助けられた恩もあった。右も左も分からず、自分のせいで建物が一部壊れてしまったのに優しく接してくれたのだ。彼らの頼みを断るような理由は、既にオービュロンの中からは消え去っていた。



「―――ワカリマシタ。最大限ノ努力ヲシマス」
「……そうか。そう言ってくれて助かる。ありがとう」
「呪詛の解呪の方針も決まったようですので、我々も『お掃除ぴかぴかろぼっと』を借りて共にばぐ退治の協力をいたしましょう」
「既にバグは町中にあります。人手は多い方がいいですもんね!」
「あ。そのことなんだけど…。ボクからキミ達に、別に頼みたいことがあるんだYO」



 ワリオ救出作戦の方針が決まり、各々好きなお掃除グッズを手に取り気合を入れている。そんな様子を見守りながら、数珠丸達も彼らに加勢してバグ退治をしようという結論になった。
 しかし、ジミーがその決定に待ったをかけた。どうしても彼らに頼みたいことがある、とそのまま彼は言葉を続けた。



「頼みごと?なんだ」
「皆には言えないからこっそり伝えるYO。実は……」



 鬼丸、数珠丸、小狐丸に小さな声で耳打ちをする。何を言っているのかは周りには全く聞こえなかった為、本当に聞かれたくない内容なのだろう。
 彼の言葉を受けた一同は、しばし沈黙した後に一度頷いた。彼の考えが理解できたという証拠だった。



「……奇をてらうということであれば、お力添えいたしましょう」
「地図も何もないですが、場所を記憶しておかねばなりませんね」
「そんなに遠くない場所だった。三振もいれば迷うことはないだろ。最悪霊力を辿ればいい」
「鬼丸殿…」
「ありがとう!用事が終わったら会社に戻っててほしいんだYO!いくら戦える人達とはいえど、あまり傷付くような姿は見たくないからね!」
「お心遣い感謝いたします」



 大典太はオービュロンに説明を続けていた為、向こうでジミー達が何を話しているのかまでは聞き取れなかった。しかし、彼らのことだ。必ず成功させてくれるという確信が大典太の中にはあった。
 前田は大典太のサポートをする為に、彼と共に行動をする決意を固めた。



「さぁ、ワリオおじさま救出大作戦!みんなが充分散らばったタイミングでスタートだよ!」
「師匠!修行の成果をここで見せてやります!見ててくださいね!」
「ワリオなんか助ける義理も無いけど、借りを作っておくことには越したことはないわね!後でおやつを寄越しなさいって言えるもの!」
「……いつものイライラ ここで発散できるかしら…」
「アシュリーちゃん、これは鬱憤を発散する作業じゃないからね…?」
「とにかく!まずはワリオに気付かれる前に街に散らばろう!街の端っこに駐車場があるから、そこに追い込むようにバグ退治をすればいいんだよね?よーし、ゲームで鍛えた射撃の腕、見せてやるー!」
「オレっちも気合入って来たばい!」
「それじゃ、一旦会社から退散するYO~!後はよろしくね、オービュロンクン!」
「オマカセクダサイ!皆サン、イッテラッシャ~イ!」




 ジミーの声を皮切りに、オービュロン、大典太、前田以外の全員が会社から次々に姿を消した。皆、ワリオを救う為全霊をかけて動いている。数珠丸達も彼らが出たタイミングを捉え、ジミーの頼み事を完遂させる為行動を開始したのだった。
 そんな彼らの背中を見て、オービュロンも覚悟を決める。"ワリオを助ける" 必ずやり遂げて見せる、と。