二次創作小説(新・総合)

Ep.02-s3【線路は続くよどこまでも】 ( No.90 )
日時: 2022/04/21 23:22
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ノボリとクダリがリレイン城下町に住まうことを決意してから3日の時が経った。最初は不慣れな行動をしていた2人も、少しずつ城下町の暖かさに触れ街の良さを知り始めていた。
 冬の肌寒さは過ぎ去り、春の暖かさが本格的に始まっていた。春は、はじまりの季節。はるかぜと共に、どこかの星からわかものが飛んでくるかもしれないそんな季節。
 議事堂は相変わらずせわしなく動いていた。どうやら、ラルゴが以前大典太に話していた『案』が本格的に動き出しそうで、彼もここのところろくに休みを取れていなかった。

 そんな中、ノボリとクダリはラルゴに呼び出され現在町長室にいた。何でも、手伝ってほしいことがあるらしいとのことだった。



「ラルゴさま。わたくし共に手伝ってほしいことがある、とのことですが…」
「ポケモンのこととか、電車のこととか。知ってることなら手伝える。でも、ぼく達何でも出来る訳じゃない」
「そう。そうなのよ。正に電車の話なのよ!」
「はい?」
「え?」



 ラルゴはそのまままじまじと双子のコートをじーっと見る。あまりに真剣に見つめられ、"電車の話だ"ときっぱり言われたことに双子は目をぱちくりと瞬かせている。
 何が何だか分かっていない彼らに、ラルゴはびしっと指を差してこう言い放ったのだった。



「アナタ達。もしかして、元の世界では"車掌"とかそういう職に就いていたんじゃないの?」
「そうでございますが…。どうしてお分かりになられたのですか?」
「その服装よ!線路をモチーフにした、一見道化師にも見えるエキセントリックな衣装!でも、しっかりと車掌だと分かる素敵な素晴らしいセンス!アタシは確信したわ。絶対に駅に関連する職業に就いている人達だとね!」
「町長さん、凄い!」
「それでね?これはまだ機密事項なんだけど…。やっと他の街や会社とも話の折り合いがついたのよ。実はね…。この街に"駅"を新しく造る計画が動いているの」
「な…なんですって?!」
「駅だって?!」



 リレイン城下町に駅を造る計画が秘密裏に動いていると、遂にラルゴは双子に話した。街の混乱を避ける為なのか、実際に造る作業が始まる直前に城下町の住民に案内しようと思っていたのだ。しかし、彼らは"車掌"。つまり、電車に詳しい人間に他ならない。計画が遂に本格的に始まりそうなところに、タイミングよく双子が城下町の手伝いを名乗り出たのだ。双子の職業の素性が分かった以上、彼らの手を借りない訳にはいかない。ラルゴはそう考えていた。
 まさか自分達が駅関連の手伝いを申し付けられるとは思っていなかったのか、2人は興奮気味にラルゴに詰め寄る。それは、さながら呑み込まれる前に見ていたトウコとメイのポケモンバトルを見ているかのようだった。



「ブラボー!なんと素晴らしい…!わたくし、3日程この街で過ごした上で、少しずつ街の良さについては学んでいるつもりでございますが…。やはり。やはり!交通の便が少ないことには物申したかったっ…!
 ラルゴさま。わたくし、何でもお手伝いさせていただきます!駅がもし完成すれば、この街の利便性はぐっと向上するとわたくし確信しております!!」
「すごい!すごいよ町長さん!ぼく、出来ることなら何でもやる!ノボリと一緒!この街に駅が出来るの、すっごく良いこと!」
「2人共そんなに興奮しなくてもいいのよ~。何もないところに駅を造る予定だから、まだまだ時間はかかるわ。そこで…アナタ達には、駅の設立を手伝って貰うのと…"シュートシティ駅のヘルプ"にしばらく入ってほしいの」
「設立の件は是非!わたくし共お力添えいたします!ヘルプ…で、ございますか?」
「えぇ。ほら、どういう施設があってどういう造りになっているとか…。アタシ、駅は使ったことあるけど…造る側としての知識が全くないのよ。それに、シュートシティはとても大きな街でしょ?しかも発達が凄いのはアタシから見ても分かる。だから、シュートシティの駅の知識を少しでも吸収しておきたいのよね」
「せっかく造るなら、みんなが使いやすい駅がいい。うん、それすっごく大事!」



 ラルゴのお願いというのは2つあった。
 1つ目は、彼と共にリレイン城下町駅の設立を手伝うこと。そして2つ目は、シュートシティ駅にしばらくヘルプとして入ってほしいというものだった。
 シュートシティはとても大きく、技術が発展している。そんな知識を学び駅設立に活かしたいとは思っていたのだが、自分が向かう訳にも行かなかった。その為、車掌だと判明したノボリとクダリに白羽の矢が立ったのだ。
 ラルゴの話を聞いた2人は、顔を見合わせてこくりと頷いた。この街の為、自分に出来ることをする。それがあの時、2人で出した答えだった。



「ラルゴさま。その件…勿論お引き受けいたします!シュートシティへのヘルプはいつ頃から勤務が始まるのでしょうか?」
「今日でもいいよ!」
「流石に今日は無理ねぇ。でも、挨拶くらいはいいんじゃないかしら?アタシもシュートシティ駅の駅長さんにアナタ達のことを話さなきゃだし」
「ではクダリ。早速顔合わせに参りましょう!目的地はシュートシティ!いざ、出発進行ーッ!」
「うん、いこう!町長さん、いってきまーす!」
「いってらっしゃーい♪」



 とんとん拍子で話が進み、双子は早速シュートシティ駅へと向かうことにした。意気揚々と部屋を出る2人をラルゴは笑顔で見送った後、駅設立の計画書と再びにらめっこを始めた。心強い味方が現れた以上、駅設立を1日でも速める為頑張ろうと意気込んだのだった。


 ―――一方。エントランスを揃った大股歩きで出ていく双子を見かける人影がいた。スマホロトムを仕舞い、そのままジト目で彼らの影を追う。



「(ダンデが言ってた"あの件"って…まさか)」



 影―――ネズは、再びスマホロトムにダンデを呼び出すよう頼んだのだった。






























 ―――シュートシティに鎮座する大きな駅。そこが"シュートシティ駅"である。
 そこには、藍色のベストを着たシュートシティに元々勤務している駅員の姿があった。しかし、それだけではない。彼らの他に、緑色の征服を来た鉄道員の姿もいた。彼らは全員、ギアステーションに勤務していた駅員である。
 そのうちの1人、カズマサがガチャリと扉を開く。既に入り混じりになっている人々を見て、慌てて彼は自分に用意された席に座った。



「カズマサ、また遅刻か!」
「すみません~!ライモンシティですら迷うのに、もっと大きな街だと道が覚えられないんです!」
「まぁ…現地で働いている俺達でも迷うからな~。スマホロトムの支給、まだなんだろ?」
「まだ勤務して2日目ですし…。僕らそもそも正社員じゃないですからね」
「デモ、シュートシティノ電車モ面白イモノイッパイ。ボク新鮮ナ面持チ」
「でしょう?シュートシティのハイテク技術を詰め込んだ電車、是非覚えて帰ってくださいね!」



 何故かギアステーションに勤務している鉄道員と、シュートシティ駅に勤務している駅員が仲良く駄弁っている。この光景が不思議なのだが、駅員曰く"このご時世で人手が全く足りていなかったので、本当に助かっている"らしい。
 まだ本部から何も情報が得られず、鉄道員達のスマホロトムの支給が遅れていた。

 カズマサが座ったのを確認し、早速挨拶を始めようとした矢先だった。






『失礼いたします!リレイン王国からの使いで参りました、ノボリとクダリと申します!責任者の方はいらっしゃいますでしょうか!』






 扉を閉めていても響いて来る、良く通る大きな声。鉄道員達はその声に覚えがあった。
 慌てて扉を開けると、目の前に黒いコートと白いコートが見えた。そう。それは―――彼らが探していた"サブウェイマスター"ノボリとクダリその人だった。
 まさかの再会に当の双子も驚いている。しかし、再会を喜ぶ暇は与えてくれなかった。






「あれ?」
「み…みなさ」
『ボスぅぅぅぅぅ!!!!!』






 鉄道員8名がノボリとクダリを押し潰すようになだれ込んだ。鉄道員の唐突な雪崩に対処が出来ず、流石に双子もそのまま巻き込まれ倒れてしまったのだった。
 シュートシティの駅員が慌てて状況の説明を求めるも、鉄道員にそんな話をする余裕は無かった。皆、各々涙を浮かべていた。
 苦しそうに呻くノボリの声に反応し、ラムセスが吐き出すようにこう言った。



「どこ行ってたのさボス!!マルチトレインのバトルレコーダーは急に繋がらなくなるし、気付いたらボスごとみんないなくなってるし、気付いたらこんな巨大な街にみんなで投げ出されてるし!」
「あの…えっ、っと…。ご心配をおかけいたしました…。わたくしもクダリも…こうして無事でございます」
「生きるか死ぬか。そんな人生のレールは選びたくなかった。本当に無事でよかった、ボス」
「うぐぐ」
「ホンマなぁ!お前ら死んだんじゃないかと思って…わし…わしぃ…!!」



 まさか扉が開いたと思ったら、部下からの熱い洗礼を受けるとは思っていなかった。しかし、彼らも急に消えた双子を心配していたのだ。しかも片割れは一度死にかけている。そのことを理解できず、ノボリとクダリはひたすら目を白黒させているしかなかった。

 そんなやり取りを続けている中、執務室の入口に凛とした声が響く。見えたのはダンデと黒髪をなびかせた美女だった。



「あら。部下からの随分なラブコールね。わたし、ゾクゾクしちゃうわ」
「その声…カミツレさまでございますか?!」
「カミツレ!無事だったんだ!」
「えぇ。この街の郊外に投げ出されたところをルリナに助けてもらってね。今はシュートシティにお世話になっているのよ」



 美女の正体は、イッシュ地方にあるライモンシティのジムリーダー"カミツレ"。ノボリとクダリと共に、ライモンの名物施設のリーダーとして名を馳せているスーパーモデルである。
 カミツレはやっとの思いで鉄道員の山から顔を出したノボリとクダリにそのまま話しかける。



「色々調べてもらったんだけど、どうやらこの街以外にポケモンに纏わる施設は今のところ見つかっていないんですって。困っていたら、ダンデさんから"シュートシティの仕事を手伝ってほしい"って痺れちゃうくらいのオファーを受けて。みんな困っているみたいだったし、衣食住も提供してくれるみたいだったし。引き受けることにしたのよ」
「そっか。そうだったんだ。ぼく達以外みんな行方不明だと思ってた」
「失礼ね。わたしはいつでも輝いているわよ」
「カミツレさまの輝きならば、どこにいてもすぐに見つかってしまいますね」
「ところで…リレイン王国とかなんとか言っていたけど。あなた達はそっちから来たのかしら?」



 どうやらイッシュ地方の人間は、ライモンシティの3人以外は見つかっていないらしい。トウコもメイもいないことに表情が落ち込むものの、双子はすぐに考えを切り替えた。
 その直後に、カミツレからリレイン王国についての質問を受ける。倒れたまま、ノボリは答えた。



「わたくし共はしばらくリレイン王国にございます、城下町でお世話になることになりました。ここに到達するまでに色々とありまして…王国に恩が出来ましたので。我々、それを返しつつこの世界について学んで行こうと決意したのです」
「成程ね。ダンデさんが言っていた、"シュートシティ駅の新しいヘルプ"ってのもあなた達で間違いなさそうね」
「折角バトル施設のボス2人が来てくれるのだから、新しいバトル施設を作ろうとも思ったんだがな!ネズから全力で止められてしまった」
「ネズさまが…?」
「"バトルタワー以外にバトル施設新しく作ったら、おれはおまえと今後一切ポケモンバトルをしません"とスマホロトム越しに脅されてしまってな!いやぁ、あの時のネズは相当に怖かったな!それに、オレもネズとバトルが出来なくなるのは嫌だ。だから、考えていたことは全部水に流すことにしたぜ!」
「うーん。それ、話さない方が良かったかも。ノボリ、今"その手があったか"って顔してる」
「どうにかして実現は出来ないのでございますか!ダンデさま!」
「そんなこと言ってるとあなたもネズさんとのバトルを永遠に出禁にされちゃうわよ?ルリナから聞いたけど…彼、気に入らない人にはとことん塩対応なんですって」
「なんと!それは嫌でございます!まだバトルの約束を取り付けたばかりでございますのに!!諦めるしかないのでございますね…」



 寝転がったまま大きな声で話すノボリにダンデは思わず大笑いをした。彼は自分と同じ程にポケモンバトルが好きなのだと、その表情と言葉だけで伝わった。彼の瞳は透明なほどに真っすぐだった。
 折角ネズと仲良くなれそうだったのに、無理に意見を押し通して彼と疎遠になるのだけは絶対に避けたかった。ノボリは喉まで出かけた言葉をぐっとこらえ、ダンデの水に流す発言を残念そうに受け入れるのだった。

 それと同時に、クダリが再び呻き声を上げた。もう押し潰されているのを我慢しているのに限界が来ていたようだった。



「ぼくクダリ。今鉄道員ののしかかり受けてる。こうかばつぐん。でも、もう限界かも」
「はっ!すまんボス!みんな早よボスから離れるんや!!」
「イエッサー!!」



 クラウドの言葉を皮切りに、なだれ込んでいた鉄道員が全員捌けた。正直これだけの時間を倒れたまま話せた双子も双子なのだが、すっと立ち上がる仕草はまるで二対のアンドロイドのようだった。しかし、再三解説するが彼らはれっきとした"人間"である。
 よれたコートを各々直しつつ、彼らは一同に改めてシュートシティ駅のヘルプに入ることになったことを説明したのだった。



「へぇ。リレイン王国に駅を…。ボス達はそのお手伝いをするんですね!」
「ラルゴさま…リレイン城下町の町長さまが、この駅の知識や技術を学びたいとのことで。我々が学び、得た知識をラルゴさまと共有し、駅の創造を進行させていただく次第でございます」
「この駅すっごい学ぶところある。ぼく達、いっぱい覚えて帰るつもり。その為に駅のヘルプの仕事も本気。超本気」
「正直…わしも先行きちと不安やったんや。だけど、ボスが帰って来てくれたなら百人力やな。なぁ!」
「ウン。コレカラ頑張ッテイコウ!」
『おおーー!!』




 ギアステーションの仲間と再会出来たからなのか、彼らの顔には笑顔が戻っていた。
 そんな彼らの表情を、ダンデとカミツレは静かに見守っているのだった。