二次創作小説(新・総合)
- Ep.01-s2【商人の魂百まで】 ( No.54 )
- 日時: 2022/03/17 22:05
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
「ふぅ…。ここが"リレイン王国"かい。あの人達の姿をちっと見かけたから、ここら辺の人達に話を聞いててよかったぜ」
リレイン城下町の入口である大きな門。その真ん前に、キノコ族の商人が立っていた。
オービュロンが大典太達の協力をすることを決意してから2週間が経過した。
ワリオも無事に回復し、現在ではマリオ達と以前のように宴やカートの大会に勤しんだり、新しい金儲けを企んだりと通常運転に戻った。
その報告を仲間からの通話で聞いたオービュロンは、安堵のため息をついた。約1ヵ月程の失踪ではあったが、"いなくなった" "正気ではなかった" ことは事実である。無事に平穏が戻ったことに、ただただ彼は嬉しさを感じていた。
そんなオービュロンだが、現在はラルゴの手伝いで"西の大陸の文化について調査をしてほしい"と頼まれていた。今後の町同士の連携を行う上で、地球の文化に非常に詳しいオービュロンの知恵が必要不可欠だと彼が判断した上での頼みだった。
彼は今日もエントランスで書物を漁る。リレイン城下町には大きな図書館のような施設は存在しない為、今は城内に存在する文献を借りて"終末の世界の文化"を勉強していた。
「フムフム…。少し離れてイマスガ、北ニどるぴっくたうんガアルノデスネ。アソコハ港町デスシ、交渉次第デハ東ノ大陸ヘ航路モ出来そうデス。
シカシ…。ヤハリ地上ノ移動手段ヲモット増やさネバナリマセン。だいやもんどしてぃニハ駅ガアリマスガ、流石ニソコマデ徒歩デ行くトナルト時間ガカカッテシマイマスネ。空ノ便モアッタ方ガ便利デスヨネ…」
「……今日も勉強か?精が出るな」
「みつよサン!ハイ、ワタシニ期待クダサッタカラニハキチント応えマセント!」
文献の束と格闘を続けているオービュロンの元に、大典太が現れた。どうやら今まで街の見回りを行っていたらしく、戻ってきたところでオービュロンを見つけ、話しかけたのだった。
オービュロンがラルゴの頼みを真摯に受けていることを聞き、内心大典太はホッとした。初日の彼の緊張ぶりからは想像できない程リラックスしていたからだった。
何について調べているのか尋ねると、彼は"西の大陸の交通網"について調べていると答えた。中身を詳しく聞いた大典太は、ラルゴの"秘密の案"についてもバレるのは時間の問題だと目を伏せた。
談笑を続けていた最中、彼らの背後に大きな威勢の良い声が聞こえてきた。その声色に、大典太はどこか懐かしさを覚える。
思わず声の方向に振り向いてみると、こちらの顔を見た"影"が笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
「大典太さん!久しぶりじゃねえか!」
「……あんた。生きていたのか…!」
「オイラを勝手に殺すんじゃねえ!あの邪神に店を潰されてどうしようかって時にお前さん達らしき影を見つけてな。旅人に声かけながら追っかけてたらこの城下町に辿り着いたんだよ。いやー、会えてよかったよかった」
「みつよサン、コチラノ方ハ?きのぴおノヨウニ見えマスガ」
「……キノコ族なことは間違いない。名前を"ジンベエ"と言って…。俺がコネクトワールドにいた時に、主共々色々世話になってたんだ。光に呑まれた後心配していたが…生きててよかった」
「紹介に預かった"ジンベエ"だ。見りゃ分かるがれっきとしたキノコ族だな!がっはっはっは!」
「ヨロシクオ願いシマス!きのぴおハ色々見たコトガアリマスガ、ココマデ威勢ガ良い方ハ初めてデス」
「基本キノコ族は怖がりだったり、気性が穏やかだったりするからなあ。オイラが珍しいってイメージには納得だな!」
「……それで、あんた何をしに来たんだ?店が潰されたとかなんとか言っていたが…」
「あぁ…お前さんに会えたのが嬉しくて本題を忘れかけてたぜ」
影の正体は"ジンベエ"というキノピオだった。水色の法被を着ており、頭に鉢巻を撒いた江戸っ子風情の商人である。実は彼、コネクトワールドにて大典太達を陰からサポートした存在でもある。サクヤと大典太がひょんなことから一時的に仲違いをした時も、仲直りのきっかけをくれたのが彼である。それもあり、大典太は彼に恩を感じ、信頼をしていた。
そんな彼が議事堂を訪ねてきたのである。先に発した言葉の真意も気になり、大典太は深堀してみることにしてみた。すると、ジンベエはしゅんとした表情を浮かべながら口を開いた。
「実は……。オオエドストリートも白い光に呑まれてよ。気がついたら…村ごと跡形もなく潰されちまったんだ」
「ナ、ナンデスッテ?!」
「……俺達のせいだ…」
「違う!大典太さん達は関係ねえよ!邪神がオイラ達の事を邪魔に思って、村ごと消そうとしただけだろ!その後は…村も、建物も、商売もままならねえ。商会は解散、各々路頭に迷うことになったのさ。
それでも……オイラは商人だ。この国は"繋がりの国"って言われてんだろ?だから、街の責任者に何とか土地を提供してくれねえかと思ってよ。後……個人的な用事で、大典太さんに頼みてえことがある」
「……俺に?」
ジンベエから切り出されたのはとんでもない真実だった。そして、アンラの悪事についてまた新たなことが判明した。
邪神はオオエドストリートにまで手を出し、徹底的にサクヤが関わった痕跡を消そうとしていたのだ。オオエドストリートに住んでいた住民は皆無事だそうだが、建物が全壊してしまったことから商売は続けていけない、と会長から解散を切り出されたのだという。
罪のない一般人を巻き込んでしまったことに罪悪感を覚え、大典太は思わず"俺達のせいだ"と口にする。しかし、ジンベエはそんなことを微塵にも思っていなかった。悪いのは全て、破壊しやがったあの悪の神だと。しっかりと告げた。
そして、彼は倒れてもただでは起き上がらない男だった。壊されたのならまた新天地で商売をすればいい。商人の魂が燃え尽きることは無かった。そこで、繋がりの国だというリレイン王国に商売の手立てを相談に来たのだった。
ジンベエが語り終えると共に、町長室からすすり泣きをしながら出てくる人影があった。十中八九ラルゴである。彼はジンベエの話を部屋から聞いており、その境遇に号泣していた。
「ジンベエちゃんっ…!アタシ…アタシ…アナタの悲しみが凄く分かるわっ…!お店が潰される気持ち、とても分かるもの…!」
「ええと、このお方は…?」
「……あんたの探してる町長だ。今呼びに行こうとしたが、手間が省けたな…」
「らるごサンは"伝説ノまま"ト呼ばレテイタラシイデス。みつよサンニ教えてイタダキマシタ」
「―――"伝説のママ"だってえ?!なんでそんな高名な奴が城下町の町長なんてしてんだい…」
「色々あるのよ…グスッ…。それよりもジンベエちゃん。この城下町でお店を開きたいのよね?」
「……切り替わりが早い」
「流石町長、デスネ…」
ラルゴはごしごしと腕で自分の顔を拭いた後、ジンベエに向き直った。彼が城下町に店を構えたいというのならば、援助は必要だ。そもそも、再起が順調に進んでいるとはいえ、まだまだ街は発展途上だと彼は考えていた。そこに新たな風を取り入れられるのなら、積極的に取り入れていきたい。ラルゴは頭の中でそう模索していた。
ジンベエの話を聞いたうえで、城下町の商店街で空いている土地を探す。人は戻って来ているが、まだまだ懐疑心にまみれた住民がいるのは事実。街を信頼してくれるのならば、その声に応えたかった。
「ジンベエちゃん。アナタ、お店を開きたいと言っていたわね。どんなお店なの?」
「オイラの店は雑貨屋だ。色んなところから仕入れた品を売ってる。それに……最近、装飾品作りを続けてんだ。そろそろ売りに出せるくらいにはクオリティが上がって来たから、アクセサリー屋さんも兼ねようと思ってな」
「ふむ…。雑貨屋さん、兼アクセサリーショップね…。これは中々にユニークな組み合わせね。アタシとしても是非、アナタに街で商売をしてもらいたいと思っているわ。
そうなれば、商店街に空いている土地があるか探してこなきゃ…」
「おう。ありがとうな町長。本当に助かるぜ…!」
「お互い助け合いの精神が大事なのよ、人間ってのは!なるはやで調べてくるから座って待ってて~!」
ラルゴが快く商店街に店を出すことを許可した。ジンベエはその答えに思わず顔が明るくなる。やはり彼も上人なのだ。人に物を売って、笑顔にする。それが彼の"生きがい"というものなのだと大典太は感じていた。
早速土地の確認をせねばならない、とラルゴは先程出てきた部屋に猛スピードで戻る。そんな彼のてきぱきとした動きを見つつ、ジンベエは大典太に向き直った。
頼みたい"もう一つの要件"を彼に話す為に。
「……良かったな」
「らるごサンヲ見習わナケレバ、デスネ」
「おう!何とか店も構えられそうで良かったぜ!……で、大典太さん。もう1つの要件、今聞いちゃくれねえかい」
「……あぁ。俺に出来ることならば。何だ?」
「―――これ。見覚えあんだろう?世間では"短刀"っていうらしいな」
「な……!」
ジンベエが取り出した"それ"に大典太は言葉を失った。邪気を纏った短刀を持っていたからだ。霊力と邪気が混じっている為、短刀が何かまでは判別が出来ない。
しかし、それよりも大典太が驚いたことがあった。ジンベエはその邪気を纏った短刀を"直接"握って大典太に見せている。直近にワリオの事件を経験している為、邪神による悪影響が人間にも及びやすいことは心に刻まれていた。
ジンベエは精神力の強い人物であることは分かっていた。しかし、それを抜きにしてもこんなに平常心を"普通の人間が"保っていられるとは思えない。思わずそのことをポロっと口にすると、ジンベエはかっかっかと大笑いをした。
「何言ってんだい大典太さん!商人の魂百までって言うだろ!きっと汚染されないのはそのせいだぜ!」
「……ことわざが違う。それにそんな言葉で片づけるな。直近で、人間が邪気に侵されて暴走した事件を経験したことがある。……正直、あんたがそんなに平気で会話を出来ていることにも驚いているよ」
「エッ。マサカコノ刀、わりおサント同じヨウナ感じナノデスカ?!」
「……あぁ。長い間天界の蔵に仕舞われていたものだ。邪気は相当内に込められているだろう。だから不思議なんだよ…。あんた、なんかしたのか?」
「何もしてねえよ!だが…オオエドストリートにいた時、壊れたオイラの店の残骸に触れて具合が悪かったことがあったんだ。一時は立てなくなるほどだったが、偶然白い制服を来た男の子と、青い着物を来た優美な男がやって来てな!オイラの看病をしてくれたんだよ!
具合が悪かったのも綺麗さっぱり無くなって。いや~、あいつらが通りかからなかったらオイラ今生きてるか分かんなかったかもな」
「(石丸に、三日月…。そうか、あいつらもあいつらで行動していたのか…)」
大典太は明るい口調で経緯を説明するジンベエに、変に納得をしていた。以前邪気をその身に受けたのならば。影響が薄くなるという仮説を建てられる。だからこそ、邪気を纏った短刀に触れても平気なのだと。
そして、石丸と三日月が無事だということも彼の口から語られた。名前は出なかったが、外見的特徴を組み合わせると、確実にあの1人と一振なのだと確信することが出来た。その事実を知ることが出来、彼はほっと胸を撫でおろす。
しかし、本題はそこではない。大典太に頼みたいこと、というのは―――"短刀を何とかしてほしい"ということだろう。三日月が邪気を祓ったのだから、自分にも出来る筈。ジンベエはそう確信して、短刀を見せてくれたのだと。
大典太はジンベエの手にある短刀に静かに触れ、自分の霊力を込める。すると……。想定通り、紫色の靄が短刀から出ていくのが分かった。ワリオの状況と同じだとオービュロンも理解し、その現象をじっと見る。
しばらくすると、紫色の靄は見えなくなる。刀から邪気が消えたと同義と判断し、大典太はそっと刀から手を離した。
「これで…大丈夫なはずだ。顕現してやるといい」
「えっ?オイラが?」
「……事前に邪気に襲われていたとはいえ、あんたなら出来ると思って言ってみただけだ。やって駄目なら俺がやる」
「刀剣男士サンノ"顕現"ヲコノ目デ見れる、トイウコトナノデスネ…!コレモ"かるちゃー"ノ勉強ノ1ツデス」
「ど、どうすりゃいいんだよ?」
「……刀に向かって、心の中で声をかけてやればいい。あんたの声に気付けば、きっと起きて顕現してくれるだろうさ」
大典太に急にそんなことを言われ、しどろもどろになってしまうジンベエ。しかし、大典太はジンベエなら出来ると確信していた。だからこそ提言をしたのだと。彼はそう判断し、大典太に言われたように心の中で刀に呼びかけ続ける。
すると。―――不意に、刀が光ったのを感じた。目の前に光で人型が形成され、姿がはっきりと写る。……影がはっきりと見えたその正体は、金髪に赤い眼鏡をかけた少年だった。
「……うう……。頭がぼんやりする……」
「……その服。"藤四郎兄弟"か。後で前田に確認しないとな…」
「―――は?前田、と言ったばい?!ってことは、俺はもうあの悪い気に悩まなくてよかと?!」
「えいてぃーんぼるとサンニ似た言葉ヲオ話シテイマス!」
「お、おい。お前さんが…。この刀の"付喪神"ってやつかい?」
「そう。博多の商人が得た藤四郎が、俺! "博多藤四郎"たい!」
「……あっ。思い出した。前に前田くんが言ってた刀……」
金髪の少年は"博多藤四郎"と名乗った。そして、邪気を祓ってくれたことと顕現してくれたことの礼を言った。
蔵でずっと苦しんでおり、いつ解放されるのだろうと悲しい気持ちを抱いていたと知り、大典太は再び胸を撫でおろす。偶然が重なった結果ではあったが、また一振助けたことが出来たことに安堵を感じていた。
そしてジンベエは以前、花火大会の日に前田に言われたことを思い出した。"商売の才に長けた短刀がいる"と。それが、目の前にいる博多藤四郎なのだと確信を持った。
「そうか…。お前さんが…」
「ああ、もしかして……俺んこと起こしてくれた人?なら、"主"って呼ばないかんね!」
「あ、主だってえ?!オイラそんな大したことはしてねえよ!それに、お前さんの邪気を祓ってくれたのは大典太さんだい!」
「確かに悪か気ば祓うてくれたんな大典太しゃんだばってん、連れて来てくれたんな君なんな間違いなか。それに、君ん商売魂は俺にも伝わった。仕える理由はそれで十分ばい!」
「……だ、そうだ。商売に詳しい刀なら、あんたの助けになってくれるんじゃないか?」
「それなら…。主って言われるのはむず痒いけどよ。これからよろしく頼むぜ、博多くん!」
「呼び捨てでよか!商売んことならこん博多藤四郎に任せとき!これから、よろしゅうね!主!」
博多は邪気に侵されていた中でも、彼の商売魂を感じ取っていた。前の主を思い出せない今、やれることと言ったら救ってくれたこの主に仕えること。それが自分の最善の選択だと博多は考えていた。
大典太にも背中を押され、ジンベエは遂に博多の主になることを決めた。答えを聞き、ぱぁっと博多の笑顔が花開いた。そんな彼らの様子を見て、大典太は"気の合う関係になりそうだ"と静かに頷いた。
それと同時に、町長室のドアが開いた。大方土地の件が纏まったのだろう。博多のこともすぐに理解し、笑顔でジンベエに話しかけてきた。
「あら!アタシの知らないうちに元気っ子がもう1人増えてるわ!でね、ジンベエちゃん。商店街の中に空き家が何件かあるんだけど…。それを改築する形でなら、お店を開く許可をアタシが出してあげる」
「ほ、本当かい…!?建物を一から建てなくてもいいのは助かるな!是非、それでお願いするぜ!」
「なら、善は急げ!早う空き家ば実際に見に行こう、主!」
「あらあら。いつの間に仲良くなっちゃったのかしら?さ~さ、じゃあリクエストに素早くお答えする為に空き家を見て回りましょうか!それじゃ光世ちゃん、オービュロンちゃん、また後でね!」
「ハイ!イッテラッシャイ!」
「……賑やかになりそうだな」
意気揚々と議事堂を後にする2人と一振に小さく手を振りつつも、大典太は小さくそう零した。
拾っていたのか、オービュロンはその言葉に"賑やかナノハイイコトデス!"と返した。あながち間違っていない、と大典太は彼らの背中を見ながら、再び微笑みを浮かべたのだった。