二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケットモンスター クリスタル・ウィング ( No.1 )
- 日時: 2022/07/05 23:45
- 名前: アイリス ◆JcBYTyxl8o (ID: 66mBmKu6)
【ポケモン】
正式名称はポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界に生きる不思議な生き物たちのこと。陸に、空に、海に住み。姿形も様々である。
そして彼らポケモンは人間と力を合わせ、暮らしている。ポケモンを扱う人間をポケモントレーナーと呼ぶ。
出典 ポケモン辞典より
例えば、ウサギを追いかけ穴に落ちたら。タンスを抜けたら。トンネルを抜けたら。
そこに異世界がある、と言うのはよくある話。だから、目が覚めたら全く知らない世界にいることは普通だ。
自室で寝ていたはずなのに、目の前に広がるのは見渡す限りの緑色。そして青い空に白い雲、よく晴れている。時折吹く風が草を揺らし、ざわざわと音を立てて通り過ぎる。
だだっ広い草原の中、パジャマ姿の少女は一人で佇んでいた。
「ここ、どこ?」
そんな疑問が少女の口から出る。
少女の名はことは。13歳の中学二年生である。
背中まである明るい茶色の髪はボサボサで、翡翠色の瞳は寝ぼけ眼だった。服装は青地に白い水玉模様が散るパジャマ。そしてスリッパ。まるでこの草原で寝ていたかのような姿だった。
自室で寝ていたはずなのに知らない場所にいる。ことはは、大いに驚き戸惑う。
が、パニックになってはいけないと思いまずは辺りの様子を伺う。すると草原の至るところに、見たことがない生物がいた。黒い犬に似た生き物は走っているし、全身がギザギザしている白い生き物はジグザグに歩いている。そして何気なく空を見上げると、ようやく知る生物がいた。茶色の身体に、白い眉毛が特徴の鳥。——ことはが幼い頃に遊んだゲーム『ポケットモンスター』で、見た生き物がいた。
「あ、あれはポニスズメだっけ? なんで」
ゲームで見た生物が空を我が物顔で飛び回る光景に、ことはは呆然としながらそういえばあのポケモンの名前は何だったかな、と半ば現実逃避のように考える。
あの鳥に見覚えはあるが、名前は出てこない。それもそのはず、チカが『ポケットモンスター』で最後に遊んだのはかれこれ七年近く前だ。ポケモンの名前などほとんど忘れたし、最近のポケモンの名前は知らない。
自信を持って言えるのは、アニメにおける主人公の相棒『ピカチュウ』くらいなものだ。
だが、ゲーム『ポケットモンスター』にでてくるはずの生き物がこうして目の前にいるのは紛れもない事実な訳で。夢かと思い、頬をつねったら痛かった。よく分からないが、ポケモンの世界に来てしまったらしい。それだけは間違いないなかった。
「ど、どうしよう……」
知らない場所でひとりぼっち。頼れる人間はいない。途端に不安に襲われることは。不安に押しつぶされ精神がどうにかなりそうだが、深呼吸して己を落ち着かせる。避難訓練の時、「冷静さを失った人から死ぬわよ」と笑う担任の声が不意に蘇ったからだ。
パニックになってはならない、深呼吸を何回もしてようやくことはは冷静さを取り戻す。と言っても、次に何をするべきか思いつくはずもなく。虚しく時間だけが過ぎていく。名前も知らないポケモンたちが遠くから、空からことはを不思議そうに見て、去っていく。
そんな風景が何度か繰り返された時、突然人の叫び声が聞こえた。
「だ、誰かー!」
「え、な、何?」
ことはが声がした方に視線を向けると、壮年の男が一匹のポケモン——ジグザグした体毛が特徴的に追い回されていた。男は色々な方向に走り回るが、そのポケモンは唸り声を上げながらしつこく後を追っていた。ポケモンが怒りから男に襲いかかっているのが分かる。
どうしたものかとことはがのんきに眺めていると、男がことはの存在に気がついた。必死な形相で走りながら、懇願してくる。
「そこのキミ、助けてくれ! キミの近くに私の鞄があるだろう、そこにモンスターボールがあるから、ポケモンを出して戦うんだ! 頼む!」
「モンスターボール?」
男の言葉に従い、ことらは周囲に視線を巡らす。すると少し離れたところに茶色の革製の鞄が落ちていた。
足裏に草の感触を感じながら進み、ことはは鞄を開けた。幸いモンスターボールがどのような物か知っていたので、すぐに見つけることができた。掌に収まる程の球体。上半分は赤、下半分は白に塗り分けられている。中央には白いボタンがあり、アニメではこれで入れたポケモンを出していた記憶がうっすらとあった。鞄の中にはモンスターボールが一つ。ことははそれを手にした。
「えっと……」
ポケモンは、どういう理論かは知らないがこのモンスターボールに出し入れすることができる。巨大なものから小さなものまで。
中にいるポケモンがことはの存在を感じ取ったのか、手にしたモンスターボールがひとりでに揺れる。微かな記憶を頼りにことははモンスターボールの白いボタンを押した。すると、中から光が溢れ一匹のポケモンが現れた。
- Re: ポケットモンスター クリスタル・ウィング ( No.2 )
- 日時: 2022/07/07 17:00
- 名前: アイリス ◆UaO7kZlnMA (ID: 66mBmKu6)
「あ、あなたは……」
モンスターボールを手にしたまま、ことははポケモンを呆然と見た。
見た目は小柄で、二足歩行の獣人のようだった。頭には黒い房のようなものがあり、しなやかな黄色の身体をしていた。はもんポケモンのリオルである。
「見たことあるような、ないような……」
その姿はことはの記憶の片隅を突くが、同時に違和感を感じさせる。見たことがあるような気がするが、知らないポケモンのような気もする。
このポケモ全身が黄色だが、記憶だと青色だった記憶があるのだが。
リオルは、微かに青く発光する右手を前に出していた。まるで値踏みするようにことはをジロジロと上から下まで見ている。
「……ワンリキー?」
散々悩んだ末に出てきた名で呼ぶがリオルは首を横に振った。違うらしかった。
「……面倒くさいから、ワンリキーでいいや」
そこまで言いかけたところで、ことはから忘れ去られた男の悲鳴が割って入る。
「キミ、何をしているんだ、早く助けてくれ!」
「あ、いけない……」
ようやく男の存在を思い出したことはは、改めて現状を確認する。
男は相変わらずジグザグに動くポケモンから逃げ回っていた。
流石に体力が尽きてきたのか、男の走るスピードは明らかに落ちており、すぐそこまでポケモンが迫っている。
(えっと、こういう時は……)
不味いとは思い、ことはは幼い頃の記憶を懸命に引っ張り出す。
危機が迫っているせいか、記憶はすぐに思い出せた。ポケモンを出すと、他ゲームで言う攻撃とか呪文に当たる表示が出て——
「そうだ、技! ワンリキーが使える技は何ですか?」
技はポケモンが保つ不思議な力。
相手を攻撃したり、自分の能力を上げたりと様々な種類がある。
ポケモンはこの技同士をぶつけ合い、戦う。これをポケモンバトルと呼ぶ。ゲームの冒頭にオーキド博士がそう言っていた。
尚、ポケモンごとに使える技は決まっており、このリオルが使える技をことはは知らない。
あの男なら知っているだろうと、声を張り上げて尋ねると、男は息切れしながら答えてくれる。
「り、リオルが使える技はでんこうせっかとし、しんくうはとは、はどうだん……」
男は息も絶え絶えに教えてくれた。またこのポケモンがリオルと言うらしいことが分かった。
(技ってどうやって指示すればいいんだろう。コマンドやAボタンもないのに……それにタイプ相性とか何かそんなのもあったような……)
聞いたはいいが、チカは一瞬どうやってリオルに指示を出せばいいか迷った。
ゲームではボタンを押せばポケモンが動いてくれるが、ここは現実。そんなものはない。
またポケモンにはいわゆる属性概念のようなものがあり、それによる有利不利もあったはず。ことはは頭を抱えた。
一方のリオルはことはの指示を待つように見上げ、自発的に動こうとしない。瞳が合うと、どうするのと視線で訴えてきた。
コマンドがないなら、口で伝えるしかないだろう。そう思ったチカは、半ばやけくそで適当な技をリオルに指示した。
「えっと……リオル、でんこうせっかってやつ」
男を襲うポケモンを指差して伝えると、リオルは走っていった。かと思うと突然一気にジグザグ動くポケモンとの間合いを詰め、力いっぱいの体当たりをくらわせる。
男に気を取られていたポケモンはリオルを避けられず、もろにくらった。吹き飛ばされこそするが、すぐに受け身を取り着地。
突然現れた乱入者であるリオルに敵意のこもった視線を向けた。
「こ、今度ははどうだん? って技」
すると、リオルは突然両手を前に突き出すような仕草をした。何をやっているのだろう、とことはがぼうっとしているとリオルの手の間に小さな青い球体らしきものがあった。豆電球の光のような、微かに煌めく青い光。
同時に空気が蠢いているのが分かった。風がリオルを中心に吹き荒れ、勢いを増す。ことはの髪を風が弄ぶ。
そして。
ことはが瞬きする間にその球体はあっという間にリオルの頭程の大きさになり、やがて。リオルはそれを思い切り投げ飛ばした。
「あ……」
決着は一瞬だった。
リオルが投げつけた青い球体――はどうだんが相手に直撃し、相手のポケモンが悲鳴を上げた。
ポケモンの身体は吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
叩きつけられたポケモンはフラフラしながら立ち上がるが、すぐにリオルへ背を向けて走り出す。
「追わなくていいわ」
リオルがどうするか、と問うようにことはを見つめる。
あくまであのポケモンを追い払うことが目的なのだ、それ以上の争いは無用だろう。
ポケモンが視界から消えたのを確認したことはは深い息を吐く。
「な、何とか追い払えた……」
あっさり終わった戦いであるが、緊張から解き放たれたことははため息をついた。ゲームの存在だけと思っていたポケモンに、こうして指示を出すなど夢にも思わなかった。
ゲームと勝手が違って戸惑ったが、無事に終えてほっとする。
そこへリオルが小走りで寄ってきたかと思うと、ことはに向けて手を差し出してきた。
「オルッ」
「よ、よろしく」
リオルは、満面の笑みだった。
一方事情が飲み込めないことはは、戸惑いながらもリオルの手を掴み握手していた。掴んだ手は毛に覆われており相手がポケモンなのだと、改めて思い知らされる。
「ハハハ、すっかり気に入られたようだね。彼は人を選ぶんだけど、君は気に入られたらしいな」
そこへ先程の男が笑いながら近寄ってきた。歳は三十代前半くらいか。柔和な顔立ちに、眼鏡をかけた優しそうな男だった。シャツとズボンの上には白衣を着ており、研究者のような出で立ちであった。
「そうなんですか?」
「ところでキミ、どうしてそんな格好をしているんだい?」
「あ……」
男に指摘され、ことはは自分が寝間着姿であることを思い出した。寝間着な上にしかも裸足、荷物はない。誰がどう見ても怪しいと思うだろう。
「寝間着でしかも裸足で。何も持たないでこうして、外にいるのは感心しないな。私のようにポケモンに襲われたらどうするんだ?」
「す、すみません……」
家出をしたと思っているのか。男は子供を見るような顔でことはを眺め、注意してくる。あまりの迫力に反射的にことはが謝ると、男は肩からかけた鞄から緑のスリッパを取り出し、ことはに差し出した。
「スリッパで申し訳無いが、ないよりはマシだろう。これを履いてくれ」
「ありがとうございます」
お礼を言って、ことははスリッパを履かせてもらう。男物なのかブカブカであるが、裸足よりはマシだった。
「さて、お礼も兼ねて私の研究所に来て欲しいのだがどうかな?」
知らない男からの誘い。
普通なら断るところだが、この世界に知り合いはいない。せっかく人に合えたのだ縁を逃す訳にはいかない、とことはは迷わず頷いた。
「はい、お願いします」
「なら、こっちだよ」
男に案内され、ことはは歩き始めた。