二次創作小説(新・総合)

2話 珠魅 ( No.9 )
日時: 2023/02/26 23:43
名前: かのん ◆7igY4SLYdc (ID: sxkeSnaJ)


 珠魅はみな、うまれつき胸元に美しい宝石の玉を宿している。「核」と呼ばれるその宝石は、人によって種類が違い、ダイアモンドを核とする珠魅もいれば、ルビーを核とする珠魅もいる。石榴ざくろの核はガーネット。深紅の色をした宝石だ。蛍姫は、淡い緑色のフローライトを核としている。
 この核は、珠魅にとっての命でもある。珠魅は核が壊れない限り生き続けるが、ひとたび核が傷つくと、命にかかわるのである。

 珠魅には、千年を超える長い歴史がある。しかし、その歴史は、美しい宝石を宿しているがゆえに決して穏やかなものではなかったという――。


――――――――――


 シャクッと音を立てて、石榴は真っ赤なリンゴをひとくちかじった。リンゴを持つ手は白い包帯に覆われている。床で擦っただけの軽い傷だったので放っておくつもりだったが、心配性の蛍姫が「だめよ、ちゃんと手当てしなくちゃ」と言いながら薬を塗って包帯でぐるぐる巻きにしてくれた。
 今は蛍姫はおらず、狭い部屋に一人きりだ。土色の細かい鉱石が敷き詰められた床は、それだけでは寒々しくて、蛍姫が分けてくれた毛布を敷いて座っている。

 ふと、先ほど言われた言葉を思い出す。
 
 ――ここは珠魅の一族が暮らす場所よ。あなたみたいに他の種族の血が混じった部外者が、いていい場所じゃないわ。

 そう、たしかに石榴は他の種族――森人の血を半分引いている。
 そして、あの二人に限らず多くの珠魅は、他の種族を忌み嫌っている。いまいるこの場所――珠魅の住処すみかである「きらめきの都市」も、珠魅しかおらず、他の種族は共に暮らしていない。

「どうしてそんなにこだわるんだろう……。」

 思わず独り言を呟いた後すぐに、石榴は自分の耳に手を当てた。大きいだけでなく、先がとがった耳。
 やはり、見た目が違うからだろうか。

 と、その時。扉のない入り口から、蛍姫がひょっこり顔をのぞかせた。

「石榴っ。次、私たち地上階に出ていいって。外の空気吸いに行きましょ。」
「うん、行く!」

 石榴は沈んでいた顔を輝かせ、最後のひとくちをパクリと口に入れた。


―――――――――― 


 珠魅には「座」という階級がある。
 一番上は「玉石の座」と呼ばれる、一族のシンボル的な存在。次に高い階級が「輝石の座」。一族のとりまとめ役だ。その次が、一般の珠魅が属す「半輝石の座」。そして、一番下、立場の弱い珠魅が属すのが、「捨て石の座」。石榴と蛍姫が属す階級である。
 「捨て石の座」の珠魅は普段、地下にある広間と各人の部屋で生活している。地下とはいっても、案外部屋はきれいで必要なものはそろっているため、劣悪な環境ではない(石榴の部屋を除く)。ただし、唯一の欠点が、日の光を浴びられないということだ。そこで、一日の間に交代で地上階に出てもいい決まりになっているのである。

 
「夕日だよ!」

 階段を駆け上がり地上階に出ると、石榴は後ろを振り返って嬉しそうに声をあげた。耳の下で二つに結った赤髪がふわりと舞う。
 オレンジ色の光が鉱石でできた床を照らしていた。地下とは違って黄土色の鉱石だけでなく、淡い紫や赤、黄色や桃色の鉱石も散りばめられた地上階の床は、夕日に照らされるとそれこそ宝石のように美しい。石榴はこの時間の地上階がとても好きだった。嬉しそうな石榴を見て、後から上がってきた蛍姫も目を細める。

 ぐるりと周囲を見回すと、石榴と蛍姫以外にもちらほら「捨て石の座」の珠魅の姿が見えた。どの階級の珠魅かは遠くからでも一目でわかる。「捨て石の座」の珠魅はみな、着古した布の服を身につけており、他の階級の珠魅に比べると見るからにみすぼらしい身なりをしているからだ。石榴も蛍姫も、膝丈の布のワンピースを着ている。

 石榴と蛍姫は、「煌めき廊」と言われる鉱石の道を並んで歩いた。通りかかった外の世界につながる門は、いつも通り閉まっている。珠魅たちの間では、外の世界は危険だ、外に出るな、他種族を入れるな、と強く言い伝えられているのだ。
 石榴がぼんやりと門のほうを眺めていると、蛍姫が困ったような顔で石榴の服の袖を引っ張った。

「また門の方見てる。だめよ、外は危険なんだから。」
「あっ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた……。」

 えへへと笑って舌を出す。
 蛍姫が手のかかる妹を見るように、肩をすくめた。