二次創作小説(新・総合)

Re: 目を瞑る話【カゲプロ】 ( No.2 )
日時: 2022/09/29 23:04
名前: むう (ID: Gl8CGjD8)

 そんなこんなでオレは、とりあえず近くのデパートへ向かった。
 あそこなら色んな店舗があるし、品物の種類も豊富だ。
 いちいち店と店を行き来する手間もない。

 ただ、そういうでっかい場所には当然人も沢山いるわけだ。
 なんと、間の悪いことに今日はイベントがやっているらしく、そのせいで人の波がいつもよりも大きい。

 なんとか避けながら進むも、1人、また1人と増えていく。
 オレはふらふらのヘトヘトになりつつも、大通りを抜けて人通りの少ないトイレ脇に移動する。

 「はあ………………疲れた……」

 まだ買い物の一つも済ませてないのに、全身が痛い。
 これが二年にも及ぶ引きこもりの結果だと思うと、余計惨めな気持ちになる。

 「イベントっつったか。何やってんだろ…」

 なんとなく気になって、袋の中に入れていた携帯の電源を入れようと、ボタンに手を伸ばす。
 あんなに人が来るようなイベント、なんかあったっけ。
 有名な歌手とかが公演に来るのだろうか?

 ポチ。
 
 …………………………こんな余計なこと、しなければ良かった。
 画面いっぱいに広がった青色を視界に捉え、俺は頭を抱える。

 ニヤアと意地悪い笑みを浮かべているそいつは、液晶画面を自身のドアップ顔面で占領していた。
 目が合うと、彼女は身を乗り出し、

「いやいやいやあ、いい天気ですねえご主人!! 
 涼しくなりましたし、過ごしやすい絶好のお出かけ日和ではないですか!!
 まあご主人のことでしょうから自分から『わーいお散歩してこよー』とはならないと思いますが、
 何せこの超絶プリティスマイル……ご主人?」

 真顔で電源を切ろうとしたオレに、顔をこわばらせる。
 

「ちょっと!? 何してるんですか!!」
「こっちのセリフだ! なんでいるんだよ、ゲームは!??」

 オレが尋ねると、エネは慌てるどころか「よくぞ聞いてくれました!」と更にニコニコと話を続けた。
 

「そうそう、今日実は新しいゲームの発売日なんですよ!! 
 レビュー評価も高くて映像も綺麗で、おまけに、なんと、制作秘話が詰め込まれた特典DVDが付いてくるんです!」

 などと早口でまくし立てる彼女の言葉に熱がこもる。
 それだけ、発売日という事実が嬉しいんだろう。
 確かに聞いた話、面白そうではある。
 特典も豪華だし、ゲーム通のこいつが絶賛するくらいだから、内容もきっと濃いやつだ。


 ただ、だ。
 オレが買い物に行くと同時に、スマホの中に忍び込んだということは……。
 
「どうですか〜ご主人!! いつも頑張っているこの私に」
「買わねえからな」

 即答。
 バッサリと切り捨てたオレに、エネは一瞬唖然としたが、直後普段の調子に戻ってパーカーの裾を口に当てた。

「またまたあ。隠さなくていいですよ。高画質・高品質・高評価の商品に期待を抱くのは当然じゃありませんか!」
「買わねえ。金がないのを知らないわけじゃないだろお前も。こっちは買い物に来てんだよ」

 ぷうう。ふくれっつらでそっぽを向くエネ。
 気持ちはわからないでもないが、あいにくほしいものをホイホイ買い与えるような性格ではないのでしょうがない。

 さて、こんな茶番も終わりにして、とっとと用事を済ませなければ。
 モモにもらった買い物のメモを確認する。

 暗号のようにも、異国の言語のようにもとれる文字の羅列。
 数十年間一緒に過ごしてきたのでなんとか読めるが、率直な感想は字が汚い。
 もしかして、テストの点が取れないのはこの字の下手さが関係してんじゃねえか?


「えーっと。玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもにトマト、カレールー」
「おおっ、いいですね! カレーですよ! 老若男女みんな大好きなあの食べ物!!」

 今日の夕飯はカレーか。
 やばい、よだれが垂れてきた。こりゃ箸が進みそうだな、流石キド。
 
「後は、おシルコーラとあたりめと、カレイ……」
「カレイ!??」

 ああそうだ、あの妹のことだ。
 自分のおやつを買い物リストに加えることなど平気でやるだろう。

 そして多分横にはマリーがいたな。
 大方、カレーをカレイと間違えて、「じゃあカレイもいりそうだね!」とかモモにいったんだろう。
 
 何この、某名探偵みたいな推理。

「コーラとあたりめは、まあ、いいとして、カレイなんてどこで売ってるんでしょうね!」
「ここにはないのは間違いないな」

 とりあえず、カレイは買わなくていいよな…と、シャーペンで線をひこうとして、手を止める。
 純粋で、世界に無知なマリーのことだ、
 『カレイがないとカレーできないよ…!! なんで買ってきてくれなかったの……?」なんて怒られたら、どうする。

 下手に言い訳して、彼女を不快にするのもアレだし、事実を上手く伝えようにもコミュ力の欠片もない。
 なにをしても相手を泣かせてしまうそうだ……。

「お、終わった後に八百屋とか行って、カレイ買ってみるか……」
「ええええ!?? ご主人、カレーの材料買った後にカレイを……あれ?? カレー…あれ?」

 簡単な言葉遊びに引っかかっているエネに、フッとオレは笑う。
 ええっとまとめると、

 カレーの材料、モモのお菓子、カレイ。

「ん?? え、っと、カレーがカレイで?? えっと……」
「ご主人!?? 惑わされないでください!! 買うのはカレーとお菓子とカレーですよ…あれ??」

 ああダメだ。あいつらのせいで、18歳のお使いが初めてのお使いまでランクダウンしそうだ。
 落ち着け、如月シンタロー。とりあえず買うのは……。


「ご主人しっかりしてください!! とりあえずお菓子から先買いましょう、ね!! 
 そのあとは、野菜と魚です!もうこれで行きましょう!」

 なんだろう、こいつにフォローされるのがなんだか釈然としないな。