二次創作小説(新・総合)

Re: ポケットモンスター フラワー・アメジスト ( No.2 )
日時: 2022/02/21 15:28
名前: 玻璃 ◆UaO7kZlnMA (ID: 7nl1k8P4)

 光はゆっくりとポケモンの形に変化し、やがて霧散した。すると、そこには一匹の青いポケモンが現れていた。
 強靭でしなやかな身体は小さいながらも獣人のようだ、とツムギは思う。拳には微かに青いオーラのようなものを纏っていた。
 はもんポケモンのリオルである。

「わ、本当にポケモンが出てきた」

 ゲームのことが現実で起こっているせいか、訳が分からずツムギは目を白黒させる。対するリオルは、探るようにじっとを見上げていた。
 ポケモントレーナー――ポケモンの飼い主のこと、ではない違う人間がいるからだろう。赤い瞳には警戒するような色が宿っている。
 しかし、何やら苦もんするツムギはそんなことに気がついていない。

「見たことあるよな、ないような?」

 ツムギは屈んで、リオルと目を合わせ何のポケモンかを必死に思い出そうとしていた。
 何せツムギがポケモンをプレイしていたのは、小学校低学年の頃。
 ゲーム内ではオーキド博士がポケモンは151匹と定義し、その151匹の中から新たな進化系が発見されたとか言っていた設定である。
 時の流れと共に多くのポケモンが登場し、ツムギが知らない者も数多く増えた。リオルもそんな一匹だった。

「ピカチュウ、で合ってる?」

 ツムギにとって、はっきりと覚えているのはポケモンの顔と言っても差し支えのないピカチュウのみ。
 後は、ゲームに出てきた151匹プラスアルファが顔と名前が一致せずうろ覚えな程度である。
 ピカチュウ、と呼ばれたリオルはキョトンとし首を左右に振った。
 そして、青いオーラを宿した拳を夢花に向けることしばし。リオルは呆れた目つきでツムギを見上げるも、敵意はなくなっていた。何やら敵意を持つのが馬鹿馬鹿しい、と言った調子である。
 やはり違っていたか、とツムギは項垂れた。

「ごめんね。私、正直ピカチュウ以外のポケモン分からなくて……じゃなくて!」

 何気なく木陰の外に視線をやったツムギは、黒い犬が側に迫っていることに気がつき現状を思い出した。

「お願い、ピカチュウ。私を助けて。あの黒い犬に追われてるの」

 リオルの名を知らないツムギは、困った挙げ句ピカチュウ(仮名)と呼ぶことにした。
 小さな身体にお願いしながら木の外を指で示すと、リオルはその方向を見つめ納得したような表情となる。無表情なリオルに不安を覚えたツムギは、改めて彼の瞳を見つめる。

「どう……かな?」

 すると、リオルは改めてじっとツムギを見上げた。今までのような品定めをする視線ではなく、どうすればいい、と聞くかのようであった。
 その変化をツムギは嬉しく思うと同時に、困惑した。

「指示を出せってこと? んー」

 ポケモンに指示、と言われてもどうすればいいか分からない。ツムギは腕を組んで唸った。
 ゲームでどうしていたか記憶の糸を手繰ると、確か『わざ』と言うコマンドがあったのをツムギは思い出す。
 ポケモン達は『技』と呼ばれるものが使える。ゲーム内だとこれで相手のポケモンを攻撃したりしていた。他のゲームで言う魔法とか、攻撃に相当するものだろう。

「ピカチュウが使える技、〈じゅうまんボルト〉……とか?」

 唯一知る技を指示するが、リオルは困ったように首を左右に振る。 
 ゲーム内でもポケモンが使える技は一匹ごとに違っており、何でも使える訳ではなかった。それなら、とツムギはとにかく技を把握することに専念した。

「まずは使える技、教えてくれる?」

 こくん、と頷くとリオルは何やら手を前に突き出すような動作をした。何だろうとツムギがぼんやりと眺めていると、不意に空気が動き始める。風がリオルの方へ吹き始め、ツムギの栗色の髪を弄ぶ。
 リオルが突き出した両手の前に空気が渦を巻くようにして集まり、青い球体が形作られていく。やがて、ボール程の大きさになったそれをリオルは前に――正確には黒い犬に向けて放った。

「すごい……」

 技の名は、波動弾。波動を凝縮させ相手に放ち、攻撃する。本来はリオルが使えない技だが、ツムギがそれを知るのはもう少し先の話だ。

 放たれた波動弾は黒い犬に被弾し地面に倒れ込んだ。かなりダメージを与えたが、まだ体力はあるらしく黒い犬はすんなりと立ち上がった。出てこいと言わんばかりに、獰猛に吠えている。
 それに応えるように、リオルは木陰から姿を現した。当然、怒っている黒い犬はリオルに襲いかかってくる。

「ピ、ピカチュウ! 何とかして!」

 何とも情けないトレーナーだが、リオルはツムギなど当てにしていないのか冷静である。勢いをつけ、ポチエナと一気に間合いを詰めると至近距離から波動弾を叩き込んだ。
 素早く動く技、電光石火で黒い犬に近づき一気に攻撃を仕掛けたのだ。甲高く鳴いた黒い犬は、慌ててリオルに背を向けて逃げ去って行った。

「お? 終わった?」

 黒い犬が去り、驚異がなくなったのを確認したツムギはへなへなと地面に座り込む。
 初めてのポケモンバトルを終え、安堵から力が抜けてしまったのだ。何とかなった、と思っているところへリオルが歩み寄って来る。

「あ、ピカチュウ。お疲れ様。おかげで助かったわ。まともに指示できなくてごめんね」

 ほとんどリオル頼みのバトルで、トレーナーは不要だった。ゲームはボタンを押せば攻撃してくれるが、こちらはそうも行かない。勝手が違いすぎてツムギは何もできなかった。
 それでも、リオルをねぎらうことはできる。感謝の気持ちを伝え、リオルの頭を撫でてやると彼は嬉しそうに笑ってくれた。
 何だかそれが愛おしくて、ツムギは独り言を言っていた。

「自分のポケモンって、いいなぁ」

 そして、ツムギは違うと首を振る。
 リオルはボールに入っていた。トレーナーがいるのは明らかである。
 他人のポケモンを盗むのは、泥棒。そうゲームでも言っていた。

「でも、ピカチュウは人のポケモンだもんね。トレーナーに返さないと……後、謝らなきゃ」

 ピカチュウ(仮名)のトレーナーに怒られるだろうが、それは自分が悪い。謝らなければ、と思うツムギだが、問題が一つ。
 そもそも、リオルのトレーナーがどこの誰なのかさっぱり分からない。悩んだ末に、ツムギは常識に則り交番に届けることにした。

「とりあえず、交番かなぁ……ピカチュウがいれば、バトルできるし」

 そうだね、と言うように鳴くリオルにツムギは微笑みかける。

「多分、近くにシティやタウンがあるでしょ! さあ、行くわよ!」

 自らを奮い立たせるように、ツムギは張り切ったのだった。