二次創作小説(新・総合)
- 次回予告 ( No.55 )
- 日時: 2022/03/19 22:29
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――ここは、人とポケモンが共存する現代。
世界のうちの1つ"ガラル地方"にて、ガラルの強者が集うポケモンバトルが開かれようとしていた。
ガラルの北にそびえる巨大な人工都市、シュートシティ。かつてはマクロコスモス元代表取締役社長兼元ガラルリーグ委員長、ローズが開発を進めた街だ。
ここでは毎年、"ジムチャレンジ"のファイナルであるチャンピオンを決めるトーナメントが開かれている。しかし、今回トレーナー達が集まっているのはそのような用事ではなかった。
ローズ失脚後、新たにリーグ委員長に就任したダンデにより、シュートシティでは新たな催しが施されていた。
名付けて"ガラルスタートーナメント"。ガラル中の強豪トレーナーで2人1組のタッグを組み、チャンピオンを目指してお互いに勝負を繰り広げるという大きな大会だった。
そんなシューシティにそびえ立つシュートスタジアムの中にて、少女―――ユウリは今回も優勝するぞ、と意気込んでいた。
傍らにはバウタウンジムリーダーである"ルリナ"と、エンジンシティジムリーダーである"カブ"が立っており、皆で楽しく談話をしていた。
「ルリナさん!カブさん!今日のスタートーナメント、絶対に負けませんからね!」
「ふふ、それはこっちの台詞よ!私も負けっぱなしじゃいられない。ポケモン達と沢山特訓を重ねてきたんだもの。必ず勝利を掴んでみせるわ。ユウリも油断しないでね?」
「ユウリくんもルリナくんも気合十分だね!今日のガラルスタートーナメントに向けて張り切っているじゃないか」
「勿論ですよ!カブさんも気合十分ですね!」
「ああ、当たり前だとも。ぼくとポケモンくん達の更なる絆、このスタートーナメントで全部ぶつけるつもりだからね!」
ルリナもカブも気合十分だと答える。ユウリは彼らの気迫に押し負けそうになるが、それくらい熱意が高いのだと高まる気持ちが止まらなかった。
彼女は単なるバトル好きのポケモントレーナーではない。今ではガラルの新たなチャンピオンなのだ。皆の期待を背負っている以上、負けるわけにはいかなかった。
更に、彼女にはもう1つ気分が高揚する理由があった。興奮したまま、ユウリは2人に口を開いた。
「やっと!やっとです!ネズさんにタッグパートナーの承諾を受けてもらったんですよー!」
「あら、そうなの?良かったじゃない!今までずっと断られ続けてきたんでしょ?」
「はい…。ネズさん、私のこと面倒臭いと思っているみたいで…。今大会の前なんて、話しかける前にお札みたいに顔にタオルをかけられてしまったんですよー!酷くないですか!」
「ははは、ネズくんも君のことが大事なんだよ。あの時は酷く暑かったからね。熱中症になりそうだったのに気付いていたんだろう」
「それでもです!でも、やっとパートナーになる許可を貰えたので…嬉しいんです。そんな初陣なので、絶対に負けられないんですよ!」
そう。ユウリは、スパイクタウンの元ジムリーダーであるネズとずっとタッグを組みたかったのだ。本当は初回からそうしたかったのだが、"きみと組むとトラブルが起きそうなので"と開口一番に断られてしまっていた。
そもそもの話、ダイマックスの暴走事件を一緒に鎮めた後からだった。彼の態度がぎこちなくなったのは。彼は"ユウリは面倒ごとを引き起こす"として遠ざけていたが、マリィと一緒に遊んでいる時に鉢合わせたり、マリィの家にお邪魔する時は言葉とは裏腹に甲斐甲斐しく彼は世話を焼いてくれるのだ。
そんな態度を取り続けていた彼が、遂にユウリからの誘いを受けた。彼女のしつこさに折れたのか、何か別の思惑があったのかは分からない。だが、ユウリにとっては"タッグパートナーになれる"その事実だけで嬉しさが何倍にも膨れ上がっていた。
「気合を入れなきゃネズさんに失礼ってもんです!今まで散々ネズさんに迷惑かけてきて、やっと承諾してもらえた試合だから…私、負けるわけにはいかないんですよ」
「あらあら。試合前に美味しい話をいただいちゃったかしら?」
「えっ?」
「ユウリくん。青春もいいものだが、試合の時はのろけるんじゃないよ。しっかり試合に集中するんだ」
「えっ?!」
ユウリがネズの話をし始めてから、明らかにルリナとカブの様子がおかしい。ルリナはまるで恋する乙女を見守る様に。カブは若人の背中を叩くように。ユウリに対して言葉を返したのだった。
彼女はネズに恋心を抱いているのだ。しかも、周りにはしっかりとバレている程だった。ユウリには周りに知られている自覚が無い為、彼女達の反応にきょとんと返すことしか出来なかった。
そんなユウリをよそに、右側の控室からふくよかな青年が現れる。キルクスタウンのジムリーダー、マクワだった。
「お取込み中すみません。ジムリーダー会議の時間なので、あちらの控室に…」
「あら。もうそんな時間?みんなを待たせたら悪いわね。行きましょう、カブさん」
「そうだね。それじゃ、開始までゆっくり心を落ち着けると良いよユウリくん。緊張したままでは何事も上手くいかないものだからね!」
マクワに連れられ、ルリナとカブはエントランスホールを去った。
そんな彼らの背中が小さくなるのを見届けていたユウリは。ふと自分の放った言葉を思い返していた。何故ルリナとカブがあんな話を切り出したのかが気になったからだ。
……しばらく頭を悩ませている内に、彼女は1つの結論に辿り着く。自分はとんでもないことを2人に暴露してしまったのではないかと。
自覚した途端、かっと顔が赤くなる。このままでは恥ずかしくて試合に出る前に何か言われそうだ。
『な、何やってるの私~~~~~~~~~~!!!!!』
ユウリの叫び声は、誰もいないエントランスホールにただ響くだけだった。
はっとして我に返りきょろきょろと辺りを見回す。運よくエントランスホールは無人である。ジムリーダー以外の参加者もどこかの部屋にいるのだろう。この建物は防音がしっかりしていることに感謝したユウリだった。
時計を見てみる。ルリナ達と別れた時間から随分と時が経っていた。このままでは準備がままならなくなってしまう。そう判断したユウリは、急いで自分の控室へと移動しようと、足を左側に向けた。その、矢先だった。
「(あれ…?あんな人、スタッフにいたっけ…?)」
ふと、目線の先に怪しい人影が見えた。まるで陰の気を纏っているようにユウリには感じられた。ユウリが今まで接してきたスタッフは、皆明るくていい人達ばかりだった。
不審に思った彼女は、控室の方向ではなく怪しいスタッフが歩いて行った方向へと舵を向く。
「(まだ準備の時間はあるし…。そもそも全員到着してないし。見たら戻ればいいよね)」
見たら戻ればいい。そんな気持ちを抱き、ユウリは人気のない場所に歩いていく社員を追って行ったのだった。
―――ユウリがリーグスタッフの影を追ってから30分後。エントランスホールに現れる2つの影があった。
それと同時に、右の控室からも2つ、人影が現れた。彼らは鉢合わせになり、引き摺っていた人物を見てため息をつく。
「わりぃなネズ。ダンデ、またシュートシティで迷子になってたんだってな?」
「まだ街の中でうろうろしていたからいいようなもんです。いつもなら最悪ブラッシータウン辺りまで向かって見つかってますからね」
「アニキ。ジムリーダー会議は終わったよ。準備が終わり次第いつでも開会式出来るから、時間あるうちに着替えてきた方がいいよ」
「そうさせてもらいます。……ダンデ。いくら気持ちのいい温度だからっていつまで寝てるんですか。起きやがれ」
「ふわ……あ?あ、あぁ、すまない。あまりに太陽が心地よくて眠ってしまっていたな!」
「引きずられながら眠るって随分と器用じゃん。オレさまにできるかな…」
「そんなところまで張り合おうとすんな」
迷子のダンデを引き連れて入口からネズが現れた。丁度鉢合わせになったのはキバナとマリィだった。
気持ちよさそうに寝ているダンデに喝を入れ起こす。彼の準備が出来なければ、スタートーナメントは開始できないも同然だった。
頬を強く叩き、しっかりと脳を叩き起こすダンデ。そして、皆が思った通り控室とは逆の方向に歩いて行こうとした。当然キバナに止められる。
「言わんこっちゃねぇ」
「ダンデさんはあたしが送ってくるよ。アニキとキバナさんは話でもしてて」
「わりぃな~」
逆の方向に歩き出したダンデをマリィが道案内する形で彼女達とは一旦別れることにした。
ネズはマリィが自分からしっかり行動できたことに感銘を受けている。妹の成長が身に染みていた。
「妹も成長してんじゃん」
「感慨深いです。けど、少し寂しくもありますね」
そう言いながらキバナはちらりと時計を見る。後10分くらいは話が出来る余裕があった。そうなれば、と彼はネズに最近気になっていた話題を切り出した。
ネズがスタートーナメントを終えた後にしようとしていることだった。
「なぁネズ。この試合終わったら、イッシュ地方に行くんだろ?」
「はい。音楽の分野をガラル以外でも広めたいですし…。それに、他の地方で得た刺激は何よりの作曲のスパイスになります。ま、場所が場所なんで遠征になりそうですがね」
「バトルできなくなるのはオレさま悲しい…」
「おまえとは前に散々バトルしてやったんだからいいでしょうが。今回は、タチワキシティとライモンシティ。2つの街を回る予定です」
「へぇ。タチワキにライモン…。どっちも娯楽に富んだ街じゃねぇの。ほら、ライモンにあるバトルサブウェイ!あれ、オレさま一回挑戦してみたいんだよな~」
「列車に乗りながら戦うっていうユニークなバトル施設ですよね。キバナ、ポケモンに指示する前にすっ転んでたら恰好悪いですよ。きっと」
「キバナさまはそんな恰好悪いことしません!」
ネズはこの大会が終わった後、イッシュ地方への遠征を考えていた。ジムリーダーを引退した今、ガラルだけではなく他の地方の音色も取り入れようという思惑からの行動だった。
丁度、タチワキシティにはバンドをやりながらジムリーダーをしている人物がいる。またルリナからの紹介でライモンのジムリーダーとも謁見の許可を貰っていたのだった。
タチワキには"ポケウッド"、ライモンには"バトルサブウェイ"というポケモンが活躍できる施設がある。特に、キバナは力を発揮したいとバトルサブウェイに参加したいとネズに吐露していた。
「ネズはいかねーの?バトルサブウェイ」
「はぁ…。だから、おれはポケモン勝負をやりに行くんじゃないんです。そこんとこ分かってます?」
「でも、今回の遠征は別にツアーに行くとかじゃねーんだろ?だったら行ってきてオレさまにどんなところだったか感想聞かせてくれよ」
「なんで根っからのバトルジャンキーの為に動かなきゃなんねぇんですか、全く…。でも、確か…噂では、そこを取り仕切っている双子の車掌が地方のチャンピオンと肩を並べるくらい強いって話ですよね」
「そうそう、そうなんだよ!オレさまダブルバトルが得意だからさ、スーパーダブルトレインに一回乗ってみたいんだよな~。で、車掌と戦うんだよ!で、オレさまが勝つ!車掌と一緒に写メ撮ってSNSに流す!ファン増える!オレさま大勝利!」
「で、車掌のファンに炎上させられる、と。というか、そもそもその前に48連勝出来るんです?お前」
「ネズ~~~~!!!!このガラル最強のジムリーダー、キバナさまにかかれば48連勝なんて楽勝よ!……イッシュ地方にはダイマックスないんだし、ネズの方が戦いやすくないか?」
「まぁね。スーパーシングルトレインであれば、シンプルな勝負を楽しめそうだとは思ってます。ダブルは専門外ですし、おれ。
―――ま、暇が出来たら行ってみますよ。おれも丁度腕試ししたいと思っていたところでしたし。……あの双子には少し、借りもありますんでね」
「……???」
他愛のない話を続けつつも、キバナは再びちらりと時計を見やる。予定の10分を過ぎようとしていた。
ネズに準備した方がいいということを伝え、彼らも一旦別れることにしたのだった。
―――お互い反対方向に足を向けた、その時だった。
「……ん?」
ネズの目線の先に、見覚えのあるベレー帽が目に入って来た。そのままじっと凝らしてよく見てみると、ベレー帽の先には茶髪が見える。十中八九ユウリだった。
既に彼女は会場入りして、控室にいてもおかしくないはずだ。しかし、人気のない場所で何をやっているのだろう。
ユウリのことは、マリィと仲良くしてくれているのもあり、もう1人の妹のような存在だと思っていた。しかし、ダイマックス事件の際にあんなことを言ってしまいぎこちない関係になってしまったことを後悔していた。
それは誤解だと説明したかったのだが、彼女といるとトラブルが舞い降りてくることも事実。うまく言えない日々が続き、今日やっと彼女の誘いを素直に受ける決心をした矢先の出来事だったのだ。
ユウリがあんな人気のない場所にいるのがおかしい。ネズはそう判断し、まだ背後にいたキバナに小さく耳打ちする。
「キバナ。すみません。もしかしたら開会式に出席できないかもしれません。ダンデに伝えておいてください」
「んん。お、おう…?」
振り向かずにそのことだけを伝え、ネズはユウリの後を追って行ったのだった。
- 次回予告 ( No.56 )
- 日時: 2022/03/19 22:32
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
ネズは人気のない通路を歩いていた。
ここは、普段ジムチャレンジでの決勝戦でも使わない場所だ。そんな場所にユウリが自分から向かっていたのだ。何か面倒ごとに巻き込まれたと考えた方が早かった。
「ジムチャレンジでも滅多にここは使わねぇのに…なんだってあんな場所に。またトラブルに巻き込まれてんじゃないでしょうね…」
一抹の不安を抱えながら歩いていると、行き止まりが遠目に見えてくる。
そこで、ネズは目を見開き歩みを止めた。そして、モンスターボールに手をかける。
理由は簡単だった。行き止まりでユウリが倒れていたからだ。どうやら意識を失っているようで、起き上がる様子は見受けられない。更には、倒れている彼女の傍にリーグスタッフらしき人間の姿がいた。
倒れている彼女を助けようともせず、寧ろ何か怪しい動きをしているのにネズは気付いた。ユウリが危険な目に遭っていることを確信した彼は、ユウリを助ける為手に掛けたモンスターボールからポケモンを出そうとした。
しかし。
「―――っ?!」
ネズが動き出す寸前、スタッフはボールに向かって"何か"を放った。ネズの手から放たれたそれに直撃し、そのまま床に落ちる。出る筈のタチフサグマが出なかったことにネズは焦りを見せた。
ポケモンを封じられた。そして、リーグスタッフが偽物の可能性が高いことも彼は見抜いた。
「(リーグスタッフじゃない…?)」
そう判断し隠れようと動いたのも束の間だった。
「ぁッ……うぅ……?!」
唐突に腹部に強烈な痛みが襲う。まるで、槍を貫かれたような激しい痛みだった。
恐る恐る腹部を見てみるが、物理的に刺された形跡はない。腹を貫かれた跡もなかった。では何故激しい痛みが襲っているのか。目の前のリーグスタッフをぼやける視界で捉える。目線の先に、五本の指が見えた。あいつに何かされたのだ。ネズはそう悟った。
壁に手をついて追いかけようとするも、痛みと同時に息苦しさも彼を襲う。精神が持たず、そのままネズは床に倒れ意識を失ってしまった。
「何か大きな音しなかった?」
「ユウリもネズもどこいったんだよ…。もう開会式はじまっちま―――!!」
近くにマリィとキバナが来ていた。ネズが倒れた音に気付き、様子を見に来たのだ。
そして、倒れているネズを発見するなり慌てた表情でマリィが兄の身体に触れた。
「アニキ!!しっかりして、アニ―――」
「マリィ…。どうした?」
ネズの腕に触れた瞬間、マリィは思わずそこから手を離してしまう。キバナも気になってネズの様子を見る。彼は既に意識を失っており、身体が徐々に冷たくなっていた。人肌以下に―――氷に近い冷たさに、思わずマリィは手を離してしまっていたのだ。
そして、キバナも気付く。ネズの頬に、黒いツタのような模様が浮かんでいることに。普段、濃いメイクをすることが多い彼だが、こんなメイクは見たことが無い。寧ろ、こんな模様は彼が歌の邪魔になると嫌うものだろうとキバナは推測していた。
「これ…ヤバいやつじゃねーの…?」
「どうして…アニキ……アニキ……!!しんじゃ、やだっ……!!」
ネズが倒れていた進行方向である行き止まりを見ても、もぬけの殻。ネズはどうしてここまで来たのだろうか。考えようとするも、マリィの一声がキバナを我に帰す。"アニキの身体がどんどん冷たくなってる"と。
とにかく、ダンデに報告せねばならない。ユウリも姿を現さない。もしかしたら今日のガラルスタートーナメントは中止になるかもしれない。様々な可能性を頭の中に浮かべながらも、まずは目の前のネズを助けることに意識を集中させた。
ネズを背負う為、キバナは一旦マリィに離れるように指示した。そして、彼の細い身体を持ち上げる。……想像以上の冷たさだった。普通なら凍え死んでいてもおかしくない。しかし、ネズの心臓はしっかりと鼓動を刻んでいる。
何が起こっているか分からない。しかし、動かなければ何も判明しない。マリィに急いでダンデを呼んでくるように頼み、ネズをしょったキバナが動こうとした。
その矢先だった。
「―――マリィ、伏せろ!!!」
「えっ……?」
叫んだが、その声は一瞬で白い光に覆われた。次第にその姿も、立っていた場所も、呑み込まれる。
光が。会場を呑み込んでいく。
まるで全てを浄化するように。まるで、全てを消し去る様に。
白い光は範囲を広げ、巨大な街をいとも簡単に呑み込んでいく。そのままポケモン達と手を取り合っていた一つの地方が。また。1つの歴史から姿を消した。
この先に何があるのか。自分が生きているのか、死んでいるのか。
何も分からないまま。全てが真っ白に染まった。
NEXT⇒ Ep.02-1 【強者どもの邂逅】