二次創作小説(新・総合)
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.96 )
- 日時: 2022/04/29 22:29
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
遂にメイドインワリオカップの開催当日となった。世界中、果ては異世界からダイヤモンドシティに人々が訪れる為、朝からシュートシティ駅では人がごった返していた。
朝の通勤ラッシュよりも多い。執務室から改札方面を見ているクダリはふとそんなことを思う。しかし、自分達もこれからその人混みの中に飛び込んでいかねばならない。自分達の戦場は、今日はここではないのだから。
隣ではノボリが駅員達に今日のスケジュールの再確認を行っている。ヘルプに入っているとはいえ、元々駅の車掌を2人とも務めていた関係上、いつの間にか立場は逆転していた。現在は2人が中心となり、現場を取り纏めているのが現状だった。
「それでは、本日の運行予定はこのようになっておりますので。大会が開始される前、そして終了後…。恐らく、そこが一番のラッシュになると思われます。どうぞよろしくお願いいたします」
「ダイヤモンドシティ経由のお客様、すっごいいる。でも、大丈夫。いつも通りにやればいい!」
「場所が変わっても、わしらがいつもやってることと大して変わらんからな。ガラルでも、イベントの時は駅が人の波で埋め尽くされるんやろ?」
「ジムチャレンジの決勝とか…あと、最近ではガラルスタートーナメントの開催の時にも人で溢れかえっていますよ。著名なジムリーダー、そしてポケモントレーナーの戦いを生で目に焼き付けたい、という人が多い証拠ですね」
「ガラルスタートーナメント!こっちでいうポケモンワールドトーナメントみたいなものなのかな?」
「えっ?なんですかその面白そうな大会。後で休憩時間にでも聞かせてくださいよ!」
「じゃあ、お昼時にでも各地方の大会について話しましょうよ!僕もガラルスタートーナメント、どんなものか興味があるので!」
「いつの間にか駅員同士も仲良くなっていらっしゃるようで…何よりでございます」
「うんうん。みんなスマイル、みんな楽しい。これ一番いい!」
いつの間にか駅員同士も仲良くなっており、早速休憩時間にそれぞれの地方で開催される大会について話をする約束を取り付けていた。微笑まし気なその光景を見守りつつも、ノボリはもうすぐ電車が出る時間だと駅員達を現実に引き戻す。
時間になれば、サブウェイマスターである彼らもダイヤモンドシティへと出発する。改めて今日のことを頼むと真っすぐと彼らに伝えると、駅員は揃って敬礼をした。
「それでは、わたくし共もこちらの電車に乗車しダイヤモンドシティ駅の方向まで向かいます故。重ね重ねよろしくお願いいたします」
「お土産話、いっぱい持って帰ってくる!だから頑張ってね!」
「ボス達も無理しないでくださいねー!いってらっしゃーい!」
お互いに挨拶を交わしながら、双子は開いた電車の扉に向かって歩いて行った。
何とか乗車に成功し、ほっと一息を下ろす。人でごった返していたとはいえ、恐らくこれからが電車が人でパンパンになる時間なのだ。その直前を狙って、双子は移動しようと予め決めていたのだ。
窓から見える景色を眺めながら、クダリはノボリに話しかける。
「ノボリ、今日の勤務って午前中だけだよね」
「はい。トラブルもなく終了出来れば、午後からは大会を観覧できると思いますよ?」
「ふふ。ぼくすっごく楽しみ。ノボリも楽しみ?」
「勿論でございます!どんな催しが飛び出して来るのか…。わたくし、不肖ながら少し興奮しております」
「街は広いけど、多分ノボリの大声街中に響いちゃうかも」
「沢山のお客様がいらっしゃるのですから、それくらい大目に見てください。いつでも大声、という訳ではないのですよ?」
「うん。それは分かってる。でもノボリ、大声で洞窟の入口塞ぎかけたことある。だからぼくちょっと心配」
「く、クダリっ。ティーパーティーの失態をほじくり返さないでくださいまし!」
「からかっただけ!でもそれくらいぼくも楽しみ。メイっぱい楽しもうね、ノボリ!」
予め午前中の勤務をするように交渉してくれたラルゴにも改めて感謝をしつつ、ノボリとクダリは窓から遠目に見えるダイヤモンドシティを見つめていた。
どことなく中世的に見えるリレイン王国とはまた違う、自分達の勤務していたライモンシティと雰囲気が似た都会的な雰囲気。それに、双子はどことなく懐かしさを覚えていた。
心地よい電車の音と揺れを楽しみながら、電車はダイヤモンドシティまで走っていくのだった。
―――そんな双子を興味深そうに見つめている、藍色の車掌服を身に纏った桃色の髪の少女がいたことには気付かずに。
ところかわってダイヤモンドシティへと場面は移る。シュートシティの駅で集合を果たしたネズ、マリィ、ホップ、ダンデ、大典太、前田は会場の受付へと歩いていた。オービュロンから事前にパンフレットを貰い、それを見ながら会場を目指しているところだった。ホップとダンデはそらをとぶを覚えているポケモンに乗ってここまでやってきた為電車のラッシュには巻き込まれなかったが、空から見ていた電車の中の人の量に思わず苦笑いをしたのだとか。
現在パンフレットはホップの手に渡っており、彼は付随されている地図を見つつも大会のルールを確認していた。
「"プチゲーム"っていうゲームを沢山クリアする、スコアアタック系の大会らしいぞ」
「……ぷちげーむ」
「オービュロン殿が事前に教えてくださいました。5秒程度の物凄く短いミニゲームなのだとか。ミニゲームよりも短いゲーム、だから"プチゲーム"らしいのですが」
「一瞬でも油断して判断誤ったらクリアできなさそうですね。ロックでおれは好きですよ、こういうルール。マリィはやったことがあったんでしたよね、こういうの」
「うん。前にこの街に来た時にペニーさんからゲーム借りてやったよ。面白かったから、ファンレター書いた」
「成程。それは製作側も喜びますね」
「瞬間判断能力を問われるのか…。ポケモン勝負とよく似ているぜ。今後のバトルにも活かせそうなものがあるかもしれないな!」
「何でもかんでもポケモン勝負と繋げて考えるのはやめやがれ」
「ネズさん、アニキにポケモン勝負と切り離して考えるなんて無理なんだぞ…」
確かにダンデの言葉も一理あるのだが、今はそういうことではないだろうとネズがジト目で彼を見やった。一瞬の判断で正解を導かなければならない。しかも、恐らくプチゲームは1つではない。音楽の小節のようにテンポよく、タイミングよくやってくるものだとネズは考えていた。
マリィは以前、ダイヤモンドシティを訪れた時に仲良くなったペニーから過去作のゲームを借りて遊んだ経験があった。わざわざ直筆でファンレターを送ったのにはそういう背景があった。
そのまま道路を歩いていると、ふと人が並んでいる光景が見える。恐らく受付会場なのだろう。まだ開催時間である9時には少し時間がある。それでも行列が出来ている事実に、宣伝の効果と会社の知名度を彼らは垣間見た。
早く並ばなければ締切に間に合わなくなってしまう、と一同は早足で行列の最後尾のプラカードを掲げているスタッフの場所まで急ぐ。
「……この人数だと、受付出来るまで20分程度はかかりそうだな」
「前もって来といて良かったね。オービュロンさんからのアドバイス、早速役に立った」
「受付の締切に間に合わないで参加できないなんて、完全に不完全燃焼過ぎるからな…。間に合って良かったぞ!」
彼らはオービュロンから事前に"大会当日、恐らく様々な異世界カラ参加者が集いマス。ナノデ、早めに街に出てきてイタダイテ、受付を済ませてオクノガイイと思いマス"とアドバイスを受けていた。
彼の言葉通り、ネズ達が列に並び始めたと同時にすぐ後ろに人が並ぶ。それは瞬く間に長蛇の列へと変化していった。もう少し遅い集合時間だったら、もしかしたら受付すら敵わなかったのかもしれない。
「おおお…。すぐにオレ達の後ろに長蛇の列が」
「ガラルスタートーナメントの観覧席もこんな感じだったみたいだぜ。うーん…今後の開催も色々工夫しなきゃいけないな」
「今はスタートーナメントの話はナシですよダンデ。ほら、列動きました」
「ガラルスタートーナメント…。もし機会があれば、僕一度見てみたいです!」
「ダンデさんに頼めば過去の大会の録画残ってると思うから見てみれば?前田くん、ポケモン勝負にそんなに興味持ってくれとるんやね」
「シュートスタジアムで行われた大会なら大体録画してあるから、言ってくれれば録画したものを用意しよう。今度見てみるといい!」
「はい。とっても興味があります!」
「……おーす 未来のチャンピオン?」
「光世、それはちょっと違います」
話し合っている間にも、列は少しずつ動く。後ろの人物に迷惑にならないように、4人と二振も動きに合わせて足を進めていった。
そして―――大典太が予測した通り、列に並び始めてから20分が経った頃……遂に受付担当のスタッフと鉢合わせることが出来た。早速ネズは受付をする為に口を開く。
「ようこそダイヤモンドシティへ!"メイドインワリオカップ"の参加受付でよろしいでしょうか?」
「えーと。参加するのはこの4人です。おれとこの彼は付き添いですね」
「了解しました!お名前を教えていただいてもいいでしょうか?」
受付の人物は、バインダーに挟まれた紙を3人と一振に渡す。それに名前を書き、同意書のようなものにサインをした後受付に返す。時折受付担当の人物が驚いたような表情をしていたのは、恐らくダンデのような立場の人物が普通に参加を表明していることが原因なのだろうとネズは見守りながらそう思った。
そして、参加料を払う為財布を懐から取り出した。三角に折り曲げられた紙には、"参加料 1000円"と記載されている。値段は別にいいのだが、それを見たネズは思わず眉間にしわを寄せる。幻視でなければ、彼の目には0が3つくらい二重線で消えているように見えたからだ。
「4人の分はおれが代理で今は払いますんで。後で参加費返してください」
「……分かった。すまんな、ネズ。前田の分は後で俺が渡すよ」
「一々個人が財布を出していたら、いくら時間があっても足りませんからね。ただでさえ後ろがつっかえてんのに。
―――それは別にいいんですが。何なんですかこの手書きで修正したような跡は…」
「0が3つくらい二重線で消されとる」
「あぁ。それですか…。ワリオ社長が本当はもっと参加料を跳ね上げたかったのですが、直前でモナさんとジミーさんに見つかりまして。こっぴどく反論されて、渋々今の金額に調整したそうなのです」
「100万円じゃ参加者が減ってしまうんだぞ?!」
「ジムチャレンジにおける推薦状のようなものだと考えればいいんでしょうが…。現金でそれを表されると流石に気が引けるというかなんというか」
「ま、まぁまぁ。過去の話なのですし深く突っ込まないでおきましょう!元々ワリオ殿は強欲な方ですし」
「笑って済ませていいんですかそれ。あ、すみません。駄弁ってないで金払いますね。はい、4000円丁度ある筈です」
「……はい、参加者分間違いなくいただきました。では、あちらにいるスタッフがいる場所まで移動をお願いいたします。ルール説明の後、9時からいよいよ大会が開始されますので本日は楽しんでいってくださいね!」
「勿論!あたし、負けないよ!」
「オレだって負けるつもりはないぞ!」
「僕も誠心誠意頑張ります!」
「よーし。気合を入れたところで早速指定された場所に行ってみようぜ!」
「ダンデはホップの前に立って動いてくださいね。ただでさえ迷われたら本当に困るんで。お願いしますよ」
「……しんがりは俺がやる。そんなに心配しなくてもいい、ネズ」
「感謝しますよ、光世。それじゃ行きましょうか」
そう言いつつ受付に指定された場所を見やると、オービュロンの姿があった。彼の周りにも、スタッフとは雰囲気が違う人物が数人いるのが見受けられる。恐らく、彼らがオービュロンの言っている"ワリオカンパニー"の社員なのだろう。
一同は早速その場所に向かって移動を始めたのだった。
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.97 )
- 日時: 2022/04/30 22:10
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
4人と二振に気付いたオービュロンがこちらに向かって手を振って来た。前田がいち早く気付き、早く行きましょうと催促をする。慌てなくてもまだ開始時間までには少し時間があるが、確かに余裕を持って行動をしておいた方が大会へ向けての心構えも出来るというものだろう。
説明が早いに越したことはない、と彼らは決断しオービュロンの元まで駆けて行ったのだった。
「皆サン!来てクダサッテアリガトウゴザイマス!」
「こっちこそありがと。お陰でスムーズに受付が終わったよ」
「ソウデスカ!ヤッパリ人、並んでイマシタカ?」
「オレ達が並んですぐに長蛇の列ができ始めたんだぞ…。本当にギリギリのタイミングだったな」
「まぁ、そのお陰で早いうちに説明を聞けそうだけどな!」
「オービュロン。1つ確認ですが、参加者ででないおれ達も別に説明は聞けるんですよね?」
「ハイ!一緒に行動スルコト自体は別に咎められマセンノデ!げーむを協力スルトカ、ソウイウコトヲシナケレバ大丈夫デス!」
「大丈夫ですよ。端からルール違反をするつもりはありません」
「……パンフレットに書いてないことも言われそうだからな。きちんと聞いた方がいい」
「ソウデスネ!ぱんふれっとに記載がアルモノニ関しては、アクマデ簡易的なモノニナリマスヨ。デハ、ワタシカラ今大会のるーるの説明をサセテイタダキマス!」
「お願いいたします!」
3人と一振からの"お願いします"という言葉を受け、オービュロンは早速説明を始めた。
大まかなルールはパンフレットに載っているものと同一で、複数人で行動してもいいが基本的には個人戦。街中にネクストコーポレーションのカメラを仕込んでいるから、ルールに違反した参加者はすぐに分かるようになっているらしい。
注意事項を簡単に説明した後、オービュロンは改めてルール説明に話を戻した。
「皆サンニハ、コレカラ街中を巡ってイタダキ、"9時カラ14時マデノ間"にだいやもんどしてぃ中にアルVR型のじゃんるに分けられたすてーじをくりあシテイッテクダサイ。すてーじゴトのくりあシタぷちげーむが記録サレ、予選終了時にすこあの高い上位4名が決勝戦へ進むコトガデキマス」
「VR…。ここから左に見えるあの機材のことですか?」
「ハイ!今回大会を開催スルトイウコトデ、機材のもにたーをシテクレルトイウ条件ツキであしっどサンが貸し出してクレタノデス」
「上手いこと実験台にされてるじゃねぇですか」
「……金欠なのは分かっていたが、ここまでとはな…」
「コノお話を持ちかけられたカラコソ、わりおサンハVRの手を思いついたノカモシレマセン…。デスガ、彼のお陰で大会が開催デキテイルノデ、我々も文句が言える立場デハナイノデス」
「大変なんやね、オービュロンさんも…」
「イエイエ。慣れてマスノデ」
「慣れていいのかそれは?!」
ダイヤモンドシティ中に設置された、VR形式のステージを次々クリアしていき、最終的にスコアの高い4人が決勝戦へ進めるという。チャレンジ回数は各ステージ1回であり時間も有限な為、最初のステージは早めにクリアして次に進みたいと彼らは判断した。
そして、彼はマリィ、ホップ、ダンデ、前田にタブレット型の端末を1台ずつ手渡してきた。これで自分の今の戦績と、どのランクにいるのかの確認が出来るらしい。
そこまで話したところで、オービュロンは思い出したように彼らに注意事項をもう1つ促す。この大会での"脱落"についてだった。
「ア。チナミニナンデスガ…。一度デモ"1度目のぼす前にすてーじをくりあデキナカッタ場合"はソノ場で脱落とナリマスノデご注意クダサイネ。マタ、るーる違反をシテモ脱落にナリマスヨ」
「つまり、1回ボスステージをクリアしたうえでスコアを伸ばしていかなきゃならないのか…。中々シビアだぞ」
「大丈夫デス!最初はミナサン同じすてーじをぷれいシテ貰う手筈にナッテマスノデ、ソコデぷちげーむの感覚を覚えてクダサイ!ソウスレバ、次のすてーじもすむーずにすこあが伸ばせると思いマスヨ!」
そう言って、オービュロンは右手にある、先程前田が指摘した機材が並んでいる群れを指さした。"テハジメ"ステージといい、誰でも簡単にクリアできる優しい難易度のステージが揃っているらしい。ワリオの家が立っているのが目印だと彼は言った。現在は準備をしているようだが、既に列が出来ていた。
そのステージをクリアしたら、次から好きな場所に行けるのだという。なお、テハジメステージはボスをクリアしたらそこでステージは終了。スコアを伸ばすことは出来ないともオービュロンは付け足した。
「今回は観光目的も兼ねてイルノデ、街巡りの形を取らせてイタダイタンデス」
「街巡り、ねぇ。スパイクタウンの町おこしの参考に出来るかもしれませんね」
「スタンプラリーとかしたら面白そうじゃない?制覇した人にはアニキのライブチケットの半券渡すとか、アニキとポケモン勝負出来るとか」
「良き案だと思います、妹よ。帰ったら意見をメモさせてください」
ネズとマリィがそんな会話を繰り広げていた折、ダイヤモンドシティ中に大会開始のアナウンスが鳴り響く。大典太がスマホロトムに今の時刻を尋ねると、ロトムはきっかり"9時"だと答えた。
今からメイドインワリオカップの予選が始まる。それを自覚した途端、妙な緊張感が街に走った。
「……開始したようだな。列も動き始めた」
「じゃあ、さっさとオレ達も列に並ぶんだぞ!初動が遅くなったらそれだけスコアも伸ばせなくなる!」
「そう焦るなホップ。手数で攻めるのもいいが、1つ1つの記録を伸ばしていくのもオレは大事だと思うぜ!」
「駄弁ってる暇があったら足を動かしなさいよハロン兄弟。前田とマリィはもうあんなところにいます」
「早く行きましょうよみなさーん!」
「アニキ!遅いよ!」
「今行きます。先進んでてください」
初動に遅れたら大変だと焦るホップに対し、ダンデは元チャンピオンの余裕を見せている。立ち止まっている暇があったら足を動かせと先に進んでいる前田とマリィを指さし、ネズがジト目で2人を見た。
追いつく為に少々早歩きで1人と一振の元へ向かった一同は、そのまま"テハジメ"ステージへと足を進めた。
最初のステージは全員がやることを想定していたのか、VRの機材が10台程並んでいる。それと比例するように、機材に並ぶ人の列も多くなっていった。機材の隣にはスタッフがおり、端末を見せることでゲームが開始できる仕組みらしい。近くにはベンチもあり、参加しない人や早く終わった参加者はそこで休憩も出来るようだった。
早速3人と一振は列の方向へと移動し、それを見守ったネズと大典太はベンチの方向へと歩いて行く。途中、ダンデがまた真逆の方向へ転換しようとした為、ホップが捕まえて一緒の列に並ばせたのが見えた。勿論、ダンデが後ろだ。
ベンチに座ったネズと大典太は、思わず先程のダンデの行動について言葉を交わした。
「……こんな人がごった返している場所でも迷うのか?」
「ええ迷いますよ。堂々と迷います。おれは仕事で顔を出せませんでしたが、以前ジムリーダーやそれに連なる者がシュートシティで遊んだ時も、キバナの目が離れた瞬間にダンデが迷子になって、昼から夕方にかけて総出で探したらしいです。キバナが泣きそうな顔で愚痴って来たのを覚えています」
「……リザードンはどうした?」
「丁度ジュラルドンと美味いもの食べてたらしくて、ダンデから目を離していたそうです。まぁ、美味いもん食って幸せな気持ちなら仕方ないですよね」
「……そうだな。ポケモンは悪くない」
「ま、今回はホップが見ててくれるみたいなんでいいですけど…。これの次の場所からそうは行かなくなります。光世。ダンデ、申し訳ないですが一緒に見張っててほしいです」
「……承知した」
「うーん…。こういう時に"主命"ってのを使うんですかね?」
「……あんたは主じゃないだろ…」
「ふっ。冗談ですよ」
あまりにも大典太が真面目に受け取った為、思わずネズは笑ってしまった。からかわれたことに大典太は困っているようだった為、ネズは改めて詫びを入れた。
その間にも、3人と一振が並んだ列は次々に移動を続ける。遠目から見ても楽しそうにゲームをプレイする一同を見て、大典太も思わず微笑んだのだった。
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.98 )
- 日時: 2022/05/01 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
街中に大会開始のアナウンスが鳴り響いてから3時間程経過した。現在、スマホロトムの時計は12時を指している。
あんなに張り切ってスタートした筈の大会も、気付けばスムーズに街を巡れるようになるまでになっていた。あれだけいた参加者も、ルールのお陰でどんどんふるいにかけられ少なくなっていた。
そんな中、次の場所のマップを確認していたホップが口を開いた。
「うーん。7割くらいは回ったか?」
「沢山ゲームをやったので、僕はもう少し多く感じましたよ」
「まさかジャンルが10、11くらいあるとは思わねぇじゃないですか。そりゃふるいにかける必要がある訳だ…」
「最初はあんなに沢山参加者いたのに…。ステージ回るごとに人がどんどん減ってってたね」
「オレ達は無事残れているからいい!次も頑張ろうぜ!」
「……本番に強い奴らばかりで本当に凄いよ」
どうやら、3人も前田も脱落せずにスコアを稼いでいるらしい。そんな中、街中を歩いていた前田のお腹が大きく鳴る音が聞こえてきた。刀剣男士として恥ずかしいことをしてしまったと途端に彼の顔は真っ赤になる。
全力でゲームに挑んでいたのだから腹が減るのも当たり前だ。それに、丁度いい時間だとネズも判断した。
「別に恥ずかしくありませんよ。もう12時です」
「え?!そんなに経ってたのか?!」
「はい。あと2時間程で予選終了ですが…。腹が減ってちゃ戦には勝てません。丁度いい時間ですし、腹ごしらえしましょうか。ほら、双子とも合流せにゃなりませんし」
「……そうか。あの双子、今日は勤務が午前中だけだったな」
「いつ仕事が終わった連絡が来てもおかしくありませんし、飯食いに行きましょう」
「アニキ、露店あっち」
「先導お願いします、妹よ」
そろそろノボリとクダリが合流してもおかしくはない時間帯でもあった。約束をした以上、露店に移動した方がいいのは明らかだった。
前を歩いているマリィに露店への先導を頼み、いつ双子のどちらかから連絡が来てもいいようにネズはスマホロトムに通信が来たらすぐに連絡するように頼んだ。
5分程歩いた場所に、イベントスペースがある。今日はそこに広めの露店が出店されており、そこで食べ物を買って食べるシステムになっていた。近くには簡易的なテーブルと椅子も設置されている。丁度昼食の時間帯だった為、露店周りは人が集まっており賑やかだった。
空いているテーブル席に場所を取り、ネズはマリィにお札を渡し全員分の昼食を買ってくるよう頼んだ。彼女はそれを受け取りホップ、前田と共に自分が気になった店の方までまっすぐ歩いて行ったのだった。
大典太はそれを見守った後、自分の財布から参加料と共に昼食代を折半しようとネズに手渡した。しかし、彼は前田の参加料である1000円しか受け取らず、後は大典太に突き返した。
「……全部あんたに払わせるわけにはいかないだろう」
「いいんですよ。大人には大人らしくかっこつけさせやがれ」
「でもネズ、お前まだ19だよな?」
「こまけぇことは突っ込まなくていいんですよダンデ。四捨五入すれば20です」
「……たまにあんたが酒が飲めない年齢だということを忘れそうになる…」
「老け顔で悪かったですね」
「……そうは言ってない。随分と…精神が成熟しているんだなと感心しただけさ」
「そりゃ、色々あれば子供じゃいられなくなります。―――光世、だから昼食代はおれに『俺が勝手に渡した。俺は折半したいと望んでいる』……あんたも頑固だね」
「はははっ。そう片意地にならなくてもいいんだぜネズ。後でオレの参加料と一緒に昼食代も渡す。今日のは3人で折半だぜ!」
「……はぁ…」
からっと言い切った元チャンピオンと、意外と頑固だった刀剣男士の顔を見やり、ネズは深くため息を吐いた。大典太に差し出されたお札を最初は拒否していたものの、彼がぐいぐいと戻すのを辞めなかったので遂に折れ、受け取った。そして、ダンデも後に参加料と一緒に昼食代を渡すと言ってのけたので言い逃れが出来なくなってしまった。
それと同時に、スマホロトムがネズに通知をする。ノボリから連絡が来たらしい。通信を繋ぐと、スマホロトムの画面に仏頂面の黒い車掌が映った。
『もしもし。ネズさま。ノボリです。今お時間大丈夫でしょうか?』
「もしもし、ネズです。大丈夫ですよ」
『今しがた仕事の方が終了いたしましたので、クダリと共に会場へ移動中でございます。合流を果たしたいのですが、現在どちらにいらっしゃいますか?』
「あぁ、終わったんですね。仕事お疲れ様です。今ですか?露店にいますよ。ダンデと光世も一緒に席取って待ってます。マリィ達には食いモン買いに行かせてます。おれの髪の毛を目印にして来ていただければ」
『うん、わかった。ぼく達もお客様からお土産貰ったから、みんなで食べよう!』
「そうですか。楽しみにしてますね」
『それでは、すぐに合流いたします故。一旦失礼いたします!』
すぐに向かうという返答を確認した後、ノボリからの通信が途切れた。そのことをダンデと大典太に話すと、彼らもどことなく笑みが増えたように感じた。
その後、しばらく席で談笑を続けていると2人と一振が戻ってきた。両手にはビニール袋が握られており、色々な露店から買ってきたのが分かった。ジンベエやハスノもさり気に露店を開いていたことを前田は口にした。
「色々気になったのあるから全部買ってきちゃった。みんなでちょっとずつつまも」
「ジンベエ殿やハスノ殿も出店していたんです!どれもこれも美味しそうで…吟味するのにかなり悩みましたよ!」
「……あいつらもいたのか」
「マリィも前田も次、次って目移りするから本当に大変だったんだぞ…。オレ、もう腹ペコペコ…」
「珍しいモンを見たら目が宝石のようになるのは何も不思議なことではないですよ。ほら、飯冷めちまう前に食べちまいましょう」
袋から買ってきたものを取り出し、みんなで少しずつ分けて食べることにした。王道の焼きそばやお好み焼き。具材がたっぷり詰まったオムレツなんかも堪能した。
美味しそうに昼食をいただく子供達の顔を見守りつつ食べ進めていると、人の声で溢れている中でもよく響く聞き覚えのある声が聞こえてきた。その方向を振り向いてみると、白い車掌がこちらに向かって大きく手を振って合図をしていた。黒い車掌もこちらに気付き、小さく手を振り返す。
双子は空いているスペースへと腰掛け、現在の進捗を訪ねた。
「お疲れ様です、皆様。わたくし共、只今目的地に到着いたしました」
「これ、東の大陸限定のラングドシャ。お客様からお土産って貰った。一緒に食べよう!」
「丁度甘い物欲しいと思ってた。ノボリさん、クダリさん、ナイスやね。ありがと」
「えへへ」
「ところで…。現在、大会の方はどうなっておりますでしょうか?順調でございますか?」
「うーん。今まで見守ってきましたけど…スコアはおれ達が確認できるわけじゃ無いですしね。どうなんです?」
ラングドシャの箱を開けながら、ネズはマリィに進捗を訪ねる。大会の現在の進捗を確認できるのは参加者だけ。見守っているネズや大典太には知り得ない情報だった。
彼に聞かれ、マリィは素直に自分の端末を兄に見せた。そこには、マリィのスコアが現在"3位"だということを示す場所に名前が載っていた。
「あたし、決勝行けるかも」
「本当!マリィちゃん、凄い!」
「1位から3位までがスコアが突き抜けてて、4位が団子状態なんだぜ。その抜けている3人のうち1人がマリィくんということだな」
「ダンデさま。つかぬことをお伺いいたしますが…。もしかして、ご自分の戦績以外は確認が出来ないのでしょうか?」
「あぁ。自分の今の位置と、上位陣がどれだけスコアを稼いでいるかしか確認は出来ないな。決勝に行くのが誰かは予選終了までのお楽しみだぜ」
「というかマリィ、いつの間にそこまで…」
「だから言ったじゃないですか。経験者は強いと」
「そういう問題じゃないんだぞネズさんー!」
「上手く行けば、優勝賞品も持ち帰れるかも。アニキも大典太さんもなんだか気にしてたみたいだし…。あたし、頑張るけんね」
そこまでマリィが言ったと同時に、ネズは顔をしかめる。そう。マリィが決勝に残るということは、優勝して邪気の纏った短刀を手にする可能性があるということに他ならなかった。彼女を危険に晒さない為に、大典太達の本来の目的は彼女に隠すように頼んでいたのはネズ本人だった。
しかし、ここで彼女の決意を否定してしまえばやる気が削がれてしまう可能性もある。純粋に応援したい気持ちと、短刀を手に取ってほしくない気持ち。相反する2つの気持ちが、ネズの心に不安を生んでいた。
「少しばかり不安ですね」
「何が?」
「―――! い、いえ。こちらの話です。変なこと言ってしまって申し訳ないね」
「ネズさま…」
「アニキが何に不安がっているかは分からんけど…。大丈夫。モルペコもいるし、アニキの不安通りになんかさせん。あたしも怖がってばかりじゃなくて、あたしに出来ることをしっかりやろうって最近改めて思うようになったよ。みんな、色々な思いをしながらも前向いて全力で頑張ってる。あたしだってちゃんと前を向いて頑張らないと。ね、モルペコ?」
「うらら♪」
「……マリィは、本当に強い子だな。流石あんたの妹だ」
「―――ふっ。当然のこと言ってどうするんですか光世。でも…少し不安が晴れたような気がします。ありがとうございます」
「………?俺は、何もしていない」
「勝手に言わせやがれ」
大典太の言葉のお陰で、ほんの少しだけだが不安だった気持ちが和らいだ。そのことに思わず礼を言うと、彼はきょとんとした顔で"何故礼を言われるのか"と問い返した。
はぐらかすように言葉を返すと、大典太は更に分からない顔をして首を傾げた。マリィは日々成長している。それを目の当たりにし、ネズはまた感慨深い気持ちになったのだった。
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.99 )
- 日時: 2022/05/02 22:02
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
みんなで昼食を食べ終えた午後。残りのステージを回る為に、一同は再び移動を始めた。ノボリとクダリも"大会がどんなものか見たい"と、大典太達について行くことを決めた。
オービュロンのステージは、海沿いの何もない原っぱのど真ん中に建てられていた。修理中のピッグシップを背景に、何人かがステージに挑戦しているのが見て取れた。
早速ステージに近付いてみると、オービュロンがこちらに気付いたのかゆっくりと手を振っている。近くにいたスタッフに一声かけ、彼はぽてぽてと音を立てながら一同に近付いてきた。
「お久しぶりデス皆サン!」
「おお?!本当にポケモンみたいな姿をしているんだぞ?!」
「ソレ、2回目デース…。シカシ、ヨクゾ皆サンココマデ来てクダサイマシタ!ワタシ、盛大に褒めてサシアゲマス!」
「出ました、オービュロンのたまに出る上から目線。別に見下したつもりはないって分かってるから良いんですけどね」
「つっこみはノーデスヨ、ねずサン!皆サン、順調ミタイデスネ!サテ、誰か決勝に進めそうな人はイルノカナ?」
「あたし、決勝行けるかもしれん。今3位」
「オー!凄いデスネ!」
オービュロンに進捗を聞かれ、マリィが自分が行けそうだと返す。すると、彼は感心するように声を上げた。本当に自分達の作ったゲームが好きで、本気で挑んでくれているのだということが彼らを見ていると伝わってくる。それだけでも、ワリオの案に結果的に乗っかって良かったとオービュロンは内心思っていた。
しかし、彼が報告しなければならない事柄はそれだけではない。彼は途中、スタッフにステージの管理を任せワリオが保管している信濃の様子を見に行っていた。信濃は相変わらずカンパニーの1階にケースに入れられたまま、オービュロンがあの日写真を撮ったい日のままだった。
そのことを伝えると、顎に手を当てながらネズは言った。
「つまり、信濃は優勝者がそのまま手にする可能性が高いんですね」
「ハイ…。正直、カナリ不安デス。デスガ、開催側トシテモ大会が始まってシマッタ以上、最後マデ公平に物事を進める義務がアリマス。まりぃサンが仮に優勝シテ短刀が渡るコトニナッテモ、ワタシが全責任を負うツモリデイマス」
「そんなことしなくていいよ。あたし、自分に出来ること全力でやるって決めたから。あたしの為に責任なんか追わないで」
「マリィ…」
「……ワカリマシタ。デスガ、不調がアッタラスグニワタシに報告シテクダサイネ!デハ、4人はコチラマデドウゾ!ア、ねずサン達はソチラの休憩すぺーすニテ応援をお願いシマス!」
「分かってますよ。参加者でもないのに手出しはしません」
「ぼく達、みんなのこと全力で応援する!頑張って!」
「誠心誠意、応援いたします!頑張ってくださいまし!」
マリィの決意を聞き届けた後、オービュロンは彼女達をステージの場所まで連れて行った。小さくなる影を見守りつつ、3人と一振も彼に指を差された休憩スペースへと移動し、各々くつろぐことにした。
そう言っている間にオービュロンのステージが開始された。彼の今回のジャンルは、制限時間が他のジャンルよりも長い、少し頭を使うゲームが揃っている"IQ"に、自身が世界で学んできた文化を取り入れた"カルチャー"を混ぜたものだった。見栄えのいい、華やかなゲームの数々に見守っていた3人と一振も思わず感嘆の声を漏らす。
「ブラボー!なんと素晴らしい…!オービュロンさまの製作されるゲームというものは、こんなにも華やかかつ繊細なのですね!」
「……1つ1つのゲームが短いからこそ、こんなことが出来るんだろうな。発想の勝利というものだろうか」
「世界って、ぼく達が見ているよりずっと広い。オービュロンさんは自分の故郷からやってきて、その広い世界をいっぱい見てきた。そんな気持ちが伝わる。オービュロンさんの"楽しい"が、いっぱい詰まったとってもいいゲーム!うんうん、ぼくも見ててとっても楽しい!」
「新曲のアイデアになりそうなものも沢山転がってますね。後でオービュロンに礼を言いにいかないと。効果音も適材適所、あいつ作曲のセンスありますよ」
「……絶対喜ぶだろう。プロのあんたがそう言うんだから」
感想を各々述べあっているうちに、マリィ達のゲームが終了したようだ。遠目に彼女達がオービュロンと話しているのが分かる。その隣で、悔しそうにしながら装置から出てくる1人の女性も見かけた。現実的な服装を身に纏っていることから、恐らく異世界からの来訪者なのだろう。傍らに刀剣男士のような男性もついており、女性を励ましているように見えた。
大典太からみてその刀剣男士には邪気が感じられなかった為、彼も"異世界の刀剣男士"なのだろうと判断した。
「あー悔しい!もうちょっとでボス倒せたのにー!」
「もうちっくとやったなぁ主。やけんど、頑張っちゅーのは伝わった!」
「いいところまで行ってもクリアできなかったら意味ないんだよぉー!」
「早う本丸帰って懇願会開こう。な、主!」
べそべそと悔し涙を流しながらその場を去っていくのを見守りつつ、オービュロンの方を大典太は再度向いた。マリィ達がこちらに気付いたので、3人と一振も合流を急いだ。
近くで見た一同の表情は"やりきってやった"という顔をしていた。どうやら全員、想像以上の力を発揮できたらしい。
「皆サン、素晴らしい好成績デシタ!モシカシタラ順位の変動もアッタカモシレマセン!」
「そう期待して端末見てみたんだけど、オレは全然上に行けなかったんだぞ…。上位、どれだけ接戦なんだ」
「はっはっは!だが、全員実力を発揮できて良かったじゃないか!」
「はい!皆様が高みへと昇られるそのお姿…。わたくししっかりと目に焼き付けましたとも。ええ、この眼差しにしっかりと刻ませていただきました!大変素晴らしい!ブラボー!スーパーブラボー!!」
「4位が団子状態って話でしたし、まずはそこまで頑張らなきゃお話になりませんよホップ。ま、いつも通り力を発揮すりゃいいんですよ」
「ネズさん。残り回ってないとこ、どこ?」
「えーと…。町の端にある"ナインボルトの家"というところです。大体回り切りましたから、そこが最後だった筈です」
「街の端か。それなら…」
ノボリがブラボーブラボーと皆に賞賛を送っている間、彼の背中越しにネズとクダリが今後の道筋について話し合っていた。残りはナインボルトのステージだけなのだが、端にある為今いる場所からは数通り向かう為の道が存在している。マリィ達によりゲームを楽しんでもらう為、ネズの言葉を受けたクダリは少し考え、ミニマップに指をなぞらせた。
「だったら、こっちの道を行った方が近いかも。一見広いけど、狭くて近い道を行こうとすると渋滞に巻き込まれるかもしれない。参加者は少なくなってるけど、鉢合って到着が遅れちゃったらゲームが出来る時間が少なくなる。
もうちょっとで14時。予選おしまい。だったら、少しでも広い道を歩いた方が確実。そして、沢山プチゲームクリア!」
「成程。それは考えつきませんでした…。ミニマップからみても、こっちの細道のほうが近いですが…。確かに、スコア勝負をしているからには早く辿り着きたいという気持ちは皆同じですもんね。流石車掌です。その案で行きましょう」
「えへへ」
「素晴らしい提案ですクダリ!わたくしもその案に乗らせていただきます!」
「……どこから聞いていたんだ?」
「わたくし、ルート把握はお手の物。ご相談を受けなくとも最適なルート選択を行ってみせるのです!今回の場合、クダリのご提案したルートが最適な目的地へと辿り着くルートだと、わたくし確信しております!」
「よーし!進む道が決まったら早速最後のステージまで行くんだぞ!」
「最後まで誰が勝ち残るか分からないからな!諦めないで最後まで食らいつこうぜ!」
「僕も諦めません!全力です!」
「気合を入れ過ぎて怪我しないようにね。それじゃ、目指すは勝利。出発進行、ですね」
「おや。お気に召されましたかネズさま!」
「まぁね。響きがいいもんで」
「うんうん!ぼくもこの言葉大好き!」
自分達がいつも口にしてる口上がネズの口からぽろりと零れ落ちる。どうやら言葉の響きが気に入ったらしい。そんな彼の反応を見て、双子はどことなく嬉しそうに目を緩ませたのだった。
オービュロンに見送られ、一同は最後のステージであるナインボルトの家を目指して出発したのだった。
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.100 )
- 日時: 2022/05/03 23:07
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
ナインボルトの家に到着して30分後。一同は最後のステージである"ニンテンドー"ジャンルへのチャレンジを丁度終えていた。何故かマリィの目の前でナインボルトが項垂れている。どうやら自分でテストプレイした記録を悠々と超えられてしまった為、悔しかったからこその行動だった。
「ま…まさか…。ボクちんの記録越されるなんて…!悔しい~!これで3人目だよー!」
「やったことあるゲーム沢山あった。楽しかったよ」
「楽しかったんならいいけどさー!ボクちんテストプレイも本気でやったんだぞー!」
「んもう、ナインボルトったら。お客様に沢山楽しんでもらう為ってわたしに難易度を下げた方がいいか相談したのは誰だったかしら?」
「マリィで3人目…ってことは、トップ争いをしている3人の残り2人も彼の記録を超えた…っつー解釈でいいんでしょうかね」
「話の内容から推測するとそうなるでしょうか。となりますと…やはり、4位争いに注目せねばなりませんね」
「マリィちゃんはほぼほぼ決勝進出確定、ってことでいいのかな」
そう話し合いながら、ネズはスマホロトムに今の時間を尋ねる。画面には"13:55"と表示されていた。既に全てのステージを回っている為、後は予選終了を待つだけだった。
参加していたマリィ、ホップ、ダンデ、前田は改めて自分の順位を確認する為端末を開いた。脱落した参加者はランキングから消える為、既に残っている人数も50人程に絞られていた。
一同が確認している最中、予選終了のブザーがダイヤモンドシティ中に鳴り響いた。このブザーをもって、順位が確定する。誰が決勝に行くのか。邪気を纏った信濃を無事回収出来るのか。まずはその第一歩が踏み出せるかどうかがここで決まるのだ。
順位を確認する3人と一振を見守る。すると、マリィが自信満々気な表情で兄に端末を見せた。
「あ」
「どうかしましたか、マリィ」
「決勝行けたよ。3位!」
「わぁ!本当だ!おめでとう、マリィちゃん!」
「ブラボー!素晴らしい戦いぶりでした。おめでとうございます、マリィさま!」
「……おめでとう」
「流石は我が妹です。おめでとうございます」
「決勝も全力出して優勝狙うけん、応援してて」
「勿論ですよ。今日のエール団はマリィを最後まで応援します」
「サブウェイマスターも今日はエール団と一緒に応援する!ね、ノボリ!」
「はい!ですから、全力を出して優勝を目指しひた走ってくださいまし!」
無事にマリィが決勝に行けたことで、ひとまずは安心する一同。やはり信濃についての不安は付きまとうものの、彼女のまっすぐと自分を見据えた目を見てネズは"マリィを信じる"という選択肢に行きついた。ちなみに、ホップが9位、ダンデが24位。前田は40位という結果に終わった。
彼女の後ろで残念そうにする前田とホップを大典太は慰めていた。
「僕なりに頑張ったつもりでしたが…。下の方に自分の名前がありました。残れてよかったのか、ランキングが低くて悔しいやら…」
「もうちょっと頑張れば4位争いに食い込めたのに…。悔しいんだぞ!」
「だが、2人も全力を出した上での結果だろう。勝敗には運も絡む。そう落ち込むことはないぜ!」
「……みんな、楽しそうにしていた上での結果だ。前田、楽しくなかったのか?」
「いえ!とっても楽しかったですよ!だからこそ悔しいんです!」
「……なら良かったじゃないか」
前田は信濃の為にも絶対に決勝に残りたいと意気込んでいた為、相当悔しい思いを抱えていたようだった。申し訳ないと一同に頭を下げる。しかし、マリィがそれを咎めた。そして、辛そうに表情を歪ませる彼の手を優しく握る。
彼女は既に、前田の気持ちも背負って決勝のステージに立つことを決めていたのだ。
「前田くん。あんたの気持ちも一緒に持って行く。絶対、信濃くん持ち帰ってくる」
「マリィ殿…。じゃあ、僕のありったけの気持ちをこの手に込めますね!」
「うん。ありったけ込めて。あたし、決勝で全部吐き出しちゃうから!」
「……ネズさん。前田とマリィ、いつの間に仲良くなったんだ?」
「若人の成長は早いものなんですよ」
「わたくしから見れば、ネズさまも充分若人にございます」
「ぼく達とひとまわりくらい歳違う。ネズさんは背伸びしすぎ!もっと年相応にすればいい」
「その発言はノイジーですよ、サブウェイマスター」
ぎゅ、と改めて前田の手を握ったマリィ。その手を離した瞬間、彼女を呼び出す放送がダイヤモンドシティ中に流れた。どうやら、決勝ステージの準備がこれから始まるらしい。
マリィは一度皆の方を向く。そして、改めて決意を語った。
「もしかしたらユウリの手がかりも見つかるかもしれんし、最後まで全力で行く!だから、応援してて!」
「はい。全力で楽しんで来なさいよ」
兄と言葉を交わしたマリィは、近くで小さく手を振っているファイブワットの元へかけていき、彼女とナインボルトと共に決勝ステージまで歩いて行ったのだった。
彼女を見送った後、ふとクダリが思い出したようにマリィ以外の決勝進出者について知りたがった。予選の順位がもう決まったのだから、全員が見れるはずだと端末を見せてもらうことにした。
ダンデから端末を借り、決勝進出者である上位4人を確認する。1位にはとんでもない名前が載っていた。
「うわ。1位の"マリオ"って…あのスーパースターのマリオ?」
「何でもそつなくこなす双子の配管工の兄…。以前からシンパシーを感じておりましたが、こんな場所で名前をお見掛けするとは…」
「2位の"ソニック"という人物も気になりますね。あの青いハリネズミじゃなさそうですが」
「……かなりのファンらしいぞ。こいつも」
「強敵揃いですね…」
「凄いな。有名人ばかりだぜ!」
「1人だけじゃねぇですか」
「4位の"クロダ"って人は…このゲームのファンなのか?あの団子を勝ち抜いた奴っぽいが…。うーん。申し訳ないが、上位3人のスコアがとんでもなさ過ぎてこの人が一番最初に決勝脱落しそうな気がするんだぞ…」
1位があの超有名なスーパースター、マリオであることに驚く一同。ダンデが参加表明をする時も充分驚かれたが、もしかしたら彼の顔を見てスタッフはひっくり返ったのかもしれない。
2位のソニックについても、大典太から"相当なゲームのファン"であることが語られた。何故彼がそのことを知っているのかは不明だが、決勝も白熱しそうだとネズは思った。
しかし、彼らがやることは1つ。決勝の舞台に立つマリィを全力で応援することである。
「ま、どんな面子でも応援するだけなんで。それがエール団です」
「決勝のルールはもう公表されているのですか?」
「おう。ここに書いてあるぞ!えーと…。"全ジャンルのプチゲームを最後の1人になるまで行うサバイバル形式のルールです。3回失敗したら脱落です。一瞬のミスが脱落に繋がります。どんどん早くなるテンポについてこれるかな?"って書かれてるな」
「1回のミス…。3回失敗したら脱落なんですね。プレッシャーが半端ないです…」
「ですが、ポケモン勝負も一手の読み間違いや油断が逆転を許します。であれば、心意気は同じ!マリィさまにも勝機は充分ございます!」
「テンポについていくのすっごい大事。でも、諦めない心を持つのが一番大事!」
決勝ステージの設営等で30分ほど時間を要することが、決勝ルールのページに同時に記載されていた。その為、一同は決勝ステージに示されている場所に向かって話をしつつ、歩くことにしたのだった。
―――しばらく道路を歩いているとふとダンデが思い出したようにネズに口を開いた。
「そういやネズ。お前…あの2人と接点あったのか?オレは初めて聞いたぜ?」
「あの2人?」
「しらばっくれるんじゃない。ノボリさんとクダリさんだぜ」
「そうなのか?!」
「…………」
突拍子もないダンデの言葉にネズは一気に真顔になった。彼の反対側で話を聞いていた当の双子も何事かと顔をダンデの方向に向けた。どこから漏れた、とネズは眉間にしわを寄せる。十中八九あのおしゃべりなドラゴンタイプ使いだろうと推測はしていた。大会から帰ったら腹に一度パンチを喰らわせても問題ないと彼は内心考えた。
もしかして自分よりも先にポケモン勝負をしたのではないかと若干興奮気味になっているような気がする。キラキラとした眼差しを向けられ、ネズは大きくため息をついて過去のことを話し始めたのだった。
「別に勝負をしに行ったわけでもないですし、おれがジムチャレンジする前の話です。随分と昔の出来事ですよ」
「それでもいい。オレはお前のことについてもっと知りたい!」
「はぁ…。おれがまだ11歳…マリィが5歳の頃の話です。一度だけ、観光目的でイッシュ地方に行ったことがあったんですよ。遊園地、デカい駅、ミュージカル。時代が進歩した都会的な街…。田舎者のおれにはライモンシティが随分と眩しく見えた。ダイマックスがなくとも、これだけ輝けるんだって。いつかスパイクタウンも、こんな輝きに満ち溢れた街に戻したいって…当時のおれはあの街に、そんな憧れを抱えていた筈です」
「ネズさん…」
「でも、ギアステーションで事件が起こりました。バトルサブウェイに挑戦しに行った父と母を迎えに行った時に…マリィとはぐれちまったんです。駅構内は人でごった返してて。右も左も人だらけ。そう油断も隙も出せない時にマリィと手を離してしまったのが運の尽きでした。
ギアステーションは想像以上に広い。知っている場所でもありません。だから、いくら探しても、どこを探してもマリィは見つかりませんでした。もしかしたら線路に落ちてしまっているのかもしれない。誰かにぶつかって怪我でもしているかもしれない。泣きじゃくっていたおれを慰めてくれて、一緒にマリィを探してくれたのが―――当時のノボリとクダリだったんです」
ネズは11歳の頃、当時スパイクタウンのジムリーダーだった父に連れられ、一度だけイッシュ地方に旅行に来たことがあった。ガラルでは既にダイマックスを使用するバトルが主流となり、かつては名門だったスパイクジムも落ちぶれていた。父のポケモン勝負がとても強かった為、後半のジムチャレンジを任せられてなんとか首の皮一枚繋がっている状態であった。
そんな中でのライモンシティの輝きは、当時のネズの心に強く響いた。イッシュ地方がそもそも、特別なすがた等の戦法を用いないシンプルなポケモン勝負が主流な地方であった。いつかこの輝きをスパイクタウンにも戻したい。当時、そんな思いを抱いたこともあったとネズは語る。
バトルサブウェイでの挑戦を終えた父と母を迎えに、マリィとギアステーションまで向かったまでは良かった。しかし、そこでマリィとはぐれてしまう。広く、初めて訪れるギアステーションで妹とはぐれてしまった。いくら走っても、どこを探しても見つからない。最悪、酷い目に遭わされたり怪我をしてしまっているのではないかとネズはどうしようもなくなり、泣くしか無かったのだと。
そんな時、手を差し伸べて一緒にマリィを探してくれたのが―――当時一介の鉄道員としてギアステーションで働いていたノボリとクダリだった。正確には、泣いていたネズにノボリが声をかけ執務室へ共に行き、彼の連絡を受けたクダリがズルッグと遊んでいたマリィを発見した。
ガラル地方が終末の世界に巻き込まれる前にキバナに話していた"借り"とは、恐らくこのことなのだろう。ネズの話を聞いて、双子も思い出話をするように彼に続く。
「妹思いの優しいお兄様。そして勝負もお強い!忘れるわけがありません。わたくしの心に深く刻み込まれている記憶の一部でございます」
「マリィちゃん、その頃から強かだった。執務室に一緒に戻ってきた時ネズさんがすっごい泣いてたのに反して、マリィちゃんは全然泣いてなかった」
「恥ずかしい思い出を吐露するんじゃないんですよ」
「そんなことがあったんだな…。それで、ネズ。ノボリさんが"勝負をした"とか言っていたが…どういうことだ?」
「結局、ノボリとクダリのお陰で妹も見つかりましたし…。帰り際、父と母とも合流したタイミングで子供限定のイベントを行っているのに鉢合ったんです。内容が"バトルサブウェイに勤務する鉄道員とポケモン勝負をしてみよう!"ってので。所謂客寄せの一種ですよ。
父に勧められておれも参加しましてね。で、戦ったのが偶然ノボリだったんです。当時のサブウェイマスターが気を利かせてくれたのかは知りませんけど…。当然負けました」
「いいえ!ネズさまのマッスグマのあの一撃!あの一撃がランプラーに当たっていたのであれば、ランプラーは倒れていた。それ程までにわたくしを追い詰めたのをお忘れですか!ネズさま!」
「あのですね?その時のバトル"客寄せ"だったの忘れてません?つまり、バトルサブウェイで戦うより手加減して戦っているんです。それで相性有理であるこっちが負けてるんですよ。ノボリだって手加減してたんでしょう?」
「え?ノボリ、あの時も全員と全力でバトルしてた。来る人来る人すぐ負けちゃって、"あの鉄道員さんと戦いたくない"ってクレーム来てノボリ、後で当時のボスにこっぴどく怒られてた。
でも、唯一ノボリを追い詰めたのがネズさんだった。ぼく、ちゃんと覚えてる」
「は…?」
「ええ。ご自分では"才能がない"と謙遜なされておりますが、わたくしあの時からネズさまには光る才能というものを見据えておりました!ダンデさまからキバナさまを追い詰め、ダイマックスが前提のガラル地方でもトップクラスの戦績を有しているとお聞きしわたくし心が踊るようでございました!ですから!いつか!わたくし、ネズさまと本気のポケモン勝負をしたいのです!」
そう。ネズの話には続きがあった。マリィも無事保護され、ギアステーションからホテルに戻ろうとした時に偶然バトルサブウェイの催しに立ち会ったのだ。そこで、ネズは何の因果かノボリと戦った。
当時からネズにはバトルの才能があったとノボリがダンデに伝えると、彼は目を輝かせた。やはり自分の考えに狂いは無かった。それが分かったからだった。
キラキラした目をネズに向けたまま、ダンデは興奮気味にこう言った。
「ネズ!やはりお前にはバトルをしてもらいたい!ガラルではダイマックスが当たり前だが、お前がそういう戦い方だけじゃないって道を切り開いてくれたのは事実だぜ。オレがバックアップにつくから新しいバトル施設の長をやってみないか!バトルフェスタとかどうだ!歌も歌える、バトルも出来る!こんなに良いことは無いだろう!」
「嫌ですね。お断りします」
「アニキ…。ネズさんにそんなこと言っても無駄だと思うぞ…」
「ま、今は嫌ですが…。ガラルも少しずつ変わってきています。もしスパイクタウンがしっかりと町おこしに成功したその暁には……考えてやらんでもありませんよ」
「そうか、そうか!そう言ってくれるか!ならガラルの発展の為にオレも今以上に頑張らないと、だな!」
その後も、ポケモン勝負に纏わること、纏わらないこと。会話に花咲かせながら、彼らは会場へと足を進めていったの。
そんな彼らの楽しそうな様子を、大典太と前田は後ろで静かに見守るのだった。
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.101 )
- 日時: 2022/05/05 01:32
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
一同が決勝のステージに到着して15分後。用意された客席の最前列に一同は座っていた。既に決勝ステージの設営は終わっており、徐々に客席に観客が集まり始めていた。ネズの号令で、一部のエール団もマリィを応援する為に客席の淵に立ってブブゼラを鳴らしていた。
そのまま待っていると、舞台袖から橙色の三つ編み姿が可愛らしい、眼鏡を賭けた少女がマイクを持って現れた。どうやら彼女―――"ペニー"が今回の決勝ステージの司会を務めるらしい。
「みなさーん!本日は"第2回 メイドインワリオカップ"の決勝ステージへお集まりいただき誠にありがとうございまーす!わたしは決勝ステージの司会を務めます、"ペニー"と申します!本日は是非最後の最後まで楽しんでいってくださいねー!」
「お嬢ー!頑張ってくださーい!」
「エール団はお嬢を応援してーる!」
「……なぁネズさん。本当にエール団連れてきて良かったのか?」
「会場も熱気が出てきてますし、いずれ観客の声とのハーモニーで良い感じに混ざり合います。おれが何も考えないでエール団を呼ぶとでも?」
「……あんた、割と直情的だと思ってたんだがな」
「歌を描く時はハートが一番大事なんですよ、光世」
ペニーの紹介で、決勝進出者である4名の参加者がステージへと登壇した。
まずは予選1位のマリオの名前が呼ばれた。観客に向かって余裕の表情で手を振っているところを見ると、流石は"世界的なスーパースター"だということを改めて思い知らされる。続けて呼ばれたソニックは、緊張した面持ちながら意気込みを聞かれると"頑張ります!"と堂々と答えた。
次にマリィの名前が呼ばれ彼女もステージへと登壇する。エール団の姿を見つけて少し安心したのだろうか、ステージ下にいた時よりも顔の緊張が解けていると一同は感じていた。そして、最後の決勝進出者であるクロダの名前が呼ばれ、彼はステージへと上がったのだが……。
彼の顔を見た瞬間。ネズ、ノボリ、大典太は悪寒を覚えた。微かにだが、彼から邪な気配を感じたのだ。思わず大典太は自分の刀の柄に指を乗せるも、それに気付いたネズに静止させられる。
「駄目です。ここで騒ぎを起こしたら本末転倒ですよ。あいつが何かしてくる前に手を出してしまって、おれ達が会場から追い出されてしまったら意味がありません」
「わたくしも彼から邪な気配を感じ取りましたが…。大典太さま、ここで刃を振るっては他のお客様にも危害が出てしまいます。今一度、ご辛抱を」
「…………」
ノボリにも小さな声で諭され、渋々大典太は刀の柄から手を離した。彼以外にも決勝進出者に反応していた人間がいた。主催者であるワリオであった。
彼は"何故マリオが参加している" "何故あいつが決勝に残っている"と憤慨していた。どうやら彼が決勝に残ったこと、しかも予選1位を取ったことに大層ご立腹らしい。彼の怒りの炎は留まることを知らず、今にもマリオに襲い掛からんとしていた。しかし、今日は喧嘩ではなくゲームで勝敗を決める、れっきとした"公平な大会"なのだ。個人の一感情で大会を無に帰してしまっては今後の街の評価にも響くだろう。
ワリオの反応にいち早く気付き、町長は目を凝らして社員を見ている。ワリオを動かしてはならないと悟ったジミーが必死に彼の動きを止めていた。
「端末の方でも説明を記載させていただきましたが、改めて決勝ステージのルールの説明を行います!
決勝ステージは……名付けて!"令和のいきのこりフィーバー"ルールで戦っていただきます!今から皆さんには、音楽に合わせて全てのジャンルからプチゲームに挑戦していただきます。スポットライトが当たった方がチャレンジャーとなりますので、出されたプチゲームをクリアしてください!失敗してしまうと、4名の背後のモニターに映っているハートが1つ減ってしまいます。ハートは決勝進出者の残りライフを表しており、3回プチゲームに失敗すると脱落となってしまいますのでご注意くださいねー!
音楽はどんどん速くなっていきますので、テンポについて行けるか、そして速度が早まった中でも冷静にクリア方法を見つけられるか!それが勝敗の鍵を握るとわたしは思っています!」
「どんな音楽が流れるんでしょうか。楽しみですね」
「ネズさん、ウキウキしてる。ぼくもドキドキ」
「そりゃまあね。アーティストだからね」
「それじゃあ……準備はいいですかー?」
ペニーの合図に、観客と決勝進出者から熱い声援が返される。それを聞いた彼女は笑顔になって、試合開始のコールを叫んだ。
『決勝ステージ!よーい……スタート!!』
ペニーの大きな開始宣言と共に、ダイヤモンドシティをソウルミュージックが覆う。ゆったりとしたテンポだが、ノリノリになれるリズムに決勝進出者も徐々に身体が暖かくなるのを感じた。
彼女が"さぁ!一緒に踊りましょう!"と元気よく声をかけたのを機に、4人は少しずつ自分なりに踊り始めた。そう。これが"いきのこりフィーバー"。ダンサーであるジミーが考えた、いきのこりをかけたサバイバルゲームなのだ。
「このソウルフルなミュージック…。ハートがたぎるぜ。すぐにでも歌いたい気分だ!」
「ネズさんが好きなことに夢中なノボリみたいになってる」
「ネズはスイッチが入ると人が変わったようにハイテンションになるんだぜ!」
「つまり、ネズさんの暴走特急!うんうん、好きなものを好きっていう気持ち大事!」
「自分のお気持ちを素直に表現するその素直さ。大変ブラボー!にございます!」
「うーん。ちょっと違う気がするんだぞ…?」
別人のように変わったネズに驚く双子だったが、ダンデに解説を受けすぐに納得した。どんな状況でもすぐに応じる臨機応変さは評価しつつも、やはりどこかずれているのだとホップは内心思った。
そんなことをしている間にもゲームは進む。音楽に合わせて、遂に最初のスポットライトが参加者に照らされた。トップバッターはマリオのようだ。
「最初はボクだね!ふふーん、スーパースターの腕の見せ所だね!」
「スーパースターの力、隣で見せてもらうぞ!」
「あたしだって気持ちなら負けてないよ!マリオさん!」
ノリノリでダンスをしてアピールをするマリオに反応し、ソニックとマリィも意気込みを返す。そのままの勢いで、彼は余裕で最初のプチゲームをクリアした。ボルテージが上がる決勝ステージと、それに比例してワリオの怒りが更にヒートアップする。
マリオの勢いに気分が高調したのか、他の3人もスポットライトが当たるごとに次々とプチゲームをクリアしていく。
4人が次々とプチゲームをクリアしていくごとに、音楽の速度も上がっていく。テンポが速くなるごとにプチゲームの制限時間も短くなり、流石の決勝進出者もミスが目立ち始めた。
最早音楽にノリノリで全く話が聞こえていないネズとサブマス双子をよそに、ホップは額に汗を書きながらこう漏らした。
「こんな速さオレついていけないぞ?!」
「やはり、決勝というものはこうでなくてはな!うん、オレは今凄くいいものを見れているぜ!」
各々速くなるスピードについていくが、遂に脱落者が現れた。
「うわぁーっ?!この速さでこれは運ゲーだ?!」
「アシュリーの考えたプチゲームやな…」
「……ふん。出たのが運のつきね…」
「こ、これは無理だーーー!!!」
アシュリーが考えた"たべもの"ジャンルのプチゲームで、遂にソニックが最初の脱落者となってしまった。そして、彼に釣られたのかクロダも次のプチゲームをクリアできず、脱落してしまった。
マリオとマリィの一騎打ち。互いに得意なプチゲームをこなしてきたのか、残りのライフは2つずつだった。まさかの展開に会場も、ワリオの怒りも更にヒートアップする。
「おーっと?!これは波乱の展開です!マリオ選手とマリィ選手!互いに残りのライフは2!先に脱落してしまうのはどちらなのでしょうかー?!」
「……マリィが残っているな。頑張ってるじゃないか」
「最後まで全速前進!ノンストップで終着点まで驀進してくださいましー!!」
「まさかキミが優勝決定戦の相手だとはね。ボクについてこれるなんて中々やるね!でも、負けないよマリィちゃん!」
「スーパースターとはいえ、あたしだってこのゲーム大好き。だから、最後まで食らいつくっ!スパイクタウン魂、見せてやるけんね!」
マリオとマリィは速くなるスピードにも負けず、テンポよくプチゲームをクリアしていく。そんな彼らのノリノリな姿に、会場も一体となって盛り上がっていた。
そして、遂に曲のテンポは最高速度まで上がり切った。2人共集中しており、一瞬の予断を許さない状況だ。
「遂に音楽が最高スピードまで到達しました!さぁ、最後まで食らいつくのはどっちでしょうーっ?!」
「頑張れマリィちゃん!」
「これくらいのテンポ、ネズの妹ならついていけるよなぁ?! Are You Ready?!」
「いえーい!マリィのリズムについてきてー!」
「いえーい!マリィ殿のリズム、最高ですよー!」
「マリオさんだって負けてませんよ!なんせ最強の任天堂音ゲーマーにしてダンサーもしてますからね!」
「頑張れにいさーん!」
「負けるんじゃないぞマリオー!!負けたらワガハイのライバル失格だーーー!!!」
「(スターの双子の弟もさり気に参加してたんだぞ?!)」
ネズの熱量が移ったのか、両隣にいるノボリとクダリも彼の動きに合わせて一緒にリズムに乗ってハイテンションになっていた。ノボリに至っては既に大声がオーバーフローを起こし、地声が町中に響いている。
会場の思いに応えるように、マリオとマリィはテンポよくプチゲームをクリアしていく……の、だったが。
遂に、大会の決着がつく時が来た。
「あっ…!」
「にいさーん!」
マリオがあと少しのところでプチゲームをクリアできず、タイムオーバーを迎えてしまった。マリオとマリィのライフは互いに1。つまり、ここでマリオのライフは0になったということになる。
彼が膝から崩れ落ちた瞬間、マリィの優勝が決定した。
「おおーっと?!決着がついたようです!優勝は!スパイクタウン出身のマリィ選手です!おめでとうございまーす!」
「あたし…あたし…スターに、勝った?」
「マリィが…マリィが勝ちました。妹が…やり遂げました…」
「はい。はい!ネズさま!マリィさまが優勝なされました!!スーパーブラボーな快挙でございます!!!」
「優勝はマリィちゃん。みんな頑張った。その中で沢山の思いを一番ぶつけたのがマリィちゃん。ぼく、とっても嬉しい!」
「うぅ……おれ…おれ…マリィの兄で良かったです……うぅ~~~~……!!」
「ネズさまっ…!!」
「ネズさんっ…!!」
「…………」
「はははっ。正に青春じゃないか!」
妹の快挙。ポケモンリーグではないが、彼女が成し遂げたそれを目の当たりにしたネズは思わず号泣してしまった。彼を慰めるように一緒に号泣し、両側から抱きしめる双子。傍から見れば、成人間近の男と三十路が近い男2人が抱き合って号泣しているのである。スポーツものによくある光景だとダンデは笑い飛ばし、大典太は静かに彼らを覆い隠すように真ん前に立った。
「ではボルテージが下がらない間にインタビューをしてしまいましょう!マリィ選手、優勝おめでとうございます!今のお気持ちをお聞かせください!」
ステージ上ではペニーがマリィにマイクを向けていた。勝つつもりで勝負に臨んだが、しっかりと成果を出せたことには今でも驚いている。そして、何よりその優勝は彼女だけの力ではない。マリィは確信していた。
彼女は、今だに抱き合って号泣している男3人の方向を向いてこう言った。
「アニキ!みんな!あたし、勝ったよ!応援ありがと!」
彼女のその言葉を受け、3人は各々マリィの名前を叫び、誰よりも大きな声で祝福したのだった。