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二次創作小説(新・総合)
- 訪問者編 プロローグ 4 ( No.7 )
- 日時: 2022/04/19 18:00
- 名前: 広村伊智子 (ID: I3friE4Z)
「汀――」
振り向いた黒髪の彼女の頬は、涙で濡れていた。
水を含んだ髪の毛がぺったりと、綺麗な白い肌に張り付いている。
彼女は、瞼を赤く腫らせながら、震える唇を閉じて私に微笑みかけた。
「――あのね、汀。私たち、ほんとはね……」
しかし、その繕った微笑みも脆くほどけ、涙をぽろぽろと零しながら、彼女は何かを言いかける。
私は不安になって、彼女の名を呼んだ。
すると彼女は、ハッとしたように私の目を見つめながら泣き止み、もう一度微笑みを作った。
「……ううん、なんでもない」
「言っても良いんだよ。内緒にしてほしいことは、私、他の人に言わないし」
「大丈夫、本当になんでもないよ」
なんでもないわけ、ないじゃない。
じゃあ、なんでそんなに泣いてんのよ。
どうして独りで抱え込むのよ。
辛いことくらい、私に分けてよ。
私にも、教えてよ――
――私は、こぶしをぐっと固く握った。
彼女はふと笑うのをやめ、俯いて、「ごめん」と呟いた。
「ねぇ、汀。じゃあ、もう一つのお話、聞いて貰って良いかな」
フッと視線をあげた彼女の顔を、私は見つめる。
泣き濡れてたって関係無い。
整った、綺麗な顔だった。
覚悟を決めた、戦士の顔だった。
彼女が、私の隣から、どこか向こうへ遠ざかってしまったような気がした。
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