二次創作小説(新・総合)

Re: 目を瞑る話【カゲプロ】 ( No.1 )
日時: 2022/09/29 05:37
名前: むう (ID: Gl8CGjD8)


 「第1話 買い物」

 〈シンタローsaid〉

 「お兄ちゃんー!! ちょっとこれ買ってきてくれないかな?」

 九月末の涼しい日の午後、アジトのソファに寝そべっていたオレに、妹のモモが話しかけてきた。
 相変わらず『阿吽』と印刷された桃色のパーカーを着ている。

 毎回おもうんだが、それどこで売ってるんだろう? 
 可愛い…のかわからないが、こいつは気に入っているようだ。
 阿吽。阿吽なあ……うーん、オシャレは難しいってことにしとこう。

「買い物?」
「うわ、何その嫌そうな顔」
 
 顔をしかめたオレを見て、モモは口を曲げた。
 露骨な態度に、こちらもムッと下唇を突き出して見せる。

「オレ、今起きたとこなんですけど?」
「そうだね、すごい寝癖」
「大体自分で行けばいいだろ?」

 起きてすぐの人間に、お遣いを頼む奴があるか。
 今のこの服装をわかっているのかお前は?? 完全にパジャマだぞ?
 
 いや、それより前に『おはよう』だろう。
 まあ、今の時間だと『こんにちは』になるのか?
 ただ、「うお、寝てた」と我に帰ると同時にエコバッグを突き出されるこっちの気持ちも、もう少し考えてほしい。

「……お兄ちゃん、行って」
「なんでだよ。なぜそこまで俺にこだわる」

 セトはバイト、マリーは体力面から候補に入れないとして、
 キドもセトも今日はいるし、なんなら、あの忌々しき疫病神・榎本だって来ていたはずだ。
 彼らに頼めば、快く引き受けてくれるだろうに。

「キドさんは料理中だし、エネちゃんはゲームしてるし……カノさんは寝てるし」
「待て待て!! 榎本とカノはどう考えても暇だろそれは!!」

 モモ、なんでお前はそのメンツであの2人を選ばない!??
 ゲームやテレビをやってるってことは、絶対時間あるだろあいつら。

 

 ほら、今も遠くの方から『わははは』とか、『くっそおおお』とか、漏れてきてるし。

 

「『今忙しい』って」
「それただの言い訳だから!! お前が行けよ! 寝癖ボサボサのまま行ったら、オレの人生が更に黒に染まるぞ!」
「それは元からじゃ……はああ、やっぱ無理かあ」

 論破され、言い返せなくなったモモは、ぽりぽりと頭をかいた。
 ははは…と便りない苦笑いを浮かべている。

「実は、課題の再提出があって…それも5教科分……だから片付けないといけないの……だからごめんけど…」

 思ったより切羽詰まった状況だった。
 5教科分って……お前、そもそも勉強すらしてねえだろ……。
 知ってるぞ、3週間前の前期試験の生物の点数。3点という信じられない点数を取って帰ったことを。


「ま、まあ、そういうことなら。本当に大丈夫かお前。このままだと退学になるぞ」
「おっかしいなあ。仕事も辞めたし、ちゃんと授業受けてるのになあ」

 何がおかしい? みたいな言い方をするな。
 完全に自分の行いが原因だろ。
 

 と、エプロン姿の団長キドが、台所の奥から顔を覗かせた。
 その横には、オレと同じく惰眠を貪っていたらしい猫目の男もいた。

「すまんなシンタロー。夕飯の支度が終わってなくてな。
 キサラギもかなり忙しいようだから引き受けてくれないか。
 勿論カノとエネは俺の手伝いだ」

「え!?」「おおキドおおい!!」

 オレの感動の声と、カノの悲鳴がピッタリと重なった。

 流石は団長、話がわかる。
 キドと2人でうんうんと頷く。働かざる者食うべからず、だ。
 ゴロゴロしてた奴は当然、後々雑用をやる羽目になる。
 そういうことだ、ふふふ。

「うわ、シンタロー君がニヤついてる」
「いつものことですよ」

 おいおいおい待て待て待て。
 誤解を生むような言い訳をするんじゃない。
 そうだ、オレは決していかがわしいものなど試聴していないから!! 本当だから!! 
 う、嘘とか言うな!!

「ということで、これメモと財布ね。よろしく!」
「あー、ハイハイ………」
 

 眠い。寝たい。
 たが、起きてしまったので仕方ない。

 受け取ったメモと財布をバッグに入れて、とりあえず風呂に入って汗を流す。
 寝癖も治り、さっぱりしたところで、俺はアジトの扉を開けて外にとびだした。


 …………………………


「あ、し、シンタロー行っちゃったの……?」
「おうマリー。 なんだ、やけに慌てて」

 シンタローが買い物に出てすぐ、奥の部屋がバンッと開け放たれた。
 部屋の主…マリーは、キョロキョロと辺りを見回す。

 ど、どうしよう……。
 あれがないとシンタロー、きっと大変なことになっちゃうよ……。

 だ、大丈夫なのかな……。
 
 ゆっくりち後ろを振り返る。
 テーブルにぽつんと置かれた白いイヤホン。
 彼がお出かけに行く時に、いつも持って行ってたもの。


「シンタロー……イヤホン忘れてるよ……!!」