二次創作小説(新・総合)

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.91 )
日時: 2022/04/24 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 サブウェイマスターである双子がシュートシティ駅で働き始めるようになってから二週間後のことだった。
 シュートシティの南に位置するダイヤモンドシティに点在する、ワリオカンパニーでは珍しく社員が一同に帰していた。全員が会社に集まったのは、ワリオが暴走した時に彼を止める時以来だった。
 全員、唐突なワリオの招集に集まった。ということは再びゲーム制作の依頼だろうか。一部の社員はそう思う。しかし、彼は"そんな当たり前"のことなど集めて喋るような男ではない。嫌な予感は胸に中に疼きながらも、社員の一人―――ドリブルはワリオに質問を始めた。



「ワリオはん。今度はどんなこと企んでらっしゃいますの?」
「ぐふふ…。よくぞ聞いてくれた!オレ様、最近なーんか刺激が少なくてつまらん思いをしていたのだ。しかし!この前ピーンと閃いた!良いことを思いついたのだ!耳かっぽじってよーく聞けよ!」



 ワリオのいつものニヤニヤとした自信満々気な顔を見て、社員の額には汗がぽたりと流れる。彼の話すことはいつも突拍子はないが面白いものだ。何だかんだ彼の人望のおかげか、毎回良いゲームを作っているとはダイヤモンドシティの住民からの専らの噂である。最近はスパイクタウンの新ジムリーダーとなった少女からわざわざ手書きで"面白かった"と感想を貰ったばかりなのだ。
 彼の口から何が飛び出てもいいように、一同は身構える。そんな彼らの反応を無視し、ワリオは大きな声で言い放った。






『『メイドインワリオカップ』の第2回目を、このダイヤモンドシティで開催することに決めた!ワーハッハッハッハッハ!!!』






 ……ワリオにしては妙にひねりの無い提案に、身構えていた社員は空いた口が塞がらない。変な空気を変える為か、モナが疑問を彼にぶつける。



「あたしはゲーム作り楽しいし、面白いからいいけど…。またお金に困ってるの?ワリオおじさま」
「まあ金に困ってるのは事実だけどな!今回はそうじゃない。なんかよー。町長が"お前が暴走して街を壊しかけたんだから責任を取って町おこしに尽力しろ"って怒られちまってよ。本当ならオレ様屁でもやりたくねーが、しょーがねーだろー?」
「成程、そういう背景か…。ワリオにしては、妙にひねりの無い提案だけどそれが理由だったんだね」
「未遂に落ち着いたし、実際ワリオの自我なんてないに等しかったものだけど…。ワリオが街を壊そうとしたってのは事実だからね…。町長さんに責任取らされてもおかしくないYO」
「そうよ!でも、ワリオの尻拭いなんかにわたし達が付き合う義理も無いわ!そうよね、クリケットさま?」
「ゲーム作りは修行の一環!ワリオさん、オレなんでも手伝います!」
「……つきあってらんない」
「アシュリー!まだ帰らんといてや!もしかしたら新しいお友達出来るかもしれんやろー?」



 自業自得に巻き込まれる義理は無いと次々社員から文句の声が飛び出てくる。ワリオは最初こそ笑い飛ばしていたが、あまりにも大勢に、いっぺんに言われた為堪忍袋の緒がすぐに切れてしまった。
 "うるさーい!"と大声を荒げた後、ワリオは今回は普通のプチゲームは作ってくるなよと社員に念を押した。首を傾げる一同に、彼は豪快に笑いながら叫んだ。



「今回はVR事業に手を出す!お前ら、それに見合ったプチゲームを作ってくるように!」
「ぶい、あーる?」
「おねえちゃん、ぶいあーるってなあに?」
「あたちもわかんない!」



 なんと、ワリオは今回プチゲームをVR形式で開催しようと企んでいたのだ。やはり一筋縄では行かない男、と社員は感心しかけるが、ナインボルトがハッとした表情でワリオに詰め寄る。
 そう。最初にワリオは"金がない"とはっきりと告げた。それなのにVRのゲームを作ると言い切っている。ゲームには開発費が付き物。どうやって開発しろというのだろう。



「ワリオ!確かにVRでプチゲームを作るのは面白そうだし、ボクちんも賛成したいところだけどさぁ。開発費がいつも以上にかかるじゃないかー!最初にお金がないって言ったのはワリオ本人だろー!」
「ゲームを開発するにもお金がかかるし…。VRって、意外と高いのよね?難しいんじゃないかしら」
「私の発明品にもまだVRに関するものはない。今から開発するとしても、時間を要するぞ」
「あ?それなら問題ねーぞ。今回は強力なバックアップがついているからな!」
「バックアップ…ですか?」
「おう!"ネクストコーポレーション"とやらの社長から直々に連絡が来てな!町おこしに自分達も協力したいから、VRのモニターを務めてくれたら開発費を全部援助してくれるんだってよ!」
「ね、ネクストコーポレーションやて?!世界的に有名な大企業やないか!」
「ワリオカンパニーニ目ヲ付ケルナンテ 見ドコロノアル会社デスネ」



 強力なバックアップ。その正体をワリオは堂々と告げた。なんと、ネクストコーポレーションがバックについてくれることになったのだ。アシッドは運命の神だが、それを自分から公にするような性格ではない。つまり、彼は今回純粋に"ネクストコーポレーションの社長"としてワリオと取引に入ったのだ。
 開発費が浮いたことにより、急にゲームへの開発意欲が湧き上がる社員達。そんな彼らの様子を見て、社長の正体を知っているオービュロンは"我々、掌の上で踊らされてイマスネ…"と心の中で悪態をついた。
 そして、ワリオは続けてこうも口にした。その言葉に、浮かれていた一同は現実に引き戻される。



「そして、今回は優勝賞品も用意してある!見ろお前ら!」



 そう言うと、ワリオは"お宝"と称し懐から短剣のようなものを取り出し、天高く掲げた。オービュロンはその形状に見覚えがあった。ワリオは"短剣"と称しているが、彼には刀の形状に見えたのだ。
 普段自分のお宝を周りに与える行動など絶対に取らない為、ワリオのこの言動には社員も驚いて言葉を失っている。寧ろ、この短剣を即座に売っぱらって金にするような男だ。
 社員の一部には、ワリオの掲げている短剣をじーっと見つめる者もいた。



「随分歴史のあるお値打ち物っぽいけれど…。それが何なのか、調査とかはしてもらったの?ワリオちゃん」
「いや?だがオレ様の目に狂いはない!これは超高価で貴重なものだ!本当ならオレ様が金にしても構わんがな!少しは分け前を与えてやらないとな!ワッハッハッハッハ!」
「おかあさんが聞きたいの、そういうことじゃないと思うんだけど…」
「商品にする前に調べた貰った方がええんちゃいますん、ワリオはん。ワリオはんはトレジャーハンターですし、価値の高い物であるっちゅうのはぎょーさん分かりました。ですが…それ、参加者に渡してもええ代物なんですの?安全性とかの問題もありまっしゃろ」
「うるさいうるさーい!オレ様が価値の高い物と言ったら価値の高い物なのだ!これを優勝賞品にする。これは決定事項だ!誰も覆すことはゆるさーん!」



 ワリオはトレジャーハンターでもある為、目利きは相当良い方である。その彼が"価値のある代物"と言い切っているのだから、かなり貴重な品なのは本当なのだろう。しかし、社員が気にしていたのはそこではなかった。この代物が、参加者に手渡して大丈夫なものなのか…"安全なものなのか"ということだった。
 しかし、既にワリオはこの短剣を優勝賞品にすると言って聞かなかった。ここまで来てしまったが以上、ワリオを止められる者は誰もいない。社員も仕方なく折れる選択肢を取るしかなかった。

 オービュロンは社員がやいのやいのと騒いでいるのを後ろから見守りながら、ワリオの握っている短刀に目をつけていた。彼は、微かにだがそれから違和感を感じ取っていた。まるで、ワリオを暴走させていた元凶……ネズやノボリの命を蝕んでいた元凶と同じような気配を感じていた。



「ということで!各々VR用のプチゲームを考えてくるように!それではかいさーん!」
「クリケットさま、今回はわたしも手伝いますねっ!」
「うわぁ!VR…未知なる技術です!わたし、どんなプチゲームにしようか今から想像が溢れて止まりません!」
「逸るんじゃないぞペニーよ。ふっ、私も最新のテクノロジーとVRの技術を融合したプチゲームを考えてみようではないか。マイク、帰るぞ!早速私の頭脳を披露する時だ!」



 ワリオの声を皮切りに、社員は意気揚々とゲーム開発をしに帰って行った。ワリオも自分のプチゲームを考える為、社長室への階段を上がっていき、その場に残ったのはオービュロンだけとなった。
 自分もIQ系のプチゲームに久々に挑戦してみようかと考えていたのだが、やはり気になるのはワリオが持って行った短刀の行方。どこで拾ったのか。あの違和感は何なのか。大典太達に相談した方がいいと、ふと彼の脳裏に考えが浮かぶ。



「アノ短刀の件…。みつよサン達に話す方が良さそうデスネ。ドウニモ…違和感が拭えマセン」




 ぽつりとそんな言葉を零しつつ、オービュロンは城下町へと帰って行った。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.92 )
日時: 2022/04/25 22:18
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 オービュロンが議事堂に戻ってきたのは夕方頃だった。既に日は落ち掛け、空が赤く輝いている。
 急ぎ足でサクヤの部屋に入り、神域の扉を開ける。すると、珍しく神域に出入りできる人物が全員揃っていた。普段議事堂の中にて作曲をしているネズはともかく、ノボリも戻っていたことにオービュロンは驚いていた。そのことに気付いたのか、彼は"本日は早番だったのです"と一言添えたのだった。

 全員揃っているのなら丁度いいと、オービュロンは早速床に座り一同にワリオカンパニーで起こった出来事をを相談することにした。



「アノ。皆サン!少しお話に付き合って頂いてもヨロシイデショウカ?」
「どうしたのですか、オービュロン殿?」
「実は…。本日、わりおサンから近々だいやもんどしてぃで行われる大会のぷちげーむを考えるように命令を受けマシテ。大会の優勝賞品に"まえだサンと似たでざいんの短刀"をわりおサンが用意シタノデス」
「短刀…ですか?」
「ハイ。ワタシにはソノヨウニ見えマシタ。ソノ短刀カラ、ワタシ違和感を感じたノデス。本当に優勝賞品にシテシマッテイイモノカ迷ったノデ、コウシテ相談がシタカッタノデス」
「……その短刀の正体が何なのかはわかりかねるが、もし俺達が探している付喪神が宿っているのなら…あんたが違和感を感じるのも無理はない」



 オービュロンの相談事を受け、刀剣男士達の表情が険しくなる。何せ、今顕現している刀剣男士以外の刀剣はアンラによって"邪気を纏った状態で"世界中にばら撒かされているのだから。
 邪気を纏った刀剣に触れた人間がどうなるのか。いくら心の強い人間だとしても、神の呪いに侵されれば命すら簡単に散らしてしまいかねないことは今までの事柄で痛い程分かっていた。だからこそ、人間に拾われる前に回収を急ぎたかったのだが、ワリオが見つけてしまったということが問題とオービュロンは話した。
 それもそうだが、と前田は続ける。ワリオが持ち続けるのも問題だが、彼は"ワリオが再び邪気に侵され暴走してしまうのではないか"という心配をしていた。
 言葉を受け、オービュロンはハッとする。そういや、ワリオは短刀を握っていてもピンピンしていたのだ。



「アッ。ソウイエバ、わりおサン…。短刀を握ってイテモぴんぴんシテイタノデス」
「何?」
「……そうか。そういや、以前そんなことがあったような…」
「光世、心当たりがあるんですか?」
「……あぁ。ネズがこの世界に来る前、短刀を解呪してほしいと俺のところまで来た奴がいてな。……そいつも、邪気を纏った短刀を握っていたのに平気な顔をしていたんだ。実際、俺が解呪を担当したから間違いない」
「ふむ。何かしら共通する事項でもあるのでございましょうかね?」



 オービュロンの言葉に、大典太も"心当たりがある"と答えた。ガラル地方が終末の世界に混ぜられる前、ジンベエが博多藤四郎を持って議事堂までやってきたことを彼は思い出していた。彼もまた、邪気を纏った博多藤四郎を握っていたのに平気な顔をしていた。共通する点は―――2人共、"一度邪気をその身に受けている"ということだった。
 その事実が浮き彫りになると同時に、ネズが自分の考えを述べる。



「今まで呪いを受けちまった連中…。おれ達も含め複数人いますが、何かあるんですかね。受けた後に」
「詳しい事柄までは想像が出来ませんが…。我々に共通する"何か"が生まれているのは事実のように思えます」



 ネズの言葉に続き、ノボリも持論を述べる。邪気に蝕まれ、命を落としかけた者同士分かり合えることがあるらしい。しかし、いくら議論を重ねても実証が少なすぎる以上、判断するには難しい題材だった。
 邪気のことについては後々考えていくとして、オービュロンは一旦短刀の話を切り上げゲーム大会についての話を始めた。



「らるごサンにも後でお話をイタシマスガ、げーむ大会の協力要請はキットりれいん王国ニモ来ます。ソノ心づもりでイテクダサイ」
「それ、おれ達に話していい内容なんですか?短刀のことがあるとはいえ、おれ達部外者ですよ」
「イイエ!皆さんダカラコソ話しているのデス!決して情報漏洩ナドデハゴザイマセン!」
「いや、れっきとした情報漏洩でしょうが。セキュリティガバガバ過ぎませんかワリオカンパニー」
「ま、まぁまぁネズ殿!オービュロン殿が仰ってくれているのですから必ず協力要請は来るのでしょう。それに、この情報は神域に集う我々しか知り得ません。口を噤んでいれば大丈夫です!」
「大声で話しそうな奴が隣にいるんですが…」
「はて?声が大きいことは自覚しておりますが、わたくし口が堅いことにも自信がございます!どんな秘密でも守り抜いてみせるのです!」
「ならいいですけど」
「刀剣男士にもお喋りな者はおりませんし、改めて町長殿からそのお話が来るのを待ちましょう」
「……そうだな。正式に協力要請が来れば、短刀についても詳しいことが分かるかもしれん」
「短刀のコト…調査、一緒にシテモラエマセンカ?」
「……勿論そのつもりだよ。ワリオがピンピンしているのとは別に、解呪は絶対にしなければならない。それに、拾った短刀の正体も暴かなければならないからな」
「短刀…。藤四郎兄弟の一振だったりしないでしょうか」
「ご兄弟が見つかるといいですね、前田さま」



 ゲーム大会の協力要請がいずれ来るだろう、という話の他に、オービュロンは個人的に短刀の調査を一緒にしてほしいことの依頼も大典太達に頼んだ。元からそのつもりだと彼らが返すと、オービュロンは肩の荷が降りたようにホッとした表情になった。
 同時に、奥の襖が静かに開けられる。サクヤも話を聞いていたようで、空いていたスペースに静かに座って一同を見た。



「邪気に侵された刀剣を放置しておけば、いずれ世界に悪影響が出ます。ワリオさんには申し訳ないですが、何としても今回はその刀の回収をし、あわよくば解呪まで持って行きたいと考えております」
「……主。それが、今回の主命なんだな」
「はい。光世さん、鬼丸さん、前田くん。『ワリオカンパニー社長、ワリオ殿の取得した短刀の調査、入手及び浄化』こちらを今回の主命といたします」
「かしこまりました主君。刀剣男士として、必ずやり遂げる所存です!」
「おれも出来ることであれば協力しますんで。気軽に頼ってください」
「もしかしたら駅構内にも話が流れてくるかもしれません。わたくしも、出来るなりに皆様のサポートをいたします。どうぞお気軽にお申し付けくださいまし」



 サクヤも短刀のことは気にしており、主命として『短刀の調査と回収、及び解呪』を三振に出した。久々の主命だと前田は張り切っており、またとない刀剣の回収のチャンスだと大典太や鬼丸もいつにも増して真面目だった。
 そんな彼らの様子を見て、ネズとノボリも自分に出来ることはすると彼らに協力することを改めて口にしたのだった。
 主命を出した後、集まりは一旦解散となった。オービュロンは大会のことをラルゴにも伝える為、神域をトテトテと出ていった。刀剣男士も、情報集めに各々行動を始めるのだった。


 誰もいなくなった襖を見守りつつ、ネズがぽつりと零す。



「何事も無く終わればいいですがね。嫌な予感しかしません」
「そう卑屈になるものではありませんよネズさま。気持ちが逸っても、我々に今出来ることは限られています。道が開けるのを待ちましょう。ポケモン勝負も、待つことが作戦の1つでもあるのです。
 餅は餅屋でございますよ、ネズさま。吉報を待ちましょう」
「0から1を造るのが一番大変ですからねぇ。ま、いい情報が来るのを待つとしましょうか」




 静かになった神域で、ツートンのシンガーと黒の車掌はお互いそんなことを話したのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.93 )
日時: 2022/04/26 23:53
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 オービュロンが短刀の調査を依頼してから一週間が経った。調査に乗り出していた刀剣男士達も、ワリオがかなり警戒をしているのか短刀を見せてもらうことは敵わなかった。そもそも、大会を開催することを知らない前提で話を進めなければならない為、賞品のことにまで話題を持って行くことが不可能だったのだ。

 何も収穫がないまま時はゆっくりと過ぎていく。そんな中、シュートシティでは"とある変化"が置き始めていた。
 昼休憩を終え執務室に戻ってきたノボリに、クダリが1枚のチラシを見せながら話しかけてきた。



「昼休憩、ありがとうございました。只今戻りました」
「ノボリ、おかえり」
「おや?クダリ、何を持っているのですか?」
「あのね。ダイヤモンドシティで何かやるの?」
「はて?わたくしは何も聞いておりませんが…」



 知らない振りをしながら、ノボリはクダリの見せてくれたチラシに目を通す。どうやらオービュロンが言っていた大会の開催が迫っており、その概要が書かれたチラシのようだった。
 話の内容が気になるのか、カズマサがクダリの反対側からそのチラシを見やる。本格的に動いてきた、と内心思いながらもノボリは知らない振りを続けクダリに問いかけた。



「どうしたのですか?このチラシ」
「今朝、駅のインフォメーションセンターに連絡があった。このチラシを駅の掲示板に貼ってほしいって。束だったから、1枚貰って来た」
「そういえば…朝方そっちの方が賑やかでしたよね!なんでも、青いアフロの男性が踊りながらやって来たんだとか!」
「なんと!賑やかな方なのでございますね。クダリ、見せてもらってもいいでしょうか?」
「いいよ。はい」



 ノボリが詳しく中身を見たいと申し出ると、クダリはノボリに見やすいようにチラシの向きを変えて手渡した。礼を言いつつ受け取った彼は、そのまま記載している内容に目を通す。
 幼稚園児が書いたような微笑ましい動物の絵と共に、宣伝文句が綴られている。



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 ―――第2回 メイドインワリオカップ開催決定! 開催日:~~月~~日 朝9時よりダイヤモンドシティにて開催 皆さんのご参加をお待ちしております!

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 彼がオービュロンから聞いた通り、ダイヤモンドシティでゲーム大会を行うことが記載されていた。丁度今から一週間後にゲーム大会…"メイドインワリオカップ"なる催しが開催されるというのだ。
 その大会で優勝賞品として配られるのが、恐らくオービュロンの話していた短刀なのだろう。
 思考を巡らせるノボリをよそに、執務室で物の整理をしていたシュートシティの駅員が思い出したように口を開いた。



「あっ。そういえば、今朝からポケモントレーナーじゃない方がシュートシティ各地にお目見えしていましたね。スタジアム付近でダンデさんにチラシを配っていたのも見ましたよ」
「つまり、このチラシを現在町全体に貼り付けている、ということなのですね」
「多分、リレイン王国にも貼ってる。すっごい大掛かり」
「チラシの量…凄かったですもん。どれだけ大規模な大会になるんだろう」



 駅員もクダリの口にしていた言葉に同意し、かなり大きな大会になるのではないかと予測していた。ノボリから返してもらったチラシをクダリはじーっと見やり、時間を何度も確かめる。
 時折ちらりとノボリを覗き見るその動作に、彼は静かにこう言った。



「クダリ。そんなにちらちらとしなくてもあなたの考えていることは分かります。参加したいのでしょう?」
「うん。こんなに大きな大会なら参加してみたいって思った。けど、この日普通に仕事。ぼく参加できない」
「仕事を放置するわけにもいきませんもの。残念ですが、諦めなさいまし」
「どんなゲームなのか気になるのにな。残念」
「え?参加は出来ないと思いますけど…サブウェイマスターのお二人であれば、当日は午後から観覧くらいなら出来ると思いますよ?」
「どういうこと?」



 クダリはどうやらゲーム大会に参加したかったようで、その日が仕事だということも自覚していた為項垂れた。駅に関わる職についている以上、唐突な催しに興味を惹かれても参加できないというのは日常茶飯事だった。
 残念そうに肩を下ろすクダリに、シュートシティの駅員は"項垂れなくても大丈夫ですよ"というかの如くきょとんとした顔で述べた。



「ノボリさんとクダリさんは、当日ラルゴ町長からの指令でダイヤモンドシティ駅のヘルプに入ってもらうことになっています。恐らく午前中の勤務だけだと思います。多分参加したがるだろうなと先読みされていたんでしょうね~」
「なんと!町長さまがそう仰っておられたのですか?」
「はい。お2人がお昼休憩に行っている間に来たので、恐らく入れ違いだったんでしょうね」
「ふむ。では、もしかすればお昼から大会を観覧できるかもしれませんね。実はわたくしも催しには興味を持っておりまして!今後のバトルサブウェイのイベントの参考にしようと思っていたのです!」
「本当?町長さんに後でお礼言わなきゃ!ね、ノボリ!」
「そうでございますねクダリ!」



 クダリがぱぁっと花開くように笑顔になる。どういう形態であれ、大会を見ることが出来る事実に彼は喜びを感じていた。
 そんな彼の笑顔を見守りつつ、ノボリはスマホロトムを取り出す。実は双子共々、シュートシティに挨拶に行った際に"ライブキャスターじゃ色々と不便だろう"とダンデから御祝い品にとスマホロトムを各々1台貰っていたのだ。彼らの服装に合うようにと、ノボリは黒。クダリは白のスマホロトムをわざわざ彼は準備したのだ。太っ腹である。
 スマホロトムにネズを呼び出すよう指示すると、スマホロトムは宙に浮き通信を始めた。しばらくすると、画面の向こうから低い音が聞こえてくる。



『はい。ネズです。何か用ですか?』
「急なお電話申し訳ございません。ノボリです。昨日の件なのですが…わたくし共、当日ダイヤモンドシティ駅での勤務に変更になりまして。お昼頃からそちらに合流できるとご報告に参った次第でございます」
『成程。わざわざご連絡ありがとうございます。今シュートスタジアムにいるんですけど、そこでも大会の話で持ちきりですよ。マリィとホップが大会に興味持ってて参加したがってるんで、おれも当日付き添いでダイヤモンドシティに向かいます。
 昼飯時なら…何か食う場所作られてると思うんで、そこで落ち合いましょう』
「露店…ということでございますね?承知いたしました。クダリにも伝えておきます故」
『はい。それじゃ、仕事頑張ってくださいよ』
「ネズさまも、シュートシティにいらっしゃるということはバトル関連のお仕事でしょうか?頑張ってくださいまし!わたくし、あなたさまと勝負出来る日を心待ちにしておりますね!」
『はいはい。それじゃ切りますね』



 合流場所を決め、ノボリはネズからの通信が切れたことを確認し、スマホロトムをスラックスのポケットに仕舞った。話の内容が気になったのか、クダリがずいとノボリに近付く。
 彼は当日、昼からネズ達と合流することになったことと、マリィとホップが大会に参加するだろうという話をした。すると、クダリは嬉しそうな表情をしてこう返した。



「マリィちゃんもホップくんも参加するんだ。全力で頑張ってほしい!」
「はい。わたくし共も、誠心誠意応援いたしましょう!」
「当日メイっぱい楽しむ為にぼく、張り切って仕事する!休日返上!」
「休日返上したら怒られますよクダリさん?!お二人はあくまでヘルプ扱いなんですから!」
「さーて。わたくしも全力で仕事に励まなければ。では、午後の仕事へ出発進行ーッ!」
「ははは。倒れないでくださいよ2人共~」
「ノボリさんも乗らないでくださいってば~!!待ってくださーい!」



 休日返上で当日の分の仕事を無くすと張り切る2人に、カズマサが後ろからツッコミを入れつつ追いかけたのだった。










 一方。シュートスタジアムでは、試合が終わったダンデをネズ、マリィ、ホップ、大典太、前田が迎え入れた。今日はダンデとマスタードとの親善試合が行われており、その様子は西の大陸のテレビに映っている。見事な攻防戦の末、ダンデが今回も勝ち越した。その話題はすぐにネットニュースになり、界隈は賑わった。
 前田は初めてポケモン勝負を生で見たのか、若干興奮気味である。いつかポケモンを傍らにトレーナーデビューしてもおかしくはなかった。



「ダンデちん!今日のポケモン勝負とーっても楽しかったよん!また気軽に呼んでね~!」
「師匠も素晴らしいわざの連携ばかりでした!気を抜いたら空気はいくらでも師匠の方に流れるくらいには。オレもまたバトルできること、楽しみに待ってます!」
「大典太さん!ポケモン勝負って素晴らしいんですね!力と力、わざとわざのぶつけ合い…。こんなにも素晴らしい競技、僕初めて見ました!」
「……あんたが興味深そうに試合の録画見てたからな。一度生で見せたかったんだよ。ネズも…許可してくれてありがとう。感謝する」
「いいですよ別に。おまえ達は最早関係者みたいなもんだからね。喜んでくれたのなら、連れてきた甲斐があったってもんですよ」
「前田くん、ポケモントレーナーになる気ならあたしが一から教えてあげる。モルペコはいいよ!」
「うらら♪」
「刀剣男士初のポケモントレーナー…いいかもしれません!」
「……刀剣男士の本質は忘れるなよ?」
「忘れません!兼業です!」



 ダンデがマスタードを送った後、彼は3人と二振に合流した。丁度ホップが配られたチラシを見ている頃だった為、ダンデもぬっと顔をチラシに近付ける。
 駅にも配られた、メイドインワリオカップの概要が記載されたチラシ。マリィもホップも興味を持っており、参加することを表明していた。今はその再確認をしていたのだった。



「じゃあ、当日はマリィとホップが参加する…っつーことでいいんですね。まぁ、受付は当日行うみたいなんで、時間さえ間に合えば飛び入りもOKっぽそうですけど。昼からノボリとクダリも合流しますんで、そのつもりでいてください」
「うん、わかった。ダイヤモンドシティの催し。きっと町おこしの参考になるよ。あたし色々勉強したい」
「マリィは真面目だなー。そんなに気張らなくてもゲーム大会なんだから、気軽に楽しめばいいんだぞ!」
「マリィくんもホップも参加するのか。じゃあ、オレも当日キミ達について行くぜ!実は興味があってな。参加する枠があったら入ってみたいと思っていたんだ」
「は?シュートシティはどうするんですか」



 参加することは理解し、ついていくことも決まった。それはいいものの、シュートシティ中にチラシが貼り付けられていたところを見ると当日、客はかなり多くなりそうだとネズは予測していた。
 そんな折、今度はダンデも一緒に行くと言い出した。ホップは自分が面倒を見るからいいと彼を突っぱねるものの、今回ばかりは彼も行くといって聞かない。シュートシティの責任者としての責務も大事だが、ネズは"ダンデが知らない街で迷子になる"ことを避けたがっていた。
 ネズの呆れた顔を見て、ダンデはあっけらかんとした反応を取る。



「それに関しては問題ない。当日はカミツレくんとピオニーさんと師匠に街のことは任せてあるぜ」
「ピオニーさんとマスタードさんはともかく…カミツレ?おまえ、いつの間に彼女と仲良くなったんですか」
「彼女、ああ見えてライモンシティを引っ張っていただろ?その手腕を見事に発揮してくれてな!いつかオレの立場が危うくなりそうなくらいだぜ!はははは!」
「笑ってんじゃねぇですよ。まぁ…そんだけやってくれるなら問題ないでしょう。イッシュでもライモンはかなり大きい娯楽の街ですし。維持出来てる、しかも賑やかなだけでも凄いジムリーダーです」
「アニキ…」
「感傷的になっちまいましたかね。別に参加は止めませんけど…。リザードン、携帯しておいてくださいね。迷われると困るんで」
「それは分かってるとも!みんな、よろしく頼むぜ!」
「最悪オレが連れ戻すからあんまり心配はいらないんだぞ、ネズさん!」
「おまえは参加者でしょうが。どうやって迷ったあいつを連れ戻すんですか」
「あっ…」



 当日、シュートシティはピオニーとマスタード、そしてカミツレに任せるとダンデは答えたのだ。そもそも、今の状態のシュートシティを彼1人で管理するのは流石に骨が折れる。困っていた彼を救ってくれたのもピオニーやマスタードだった。いつもなら御免だが、今は緊急事態だと手を差し伸べてくれていた。
 どうやらカミツレも出来ることをした結果、街の管理を一部任せてもらえるくらいまでにのし上がったらしい。ネズは少し彼女が恐ろしくなった。


 楽しく話を続けている最中、マリィは前田がおずおずと反応を伺っているのに気付いた。何か話したいことでもあるのか、と振ってみると…。彼は恥ずかしそうにこう口を開いた。



「あの…。当日、僕も参加してよろしいでしょうか?刀剣男士というもの、娯楽にうつつを抜かしてはならないのは充分分かっているつもりではあるんですけど…。興味が、ありまして!」
「……俺も当日は何もない。寧ろ大会の会場にいた方が色々あんた達の助けにもなるだろう。ネズと同じく付き添いという形にはなるが…」



 演技かもしれないが、前田は"自分も大会の参加者として出たい"と口にした。そこでネズは昨日話し合った内容を思い出す。もし関係者が優勝できれば、オービュロンが調査を頼んでいた短刀が手に入るのだと。
 勿論彼は無言で頷き、マリィもホップも嬉しそうに前田の手を取った。



「勿論。前田くんも一緒に楽しも!折角の機会やけん、刀剣男士とか関係なし!」
「そうだぞ!オレもこんなチャンス滅多にないから沢山話がしたいんだぞ!」
「マリィ殿…ホップ殿…!」
「……良かったな、前田。当日は楽しんで来い」
「はい!狙うは勿論優勝です!」
「オレも負けていられないな!」
「―――ふっ。賑やかになりそうですねぇ」




 満面の笑みを浮かべ手を握り返す前田を見守りながら、大典太は思わず微笑んだのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.94 )
日時: 2022/04/27 22:30
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 シュートシティで各々過ごしているのと同時刻。ダイヤモンドシティのワリオカンパニーでは、オービュロンが単身ワリオが持ってきた短刀の正体を調査しようと動いていた。
 大典太達がいくら探りを入れてもワリオが彼らに短刀を見せることは無かった。恐らく、彼らが"刀剣男士"だと知っているが故に取られてしまうとでも思ったのだろうか。他の人物の対応とは違い、明らかに短刀については知らぬ存ぜぬを貫き通した。



「少しバカリ良心は痛みマスガ…。みつよサンの言葉がドウニモ引っかかりマス。ソレニ、わりおサンコノ短刀意地デモ本番マデに誰にも見せたくナサソウデシタシ…」



 そう独り言を零しながら、オービュロンは机の上に置かれている短刀を見つめた。
 現在、短刀は誰にも触れないように透明なケースの中に入れられ、机の上に置かれている。ケースは鍵のない一般的な形状のものだが、わざわざワリオがそんな用意周到なことをしていると考えると、余程触らせたくないのだと嫌でも分かった。
 ワリオにバレないようにと忍び足で短刀に近付き、オービュロンはこっそりとケースの蓋を開けようと動いた。現在、短刀はケースの中にある為違和感も最初に感じた時より薄れてしまっている。やはり、直接見た方がいいと彼は判断したのだ。
 ―――もう少しでケースの蓋に手が届く。というところで、彼の腕に影がかかる。マズイ、と思いながら影の方向を見やると、そこには怒り心頭のワリオがいた。
 見つかってしまった。オービュロンはぴょんと飛びのき、彼に対して防御姿勢を取る。



「わ、わりおサン!」
「オービュロン~?!オレ様のお宝に勝手に触れるんじゃなーい!」
「デ、デスガ!ヤハリ専門の方に一度見てイタダイタ方がイイとワタシも思うのデス!モシカシタラ危険なモノカモシレナインデスヨ?!」
「何ぃー?!このオレ様の観察眼にケチをつける気か!」
「違いマス!ソレニ、ワタシもチキューの歴史とかるちゃーとシテモ非常に興味がアルノデ、是非近くで見てミタカッタノデス!ソレダケナンデス!」
「本当か~?」
「本当デス!信じてクダサイ!」
「むむむ~…」



 オービュロンの言っていることは半分本当で、半分はその場で取り繕った嘘だ。彼としても、歴史的美術品に興味が無いわけではない。過去にカルチャージャンルを担当していたこともあってか、寧ろ世界の歴史や文化については非常に興味津々だった。
 彼は必死に弁解をする。ワリオは最初は疑わし気にオービュロンを睨んでいたものの、過去に関係のあるジャンルを担当していたことも幸いし呆れ顔で彼にこう返した。



「はぁ。しっかたねーなー。確かにオマエ、カルチャーのジャンルを担当したこともあるもんな!興味があるのは仕方がない!ただし!ケースは絶対に開くんじゃねーぞ。見ていいのは外面だけだーい!」
「ソレデ構いまセン!アリガトウゴザイマス!」



 ケースを絶対に開けないことを条件に、ワリオはオービュロンに短刀を見学する許可を出してそのまま自分の部屋に戻った。何とか彼の怒りを回避できたオービュロンは、思わず床にへたりこむ。下手をしたら当日まで会社に出禁になるところだった。それだけは絶対に避けなければならなかったのだ。
 気持ちを切り替えねば会社が閉まる時間になってしまう。そう判断したオービュロンは、早速ケースの外から短刀を観察することにした。やはり、最初に抱く感想は"前田が見せてくれたものとよく似たデザインの短刀"だった。



「見た目は…以前まえだサンに見せてイタダイタ短刀にヨク似てオリマスネ。デモ…彼の刀はトテモ澄んでイマシタ。コノ短刀…ヤハリ違和感がアリマス」



 ケースの中である為、減ったものの違和感は未だにある。ワリオが暴走した時、そしてネズを最初に助けた時、そしてノボリが大包平に担がれて議事堂に運び込まれてきた時と同じ、邪悪な力がひしめいているのを感じていた。
 しかし、見続けていも分からないものは分からない。改めて大典太達に相談をした方がいいだろうとオービュロンは判断した。彼はどこからかスマホロトムを取り出し、シャッター音無しで短刀の写真を納めるように指示をする。なお、彼の所持しているものもダンデが用意したものだ。
 フラッシュは流石に抑えることは無理だった為、光でワリオが再び降りてこないかとオービュロンは内心ヒヤヒヤとしていた。しかし、フラッシュが落ち着いてしばらく待ってみても彼が降りてくる気配はない。どうやら気付かれなかったようだ。何とか短刀の形を大典太達に伝えることが出来るとオービュロンは安堵のため息をするのだった。



「チョットデモコノ刀の正体が分かれば…ワタシデモ対処出来るコトガアルカモシレマセン!……デスガ、今はぷちげーむの難易度調整も進めなケレバ。皆、ソロソロ完成シ始めている頃カナ?」




 彼はスマホロトムに無事に写真が収まっていることを確認し、スマホロトムを仕舞った。そして、プチゲームの調整をしにリレイン城下町まで戻るのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.95 )
日時: 2022/04/28 22:16
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 夜も更け、月が神域を優しく見守る時間となった。全員が揃っていることを確認したオービュロンは、改めて刀剣男士達に声をかけ、カンパニーで撮ってきた写真を見せる。
 すると、前田が即座に反応を示した。"自分の知っている刀"だとはっきりと一同に告げた。



「あっ!これは…!」
「心当たりがあるんですか?」
「はい。僕の兄弟刀…"信濃藤四郎"と言います!」



 ワリオが握っていたのは"信濃藤四郎"という短刀だった。粟田口吉光作の短刀であり、藤四郎兄弟の一振だ。永井信濃守尚政所持であったことが名の由来であり、後に庄内藩酒井家に伝来したという逸話を持つ。前田家所持だったという説もある。
 信濃もまた、天界の蔵に仕舞われていた"邪気を纏った刀剣"の一振だった。このまま放置しておけば大変なことになるのは目に見えている。



「宇宙人が感じ取っていたのは"邪気"で間違いなさそうだな」
「それにしても…どこでそんな危険な短刀を見つけてきたんですかね?まさか、道端に転がっていたのを拾ったなんてオチありませんよね?」
「普通ナラ"アリエナイ"で話が終わるノデスガ…。わりおサンのコトデス。道で拾ったノヲ大袈裟にワレワレに話してイテモオカシクはアリマセン」
「……今、強奪された刀剣はこの世界の大陸中にばら撒かれている状態だ。ネズが言ったように、そこら辺を歩いていたら刀が落ちていた、なんて状態も普通にあり得る…」
「マジですか」
「マジなんです。それくらいアンラはとんでもないことをしたんです!」
「口調が移っておられますよ、前田さま」



 危険な刀剣が道端に平気で転がっている可能性も考えられると大典太に返され、思わずしかめっ面をしてしまうネズ。しかし、どこに落ちたかが分からない彼らに取っては見つかるだけでも有難いことだった。
 刀剣の正体は分かったものの、まだ問題が残っている。ワリオが信濃の本体に触れていても何も問題がないということだ。現在、信濃の本体は透明なケースに入れられ、誰も触れないように保管されている。ワリオが四六時中監視をしている為、開けようとしたら彼がすっ飛んでくるとオービュロンは言った。実際、開ける寸前まで行動を起こした彼が実際にワリオに怒られているのだ。恐らく、本番まで信濃本体は誰にも触らせるつもりが無いのだろう。



「……トイウコトデスノデ、けーすは本番マデ誰も開けられマセン」
「……口ぶりからして、本番までにレプリカとすり替えるのも無理そうだな」
「恐らく無理かと思われます、大典太さん。ワリオ殿はああ見えて目ざといお方…。レプリカにすり替えられたことをすぐに看破されてしまう筈です。それによって、一番被害を被るのはオービュロン殿です」
「ワタシは別に構いまセンヨ。慣れてマスシ」
「慣れんじゃねぇ」
「ソシテ…他の方に調査を依頼スル素振りも見せてオリマセンデシタ。恐らく、しなのサンの本体はソノママ大会の優勝賞品にナルデショウ」
「ふむ…」



 ワリオが常に監視をしている為、大会が始まるまでに偽物とすり替える等をすることも不可能。更に、ワリオはトレジャーハンターでもある為偽物とすり替えたところですぐにバレてしまうことも前田は諭した。
 そこまでオービュロンが話したところで、ノボリが顎に手を当てて悩む素振りを見せる。何か心当たりがあるようだった。



「優勝賞品…となりますと、ゲーム大会を優勝された方の手に渡るのですよね?わたくしは存じ上げませんが…オービュロンさまが経験なさった惨状に巻き込まれてしまう可能性も示唆しなければなりません。
 このままでは、優勝された方が脱線事故に巻き込まれてしまいます」
「刀に触れたり、直接攻撃されたり…って、"邪気"って奴に巻き込まれた連中はおれ達含め碌な目に逢ってませんからね。優勝者の身の安全の保証は確かに出来ないよね」
「ウーン…。何とかわりおサンの目を掻い潜る方法はナイモノデショウカ…。イヤ、ナカッタ…」
「……俺もそれについては心配している。優勝者が信濃を受け取って、その邪気の影響でワリオのように暴走したり、ネズやノボリのように命を刈り取られかけるなんてことになったら意味がない。
 ……対策を練らねばならないのは分かっているが、俺にはいい案が思いつかない…。……やはりこんな俺では…」
「そこで卑屈にならないでください大典太さん!」



 ノボリは優勝者の身を案じていた。信濃本体が邪気に侵されていると確定した以上、優勝者が誰であっても邪気の影響を受けることは明らかだ。一度邪気が原因でワリオがピンピンしているのだから、似たような経験をしている人物が手に取って解呪出来る者の居場所まで持って行ければいいのだが…。ネズもノボリも大典太も、当日は参加者としては大会に訪れない。ならば前田が優勝すればいいのではないかと思うが、そうは問屋が卸さない。



「部外者である以上、わたくし共に出来ることは限られております。一体どうしたら…。申し訳ございません、わたくしも中々ブラボーな案を思いつけないのでございます」
「本当に詰んでますよね、今の状況。勢いで何とかなると言っても、今はそうじゃない時だってことはおれも理解しているんで。事情を知っている連中が優勝すればいいんですが…。おれ当日付き添いですし。光世の話を聞いていると、前田もアウト側なんでしょう?」
「わたくしも午前中仕事が入っておりますので、参加は無理なのです」
「確かに僕は大包平さんと共に、アンラの呪縛を逃れた刀剣男士です。しかし…ここで引き下がっていては誇りというものが汚れてしまいます!主命を果たす為、当日は優勝するつもりで全力で参ります!」
「……前田が張り切っているのに水を差すようで申し訳ないが、前田もアウト側だ。邪気に侵されていない以上、刀剣男士とはいえ触れたら何が起こるか分からない。あんたが信濃の本体に触れて、無事である確証はない」
「それでも、優勝を目指さないと諦めるには早いように思えます!僕、当日全力で頑張りますから!」
「……そこまで言うなら止めないし、あんたが結構頑固者だということは俺も知っているからな。だが、無理はするなよ」
「はい。無理をして倒れてしまっては言語道断ですからね!ねっ、ネズ殿!ノボリ殿!」
「耳が痛いですね」
「肝に銘じております…」



 前田は優勝する気満々だった。主君の為にと張り切るのも当たり前だが、短刀の正体が自身の兄弟刀、果ては関わりのあった刀だということが判明したからだ。
 しかし、前田は大包平と共にアンラの呪いを回避している刀剣男士である。信濃の本体に触れるということは、他の普通の人間と同じように、"呪詛をその身に受けてしまう"可能性が高かった。
 そのことを心配していた大典太だったが、遂に前田の気迫に折れる。そして、当日は無理をするなと彼に激励を贈ったのだった。
 つい先程、マリィとホップと共に"当日は優勝を目指して頑張ろう"という光景を見守り神域に戻ったばかりである。ネズは妹とホップに申し訳ない、と良心が痛んでいた。



「一応、何とか今話している面子だけでも結果発表時には合流しましょう。事件が起こるとなれば、優勝賞品の授与前後が一番危険です」
「わたくしもクダリと連携し、結果発表時には会場に待機するようにいたしますね」
「皆サン…お心遣い感謝イタシマス」
「何か起こったら呼べ。大典太」
「……本当は最初からいてほしいところなんだがな。鬼丸」
「断る。大会ということは人が集まるんだろう。人混みの中に紛れる等真っ平御免だ」
「……はぁ。まぁ、いつ出陣してもいいように準備だけは整えておいてくれ…」
「あぁ」




 せめて当日、授与のタイミングで行動が起こせればいいと結果発表時には全員が合流することを約束した。優勝者を邪気から守る為。信濃を邪気から救う為に。そう結論を付け、話は終わり一同は解散をした。
 そして、ゲーム大会当日まで時は過ぎていったのだった…。