二次創作小説(新・総合)
- Re: 逃走中:恋路迷宮ターミナル ( No.57 )
- 日時: 2023/07/02 23:55
- 名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)
Case 2 ~マリアの場合~
トシタカ
「やっぱり速いな……新幹線は」
マリア
「目的の駅までは1時間ちょっとで着くみたいだわ」
約束の時間からおよそ30分。
俺は、八条先輩と共に財閥のリゾート地へ向かって新幹線の座席に座っていた。
トシタカ
「新幹線に乗るのなんて、多分中学の修学旅行のとき以来ですよ」
マリア
「私も久しぶりだわ。私が最後に乗ったのはいつだったかしら……?」
トシタカ
「あれ、八条先輩も久しぶりなんですか?俺、てっきり先輩はしょっちゅう乗ってるものかと……」
マリア
「普段はお家の車しか使わないからね……そもそも電車自体が久しぶりだわ」
トシタカ
「そ、そういうことですか……」
そんな話をしているうちに、俺たちは目的の駅に到着した。
駅を出た後、さらに迎えの車に乗ること15分で俺たちはようやく目的のリゾート地に到着した。
外に出ると、そこには絵に描いたような楽園の風景が広がっていた。
青い空の下で、八条家の富を象徴するような大きなホテルが、白い壁に日光を反射させながらそびえ立っている。
ホテルの下にはヤシの木があちこちに生える緑の庭があり、その中心部にある大きなプールでは、透き通るような水色の水面がゆらゆらと揺れているのが見える。
その先には眩しいほどの白い砂浜、そして本物の宝石のようなエメラルドグリーンの海が地平線の向こうまで広がっている。
俺はこの雄大な絶景を前にして、思わず息をのむことしかできなかった。
マリア
「それじゃあ津山くん、私について来て」
トシタカ
「はい!案内よろしくお願いします」
先輩の案内で、俺たちは開発中の八条リゾートを回った。
ホテルの内部を見たり、プール沿いの庭を歩いたり、ヴィラからの景色を眺めたり。
どこを切り取っても美しい風景ばかりだったが、俺を導きながら潮風に長い茶髪をなびかす今日の先輩は何よりもずっと綺麗で、そんなことを思うたびに俺の胸がどきっするのを感じた。
ひととおり施設やスポットの紹介が終わった後、先輩は俺にこう言った。
マリア
「まだ時間もあるし、せっかくだから海に入らない?」
トシタカ
「えっ、海ですか?でも、俺水着とか持ってきてないですし――」
マリア
「大丈夫よ。レンタルの水着が用意してあるから、それを使えばいいわ」
トシタカ
「なるほど……水着にもレンタルとか、あるんですね」
マリア
「あっちに着替えるスペースがあるわ。私も着替えるから、一緒に行きましょう」
トシタカ
「先輩は着替え用意してあるんですね」
マリア
「ばっちりよ。貞操帯のカギだって、今はしっかり持っているわ」
トシタカ
「その情報はいらん」
先輩に連れられ、俺はビーチの側にある着替え用の建物へ行った。
更衣室に入る前に、先輩に水着を用意してもらう。
マリア
「津山くん、サイズは何がいいかしら?」
トシタカ
「そうですね……この前Lはちょっと大きいなと感じたんで、Mでお願いします」
マリア
「なるほど……津山くんはM、と……」
トシタカ
「何でそんなかみしめた言い方してんの?」
先輩から水着を受け取った後、着替えのために俺と先輩は一旦別々の部屋へ分かれる。
俺の着替えは5分足らずで終わり、すぐに外へ出たがまだそこに先輩の姿はない。
まぁ、女の子の方が着替えは長いのだから当然っちゃ当然なのだが。
その場でさらに待つこと10分、ついに女子更衣室の扉が開いた。
マリア
「津山くん、おまたせ~」
トシタカ
「着替え、終わりましたか――っ!!」
そこから出てきたのは、いつもの清楚な雰囲気からは想像もつかない大胆な水着姿の先輩だった。
透明感あふれる艶やかな肌に純白のビキニが映え、普段制服越しにでも分かる美しいボディラインがいっそう強調されている。
先輩がこちらに歩み寄るたびに枷を取り払われた豊満な胸が縦に揺れ、そのたびに俺はドキッとしてしまう。
マリア
「津山くん……どうかしら……?」
トシタカ
「先輩……綺麗です。その水着、すごく大人っぽいというか……」
マリア
「本当?嬉しいわ……でもこれ、水着じゃなくてボディペイントなんだけど――」
トシタカ
「んなバカなー」
マリア
「ふふっ、冗談よ……海に入ったときに塗料が溶けたら、環境によくないからね」
トシタカ
「その前に君自身に関わる問題があると思うケド」
水着に着替えた俺たちは砂浜に出る。
目の前には、青々とした海が広がっていた。
マリア
「津山くんも早く!水が冷たくて気持ちいいわよ~」
トシタカ
「先輩、待ってくださーい!」
先輩の後を追うように俺は透き通った海の中へ歩を進めていった。
水面が腰ぐらいの高さになろうかというとき、突然俺は顔に海水をぶちまけられるのを感じた。
トシタカ
「な、何だ……?」
マリア
「ふふっ……あははっ!」
トシタカ
「先輩……やりましたね?それっ!」
マリア
「きゃっ!うふふっ♪」
燦燦と照り付ける太陽の下、俺と先輩は2人で海水を掛け合った。
まさか高校生にもなって先輩とこんな子供じみたことをするとは思わなかった。
でも、海水を身体全体にかぶった先輩の髪や肌はみずみずしくて、色んな意味で魅力的だった。
マリア
「いくわよ……それっ!」
トシタカ
「うわっ!……はは、もうびしょ濡れですよ……」
マリア
「私もよ――って、あれ?」
トシタカ
「……先輩?どうかしましたか?」
マリア
「あっ……私のミサンガ!待って~!」
トシタカ
「先輩!そんな深くに行ったら危ないですよ!」
マリア
「大丈夫!すぐ取ってくるからー!」
どうやら思い切り水をかけた拍子に手首のミサンガが外れてしまったらしく、先輩はそれを取り戻すため、沖から離れるように泳いで行った。
俺は先輩の後を追おうとしたが、少し進むと足が地面から離れそうになったため、その場で先輩の戻りを待つことにした。
10メートルほど先まで泳いだところで、先輩は右手を高く上げてこちらを向いた。
マリア
「津山くん、取れたわ~!」
トシタカ
「先輩、よかったですね。危ないですから、早くこっちに戻ってきてください」
マリア
「分かってるわ。今から――っ!?」
トシタカ
「…………!?」
俺の方に泳ぎ始めたそのとき、突然先輩の顔色が一変し、彼女はその場でもがき始めた。
何やら、先輩の様子がおかしい。
トシタカ
「先輩!どうしましたか!?」
マリア
「あ、足が……あっ……!」
トシタカ
「せっ、先輩!」
マリア
「つっ、津山……くん……、助け――っ!!」
トシタカ
「今行きます!」
脳よりも先に、身体が勝手に動き始めていた。
いつの間にか、俺は先輩の方へ向かって一直線に泳ぎ始めていた。
塩水が俺の両目を刺激して痛みが走るが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
先輩を、助けなければ。
マリア
「あっ……あっ……!」
トシタカ
「先輩……先輩……!」
わき目もふらず、俺はがむしゃらに手足を動かし続けた。
1秒でも速く、光の速さで先輩の元に辿り着くために。
俺が息継ぎのために水面から顔を上げるたび、先輩の身体がだんだんと下へ沈んでいくのが見える。
マリア
「……と……し……くん……!」
トシタカ
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
もうすぐです、先輩。
もう少しだけ……あともう少しだけ、頑張ってください。
そんなことを心の中で呟きながら、俺は手足をばたつかせるペースを上げた。
マリア
「…………」
トシタカ
「先輩!」
ついに、俺は海水の中で沈みゆく先輩の右腕を掴んだ。
その手首には、確かに先ほどのミサンガがつけられていた。
俺は背中から先輩の身体に両腕を巻き付かせるようにしてがっちりと先輩を抱えた。
先輩の身体を持ち上げるほどの力は俺になかったが、辛うじて沈んでいた先輩の顔を水の外に出すことには成功した。
トシタカ
「先輩!大丈夫ですか!?」
マリア
「…………」
俺の呼びかけに対する返答はなかった。
先輩は目を閉じたまま、眠るようにして頭を俺の左肘に預けている。
一刻も早くビーチに戻らなければ、先輩の命が危ない。
トシタカ
「先輩……もう少しだけ、頑張ってください!」
マリア
「…………」
俺はできるだけ先輩の顔が水面下に潜らないように気を付けながら、バタ足のみでビーチを目指した。
俺の両脚は、すでに疲労困憊だった。
トシタカ
「ハァ……ハァ……」
ようやく、俺は先輩を波打ち際まで運ぶことに成功した。
とりあえず、最悪の事態は回避できたようである。
マリア
「…………」
トシタカ
「せっ、先輩!」
しかし先輩は依然として俺の呼びかけに応じることはなく、深刻な状況であることには変わりない。
一刻も早く手を打たなければ、先輩の命が危ない。
マリア
「…………」
トシタカ
「やるしかない……人工呼吸……!」
意を決し、俺は先輩に人工呼吸を実施することにした。
ファーストキスの相手がよりにもよってこんな俺になるだなんて、先輩にとっては相当不本意に違いない。
しかし、先輩を救うためには他に方法がないのだから致し方ない。
マリア
「…………」
トシタカ
「先輩……ごめんなさい……っ!」
俺は先輩に申し訳なく思いながら、微かに開いた先輩の小さな口にそっと俺の唇を重ねた。
そして、俺はそこからゆっくりと息を2回吹き込んだ。
マリア
「……ふふっ」
トシタカ
「……!?!?」
俺が顔を上げると、先輩はせき込むでもなく、その場に寝たまま口元に手を当ててくすっと笑った。
思いもよらぬ状況の急転に、俺は驚きを隠すことができなかった。
トシタカ
「せっ、先輩!大丈夫なんですか!?」
マリア
「うふっ……津山くん、ごちそうさま」
トシタカ
「なっ……!!」
そう言って俺の方を向いて微笑む先輩の顔は、少し赤みを帯びていた。
先輩がずっと平気だったことを知った俺の頭の中は安心感と恥ずかしさが渦巻いていて、今にも爆発してしまいそうだった。
トシタカ
「さっきまでのは……ずっと演技だったんですね?俺、先輩のことが本当に心配で――」
マリア
「心配かけてごめんなさい……でも、足がつって溺れかけたのは本当よ。戻ろうとしたら急に足が動かなくなって、どんどん身体が沈んでいって……本当に怖かったわ」
トシタカ
「先輩、急に様子がおかしくなっていましたから……俺も、あの時はどうなることかと思いましたよ」
マリア
「だから……津山くん、助けてくれて本当にありがとう」
トシタカ
「とっ……とにかく、無事で何よりです。でも、次からはもうあんな無茶はしないでくださいね?」
マリア
「ふふっ……気を付けるわ……」
安心したのか、そう言うと先輩はそのまま波打ち際の砂の上で眠ってしまった。
風邪を引くといけないので、俺はタオルを取ってきて先輩の髪や肌についた水滴を軽くふき取ってやった。
柔らかな表情で寝息を立てる先輩の顔を眺めていると、いつの間にか陽が傾き始めていた。
しばらくして先輩は目を覚まし、その場で身体を起こした。
既に時間帯は夕方になっており、空は焼け付くほどのオレンジ色に染まっていた。
トシタカ
「おはようございます、先輩」
マリア
「津山くん……ごめんなさい、私寝ちゃってたみたい……」
トシタカ
「疲れてるんですよ、きっと。先輩は俺のことずっと案内してくれていましたし、さっきは海であんなこともありましたから……」
マリア
「そっか……私、溺れかけたところを津山くんに助けられて――」
トシタカ
「先輩……身体、本当に大丈夫ですか?」
マリア
「えぇ、おかげさまで平気よ……津山くん、さっきは本当にありがとう。後でお礼を考えておくわ」
トシタカ
「おっ、お礼なんていいですから……俺は、先輩に無事でいて欲しかった、ただそれだけです」
重ね重ね感謝の言葉をもらった俺は少し照れくさくなって、夕日の方に目をそらした。
すると、先輩は隣に座ったまま少しだけ俺の方に身を乗り出してこう言った。
マリア
「ねぇ、津山くん」
トシタカ
「なっ、何ですか?」
マリア
「あっ、あのね……よく、聞いていて欲しいんだけど……」
俺が先輩の方を向くと、先輩はすぐに体勢を元に戻した。
少し下をうつむいている先輩の顔を見ると、口元がぷるぷると震えているのが見えた。
先輩は両腕で膝をぎゅっと身体の方に引き寄せた後、意を決したように再び顔を上げてこう言った。
マリア
「私は……津山くんのことが、好きです」
トシタカ
「…………?」
先輩の口から放たれた言葉を聞いて、俺の頭は真っ白になった。
俺の思い過ごしでなければ、先輩は俺のことが好きだと言った。
あのおしとやかで清楚で、まさに高嶺の花という言葉がぴったりな美少女の八条マリアが、である。
トシタカ
「せ、先輩……?」
マリア
「私……知らない間に、いつも津山くんのことを考えるようになってたの。普段の何気ないときも、廊下を歩いているときだって、津山くんとすれ違うときはいつも胸がどきどきして……」
トシタカ
「そ、そうだったんですか……」
マリア
「この気持ちが何なのか、私全然分からなかったんだけど……今日、やっとその正体が分かったわ」
トシタカ
「…………」
マリア
「津山くんが私のことを抱えて水の中から引き上げてくれたとき、思ったの。私は……津山くんのことが、心から好きなんだって」
トシタカ
「…………っ!」
マリア
「津山くん……私は、これからもあなたと一緒にいたい。ずっと……隣にいても、いいかな……?」
トシタカ
「せ、先輩……」
先輩の顔がさっきよりもほてって見えるのは、恐らく夕焼けのせいではないだろう。
人工呼吸のくだりはあったものの……まさか、あの先輩がこんな俺のことをここまで想ってくれているなんて思いもしなかった。
俺は何も考えることができず、ただぽかんと口を開けていた。
トシタカ
「…………」
マリア
「……きっ、急にごめんね!びっくりしたわよね……返事は、ゆっくり考えてもらってからでも構わないから――」
トシタカ
「俺も好きですよ」
マリア
「…………?」
トシタカ
「俺も、先輩のそばにいたいです。これからも、ずっと」
マリア
「……え…………えっ……?」
何が起きたのか分からない様子で、先輩は少し慌てふためく仕草を見せた。
マリア
「津山くん……今、なんて……?」
トシタカ
「俺、先輩のことはずっといい人だなと思って見ていました。誰に対しても気さくに挨拶してくれるし、それでもって丁寧で、礼儀正しくて……もちろん、俺に対してもそうでした」
マリア
「津山くん……」
トシタカ
「だから……別に先輩は俺に対して特別な感情を抱いているとか、そんなことは一切思っていなかったんです。俺なんて別にイケメンでもなければ大した取柄もないし……むしろ、先輩は俺なんか見向きもしてないと思ってました」
マリア
「そっ、そんなことないわ!津山くんは優しくて、かっこよくて、話をしていると楽しくて……津山くんの素敵なところなら、私いくらでも言えるわ」
トシタカ
「そうやっていいところを沢山見つけてくれるところも、俺は好きですよ」
マリア
「津山くん……」
トシタカ
「俺は……そんな先輩と、今日みたいに一緒にかけがえのない時間を過ごしたいです。先輩……これからも、2人で思い出を作っていきましょう」
マリア
「…………!!」
声にならない叫びを抑えるように、先輩は両手で口を覆った。
大きく見開いた目には、透明な涙が夕日の色に染まっているのが見えた。
マリア
「うぅ……ひくっ」
トシタカ
「だっ……大丈夫ですか……?」
マリア
「ごめんなさい……嬉しくて、涙が……」
トシタカ
「あれ、そのミサンガ――」
マリア
「あっ……切れてる……」
涙を拭く先輩の右手首につけてあったミサンガがプツンと切れているのが見えた。
先ほど溺れる危機に瀕してまで先輩が一生懸命追いかけたミサンガがこうもあっさりと切れてしまうなんて、実に皮肉なものだ。
トシタカ
「本当に切れちゃってますね……先輩、頑張って取り戻しに行ったのに……」
マリア
「ふふっ……いいのよ、これで。今日は津山くんと一緒に楽しい時間を過ごせたし……それに、ファーストキスだってしてもらっちゃったしね」
トシタカ
「……っ!あっ、あれは……キスというか、人工呼吸――」
マリア
「あの時は心配かけてごめんなさい……でも、あのときは津山くんが私に本気になっていることが分かって、私すごく嬉しかったわ」
トシタカ
「……先輩……」
マリア
「……でも、あの時は津山くんの方から一方的にしてもらってたから……今度は、私からしてもいいかしら?」
トシタカ
「…………えっ?」
マリア
「……今度は……津山くんと、本当のキスをしてみたいわ」
トシタカ
「…………!?」
先輩にこんな大胆な一面があるとは思わなかったので、俺は驚いてしまった。
まさか先輩の方から俺にキスをしたいと言い出すだなんて。
トシタカ
「せ、先輩……本当に、いいんですか……俺で……?」
マリア
「うふっ、何言ってるのよ。さっきは津山くんの方から私にしてきてたじゃない」
トシタカ
「だから……あれはキスじゃなくて、人工呼吸ですって……」
俺のことを少しからかった後、先輩は再び真剣な眼差しで俺を見つめた。
そして、先輩はゆっくりと俺の方に顔を近づけた。
マリア
「…………」
トシタカ
「…………」
マリア
「……津山くん……」
トシタカ
「せっ、先輩…………んんっ」
赤く染まった空の下で、俺たち2人は互いの唇を重ね合った。
あらためて感じる先輩の唇は、真綿のように柔らかくていい匂いがした。
マリア
「ん……んんっ」
トシタカ
「んんっ……ん……」
俺は目を閉じ、両腕で先輩を軽く抱き寄せた。
そして、空が真っ暗になるまでその柔らかい感触を堪能し、愛を確かめ合った。
-完-