二次創作小説(新・総合)
- Ep.02-1【強者どもの邂逅】 ( No.66 )
- 日時: 2022/03/28 22:39
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
リレイン城下町に再び戻った一同は、素早く議事堂へと足を踏み入れサクヤの私室へと足を運んだ。数珠丸は深く立ち入る訳には行かない、と議事堂のエントランスで一旦別れることになった。
別に急いでいる訳ではなかったが、道中会話という会話は無かった。ユウリのこともあるだろうが、揃いも揃って話題を提供できるような性格では無かったのも一因している。
私室の扉を静かに開け、ネズを先に入れて後ろ手で扉を閉める。そして、彼に目の前に何が見えるかを大典太は問うた。
「……目の前に見えているもの。襖と壁、どっちが見える?」
「"フスマ"というものは聞いたことがありませんが…扉のようなものが見えます。これが"フスマ"なのですか?」
「……そうか。ガラルにはそういう文化が無いのか」
「カブさん辺りなら分かると思いますが…少なくとも、ガラルでこういうデザインの扉を見たことはありません」
襖という文化を知らない人間がいるのは当たり前だ。次から同じことが起こった場合、少し言い方を工夫しようと思った大典太だった。
それはともかく、ネズには扉のようなもの―――すなわち、襖が見えている。つまり、神域へ出入り出来る人間だということが確定した。サクヤはやはり未来を見通していたのではないかと一抹の不安を覚えるも、直接聞いた方が早いと考えを切り替え襖を静かに開けた。
その先には、見覚えのある人物が彼らを待ち構えていたのだった。
自分と変わらない奇抜な衣装に身を包んだ一同を見て、ネズは少し目を見開いていた。ネズの様子を見て、前田が安心したようにほっと胸を撫でおろす。
大典太に近くに座ってもいいと言われるが、ガラルには"畳に座る"という習慣は根付いていない。ネズは戸惑った。文化の違いがここまでカルチャーショックを引き起こすとは。もっと勉強しておけばよかったと少し後悔する。
それに気づいたのか、前田が"ここは畳張り、と言って、直に座ってもいい床のようなものです"と捕捉を入れてきた。皆に従い、ネズも静かに腰を下ろした。
「無事に回復なされたようで良かったです!安心しました」
「お世話かけました。お陰でピンピンしてますよ。それで…そちらの眼鏡の方が、あんたの"主"って方なんですか?」
「……あぁ。俺達刀剣男士を取り纏める、主―――サクヤだ」
「サクヤと申します。ネズさん、この度は私の招集に応じていただきありがとうございます」
「ご丁寧にどうも。聞いているとは思いますが、改めて…。おれはネズ。元スパイクタウンのジムリーダー…今はしがないシンガーですよ」
お互いに軽く挨拶を終えた後、早速本題に入ることにした。ネズの身に起きたことの説明と、その前後に起きたユウリの拉致―――。どちらも1本の線で繋がっている。だから、どうしてもサクヤは話が聞きたかった。
そして、アンラが振り撒く呪いにも様々なパターンがあるのだと今回のことで知った。それについても、詳しく話を聞きたかったのだった。
「アンラの邪気に身体を蝕まれたと聞き、心配していたのです。刀剣男士や、以前彼女の側に仕えていた"道化師"という存在が人間を闇に堕とした事象は聞き及んでいましたが…。この世界に来てから、その標的が人間にも広がってしまいました。
更に、ネズさんのような身体を直接蝕むパターンは私も経験したのは初めてですので、驚いたのです。ですが…無事で本当に何よりです」
「一応、おれ達ガラルの人間は…世界ごと一度巻き込まれてるからってのもあるんでしょうね。説明されて、不思議と腑に落ちましたよ。あんた達の話を聞いても拒否感が起きなかったのも、ユウリやカブさんから話を聞いていたせいもあるかもしれないね」
「して、ネズさん。確認なのですが…。ユウリさんは、怪しいリーグスタッフに攫われたので間違いないのですね?それで、この終末の世界でもまだ行方不明だと」
「はい。間違いありません。彼女と…後、ソニアという博士と……一応、非常に面倒くさい双子が行方不明になっています。それ以外のガラルのトレーナーは…大体シュートシティに皆集まっていますね」
「成程…。詳しい状況説明ありがとうございます」
ネズはサクヤに諭され、自分達に起きた一部始終を説明した。言葉にしづらい箇所は、サクヤが質問を投げることで繋げていく。そうすることで、ガラル地方―――具体的にはシュートスタジアムで何が起きたのかが少しずつ鮮明になって来た。
大典太も、話の中で出てきた"怪しいリーグスタッフ"については違和感を覚えていた為、捕捉するように口を開いた。
「……ネズの身体を蝕んでいたものは、確実にアンラの邪気で間違いなかった。ユウリに関しても、俺はアンラの介入があると思っている」
「ですが、ユウリ殿が攫われたのは…終末の世界にガラル地方が混ぜられる"前"のお話ですよね?例えコネクトワールドに一度混ぜられた地方であるとしても、結びつけるのは早い気も…」
ネズの身に起きたこと。そして、怪しいリーグスタッフにユウリが攫われた事実。
ここから導ける答えは何なのか。しばらく沈黙が続く中―――鬼丸が気付いた。そして、声を荒げる。
「―――"分身"か。あの皇帝の側近と同じように、その地域に違和感の無いように擬態をして悪事を働いたというのか」
「……あっ。アンラの分身!確かにそう考えれば辻褄が合います!」
「はい。ネズさんを死の淵まで追い込むほどの呪詛の強さと巡りの速さ。そして、ガラルの現チャンピオンであるユウリさんを、リーグスタッフに変装してまで拉致した事実。
これを纏めると……アンラが秘密裏に、ユウリさんを拉致しようとしことを起こした可能性が非常に高いです。ネズさんはユウリさんを助けようとしたのですよね?恐らくそれで、自分の計画の邪魔になることを示唆し、呪い殺そうとした。私はそうだと考えます」
「ユウリは偶然拉致されちまったんじゃなくて、元々拉致される計画が立てられてたってことですか…?何なんですか。やっぱりトラブルが付き物じゃないですか、あの子の周りには…」
「ネズさん。それで…ユウリさんの件についてなのですが。原因がアンラである可能性が非常に高い以上―――我々も追跡する使命がございます。簡単に言うとなれば…リーグスタッフに変装していた存在の足取りを、我々は今追っているのです」
サクヤの答えは決まっていた。ユウリを拉致した原因がアンラである可能性が高い以上、彼女を追うことでアンラの足取りを必ず追えるとの確信を持った。ならば、協力は惜しまなくしていった方がいいと結論を付けたのだ。
各々が探し求める終着点は、全て1本の道に交わっている。ならば、どんな小さな手がかりでも逃すことは出来ない。ユウリ捜索が、その一歩になるのならば。
「ネズさん。我々一同は、ユウリさんの捜索に全面協力いたします。お約束いたしますよ」
「本当ですか。本当…なんですか。ありがとうございます…!」
サクヤから嬉しい言葉を得られたネズは、安心したようにふわりと笑顔を零した。
化粧の濃い、仏頂面がデフォルトのような青年が急に顔を綻ばせた。どこか大典太に雰囲気が似ていると感じていた鬼丸は、その表情の変化に思わず目を見開いた。大典太も、こういうふうに笑うのだろうか。少し興味が湧いたが、大典太に考えを見抜かれていたようでジト目で睨まれた。
「ネズ殿…。そんな素敵な表情が見れるなんて!僕、嬉しくなっちゃいました!」
「安心しただけですよ。マリィにも良い報告が出来そうです」
ネズの笑顔を見て、前田も嬉しそうに顔を綻ばせる。
そんな穏やかな空気を表すように、大典太の腕の中でゾロアが嬉しそうにこきゅん、と一声鳴いたのだった。
- Ep.02-1【強者どもの邂逅】 ( No.67 )
- 日時: 2022/03/29 22:04
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
本題もつつがなく話し合いが終わり、ネズはスマホロトムに今何時かを問うた。スマホロトムは即座に反応し、画面に現在の時刻を表示する。"15:30" と、パネルにはそう映っていた。
自分が目覚めてから相当時間が経っていると感じていた。あまり遅くなると、妹をはじめ待たせている人々に申し訳が立たない。そう思い、ネズはそろそろお暇しようと席を立とうとした。
そこを、小さく呼び止める声が聞こえた。首を向けてみると、ちらりと大典太が横目で見ていた。
「……そういや。気になったんだが、シュートシティのスタジアムに向かう途中…街中であんたのことを噂している奴らがいた。あんた…有名人なのか?」
「まぁ…ジムリーダーとしては無名でしたが、シンガーとしてはそこそこ名前が知られている自覚はありますよ」
「そうか。で、あれば……」
何故突然そんなことを聞いて来るのだろう。本題は終わったのだからもう自分に用はない筈だ。ネズはそう思っていた。不思議そうにそのまま彼の方向を向いてみると、大典太は静かに頷き、彼にこう提言してきた。
その内容に、思わず周りにいた刀剣男士も言葉を失い目を見開く。彼の口から到底出る言葉ではなかったからだ。
「ネズ。あんた…ここを住まいとして使う気はないか?」
「―――は?」
突拍子もない提案に、思わずネズは口をぽかんとしてしまう。確かに故郷を失ってしまった今、"どこに帰るか"という問題が浮上していた。最悪1日2日はシュートシティでたむろする覚悟は出来ていたが、既にリーグの関係者から身を引いている立場としては、ダンデに相談するのも気が引ける事案だった。
信じられない、という反応を返された大典太はしょんぼりと顔を伏せるも、そのまま言葉を続ける。どうやら冗談ではなく、本気のようだった。
「……あの場にいた全員、シュートシティに住んでいるとは思えない。恐らく、故郷である街が混ぜられて消滅し―――故郷を失っている奴らの方が多いんだろう。
あんた、確か"元"ジムリーダーだとか言ってなかったか。リーグに関係ない人間が部屋を提供されるとは考えにくいんだが…」
「それはおれも考えました。シュートシティにいられるのも数日だということも覚悟はしています。マリィの今後の住まいに関しては、ダンデに何とかさせるので心配はしていません。
ただ…スパイクタウンが消えちまった現状、おれに戻る場所はありません。当然、寝床も手配される可能性は低いでしょうね。非常に。……ダンデなら無理やり押し通して、おれの分も勝手に部屋を用意するんでしょうけど」
「おい。まさか主のあの言葉―――信頼できる人間全員に使うつもりじゃないだろうな」
「……悪いことなのか?」
「私は全然構いませんよ。神域の広さは自由自在に変えられますので。ご希望に合わせて洋風のお部屋やベッドも提供いたします」
「主君…。結構大変なことをお話しているんですが、この状況を楽しんでいませんか?」
「そうですか?どんな突拍子のないことでも捌けなければ神とは言えませんからね。非常識も常識として受け入れる。何事もそう考えねば」
「……あんたのその狂気的なお人好しっぷりが大典太に伝染してるから問題なんだろうがっ…!!」
「あの…。話が取っ散らかっててあれなんですが、本当にいいんですか?」
ネズが悩んでいたことをズバズバ言い当てられ、流石にたじろいでしまう。住居を提供してくれるとなれば嬉しいことに越したことはないが、迷惑をかけるのではないかという気持ちも同時に湧いて出た。
自分が初めてではない、という話をしていたことから、以前も同じような話題を別の人物に提言したのだろう。しかし……例えシュートシティにずっと滞在していたとして、逆に有名人が集まりすぎて大変なことになるかもしれないとも思い始めた。唯でさえ、著名なジムリーダーや選手が一か所に集まっているのだ。今後マスコミ等が彼らのことを聞きつけ、厄介ごとに巻き込まれるかもしれない。
だったら。彼らの話に乗ってもいいのかもしれないとネズは考え、大典太に確認を促すように"本当にいいのか"と再び口に出した。彼は静かに頷き、自分の考えを彼に告げる。
「……主がいいって言ったんだからいい。それに…俺自身が、あんたに興味がある」
「…………」
「大典太さんっ…!」
大典太が他人に―――しかも人間に興味を持った。その事実が鬼丸の頭を混乱させる。隣では、何故か前田が感極まって号泣している。ネガティブな彼の成長に感動しているのだろう。
その言葉を聞いたネズは考えることを止めた。そして―――大典太に、一同に、改めて向き直り直角に頭を下げた。
「おれ、だめなやつだけどさ。住居提供してくれて、ユウリ捜索も手伝ってくれるなら…おれも、出来ることであればあんた達に協力します。これから、世話になります。よろしくお願いします」
ネズが神域で世話になることを決意した瞬間だった。
そんな彼の丁寧な挨拶に、サクヤはかしこまらなくていいと顔をあげるように諭したのだった。
ネズがリレイン城下町にしばらく世話になることをラルゴに伝える為、一同は一旦神域から出て彼に挨拶をしに向かった。
エントランスに差し掛かったところで、白いもちもちの小さな生命体と鉢合う。オービュロンはこちらに気付き、安心したように表情を綻ばせながら近付いてきた。
「無事に回復サレタ様で良かったデス!ワタシも安心シマシタヨ!」
「えーっと…」
「ネズさん。ほら、貴方をここまで背負って来てくれた金髪の女性がいましたよね。彼女が、こちらのオービュロン殿です」
「スミマセン、びっくりサセテシマイマシタ。ワタシ、コッチが本来の姿ナノデス。コノ街の人はワタシのコノ姿を見ても驚きませんが、流石に見知らぬ街を見に行く時に驚かれるノハ控えたかったノデ、チキュー人に擬態シテイタノデス」
「成程。ゾロアのイリュージョンみたいな感じなんですかね」
「ワタシはぽけもんではアリマセンヨ!」
「似たようなもんでしょう」
つまり、目の前の宇宙人に助けられなければ自分の命は無かった。ネズはそう結論付け、オービュロンにも改めて丁寧に礼を言った。オービュロンはその言葉に嬉しそうに反応しつつ、地球人は助け合いの精神が大切だと持論を述べた。
その間に大典太がラルゴに連絡を入れようと町長室に入ったのだが、すぐに戻ってきた。どうやらラルゴは今外出中でいないらしい。戻ってくるまで、暇を持て余すこととなった。
ネズは忘れないうちにスマホロトムに、マリィに繋ぐことを指示した。キバナとの約束は守らなければならない。正直、話がとんとん拍子に進んだのも彼が空気を読んでくれたお陰なのも一理あったからだ。
しばらくスマホロトムの機械的な音を耳にした後、聞きなれた妹の声が聞こえてくる。画面の向こうには、いつも通りのむすっとしたマリィの姿があった。
「マリィ。今しがた話が終わりましたよ」
『遅い!キバナさんとダンデさん、もう3回もバトルしてたと!全部ダンデさんが勝ってキバナさん凄く落ち込んでたよ』
「あらまぁ。それはキバナにご愁傷さまと言っといてください。……それで、ユウリのことなんですが。捜索に全面協力してくれるそうです。まずは一安心ですよ」
『本当?!良かったぁ…。ならユウリ、はよ見つけんとね』
『そっか~。探してくれる味方が増えると心強いもんな!』
「キバナ、傷は癒えたんです?」
『癒えてる訳ない!ちょっとした読みを間違えて2回もダンデに逆転されるしよ~。話をして気を紛らわせないと自分のミスにまた悪循環しちまう。反省会は後にするって決めてんの、今日のオレさまは』
「はいはい、そうですか。それで…もう1つ報告があるんですけど。おれ、これからしばらくこっちのリレイン城下町で世話になることにしたんで。まぁ、有名人が揃いも揃ってシュートシティにいたら、後々面倒なことに巻き込まれるのは目に見えてますからね」
ユウリ捜索を協力してもらえることになった件と、リレイン城下町―――正確には神域に住まうことになったことを伝える。流石に神域のことは外に漏らさないでほしいとサクヤから釘を刺されていた為、言葉は濁して説明をした。
すると、無表情を貫いていたマリィがちょっとむくれたような表情になった。そして、画面の向こうのネズに向かって"ずるい"と声をあげた。
『アニキだけずるい!マリィもリレイン王国気になるけん!』
「あのですね、マリィ。おれは別に遊ぶ為にここに世話になるわけじゃないんです。おれはもうリーグ関係者じゃないんですし、シュートシティに住居を拵えてもらう立場ではないんです。そのことを話したら、城下町の方が快く住居を提供してくださったので。そのお言葉に甘えるだけですよ」
『だったらあたしもそっち行きたい!結果的にガラル地方滅茶苦茶になっちゃったし、しばらくジムチャレンジは休まなきゃいけないってダンデさん言ってた。ジムリーダーの仕事もしばらくお休みだよ』
『ネズ~。連れないこと言わないでオレさまにも城下町紹介してよ~。映えスポットとか、美味い飯とか、賑やかな街の人とか、魅力は沢山あるんだろ?オレさまのSNS使えば拡散も一瞬!もっと賑やかな街になるの間違いなし!』
『それに、リレイン城下町にはどれだけ強いトレーナーがいるかもオレは気になる。折角だからバトルを申し込みたいぜ!』
「ダンデ、ポケモンの"ポ"の字も分からねぇ連中がそこかしこにいる街でそんなこと企むんじゃねぇ」
いくら説得してもマリィは"自分もリレイン王国に行きたい"の一点張りである。更に、キバナとダンデも会話に参加し始めてしまい話がばらつき始めてしまった。映えスポットを求めているキバナはともかく、ダンデに至ってはリレイン王国にもポケモントレーナーがいると信じ、勝負を申し込もうとまでしている。
自分も向こうのご厚意に甘えるだけだ、と説明しても全員聞く耳を持たない。流石のネズも頭を抱えた。……そんな会話を聞いていたのか、前田がひょっこりと画面に現れこう提案をした。
「……あの。ネズ殿が議事堂にお世話になることを、これから町長殿に伝えにいかねばならないのです。もしよければ、一緒にマリィ殿やキバナ殿のお部屋の手配も交渉してみましょうか?」
『えっ?いいんですか?』
「はい。町長殿はどんな人でも"悪意が無ければ"基本受け入れる方なので…。流石にダンデ殿は、シュートシティの責任者として見られていますので無理だとは思いますが…」
「……前田は話し合いが上手い。きっといい方向に話を転がしてくれる筈だ」
「買い被りですよ大典太さん!ですが、やってみたいです。僕に任せてくれませんか?」
『だったらお願いしたい!ネズのさっきの言葉には割と同意してるし、ダンデもこれからのことは今から決める予定なんだろ?』
『そうだな…。リーグはしばらく休まなきゃいけないことはほぼ確定しているが、それ以外のことについては全く方向性が定まっていない』
「それに、ネズ殿の妹君と交友関係の深いご友人、ということであれば快く部屋を提供してくださると思いますよ」
『ありがとうございます!』
「まだ決まった訳ではありません、妹よ」
どうやら前田が、ネズの報告と一緒にマリィとキバナに部屋を提供する―――リレイン城下町へ世話になる交渉をしてくれるらしい。あの町長のことだから快く頷いてくれるとは思うが、と口添えすると2人は嬉しそうな表情を綻ばせた。
嬉しそうな画面の向こうの彼らを見て、ネズは1つ大きなため息をつく。しかし、顔は満更でもなさそうだった。
「では、交渉が上手く行ったら明日シュートシティまで迎えにいくので…。今日中に荷物を纏めておきなさいよ」
『うん。アニキ、待ってるね!』
『オレさまも今日中に色々準備しとこ~っと』
明日迎えに行く、とだけ伝えスマホロトムに通信を切る様に指示した。その後、ネズは大典太に向き直り"妹と友人共々世話になります"と改めて頭を下げた。
大典太は流石にかしこまりすぎだと頭を上げるように言った。メイクで誤魔化してはいるが、顔つきが幼い為恐らくギリギリ成人していないのだろうと大典太は推測していた。それでこの礼儀正しさである。かなり苦労してきたのだなとふと、彼は思った。
「主君がネズ殿だけに話を通してきた以上、恐らく襖は見えないものと思われますが…。一応、それ前提で交渉してみますね」
「危険に冒されなければ何でも構いません。よろしくお願いします」
話し合っていると、玄関の方から軽快に歩いて来る高いヒールの音が聞こえてくる。ラルゴが外出から戻って来たのだ。彼はエントランスで待っている一同に反応し、明るく声をかけてきた。前田がネズ、そしてマリィ達のことについて話があると告げると、彼は"準備を急ピッチで進めるから少し待っててほしい"と急いで町長室へと戻った。
これはいい方向に話が進みそうだ、とネズは口角を上げつつ、大典太に向き直る。そして、グローブが嵌っている手をずい、と差し出した。
「…………?」
「握手、です。ガラルでは友好を示す挨拶ですよ。さっき言ってくれた言葉、嬉しかったです。不思議とおれも、きみとは気が合いそうだと思っていたからね」
「…………」
差し出された手に、大典太は思い出した。そういえばサクヤとあの世界で再会した時も同じことを望まれたと。あの時は恐怖が勝り、彼女に声をかけられるまで手を握り返せなかった。
しかし、今は違う。彼女の元で刀剣男士として世界を見て、少しは世界のあり方を学んだつもりだった。差し出された手に、大典太は静かに自分の手を合わせる。そして、握手を交わしたのだった。
「……俺からも、よろしく頼む。どうせ役に立たん刀だとは思うが…」
「やっぱり似ているね、おれ達。マリィの言っていることが今でもよく分かります」
「……そうだな」
握手をし終えたと同時に、ラルゴのいた部屋からガチャリとノブが回る音が聞こえてきた。諸々の準備が出来たらしい。
彼の声に従い、一同は町長室へと向かって進んでいったのだった。
Ep.02-1 【強者どもの邂逅】 END.
to be continued…