二次創作小説(新・総合)

chapter1 ノエロコリ ( No.25 )
日時: 2023/01/24 11:50
名前: アルズ (ID: 9s66RooU)

『キーンコーンカーンコーン…』


『希望ヶ峰学園学園長からお知らせいたします!
オマエラ、朝の7時ですよ! 本日も学生の本分を忘れぬよう努めましょう!』




アナウンスで目が覚める。
夢見は悪くなかった。
というより夢を見ることがなかった。
本来、夢は見ていてそれをそのまま忘れているだけ、とも言うことを友人に聞いたことがある気がする。
あの子、今はどうしているのかな…。

ううん。考えてたらここから出る…つまるところ『コロシアイ』に加担するということになってしまう…。
なので考えないことにする。
申し訳…ないけれども…。

着替えてマフラーを巻き、私は廊下を出て、食堂へと向かう。











「おはよう、みんな。」

「おはよー!」
「おはようございます。」
「おはようございます文月さん。今日もお早いですね。」
「詩乃早いねー!おはよう!」
「おはよう。」
「…おはよう、ございます…。」

私が着くと、私より支度が早く、早く起きた人たちが挨拶を交わしてくれる。
一ノ瀬君、泉君、牧里さん、野々坂さん、柚月君、諏訪野さん…。
この子たちはその括りの人のようだ。






「おはよ。」
「おはよう。君達は早いな。」
「おはようー! みんな早いなぁー…。」
「おっはよ~~!!」
「…おはよう。」

葉奈君、レイラさん、小深山さん、豊馬さん、漆間君がやってきた。
この子たちは私と同じ、アナウンスを聞いて起きて支度してきた子なのだろう。
時拙すれ違ったりした子もいた。
…一緒に行けばよかったかなぁ?








「はよー…。はぁ~~…ねみぃわ…。」
「おはよう~~。」
「…おはよう。」

梶浦君、戸田君、月村君が少し遅れてやってきた。
この子たちは少し朝に弱いのかもしれない。
梶浦君に関しては睡眠欲を抑えきれないのかああ言っているし、戸田君は目をこすって眠気に耐えている。

「…久遠、もう少しちゃんと歩いてくれ。」
「ん~~…。」

“久遠”という…そう、戸田君の名前を呼び、親しそうに話している。
戸田君はそれを受け入れ、頷いている。
あぁ、仲良くなったのだなぁ…と、私は瞬時に察した。
『超高校級のゲームマスター』、『超高校級のカードゲーマー』…趣味はあっているし、戸田君自身穏やかでおっとりしている。
月村君としても、付き合いやすいのだろう。 現に少し、私たちと話すより話しやすそうにしているように見えた。


「あ、みんな来てる来てるー!おっはよー!
ご飯できたからみんな食べてー!」

と、天宮さんが厨房から出てそうみんなに言う。
みんな待ってましたと言わんばかりに思い思いに自分の食事を持って行く。
もちろん私もその一人だ。 今日もご飯がおいしそうで何よりである。
考えてみたら、天宮さんは何時ここにきてご飯を作って並べているのだろうか。
やっぱり私より早く来てる子たちと同じタイミングで来ているのかな。
そう思いながら「いただきます」と手を合わせ、朝食をいただく。

…美味しい…。

毎日こんな美味しいものを食べられるなんて幸せだ…。
と、思っていた時だった。





「みんな、おはようございます!」

白黒のツートンカラー、可愛らしいデザインと禍々しいデザインを両立させている独特な熊…。
そう、モノクマが普通に食堂に入ってきてこういった。

「モノクマじゃねぇか。お前の飯はないからな!」
「ひどい…! 今日はみんなのために特別でいいものを持ってきたのに…!」
「というか物を食べられるの?」

数々の疑問が飛び交う中、彼は気になることを口にした。

「…いいものって?」

私がそう言うと、モノクマは待ってましたと言わんばかりにニヤリとし、独特の声音で喋り出す。

「よくぞ聞いてくれました!

…みんな仲良くしてて全然コロシアイしてくれないから、なんでだろうって思ってたの。
でもボク、わかっちゃったのです…! この空間、状況…足りないものがなんなのか!





そう、“動機”だよね…!」

と、言うと彼はドサッと何かを置く。
それは段ボール箱のようで、中からカチャカチャとプラスチックかガラスが当たる音がした。

「なんでしょうこれ…。」

と泉君が開いたそこには…

「…D、VD…?」

そう。DVDが入っていた。
ケースには各々名前が書いており、全部で16個ある。

「視聴覚室、開いてるからぜひぜひ見て頂戴な。
ではみんな、素敵なコロシアイを過ごしてね!」

そう言うとモノクマは姿を消す。
動機…そう言われたものは、段ボール箱…から泉君が出して確認したもの以外箱に収まっている。
泉君が取り出したものは、因果か何か…泉君自身のものだった。

「どうしましょうこれ…。」

彼自身も“それ”をどうしようかわかっていないらしく、手に余らせている。
おろおろしている様子は、私たちが今置かれている状態と同じだった。

「…見てみよう。」

私がそう言うと、みんなはバッとこちらを見た。

「詩乃ちゃん本気か!?」
「…でも、これどうしようかわからないなら見たほうがいいよ…。」
「モノクマに渡されたものだよ!? 碌なものじゃないって!」
「確かにそうかも知れない…。」
「それでも…」
「見ようよ。この状況を乗り越えるためにも…。」


そう言うと、皆は自分たちのDVDを箱から取り出し、視聴覚室へと向かっていった。
無論私も。













視聴覚室にたどり着くと、みんなモニターを付け、機械にDVDを吸い込ませる。
私もそうした。



そして、起動する。






『あー…、あー…、聞こえているか?』


教室の一室で酷く目つきの悪い、不愛想で、無表情の男の子がマイクテストをしている。

『うん、聞こえているようだな。
希望ヶ峰学園、入学おめでとう。 自分の事のように誇らしい…って言っちゃ嘘になるな…。 俺、少しお前に嫉妬している。』

中学からずっと一緒だった私の友達。
その友達は冗談交じりで本心を露にすると、苦笑いを零した。

『まぁ、なんだろう。 嬉しいのは本当だし、誇らしいのも本当だ。
だからさ…、頑張れよな。』

無愛想だった、無表情だった、その表情は苦笑いからふわりとした愛想のいい笑顔になる。

『あとさ、俺、お前に言いたいことあって…』





と、言った直後だった。






…砂嵐。





彼のいた教室は悲惨な状況へと変貌した。
教室は殺人鬼が襲ってきたかのように、荒らされておりどこを見ても無事な個所を見ようとしてもそんなところはなかったようだった。
それを見せつけるかのように、ボロボロの状態で倒れ伏していた。
壁にもたれかかる様にして倒れており、血が滲むように制服が濡れているのがそこにあった。

『ヒュー…ヒュー…』

そう微かな息がされているのが耳をすませば聞こえる。
生きている…が、生きていることが奇跡的なものだった。



『文月 詩乃さん、貴女のお友達の安否はどうなるのでしょうか!?
生きてる? 死んでる?

その気になる結果は――――――――――卒業の後で!!』



そうふざけた声音が聞こえた後、プツリとその画面は閉じた。











「へ…? なにこれ…?
なにこれ!?」
「…嘘だ…。信じないぞ…!?」

みんなはそのビデオの内容に驚いたようで、椅子が倒れる勢いで立ち上がる子が多かった。
私は、呆然とそのビデオを見ていたのがわかっている。
わかっていた、というより…わかりづらかった。
わからなかった。私の大事な友達が…あの子が…、死んでしまっている可能性があるのだから…。
頭がそれだけを支配する。






「出ないと…ここから…出ないと…」





そう呟かれた、声が聞こえた。









「そうだ! ここから出ないと!
家族が…家族が…!!!」
「お父さん…! お父さん…!!」
「いけません皆さん!! 落ち着いてください!!
こんなの、大嘘に決まっています!」

泉君がそう声を張る。
それを言われて私はハッとする。
…こんな状況に落とし込んだのは私じゃなかったっけ…。
そう思うと見てしまった友達の惨状をいったん忘れ、立ち上がった。

「そうだよ! こんなの嘘だよ!!
だからみんな落ち着いて…!」


「落ち着いて、くださいだって~~??
でもさ、この光景は“本物”か“嘘”かは今のオマエラにはわからないことだよね?」

と、モノクマが割り込む。
いつの間に入り込んだのだろう。その疑問をぶつける前に彼は言葉を続ける。

「そのための『絶望』! そのための『動機』!!
オマエラの絶望だけがボクの生きがい…!


さあ、オマエラ思うようにやっちゃえよ! 思う存分殺しちゃえよ!


ここは、秩序も倫理観も捨てれる“ボクの希望の学園”なんだよ!!」




高らかにそう言った。


何も考えられなくなった。


みんな、言葉を失った。




「じゃあ、オマエラ好きにしていってね。
頑張って殺しちゃってねー!」



と、モノクマは言いたい放題言って消えていった。



「…私は少し、頭を冷やしてくる。」
「あたしも…。ごめん…。」
「私も…失礼します…。」

と、続々と彼ら彼女らは視聴覚室から出て行った。
みんなのその顔は青ざめており、誰もかもその“動機”に頭を悩まされていた。


「ぁ…。」



引き留めようとして出なかった私のか細い声は視聴覚室に響き渡ることなく、みんなの歩く音がその声をかき消した。

この場に残ったのは私と、柚月君と、泉君と、戸田君、月村君、豊馬さんだけだった。

「ねぇ、みんな大丈夫~?
…な訳ないよね~…。」

戸田君のその言葉に皆俯く。

「…僕、どうすることもできませんでした…。」

泉君はこんな状況でもみんなのことを考えてくれている。
…だというのに私は…。

「私、やめとけばよかった…。あんなこと、言わなきゃよかった…。
どうしよう…これでみんなコロシアイを…誰かが誰かを殺すなんて状況になったら…。」

目頭が熱くなってぽろぽろと涙があふれてくる。
ぽたりと床を濡らせば、柚月君が近づいてきて、泣いている私の背中をさすりながら

「…、文月さんが言わなくても、みんな…見ていたと思うよ…。
あんなこと言われたら、嫌な予感がしても、見たくなってくるだろうし…」

と、諭してくれた。

「んでさ、ぶっちゃけ聞くけどみんな何写ってた?」
「…嘘だろ…。こんな状況で聞くのか…?」
「気になるでしょ? 」
「…どうしても言わなきゃダメ?
私、思い出したくもないよ…。」

そう言えば、豊馬さんは「仕方ないかぁ」と言いながら椅子を動かし、立ち上がる。

「どこ行くんですか?」
「漆間君のとこ~~。じゃあね~~。」

彼女は今までのことを気にもしないような形で出て行った。
…そう、本当に気にもしていないような感じで…。

「強いなぁ…。」
「あれは無神経っていうんだよ~。
…ともかく、ここにいても始まらないよ~。
俺達も、出て頭冷やそう。」

真面目な顔の彼にそう言われ、その通りに身体を動かす。
柚月君に支えられ、私は自室へと戻り布団へと身体を沈めたのだった。