二次創作小説(新・総合)

Ep.02-s1【夢の邪神の幸せなお店】 ( No.68 )
日時: 2022/03/31 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ネズとマリィ、そしてキバナがリレイン城下町に世話になることが決まった当日の話だった。
 現在ネズは一旦シュートシティに戻り、手続きの件をダンデ達に説明している。その日はシュートシティのホテルに泊まらせてもらうことになり、翌日マリィとキバナと共に城下町へと戻ってくると話が纏まった。
 彼が帰ってくるのも最低でも翌日の午前中になるとのことで、唐突に自由時間が出来た刀剣男士達は各々目的を見つけ過ごしていた。

 そんな中、大典太はエントランスで珍しい2人を見かける。羽のように長く白い髪を揺らした炎のような男性と、正に"真っ白"が似合う男性。サクヤが神域に籠るようになると同時に、身を隠しているのか中々姿を現さなかった2人組だった。
 名をアクラル、アカギと言った。サクヤと同じく彼らも"神"と呼ばれており、それぞれ朱雀と玄武の力を受け継いでいる存在である。



「……珍しいな。こんなところで鉢合うなんて」
「ん?あっ、光世ー!本当に久しぶりだなぁ」
「……あぁ。全然見かけないからどうしたものかと思っていたが…。姿を隠して情報収集をしていたんだな」
「アンラに勘付かれるとヤバいから…隠れてだけど…」
「……そうなのか。それで…情報は集まっているのか?」
「いいんや?あいつ、姿隠すの上手すぎだろ!って感じに見つかんねー。目ぼしい情報は0だぜ。でも、定期的に顔出さねーとオメーら心配するかと思ってよ。アカギと話し合って今日くらいは顔出そうぜってここまで来たんだよ」
「……成程」



 どうやらアクラル、アカギ共に現在は姿を隠しながらアンラの本体の情報を集めているらしい。確かに悪の神を潰し、世界を元に戻す手立てを見つけるならば情報は多いことに越したことはない。しかし、アンラも大胆に動いているとはいえ重要な情報は絶対に表に出さない。アクラルもアカギも収集には難儀しているようだった。
 分かりやすく落ち込む彼らに、大典太は"敵が大きすぎるんだ。仕方がない"と慰めることしかできなかった。



「……主には会っていくのか?」
「出来るならそうしたいけどよ。あいつ、神域から出てきてねーんだろ?」
「……あぁ。だが、最近主が俺達の信頼した奴なら神域に住まわせてもいいって言い始めたから…。あんた達でも入れる可能性は充分あると思う」
「そうか…。サクヤも色々考え方が変わったのかもな…。前なら絶対に、頑なに俺達ですら入れなかったもんな…あの神域に…」
「誰にも気づかれない、どこの空間からも切り離された場所だかんなあそこ。ま、それほどオメーらが信用されてるって考えて良いんだけどよ。サンキュ、光世!後でサクヤに顔出してから帰るわ」
「……そうしてくれ。主も喜ぶだろう」



 サクヤのことについても現状を話し合いつつ、雑談を続ける2人と一振。
 そんな彼らの耳元に、聞き覚えのある間の抜けたのんびりとした声が響いてきた。



「あ~っ。お久しぶりですみなさん~!」
「この声…。まさか」
「まさかじゃなくてもハスノで間違いない…。あんなのんびりした声はあいつしか出さない…」
「……あの夢の邪神だけじゃなさそうだな。傍らにいるのは…刀剣男士?」



 声の方向を振り向いてみると、こちらにゆっくりと手を振って駆け足で向かってくる女性の姿があった。栗色の髪をポニーテールで纏めた、ふわふわとした印象の女性だった。その傍らには、眼帯を付けたホストのような印象の男性が佇んでいる。大典太と同じ雰囲気を感じるのと、腰に刀を提げていたことから彼は"自分と同じ存在だ"と判断した。
 女性―――ハスノは大典太達の元で立ち止まると、再会を喜ぶかのようにふわりと笑顔になった。



「大典太さん~。皆さん~。お久しぶりです~。無事だったようで何よりですよ~」
「ハスノ…。あれ、オメー1人なのかよ?一松とトド松は?」
「それが~。この世界で目覚める前に、アンラにお店を物理的に破壊されてしまいまして~。一松さんとトド松さんともはぐれてしまったんです~。今探してるんですけど~、全然見つからなくて~」
「行方不明なのか…」
「……それで。こっちの男は誰なんだ?気配からして…俺と"同類"のように見えるが」



 ハスノから現状を聞いて一同は驚いた。なんと、アンラはハスノの経営していた店まで徹底的に潰していたのだ。彼女の元上司であったアシッドも被害を受けていたことから、予想は出来ていたことだが…。あまりにもアンラのやることの悲惨さに、大典太は心を痛めた。
 しかし、気になるのはそれだけではない。眼帯を付けた刀剣男士が何故彼女と共に行動をしているのか。それについて尋ねると、ハスノは間延びした声で考えつつも、こう答えた。



「実はですね~。私がこの終末の世界で目を覚ました時にですね~。偶然傍らに刀が見えたので回収したんです~。それで、顕現してみたら彼が現れまして~」
「僕は"燭台切光忠"。伊達政宗公が使ってた刀なんだ。格好良く決めたいよね」
「燭台切…」



 ハスノの紹介で刀剣男士が自己紹介をした。彼は"燭台切光忠"と名乗った。伊達政宗が使用していた太刀であり、備前長船派の事実上の祖といわれている刀工、光忠の作である。
 彼女が簡単に"燭台切を顕現させた"と言い切ったのにも驚いたが、問題は彼から感じる霊力の方だった。燭台切も天界の蔵に仕舞われていた刀で、本部を破壊された時に強奪されていた筈である。それなのに―――大典太には、彼からは"アンラの邪気"を感じることが出来なかった。
 小狐丸ですら、アシッド自身での解呪は不可能だと言わしめたことは事実である。それなのに、何故目の前の彼からは邪気を感じないのだろう。不思議に思って問い返してみると、ハスノはうんうんとゆっくり頷いて口を開いた。



「大典太さん~、邪気のことに関してはですね~。私が全部取り祓っておきました~。呪いの類なら、同じ邪神ですので"軽度であれば"私達にも解呪が出来るんですよ~」
「……そう、だったのか。知らなかった…」
「ニアさんもアマリーさんも今どちらにいらっしゃるのか分かりませんし~、私は夢を持つ人間の皆様の味方ですので~、その人間をお助けする刀剣男士さんが苦しんでいるなら助ける義務があるんです~。でも、あまりにも呪いが浸透してしまっていた場合は~、私達でも解呪は無理なんです~」
「僕は本当に幸いだったということだね…。小狐丸さんは大変だったそうだから」
「邪神なら解呪が一部出来んのか…。なぁ光世。今、呪いの解呪ってお前一振でやってんのか?」
「……そうだ。他の天下五剣も一応出来るが、今のところ俺が一番適任だからな…」
「ニアを探し出せば…解呪の手伝いをさせられるとか思ったが…。あいつはそうすんなり協力してくれる奴じゃないのを今思い出した…。ハスノが例外中の例外なだけだ…」
「アマリーさんも、自分の害にならなければ協力してくれるはずです~。もし見つけたら、私から話をしてみますね~」



 邪神も"軽度の邪気であれば祓うことができる"。その事実に大典太は驚いた。事実、今まで呪いの類を祓ってきたのは自身を始めとする天下五剣の役割だと思っていたからだ。だが、実際に目の前の燭台切からは邪気か感じられない。彼女の言っていることは本当なのだと改めて思い知った。
 であれば、ニアに頼めばいいとアカギは言ったがすぐに考え直した。彼女は邪神の中でもとにかく厄介な存在。そう人間の利になることを進んでやるだろうか、と思い直し発言を撤回した。
 そのまま話を続けていると、町長室の方向からガチャリと音がした。ハスノはそれを聞いて、本来の目的を思い出す。



「あっ!思い出しました~!私ここの城下町にレストランを建てたくて、責任者さんにお話を伺いに来たんでした~!」
「そうだったのか?!だったら早く言えよ!ラルゴ連れてきたのに!」
「気になるお話がいっぱいで寄り道をしてしまいました~!あの~、すみませ~ん!」



 ラルゴの元へハスノは走っていく。何故彼が町長だと知っているのかと不思議に思った一同だったが、彼女が街の人に話を聞いたことをふと思い出した。恐らくその中で、ラルゴの話が出たのだろう。
 ハスノがラルゴと共に町長室に入って行ったことを見守りながら、燭台切にも行かないのかと催促する。しかし、彼は首を横に振った。



「まだ話し合いの段階だからね。僕が横から入って話をややこしくしても不味いだろう」
「……あんた、あいつと契約したんじゃないのか?」
「ううん。助けてもらったし、僕もそうしようと話を持ちかけたんだけどね?頑なに断られてしまってね…。でも、何か礼がしたかったからさ。"料理が出来る"と言ったら、レストランの従業員として僕を雇って貰えることになったんだ。僕の新たな主にふさわしい人物も、一緒に探してくれると約束してくれたよ」
「……何故神の類は契約を拒むんだ?白虎に関しても、数珠丸からそう聞いた…」



 大典太は、てっきり燭台切とハスノが契約を果たしていると勘違いをしていた。しかし、燭台切はそうではないと答えた。彼も一度そうしようと契約を持ちかけたが、ハスノに断固拒否されてしまったらしい。しかし、従業員として雇ってくれるとは言った為、大典太は更に訳の分からないという顔をした。
 アカギも以前同じようなことを数珠丸に言っている。何か契約が出来ない理由があるのだろうか。ならば、サクヤは何故自分と契約をしたのだろうか。考えを脳内が駆け巡る。
 そんな彼の様子を見て、燭台切は自分なりの考えを述べた。



「うーん。僕の推測なんだけど聞いてくれるかな。大典太さん」
「……構わない」
「僕も記憶に霞がかっている箇所が多いからはっきりとは言えないんだけどね。どこかの本丸で…こんな話を聞いたことがある。"霊力の差があまりに大きすぎると、契約した途端に双方に害が起こる"ってさ。それを防ぐ為に"仮契約"というものが存在しているという話だね」
「……霊力の無い者が、霊力の豊富な刀と契約すると…双方に悪影響が起こるということか」
「簡単に言えばそうなるね。刀の方に悪影響が大きすぎると……最悪、契約した途端に折れてしまうらしい」
「…………」
「もしかしたら、彼女はそれを危惧して僕との契約を拒んでいるのかもしれない。彼女…人間ではないんだろう?」
「……そうだな。あいつ自身も言っていたが、"邪神"の類だ…」



 燭台切の推論を聞いて、どこか大典太は納得していた。確かに双方の霊力の差が大きすぎると、どちらにも悪影響を及ぼすことがある。だからこそ、神々は刀剣男士との契約を拒むのだと。
 もしかしたらサクヤが最初、契約を渋っていたのはそれも一因しているのかもしれないとふと思った。彼女の場合は、刀剣男士を傷付けたくないという恐怖心の方が大きかった訳だが。

 その後、彼と少し話をしていた矢先だった。ラルゴとハスノが上機嫌で部屋から出てきた。どうやら、レストランを開くのにピッタリの空き物件があるとのことだった。
 ラルゴとしても、城下町の人が楽しく食事を出来る場所が増えるのは大歓迎だった。ハスノの願いをしっかり叶えてあげたいという気持ちが、仕草からよく分かった。



「燭台切さ~ん!とってもいい物件が何件かあるそうなので、一緒に見に行きましょう~!」
「了解だよ。ということで大典太さん。僕もこれからしばらくこの街で世話になるから…時間が空き次第他の刀剣男士にも挨拶に行こうと思う。これからよろしくね」
「……了解した。鬼丸達にも伝えておくよ」
「うん。そうしてくれると有難い。君達も、レストランが出来たら気軽においでよ!僕が腕を振るうからさ!」
「……楽しみにしてる」




 そう言って、燭台切は意気揚々と議事堂を後にした2人を追いかけたのだった。
 彼の背中を見守りながら、大典太は"これからもっと賑やかになりそうだ"と思わず微笑みを浮かべたのだった。