二次創作小説(新・総合)
- Re: 食事と戦闘~白と黒のハーモニー~ ( No.20 )
- 日時: 2021/09/18 13:40
- 名前: モンブラン博士 (ID: e1WTIp3A)
闇野美琴は天界の住人である。好物の握り飯を食べ、書物を読み、武に励む。
他の天の者達と変わらぬ穏やかな日々を過ごしていた。
ある時、天から地上を眺めていると、鬼舞辻無惨という鬼が人を喰い、暴虐の限りを尽くしている様を見た。
罪も無い多くの者が殺められていく光景を見た美琴は地上を嘆き、涙を流した。
そして、数百年ぶりに地上へ赴き、自らの手で無惨を救うことを決意した。
竹藪の中で無惨を見つけた美琴は、言った。
「あなたが鬼舞辻無惨ですね」
「お前、人では無いな」
「わたしは天から参りました。闇野美琴と申します。あなたを救いにきたのです」
たおやかに微笑む白い装束を身に纏った黒い長髪の美女。
天から来たという話が事実ならば、この女は人でも鬼でもない。放逐すれば自分を脅かす存在となる。
危機感を覚えた無惨は腕を振るい、美琴を始末しようと試みた。腕は美琴の頬を掠めるが、つけられた傷が瞬時に再生し、鬼化の効能も見られない。
無惨は衣服を破りして、背と両腕の計11本の管を全開にして攻め立てる。
美琴は全ての管の攻撃を食らいながらも前進を止めることはない。
無惨が認識できないほどの速度で無毒化と修復を繰り返しているのだ。
無防備で腕の猛攻を受け続けながらも前進し、美琴は無惨の両肩に手を添えた。
「捕まえましたよ」
美琴は無惨の腕を掴み、背負い投げで地に叩きつけた。
上空には燕が舞い、穏やかな風が吹き抜ける。
音もなく投げ落とされた無惨は口から吐血しつつも、起き上がり、間合いを取る。
鬼である自分が投げ技を食らい、しかも損傷を与えられている。
御伽噺としか思えぬ現実に無惨はギリギリと歯を鳴らし、分裂をしようとした。
だが、身体が無数に分かれることができない。
戸惑いを前に美琴が微笑して告げた。
「先ほど触れた際に私の細胞をあなたの体内に侵入させました。神は鬼の最大の天敵ですから、あなたは分裂能力を封じられてしまったのです」
美琴の瞳からは同情の色が見えた。同情。この女は私を哀れんでいるのか。
完璧に限りなく近い生命体である私を。
無惨は息を吸い、高圧の空気を発射した。美琴も格闘の構えを取り、正拳突きを放つ。
美琴の拳圧が無惨の空気弾を相殺したのだ。
美琴は無惨に足払いを仕掛け、身体を宙に浮かせると、自らも跳躍して対峙。
素早く後方を取ると無惨の腰を掴み、裏投げで地に叩きつけた。
無惨は脳天が割れ、血が噴き出す。
傷の回復は時を要する。息を荒くしながら目の前の女を睨む。
四肢に力を込めて立ち上がろうとする無惨に、美琴は言う。
「ずっと天から見ていました。あなたは生まれた時から極めて虚弱だった為に鬼の始祖となっても永遠の命に執着するのでしょう? 日に当たることができず、人を食べることでしか命を維持できず、同胞を増やしても裏切られる恐れから信用できない・・・・・・
鬼狩りの方々はあなたを親や兄弟の仇と憎み、誰からも愛されない。あまりにも悲しい人生です・・・・・・もう、楽になっても良いのです。苦しまなくても良いのです。一緒に天に行きましょう」
辛うじて立ち上がり、生えた口で吸引をしようとするが、不発に終わった。
息が切れ、片膝を突く。私が息切れなどあり得ぬ。
「貴様、何をした!」
激高して腕を振るうが、体力はますます消耗していく。
動きの鈍った腕を紙一重で回避しつつ、美琴は答えを出した。
「わたしの細胞が覿面の効果を発揮し始めたようです。最初は分裂阻止、続いて老化、最後に細胞破壊が訪れます」
「!!」
神の細胞は鬼にとって猛毒そのものである。それが体内に微量でも侵入すれば、致命傷を負うのは免れない。無惨は冷や汗を流した。自分が最も恐れる死が凄まじい勢いで迫ってきているのだ。無惨は躊躇うことなく踵を返して逃走を選択。だが、足の自由が利かない。
まるで重石で拘束されたように微動だにしないのだ。
耳飾りの剣士が一瞬で勝負を決めたが、美琴は対局に真綿で首を締めるようにじわじわと追い詰めていく。ゆっくりと、けれど確実に。
固まっている無惨の前面に美琴は回り込み、満面の笑みで懐から笹の葉に包まれた握り飯を差し出した。
「美味しいですよ。おひとついかがですか」
「要らぬ」
「そうですか。美味しいですのに・・・・・・天国に行く前にお腹がすいたら苦しいですよ」
「やめろ」
「わかりました。それでは、おにぎりはわたしがいただきますね」
塩の利いた握り飯を頬張り舌鼓を打つ。
目の前には無惨が顔を赤黒くし、歯を鳴らし、怒りとも畏れともつかぬ表情をしているが、美琴は彼の頭を撫でて。
「よしよし。こんなに怖い顔をなされないでください。わたしも頑張って、あなたが天国へ行けるように上にかけあってみますから」
「私は限りなく完璧に近い生物だ! 私が! この私が、こんな女如きにぃぃぃぃ!」
憤怒の形相を浮かべた無惨は登ってきた太陽に身体を焼き尽くされて、そのままあの世へと転送されてしまうのだった。