二次創作小説(新・総合)
- 訪問者編 プロローグ 1 ( No.1 )
- 日時: 2022/04/19 01:55
- 名前: 広村伊智子 (ID: U9CqFAX7)
「――あなたたちは選ばれた子。しっかり皆のために命をかけて尽くすのよ」
私たちは、大きくて白いボールの中で育てられた。
*****
そのボール――正式名称・乙女の箱庭。
私――汀と、同じ誕生日・同い年の70人あまりの少女たちが、この箱庭の中で育てられた。
外の世界のことは知らないが、職員の人たち曰く、この建物の外観は、通称通りまさに巨大な白ボール。
だから、私たちも『ボール』と呼んでいる。
ここが私たちの世界の全て。
『外』の人たちは、なんと『地球』という大きな球体の上に立っているらしい――そんな物に乗ってバランスを崩して倒れでもしないか心配だ――が、私たちはボールの中。
内外問わず、世界はいつだって丸いのだ。
「本当に、『地球』の人たちの仲もトゲトゲしてないで、地球みたいに丸かったら良いのにね」
私と同じく『乙女の箱庭』で育った、黒髪の少女が憂鬱そうに笑う。
――今からおよそ172年前、この世界に深い闇の帳が覆い被さった。
当時、地球や宇宙を守っていたという伝説の戦士『プリキュア』が彼らに命を賭して応戦したものの、激戦の末に敗れ、彼女らは全員亡くなってしまった。
そこから、世界中の政府が秘密裏に進めたプロジェクトが、『乙女の箱庭計画』。
計画は二世紀近くもかけて進められ、こうして今、『選ばれた子』として育てられているのが、私たちだ。
「ほんとに、ね……」
私はその子に言葉を返し、もうほとんど目立たない胸の手術跡を服の上から撫ぜる。
学習に訓練に。
私たちは、これまで沢山のことを頑張ってきた。
地球の皆のために尽くせ――そう、ずっと教えられてきたから、その役目を果たすために、過酷なメニューにも一心に打ち込み、耐え忍んできた。
「もし、プリキュアが負けていなかったら、私たちも普通に、中学2年生できてたのかな」
私の茶毛のポニーテールが、ふわりと揺れる。
「ダメよ、そんなたらればの話なんか。私たちは、ここにある今を戦うだけ」
黒髪の彼女が「めっ!」と叱るように、人差し指を突き出してきた。
「大丈夫よ、汀。これまでずっと努力してきたんじゃない。きっと勝てるわ」
そうやって笑う彼女の顔はどこか儚げで、体をギュッと抱き締めたくなる衝動に駆られた。
「――だと、いいよね」
彼女に、私が今できる目一杯の笑顔を見せた。