二次創作小説(新・総合)

Re: ツイステッドワンダーランド【闇の世界のゆる~い日常?】 ( No.1 )
日時: 2022/03/04 23:10
名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)

【ジェイドがスカラビアに行く話①】


「相変わらずこちらは暑いですね……人魚に慣れたものじゃありません」

オクタヴィネル寮の副寮長でありウツボの人魚であるジェイド__彼は今、鏡を通ってスカラビア寮に来ていた。人魚には慣れない熱帯並の空気、そして砂漠。北の海とは真反対の気候に彼は意気消沈しながらも興味を示している。

「おーい、ジェイドーー!!!」

汗をかき始めていたジェイドを呼ぶ高らかな明るい声が砂漠に響いた。その声に思わずジェイドが目線をあげると、寮の入り口付近から手を振りながら駆け寄ってくるスカラビア寮長__カリムだ。

「大丈夫か? 凄い汗だぞ?」
「ええ、大丈夫です。少しばかり慣れなくて……それより、ジャミルさんは?」
「ああ! ジャミルならもう待ってるぜ!」

そう、ジェイドはジャミルに用があったのだ。カリムは既にもう知っていて、ウキウキとした様子で耳飾りを揺らしながらジェイドの前を歩く。

寮に入り、目的地に向かうカリムと談笑しながら歩き、ある一室の扉の前でカリムは止まった。

「ジャミルー、ジェイドが来たぜ!」
「……ああ、いらっしゃい」


「突然すみません、うちの寮で行うとアズールやフロイドから色々小言を言われてしまうので……」
「いや、別に構わない。正直俺も少し興味があるんだ」

苦笑しながら持ってきた大きなリュックから“ある物”を取り出すジェイドに好奇の目を向けるジャミル。そんな彼らをカリムは横で微笑ましく眺めている。
“ある物”を見たジャミルが思わず口角を上げ、ジェイドがにやりと笑う。




「ぜひ、この“きのこ”でジャミルさんと共に振る舞わせて頂きたい!!!」

Re: ツイステッドワンダーランド【闇の世界のゆる~い日常?】 ( No.2 )
日時: 2022/03/09 17:12
名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)

【ジェイドがスカラビアに行く話②】


カリムがジェイドを連れていった部屋__それはジャミルの部屋であった。整頓された部屋に置かれている机にジェイドの持ってきた大量のきのこを並べていきながらジャミルはジェイドに話を振る。

「まずこのきのこを何にするか……ジェイドは何か作りたいのがあるのか?」
「そうですね……折角のジャミルさんとの調理の機会です、お二人の出身である熱砂の国の料理を是非。今後のモストロ・ラウンジのメニューの参考にもさせて頂きたいです」

そうジェイドが希望をジャミルに伝えると、彼がじっくりと考え込む。5時を知らせる時計をちらり、と見ては考えが整ったのか、伏せていた目をまっすぐにジェイドに向ける。

「……なら『マンサフ』はどうだ?ラム肉を使った炊き込みご飯だ。きのこを入れることはしないが試してみる価値はある」
「マンサフ! オレ、ジャミルの作ったマンサフ好きだぜ!
 スパイスが効いてて香りもいい。辛いものが苦手でもぜんぜん食べられると思うぜ!」

ジャミルの出した料理にカリムが笑顔で反応する。何度かジャミルに作って貰い口に合ったのだろう。にこにこしながら「マンサフかぁ……!」と呟き目を輝かせるカリムを横目にジャミルが部屋の本棚から一冊の本を取り出し、パラパラとページをめくる。料理本のようだ。

「そうカリムは言っているが俺もあまり作ったことがない。客人を招いたときや祝い事のときにしか作らないからな。久々に作るとなると味の保証がし辛いが構わないか?」
「ええ、構いません。ありがとうございます」
「ならすぐに学園の厨房に向かおう、早めに準備しないと他の寮の生徒も来て混雑してしまうかもしれないからな」

ジャミルの言葉にジェイドは頷き、一度出したきのこをリュックに詰め込み彼と共にスカラビアを出て大食堂の厨房へ鏡で向かった。

Re: ツイステッドワンダーランド【闇の世界のゆる~い日常?】 ( No.3 )
日時: 2022/03/27 21:51
名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)

【ジェイドがスカラビアに行く話③】

「えぇとまずは……鍋にバターを入れてラム肉に色がつくまで中火で焼いてくれ」
「了解しました」

ジャミルがバターとラム肉以外の材料を持ってきたリュックから出しながらジェイドにそう言うと、彼は言われた通り実行に移した。火を付けてふとジャミルが取り出した材料に目を向けては感嘆の声を漏らす。

「……凄い材料ですね、ヨーグルトにバスモティ米にアーモンドに……これは?」
「ああ、これら全部熱砂の国のスパイスだ。中々の数だろう?
 だがジェイド、やっぱり食材に詳しいんだな。モストロ・ラウンジでも厨房を任せられることもあるってアズールから聞いていたが」
「そうですね、ですが僕らの出身である珊瑚の海ではスパイスなんて存在しませんし、ラウンジでもメジャーなものしか使っていません」

そうくすっと口元を緩めて笑うジェイドにヨーグルトとタヒニを押し付けてジャミルはそれらのスパイスを一つまみずつ小さな器に入れて混ぜ合わせる。無言で押し付けられたジェイドであったがジャミルが何をして欲しいのか、すぐに分かったようで受け取り、ヨーグルトとタヒニを混ぜてちょっとしたソースにした。


~~~~


「………うん、そろそろ良いかもな」

満足げにジャミルが頷いて火を止めて中のラム肉を取り出し、ジェイドがすかさず中に出た油を捨てる。そして元の場所に戻しさっとヨーグルトとタヒニのソースと水、ジャミルの混ぜたスパイスを加えた。
見事な連携プレーである。

「ジャミルー、ジェイドー! ナイスプレー!!」
「………はぁ」
「ふふふ、カリムさんもああ仰っておられる、頑張りましょう」

カリムの声掛けに呆れたジャミルだったがジェイドはそんな彼とは裏腹ににっこりと笑っている。

「……ここからが面倒だ」
「面倒、ですか?」
「ああ。ここからは慎重に温めるんだ。焦がさない程度の弱火で二時間温める」
「二時間……って、夕飯の時間に間に合わないのでは?」
「そうなんだよ」

漆黒の鋭い瞳がジェイドをじっと捉え、感情の起伏の少ない声でそう言う。



「だから俺が強火で温めるからジェイドは焦がさないように氷魔法を発動して貰いたい」
「は、はぁ………」

真剣な声でそう言われ、正直ジェイドは混乱していた。
あのジャミルが、平然と魔法を謎の使い道にしているのだ。この寮にはツッコミがいないのか!?という言葉が喉元まで出かかっていた。しかしレアきのこのマンサフの為である。

「………了解しました、僕に任せて下さい」

冷や汗をかきながら普段の笑みを浮かべてそう答えたが、ジャミルさんのような方でも三徹目のアズールのようにポンコツになることがある、ということを知り、深く心に刻んでおいたのだった。

Re: ツイステッドワンダーランド【闇の世界のゆる~い日常?】 ( No.4 )
日時: 2022/06/12 11:26
名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)

【ジェイドがスカラビアに行く話④】

「っはぁ……これぐらいだな」

額に汗を浮かべたジャミルが火を止めて小さくため息をつく。
そう、鍋を強火で温めてジェイドとカリムが氷魔法で冷やすだけでなくジャミル自身も火魔法を使って温度調節をしていたのだ。心配はそこまでしなくていいがブロットの許容量を超えない程度に焦がさないように調節するのは至難の業。魔力消費と疲労が重なり三人はくたくただった。

「オレ……マンサフは好きだけどこの作業は大変なんだよなぁ~」
「おや、カリムさんもジャミルさんのお手伝いをしているのですね。ジャミルさんはカリムさんに厨房には立たせない、と仰っていましたが?」
「……ああ、そうなんだがカリムが聞かなくて。魔法を軽く使う程度なら問題は無い」

うーん、と伸びをしながらそう言うカリムを呆れたような目で見つめるジャミル。いつも通りの彼らをジェイドは微笑ましく眺めるのであった。

~~~~

「さて、次の工程に移るか」

時計を気にしながらジャミルが取り出したのは別の鍋。バターを溶かして米を炒めてから塩と水を入れて蓋をするらしい。さっきの作業を超えるとだいぶ簡単な工程だがまだ油断はできない。

「時間、間に合いそうですね」
「そうだな。寮生たちにもそろそろ手伝って貰おうか」
「じゃあオレ、声掛けてくる!」

カリムが笑顔で手を振って厨房を出て行ったのを見送り、バターが溶けたのを確認してから米を入れた。

「はぁ~……カリムがヘマをしなければいいが」
「お悩みがあればいつでもオクタヴィネルに「絶対お断りだ。アズールにも伝えておいてくれ」

Re: ツイステッドワンダーランド【闇の世界のゆる~い日常?】 ( No.5 )
日時: 2022/06/12 11:50
名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)

【ジェイドがスカラビアに行く話⑤】

「さて、そろそろ『コレ』の出番だぞ」
「お待ちしていましたよ」

そう言ってジャミルが手に取ったのはジェイドの持ってきたキノコであった。ジェイドによるとこのキノコはスパイス料理によく合うもののようだった。

「フライパンで松の実とアーモンドをバターと一緒に炒めるんだがそれと一緒にするからな」

ジェイドが幼子のように目を輝かせる横でジャミルはキノコを一口大に切っている。カリムが呼んできた寮生たちは続々と厨房に来ており、ジャミルの指示を聞いて行動していた。

「それにしても……スカラビア寮生の皆さんは手慣れていますね」
「日頃から宴を開いているから料理はもう慣れたものだ……ジェイド」
「はい、なんでしょう?」
「……モストロ・ラウンジに引き入れようとするな」

~~~~

ふっくら炊けたご飯にその場にいる寮生たちが感嘆の声をあげる。一際大きくカリムが「うぉお~~~っ!!」と嬉しそうにしている。

「美味しそうですねぇ」
「さぁ、盛り付けるぞ」

寮生たちと手分けして大きなお皿に炊いたご飯を盛り、その上に豪快にラム肉を乗せる。炒めたアーモンドと松の実、ジェイドのキノコを乗せてパセリを飾った。

「おお……!!!」
「見とれている場合じゃないぞ、早く寮に運んで食べよう」

ジェイドがじっと眺める様子をジャミルは少しだけ面白そうに見ていた。

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「……何故お前たちがいるんだ」
「え~、だってラッコちゃんが来て来てって言うんだもん。ジェイドも手伝ってたみてーだし、ちょっと気になってたんだよねぇ」
「フロイドと同意見です。ジェイドが自らスカラビアに行くなんて珍しいですから」

先に戻っていたジャミルが目をしかめていた相手__彼が嫌うオクタヴィネルのアズールとフロイドだった。なんとなく想像のついていた二人の行動にあからさまに嫌そうなため息をついていた。
どうやらカリムがスカラビアにいた寮生たちを呼びに行くついでにオクタヴィネルにも行ったのだろう。

「……確かにカリムが言ったと思うがじゃあ何故今日はモストロ・ラウンジが閉店しているんだ」
「急遽ではありませんよ、前から決めていましたから」

そう平然と答えるアズールだが、どう考えてもジェイドがスカラビアに行くと決めた日を休業日にしたんだろう。


「お待たせしました」
「マンサフだぜ~!」

笑顔で彼らの元へやって来たジェイドとカリムの手にあるのは大きなお皿に乗るマンサフ。アズールはおお、と声を漏らしたがフロイドはうげっと小さく声をあげ、整った顔を歪めた。

「ジェイドキノコ入れたでしょ、オレ嫌いなの知ってるくせに」
「ふふ、これを食べればフロイドもきっと毎食キノコを食べられるようになりますよ」
「ぜってぇやだ!!!」

今すぐにでも取っ組み合いを始めそうな二人を横目にアズールはじっとそのマンサフを眺めていた。

「さっさと食べるぞ、マンサフを置け」

カリムはにっこりと笑いながらマンサフを置いた。

Re: ツイステッドワンダーランド【闇の世界のゆる~い日常?】 ( No.6 )
日時: 2022/06/12 17:00
名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)

【ジェイドがスカラビアに行く話⑥(終)】

「うまぁい!!!」

久々のマンサフにカリムは大きな声で叫んだ。ほっぺたが落ちる~、と頬を抑えながら快活に笑っている。

「どうですかアズール、フロイド。美味しいでしょう?」
「キノコはヤだけどけっこーいけんね、これ。スパイス効いてるし味に飽きねぇ」
「何ですかこれ…辛味が効いたスパイスにまろやかなキノコ……更にアーモンドと松の実が仄かな香ばしさで主張し過ぎていない……ラム肉もよく味がついているし少し塩の効いたご飯が丁度いい……マドルになり過ぎでしょう…!!?」

キノコを嫌がるも口に運ぶフロイドに早速ラウンジのメニュー開発に思考を巡らせるアズール。相変わらずの光景に思わずジャミルは鼻を鳴らす。
態度には出していないがジャミルも満足していた。今までマンサフをアレンジしてみたい、と思っていたジャミルだがマンサフを作るのには物凄く時間が掛かるし手順も中々大変である。そう簡単に手を出せる料理ではなかった。
しかし今回、スパイスに合うというジェイドの持ってきたキノコでいいアレンジができた。我ながら良い出来だと思う。

「ジャミルさん、この度はありがとうございました」

ジャミルが1人でそう考えていたらふとジェイドが声を掛けて来た。彼は先程まで1人で物凄い量のマンサフを頬張っていたようだが頬に米粒一つ付けずにいつもの調子であった。

「キノコ料理のレパートリーがまた増えました。モストロ・ラウンジのメニュー開発も捗りそうです」
「……そうか、俺の方こそ手を出しにくかったマンサフのアレンジに良い機会だった。ありがとう」

そう彼が正直に礼を言うとジェイドは一瞬意外そうに眼を見開いたがすぐに元の嘘くさい笑みを浮かべた。

「ジャミルさん、良ければ他の料理も教えて頂けませんか?転寮も視野に「だからアズール何回断れば気が済むんだ」


後日、モストロ・ラウンジに新メニューが増えていた。