二次創作小説(新・総合)
- Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.49 )
- 日時: 2022/03/10 23:12
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
『みんな、準備はいいかーい?!』
ジミーの声がカンパニーの社員に伝わる。彼の声が作戦開始の合図だった。
『それじゃ……行くYO!!!』
待ってましたと言わんばかりに散らばっていた社員が行動を開始する。近くにいたバグに容赦なくお掃除ピカピカロボットの水による一撃を浴びせ始めた。
クライゴアの説明通り、水がかかったバグは一瞬にして光の粒となって消える。それと同時に、食い荒らされて真っ黒になっていた場所が元に戻るのが分かった。バグを倒せば町は元通りになる。信じていたものが現実となったことに彼らは計り知れない喜びを感じていた。
「ばっちりですね!予想通りです!この調子でバグ退治を続けましょう!」
「おじさまを取り囲むのも忘れちゃ駄目だからねー!」
「どんどん行こうYO!」
ワリオカンパニーの尽力によって、少しずつ街が元通りになっていく。黒く染まっていた場所が、色づいて行く。"お掃除"と称したのはあながち間違いでもないのかもしれない。クライゴアは発明品を動かしながらふと頭の中で考えていた。
そして、浮いているバグワリオを駐車場の方向へと誘い込む。
「クリケットよ。普段の修行を思い出して実践するのじゃ!」
「はい師匠!これも修行の一環ですね!ハイヤッ!」
「……レッド あれ 1個持ち帰りたい」
「駄目やて!放置したら街が真っ黒になるのアシュリーも見たやろ!流石に危険すぎるわ!」
「……チッ」
「舌打ちしても駄目なモンはダ~メ~や~!」
「ふっふ~ん!いつもワリオに意地悪されている分をぜーんぶ纏めてお返ししてあげるんだから!待ってなさいワリオー!」
「普段発明品を壊されている分もお見舞いしてやろうかのう」
「クライゴア ソレハ 八ツ当タリデス」
「これに懲りたらちゃんと教習受けてほしいですわ…。なぁ、スピッツはん」
「この前のマリオカートの大会も見てたけど、相変わらず荒々しい走り方してたなぁ。注意せなあかん!」
「しゅりけんあてるみたいでたのちいね、アナ!」
「うん!おわったらクライゴアどの、このおもちゃかしてくれないかちら?」
「スターフォックスで培った射撃のスキルでちょちょいのちょいだよ~!へっへ~ん、楽勝だい!」
「こっちも粗方終わったとよ!今度シューティングゲームで遊びたいばい!」
「油断しちゃ駄目よ?何が起こるか分からないんだから…」
「……とか言って、おかあさんが一番楽しんでるよね?」
「そうかしら?真面目にやってるつもりなのだけれど…。いつもやっているシューティングゲームに似てるから、つい…」
「ほら~!」
一部は楽しんでやっていたり、ゲーム感覚でバグ退治をしていたり、普段の鬱憤を晴らすようにバグ退治を続ける社員もいた。むしろ真面目にやっている人物が数える程しかいないが、気にしてはいけない。これがワリオカンパニーの"普通"なのだ。
その様子をスマートフォン越しに見ていたのが大典太達だった。会社に残り、バグワリオを追い詰めるタイミングを見計らっていた。
「皆サン、頑張ってイルヨウデスネ…。ワタシガ加勢出来ないノガ心苦しいデス」
「連携しつつ、ワリオ殿を駐車場まで追い詰めています。これなら逃げられる心配もなさそうですね!」
「……やはり、"ばぐ"が消えれば町は元通りに戻るのか。戻らなかったらどうしようかと内心焦っていた…」
「大典太さん。こんな時くらいは後ろ向きに考えるのを辞めましょう!折角皆さんで協力しているんですから」
「デスガ、不安ニ思う気持ちハ分かりマス。ワタシモ…ソウ思ってマシタカラ」
画面越しに皆の活躍を見守りながら、オービュロンは自分がその場にいないことに内心心を痛めた。大典太から重要な任務を任されたのだから仕方ないのだが、こうして皆に体力を使う行動を強いていると感じてしまい、思わず声色も弱くなってしまう。
そんな彼の背中を大典太は優しくぽんぽんと叩いた。彼の真面目さと素直さは、短い間一緒に過ごしただけだが充分によくわかっていた。だからこそ、こんなに心を痛めているのだと。姿かたちは宇宙人だが、その誰よりも純粋な心を持っているのが彼だった。
ワリオが駐車場に到着するまであと5分程だろう。大典太はオービュロンに、この会社に屋上のようなものはないか尋ねた。何を考えているのかは知らないが、屋上の方が都合がいいと彼が答えると、オービュロンは急いで屋上の扉を開ける鍵を取りに行った。
「大典太さん。あのワリオ殿も抵抗を続けているようです」
「……そりゃあそうだろう。自身が消滅の危機にあるなら猶更、な…。それは、人間でもそうでなくても皆同じだ」
「敵ニ同情スルト足元ヲ掬わレテシマイマスヨ!鍵ヲ持ってキマシタ。屋上ニ行きマスカ?」
「……いつでも準備は出来ていた方がいい。行こう」
画面の中のバグワリオは、今なお奇怪な声を発しながらバグをまき散らしていた。二振で他愛のない話を繰り広げていると、背後からツッコミ混じりの高い声が聞こえた。
ちゃり、とオービュロンは持ってきた鍵を見せる。確かに目で確認した二振は、オービュロンの案内で屋上へと急ぐのだった。
ダイヤモンドシティでは、バグワリオがもうすぐ駐車場に到着するというところまで来ていた。彼との距離も測りながら、社員は彼からまき散らされたバグに水を噴射して消滅させていく。
街にあるバグは粗方取り除いた。後は彼だけだ。だからこそ、油断してはならなかった。
「よーし!もう少しで追い詰められるよー!」
「でも、なんか攻撃が激しくなってるとよ!当たったら大変ばい!」
そう言いながら、エイティーンボルトは自分に向かって飛んできたバグを避けた。地面に落ちた場所から黒ずんでいき、街が消滅するのを確認する。これがもし生身の身体に当たったら、身もふたもないことになってしまうのは明白だった。
弾丸を当てるように落ちたバグに水をかけ、元のコンクリートに戻す。バグ退治は最終局面へと移ろうとしていた。
「駐車場に到着だYO~!みんな、気を付けて!」
逃げるところが無くなったのに気付いたのか、バグワリオは構えている社員に向き直る。その表情は怒っているように見えた。
額に汗が伝い、一瞬の隙も許さない状況。油断を見せた方が負ける。双方それは充分に分かっていた。
―――そんな中。不意にジミーが行動を起こした。
「そろそろいい感じだね!それじゃ……準備はいいかい?ボクは出来てるYO!」
ジミーはその場にふさわしくない明るい声で叫びながら、自分の持っているスマートフォンに向かって指パッチンをした。
その、矢先であった。
「えっ?えっ?何、何ーーー?!」
「町中のスピーカーから音楽が流れてる!」
突如、電柱に取り付けられているスピーカーというスピーカーから音楽が流れ始めた。一瞬でダイヤモンドシティはソウルな音に包まれる。突拍子の無い出来事に、流石に社員もバグワリオも驚いていた。
しかし、ジミーはそのまま天に指を掲げた。そう、これは彼のお決まりのポーズだった。
『ノリノリで行くYO~!』
彼が発したその言葉で、社員はジミーが何を考えているのかを一瞬で理解した。彼はダンサーだ。そして、現在流れている音楽に乗って踊り始めようとしている。つまり、自分達も一緒に踊ればいいのだと。
常識的に考えればあり得ない話なのだが、ここはダイヤモンドシティである。"ナンデモアリ"が許される街。それがここ、ダイヤモンドシティなのだ。
ジミーの動きに合わせて、それぞれ得意なダンスを踊り始めた。エイティーンボルトに至ってはどこから取り出したのか、マイクを手に持ちラップも披露し始めている。あのアシュリーですら流れに乗って、素直に踊っていた。
「ワリオおじさまもダンスのソウルには逆らえない。それを逆手に取ったって訳ね!ジミーおじさま、やるぅ~!」
当のバグワリオも踊り始めている。時折抵抗するような動きを見せていたが、彼もまた"ワリオカンパニー"の一員だった。
その頃。放送局では、数珠丸達刀剣男士が町中に音楽が鳴り響いているところを確認していた。
「音楽が流れ始めましたが…。これで良いのですよね」
「おれ達への頼みが"放送局に向かって、この"すまーとふぉん"とやらから指を鳴らす音が聞こえたらレバーを上げてくれということだったとはな。何を考えているかは全くわからんが、上手くやってくれるといいがな」
「餅は餅屋。彼らの手助けをすることが、我々の今できる最善策です」
そう。鳴らしたのは彼らだった。それもその筈。ジミーからの依頼が"タイミングを見計らって町中に音楽を流してほしい"というものだったからだ。同時に彼の予備のスマートフォンも受け取っており、現在はそこに入っている音楽を流している状態だった。
慣れない機械を操作したことで疲労が溜まっているが、やれることはやった。後は社員が上手くやってくれるのを祈っていた。
バグワリオもいつの間にかノリノリで一緒に踊ってしまっており、駐車場の空気はガラリと一変していた。
それと同時に、バグワリオにも変化が起こっていた。憑りついていた呪詛の元が混乱したのか、彼の身体から逃げ出すように飛び出たのだ。
ナインボルトが呪詛をしっかりとその目で捉えていた。飛び出た呪詛は、かつて自分達が退治した"大バグ"に瓜二つだった。
「みんなー!!!ワリオからおっきなバグが出たよーーー!!!あいつがワリオに憑りついてた元凶かも!!!」
「ナイスだナインボルトクン!逃がさんように包囲してバグ退治じゃ!!!」
クライゴアの声を皮切りに、踊っていた社員は一斉に大バグとバグワリオに向かって水を発射した。勢いよく放たれた水は双方にしっかりと当たっていた。
……だが、大バグにダメージがあまり入っていないように見えた。やはり、小さなバグとは認識が違うのか。しかし、ここで噴射を辞めてしまったら大バグを取り逃がしてしまう。ワリオは助かっても、ダイヤモンドシティが大変なことになってしまう可能性がある。辞めるわけには行かなかった。
「いつまでつづくのー?!」
「あたち、つかれてきた……」
「もうちょっとの辛抱よ。オービュロンちゃん達を信じましょ!」
後は、足止めしている大バグにオービュロンが止めを刺せば全てが終わる。
そう信じ、社員は水の噴射を続けたのだった。
- Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.50 )
- 日時: 2022/03/11 22:23
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
カンパニーの社員が大バグとワリオを食い止めている様子を、屋上に移動した3人はスマートフォンで確認していた。
前田がワリオに憑りついていた元凶が彼から離れたことを指摘する。大典太は自分の目でも確認した後、オービュロンを無言でむんずと掴んだ。
彼の突拍子もない行動に、思わずオービュロンは浮いた手足をバタバタさせる。そんな彼を静かに宥めながら、大典太は言った。
「……すまんな。ここからなら…あんたを投げた方が早い。呪詛を消した後は瞬間移動をするなりなんなりして地面への激突を防いでくれ」
「エッ」
「いつまで食い止めてくれるかも分かりません。腹をくくりましょう、オービュロン殿!」
「ソンナ勢い良く言う台詞デハナインデスケドネ?!」
オービュロンが慌てるのも目にくれず、大典太は静かに深呼吸をする。霊力を投げ飛ばす右手に集中させる。
そして―――。
「……行くぞ。眼鏡が落ちないように気を付けるんだな…」
「コレハさんぐらすデス!ッテ」
『アーーーーーーッ!!!!!』
大典太は勢いよくオービュロンを空に投げた。
念の為に解説しておくが、この刀剣男士は細長い体格をしている割に相当な怪力であり、鬼丸や大包平と並ぶ程である。それに、彼は内に秘める霊力の量が他の同位体を凌駕していた。
そんな彼が小さなオービュロンを投げるのである。今の彼はさながら―――ジェット機のように空を舞っていた。
『ココマデスルコト無いジャナイデスカーーー!!!!!』
光の速さで小さくなっているオービュロンを見て、大典太は"少しやり過ぎたか"と己を反省したのだった。
「(気絶シソウデシタガ…何とか持ちコタエラレソウデス)」
飛ばされたオービュロンは何とか気力を取り直し、大バグがいる黒く濁っている場所を凝視した。
現在もなお、カンパニーの社員が水をかけているお陰で彼らは動けずにいる。しかし、社員にも疲れの色が見えていた。少しでもタイミングを見誤れば、バグは逃げる。ワリオは助かるが、街は滅びてしまう。
オービュロンは救わなければならなかった。ワリオも、ダイヤモンドシティも。
「……行きマスヨ!!!」
オービュロンは意を決して受け取ったお守りを空中浮遊させ、大バグに気付かれないように移動させ始めた。大典太が投げた当初よりも空中を飛ぶスピードが遅くなっている。これならばコントロールも出来るだろう。
改めて自分の身体の軽さとマントにオービュロンは感謝をした。お守りはふわふわと空を浮かび、大バグに近付いている。
「(モウ少し モウ少し…!)」
思考をお守りに集中して、大バグの頭上まで浮遊させる。後は浮遊を解いて、真上で落とせばいい。オービュロンはそういう考えでいた。
気付かれたら全てが終わる。気付かれるわけにはいかなかった。少しずつ、少しずつ。お守りはふよふよと大バグの上まで移動していく。
そして……。
「(今デス!)」
オービュロンは大バグの真上でお守りの念力を解いた。
重力に従い、落下した先にいたのは―――。黒い物体。大バグだった。水が全方向から噴射されている為、前が見えなかった。それも功を成したのだろう。
お守りが大バグに触れた瞬間、そこから灰になってさらさらと空中に大バグは待っていく。水を放ち続けていたカンパニーの面子も、大バグの様子がおかしいことに気付いた。
「ねぇ、見て!大バグが砂になっていく!」
「もしかして…オービュロンはんがやってくれたんですか?!」
大バグは人とは思えない狂気的な悲鳴を上げ、身体は灰のようになって消滅していった。砂のようになったそれは、風に待って空中へと飛散し、消えた。同時に、ワリオも元の姿に戻る。まき散らしていたバグも全て消滅し、ダイヤモンドシティは元の姿を取り戻したのだった。
それに気づいたペニーがいち早くみんなに水を噴射することを辞めるように説得する。しかし……。辞める人間は彼女以外、誰一人いなかった。
「ワリオさんが元に戻ったんですよっ!皆さん、水を放つのをやめてくださーい!」
「ですがペニーはん。もしかしたら細かいヤツが残ってるかもしれまへん」
「そーそー!掃除はしっかり綺麗にしないとね!」
「……自業自得」
「えぇ…?」
そうこうしているうちに、ワリオが意識を取り戻す。今まで眠っている状態だったのか、ぼんやりとした眼のまま周りを見つめる。自分に迫って来ていたのは―――大量の水だった。
自分に向けられている大量の水を見て、ワリオは激怒したのだった。
『お、オレ様に何をするのだーーー!!!やめろーーー!!!
キサマら全員給料抜きだーーーーー!!!!!』
ワリオがぷんすかと怒っているのを空中から見ていたオービュロンは、やっと彼が元の姿に戻ったのだと安堵した。
それと同時に、一番やらなければならないことにやっと気づく。オービュロンの身体は落下を始めていた。自分自身にテレポートをするのをすっかり忘れていたのだった。
「ア~~~~~~~~~!!!!!!」
情けない大声をあげ、地面に落下を始めるオービュロン。このままでは確実に怪我をしてしまう。しかも、この落下速度ではテレポートが間に合わないことを推測していた。
あぁ、また彼らの世話になるのか。宇宙人が弱い存在だと思われてしまう。薄れていく意識の中、オービュロンはそんなことを思った……のだが。
「アレ…?」
襲ってくるはずの痛みはなかった。思わず目を見開いてみると、彼を心配そうに見るカットとアナがそこにいた。
地面に落ちる寸前、彼女達が協力してオービュロンを支え受け止めたのだった。
「だいじょうぶ?」
「ア、アリガトウゴザイマス…。わりおサンガ元ニ戻ったコトニ安心シテシマッテ、自分ヲてれぽーとサセルノヲ忘れてイマシタ…」
「おちたらたいへんだったよ!」
双子の忍者に丁寧にお礼を言った後、3人でワリオの元へと向かった。
社員の気晴らしが済んだのか、既にワリオには水はかかっていなかった。彼の浮かんでいた場所には、焼け焦げたお守りの跡があった。
オービュロンは急いでそれを回収する。既に効力は失われているのか、割れた勾玉を拾っても何も感じなかった。
「んもー!ワリオおじさまったら!危うく街が壊れちゃうところだったんだからね!」
「ん?どういうことだ?オレ様何も知らねーぞ?」
「しらばっくれるんじゃないわよ!全部あんたの仕業だって全員分かってんだからね!」
「とりあえず、カンパニーに戻ろうYO!きっと刀剣男士の皆さんも戻っている筈さ!」
「あ?なんだ?あのいけ好かないヤツらがいるのか?」
「いるもなにも、ワリオを助ける為に彼らと協力してたんだってば!ちゃんとお礼言ってよね、ワリオ!」
「フン!あんなオレ様の美貌以下のヤツなどに……礼など言うかーーー!!!」
「はぁ…。ま、ワリオはんに話も聞かなきゃなりまへんし…。戻りまひょか」
「そうだな。ワリオクンに何が起こったのか、是非色々調べたいことも浮かんできたのでな!」
「おじいちゃん、わたしもお手伝いしますっ!」
「ワリオハ 不死身ダカラ 何ヤッテテモ オカシクハナサソウデスケドネ」
「尋問という奴ですね!師匠、オレに出来ることはあるでしょうか?」
「それは行ってみなければ分からん。ささ、人を待たせておる。カンパニーに戻るぞ」
「オレ様をダシにして遊ぶんじゃなーい!!!」
次々とカンパニーに戻っていく一同。そんな彼らの背中を見ながら、オービュロンは"やっと平和が戻って来たのだな"と改めて思ったのだった。
カットとアナが心配そうに再び見つめてくる。そんな彼女達を心配させない為、オービュロンも急いでワリオ達との合流を急いだのだった。
- Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.51 )
- 日時: 2022/03/12 22:15
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
ワリオカンパニーに戻った一同は、会社で待機していた刀剣男士達と合流した。
無事に傍らにワリオがいることに彼らは安堵した。思っていた以上の全身水浸しだが、それは気にしないことにした。そこまで突っ込むと面倒なことになるのが目に見えていたからだ。
屋上からバグが消え去っていくのを彼らも確認していた。改めて、街に平和が戻ったことを喜んだのだった。
「シ、死ぬカト思いマシタ…」
「……すまん。肩に乗ったあんたが随分と軽かったから投げられると思って…。乱暴な真似をした」
「イエイエ、結果論ニナリマスガワタシ、コウシテピンピンシテオリマスノデ気にシテマセンヨ!アリガトウゴザイマス、みつよサン!」
「み、みつよ…」
「マ、不味かったデスカ?"おおでんた"ハイクラワタシガニポン語ヲますたーシタトシテモ難しい言葉デス。イ、嫌デシタラ"おおでんたサン"ト呼べるヨウニ努力シマス!」
「違いますよ!名前で呼ばれて嬉しいんです。ね、大典太さん!」
「ソウナノデスカ?」
「……悪い気はしない」
「―――ふん」
「……あんたも"国綱"と呼ばれればいいんじゃないか」
「お断りだ。慣れ慣れしく呼ぶな」
しばらく談話を続けていたところで、本題を思い出したようにモナが切り出した。
何故ワリオがあんな状態になって街で暴れていたのか。それを問わなければならなかった。いくら不死身のワリオでも、バグに侵された姿はゲームの中でしか見たことが無い。さらに、ワリオはその時自分達と一緒にバグ退治にいそしんでいたのだ。彼自体がバグワリオに変化するという事実自体があり得ないことだった。
「おじさま、どうしてあんな姿になっちゃったの?何か覚えてない?」
「何も覚えてねえな!」
「あからさま過ぎるよー!ほら、誰かに変なアイテム渡されたとか!変なもの食べたとか!ちょっとでも記憶にないの?!分からないとボクちん納得いかないよ!」
「そう言われても分からんもんは分からーん!」
どうやらワリオはしばらく意識を失っていたようで、自分が何故街で暴れていたのかを覚えていなかったようだった。何とか原因を探ろうとナインボルトが迫るも、ワリオは本当に何も覚えていない。分からない、の一点張りだった。
あまりにも社員が必死に迫ってくるため、流石のワリオも考える振りくらいはした。―――そんな中、朧気にふっと浮かぶものがあった。そういえば、以前何か食べ物を貰ったような。
記憶を手繰り寄せると、その景色がはっきりと見えた。
「お!そういやこの前マリパやってた時に、クッパ軍団のヤツに変な色のニンニク貰ったな!」
「変な色のニンニク、ですか?」
「そうだぜ!美味そうだったからその場で食っちまった!それからの記憶は全く覚えてねえな!」
「えぇ…。本当に自業自得じゃん…。マリパってことは、マリオ達も近くにいたんだよね?」
「いや、その時のパーティにはマリオはいなかった!オレ様と、緑のヒゲ…ドラゴン…あとあの不気味な星連れた女が一緒だったな!ワッハッハッハ、その時はオレ様が1位を取ったのだーーー!!!凄いだろ!褒めなさい!!!」
「今はマリパの話じゃないだろうワリオクン。そのクッパ軍団から貰ったニンニクの形状は覚えてないのかね?」
「クッパ軍団がわざわざワリオに変なアイテムをあげるとは考えにくいわ。ワリオ、確か前にも絵の中に閉じ込められたことはあるって聞いたことあるけど…。恨まれるようなこと、あんたしたの?」
「恨まれるようなことなど何もしていない!オレ様は常に尊敬される存在なのだからな!だが…そうだなー」
ニンニクの形状を思い出すようクライゴアに問われ、ワリオは更に記憶をつつく。すると、ふっと食べている時の自分の手を思い出した。
確かにニンニクの形状をしているが、ニンニクではない…。改めて思い返してみると、そう思えた。
「あ!思い出したぜ!すぐ食っちまったけど、真っ黒だったな!世の中には黒いニンニクってのはあるが、それとは全く違った!血みたいに赤黒かったってのが正しい言い方だな!」
「今思い出したってことは、ワリオちゃんは見ずに真っ先に食べちゃったのよね…?あらあら」
「……そうでしたか。教えてくださりありがとうございました。ワリオ殿が邪気に呑まれた原因は……。恐らくそのニンニクのような物体で間違いないでしょうね」
「ニンニクそのものが呪詛だったわけか。それなら身体に巡るのも早い訳だな」
そして、恐らくワリオが渡してきたというクッパ軍団も―――本来所属している人物ではなく、アンラによる分身の1つの可能性が高い。そう刀剣男士達は結論をつけた。
既に自分達の知り得ないところで悪の神が動いている考えが確信に代わり、大典太は目を伏せた。目に見える存在ならいくらでも助けられる。しかし、自分達が"神"と呼ばれている存在であろうとも、あくまでも物に宿る末端の神。自分達の手の届かないところにある悪意は祓えない。
その事実が、今も蔓延っている。彼らの知らないところで、悪意に苦しんでいる存在がいる。その可能性が高まったことに心を痛めていた。
悪の神―――アンラは。世界を混ぜる前でも後でも、無差別に生きる者に大して闇を与え暴走させる。そうして、世界を破壊する準備を着々と進めているのだ。
「……俺達の想像以上に、あいつが動いている。それだけは今確信した」
「あなた達が何に苦しんでるか、あたしには分からない。でも、ダイヤモンドシティはこうして元通りになったよ!ワリオおじさまも元に戻って帰って来たし!ね、ちゃんと協力すれば難しい問題でも解決できる!協力してくれて本当にありがとう!」
「その言葉だけで嬉しいですよ。こちらこそありがとうございます」
刀剣男士が悲しそうな表情をしていたのが気になったのか、モナが元気づける為に今回のことの礼を言った。数珠丸はそんな彼女の気遣いに感謝していた。ダイヤモンドシティは何でもありな街だが、それだけ心が広い住人が多いのだと、改めて知ったのだった。
モナが言葉を口にし終えた途端、大典太のスマートフォンに通信が来る。ラルゴからだった。
『光世ちゃん!みんな!こっちも今しがた連絡が来たわ~!無事に問題解決出来たみたいね!お疲れ様!』
「……あぁ。街の連中と協力して元に戻したよ。リレイン王国に被害が出ることはないだろうな」
『うふふ。それだけじゃないのよ~。良い報告よ!今丁度ダイヤモンドシティの町長さんとお話してて…。なんと、なんと!ダイヤモンドシティとリレイン王国、双方で協力関係を結ぶことが決まったのよ!
つまり、これからはどちらの住人も"同じ町の存在"として暮らしていくことになるわね!』
「そうなのですか?!」
「……それは、良かったな」
なんと、ラルゴの口からダイヤモンドシティと自分達の住んでいる国が協力を結ぶことが放たれた。まさかここまで上手くいくとは彼も思っていなかったようで、自分でもびっくりしていると感想を述べていた。
大典太達がワリオカンパニーの面々と街の問題を解決したことで、城下町の人間を信用できると町長が判断したのだろうとラルゴは分析していた。それも含め、彼は刀剣男士達に丁寧に礼をしたのだった。
『ダイヤモンドシティには駅があるでしょ?それを参考にして"案"を進めていきたいわね』
「案…?なんでしょう?」
「……大っぴらに話していい内容なのか?」
『あら!アタシとしたことが口が滑っちゃった。それじゃ、帰り道も気を付けて戻ってくるのよ!無事に帰ってアタシに報告するまでが依頼なんだからね!』
ラルゴはそう言うと、ひらひらと手を振った後ビデオ通話を切った。何はともあれ、これからはダイヤモンドシティの住人も城下町に来ることも増えるだろう。忙しくなることを大典太は悟った。
スマートフォンを仕舞い、社員の方向を向く。すると、伸びをするナインボルトの姿が最初に目に入った。
「あ~。色々あったし、ボクちん疲れた~。早く家に帰って寝たいよ~」
「ふむ。本当に皆ご苦労だった。仕事も終わったことだし解散だな!気を付けて帰りたまえよ」
「ワリオ、ちゃんとあの人達とクリケットさまに礼を言いなさいよね!わたしは帰るから!」
「タクシーのメンテもしなきゃあかんし、わしらもここで失礼するか。ドリブル、いくで」
「みなはん、それでは失礼します。ダイヤモンドタクシーをこれからもよろしゅうお願いしますわ!」
「あっ、あたしも明日バイトだった!帰って準備しなきゃ!それじゃまたね~!」
クライゴアの声を皮切りに、各々帰路へ着く一同。
少しずつ人はまばらになっていき、残っているのはオービュロン、ワリオ、ジミー、そして刀剣男士達だけになっていた。
「ボク達もそろそろお暇しようかな?ワリオ、家まで送ってくYO」
「オレ様は一人で帰れるのだ!だが……今日くらいはいいか!ジミー、夕飯奢れよな!」
「キミは相変わらずだね…。でもいいか。今日はボクの奢りだYO!その代わり、どの店に行っても文句は言わないでくれYO!」
「あ!オマエら!何が何だか全く分からねーが、オレ様が助かったってことだけは今分かった!ありがとな!オマエらならたまには会社に遊びに来てもいいぜ!じゃーな!」
「本当にありがとう。ボクがダンスしてるクラブにもいつか来てね~!」
ジミーとワリオもお互い帰路についた。幼馴染同士、つもりにつもる話があるのだろう。
彼らが小さくなっていく姿を見送りながら、大典太達もそろそろ帰ろうという話になる。ラルゴからの通信が切れて結構な時間が立っていた。待ちぼうけを喰らって怒られるのだけは勘弁だった。
オービュロンも帰る場所が無い為、一緒についていくことになった。……そして、彼は"今まで忘れていた"大事なことを思い出す。
「……アッ」
「どうしました?オービュロン殿」
「忘れて……イマシタ……」
オービュロンは思い出した。議事堂の修繕費のことを。
『修繕費……ドウシマショウ……!!!』
- Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.52 )
- 日時: 2022/03/13 22:02
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
忘れていた事実を思い出してしまい、オービュロンの顔が青くなった。更に、落ちたままのピッグシップを何とかしなければならない。今までは平地や偶然にもワリオの家を壊したのみで済んでおり、ダイヤモンドシティ内の敷地に置かせてもらっていたが、今回は訳が違った。
いくら隣り合っているとはいえ、ダイヤモンドシティとリレイン城下町は橋を繋いだ先にある街だった。議事堂の人達の力を借りるとしても、時間がかかるだろうとオービュロンは推測していた。
青くなった彼の表情を見て、議事堂での出来事を刀剣男士達は思い出した。各々困り果てる中、前田が口を開いた。
「うーん…。議事堂の修繕費を何とかしたいという気持ちは伝わりました。オービュロン殿の働き先をなんとか見つけてあげた方がいいのでしょうか?」
「そこまで世話をする必要はない。口ぶりからして何回かこの街にあの機械を落としているんだろ。なら今までだって何とかしてきたんじゃないか」
「ですが、今回は訳が違います。ダイヤモンドシティに落ちたのならばともかく、隣町…議事堂とこの橋、割と距離がありますよ」
「アワワ……アワワワワ……」
「……パニック状態だな。さて、どうしたものか…」
一瞬テレポートで移動させればいいのではないかと考えた大典太だったが、当のオービュロンはそんな余裕を考えられる状態ではないのは明白だった。
何とかしてあげたいという気持ちは彼らも一緒だが、ダイヤモンドシティの問題が解決し、後は彼の修繕費の問題だけになってしまった為深入りする理由もない。
大典太は考える。どうするのが最善策なのかを。……頭の中で思考を巡らせていると、ふとサクヤが口にした言葉を思い出した。"自分達が信頼するに値した存在なら、神域に連れてきてもいい"と。
「……そうか」
「何かいい考えが思いついたのですか?」
「……そういや、議事堂は人手不足で困っていたな。街の活気は少しずつ増えているとはいえ、議事堂だけは人手に業務量が釣り合ってない、と…あの町長が言っていた」
「それで、何なんだ。それとこいつと何が繋がるんだ」
「……あんた。議事堂で働いて修繕費を返せばいいんじゃないか?」
「―――エッ?」
大典太が口に乗せた言葉に、思わずオービュロンもきょとんとして彼を見る。
そして、彼の考えを見据えていたかのようにタイミングよくスマートフォンが再度震えた。ビデオ通話ボタンを入れてみると、そこにはニコニコとした笑顔のラルゴが映っていた。
『いいアイデアね!議事堂で働いたお給料から修繕費を差し引くことにすればいいんだわ!』
「……随分タイミングが良すぎる気がするんだが。主か」
『光世ちゃんったらやっぱり心理学に長けているのね!サクヤちゃんから連絡が来たのよ。もしかしたら困っているかもしれないから助けてあげてって。……違うわね、こういうのはサクヤちゃんと光世ちゃんの絆が深いということかしら?』
「デスガ、ソレハ流石ニ虫ノ良すぎる話デハナイデショウカ…?らるごサンにゴ迷惑ガカカルノデハ」
『うちは万年人手不足だから、オービュロンちゃんが手伝ってくれるって言ってくれるなら大歓迎よ!それに、人間でもそうでなくてもリレイン王国は昔から受け入れ、繋がりを持つ。そういう風習が伝統として伝わっている国なのよ。
現に人間じゃない種族の人がこの城下町に移り住んでお店を開いている事例もあるんだから。オービュロンちゃんの容姿でも変に思う人はいないわ』
「町長自らそう言っているのならば、考えてもいいお話では?オービュロン殿」
白いスマートフォンを通じて、大典太の考えがサクヤに明け透けになるというのはどうやら本当のことらしい。大典太は変なことは出来ないと思いつつ、ラルゴの言葉に賛同する。
ラルゴは"働いてくれるなら、そこで出る給料から修繕費を少しずつ引いていく"という案を出した。あまりにも突拍子の無い、しかし虫のいい話に思わずオービュロンは身構えてしまう。
しかし、ラルゴは本気でオービュロンを迎え入れようとしていた。リレイン城下町自体、再起したばかりである。人手が多い方がいいのは当たり前である。さらに……オービュロンはダイヤモンドシティに住み着いている、いわば"部外者"だ。スカウトしない理由がなかった。
それでも迷う表情を見せるオービュロンに、ラルゴは更に説得を続けた。
『そうねぇ…。折角働いてくれるなら、ちゃんとお給料以外の対価も払わなきゃね。光世ちゃん達に協力するという条件で、衣食住もうちで用意してあげるわ』
「みつよサン達ノオ手伝い、デスカ?」
「……町長、それは」
『アタシには深いことまでは分からない。けど、アタシと同じくらい光世ちゃん達は困ってる。でも……この世界の未来について考えてくれてる。そんな気がするのよね。
だから、沢山生きているアナタの知恵がもしかしたら役に立つかもしれない、とふと思ったのよ』
「…………」
大典太達の本来の目的に協力する、という条件付きではあるが、なんとラルゴはオービュロンに議事堂での衣食住も提供すると言ってのけたのだ。
その言葉には流石に刀剣男士達も驚きの表情を見せたが、確かに彼らの目的には人手が必要だった。流石に部外者に深く説明はしていないものの、ラルゴにすら考えが見通されてしまっているのではないか、と大典太は背中に冷や汗をかいた。
オービュロンは思わず助け船、そして美味しすぎる話に戸惑う。確かに右も左も分からない場所……隣町が世話になっている街があるとはいえ、自分が騙されているのではないかという考えもよぎる。
しかし、目の前にいる男達は自分達の街の為に真摯に動いてくれた。彼らが悪いことを考えているという結論にはどうにも導くことは出来なかった。
―――オービュロンは心の中で覚悟を決める。彼らの話をまずは聞こう。そして、自分が手伝えそうなことであれば手伝おう、と。
「……ワカリマシタ。マズハオ話ヲ聞かせてクダサイ」
『了解よ~!それじゃ刀剣男士ちゃん達、オービュロンちゃん連れて議事堂まで戻って来てね。あ、さっきも言ったけどちゃんと全員で来るのよ?無事に帰ってくるまでが依頼なんだからね!』
「町長殿、大丈夫です。オービュロン殿は必ず護衛して議事堂まで向かいます」
『勿論刀剣男士ちゃん達も含まれてるわよ~!それじゃ、気を付けて帰って来てね!』
オービュロンの答えを聞いて、ラルゴは嬉しそうにしながら通信を切った。これは話を聞いて、もし断ったら泣いてしまうだろうなとこっそり心の中で思った。
窓から外を見てみると、既に日が落ちかけていた。そんな長い間この場所にいたのかと狼狽える一同だったが、さっさと移動すれば問題ないと気持ちを切り替えることにした。
オービュロンの打ち身も少しずつ回復しているが、念の為前田に抱えてもらう形で城下町まで向かうことになった。前で楽しそうに話しながら歩く前田達を見守りながら、大典太と鬼丸は小さな声で会話をする。
「まさか、神域にあいつを住まわせるつもりなのか?」
「……見えれば、な。見えなくてもあの町長が何とかしそうな雰囲気はするが。あの場所は庭も広い。主に頼めばあの宇宙船も仕舞えるだろうからな。―――そうでなくとも主が勝手に部屋を増やしそうではあるが」
「お人好しめ…」
大典太はサクヤに事情を話し、もし神域が見えるのであれば住まわせる寸断だった。考えを聞き、思わず鬼丸は悪態をつく。大典太はサクヤと触れあって、ネガティブなお人好しっぷりが更に増してしまったと。
満更でもない顔をする大典太が気に食わず、不機嫌そうな表情のまま鬼丸は前を歩く前田達について行ったのだった。
- Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.53 )
- 日時: 2022/03/14 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
議事堂に戻って来た彼らをエントランスでラルゴは待っていた。誰も欠けずに戻ってこれたことに満面の笑みを浮かべ、一同を迎え入れた。
そんな彼の表情に思わず安堵する刀剣男士達だった。オービュロンも思わず頬が緩んだ。
「おかえり!早速さっきの話と行きたいところだけど…。先にサクヤちゃんに連絡をして来たらどう?淡々としてたけど、実は凄く心配してたんだからね、彼女」
「……感謝する」
先にサクヤと話してきてほしいと彼らを催促し、ラルゴはそのまま仕事部屋へと姿を消した。
背中を押してくれたことに感謝しつつも、自室へと向かう一同。数珠丸と小狐丸は彼らの邪魔をしないようにとエントランスで待機することになった。
「我々も町長殿の手伝いを行いたいと思います。とても忙しそうでしたので」
「良い結果に繋がるといいですな。オービュロン殿!」
彼らとも別れ、神域がある和室へと移動した。
ドアを開け、早速掛け軸を取ろうとするが……。部屋に入った前田がはっとした表情で大典太を見た。
彼の目には掛け軸が見えていなかったのだ。そのことを話すと、大典太も鬼丸も掛け軸がないことに気付き表情を崩す。何かあったのかとオービュロンが問うも、主に何かあったのかと彼の声が聞こえていない。
同時に、スマートフォンが震える。今はそんなことをしている場合ではないと通信を拒否しようと手に取り連絡してきた者の名前を見る。
……大典太は静かに通話ボタンを押した。相手がサクヤだったからだ。
『申し訳ありません。1つ連絡しそこねていた事柄がありまして』
「……主。大丈夫なのか。神域は無事なのか」
『無事ですので安心してください…。そもそも、掛け軸を変えたのは私です』
「変えた。……変えたっ?!どういうことですか主君」
『ダイヤモンドシティにて話しておくべき事項だったのですが…すみません、連絡が漏れていました。実は、これからのことを考えて、神域への入口の形状を少し変えさせてもらったのです。皆さん、目の前に壁と襖、どちらが見えますか?』
どうやら掛け軸を撤去したのはサクヤ自身だったらしい。事実をしり、どっと疲れが一同に押し寄せる。
何故そういうことをしたのかと問おうとする前に、サクヤは掛け軸がかけてあった側の壁全体を見てほしいと彼らに頼んだ。
不意にそんなことを言ってくるとは。サクヤが何を考えているのかは分からなかったが、壁を見てみることにした。
「襖が見える」
「僕にも襖が見えます。どういうことなのでしょう?」
「……オービュロン、あんたにも見えるのか?」
「"ふすま"…。ショージ張り、トイウ技術ヲ使ったニポンノ"カルチャー"デスヨネ!モチロン見えてマスヨ!」
「見えている…?!」
『はい。襖が見えていれば、誰でも神域に出入りが出来るように細工をさせていただきました。皆さんが刀剣男士以外の方々を連れてくる可能性も考えられましたので…。
それに、コネクトワールドにて泥酔していた方々を見て思っていたのです。"人間への解放も必要だ"と』
「……そうだったのか。あの時は俺や数珠丸がいたからいいが、勝手に呑み比べをして倒れられても介抱する奴がいないと今後困るからな。
……そうじゃない。わざわざそんな確認をしたということは、見える人間と見えない人間がいるということなんだな」
『流石に誰でも入れる訳にはいかないので、ある程度"霊力"が備わっている人間のみを入れるようにしました。オービュロンさん、と仰いましたか。見えているのであれば一緒に入って来ていただけますか?
襖を開けば、奥に和室が見える筈です。そこが神域ですよ』
サクヤは今後のことを考え、掛け軸から襖型の神域の出入口に造り替えていた。大典太は"そもそもが頂き物ではなかったのか"と疑問に思ったが、既に自分のものとして扱っているとして流すことにした。
オービュロンも見えていると答えた。つまり、彼も神域に出入りできるということ。向こうの和室が彼に見えていることを信じ、大典太は静かに襖の取っ手に指をかけ、そのまま力を込めて戸を開けた。
―――見えてきたのは。自分達が今まで見てきた、穏やかな景色。
帰って来たのだ。自分達の帰る場所に。
「おかえりなさいませ」
「……ただいま戻った。主」
襖を開けた奥にサクヤの姿があった。机に湯呑が置いてあることから、休憩中だったのだろう。
彼女はすぐに彼らに座る様に催促する。オービュロンは後ろでびくびくしていたが、大典太に背中を叩かれ意を決して敷居を跨ぐ。
どこかぎこちない正座をしたと同時に、サクヤが口を開いた。
「お疲れさまでした。無事、ワリオさんに取り憑いた呪詛を解呪出来たようで何よりです」
「はい。主君も町長殿から聞いておられるとは思いますが、この度ダイヤモンドシティとリレイン城下町が協力関係になることが正式に決まりました。今後は今以上に悪の神に関しての情報集めも捗るかと思われます」
「きっと、ワリオさんだけではない…。我々の知り得ない街に、アンラの呪詛に苦しんでいる人々がいることでしょう。そこからもきっと情報は流れてくるはず。いつか尻尾を必ず掴みましょう」
「あ。それと…オービュロン殿のことについてなのですが。彼の宇宙船が故障してしまっていまして。主君。彼には神域も見えているようですし、庭に宇宙船を置くことを許可していただきたいのです」
「オ、オ願いシマス!ワタシニ出来るコトデアレバ何でもヤリマスヨ!」
「確か…議事堂を一部破壊したのだとか。事情は大体ラルゴさんからお聞きしております。そういうことであれば、神域を是非役立ててください。なんなら宇宙船を仕舞う為の"ガレージ"も即刻用意いたします」
「……神の力をどうでもいいことに使わないでくれ…」
「どうでもいいことなどないのですよ、光世さん」
オービュロンの事情を説明すると、サクヤはあっさりと神域を使うことを許可してくれた。元々"刀剣男士が信頼して連れてきた存在なら疑う余地も無い"と、彼らのことを信じていたが故の発言である。
あまりにも軽く許可が口から出た為、流石のオービュロンも驚いていた。もう少し説得が必要だと考えていたからだった。しかも、宇宙船の為のガレージも用意してくれるという話になり、開いた口が塞がらない。
「アノ…UFOハ庭ノ端ニデモ置きマス。ソコマデシテイタダカナクテモ」
「行為は甘んじて受け取っておけ。断っても用意するぞ、この神は」
「以前カラ気ニナッテイタノデスガ、さくやサンはカミサマナノデスカ?」
「そうだ。おまえ以外にここにいる奴はみんな"神"と一般的に呼ばれている存在だ」
「エーーーーーッ?!」
「まぁ、僕達に関しては"物に宿る"神様なので、神様としては末端の存在なんですけどね」
「ソンナ軽々シク言う台詞ジャナイデスヨ?!」
「……それに、あんた紀元前産まれなんだろ?なら…俺達より年上だ」
「年齢ハ関係ナイト思いマス!」
オービュロンは思った。つくづくとんでもない存在に助けられたのだと。
しかし、ここまでやってもらって"NO"という答えを突きつける訳にはいかない。敷居を潜った時から、彼の決意は固まっていた。
快く住居を提供してくれたことの礼として、大典太達の目的に必ず協力すると。そうサクヤに告げた。すると、サクヤは静かにオービュロンに思念を転送する。自分達が今追っている、"最大の敵"の情報を。
「わりおサンガ纏ってイタ雰囲気トヨク似てイマスガ…。コッチノ方ガ気持ち悪いデス。アナタ達ハコンナ危険ナ存在ヲ追ってイルノデスカ?」
「……あぁ。俺達の他に囚われた刀剣男士達…それと、世界中で苦しんでいる奴らを救うこと。ワリオの事件を通して、やることが増えた感じだ」
「アンラの邪気を追って行けば、必ずアンラの分身に辿り着く。そこを潰して情報を得て、本体を探し出す。
それと……この混ざった世界を元に戻す手立てについても捜索を続けている」
「長い戦いになります。オービュロンさん。それでも……我々に協力していただけますか?」
「勿論デス。助けラレタ恩ハ必ず返しマス。ソレニ、チキューニハ良い言葉ガアリマス!"もちつもたれつ"デス!」
本来の目的をオービュロンに話す。大典太達に協力すると誓った以上、話しておかなければならなかった。
それに、ワリオを苦しめた敵だ。その元凶を彼らが追っているのだとすれば、協力しない理由がなかった。オービュロンは話を聞いたうえで、しっかりと"協力する"との言葉を返した。そんな彼の反応に、サクヤは安堵の表情を浮かべたのだった。
「ではオービュロン殿、これからよろしくお願いいたします!」
「ハイ!コチラコソヨロシクお願いイタシマス!」
「あっ!主君、町長殿がオービュロン殿とお話したいとのことで…。僕、付き添いで行ってきてもいいですか?」
「構いませんよ。寧ろ早く行ってあげてください。待ちぼうけで街をぶらぶらされても困るでしょうに」
ラルゴとの約束を思い出し、前田とオービュロンはいそいそと神域を去っていった。
襖の閉まる音が聞こえたと同時に、サクヤは残った天下五剣二振にこう切り出した。
「言ったでしょう。外の存在というものも、案外悪い者ばかりではないのです」
「どうだかな。1人お人好しが増えたくらいではおれは信じない」
「……鬼丸。そうは言っているがあんた…口元が緩んでるぞ。満更でもないんじゃないか」
「知らん。おれの知ったことじゃない」
「……ふふ…」
オービュロンが協力してくれることに鬼丸も少し嬉しい気持ちを抱いたのか、いつもの仏頂面がほんの少しだけ崩れているような気が大典太にはしていた。
彼が人間に心を開く日もそう遠くないのかもしれない。鬼丸の表情の変化を見て、ふと大典太はそう思ったんだそうな。
Ep.01-2 【宇宙からの来訪者】 END.
to be continued…