二次創作小説(新・総合)
- Ep.02-s2【襲来!エール団】 ( No.69 )
- 日時: 2022/04/01 22:45
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
ハスノと燭台切が城下町に来た翌日。予定通り、ネズがマリィとキバナを連れて議事堂へと戻ってきた。
元々シュートシティには手荷物しか持ってきていなかった為、3人とも着替え等はこの城下町で揃えるつもりだった。エントランスで待っていた大典太達と軽い挨拶を済ませ、マリィとキバナはラルゴに手配された部屋に案内してもらうのだった。
少し時間が経った後、2人がエントランスに戻ってきた。ラルゴからの説明も一通り終わり、各々自由時間となったのだ。
しかし、3人共この城下町のことは右も左も分からない。しかし、流石に生活必需品を揃える場所くらいは覚えておいた方がいいとの大典太の助言で、まずは彼に商店街を案内してもらうことになった。
「改めて、マリィといいます。アニキ…ネズの妹で、今はスパイクタウンのジムリーダーをしています。よろしくお願いします」
「オレさまはキバナ。ナックルシティって街でジムリーダーをしてるんだぜ!これからよろしくな!」
「……丁寧な挨拶感謝する。どっちもジムリーダーなんだな。妹がネズから引き継いだことは聞いているが…」
「マリィはおれよりもポケモン勝負の才能がありますし、キバナはガラル最強のジムリーダーと言われています。2人共相当実力があるポケモントレーナーですよ」
「そう言ってるネズも、ダイマックス無しでオレさま追い詰める超強いトレーナーだぜ!」
「余計なことは言わねぇで良いんですよキバナ。……で、商店街を案内していただけるんでしたよね」
「……あぁ。ここからならすぐだし、道も分かりやすい。何か必要になった時に、覚えておかねば不便だと思ってな…」
「私物、全部なくなっちゃったけんね。大典太さんの言ってることは正しいよ」
これから割と時間があるとはいえ、商店街も広い。1つ1つ説明するならば出発は早い方がいいだろうと考えた大典太は、早速商店街へ行こうと3人に話した。今日は彼に従うと決めていた3人は、素直に大典太の後をついて行く。
もう少しでエントランスを出られるという最中だった。ネズが誰かの足音に気付き、大典太に待ったをかける。
「すみません。止まってもらっていいですか」
「……どうした?」
「誰か…いや、大勢がこっちにかけてくる足音が聞こえてきますね。それも急ぎで」
「……分かるのか?」
「おれ、耳は良い方なんで。しかもこの足音……」
ネズが足音の正体を悟ったのか、大きくため息を吐いた。彼の関係者なのかと戸惑ったと同時に、玄関を駆け抜けてこちらへやってくる大勢の人の姿があった。外にいた住民のざわざわした声も耳に入ってくる。
大典太が見たその人物は、全員似たようなパンクファッションだった。ネズが身に着けているインナーと同じようなデザインのシャツを来ている人物もちらほらといた。彼の関係者なのかとネズに問おうとすると、彼は頭を抱えていた。十中八九彼の関係者だ、と大典太は確信した。
大勢の人物は、目的の人物―――ネズとマリィを見つけて一斉に号泣し始めた。
「何やってるんですかおまえ達…」
「ネズさぁぁぁぁん!!!お嬢~~~~~!!!今までどこに行ってたんですかぁ~~~~~!!!」
「私達ずっと探してたんですよ~~~~~!!!ガラルスタートーナメントの開会式も流れずに、あらゆる放送局にノイズが入ったと思ったら意識を失って、気付いたら見知らぬ場所に転がされてるんですもん~~~~!!!」
「あらまぁ」
「……ええと。こいつらは?」
「うちのジムを支えてくれるジムトレーナーの人達だよ。まぁ…元々あたしの応援団をしてくれていたけん、その名残で"エール団"って言われてる。アニキはその団長なんよ」
「……はぁ。成程…」
大勢でネズに泣きつく姿を見て、大典太は言葉を失った。しかし、マリィから説明を受けて納得する。彼らは純粋にこの兄妹を心配してずっと探していたのだと。となれば、見つかれば号泣して縋りつくのも当たり前だった。
ネズは抱き着いて来るエール団を1人ずつ対処し、落ち着かせていた。
「連絡が遅れて済まなかったね。ですが……公共施設でギャーギャー騒ぐんじゃねぇ。街の方々に迷惑をかけるんじゃないんですよ」
「スンマセンっ!!」
最後の1人を座らせたと同時に、ネズが説教を始めた。流石に今回の騒ぎはお咎めなしとは行かなかったようだ。まるで慣れたようにエール団に正座させている姿を見て、もしかしてこれは日常茶飯事なのではないかという考えが大典太の中に生まれる。
マリィに疑問をぶつけてみると、彼女は冷静に"そうだよ"とだけ答えた。ネズも苦労しているのだな、と内心思った。
しかし、ネズもネズである。説教をしている場所がエントランスのど真ん中な為、議事堂に用事のある住民には非常に邪魔になっていた。
「なんか後ろでまごまごしてる人、オレさま見つけちゃった」
「アニキ、説教はいいけどお客さんの邪魔になっとるよ」
「……あっ。すみません。すぐに除けます」
マリィの声はネズにすぐに届き、彼はエール団をエントランスの端に移動させた。言いたいことは言い切ったのか、ネズはそれ以上彼らに追及することはなかった。
それと同時に、エントランスで騒ぎが発生していると察知したのかラルゴが町長室から出てきた。そして、エントランスの人数を見てにこやかに笑った。
「あら~?すっごく賑やかな声がしてたから出てきちゃった。どうしたの?」
「騒いじまいましたね。申し訳ありません」
「いいのいいの!それで…この子達は?」
「あの…スパイクタウンに帰れなくて困ってるんです。俺達エール団だからスパイクタウンに帰らないと…」
「…………」
ラルゴが疑問を口にすると、黙っていたエール団がぽつぽつと現状を話し始めた。どうやら彼らはシュートシティとは離れた場所で目覚めたらしい。何とか集まった人数でネズとマリィを探そうという話になり、旅人に話を聞きながらこの城下町を目指して歩いていたのだった。
彼らの話を聞いて、ネズは相槌を打った。ダンデに頼めばシュートシティで預かってもらえるとは思うが…以前エール団はジムチャレンジで悪事を働いた過去がある。街の住人がどう思うか、彼には簡単に予想が出来た。
「申し訳ねぇんですが…。スパイクタウンには帰れません。この世界に飛ばされちまった時に消えたみたいです」
「えぇ~~~っ?!じゃあどうするんですかネズさん!!」
「シュートシティにおまえらを預かってもらうことも考えたんですが、ダンデは良くても街の人間が嫌がると思うんですよね。それで…今凄く困ってます」
「リレイン城下町にもこれ以上迷惑はかけられないし…。いっそあたし達で集落新しく作っちゃうとか」
「余所者が世話になり始めた時に言う台詞ではありません、妹よ。はぁ…こんな時に決断が渋るなんて、やっぱりおれはだめなやつです」
「……数人ならなんとか出来るとは思うが、こう大勢だとな…」
「ナックルシティもないから、オレさまも何とも言えないんだよな~…」
「あら。そんなことないわよ?帰れないんだったら、城下町に住んでもらえばいいもの!」
エール団をどうするか。対処に困っていた一同に、ラルゴが待ったをかける。彼女はさも当然のように"リレイン城下町で預かりたい"と言ってのけた。
流石に軽く口に出てきたその言葉に、ネズは思わず"は?"と声を荒げる。ラルゴはそのままネズに説得を続けた。
「それに、さっきマリィちゃん言ってたじゃない。"エール団はスパイクタウンのジムトレーナーだ"って。だったら、ポケモン勝負だってそこそこできる筈よね?」
「うん。うちのスパイクジム、ジムチャレンジの時は後半を担当することが多いけん。だから、みんな実力に見合うように努力はしとるよ」
「それに、エール団はマリィちゃんの応援団なんでしょ?マリィちゃんは今日からこの街に住むんだから、こんなにいい条件はないわよ!街の警備も兼任してくれればいいもの!借家だって言ってくれたら用意するわよ」
「……ちゃっかりしすぎている」
「言動のスケールと口にする軽さが比例してないんですよ、この町長。今おれはそれを確信しました」
「……慣れてくれ。こいつはいつもそうだ」
エール団が有事に対応できる人物だとラルゴは見抜いて、故郷が無くなっているならうちの街を警備してもらえばいいと軽く言い切った。確かに、シュートシティ以外のガラル地方の街が消えてしまった以上、スパイクタウン"だけ"が残っている可能性は非常に低い。エール団の方向を向いてみると、マリィがここにいるなら是非やらせてほしいという声がちらほらとネズの耳に入っていた。
大きなため息をつくネズの肩をキバナがポン、と叩いた。
「ネズ~。ため息つくと幸せが逃げるぞ?」
「予想外のことが同時に起きすぎて頭がついていけてないんです。ため息くらい吐かせやがれ」
「……でもさ。アニキ。エール団のみんなやる気十分みたいだよ。スパイクタウンを探すことも諦めてないけど、まずはお嬢が無事ならそれでいい、ってさ」
「はぁ~……」
マリィの意見を聞き、ネズはまたしても深いため息をついた。そして、何かを決心したようにラルゴに向き直ったのだった。
そして、ネズは背筋を伸ばし直角に頭を下げる。その行動に一同は一瞬驚くも、彼はその姿勢を崩すことはなかった。
「うちの連中をお願いします。町長。賑やかな奴らですが…みんな、良い奴なんで」
「うふふっ。勿論よ!城下町の力になってくれるなら、それ相応の対価を支払うのは町長の役目なんだから」
「ネズさぁん…!流石俺らのネズさんだぜ!」
「エール団はお嬢とネズさんをいつまでも応援してーる!!」
ラルゴが明るい調子でそう答えると、安心したようにネズは顔をあげたのだった。
エール団の処遇が決まって安堵した一方、彼らが次に気になったのはネズの近くにいる大典太のことだった。彼はれっきとした刀剣男士なのだが、一般の人間から見れば"V系バンドマン"と例えられることが非常に多い。それは、エール団でも同じだった。
団員の1人が大典太に近付き、声をかける。
「すんません!もしかして、ネズさんの新しいバンドメンバーですか?!」
「ばんど、めんばー?……違う。俺は…」
「その服装に髪型。超イケてるっすね!ネズさんの格好とマッチしてバリロックっす!何の楽器担当するんですか?静かそうだから…あ、ベースとか!」
「あ~!ベース!ストリンダーとセッションしたら絶対に似合うやーつ!」
「……えっと、その…」
新しいバンドメンバーだと勘違いされ、やれ容姿やらやれ表情やらをエール団に褒められた。褒められ慣れていない為どういう表情をしたらいいのか分からなかったのと、彼のバンドメンバーではないことを説明しないといけないことがせめぎ合い大典太は押し黙ってしまった。
彼の反応を見ていたネズがすかさず間に入り、彼について説明を始めた。
「早とちりしないでください。彼はバンドメンバーではありません」
「えっ。そうなんですか?こんなにロックなのに!」
「ロックなのは否定しませんが」
「(否定しないのか…)」
「じゃあ何なんです彼?ネズさん、親し気に話してましたよね?」
「うーん…。おれの…何なんでしょう?」
エール団に関係を問われ、ネズは思わず回答に戸惑ってしまった。確かに大典太とは気が合うとは確信しているものの、それだけだ。まだお互いのことをよく知らない。
それは大典太も同じようで、返答に困っていた。考えられる答えと言えば…。ふと思いついた言葉を大典太は口にする。
「……護衛?」
「なんでアニキも大典太さんも分かっとらんの…。"お友達"でいいじゃん」
「そこまでおれ達親しくなってませんし。昨日の今日ですし」
「……ネズに同意する」
「んもう!新しい友達って言っとけばいいの!しぇからしか!」
お互いに顔を見合わせ言葉に詰まる様子を見て、マリィは呆れたようにそう返した。
その言葉に納得したのか納得できなかったのか。1人と一振はしばらく首を傾げ続けたのだそうな。