二次創作小説(新・総合)
- 奇襲作戦!『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』ヲ浄化セヨ! ( No.789 )
- 日時: 2021/06/26 22:56
- 名前: 桜木霊歌 (ID: xIyfMsXL)
〈前書き〉語り部の想区の霊歌とアルケミストに転生されられた霊歌について
同じ霊歌でありながら、二人の性格が異なるのはとある理由があります。
それは霊歌の死後、彼女に関する資料が殆どなかったことが原因です。
勉強して医師になること以外必要ないと思っていた彼女の両親は、霊歌が日記の一つすら書くことを許されなかった。
地元では名家の子供という理由で距離を置かれていた為、彼女の本来の人柄を知る人物が少なかったことも一因です。
更には霊歌を詳しく知る文豪は今回の話で登場する創作文豪と芥川龍之介、菊池寛と堀辰雄のみで、全てに一貫して『心優しいお人好しな女の子』と言う事が記されていました。
ですが、詳しい人柄まではどの資料にも記されていなかっため、生前の霊歌に関する人柄の研究も行われており、様々な解釈があります。
それこそ、語り部の想区の霊歌のように『明るく活発でお調子者な性格』、あるいは図書館の霊歌にように『どこか臆病で大人しく生真面目な性格』など、霊歌に関する考察は多岐にわたっています。
語り部の想区の霊歌は『明るく活発でお調子者な性格』を反映され、図書館の霊歌は『どこか臆病で大人しく生真面目な性格』が反映された為です。
それでは本編、始まります
・
ここは東京都郊外の御伽市にある私立御伽図書館。
特務司書となった時ノ小路優はとある書架で初期文豪の堀辰雄と共に調べ物をしていた。
優「何もわかりませんねぇ・・・侵蝕された物語には批評とか本人が作品をどう思っていたかの共通点もありませんし・・・」
辰雄「優君、無理はしないでね。君は色々巻き込まれがちでまだ特務司書になったばかりだし・・・それに芥川さん達もいるからね」
優「大丈夫ですよ!僕だって物語が大好きなんです!頑張れますよ!学園長の無茶振りに比べれば!」
本人は大丈夫と言っているが、倒れてしまえば意味はないし、何ならたまに大きな溜息をつく時もある。
館長は優に優しい仕事を回したのだが、優は自分から他の仕事をすぐに引き受けてしまう。
館長の『少しは楽してほしい』という願いは虚しく優は自分から大変な仕事を率先してこなしている(しかも仕事の腕前のかなりのもので何も言えない・・・)
だからこそ、今この現状を少しでも何とかするために侵蝕者について調べ物をしていた。
辰雄は事あるごとに優に休むように言っているのだが、いつも返ってくるのは『大丈夫ですので!』だ。体を壊さないか心配になってしまう・・・
グリム「ふなー!優!何やってるんだゾー!?」
優「グリム!?何で!?」
グリム「お前は俺様の子分だからな!ついてきてやったんだゾ!」
辰雄「猫さん・・・?」
優「辰雄さんグリムは猫さんじゃないです。」
ひとまず優はグリムに簡潔に事情と辰雄について、辰雄にグリムの事を説明し、互いを紹介する。
意外とグリムはすぐに納得した。
グリム「お前ほんっとお人好しすぎるんだゾ・・・まあ、そんな優しい子分に免じてそのシンショクシャって奴を調べるのを手伝ってやるんだゾー!」
優「ありがとグリム」
辰雄はそんな2人(1人と一匹)を見て、これで少しは優が休んてくれるのではという淡い希望を抱いていた。
だが、こうやって調べ物をしている時間はすぐに終わってしまう。
館長「優、堀、ちょっと来てくれ。って黒猫?」
優「僕のパートナー兼同じ寮オンボロ寮の寮生の1人・・・一匹?のグリムです。ほらグリム挨拶」
グリム「俺様は優の親分のグリム様なんだゾ!偉大な大魔法士になる存在なんだゾ!」
館長「そうかそうか。意外とネコとも仲良くなれそうだな?・・・と、そうじゃない。侵蝕者が現れた。答えはわかるな?」
優・辰雄「!」
その言葉を聞いた3人(2人と一匹)は有碍書の本棚のある部屋に駆け込む。
そこであとから追い付いた館長が説明を始めてくれた。
館長「今回侵蝕された本はこの本だ。」
館長が机に置いた本は夜を思わせるような群青色をベースに、歯車や彼岸花の絵が書かれており題名と著者はこう書かれていた。
『歯車仕掛けのヴィーゲンリート 空渡彼岸』
グリム「この本、優がよく読んでる詩集ってやつなんだゾ!」
優「今度はひいお祖父様の第一詩集が!?」
館長「その様子だと、この本の説明はいらないな?空渡彼岸が出した第一詩集であり、彼の最初の本と言っても過言ではない。」
辰雄「確か彼岸くんの世界平和の祈りや人間の儚さ、人生の力強さに霊歌ちゃんや芥川さん、北原さんたちとの思い出を元手にした詩集でしたっけ?」
館長「ああ。そしてその本の中にはその本の作者、空渡彼岸の魂も囚われている。さらにこれは第一詩集。この本がなくなれば・・・」
この先は言わなくても分かる。
一番最初の本がなくなれば、それ以降の本も消えてしまう。
空渡彼岸・・・もとい、時ノ小路優斗は優の曽祖父である詩人であり、文豪の中では井伏鱒二に並ぶレベルの長寿の文豪でもある(彼岸の享年は97歳)
そして、優にとっての憧れの人物である。
優は彼岸が生きていた頃の記憶はほぼ無い状況だが、それでも憧れや尊敬は強かった。
さらに、幼い頃には実の両親からのネグレクトに姉である霊歌に父同然だった龍之介、師匠である北原白秋に兄弟子の萩原朔太郎と室生犀星、そして妻の時ノ小路琥羽に先立たれ、戦時中は非国民と罵られながらもその信念や祈りを曲げず、詩を謳い続けた詩人であり、どんな逆境にも負けなかった。
そして、その最期は息子に孫に曾孫・・・優に看取られての老衰だった。
曽祖父だからというのもあるが、優にとって尊敬に値する人物の本がこの世から消される事は我慢なからなかった。
それに、彼岸の詩は世界平和の礎として教科書に載ったりするレベルだ。
彼の詩が全て消えることで起こる影響も少なからずあるだろう。
館長「人選は君たちに任せる。歯車仕掛けのヴィーゲンリートを浄化し、囚われている空渡彼岸の魂を開放しろ!」
優・辰雄「はい!」
グリム「分かったんだゾ!」
館長「あと優」
優「?はい?」
館長「君にはこれを渡しておく」
そう言って館長が優に手渡したものはブローチのように加工された4つの赤い宝石だった。
受け取った優はしげしげとその宝石を観察しており、どこか興味津々だった。
優「これは?」
館長「賢者の石だ。」
優「ヘェ~・・・って賢者の石!?」
館長「とは言っても君が想像しているような賢者の石ではない。具体的に言うと、文豪1人につき1つまで装備させることができる。そして、賢者の石1つに付き、一回までなら文豪たちの二度目の死・・・絶筆を防ぐことができる」
要はお守りみたいなものらしい。
そして、会派のメンバーは最大で4人。持たされた賢者の石の数は4つ。
『文豪たちに持たせておけ』と言うことだろう。
館長にお礼を言った優は、賢者の石を携えて入り口で待っている辰雄にその内の1つを渡して文豪を呼びに行った。
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- 奇襲作戦!『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』ヲ浄化セヨ! ( No.790 )
- 日時: 2021/06/26 23:01
- 名前: 桜木霊歌 (ID: xIyfMsXL)
結果、優が選んだ人選は共に行動していた辰雄はもとより、彼の姉である霊歌、養父である龍之介、そして彼岸の詩の師匠である北原白秋だった。
優「色々といきなり頼んじゃってすみません」
白秋「気にしていないのだよ。弟子の作品を守りたいと思うのは当然なのだよ」
グリム「何かこいつと話してるとリドルと話してる気になるんだゾ・・・」
優「しー!分かるけどしー!」
そういえば白秋とリドルは中の人が同じだから・・・(白秋先生とリドルの中の人は両方とも花江夏樹さんです)
もしここにエースたちがいたら「はい寮長!」なんて言ってるだろうな、と考える。
白秋「それに、僕にとっては大切な弟子の作品だからね。消えてしまうには惜しい。そもそも、消えていい作品なんてこの世には無いのだよ」
龍之介(アルケミスト)「北原さんの意見はご最もです。それに、彼の作品は未来で平和の礎になっているからね」
霊歌(アルケミスト)「・・・」
辰雄「霊歌ちゃん?」
霊歌(アルケミスト)「龍先生、白秋さん、辰雄お兄さん・・・私、あの子が・・・優斗が詩人になってたなんて、知らなかったのです・・・」
グリム「は?知らなかったってどういうことなんだゾ!?」
優は霊歌(アルケミスト)の言葉を聞いてある事を思い出した。
それは、空渡彼岸が詩人として文壇に上がったのは姉である霊歌が亡くなった後だということだ。
本人は後のインタビューで『姉の死から詩に逃げるという形で現実逃避しているだけだ』と言っていた。
霊歌は一度彼岸の詩を聞いたことがあるが、その時には『空渡彼岸』の名前を使っておらず、彼岸が本格的なデビューを始める前に、彼岸の最初の詩を聞いた翌日・・・彼の誕生日である11月15日に肺結核で命を落とした。
優「だったら今回の潜書が終わった後に、この本読んであげてください!」
霊歌(アルケミスト)「そうですね。この子の・・・彼岸の想いの込められた詩、沢山読んであげないといけないのです。」
龍之介(アルケミスト)「それじゃあ、早く行こうか」
潜書室にある大きな機械に侵蝕された『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』を置くと同時に、本が浮かび上がって黒い靄と淡い金色の光を放つ。
全員が本に手をかざすと、眩い光に包まれて視界は一瞬で真っ白になった。
・とある場所にて
気がつくと、少年は電車の中で目を覚ました。
荷物も何も持たず、ただ単に無言で窓から見える景色を眺めている。
延々と続いているとしか思えない彼岸花の花が咲き乱れる花畑、プラネタリウムのような星空は星座に合わせて線が引かれており、それは1ミリのズレも無い。
延々と続く線路はここからでも見えている。
そして、遠くへ見える海は本当の星空のように美しく、反対側には大樹の生えている丘がこじんまりと見えた。
そして、座っている座席や壁は歯車のような意匠をあしらっている。
??(あれ・・・ここはどこだろう・・・?僕は一体・・・誰なの・・・?)
電車が駅で止まると、少年は無意識で電車から降りた。
少年はふと電車の窓に映る自分の姿を見る。
白いスタンドカラーシャツの上に赤と黒の麻の葉模様の着物と黒い袴という書生スタイルで、黒い編み上げのショートブーツを履いており、両手には黒い指ぬきグローブをはめて、首元には黒いマフラーを巻いている。
赤いリボンの巻かれた黒いカンカン帽には彼岸花の造花がつけられており、手元にはいつの間にか本を握っていた。
髪は黒檀のように真っ黒な黒髪で、くるぶしまでの長さの長髪を赤いリボンで1つにまとめていた。
・・・そして尚且、少年の背丈に赤い瞳、そして顔たちは間違いなく、もしもこの場に優がいれば彼と見間違えてしまうほど優そっくりだった。
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- 奇襲作戦!『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』ヲ浄化セヨ! ( No.791 )
- 日時: 2021/06/26 23:06
- 名前: 桜木霊歌 (ID: xIyfMsXL)
グリム「ふなあああああー!!!ちょっと変だけど何か綺麗な世界なんだゾー!!!!!」
優「えっへへー!そうでしょ!」
『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』に潜書したグリムはどこかワクワクしており、早くもこの世界にある儚げかつ美しい詩の世界に魅了されていた。
霊歌(アルケミスト)「綺麗・・・」
龍之介(アルケミスト)「星空の海に星座、彼岸花に歯車に大樹に電車・・・」
白秋「間違いなく彼岸くんの詩の世界を反映しているのだよ。」
優「ですよねー・・・」
その景色は優しくて美しいのに、どこか心を底冷えさせるかのような悲しさも混ざっている。
グリム「でも綺麗なのになんか悲しくなるんだゾ・・・」
優「歯車仕掛けのヴィーゲンリートは彼岸さんの・・・ひいお祖父様の思い出や世界平和への祈り、戦争をしている世界に対する皮肉もあったからね。例えばこれ・・・
『巡る巡る星は繰り返す。
きらきら輝く星は集まり星座になって空に照らされる。
星座が定められた形を描くように人も全てを定められるのか?
たとい大切な何かを失っても、その『何か』に変わることはできぬというのに』・・・この『星座』は赤紙が届いたり、戦死しても表立って悲しめない人たちの悲しみを代弁してるんだよ」
と言う事は空で輝き、一ミリも動かない星座はこの詩を元にしているということだ。
彼はまさに、戦争により表立って家族の死を悲しめない者達の悲しみをだれよりも理解し、それを詩という形で世間に代弁する代弁者とも言えるだろう。
文豪の中では誰よりも終戦と世界平和を切実に願っていた。
・・・それ故に、彼にとっては終戦するまでが毎日地獄だった。
息子は疎開で戦時中は家におらず、妻の琥羽は空襲の際に焼け死に、白秋や文(龍之介の妻)、比呂志や也寸志(この二人は龍之介の息子)などの本当に極一部の人間を除いた全ての者達に非国民と罵られ続けた。
そんな逆境を乗り越えたからこそ、文豪『空渡彼岸』があるのだと思える。
本人にとっては、たまったものではないだろうが・・・
霊歌(アルケミスト)「あの、白秋さん、龍先生」
龍之介(アルケミスト)「霊歌?」
白秋「?どうしたんだい?」
霊歌(アルケミスト)「あなた方が見た詩人だった頃のあの子は・・・彼岸はどんな詩人だったんですか?」
龍之介(アルケミスト)「ふふ、とても真面目で優しくて、素敵な詩人だったよ」
白秋「あぁ。君や芥川君が死んだ時には誰よりも悲しんでいた。毎年彼らの命日になると、彼岸君へいつもお墓で追悼の詩を読んでいたのだよ」
龍之介(アルケミスト)が思い出していたのは、霊歌(アルケミスト)の死から一年経った彼女の命日・・・基、彼岸の誕生日の時に彼は彼女の亡骸が納められている墓に龍之介(アルケミスト)と共に訪れていた。
彼岸「・・・『今宵の月はとてもきれいですね。
それなのに、月の周りで輝く星々は一つも見えやしない・・・
それは、あなたが星という存在だったからでしょうか?
それともあなたが星々を照らして輝かせる太陽だったからでしょうか?
どちらの理由でも構わない。僕にとってあなたが居ない世界は、星を失った悲しい夜同然なのだから』・・・お姉ちゃん、何で僕達を置いて逝っちゃったの・・・何で不治の病にかかっちゃったのぉ・・・」
龍之介(アルケミスト)「彼岸・・・」
龍之介(アルケミスト)が悲しんでいる彼岸にできることと言えば、肩に手を置いて、少しでも彼を慰めることだけだった。
・
グリム「ふなぁ・・・」
優「実体験となると、本当に悲しくなるなぁ・・・当時の彼岸さんにとって、霊歌さんは自身を救い出してくれた恩人で世界の全てだったんだから・・・」
グリム「俺様、もっと優を大事にするんだゾ・・・」
グリムは半泣きで優にしがみついている。
だが、そんな暇すら与えず侵蝕者が6人(5人と一匹)を取り囲む。
白秋「もっと弟子の事を話したかったけれど、この状況では難しそうなのだよ」
辰雄「じゃあ、早く終わらせましょう!」
そうして文豪たちは素早く自著を武器に変化させる。
優も導きの栞と空白の書を持ってすでに準備万端だ。
優「東雲仁、接続!」
まずは小手調べ。目立った長所も短所もない片手剣攻撃職である鬼の岡っ引きの仁に接続し、羊のような姿をした侵蝕者(不調の獣というらしい)に十手型の片手剣を振るう。
この不調の獣はヴィランで言うブギー・ヴィラン、マリオでいうクリボーと同じような立ち位置なのか、簡単に倒せる。
すると後ろからすごい轟音が響き、後ろを向くと、白秋がダブルバレットのショットガンを両手に一つずつ携えて、侵蝕者たちに向けて容赦なく撃ちはなっていた。
仁(優)「白秋さんどんな肩してんだよおい・・・」
グリム「どういうことなんだゾ?」
仁(優)「あの人が使ってる銃は両手で撃ったとしても、ほぼ間違いなく肩が脱臼する代物だ。それを白秋さんは水鉄砲のように二丁拳銃って形で使ってる。さすが国民詩人だな・・・」
グリム「関心してる場合じゃねーんだゾ・・・」
・とある場所にて
少年は侵蝕者たちに囲まれていた。
だが、それなのに少し冷静でどこか諦めのような憂いを帯びた瞳をしており、手にしていた本はいつの間にか黒と灰色を基調にしたリボルバー付の拳銃に変化しており、彼岸花のチャームがつけられていた。
無言で侵蝕者をヘッドショットしてゆき、とうとう周りにいた侵蝕者は影も形もなくなる。
??「何なんだろう、ここ・・・この変な羊さんや幽霊さんたちは何なのかな・・・?」
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- 奇襲作戦!『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』ヲ浄化セヨ! ( No.792 )
- 日時: 2021/06/26 23:11
- 名前: 桜木霊歌 (ID: xIyfMsXL)
優「そういえば白秋さん、龍之介さん、辰雄さん、僕ってひいお祖父様に・・・彼岸さんに似ていますか?」
龍之介(アルケミスト)「うん。確かにそっくりだね」
白秋「目元といい顔立ちといい、性格といい・・・まるで彼岸くんが別の人間として転生したような感じなのだよ」
辰雄「はい。彼岸くんも君も、献身的なのは変わらないからね。」
グリム「こいつこっちが心配になるほどお人好しなんだゾ」
白秋「彼岸くんも本当にそうだったのだよ・・・」
霊歌(アルケミスト)「そうだったのですか?あの子が優しいことは私も知っているのですが・・・」
辰雄「彼は本当に優しい子だったよ。しげじや多喜二さんと文通をしていたんだよ」
グリム「しげじ?たきじ?誰なんだゾ?」
辰雄の親しげな様子から、しげじという作家について考える。
たしか彼岸が文通をしていたのは、プロレタリアの文豪だった。
多喜二は恐らく小林多喜二のことだろう。
ということは、しげじというのは・・・
優「・・・もしかしてしげじさんって、中野重治さんの事ですか?」
辰雄「うん。優くんは彼らに賛同していて、似た境遇の彼らと自分を重ねていたみたいだからね」
・
辰雄が思い出していたのはとある日のこと。
辰雄は周りから非国民なんて罵られ、憔悴してしまっている彼岸を心配して彼の家訪れていた。
辰雄「彼岸くん、お邪魔します」
彼岸「あっ辰にぃ、どうぞ」
辰雄「・・・あれ?そのお手紙、どうしたの?もしかしてまた誹謗中傷の手紙が・・・?」
彼岸「いいえ、ちょっとある人との文通をしていて、返事が届いたんです」
隣からちらりと見ると、その汚い筆跡が自分のよく知る友人、中野重治のものだということに気がついた。
辰雄「あ、これしげじの字だ。ってことはプロレタリアの人たちと?」
彼岸「はい!彼らの文学はとても良いと思うんです。それに、この最中で苦しんでるのが僕だけじゃないんだって思えて・・・」
辰雄「彼岸くん・・・」
しかし、それはすぐに終わりを告げた、
プロレタリアは政府に弾圧され、プロレタリア文学を書いていた文豪の中では最も彼岸と仲の良かった小林多喜二は警察署で拷問されて獄死してしまった。
それでもなお重治や直との文通は続けていたが、それでも心の喪失感は満たされることはなかった。
・
優「そうだすっかり忘れてたけど文豪の中には凄惨な末路を辿った人や悲惨な過去を持つ人もいるんだった・・・」
グリム「それで平気そうに分析できる優が逆にすごいんだゾ・・・」
優「文句諸々は全部オブラ・ディン号とメメント・モーテムに言って!あの経験のせいでつけたくもなかったグロ耐性が大幅についちゃったんだよ!!!!!」(きらびやかな日常『優の苦労日記』参照>>763-766)
その言葉を聞いてグリムは心の中で『オブラ・ディン号のバカヤロー!』と叫んだ。
その言葉を聞いて、辰雄と霊歌(アルケミスト)は、そういえばそんなことを言っていたなと思い出す。
辰雄「な、なんだろう・・・知りたくないけど知りたいっていう矛盾した気持ちが・・・」
龍之介(アルケミスト)「僕は気になるな〜」
優「多喜二さんの拷問並にエグいものばかりでしたよ?クラーケンに体を器用と言わんばかりに半分に切断されたり、大砲でふっ飛ばされたせいで頭が無くなっていたり、人魚の尾に強打されたり、大きな蟹さんに乗った人の姿をした何かに首を撥ねられた人が「少しばかりエグいし堀くんと霊歌ちゃんも怯えてしまっているのだよ」あっはいすみません」
龍之介(アルケミスト)「たっちゃんこと霊歌から色々聞いていたけど、ここまでなの・・・?」
霊歌(アルケミスト)「何故ここまで彼岸の曾孫が人生ハードモードなのですかぁ・・・」(´;ω;`)
彼岸は戦時中はかなり苦労していた。
その苦労人気質は、曾孫である優にも受け継がれてしまっているようだ。
だが、ここまでグロい話題を提供できるほどメンタルとグロ耐性が上がるものなのか・・・?
龍之介(アルケミスト)はこうして自ら話題提供してしまったことは今後ないと、後悔してしまったのは言うまでもない。
・とある場所にて
少年は訳も分からないまま、自分の持つ拳銃で侵蝕者たちを倒してゆく。
??「おかしいよ・・・僕、ここに来るのは初めてのはずなのに、ここを知ってる・・・?」
何体目か分からない侵蝕者を倒すと、その侵蝕者は奇妙な歯車を落とす。
??「あれ?こんなの今まで倒してきた羊さんたちは落とさなかったのに・・・!?」
奇妙な歯車に触れた瞬間に少年の頭を強烈な頭痛が襲う。
そして、様々な記憶が少年の脳裏に浮かび上がるを
数多もの辛い記憶、それでもその中にあった優しく楽しかった記憶・・・
そして、今まで忘れていた自分の名前と持っていた本の題名を思い出した。
??→彼岸「そうだ・・・僕は・・・僕の名前は時ノ小路優斗・・・詩人、空渡彼岸だ・・・そして、この本は僕が戦時中に出した詩集、『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』だ・・・」
そして全てを思い出した少年・・・基、彼岸の目一杯の涙が浮かぶ。
その涙のダムは、もう決壊してもおかしくないほど溢れ出しそうになっている。
彼岸「僕のバカ・・・何で何もかもを忘れていたの!?龍之介先生に白秋先生に朔にぃと犀にぃ、重治さんに多喜二さんに直さんに辰にぃの・・・それに何より、大好きな霊歌お姉ちゃんの事も・・・!」
決壊してしまった涙はそう簡単には止まらない。
なぜそんな大切な人達の存在を忘れてしまっていたのか、そんな罪悪感が容赦なく彼岸の心にのしかかる。
彼岸「ごめんなさい、ごめんなさい・・・僕はやっぱり、守られてばかりの駄目な人間なんだ・・・」
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- 奇襲作戦!『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』ヲ浄化セヨ! ( No.793 )
- 日時: 2021/06/26 23:16
- 名前: 桜木霊歌 (ID: pGxW5X.O)
優たちは侵蝕者を狩りつつ、彼岸を探している。
だが、優とグリムはどこか悲しい気持ちになる。
恐らく、この詩を書いたときの彼岸の気持ちにそのまま引っ張られているのだろう
グリム「何だか悲しい気持ちになるんだゾ・・・」
優「たしか館長が言ってたよ・・・文豪以外の存在も潜書はできるようになったけれど、文豪以外は侵蝕の影響で侵蝕された作品が書かれた当時の文豪の気持ちに引っ張られるって・・・」
ここ(桜木side)の図書館は文豪以外も潜書ができる。
だが、その分デメリットがある。
その一例は優が言っていた気持ちに引っ張られること。
文豪たちは意思が強く、相当侵蝕が進まない限りは作品を書いていた当時の気持ちに引っ張られることはない。
だが、文豪以外はその限りではない。
普通の人間であれば僅かな侵蝕でも、侵蝕された物語を書いていた当時の文豪につられやすくなる。
具体的に例えるなら、楽しい気持ちで描かれた物語であれば明るい気持ちになる。
だが、この『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』は戦時中の作品。
さらには楽しかった頃の思い出をもとにした詩、戦時中の日本を皮肉った詩、大切な者たちの死を憂いだ追悼の詩、さらには非国民と罵られた際の悲しみを唄った詩もある。
その為、ここに潜書する際には気分が高揚したり、逆に悲しくなって戦意喪失するというあべこべな気持ちになる。
優はまだ耐性はあるようだが、グリムは思いっきりこの詩を書いていた時の彼岸の気持ちに当てられたようだ。
霊歌(アルケミスト)「にしても、彼岸はどこにいるのですか・・・?早く見つけてあげないとなのです!」
龍之介(アルケミスト)「あの子を1人にした責任もあるからね」
そういえば空渡彼岸は川端康成と並ぶレベルの『葬式の名人』と呼ばれていた人物だ。
最初は霊歌、次に龍之介、白秋に朔太郎、犀星、寛に康成と親しくしていたり慕っていた文豪に先立たれた経験がある。
その為、彼の孫である優の父親から彼が生きていた頃の事を聞いたことがあるが、優の父親曰く、『僕を一人にしないでほしい』と口癖のように言っていたらしい。
もしも彼を転生される事ができれば、もっと彼の事を知るきっかけになれば嬉しい。
ふと遠くを見ると、侵蝕者が群がっているのが見える
霊歌(アルケミスト)「・・・もしかして・・・」
白秋「可能性は高いのだよ」
そこに行くと、一人の優そっくりの少年が戸惑いながらも銃を持って侵蝕者と戦っているのが見える。
その少年が空渡彼岸だということは、目に見えてわかる。
彼岸「やだ・・・怖いよぉ・・・!」
後ろから不調の獣が彼岸を攻撃しようとする、とっさに気がつくが、躱し切ることはできない。
咄嗟に目を閉じて伏せる。・・・だが、彼岸が予想していた衝撃はこない。
ゆっくりと目を開けると、会いたくてやまなかった龍之介と辰雄の姿が刀を構えて攻撃を防いでいるのが彼岸の目に入る。
彼岸「龍之介先生、辰にぃ・・・!?どうして・・・!!?」
疑問を挟んでいると後ろから銃声が響き、囲んでいた侵蝕者はほとんど姿を消した。
白秋「全く・・・本当に手のかかる弟子なのだよ」
霊歌(アルケミスト)「彼岸!大丈夫なの!?」
彼岸「お姉ちゃんに、白秋先生まで・・・!?何で、本当にどうして・・・!?」
優「具体的な説明はあとです!今は侵蝕者を倒すことを優先してください!」
彼岸「え!?僕そっくり!!?え、は、はいぃ!!!?」
知らず知らずのうちに空は赤く染まり、人の姿を取った侵蝕者が現れる。
館長は人の姿をした侵蝕者はボスらしい。
杖を持った少年の姿をした侵蝕者・・・渾淆装の少年は容赦なくその杖を振るうが、軽々と躱してみせる。
霊歌(アルケミスト)「彼岸、待たせてごめんなさい」
彼岸「お姉ちゃん・・・何でここに・・・そもそも僕もお姉ちゃんも、先生方も皆死んだはずじゃ・・・!」
記憶も感情も何もかもあやふやな彼岸は、訳もわからず慌てふためいている。
グリム「えぇい!コイツラしつこいんだゾ!喰らえー!」
そう言ってグリムは炎を吹き出す。
その様子を見た優は『ここは本の世界だから、それは冷静に考えればその行動は彼岸の本に火をつけてるんじゃないのか・・・?』といった妙な方向性の事を考えていた。
霊歌(アルケミスト)「そうだね。私は肺結核で、あなたは優くんから聞いたけど老衰で死んだの。詳しい説明は後でするなの。だから彼岸、一緒にやるの!」
彼岸「・・・!うん、お姉ちゃん!」
そうして、二人は銃を渾淆装の少年に向けて構える。
霊歌(アルケミスト)「彼岸、一緒に行くなの!」
彼岸「お姉ちゃん!先走らないで!」
『双筆神髄』・・・語り部の想区の住民達が使う『心接続』の文豪バージョンをまともにくらった渾淆装の少年は断末魔を上げて消滅する。
それと同時に周りは暖かな黄金の光に包まれる。
浄化が成功した証だ。
彼岸「お姉ちゃん・・・」
霊歌(アルケミスト)「大丈夫なの。すぐに会えるからね」
彼岸「じゃあお姉ちゃん。手を繋いでほしいな・・・」
そう言って、霊歌(アルケミスト)に向かって手を伸ばす
霊歌(アルケミスト)「もちろんなの」
完全に光りに包まれて図書館に帰還するまでの間、霊歌(アルケミスト)は彼岸の手を一切離すことをしなかった。
そして再び目を覚ましたのは本の世界に入る前に来た潜書室であり、機械の上で光を放つ『歯車仕掛けのヴィーゲンリート』は元通りの色に戻っていた。
館長「今回は浄化、お疲れだった。いきなり大変な仕事を君に任せてしまったな」
優「いえいえ。自分から望んだことですから。それに、ひいお祖父様には今度こそ幸せな未来を進んでいただきたいし・・・」
グリム「ほんとそういうとこのんだゾ・・・」
館長室で事の顛末を話し終えた優は、グリムと共に中庭へ訪れていた。
そこで見たのは、ベンチで互いに寄りかかって眠っている霊歌(アルケミスト)と彼岸の姿をだった。
優「ふふっ」
そうして、優はどこからか持ってきたブランケットを二人にかけてそのまま図書館へとグリムと共に戻るのだった
感想OKです!