二次創作小説(新・総合)
- Welcome to the Villains' world ( No.769 )
- 日時: 2021/06/09 20:57
- 名前: 桜木霊歌 (ID: sbAJLKKg)
今回の物語は普段の日常とは違います。
何故なら、今回語られる物語は優のツイステッドワンダーランドでの物語・・・つまるところ、優の過去を語る物語。
東京都郊外にある御伽市で暮らしている時ノ小路優は、ある不思議な夢を見た事を皮切りに、歪み捻れた不思議の国へと迷い込む・・・
ここは東京都郊外にある御伽市。
その町にある年季の入った洋館には、一人の少年が暮らしている。
艶が綺麗で癖っ毛すらない黒髪はショートボブに手入れされており、どこか利発さと大人しさを帯びた瞳は彼岸花を思わせるような美しい赤い瞳である。
時間は夜9時であり、その為か白と赤を基調にしたパジャマを着込んでいる。
この少年の名は『時ノ小路優』。
この町にある私立御伽学園中等部に通う3年生だ。
それだけではない。
創造主の一人である桜木霊歌の曾孫なのである。
だが、霊歌直系の子孫といえば嘘になる。
彼は霊歌の6歳年下の弟の曾孫なのである。
だが、彼女たちの子孫であることは変わらず、優にとって、それは嬉しい出来事であった。
優「『クルクルクルと歯車は回る。
カチコチカチコチと時計は回る。
それらの人生は、永遠に繰り返されるだろう。
例えそれが花や真珠のように守り続けたい思い出さえも
例えそれが泥やゴミのように捨て去りたいトラウマでさえも
人や世の人生は歯車、或いは時計
その歯車は、思い出もトラウマもすべてを乗せて回るだろう。
だが、そんな可能性すらも愛おしい。
今を後悔しないように、僕は1秒1秒が過去や未来に変わる【今】というものを愛していきたい。』・・・空渡彼岸作詞、『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』・・・」
どうやら読んでいた本は詩集だったようだ。
ちなみに、この詩を書いた作家の空渡彼岸は、霊歌の実の弟であり、優の曽祖父である。
彼岸の描く詩の世界は、何処か儚げでありながらも、人生や世界平和を強く訴えかける詩が多い。
だからこそ、優はよく彼の詩を読んでいるのだ。
そして、優は数少ない万能職の紋章を宿しているのだが、それとは異なった強い力を持っていた。
それはとある魔法だ。
優の父親は『様々な世界を渡る事ができる魔法』、優の母親は『自分の生み出したい物を生み出す魔法』を持っており、そんな二人から生まれた優も、当然魔法を宿している。
その優の魔法は『自分の知る物語や歴史の知識を媒体とし、その物語に準じた魔法を使うことができる』という物だった。
分かりやすく例えれば、『蜘蛛の糸』の魔法を使えば、天から糸を出して移動することもできるし、手元に糸を出して相手の動きを封じることもできる。
他にも『桜の森の満開の下』の魔法であれば、相手を惑わす事だって可能だ。
・・・もう、アニメやゲームの登場人物びっくりのチートである。
この特性のせいで、生まれて間もない頃は魔法を使えるのに使えないという不思議な状態になってしまっていたのだ。
だが、仕事で忙しい優の両親は、優の父親の魔法で『語り部』の想区で暮らしている霊歌に優を育てる事を任せたのだ。
『自分の知る物語や歴史の知識を媒体とし、その物語に準じた魔法を使うことができる』という特質上、優は『語り部』の想区でどんどんその魔法の力を開花させていった。
優「そろそろ寝よっと。誰も家にいないけど、おやすみなさい・・・」
そうして、軽くベッドメイクをして読んでいた詩集を近くのサイドテーブルに置いたあと、サイドテーブルの上に置かれていたリモコンを取って電気を消し、そのまま眠りについた
感想まだです
- Welcome to the Villains' world ( No.770 )
- 日時: 2021/05/23 09:10
- 名前: 桜木霊歌 (ID: Fa9NiHx5)
優が目にした光景は、まさに地獄絵図と言っても過言ではなかった。
窓も壁も何もかもが壊され、かなり重厚そうな鏡ですら、形を残して無惨に割られている。
優「嘘・・・!?何!?何なのこれ!?」
周りは赤い鮮血や青い炎で覆われ、周りには優と年がそう変わらないであろう青年や少年たちの姿があり、全員が変わった黒いフード付きのローブを羽織っている。
全員が体の要所要所から血を流しており、赤、黄色、白、臙脂、紫、青、黄緑の宝石のつけられたペン状の杖を持っており、何か上空を見上げている。
優「何か・・・いるの・・・!?」
上を見ると、そこには黒猫のような恐ろしい魔獣がおり、耳や口から青い炎を吹き出している。
周りの炎はこの魔獣が原因だろう。
周りにいる少年たちはこの魔獣を止めようとし、無謀にも突き進んでいく。
ある者は魔獣の爪に抉られて引き裂かれて殺され、ある者は魔獣の吹き出す青い炎で焼死し、ある者はそのまま魔獣に食い殺されていく。
優「ヤダ・・・ヤダよぉ・・・夢なら早く醒めてよぉ!」
しかし、そんな優の願いも虚しく、夢は醒めることはない。
そして、最後に残った赤髪の少年とライオンの獣人の男性、銀髪の眼鏡の青年と白髪でターバンを巻いた少年、金髪の美しい青年に青い炎の髪を持つ青年、黒髪の長髪に黒い大きな角を生やした男性の持っていた杖につけられてた宝石は、彼らが魔法を使っていくごとにどんどん黒く染まっていく。
それを見て、優にはふと嫌な予感が頭をよぎった。
このままだと某魔法少女アニメのような展開になるのではないか、という最悪な展開が・・・
優(このままこの宝石が濁りきったら、良くないことが起きる気がする・・・!止めないと!)「駄目です!これ以上魔法を使わないで!今すぐ逃げて!」
そう言っても、優の声が彼らに届いた様子はない。
どうやら、夢を見ている自分と夢の住民である彼らには声が届かないようだ。
そして優の願い虚しく、彼らの持つ杖につけられた宝石は黒く濁り切る。
濁り切ると同時に、衝撃波が発生して優は軽く吹き飛ばされる。
そして、再び彼らの方に目を向けると、そこにいた7人の姿は変わり果てていた。
肌が白かった者達は病的なまでに色白くなり、肌が黒かった者達は病的なまでに色黒くなる。
瞳はまるで何も映さないような濁った色に変化し、目元にはまるで海外のお葬式で見かける黒いレースのようなメイクが施されている。
彼らが着ていた服も全く別の物へと変化していたが、更にそれ以上に目を引いたのは、インク壺のような頭部を持つツギハギの化け物・・・どちらかというと、化身に近い・・・が後ろに付き従うようにいることだ。
そして、彼らはお互いや魔獣も含めて同士討ちに近いような状態になっている。
いや、完全に同士討ちにしかなっていなかった。
どれだけ優が呼びかけても、彼らは止まる気配はなかった。
むしろ、どんどん状況が悪化しているようにしか感じられなかった。
そして、ようやくその状況が収まったのは、彼らが黒い石に成り果てた時だった。
まるでブラックオニキスや黒水晶のように美しい光を放つ黒い石が、ゴロリゴロリと8つ転がっていた。
だが、周りにいた人物達の死体は魔獣に食い殺された者達の死体以外は全てそのままだった。
だが、変わり果てた姿になって同士討ちをした7人と魔獣の死体はどこにもなかった。
・・・まるで、『この黒い石が彼らの亡骸だ』・・・とでも言うかのように・・・
感想まだです
- Welcome to the Villains' world ( No.771 )
- 日時: 2021/05/23 09:15
- 名前: 桜木霊歌 (ID: 8JrAMFre)
優「はっ・・・!?」
思わず飛び起きてしまった優は、ふと周りを見る。
いつもの部屋、いつものベッドの上・・・安心すべきはずなのに、安心できない。
心音が優の心を揺さぶり続ける。
優「・・・何だったの、今の夢・・・!?」
あんなにひどい悪夢を見たのは、優にとっては久しぶりだった。
1秒でも早く冷静になりたくて、深呼吸をしている。
焦りすぎてラマーズ法になっていないかな?なんて的はずれなことを考えてしまっているが、これでも冷静になりたくて現実逃避してしまっているのだ。
優「・・・」(こういう時はやっぱり・・・あの人に聞くべきだよね・・・)
そして優は持っていた『空白の書』を開き、母親が作った『渡りの栞』を挟みこむ。
すると同時に、優の視界を光が包み込んだ。
・
目を開けるとそこは、植物や木の実がすべて楽器の形をしている不思議な森に来ていた。
それを見て、優は今いる場所が『音の森』であることを理解した。
優「・・・音の森かぁ・・・とりあえず、まずは森から出ないと・・・」
???「優!創造主様のご子孫が、ここで何をしているのかな?」
優「この声・・・!?」
ふと後ろを見ると、二対の金色の瞳が優を見ていた。
白髪のショートボブで右目を前髪で隠し、黒いケープの留め金と黒いミニハットの飾りにはト音記号があしらわれている。
もう一人は黒髪のショートボブで左目を前髪で隠し、白いケープの留め金と白いミニハットの飾りにはヘ音記号があしらわれている。
優「ロディ君にレンス君・・・!?まさかこんな所でフ・レーズ兄弟に会えるなんて・・・」
ロディ「ここは僕らの住処であり仕事場だからね。」
レンス「そういうお前は、何でこんな所にいるんだよ?」
優「霊歌さんに会いに来たんだけど、たまたまここに飛ばされちゃっただけなんだ。」
ロディ「じゃあ出口まで案内するよ!ついてきて!」
フ・レーズ兄弟の道案内で音の森から出てきた優は、そのまま霊歌の家へと向かう。
ピンポーン…
霊歌『はい?どちら様でしょうか?』
優「霊歌さん、僕です!優です!少し相談があるので、お話いいですか?」
その優の言葉を聞いた霊歌は、普段の声色とは異なる真面目な声で「どうぞ」と言って家の中へと招き入れた。
ミニジョゼフは突然の来客に驚きつつも、優にも懐いているためニコニコとしている。
霊歌「所で、お話ってなんなの?」
優「実は・・・」
優は先日見た悪夢について霊歌に話した。
どこか現実味を帯びていたこと、どうしても他人事には思えないという個人的な想いも忘れてはいなかったが・・・
霊歌「なるほどなるほどぉ・・・私個人の予想だけどね、もしかしたら・・・その夢が優を誘っているのかも」
優「僕を誘ってる・・・?」
霊歌「そう。アドバイスになるかどうかは怪しいけれど、その誘い、受けてみるのはどうなのかな?」
優「・・・!はい!」
そうして元の世界に戻った優だが、どうやって夢の誘いを受ければいいんだ、なんて考えてしまう。
それに、誘われているのはあくまで推論というだけなのだ。
信憑性にはかけてしまうし、仮にそうだとしても、どうやって夢の誘いを受ければいいんだ・・・という考えが頭をよぎってしまう。
優(あ、そういえばいつもの小説、新刊出たんだっけ?買いに行こっと)
スマホと財布、そして暇潰し用の本(どう考えても暇潰しの量じゃない)を携え、優はのんびりとバス停でバスを待っていた。
だがしかし、中々バスが来ないし、何なら霧が出てきて気味が悪い。
ふと前を見ると、そこには真っ黒な馬と馬車が優の目の前に鎮座していた。
思わず驚いた優だが、疑問すら挟む余裕もなくそのまま気を失った。
感想まだです
- Welcome to the Villains' world ( No.772 )
- 日時: 2021/05/23 09:20
- 名前: 桜木霊歌 (ID: Fa9NiHx5)
そして目を醒ますと、優は何故か四角い箱の中にいた。
形はなんというか、西洋によくありそうな棺桶の形であり、ガッチリと蓋をされていることが分かる。
優(待って?僕何で棺桶の中なんかにいるの・・・?)
とりあえず、ここから出ないと何も始まらない。
これでも優は勉強のみならず運動も大得意で、スポーツテストも上位の成績であり、ナックルズや金太郎などの力持ちの登場人物に仕込まれているのだ。
ガッチリと蓋をされていようが、そんな登場人物に仕込まれている為か、少し力を入れれば簡単に蓋が外れる。
そして目に入った光景は、優が入っていた物と同じデザインの棺桶が大量に空中に浮かぶ部屋だった。
優「何この部屋・・・?趣味悪いなぁ・・・」
???「ぎえー!?何で起きてるんだゾ!?」
優「え!?」
思わず驚いて後ろを見ると何もいない。
気の所為かな?、なんて考えつつ下を見るとそこには黒猫のような狸のような魔獣が二足歩行でそこにいた。
黒に近いグレーの毛並みに青い瞳、裾がボロボロになった白黒のストライプのリボンを首輪のようにつけ、尻尾は悪魔が持つ槍のような三叉の尻尾だ。
・・・ただし、外見はどこか夢に出てきた魔獣をデフォルメさせたようなものだった。
本来ならば猫が喋ることや二足歩行したことに驚くべきなのだろうが、優は御伽学園や家にいる、友人と遊ぶとき以外は常に『語り部』の想区に住んでいる。
だからこそ・・・悲しくなるほどにそういった存在への耐性は強かったし、何なら似たような性質の登場人物に長靴をはいた猫(通称『猫先生』)がいる。
その為、優はとても冷静だった。
優「え・・・っと・・・君のお名前は?」
???→グリム「俺様はグリム様なんだゾ!おいお前!その服をさっさと俺様に寄越すんだゾ!」
優「服って言われても、僕が着てるのは私服だし、こんな所で全裸になったら公衆わいせつ罪で捕まる・・・ってえ?」
そう言われて、優は思わず自分の着ていた服を見ると同時に絶句した。
何故なら着ていた服は棺桶に入れられるまで着ていた白いシャツと赤いネクタイに灰色のベスト、黒いスラックスに黒いローファーではなく、夢で見た青年たちが着ていた黒と紫、ゴールドを基調にしたフード付きローブだったからである。
優「待ってなにこれ!?僕いつの間に着替えされられたの!!?」
グリム「さっさと寄越すんだゾー!ふなー!!!」
優「わわっ!?」
グリムが痺れを切らしたようで、優に向けて青い炎を吹き付けるが、直線上の軌道であり優には簡単に躱すことができた。
いや、そもそも優は戦闘ですらも創造主である霊歌直々に完璧なまでに仕込まれている為、この程度は余裕で躱す事ができる。
流石に狭い部屋では分が悪いと感じた優は部屋を飛び出し、グリムも優を追いかける。
そして、炎を吹き出されては躱し炎を吹き出されては躱しの繰り返しだ。
・・・そしてその内、優の方も完全に痺れを切らした。
優「・・・てよ・・・」
グリム「ふな!?何なんだゾ!?」
優「いい加減にしてよ!『蜘蛛の糸』!」
グリム「ぶな!?」
優が物語呪文を唱えると、何処からともなく蜘蛛の糸が現れてグリムの動きを封じ込める。
優「本当にいい加減にして!そもそもここは何処なの!?」
グリム「おめー知らねぇのか!?」
優「知らないから聞いてるんでしょう!?」
???「おやおや、こんな所にいたんですね?」
優「え?」
優に話しかけてきたのは黒い仮面に黒いベストと黒い羽のジャケットを羽織り、シルクハットを被っている怪しさ満点の人物だった。
先程までのこともあり、優は警戒しながら男を見る。
優「・・・どなたでしょうか?」
???→学園長「失礼。私はこのナイトレイブンカレッジの学園長であるディア・クロウリーと申します」
優「あ、どうもクロウリーさん。僕は優です。時ノ小路優」
学園長「中々変わった名前ですねぇ・・・とりあえず、鏡の間へ行きましょう。全くどれだけせっかちなんですか。自分で扉を開けてしまう新入生なんて、前代未聞です!さあ、入学式は始まってますよ!」
優「え・・・?え・・・!?」
扉と言われても、入学式と言われても、新入生と言われても何も分からない。
言われるがまま、グリムを抱えたままクロウリーという学園長についていくことになった。
感想まだです
- Welcome to the Villains' world ( No.773 )
- 日時: 2021/05/23 09:25
- 名前: 桜木霊歌 (ID: Fa9NiHx5)
そして連れてこられた部屋は、優の夢に出てきた部屋だった。
そして、一際大きな古そうな鏡の前には5人立っており、その近くには1つのタブレットが浮かんでいる。
間違いなく、彼らも優の夢に出てきた人物で間違いない。
彼らは何かを話しているようだが、その事実に気がついた優はそれどころではない。
周りをキョロキョロと見回し、こころなしか焦ってしまっている。
グリム「お前、何キョロキョロしてるんだゾ?」
優「あ、気遣ってもらってごめん・・・ちょっと、ね?」
学園長「優くんでしたね?この闇の鏡に向かって自分の名前を言ってください。闇の鏡があなたの魂の形に一番相応しい寮を選んでくれますよ」
さっきからこの学園長を名乗る男は自分の話を無視しているような気がする。
というか、優はここに入学したいなんて言ってないし、何なら御伽学園中等部に通っている為すぐにでもこの推薦を蹴りたい。
優「僕は優です。時ノ小路優です。」
トキノコウジ?珍しい名前だな?いやでもユウって言ってたし、トキノコウジが名字じゃね?なんか極東の国って感じの見た目だし
周りからの声を聞き、となるとここは外国か?という考えが浮かぶ。
その最中、鏡がこう言った。
闇の鏡「この者は然るべき規則を守る厳格の精神、諦めることなき不屈の精神、海よりも深き慈悲の精神、冷静に周りを判断できる熟慮の精神、全てをやり抜き努力を惜しまぬ奮励の精神、知識を蓄え未来へ活かす勤勉の精神、誇りを持って強く生きる高尚の精神・・・それら全てを持ち合わせている!」
その闇の鏡と呼ばれる鏡の言葉に、周りからはざわめきの声が溢れる。
その一方で、優は全く意味を理解する事ができず、頭に?を浮かべている。
闇の鏡「よってこの者は全ての魂の形を持ち、どの形も相応しくない!」
学園長「何ですって?」
全く意味が分からず首を傾げる優に対して、周りはざわめいている。
ただ、唯一分かった点は自分はここでは異分子という事だけだった。
優「えーと、つまりどういう事ですか?」
学園長「優くん。君はこの学校に通うことはできません。魔力の無い者をこの学園に通わせる事はできないのです」
グリム「でもこいつ、さっきどっからか糸出して俺様のこと捕まえたんだゾ?それなのに通えねぇのか?」
学園長「はい?それはどういうことなんです?」
優「まあ、別にいいや。はい、次はグリムの番だよ」
優がグリムにそう声をかけ、闇の鏡と面向かう位置に抱き上げる。
先程の様子から、優はグリムがこのナイトレイブンカレッジに通いたがっている事を見抜いたのだ。
グリム「ふな!?いいのか!?」
優「うん!僕そもそもこの学校に通いたいだなんて一言も言ってなかったし」
学園長「いえ、それは無理な話「何ですか?グリムみたいな子は人の世に混じって勉強するな、とでも言いたいんですか?」うっ・・・」
学園長の言葉を軽くいなし、グリムは意気揚々と自分の名前を鏡に向けて高らかに名乗ったが、結果は優と同じ適性なし。
しかも、『この者の魂は分からぬ。よって相応しい魂の形は無い!』と言われてしまったので、優の腕の中でメソメソと泣いてしまっていた。
ちなみに優はそんなグリムの頭を聖母のように優しく撫でている。
学園長「とりあえず、闇の鏡にあなたの故郷を言ってください。そうすれば、あなたは帰れるはずです」
優「帰れるんでしょうか・・・帰れない未来が見えた気がします・・・」
そう思いながらも、故郷である御伽市の事を頭に思い浮かべる。
闇の鏡「この者のあるべき場所は、この世界のどこにも存在しない。無である」
学園長「何ですって?」
慌てふためく学園長に対し、優は『嫌な予感が的中してしまった・・・』とどこか冷静かつ諦め気味に対処していた。
色んな事に巻き込まれるんだもん。一度帰れないくらいなんてこと無いよ。
学園長「闇の鏡が知らないことがあるなんて・・・君、どこから来たんです?」
優「日本の東京都郊外にある御伽市という町です。そこで生まれ育ちました」
学園長「聞いたことがないですねぇ・・・とりあえず、寮長たちは寮生の引率をお願いします。優くん、少し調べ物のためについてきてください」
優「・・・分かりました。あと、僕が元々着ていた服と持っていた財布とスマホ、そして暇つぶしの為に読もうと思っていた本は何処に行ったんですか!?」
学園長「え?」
感想まだです
- Welcome to the Villains' world ( No.774 )
- 日時: 2021/05/23 09:30
- 名前: 桜木霊歌 (ID: Fa9NiHx5)
どういう仕組みかわからないが、新入生たちの着ていた服や持ってきていた荷物は先程の部屋の棺桶の中に収納されているらしい。
私服と本とスマホと財布を回収して着替えたあと、優が学園長とグリムと共に訪れたのは図書室だった。
否、これは図書館といっても過言ではなかった。
自分の学校の図書室と負けず劣らずの広さだろう。
学園長「どの資料にも載っていない・・・」
優「何となく、そんな気はしていました。というか、僕異世界出身ですし」
学園長・グリム「え?」
めちゃくちゃすごいことをまるで『今日トーストにバター塗って食べた』とでも言わんばかりの様子で言い放つ優に、二人は思わず絶句した。
優「とりあえず、ここは一体どこなんですか?僕何も知らずにここに連れて来られたのですが?」
学園長「ここはツイステッドワンダーランド。そして、この学園は魔法師養成学校ナイトレイブンカレッジです。」
優「そうなんですね。だからグリムはこの学校に入りたかったんだ」
グリム「そうなんだゾ!俺様は大魔法師になる為に生まれてきたんだゾ!」
グリムは思いっきし優に懐いている。
それは当然かもしれない。出会いは最悪としか言えなかったが、あんなに優しくしてくれたのだ。
完全に優に甘えている。
学園長「では、身分証明書はありますか?」
優「友達と遊びに行く際にカラオケや遊園地に行くってなったときの為に、生徒手帳は常に持っていますよ」
そう言って、優はいつも持ち歩いている御伽学園中等部の生徒手帳を見せた。
そこには優の写真や家の住所、連絡先の他、メールアドレスや両親の電話番号もご丁寧に全て書かれていた。
学園長「それは良かった!ご両親に連絡・・・って異世界に通じるかどうか分からないじゃないですか!かと言って魔法の使えない者をこの学園に置いておくわけには行きませんし・・・」
優「蜘蛛の糸!」
その言葉を聞いた優は素早く蜘蛛の糸の魔法を発動させ、学園長を捕縛した。
そういえばさっきグリムが『どこからか糸を出して動きを捕縛した』と言っていた。
恐らくこういうことだったのだろう。
グリム「この学校の名前読めねぇんだゾ・・・」
優「しりつおとぎがくえんちゅうとうぶって読むんだよ」
グリム「ちゅうとうぶってなんなんだゾ?」
優「ここ多分外国に近いから、わかりやすく言うとミドルスクールだよ。ミドルスクールの3年生。僕の通ってる学校はエレメンタリースクール、ミドルスクール、ハイスクール、ユニバーサルシティが1つになってるんだ」
グリムとそんな話をしていると、何かを考えていたらしい学園長が優に話しかけてくる。
学園長「優くん、今はまだ君を元の世界にかえす事はできませんが、しばらくは学園の敷地内に使われていない建物があったはずです。そこを宿にするのはいかがですか?」
優は直感的に嫌な予感を感じた。
使われていないという事は、衛生面は大丈夫なんだろうかと考えてながらついていくと、そこは案の定ボロ小屋だった。
ボロッ・・・という効果音がついてもおかしくないくらいに老朽化した建物に正直『趣がある』なんて言葉程度じゃ済まされない。
最早廃墟だ。廃墟マニアが好みそうな物件だ。
早速部屋の中に入ってみると、埃が雪のように積もっており、喘息持ちやホコリアレルギーを持つ相手はきついだろう。
もしも優が喘息を患っていたり、ホコリアレルギーを発症していたら、学園長はどうするつもりだったんだろうか・・・
グリム「このままじゃ俺様白くなるんだゾ・・・」
優「そうならないように、お掃除しようか・・・」
グリムと優は二人で雑巾がけをしたり、箒で床を掃いたりしている。
優「よしお水は・・・うわ錆びてるし鉄くさ!?学園長に交換してもらわないと・・・」
グリム「優ー!なんか絵画の後ろから変な手紙を見つけたんだゾ!」
優「何々・・・うわ、ラブレターじゃん!これ取っといてあげるべきかな?燃やすべきかな?破り捨てるべきかな?」
何だかんだ二人で協力しながらオンボロの建物の掃除をしている最中だった。
ゴーストA「あの〜・・・」
ゴーストB「そろそろ出てきてもいいですかね〜・・・?」
ゴーストC「ずっとスタンバっているのしんどいんですけど〜」
優「わ!?」
グリム「ふなー!?ゴーストなんだゾー!!?」
魔法の世界だ。そりゃ幽霊がいても不思議じゃない。
でも『語り部』の想区にも幽霊がいるのだ(良き例として小百合や幽々子)。
だからこそ、優は常に冷静だった
優「あ、お待たせしてしまってごめんなさいねゴーストさん」
ゴーストA「え?え?」
怖がられるかと思っていたが、そんなことはなくむしろずっと冷静な優に、ゴーストたちはどこかタジタジになった。
優「あ、ポルターガイストとか魂抜くとかの困った過度なイタズラはやめてくださいね?同じ建物で暮らすルームメイトととして楽しく暮らしたいので、よろしくおねがいします!」
ゴーストB・ゴーストC・グリム「え?え?」
物語の世界で暮らしていると、ほんとに慣れっこになるんだな・・・
ちなみに一瞬で仲良くなったゴーストたちを見て学園長が驚いたのは別の話・・・
感想OKです!
- Welcome to the Villains' world ( No.775 )
- 日時: 2021/06/09 22:37
- 名前: 桜木霊歌 (ID: sbAJLKKg)
不思議でおぞましい悪夢を見た霊歌の血縁者である少年の『時ノ小路優』は捻れた不思議の国こと『ツイステッドワンダーランド』に迷い込んでしまう。
オンボロの建物ことオンボロ寮でゴースト達と仲良くなった優は学園長に抗議する間もなく『雑用係』に強制任命されてしまう。
元々苦労する性分でメインストリートの掃除をしていると、優とグリムはエースという少年に出会ったが・・・
萩原朔太郎の竹と川端康成の雪国より一部抜粋
優の過去、Welcome to the Villains' worldの後編!
ゴーストたちと仲良くなり、学園長にグリムと共に強制的に雑用係に任命された優は寝室のベッドで眠ろうとしていた。
・・・眠ろうとは努力したのだ。しかし、眠ることができなかった。
この寮にあったマットレスは固くベッドは一部壊れている。
その上買いに行こうとしていた小説の内容が気になって仕方がない(おい)
さらには慣れてしまったとはいえ、いきなりの異世界トリップ。
眠れないのは仕方がないだろう。
オンボロ寮の外に出た優はボロボロのフェンスに腰掛ける体勢になって、暇つぶしの為に鞄の中に入れていた本の一つ・・・菊池寛の『恩讐の彼方に』を取り出して頁をめくった。
具体的な内容を示すと、追い剥ぎや強盗をした男が贖罪として僧になり、とある山越えの難所で人が毎年死ぬことを知る。
懺悔として20年余もの時をかけて洞門を掘り進める。
そこにかつて自身が殺した男の息子が現れるが男の贖罪の様子を見て殺意が薄れ、仇討ちは洞門が掘り終わった後でも問題ないとして洞門を掘り進める作業を手伝う。
そして最後には自身が殺した男の息子に討たれようとした僧だが、彼の贖罪の心に感化された男は仇討ちの心を捨てて抱擁を交わすという物語である。
菊池寛の作家としての立場を確立した作品であり、優が寛の描いた物語の中で最も好きな物語であり、今まで読んだ物語の中では4番目に好きな物語である(ちなみに一位は同率で霊歌の描いた『宝石庭園の魔法使い』と彼岸の描いた『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』、龍之介の描いた『蜘蛛の糸』である)
本を読むことに熱中していた為、人が近づいていることに気が付かなかった。
????「おや、こんな所に子供がいるとは・・・」
優「ふぇ?」
思わず話しかけられた人物を見ると、緑のかかった美しい黒髪に黄緑の瞳、頭には一対の黒い角が生えており、身長は角も含めるなら200cmは軽く超えるであろう男性だった。
黒いブレザーに白黒のストライプのネクタイ、黒い手袋に黒いスラックスを着込んでおり、左腕には黄緑と黒の腕章をつけ、黄緑のベストを羽織っている。
夢で石となった者の一人だった。
優「・・・!すみません、ここにいては迷惑でしたか?」
????「いや、そういうわけではない。しかしここは長らく廃墟だったはずだが・・・」
優「実は僕、異世界から此処に迷い込んでしまって学園長からこの場所を宿として充てがわれたんです」
????「・・・なるほど、クロウリーの奴め、人の子はこんな所にいさせるべきではないだろう。」
そう言って溜息を吐いている男性を見て、優は彼の名前を聞いていない事を思い出した。
優「すみません、あなたのお名前は何ですか?」
????「!?この僕を知らないのか・・・!?」
優「先ほど言ったように、僕は異世界から迷い込んだだけの招待客です。ですのであなたがこの世界で有名でも、僕はあなたの事を何一つ知らないんです」
優の言葉を聞いた男性は何やら迷っている様子だった。
まるで、自分の名前を言って自分の素上を知られる事を恐れているかのように。
そして、一言こう言った。
????「・・・お前の世間知らずに免じて、好きな呼び方で呼んでいい」
優「それは嫌です!僕は人の事を渾名で呼ばない主義なんですよ。」
驚いた様子の男はそんな事を言われることを予想していなかったのか、戸惑ってしまっている。
・・・そして長らく時間が経った後、ようやく口を開いた。
????→マレウス「・・・マレウスだ。マレウス・ドラコニア」
優「マレウスさんというんですね。よろしくお願いします!」
優は明るく元気な声でマレウスに向かって軽く会釈する。
マレウス「僕を恐れないのか?」
優「先ほど言いましたよね?僕は異世界から迷い込んだだけの招待客だからあなたの事を何一つ知らないと。少なくとも、僕からの第一印象は強くて優しそうな人ですよ」
マレウス「僕が・・・優しそう・・・?」
マレウスのその困惑したかのような表情はまるで、そのような事を言われたことが無かったかのような反応に見えた。
そしてしばらく固まっていると、マレウスからは自然と笑みが溢れた。
マレウス「僕が優しそうと例えるとは、中々面白い。お前の名前は何だ?」
優「優ですよ、時ノ小路優。僕の故郷じゃ苗字・・・ファミリーネームを先に名乗るので、時ノ小路がファミリーネームで優が名前です」
マレウス「そうか・・・優と言うんだな?中々面白い・・・見どころがありそうだ」
そんなマレウスの言葉に、優はどこか自嘲気味に笑って「そんなことないですよぉ・・・」とマレウスに返す。
彼の血縁者である桜木霊歌。彼の曽祖父である空渡彼岸。
この二人は生前かなり謙虚な作家(彼岸の場合は詩人)として知られ、努力や勉強を惜しまなかったと聞く。
こういった所は着々と子孫にも遺伝していくという事なのかもしれない。
そこでマレウスは優の手にしていた『恩讐の彼方に』に興味を示した。
マレウス「・・・100年近く生きてきたが、お前の持っている本は見たことがないな。」
優「あ、そりゃこの世界で100年近く生きていても見たことないのは当たり前ですよ。だってその本、僕の世界の本ですから。」
マレウス「ほう・・・題名は極東の国の文字か?リリアなら読めるかもしれないな・・・」
優「良ければ後日翻訳して渡しますよ。恩讐の彼方に、僕の大好きな作品の一つなんです!」
マレウス「恩讐の彼方に、か・・・中々良い題名だな。では翻訳して持ってきてくれることを楽しみに待っているぞ。おやすみ、優」
優「マレウスさん、おやすみなさい」
マレウスと別れた優は、オンボロ寮のテーブルと紙に向かい、恩讐の彼方にを開いて翻訳して紙に書き始める。
自分の好きな作品を少しでも知ってほしい。
ちょっとした彼の可愛らしい我儘だった。
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- Welcome to the Villains' world ( No.776 )
- 日時: 2021/06/05 20:01
- 名前: 桜木霊歌 (ID: sbAJLKKg)
ここは図書館。
優とグリムは学園長によりメインストリートから図書館にかけての掃除を命じられていたのだ。
現在グリムは諸事情でこの場にはいないが、掃除は優一人でも支障は無い。
元々掃除が好きな性分故に楽しんで掃除していた。
???「おや、お主は入学式の時のじゃな?確か名前は優じゃったか」
優「うわぁ!?な、何なんですか!?驚かせないでください!あと地面に降りて!」
???「ふふふ、ますます面白いのぉ」
優に話しかけてきたのはピンクのメッシュの入った黒髪ショートの少年?だ。
?がついた理由は、話し方や雰囲気といいどこか龍之介のような爺臭さを感じたからである。
・・・かと言って、お爺さんは蝙蝠のようにぶら下がらないはずだ。
いや、志賀直哉は確か晩年の時に蝙蝠の真似をして鴨居にぶら下がったことがある(マジです)。
これに比べると・・・少しはマシなのか・・・?
そんな行き場のないツッコミに困っていると、優は彼の着ているベストの色がマレウスの着ていたベストと同じ色だという事がわかる。
優「すみません、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
???→リリア「構わんぞ、ワシはリリアじゃ。リリア・ヴァンルージュ」
優「昨日マレウスさんが言っていたのはあなたの事だったんですね!改めまして、時ノ小路優と申します。」
リリア「そう言えば昨日マレウスの機嫌が良かったな。お主のおかげか」
優「そんなことはないですよぉ・・・あ、そうだ!リリアさん、これをマレウスさんに渡してくださりますか?」
そう言って優が手渡したのは経った一晩で優がこのツイステッドワンダーランドの公用語である英語に翻訳した『恩讐の彼方に』であった。
自分でもたった一夜でできるとは思えなかったので、少し睡眠時間は削れたが良かっただろうと思っていた。
リリア「これをか?」
優「はい!マレウスさんが僕の読んでいた本に興味を示しまして、ですが僕の故郷の文字は分からないようで、こちらの公用語の英語に一晩で翻訳してきました!多少睡眠時間は削れましたが」
リリア「マレウスに渡しておくからお主は寝ろ。」
「それじゃあ」と言ってリリアと別れると、優は再び掃除を始めた。
優と別れたリリアは紙に目を落とすと、これだけの文字を全てこちらに分かるように翻訳したことの苦労がわかる。
それならその本を自分に渡してくれればいいが、そうは行かないようだった。
リリア(にしてもマレウスがこのように文学に興味を示すとは・・・帰ったらご褒美の料理じゃな!)
別の意味で刻一刻とマレウスに命の危機が迫ってるなど、優は全く想像していなかった。
・食堂
優「で?何がどうしてこうなったの?」
グリム「・・・ごめんなさいなんだゾ・・・」
???「何で俺が・・・」
????「同感だ・・・」
リリアと別れた10分後、されど10分後・・・
新たなトラブルが起きた。
絢爛豪華であろうシャンデリアは無惨に壊れ、ついていたであろう宝石は見る影すらも無い。
辺りにはシャンデリアや宝石の残骸や破片がゴロリゴロリと転がっていた。
そして尚且優は珍しく怒っており、その手には蜘蛛の糸(普段と異なり強度がかなり強い太めの糸)が3本握られており、それぞれ蜘蛛の糸でグリムと二人の生徒が拘束されていた。
一体全体何故こうなったのか?
それは朝にまで遡る・・・
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- Welcome to the Villains' world ( No.777 )
- 日時: 2021/06/05 20:06
- 名前: 桜木霊歌 (ID: sbAJLKKg)
・朝 メインストリートにて
グリム「掃除面倒なんだゾ・・・」
優「そうだけど、やるととっても楽しいんだよ!昨日のオンボロ寮の掃除、グリム楽しそうだったよね?」
そう言いながら優はメインストリートを箒ではいて掃除している。
グリムは優が作ったミニサイズの箒で同じようにしていた(たった一晩で作った)
改めて優はメインストリートを見る。
昨日はこういった所を見る余裕なんて無かった故である。
7つの銅像が立っている。
ハートの女王を思わせる女性に左目に傷のあるライオン、アラビアンな貴族のような魔術師に美しい女王、炎のように逆だった髪の男性に昨日優と会ったマレウスのように角を生やした女性の銅像がある。
・・・あれ?何で6つしか紹介してないのかって?
その理由は、優がその銅像から全力で目を逸らしてるからである。
それ故にグリムが今問題を起こしていることなんて知らなかった。
グリム「ふなー!お前ほんとにいい加減にするんだゾ!」
優「へ?何!?」
慌てて後ろを振り向くと、グリムは自分とそう歳も変わらないテコラッタ色の髪の少年に炎を吹き出している。
???「バーカ、こんなもんくらい!」
少年は風を出して炎の向きを変えるが、その炎はまっすぐにハートの女王の石像に向かって飛んで行く・・・!
優「あ・・・!まずい!」
とっさにハートの女王の石像の前に立つと、優は呪文を唱える。
優「『光る地面に竹が生え、
青竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるへ。
かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、
青空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。』!」
その呪文を唱えると、石像の周りにかなり大きくかなり太い竹がたくさん生えてきた。
そして、その竹が炎を防いだ。
優「よかった・・・間に合ったよ・・・」
グリム「すげぇんだゾ優!あの魔法昨日の糸みたいな感じの魔法なのか!?どんな魔法何だゾ?」
優「竹を生やす魔法。以上」
???「・・・それだけ?」
優「うんそれだけ」
しかし、自分があの銅像から目を逸らしている間に何があったのか?
グリムと少年を問い詰めると、どうやらこの石像の人物たちはグレート・セブンというこのツイステッドワンダーランドの偉人であるそうで、魔獣のグリムは人間の歴史を全く知らず、それをエースという少年に馬鹿にされたらしい。
優「なるほどねぇ・・・エース君、だっけ?」
???→エース「そうだけど・・・何だよ?」
優「君は芥川龍之介さんって知ってる?」
エース「はぁ・・・?誰だよそいつ」
その言葉を聞くと、優はあからさまかつ大声で驚いたかのような態度を取った。
優「えぇー!?知らないの!?僕の世界の著名な文豪で彼の名前を冠した『芥川賞』っていうのがあるんだよ!知らないの!!?」
エース「なっ・・・!?」
優「じゃあ桜木霊歌さんは?空渡彼岸さんは?菊池寛さんは?志賀直哉さんは?太宰治さんは?宮沢賢治さんは?中原中也さんは?北原白秋さんは?萩原朔太郎さんは?室生犀星さんは?島崎藤村さんは?武者小路実篤さんは?有島武郎さんは?里見弴さんは?谷崎潤一郎さんは?夏目漱石さんは?森鴎外さんは?織田作之助さんは?檀一雄さんは?坂口安吾さんは?直木三十五さんは?徳田秋声さんは?泉鏡花さんは?江戸川乱歩さんは?川端康成さんは?中島敦さんは?まさか、皆知らないの!?」
エース「知るわけねぇだろ!」
矢継ぎ早に知らない人物の名前を出されてエースは少し・・・否、かなり苛立っている。
そしてそのエースの反応に、優は呆れたと言わんばかりの態度を取る。
優「信じられないよ・・・全員僕の世界のすごい文豪さんばかりなのに・・・そんなの子供だしあり得ないよ・・・」
エース「何だよ馬鹿にしてんのか!」
優「僕は君がグリムにやった事を君にやってるだけだよ。グリムにやるのはいいのに、自分の事は棚に上げるんだ」
苛立ちの籠もった顔で夢で見た宝石のついたペンを構える。
それに対して優はこう返した。
優「イケないんだイケないんだ〜。此処って確か魔法を使った私闘は禁止されてるんじゃなかった?」
まさに一触即発になった所で学園長が来て、(方法はどうあれ)ちゃんと止めた優は兎も角、初日からやらかしたグリムとエースは窓拭き100枚を命じられたのだ。
図書館にいた時グリムといなかったのはこれが理由だったのだ。
そして優は去り際に一言、エースに物申した。
優「エース君、そんな態度を取り続けたら君の周りには誰もいなくなるよ。君のそんな態度は今は無理でもいずれ改めて。じゃないと未来で後悔するのはエース君だから」
エース「!?」
そう軽く言って魔法で生やした竹を刈り取ってオンボロ寮に戻る。
竹は意外と様々なものに使えるのだ。
優「それじゃあ学園長、この竹をオンボロ寮に戻したらすぐに掃除を再開しますね!グリム、窓拭きサボっちゃだめだよ」
グリム「分かってるんだゾ!」
いい子いい子とグリムを褒め、優しく頭をよしよしと撫でると、優はオンボロ寮に戻っていった。
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- Welcome to the Villains' world ( No.778 )
- 日時: 2021/06/09 22:41
- 名前: 桜木霊歌 (ID: sbAJLKKg)
そして別れた後の結果がこれである。
優が怒るのも無理はないだろう。
何故こうなったのか?
たまたまこの場に居合わせて、優の蜘蛛の糸に拘束されているデュースという生徒曰く・・・
①エースが掃除をサボって帰ろうとした
②グリムがデュースも巻き込んでのダイナミック鬼ごっこ
③しかしグリムの中にあったサボりたいという感情が溢れてグリムが逃走
④そしてこの食堂のシャンデリアの上にグリムが避難
⑤ここからは届かないし飛行魔法を習ってないからエースを向こうに飛ばそう!(はぁ?)
⑥グリムは捕まえることはできたがシャンデリア大破
⑦シャンデリアの壊れる音を聞きつけた優が3人を蜘蛛の糸で拘束←今ここ
ホントに何がどうしてこうなったである。
いくら届かないからといって、普通人を投げるという方法が頭に浮かぶか?
優「僕と君たちの世界の魔法が違うのは分かるよ?でもさ、普通シャンデリアの上にグリムがいたから捕まえる為に人を投げ飛ばすっていう発想になる?ならないよね?そんなことしたら壊れるのは分かってるよね?」
デュース「ひ、否定できない・・・」
優「そもそもそんなところにグリムがいたんならさ、近くにいる先生なりゴーストたちに頼むなりすればよかったんじゃないの?それすら頭に浮かばないなんて馬鹿なの?」
・・・見事に3人を馬鹿にしているような発言は目立つが、優は一切馬鹿になんてしていない。
なんなら普通の子供に叱りつけるような感じであり、きちんと言い聞かせる様な話し方だ。
まあ、それはそうだろう。
なんたって優の曽祖父である空渡彼岸は北原一門に所属していた詩人だ。
あの傲岸不遜な白秋の弟子の一人だった上に、白秋も彼岸の兄弟子である朔太郎と犀星も、自覚していないもののかなりの毒舌家で、相手を評価する際にはどちらかというと落として上げて褒めるタイプの一門だ。
そんな彼らに彼岸は良くも悪くも染まったのだろう・・・
そして霊歌本人も自覚はないものの極端の毒舌家だ。
彼の毒舌はそんな霊歌と彼岸の血が・・・着々と優に遺伝してきているという証拠なのだろうか・・・
学園長も来ていたのだが、優の剣幕と冷たい瞳、かなり低い声色にビビり散らしている。
この地点で学園長の威厳もクソもない。
学園長「とにかくもう我慢できません!優くん以外全員退学及びクビです!」
デュース「そんな!これは困ります!弁償でもなんでもするので退学だけは・・・!」
優「デュース君に関しては免除してあげてもいいんじゃないですか?彼の場合グリムとエース君に巻き込まれただけですし。そもそも魔法で直せるのでは?」
学園長「そうは行きません。魔法の核となる魔法石が壊れています。それにこのシャンデリアはこの学校創設からずっとある物で、弁償するとなると10億マドルはいります」
エース・デュース「10億マドルぅ!?」
マドルというのはツイステッドワンダーランドの通貨だろうか。
こっちでいう10億円はかかるという事だろう。
そんなの学生の彼らには払えない。
優「なら、どうすれば彼らの退学とグリムのクビを免除してくれるんですか?」
学園長「このシャンデリアの核に使われている魔法石は、今は廃鉱となったドワーフ鉱山にまだあるかもしれません」
デュース「じゃあ「僕が行きます」
優は真面目な表情でそう言った。
デュース「え・・・!?何で・・・!!?」
優「今回は僕がグリムについていたら防げたかもしれない事態だからね。学園長、僕がドワーフ鉱山で魔法石を取ってきます。僕が魔法石を持ってくることができたら、エース君とデュース君の退学及びグリムのクビを免除してください」
学園長「しかし、ドワーフ鉱山は閉鎖されてからかなり時間が経っています。魔法石があるかどうかの保証は・・・」
優「無かったとしても僕は行きます!可能性が0に満たなかったとしても、可能性があるなら僕はかけてみたいんです!それに二人のご家族だってこんな事になるとは思ってないはず・・・たった1日で退学はおろか、その挑戦が不毛に終わったら、二人のご家族に顔向けできないでしょう!?」
両者はそのまま睨み合う。
結核という彼女の育った大正時代では不治の病に侵されながらも物語を鮮明に描き続けた桜木霊歌と、兄弟子の朔太郎と犀星に、自身の詩の師匠であった白秋に、父親同然の存在であった龍之介に、心の拠り所であり世界の全てだった姉の霊歌に、自分を愛してくれた妻に先立たれ、非国民と罵られながらも自分の祈る世界平和の詩を、思い出の込められた詩を描き続けた空渡彼岸。
そんな2人の血縁者だからこそ、優は諦めは悪いし、何なら『この不条理に立ち向かってやろう』という意志の方が強かった。
そしてやがて学園長が折れ、「分かりました」と言う。
学園長「刻限は夜明けまで。それまでに持ってこられなければ彼らは退学及びクビです。」
その言葉に対して優は「十分ですよ」と自信満々の笑顔で返して見せる。
グリム「夜明けまででたった一人なんて無茶なんだゾ!」
優「大丈夫。僕が何とかするからグリムはエース君とデュース君と掃除するなり反省文を書くなりしてね。すぐに戻って皆の退学とクビを止めるから!・・・学園長、言質は取ったので勝手に退学手続きしないでくださいよ?」
グリムに対して激励の言葉を送ると、優はそう言って録音アプリを開いたスマホを学園長に見せていたずらっぽく笑う。
優「ですが、流石にドワーフ鉱山にまでは送ってくれませんか?僕ここの地理とかわからないんですよ。」
学園長「その点についてはご安心を。鏡の間にある闇の鏡の力を借りればよいでしょう。あの鏡に行きたい場所を告げれば、すぐに導いてくれます。」
優「分かりました。ふふっ、何だかメロスになった気分ですね」
エース「メロスって誰だよ」
エースの言葉を聞いた優は軽く説明する。
優「僕の世界の文豪、太宰治さんの代表作の小説、『走れメロス』の主人公の名前だよ。友人を身代わりとしたことを引き換えに三日間の猶予を与えられたメロスが幾多もの障害を乗り越えて友人を助ける為に王の元へ帰るお話。太宰治さんの『誰かを信じて真っ直ぐ走れる人間になりたい』っていう想いを反映した作品で、信頼の物語とも称されてるんだ」
デュース「要は僕達はメロスに身代わりにされた友人の立場・・・?」
的はずれな事を考え始めたデュースに、「それは違うから・・・」とツッコんでから一言言う。
優「今回は夜明けまでってかなり期間は短いけれど、僕が退学とクビっていう処刑から助けてあげるから!」
そう言ってエースとデュースが引き止める声も聞かずに振り返らずにそのまま鏡の間へと向かった。
昨日見たばかりの大きなこの鏡に対し、優はドワーフ鉱山と口にした。
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- Welcome to the Villains' world ( No.779 )
- 日時: 2021/06/05 20:16
- 名前: 桜木霊歌 (ID: sbAJLKKg)
『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。』
川端康成の代表作、雪国の冒頭にある言葉だ。
今は闇の鏡の力でこのドワーフ鉱山に来ている。
状況は違うといえ、優にとってはまさしく雪国を実体験しているようなので感覚だった。
まず優が始めるのは情報収集だ。
何の知識もなしにいきなり入りに行くだなんて、無謀にもほどがある。
だからこそ、まずは手頃な家がないかどうか探すことから始めた。
少し探索していると、家があった。
・・・オンボロ寮に比べると比較的マシだが十分廃墟の部類に入る・・・という頭語がついてしまうが・・・
人がいない事は織り込み済みだが、一応の為にノックをして扉を開ける。
優「失礼します。誰かいらっしゃりますか・・・?」
案の定廃墟になった家の中には誰もいない。
だが、優には目に付くものがいくつかあった。
それは子供用のサイズと解釈できるテーブルと、こちらも子供用のサイズと解釈できる椅子が7脚置かれて、子供用のサイズと解釈できる斧やつるはしが7組ずつ置かれていた。
優「子供サイズのテーブルと椅子と斧とつるはし・・・なるほど、ドワーフ鉱山・・・名前通り、この世界の小人達の家だったんだ」
確かツヴェルク達は子供の姿でありながら、その本職は鉱山労働者。
鉱山の近くにある家であり、斧やつるはしが置かれているということは魔法石に関する情報がある可能性のほうが高い。
案の定、ここには地図があった。
そこには魔法石は奥の方に多くあると書かれていた。
可能性が一歩前進したとして、優はドワーフ鉱山の中へと足を踏み入れた。
優は地図を見ながら奥へと進む。
道中ゴースト達が優に向かってくるが、こちらとて容赦するつもりは無い。
あっさりと次々とゴーストを蹴散らしながら奥の方へと向かって行った。
奥に向かっていると、キラリと虹色の宝石が優の目に止まった。
もしやあの魔法石かと思い、優は学園長から貰った魔法石の写真と宝石を見比べる。
間違った魔法石を持って行かないように、学園長から必要な魔法石の写真は貰っていた。
写真と寸分違わない虹色の宝石だった。
優「やった!あの魔法石を持ち帰れば「さぬ・・・ぅう・・・ぬぅ・・・」・・・へ・・・!?何!!?」
魔法石を持ち帰ろうと進むと、どこからか不気味な声が響く。
すると、巨大な化け物が現れた。
どこか小人を思わせるような赤い服に赤い帽子という装いで、紫色の不気味な炎を放つランプと朽ちたつるはしを持っている。
しかし顔は存在せず、頭部は割れたインク壺でどこかツギハギである。
・・・まるで、夢の中で変貌した彼らの後ろに佇んでいた化身のように・・・
優が魔法石に近づくと同時に手にしているつるはしで優を始末しにかかったが、優は咄嗟に後ろに飛んで攻撃を躱す。
先程まで優が立っていた場所は化け物の攻撃で抉れてしまっていた。
化け物「コノイシハァ・・・オデノモノダアアァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
優「!?話し合いは・・・難しそうだなぁ・・・というより出来ないよなぁ・・・」
そう言っておきながら、話し合いで解決出来るなんて微塵も思っていなかった優は化け物を誘導するかの様に後退し始めた。
優「ふっふふーん!おっにさーんこーちらー!手ーのなーる方へー!」
優が誘導していく最中、化け物は優を仕留めんばかりの攻撃を仕掛けてくるが、この程度の攻撃は直線的すぎて読みやすい。軽々と躱していく優に化け物は苛立ちを感じていた。
そして魔法石からだいぶ離れたと優が感じたとき、優は呪文を唱える。
優「さぁてと!『竹、竹、竹が生え。』!『蜘蛛の糸』!」
化け物の周りに大きくかなり太い竹が埋め尽くすかのように生え、その隙間をかなり太く強い蜘蛛の糸が補強し、立派なバリケードになっている。
萩原朔太郎の『竹』の詩を元にした魔法は、優は「竹を生やすだけの魔法」だと言っていたが、たかがそれだけだと舐めないほうがいい。
先ほどグリムの炎からハートの女王の石像を守ったように巨大な盾にだってなるし、蜘蛛の糸と合わせれば強固なバリケードにだってできる。
意外と汎用性の高い魔法なのだ。
だが、この化け物の暴れ具合と大きさを考えればそう長くは保たないだろう。
さっさと回収してさっさと学園まで戻らなければ・・・!
虹色の魔法石を手にした後、優はそのまま走る。
化け物が自分の立てたバリケードを壊す前に、ここを離れなければという焦燥感と、自分が魔法石を持ってくることを待っている3人(正しくは2人と1匹)の元に急がなければという使命感がそのまま優を走らせる。
優「よし!出られた!」
後はこの魔法石をそのまま学園長に届けるだけ・・・そのタイミングだった。
バキバキ、ブチブチと竹がおられ、糸が切れる音が聞こえた。
優「まさか、もう壊したの・・・!?」
こんなにも早くバリケードを壊されるなんて想定もしていなかった優は、焦ったが、どこか余裕そうだった。
それもそうだ。彼は私立御伽学園中等部に通う時と友人と遊ぶ時、就寝時以外は『語り部』の想区で暮らしている優はいつも物語の登場人物と暮らしている。
そして、『語り部』の想区で暮らしている快盗のアドバイスが役に立った。
『快盗たるもの、常に最悪のケースを想定せよ』
優は怪盗ではない。だが、そんなルパンの言葉は今回かなり役立った。
そのため優はバリケードが予想よりも早く壊された事に動揺したものの、すぐに冷静になり、立ち向かわなければならない事を察知した。
案の定、化け物は優に追いついて攻撃を仕掛けてきた。
軽く躱して溜息をつくと、一言言った。
優「やれやれ・・・さっさと終わらせて帰らせていただきますよ!」
そう言って優は導きの栞と空白の書を取り出した。
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- Welcome to the Villains' world ( No.780 )
- 日時: 2021/06/10 05:35
- 名前: 桜木霊歌 (ID: ejGyAO8t)
優「芥川龍之介!」
導きの栞を掲げてそう言うと、万能職の紋章は回転すると同時に、紫のメッシュが入った青みのかかった黒髪を一つに束ねた藍色の着物に黒い革鎧を着た男・・・『語り部』の想区の芥川龍之介に変化する。
優「接続!」
導きの栞を空白の書に挟むと同時に、空白の書から溢れる意味不明な記号のような光を放ちながら優の体に纏わりつく。
体格と身長は大人の男性そのものに変化し、黒檀のように真っ黒だった髪は、前髪に紫のメッシュが入った青みのかかった黒髪に変化し、腰まで無造作に伸ばされて一つに束ねられ、三日月の髪飾りをつけている。
着ていた白いシャツに赤いネクタイ、黒いスラックスと黒いローファーも変化し、群青色の着物に変化し、黒い帯が締められている。
着物の上から黒い革鎧を身に着け、両手の甲には黒い手甲がつけられ、靴下は黒い足袋に、靴は群青色の鼻緒の下駄に変化する。
その姿はまさしく、『語り部』の想区の芥川龍之介その人だった。
龍之介(優)「さぁ、語ろうか・・・地獄よりも地獄的な物語を」
その声色や話し方は先程の15歳の少年らしい物から売って変わり、30代くらいの男性と同じような声・・・というか、芥川龍之介と同じだ。
持っていた空白の書は魔導書・・・『歯車仕掛けの地獄変』に変化している。
化け物はたかが見た目が変わっただけだと高を括り攻撃してくるが、優は跳躍して攻撃を躱す。
それは先程の優の時とは異なりすぎていて、化け物は判断に遅れた。
その僅かな隙を縫うようにして、優は化け物に回し蹴りをくらわせた。
そして胸にあたる部位に手をかざすと、紫色の炎が放たれ、容赦なく化け物を吹き飛ばした。
それだけではなく、その手に持つ魔導書で化け物を殴りつける。
しかし、どこか化け物は気力で立っているようにも見えた。
化け物の方は体力にはもう猶予はなさそうだ。
龍之介(優)「君自身に恨みは無いが、すまないね。『救い無き地獄変』!」
『語り部』の想区の芥川龍之介の必殺技、『救い無き地獄変』が化け物に炸裂する。
まるで蜘蛛の糸の主人公が地獄で罰を受けていた他の罪人達に纏わり付かれたように、地面から出てくる手が化け物を拘束する。
化け物は身をよじるがそれは解けずにさらに化け物の体に食い込んでいった。
そして化け物を拘束していた手が燃え盛り、化け物もそのまま燃え尽き、灰となって消えた。
龍之介(優)「・・・ふぅ・・・」
一息つくと、接続をした時と同じ様な光に包まれるが、今度はまるで光が体から剥がれていくような感覚だった。
再び光が消えると先程の芥川龍之介の姿から、いつもの時ノ小路優の姿に戻っていた。
優「何とかなったなぁ・・・あ・・・!」
ふと先程まで化け物がいた場所を見ると、そこに落ちていたのは、夢で暴走してしまった者たちが成り果てた黒い石だった。
正直見ているだけでも嫌な気配しかしない。だが、これを学園長に調べて貰えば夢に関してなにか分かるかもしれない。
そう考えた優は鞄の奥深くに石を入れた。
優「よし、急いで戻らないと・・・ってえ?」
優が目にしたのは、学園で待っていろと言っていたはずのエースとデュース、グリムの姿であった。
どこかとてもソワソワしているように見える。
優には、彼らはまるで特撮番組で必殺技が決まるのをはしゃいでいる子供のように見えた。
エース・デュース・グリム「か・・・か・・・かっけええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
優「煩いよ」
エース「何だよさっきの変身!マジでカッコ良かった!」
デュース「凄いぞ!本当に格好良かった!」
グリム「優何なんだゾ今の!?俺様にも教えるんだゾ〜!」
矢継ぎ早に話しかける16歳の高校生2人とグリム。
優的には正直このテンションは喧しかった。
感想まだです
- Welcome to the Villains' world ( No.781 )
- 日時: 2021/06/10 08:34
- 名前: 桜木霊歌 (ID: ejGyAO8t)
優「簡単に言うと、あれは僕がお世話になってる世界、『語り部』の想区の極一部の人が使える接続っていう魔法なんだ。物語の登場人物である登場人物や簡単に言うと、物語の原点の作者である創造主の力と姿を借りて戦う力なんだ。」
先程の接続を見た3人(2人と1匹)から「さっきのは何だ」とか「教えろ」とかどやされたので、ゆっくり1から説明しているのだ。
グリム「じゃあさっきの男はその登場人物と創造主のどっちかって事なんだゾ?」
優「うん。僕がさっき接続したのは創造主『芥川龍之介』さん。僕が個人的に尊敬していて思い入れのある大正時代の文豪さんなんだ」
エース「朝お前が言ってた奴か・・・その・・・朝はごめん・・・」
優「!驚いた。ちゃんと謝れたんだね」
予想外の言葉に優は驚いた様子を見せたが、すぐに茶化すような笑顔で言う。
だが、その笑顔には成長してくれた事に対する喜びも混じっていた。
エース「俺だって謝れるさ!・・・ただ、掃除して反省文書いてる時にお前に言われたこと考えてさ・・・ホントに悪いって思ったし・・・」
そっかそっかと言わんばかりの優しい笑顔を浮かべる優は、まるで聖母のようにも思えた。
グリム「その龍之介って奴、どんな奴だったんだゾ?」
デュース「確かに、その芥川先生はどんな作品を書いていたんだ?」
優「具体的に言うと、芥川龍之介さん本人の芸術至上主義や、人間誰しもが持つエゴイズムを描いた作品が多いんだよ。彼の代表作で言えば地獄変がその傾向が強いかな」
エース「気になるじゃん!タイトルめっちゃ怖いけど・・・」
優「じゃあ話そっか?」
地獄変の内容が気になったエースがその内容を聞くと、優は話し始める。
地獄変・・・芥川龍之介の代表作の一つであり、宇治拾遺物語の『絵仏師良秀』を元にした作品である。
絵の腕前は都一だが醜い容姿と傲慢知己な性格で誰からも嫌われていた良秀は、領主に地獄変・・・地獄絵図を描いた屏風を描くことを求める。
しかし実際に見た物しかかけない良秀は、絵を描くために時には弟子を痛めつけたりもした。
だが地獄変の屏風の目玉である女が車に乗せられ、火に焚べられる様を書くことができず、領主に頼んでその様子を見せて貰おうとする。
夜に人里離れた寺に連れてこられた良秀は車の中に乗っていた女性を見て驚愕する。
そこに乗せられていたのは自分の愛した娘だったから。
火に焚べられた娘は美しい髪や着物を振り乱し悶え苦しむが、良秀はそれを助けようとせずにその様をじっくりと見ていた。
そして完成した屏風は良秀を悪く言っていた者ですら感嘆とする出来栄えだった。
そして良秀は屏風を領主に提出した後、首を括って娘の後を追ったのだと・・・
優「・・・っていうお話なんだ」
エース「おま、それかんっぜんにバッドエンドじゃん・・・」
デュース「何で、弟子痛め付けてえ?娘さんを助けなかった?え?何で?」
グリム「ふなぁ・・・」
優「これは龍之介さんの芸術の為ならば全てを捨てて構わないっていう芸術至上主義の考えが顕著に出ている作品で、多くの人は地獄変がもっとも芥川龍之介さんらしい作品って批評する人が多いんだ」
エース「そんな物騒な話を書く文豪、何で憧れてんだ?」
優「僕のご先祖様を育てた人だからね。」
デュース「お前のご先祖様を?」
優「うん。彼岸さんと霊歌さん・・・僕のひいお祖父様とそのお姉さんが龍之介さんの家の門を叩かなかったら、きっと2人は僕の憧れる童話作家や詩人になってなかったから。それに龍之介さん、あんな物語は書いてますけど愛妻家で子煩悩なんですよ。・・・だからこそ何で奥さんも彼岸さんもお子さんも置いて逝ったんだと思いますけど」
エースは最後の『何で置いて逝ったんだと思った』という言葉を聞いて嫌な予感を覚えた。
優「さあ、早く戻ろう?早い所魔法石を提出しないとね。」
エース「そうだな!急ぐぞ!」
・
こうして魔法石を持って帰った事で2人は退学を免除され、優は化け物を単独で倒した事から元々あったであろう『猛獣使い』の才能とやらが認められ、グリムと2人一組でナイトレイブンカレッジに通う事になった。
優「グリム、先に寮に戻っていてくれない?僕、学園長と話したい事があるんだ。」
グリム「ふな?分かったんだゾ」
グリムがオンボロ寮に、エースとデュースがハーツラビュル寮に戻り、学園長室は静かになっている。
優「学園長、実は僕が元の世界に帰る方法の他、こちらを調べて欲しいんです」
そう言って優は鞄の奥深くに入れていた黒い魔法石のような石を見せる。
学園長「これは・・・」
優「あのインク壺の頭をした化け物が落としました。できる限り、これを調べておいてください。」
そう言って優は、学園長室を後にしてオンボロ寮に戻っていった。
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