二次創作小説(新・総合)
- chapter0 プロローグ ( No.8 )
- 日時: 2023/01/04 08:00
- 名前: アルズ (ID: 9s66RooU)
私は戸田君と別れた後、一際顔が良い…良い意味で目立つ二人に近づいた。
片方は、ヘビーピンク色っていうのかな…? 薄い赤、けれど灰色が混じってるような、彩度の低い髪をした男の子。
片方は、深い青色をした髪をポニーテールにまとめている、背の高い女の子。
女の子の方は近づく私に近づき、男の子にポンポン、と肩を叩く。
「漆間!僕たちの番だよ!
こうやってペチャクチャ話してる場合じゃないよ!ほら、漆間から挨拶して!」
「…オレから?
…無理。豊馬から話して。」
「んと、口を挟んで悪いけど…二人とも同じ学校から来てたりする?」
と居ても立っても居られず、気になったことを聞いてしまった。
よく聞いて、その会話の用量を上手くまとめて、その答えを出すのが私の癖でもあったのだが…。
二人の会話に口を挟んでしまったことにむむ、とマフラーに口を隠してもごもごしていると
「そうだよ!コンピューター関係の学校でね!
そこから漆間の凄さを知って近づいたって感じ~!」
「…豊馬が勝手に絡んでくるんだ。」
「そうなんだ! 仲が良いっていいことだよ!
漆間君、だっけ?あまり邪険しちゃだめだよ。照れててもね!」
「…違う。」
む、とそっぽを向く彼。
それに気にもせず、彼の肩を掴む彼女の肝はすごく座ってると思う。
「遅れちゃったね!
僕は豊馬 羽衣!ちょ~~可愛い~~~超絶天才!!
皆が絶賛する、疎むレベルで人生勝ち組!“超高校級のオペレーター”だよ!」
「…やめろ。その言い方。腹立つ。
…オレは漆間 亘です。“超高校級のシステムエンジニア”、やってます。
…豊馬の言うことは気にしなくていい。聞くだけで人生の無駄だから。」
「いけず!!」
超高校級のオペレーター。
高校生という若さで様々な企業と組み、そのシステムの管理を牛耳る…いわゆるITオペレーター。
彼女の運用するホストコンピューターは一度も不備は起こしたことがなく、そのため“絶対に安全で安心に運用できる”とその業界では絶対的信頼をおいている。
硬そうな雰囲気かな、と思ったけど、非常に元気のいい彼女を見るとそうではないと安心して言い切れる。
一方、超高校級のシステムエンジニア。
とある企業の非常な無茶なニーズの仕事をいとも簡単にこなして、完璧なハードウェアとソフトウェア開発をこなしたその手の天才。
またの名を“超高校級のエンジニア”。
コンピューターに関することなら何でもできると本人でも豪語できる…みたい。
改めてすごい人と対面しちゃったなぁ…。
それにしてもこの二人、とっても仲が良いなぁ…。
私も友達は多かったけど、異性の友達でここまで打ち明けられているっていなかったし…。
年下に一応いたけれど、彼は多分先輩後輩だと思ってる…と思ってる。
と、私の身の上話はいいんだった。
「お二人って付き合ってるんですか?」
口走ってしまった。
やばい、と口をマフラーで隠すと豊馬さんは“ぱああ”っと明るくなって
「漆間~、僕達、カップルに見えるって~~!
付き合う~~!?」
「死ね。」
「ひどい!」
苦笑して彼、彼女のやり取りを見る。
異性を超えた親友って感じ。私からしたら、壁なく友達として接することができるの、すごいと思う…。
まあ、軽口の暴言はよくないと思うけれど…。
苦笑いしながら他の子に挨拶してくるね。と二人に言うと豊馬さんは笑顔で送り出してくれた。
漆間君は軽く手を振っただけだけど…。
次に私は、コック帽を被った可愛らしい子に声をかけることにした。
近づいた瞬間、彼女はにこっと微笑み
「初めまして!」
と声をかけてくれた。
「初めまして。文月 詩乃です。
えーっと…。」
「私、天宮 苺!“超高校級のパティシエール”なんだよ! よろしくね!」
彼女は教えてくれた通り、“超高校級のパティシエール”。
実は私、調べる前から彼女のお菓子についてニュースで色々と知っていたのだ。
若いながら色んなコンクールで金賞を取ったとか、世間は色々と囃し立てていたから…。
調べた今、わかっていることは今ではたくさんのパティシエやパティシエールが彼女に弟子入りを希望するほど有名で腕のいいパティシエールということ。
嗚呼…私も食べてみたい…。
甘いものに目がないから、彼女が入学するとわかってからは色々とお菓子について聞こうと思っていたのだ。
「あのね、早速聞きたいことがあって…。」
「うん?いいよ! なんでも聞いて!」
「私、お菓子作りに挑戦したことがあったんだけど…その、要領悪くていつも失敗しちゃうんだ。」
「うんうん。」
「だから、プロに聞くのもあれかな?って思うんだけど、教えてもらいたいなあ…って。
ご、ごめんね! いきなり初対面でこんな不可解な事態に巻き込まれてるのにこんなこと頼むなんて!」
「大丈夫、大丈夫! こういうの友達っぽくてなんかいいじゃん!
私の得意分野…それをここでもしっかりと活かせるなら任せてよ! 要領悪いって言ってたけどレシピ通りやっても上手くいかないとか?」
「あれしてるとこれしなきゃ。ってなると慌てちゃって手を抜いちゃうんだよね。
そしたらメレンゲがしっかり泡立ってなかったり、しっかり焼けてなかったり、オーブンの調整間違ってて逆に焦がしちゃったり。」
「改善の余地あり、だね!任せて! 一週間でちゃんとしたの作れるようにしてあげる!」
「う、うん! ありがとう!」
こうして私たちはお菓子作りを共にするという約束を取り付けて、別れたのだった。
仲良くなれそうな子でよかったぁ、とほっとしつつ私は次の子の挨拶へと向かった。
私が次に近づいたのは、赤いメッシュが特徴の銀髪の男の子だった。でもフードを被ってて綺麗な髪がわかりづらいなぁ。
誰とも近づかない距離感にいるうちの一人だったから気になって声をかけたのだった。
「あの…。」
と声をかけるとふ、とこちらを見る。
目を合わせるのが苦手なのか、顔を見たり、床に視線を落としたり、どこか落ち着きのない子であるのがわかった。
「初めまして。文月 詩乃です。
貴方のお名前は?」
と、なるべく、なるべく、優しく声をかける。
こういう子は人との接し方に慣れてないのだから、ゆっくり時間をかけて仲よくしようと思った。
「あの、えと…。
お、俺は…月村、スバル…。ち、“超高校級のゲームマスター”って肩書で…ここに来た…。」
“超高校級のゲームマスター”。今大人気ゲーム、脱出ゲームのEXITのゲームマスターを務めている…って聞いたことがある。
脱出ゲーム自体は難しいけれど、同行者と協力すれば難なく突破できる。とも言われているらしい。
このゲームのお陰で“友達が増えた!”とか“友達から親友に格上げした!”とか“絆が深まって楽しい人生が過ごせそうだ!”とかいっぱい賛同の声が上がってる。
そう言えば、このゲームのきっかけは母校の文化祭の出し物なのだとか、風の噂で聞いたことある。
すごいなあ。ここで才能を見出してここにいるって相当の実力者だよね。
と、彼の経歴を語るのはここまでにしよう。
「ゲームマスターってことは君が“脱出ゲームをやるゲーマー”だからじゃなくて“脱出ゲームを作る側の人間”だからってこと、かな?」
「…そう、だと思う。」
「すごいね!私そういうの得意じゃないから羨ましいなぁ。頭いいってことだもんね!」
「…………いや。」
と違う方向、というより人のいないほうを見て返事をする彼。
「…もしかして、人付き合い苦手かな?」
「……、人と話すのが、直接話すのが、苦手ってだけ…だ。」
「あー…、そっかそっか。ごめんね。いっぱいお話ししようとして。
でもね、いつかその壁を乗り越えてお友達になれたらいいな。」
と彼の目を見て話しかけた。
彼の方が背が高い。自然と上目遣いになってしまったのだけど、あざとい…ことはないよね?
彼はというと「あ、…」とか「う、…」とか言葉に詰まってるようだった。
私はニコリと笑い
「大丈夫。ゆっくり慣れていけばいいからね。」
というと、彼はふい、とそっぽを向いてしまった。
慣れてないんだろうなぁ。と思いながら「じゃあ、他の人と挨拶してくるね。」と微笑みながらが言うと「わかった」と声に出してくれた。
「なあなあ!」
と声をかけられたのでそちらを見る。
そこにはライトブラウンの髪でオレンジ色のメッシュをしている明るそうな男の子だった。
「えっと、そういえば自己紹介まだだったよね。えぇっと…。」
「詩乃ちゃんだろー?ちゃんと聞いてたぜ!
いやあ、それにしても見れば見るほどかわいいなぁ、儚い系っつーの?
こんな可愛い子に相談したら一発で治るかも…なんて簡単な話じゃねぇよな!ごめんごめん!」
「あ、はは…。」
大きな声でナンパ…かな?されて少しどうしたらいいかわかんなくてどうしたらいいかわからない。
そうだ。こんな時こそ名前を聞こう!私は名前ちゃんと聞けてないわけだし。
「え、と。名前聞いていいかな?
私だけ知られてるっていうのもあれだし…。」
「そう言えばそうだな!」
と、こほんと咳ばらいをすると
「俺は梶浦 竜輝だ!
苗字でも名前でも好きに呼んでくれよ!」
梶浦竜輝。彼は“超高校級のパルクール選手”だったはず。
高校生ながらプロのパルクール団体に所属するほどの腕を持っており、その上実力はその団体のトップレベル。
大会でも優勝経験を何度も重ねており、その道では彼はやはりというか、有名人である。
あの手のものは命の危険あるから、それを軽々とこなす彼は簡潔ながらすごいと思う。
動画、SNSに上がってたから見てみたけど、あれを無修正で行ってると思うとその培ってきた技術と潜在能力は並大抵のものではないと思う。
「なあ、ここって窓も封鎖、玄関も封鎖で外出させる気がないんだよな?」
「えーっと、そうなの?」
「おう! 俺目が覚めた場所が玄関でよー。
あそこ、すんげえでっけえ鉄の扉があってよ。開かねぇわ、かてぇわ…窓も開かねぇしかてぇし…。
グラウンド、開いてねぇんじゃねぇんじゃねぇかな?
つーなると身体動かせねぇなぁ。どうしたらいいと思う?」
「んー…。室内でも身体動かせることはあるからそれを倍こなすとかどうかな?
外より激しい運動できない分、その分有酸素運動…とかね。ここ、広そうだし周りに気を付ければ走れそうだし…。」
「なるほどなぁ!ありがとな!
可愛い上に優しい…モテるだろ詩乃ちゃん。」
「モテないよぉ~!」
と、私は言い逃げてしまった。
恥ずかしかったからだ。あぁ、言われるの初めてだったので…。つい…。
とん、とぶつかった。
その人は長いオレンジ色の髪。メイクをしているのが特徴の女の子だった。
大きな輪っかのピアスしてる…。
高校生なのに、もう開けてるのか…。
とか色々考えて惚けて、はっとする
「ご、ごめんなさい!前見てませんでした!
えっと…ふづ…。」
「詩乃でしょ?ちゃーんと聞いてたよ!
よろしく!」
と聞いて握手をしてきた。
私はそれにキュッと握り返すと、
「うん!よろしくね!
君は?」
「あたしは小深山 唯香だよ! よろしくね!」
“超高校級の美容師”、高校生だけれど、国家試験に特別に合格。その上各所から各業界の有名人が殺到するほどのカリスマの美容師。
特定の美容院は持っていないようで、来たい人は自ら足を運んで切ってもらうというスタンスを築いているらしい。
美容師に必要なコミュ力も高く、会話も楽しい…とのことでそれも人気の一つである。
頼めばメイクやネイルもしてもらえるらしく…。そう聞いただけでやってもらいたくなる。
彼女は私のことをまじまじと見た後
「詩乃ってすごいいい髪してるね! 何か特別なことしてる?」
「えっ…!? うーんと…ネットで見たケア方法をやってたりするよ?
あまりお金かけられないからいいトリートメントやシャンプーは使えないしね…髪質にあった奴使ってるって感じ…。」
と苦笑しながら笑えば
「そっか! よかったら私、いいトリートメントとかシャンプーあげようか?」
「えっ?! そ、そんな…悪いよ…。」
「駄目だよ!せっかくいい髪してるんだし、それを生かさなきゃ!
…長さもいい感じだし、いろんな髪型できそう! 今度色々試してもいいかな?」
「わ、私でよかったら付き合うよ…!」
「ほんとー!? ありがとー!」
と、キャッキャッと喜ぶ彼女は可愛らしく跳ねて喜んだ。
ヘアスタイルとかヘアアレンジが好きなんだろうな。
実際私も興味がないわけではない。可愛くなりたいならその努力は惜しみたくないし、そのためならその手に詳しいお友達の力を借りるのもいいと思う。
そう思って快諾した。実際Win-Winだったみたいだし、よかった。
小深山さんとは後で髪をいじってもらうと約束してその場を後にした。
そういえば、あまり話していない子がいないんだよね。
様子を見てるだけっていうか、みんなを見てにこにこしているだけっていうか…。
そこが気になったので私はその子に近づく。
中性的な顔立ちをしたその子は私が近づくとにこりとして
「あ、そういえば自己紹介、してなかったね!」
と言ってにこりと笑い、こほんとわざとらしく咳払いをすると
「俺の名前は一ノ瀬 裕里。伸びしろだらけの新人俳優です! よろしくお願いします!」
名前を聞いた瞬間、顔と一致してピンときた。
名前も、顔も聞いたことも見たこともある。
“超高校級の演劇部”。テレビで、ドラマで見たことがないと言ったら世間知らずと言われるほどの“俳優”…と言ったら彼に怒られるか。
あくまで自分は高校生で、新人だから出しゃばらない肩書が欲しいって至っての希望なのだと調べたら出てきた。
謙虚だなあ、と思いつつも、でもそれを許せるほどの才能をも持つんだなあ、とも思う。
「文月さんはカウンセラーだったよね? 思ったんだけど、芸能人のカウンセリングって受けたことある?」
「うーん…ない、ことはないよ。大人の人より、子供の…いわゆる学生の子や子役のカウンセリングとかやったことあるし…。
一ノ瀬君ももしかして希望だったりする、かな?」
「俺は全然大丈夫!聞いたことない? 俺、すごい明るすぎて心配されるようなこと全然ないんだ!」
「あ、そうなんだ。そういう子ってよく裏で色々抱えてたりするから…。
過去のことでもいいよ。何かあったらいっぱい話してね。私でよかったらいっぱい聞くからね。」
「大丈夫だいじょーぶ!もしもあっても詮索はNGで! なーんだろ。あんまり触れられたくないんだよねー。」
「そっか、言いたくないなら大丈夫だよ。無理に聞いても辛いだけだしね。」
とにこりと笑う。
それを見た彼は元から笑顔のところをより一層明るい笑顔にし、
「優しいな!」
なんて言った。
「私は人のためにやりたいことをやってるだけだよ。」と照れ笑いしながら話した。
なんだろう、彼は明るく、社交的でいい人なのだとわかるのに少し壁を感じる気がする。
少しでも仲良くなれるよう元々欲しかったサインの承諾をし、後で受け取る約束をした後、私は別の人の場所へと移った。
次に声をかけたのは黒い長髪が特徴の男の子だった。
「あの、こんにちは。はじめまして。」
「お、初めまして!」
「文月 詩乃です。えーっと君の名前を教えてほしいな。」
「俺は葉奈 京助、よろしくな!」
えーっと、確か“超高校級の科学者”で、小学1年生の頃の自由研究が目に留まって、そのころから理系の道に進み、今じゃ研究所からオファーが来るほどの人材…なんだっけ。
中学二年生から政府公認のサイエンティストとして認められ、今じゃ発明の裏では彼の名前が絶対に乗るほどの影の後継者…とかなんとか。
理系は難しくて、その手に詳しい友人に聞いたら『知らないのか…。知っといた方が得だぞ。』とか言って色々教えてくれた記憶が新しい。
まあ…ちんぷんかんぷんだったんだけど。
すこし気難しい人かとも思ったが、そうではなかったようで、意外にお話は乗ってくれるタイプらしい。
「葉奈君、科学者ってどんなことをするのかな?
…実際色々調べてきたのはいいけれど、文面だけでも言葉をつらつら並べられてもわからなくてね…。」
「じゃあ俺の説明聞いてもわかんないんじゃないのか?」
「うぅ…ごもっとも…。」
あまりの頭の悪さに愕然とする。今の彼は自然科学に熱を入れてる~とか、言われても
『じゃあ自然科学以外なにがあるの?』からはじまる。
あまりの質問の多さに友人は匙を投げた。これが現実だ。
「まぁ、いずれここで成功して更にその上を目指す…!それが俺の目標だ!」
「すごい!ちゃんと今でもしっかりとした目標を持ってるんだ!」
「そういうお前はどうなんだ?」
「私は…“超高校級のカウンセラー”って言われても解んないし…でも人のためのお仕事とかしたいなって思ってるんだ!
頭悪いから…看護師とか医者とかの頭のいいところ行くのは難しいだろうって中学の頃言われてたけれどね。」
とえへへと笑えば「そうか」と私を無表情で見つめる。
「世間に認められた人のためになる仕事の道見つけてるじゃねぇか。」
と、彼は腕を組みながらそう言った。
それを聞いた私は自分でもわかるほどの笑顔になり、
「そうだね!確かにそうだよ!
みんなの心のケア、大事だもんね!教えてくれてありがとう!」
と、笑顔で言うと彼は「よかったな」と一言だけ発した。
彼とは別れた後、体育館で隅っこにいる女の子に声をかけた。
「…ずっとここにいるけど具合悪いの?大丈夫?」
と女子に聞けば彼女は
「いえ、…私なんかがみんなの中に入れるとは思えなくて…ついついここへ…。
入学式終わりませんし、始まりませんし…。」
「そう言えばそうだね…。
ね、ねえ。君の名前教えてくれるかな?
私、文月 詩乃。よろしくね。」
となるべく自然な笑みを浮かべる。
それにこたえてくれたのか、彼女はしどろもどろになりながらも
「諏訪野 芽依…、です。よろしくおねがいします。」
とたどたどしく頭を下げた。
“超高校級の園芸委員”。育てたことのない植物はないと呼ばれるほどたくさんの植物を育てた正にその道のスペシャリスト。それが彼女。
植物の品種改良の研究も行っており、その中には品種改良が不可能だと呼ばれていた植物の品種改良も成功したという実績を持つ…が。
当の彼女は「たまたまです」とか「この子たちが頑張ったからです」と自分の凄さを認めないところがあるという。
「…文月さんは…。」
「うん?」
「優しい方、ですよね…。」
「うぇっ!? そ、そんなことないよ!
怒るときは怒るし!」
「それも人のため…だと思うんです…。さすがカウンセラー…。
優しいだけでは人はダメになってしまいますから…。」
「…うん。優しいと甘いは違うからね。その辺りは気を付けるようにしているよ。
諏訪野さんはそういうところ、ちゃんと見極めているんだね。すごいよ。」
「…えっと、植物も同じところがあるので…。
例えばトマト…あれは海風などわざと厳しい環境に置くと甘くなる…と聞きますし。」
「えっ、そうなんだ!」
「…やったことはありません。ただ、私が育てた植物…作物も美味しいと言ってくれることもあります…。
それはあの子たちが頑張ったからで…。」
「そんなこと…あるけど、そういうことでもないよ!諏訪野さん、その子たちのために頑張ってるじゃない!
だから、その子たちの事育てたって自信もってね!」
と手を掴み言うと彼女は困ったような顔をしてしどろもどろしている。
「あっ、ごめんね!
…自信なさそうだったからおせっかい焼いちゃった。」
とえへへと笑えば彼女は
「さすが…です。やっぱり私はここにいないほうがいいんじゃ…」
「そ、そんなことないよ!」
と宥めた。
ひとしきり宥めた後、私は残りの子に挨拶するため別の場所に移ることにした。
また話していない子…、まだ話していない子…、
「失礼します。」
と後ろから声をかけられた。
「わあ!?」
「すみません。ちょっと気なったものですから。」
「気になる…?」
「はい。」
と言って彼女はマフラーを手を取り匂いをかぐ。
…きちんと毎日手洗いしているけど洗い足りなかったのかな?
と不安になっていると彼女は口を開いた。
「男の子、から受け取ったものですか?」
「えええぇぇぇぇぇぇ!?!?
な、ななななんでわかるの?!」
「なんとなく、そんな香りがしました。
…ボーイフレンド、ですか?」
ぽくぽくとマフラーの経緯を探り、心当たりがあると「ああ!」と言ってポンッと手のひらと手の拳を合わせたのだった。
「うちの近所に弟分がいて。その子の願望一緒に叶えようね!って話になってそれで買ったものだよ。
交換したから、その時に付いたものなのかも。
くれたの私の誕生日だったし、あげたのも彼の誕生日だったから多分温めてた時に匂いが付いたのかもね~。」
とふふ、と笑った。
それを聞いて彼女もふふ、と笑いながら
「微笑ましい経緯ですね。」
と言ったのだった。
「においに敏感ってことはもしかして“超高校級の調香師”?」
「はい。“超高校級の調香師”、牧里 梓音です。
よろしくお願いします。」
彼女は“超高校級の調香師”。先ほどの嗅覚もそうだが、彼女は生まれついてこの方この職業が転職と呼ばれるまでの体質を持っていた。
なんと噂では常人の何百倍の匂いの嗅ぎ分けと記憶ができる。というのだ。その能力を使い、その人にあった香水を選び、その香水を使ったものは大満足しまたオファーをする…。
それほどの腕を持つため今では大手のブランドを持っている…とかなんとか。
「あなたは…」
彼女はすっと目を閉じ深呼吸をした。
彼女のことを調べたり聞いたらすぐわかる。これは匂いの分析をしているんだ。
私はどんな匂いなんだろう、とドキドキして待っていると、彼女はふと目を開いた。
「ふふ、落ち着くにおいですね。
…柔軟剤とアロマがいい感じにマッチしている感じです。」
「落ち着く、そうかな?」
嫌な臭いと言われなくてほっとしたが言われた言葉も信じきれなくて自分の制服の匂いを嗅いでみるが、よくわからない。
「子供には間違いなく好かれるでしょう。お母さんとして。」
「お姉ちゃんじゃなくてお母さんかあ~~…。」
そこはちょっとショックだった。
彼女と別れて別の子の元へ行く。
この子は割と他の子と喋っていて喋りかける機会がなかったのだ。今惚けてる今しかない。
「あの。」
と声をかければ彼女は「あっ!」と声をあげてこちらに近づく。
「詩乃やっとこっち来た~~!待ってたんだからね!」
「ごめんね。いっぱいお話ししてたから話しかけづらくて。」
「あぁ~、そうだよね。ごめんごめん。」
と笑顔で謝る彼女に笑顔で「いいよ」といった。
「名前名乗り遅れたね!私、野々坂 鈴奈!よろしくね!」
“超高校級のバトミントン選手”。それが彼女の肩書だ。
始めたきっかけは小学生かららしいが、中学生辺りから才能が開花。中学入って3年は連続で大会で優勝をもぎ取った“次世代のエース”。
シングルだろうがダブルスだろうが彼女が立てばそこは相手にとっての絶対に越えられない壁となる。
それが彼女の超高校級たる所以の一つだろう。
「詩乃~!これからよろしくね~!
運動とかする?」
「しないことはないけど、大会出るほどのハードワークはしたことないなぁ。
体系維持のジョギングぐらいで…。」
「詩乃痩せてるのにこれ異常痩せてどうすんの?!消えちゃうよ!!」
「き、消える?!」
ひょっと軽々と持ち上げられた彼女にそう言われた。
ふと思いついた話題を言ってみる。
「じ、じゃあ、あのね…。」
「うん?」
「もっと食べたら…胸大きくなるかな…?」
と、きいたら彼女はそっ、と下ろしにこりと笑顔を向けた。
「…。」
望みは薄かった。