二次創作小説(新・総合)
- ようこそ、どうしようもないテイワット大陸へ ( No.1 )
- 日時: 2023/06/13 22:40
- 名前: HAL (ID: J0KoWDkF)
プロローグ『ようこそ、どうしようもないテイワット大陸へ』
──ここは、テイワット大陸。
炎、水、風、雷、草、氷、岩。
以上7つの元素が点在する、神秘的かつ幻想的な世界である。
これらの元素は、実は通常の人間に取り扱えるものではない。
しかし、各元素を司る各々の神に認められたとされる極一部の人間は、「神の目」という外付けの魔力器官を授かる事で、人の身でありながらいずれかの元素力を感知し、引き出せるようになる。同時に、身体能力も一般人とは比べ物にならないほどに増強されるといわれている。
また、所有者は死後、神々の領域たる天空の領域に入る事が許されているとも云われている。
これは「神になる資格を持っている」と同意義であり、故に【原神】とも呼ばれるという。
__________________
──さて。ここまでが所謂本作の冒険の舞台、及び大前提として覚えてもらいたい知識である。
それではここからは、「物語」の前提をお話しよう。
かつて、テイワットとは異なる外の世界を縦横無尽、横暴の限りを尽くして廻り続けてきた、空という兄と、蛍という妹がいた。
2人は、それまでの世界と同じ様にテイワット大陸を気ままに旅した後、また次の世界を目指すつもりでいた。
しかし、それらを良しとしない「天理の調停者」という者が、圧倒的な力、権力、その他諸々で2人の道を阻んできた。
「「せっかくこの地を離れようとしてるんだから別にいいじゃんね?」」
そんな行く手を阻む者を相手に、2人の少年少女は応戦した……
だが 天理の調停者に封印され 敗北…
__________________
「……とまぁ、こうした経緯があったわけだよ」
「いやいや!! 随分とおかしすぎる説明箇所があっただろ!!」
──こうして、話は今に至る。
現在の場所は、テイワット大陸のどこかにある海岸。
この場には白と茶色を基調とした服装の金髪の異邦人と、なんか全身が湿っぽい真っ白な小人…とも幼女…とも言えない、何とも中途半端な浮いた存在がいた。
「そもそも! その…外の…世界? とかってのが仮にあるとして、その世界の廻り方が物騒すぎるぞ! 途中の表現もBA○ASSみたいでやっぱり世紀末だし、最後の敗北の部分もオイラなんでか知らないけど既視感が凄かったんだからな!? ついでに言うと、いくらオイラが説明しづらい存在だからって、そんなふざけた紹介文にするんじゃないぞ!」
「待ってくれ、大まかなツッコミは受け入れるとして、最後のは何処の誰に向かってツッこんだ……?」
異邦人の端折りながらも一部ふざけてたであろう説明に不満を述べる白い浮遊物。……というか、よく地の文に突っ込もうとしたなオイ!? 普通逆だろう、逆。
「フン! そんなのオイラの知ったこっちゃないぜ! ……っと、自己紹介が遅れちまったな。オイラはパイモン。そしておまえは、さっきの説明からすると……」
「あぁ、空の方だ。宜しくな。ちなみに、つかぬ事を聞くようだけど……」
「おまえの妹についてだろ? 悪いけどオイラ、おまえに釣り上げられるまでの記憶が無いんだよな……;」
「……そうか」
ようやく自己紹介を交わした両者は、続けて妹の行方についての情報を交換したが、それらしい手がかりは見つけられないでいた。
……え? なんかさっき変な文が見受けられたって? パイモンは小型な存在なせいで、何かしらの原因で海で漂流していた所を空に釣り上げられて今に至ってます。なんで人釣れたのって話は……まぁギャグ系小説なんで深くはツッコまないでください;
「うーん…… なぁ、旅人。その、おまえ達をボコした相手ってのはようは神様みたいなもんなんだろ?」
「ボコしたって; いやまぁそういった立場の人間だとは思うけど……」
「実はこのテイワットの世界にはな、7つの国とそれらの土地を治める神様が7人いるんだ。その7人の神様に会って話をしてみれば、もしかしたら妹の行方が分かるかもしれないぞ!」
なるほど。各国の最高権力者である神ならば、妹の行方について何か分かるかもしれない。
パイモンからの提案に好反応を示した空は、彼女の案に乗ることにした。
ちなみにパイモンもこの後行くあてがなかった為、空のテイワット観光ガイドを兼ねて旅に同行することとなった。
さて、海岸を離れてから少し経った頃。
正直、天理の調停者相手に殴りかかれる位には腕っぷしに自信のあった空からすれば、舗装された道だろうが獣道だろうが、パルクール感覚で悠々と突き進むには何の苦も抱いていなかった。ただ強いて言うならば、スタミナがなくなりやすくなったというか……身体が疲れやすくなっていた。何となく空はそう自己分析していた。
「おい旅人、せっかくだからあそこの湖で休んでかないか?」
前を歩いていた……否、飛んでいたパイモンが、ふと前方を指さしながら休憩を申し出てきた。
実際、その先には青々と透き通った湖、その中央に灰色の大きな像が鎮座している小島が浮かんでいた。
「パイモン、この像は一体……?」
「おう、これは七天神像だぞ!」
曰く、七神をかたどったとされるこれらの像は[七神の象徴]としてテイワット大陸に点在してるとの事だった。
「ちなみに、この像がかたどってる神様は、七つの元素の神の中でも【風】を司る者だな」
「おまえが探している神様がこいつなのかは分からないけど……せっかくだし旅の無事を願ってお参りでもしていくか?」
パイモンからの提案に次々と従っていく空。湖を泳いで小島に着いた後、2人は神像に触れて旅の無事を祈った……
── そ の 時 、 不 思 議 な 事 が 起 こ っ た ! !
空が七天神像に触れるや否や、急に神像がターコイズ色に輝きだした。神像の輝きはやがて小さな球体に形を変えて、空の体内へと取り込まれていった。
すごい一体感を感じる。
今までにない何か熱い一体感を。
風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺のほうに。
中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。
この世界の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。
信じよう。そしてともに戦おう。
悪党や邪魔は入るだろうけど、絶対に諦めるなよ。
瞬間、空は直感的に【風】を感じ取った。元素の流れを読み取ったり、一時的ではあるがそもそも風の元素を扱う事を瞬時に肌で覚えてしまったのであった。
「うぉぉ……! すごい風の力がみなぎってくる! パイモン! これは一体!?」
「オイラ知らないぞ…… 何だそれ…… 怖……」
──この発言を受け、星落としの湖は一時、静寂に包まれることとなった。
……この短時間でまたしても幾つものネタを仕込ませてもらったが、もしこれら全てを知りえてる読者がいるならば、君達はインターネットの流れをよく熟知してると言えるだろう。
「……つまり、おまえはあの瞬間、「風」の元素力を手に入れたってわけだな。一応言っておくとな、この世界の人が力を得るのは、おまえみたいに簡単じゃないんだぞ……」
「えっ、そうなのか? じゃあなんで俺だけ……」
「それはまぁ……あれだ。おまえはこの世界の人間じゃないからだろうな。それよりもアレを見てくれ!」
話を変えるかのように、パイモンは視線を西の方へと促した。
視線の先にあったのは──巨大な風車が立ち並ぶ、城壁に覆われた大きな街だった。
「この先にあるのがモンドっていう城下町だ。風神・バルバトスについての話が聞けるかもしれないから、暫くはあそこを拠点にしようぜ! それと、モンドには風を言葉に乗せるって考え方があるからか吟遊詩人が多いみたいなんだ。妹の事について何か聞けるかもな!」
希望を胸に、2人はまた歩み始める。
──テイワットを巡る旅は、まだ始まったばかりだ。
- ようこそ、どうしようもないテイワット大陸へ ( No.2 )
- 日時: 2023/06/13 22:41
- 名前: HAL (ID: J0KoWDkF)
──さて、2人がモンド城へ辿り着いてからかれこれ3週k……
「うぉぉぉぉぉぉぉぉい!!! いくらなんでも時間を跳ばしすぎだぞ!!!!」
……え? パイモンの言う通りだって?
それでは読者諸君らに説明させていただこう。
実は旅人一行はモンド城に着くや否や、龍災という中規模ほどの災害に見舞われてしまう。
ここの所、龍災の影響がモンド各地で発生してるらしく、この問題を解決させないことには風神を探すもへったくれもないとの事だった。
結果、空達は仕方なくモンドの龍災問題を現地の民と協力して、なんやかんやの行動の末に無事解決させたのであった。
「だ、か、ら、違ぁぁぁぁぁう!! どうしてそんな大切な冒険の部分をササッと切り上げちまうんだよ!」
──理由は単純である。
そこを話してしまえば原神という物語の大きなネタバレになってしまう上、本ゲームは基本無料でプレイ出来るので是非とも本筋は読者自身の目で見てほしいと思ったからである。同時にその辺をネタ交えてカオスに仕立て上げる気はない!
「あぁもうめちゃくちゃだよ……」
「あの……もう本編進めてもいいか?」
???「……全く。君達にはアップルサイダーを出したはずなんだが…… どうしてそこの酔い潰れた吟遊詩人みたいに上の空のような会話を続けているんだい?」
???「えっへへ~、酔い潰れなんて言わないでよねぇ~」
……では、改めて話を戻すとしよう。
空達がモンドへ着いてから3週間後。街を襲っていた直近の問題を解決した2人は、現在エンジェルズシェアという「酒場」に来店していた。おいそこ、未成年が飲酒するんじゃねぇよとか言わない。バーテンダーだって分かってんだからそこんところは。
とにかく、現在空とパイモンは酒場のカウンター席で、バーテンダーからお勧めされたアップルサイダーを頂いていたのだ。
「あぁ、えぇっと…… い、今の会話は聞かなかった事にしてほしいな、ディルックの旦那……?」
「こっちの話だったもんだからさ…… 本当にゴメンね? ディルックさん」
ナレーション相手にツッコミ倒しているやり取りを聞かれてしまったことに思わずタジタジになる両名。この件に、ディルックと呼ばれた深紅の長髪をポニーテール状に結ったバーテンダーはため息をつきながら話を続けた。
「もうさん付けではなくていいと言ったろう? まぁいい。それより本題だが……明日にはもうモンドを出発するのか?」
「うん。風神からはもう、色々と話が聞けたからね」
「ホント、この横で酔っ払ってる吟遊野郎が風神だなんて、未だに信じられないぜ……」
「ちょっと~、その言いがかりは流石に酷いんじゃないかなぁパイモン」
パイモンの吟遊野郎という言葉に反応を示したのは、先程から旅人達の2つ隣の席で酒を飲み続けていた、深緑を基調としたハンチング、マント、衣装を羽織った下手したら空よりも幼そうな見た目をした吟遊詩人であった。先程からの様子で分かるように、現在彼は絶賛酔い潰れ真っ最中である。
「まぁでも良かったじゃない? ボクなんて普段神出鬼没だからさ、そう簡単にはお別れの挨拶なんて言えないよ?」
「それは普段お前があちこちをふらふらうろついてるからだろ!」
「まぁまぁ……; とはいえ、ウェンティには結局色々と世話になったな」
ウェンティと呼ばれた吟遊詩人、又の名を風神バルバトスは、パイモンのガミガミをいとも介さず、空の話に乗っかってきた。
「何言ってるのさ。それはこちらの台詞だよ。君達のお陰で今のモンドがあるんだから。風神の威厳も少しは取り戻せたんだからね?」
「風神の威厳、かぁ……」
テイワットの七国には、それぞれの独自性を示す象徴のようなものがある。中でも、ここモンドは「自由」を象徴とする国であった。
自由を重んじるモンドという国には、実は統治者がいない。故に各々が自由なスタイルで日々を過ごし、それらの自由を保護する為に「西風騎士団」という防衛組織が発足された。
The・酔っ払いと言われても仕方ない風貌のウェンティが、そんなモンドという土地の神様であるという事実。モンドだからこそと思うと同時に、本当に彼に威厳は戻ってきたのか、そもそもそんな自由を象徴とする神様に威厳は必要なのか、そう思わずにはいられない空であった。
カランコロン、と戸に付随するベルが鳴る。
流石に長居するのもアレなので、アップルサイダーを飲み干した空達は、会計と別れの挨拶を済ませた後、手短に店を後にするのであった。
後は少し夜風を浴びたら宿に戻ることにしよう。そう決め込んだ2人が街を歩いていると、聞き慣れた声が彼らを呼び止めた。
「……あれ? おーい、空ー!」
「ん? あの声は……バーバラか?」
声のした方を振り返ると、夜の帳によって薄ら藍色にも見える純白の衣服を纏った、カールのかかったツインテールの少女がこちらへ駆け寄ってきた。
「こんな時間に逢うなんて珍しいね。見たところエンジェルズシェアの方から来たっぽいけど……」
「あぁ、さっきまでディルックと話をしにね。もうすぐモンドを離れないといけなくなって……」
「えぇっ、もう出ていっちゃうの!? この間やっと私のアイドル公演を見に来てくれたのに!?」
空の急な発言に戸惑いを隠せないでいるバーバラという少女。
先程の発言から彼女の職業はアイドルなのか?と思われることだろう。……しかし実際のところは違う。
──そもそも、テイワット大陸には「『アイドル』という概念は存在しない」。
では、何故彼女はアイドルを自称するようになったのか? 本人曰く、とある出自不明の雑誌に刻まれたアイドルという概念に感銘を受けたからとの事。
実はバーバラの本当の職業は聖職者。モンドには西風騎士団の他にも西風教会という組織がおり、風神への信仰にまつわる事業を一手に担っているのだ。……残念ながら、風神の正体があの飲兵衛詩人である事を知っているのは極僅かなのだが。
そんな教会のシスターとして人々の心身を癒す機会が多かったバーバラは、自らより精力的な活動を続けるべくアイドルとしての自覚を宿すようになったという訳だ。
「ごめんな、バーバラ。オイラたちももっとバーバラの公演は見ていたいんだけど、オイラたちが旅をする理由ってのもあるからな……」
「妹探しの旅を、止めるわけにはいかないんだ」
「……そっか。そうだよね。私も、お姉ちゃんについてちょっとした悩みを抱えてるから……うん、身内の心配はしちゃうよね」
「……? お姉ちゃん……?」
「ああっ、うん。私にも居るんだよ、お姉ちゃんが」
「へぇ~、はじめて知ったぜ」
兄妹の心配事とあっては流石に引き止めるには気が引けてしまったバーバラ。彼女にも思うところがあったようで、彼女の姉の存在を知った2人は少し驚いた表情をしていた。
「でもまぁ、最後にお話が出来てよかったよ」
「どうせ今後もモンドには何度か立ち寄ると思うぜ。その時はまたライブ観させてくれよな!」
「……! うん! 約束だよ?」
小さな約束をした後、バーバラは2人と別れた。
時刻もすっかり22:00を過ぎていた。明日も続くモンドへの別れの挨拶の為に、空達は宿に戻り就寝した。
──明くる朝。
宿から出てモンドの街を見渡していると、空を何かが駆けていくのが見えた。
普通は鳥だと思うだろうが、実際のところは違う。
飛来する物体は、こちらの方に気づくや否や軽やかに滑空をはじめ……2人の前で丁寧に着地した。
「やっほー、あんた達! 朝から出歩いてるなんて感心だね!」
「あっ、アンバー!」
「おはよう。今日も朝の偵察かい?」
飛び降りて空とパイモンに挨拶を交わしてきたのは、赤いウサ耳を彷彿とさせるカチューシャを付けた、アンバーという茶髪ロングの熱血少女だった。
滑翔の為に使用していた翼のようなものを仕舞い、彼女は満面の笑みで2人に向き合った。
──さて。
こごで原神、テイワット大陸を舞台にするにあたりまたしても必須説明事項であるアイテムが登場したので軽く触れさせてもらう。
先程アンバーが滑翔の為に使用していた人工の翼。あれは「風の翼」と呼ばれており、テイワットでは割とポピュラーな物である。
自発的な飛行能力は持ち合わせていないものの、滑翔が出来るようになる為、旅の幅を思いきり拡げることができる。
実は空にとってアンバーは初めて会ったモンド住民であり、彼が持つ風の翼もアンバーから頂いたものだったりする。至れり尽くせりか。
……という事で話を元に戻そう。
空からの問いかけに気さくにアンバーは答えていく。
「うん、そんなところ。朝っぱらからのパトロールも偵察騎士の役割だからね!」
「そんな日常業務も担当してるのか…… 西風騎士団って変なところで大変だよな……;」
「あっはは…… でもアンバーも皆もそこまで気にしてはなさそうだし良いんじゃない?」
……この会話で気づかれた方もいると思われるが、アンバーは西風騎士団の1人である。詳細役職は偵察騎士。まぁ名前通りの活動内容である。
「それで? 今日は2人は何をしに行くつもりなの?」
「それなんだけど、今日中にモンドを出る事にしたんだ。次の旅のアテが決まったからな」
「今日早起きしたのは、西風騎士団本部まで行って最後の挨拶をするつもりだったんだけど……」
「えぇっ!? もう行っちゃうの!? せっかく仲良くなれたってのに!?」
流石の急な連絡にアンバーも驚愕を隠せないでいた。が、バーバラとは違い直ぐに顔を元に戻して、今度は食い気味に2人に詰め寄った。
「でもでも! またモンドには絶対に来るんだよね!」
「ちょちょ、近い、近いって!」
「絶ッッ対に来るんだよね!?」
「あ、当たり前だろ……? だってオイラたち友達だろ?」
「……ならば良ぉーし!」
まるで言質を取ったかのようにむふーんとした笑みでアンバーは元に戻る。
「わたしのモンドオススメスポットはまだまだ沢山あるんだから、今度再会した時は覚悟しててよね! それじゃまだ偵察業務があるから、じゃーねー!」
言いたい事は全部言ったのか、そのままアンバーは風のように駆け出していった。
「……ほんっとアンバーって行動力が高いよなぁ」
「まぁそれが彼女の良さだし……; さっ、俺達も騎士団本部に急ごう」
- ようこそ、どうしようもないテイワット大陸へ ( No.3 )
- 日時: 2023/06/13 22:51
- 名前: HAL (ID: J0KoWDkF)
かれこれ街中を少しばかり歩き回り、騎士団本部に2人は辿りついた。
門番の騎士に話をしようとした矢先、誰かが先に本部から出てきたようだ。
「おや? こんな早い時間から西風騎士団に用があるなんて人はそうそういないと思っていたが……誰かと思えば旅人とパイモンじゃあないか」
「「ガッ………ガイアッッッ !!!」」
扉から出てきたのは、ガイアという長身褐色眼帯イケメンの西風騎士団であった。詳細役職は騎兵隊長。これでも並の人間より位が高いのは確かだ。
「おいおい、そんな驚いたような表情で俺を見ないでくれよな。傷ついてしまうだろう?」
「フン! おまえの言葉が胡散臭くて信用ならないのはいつも通りだぜ!」
「パイモン、幾らなんでも言い過ぎだって。……否定はしないけど」
なぁんかこの2人の態度が露骨に嫌そうなものになってるかもしれないが、実際空達は何度かガイアに良いようにやられてしまった事があったりする。
時に泥棒退治のために扱き使わされたり、時に慰労パーティー開催のための下準備を押し付けられたり……信用はしてるのだがどうにも胡散臭いのである。
「しかし、この時間に騎士団本部を訪れようとしたのは良い判断だと言えるだろう。今日は日中の間は特に業務が忙しくなるようでな。モンドを出る事をジンに伝えるなら今の内だと伝えておこう」
「……!? なんでその事を……!!」
「あの時、エンジェルズシェアで酒を飲んでいたのは何もお前達だけではなかったと、それだけの話さ。それじゃあ、次の旅も達者でな」
言いたい事は全て伝えたのか、そのままガイアは街中へと歩き出した。
……ご覧いただいたように、この抜け目のなさ、頭脳プレーが光りやすいのが、彼が胡散臭いと言われる主な原因だったりする。
門番に話を通して、2人は騎士団本部に入り込む。
入って左手手前側の部屋が、現在の西風騎士団「代理団長」が居座る大団長室だ。何度か訪ねたことはあるとはいえ、毎度この部屋に入るには緊張感が生まれる。
意を決した空は数回ノックをした後、ドアノブに手をかける。
部屋の先には、現在の西風騎士団トップである、威厳と気品に溢れた代理団長の──
「ちょ、ちょっと待ってくれリサ!! いくらなんでもこのような露出度の高い服装では私の羞恥心が……///」
「何言ってるのよジン! これ位攻めた衣服でなければ、あの重苦しい過去で表情や心まで重苦しくなってしまった彼の心を開かせることなんて出来ないわよ! いい加減覚悟を決めなさい!!」
「「………………あぁ、ええっと………………;」」
「「……………………あっ」」
……すみません、先程の言葉を訂正させてください。
ガイアが話したモンドの代理団長・ジンという女性は、現在隣にいる同年代の紫を基調とした魔女のような衣服の女性によって、「背中がガン開きの縦セーター&ショートタイツ&ネコ耳カチューシャ」という、この世の童貞男性にクリティカルヒットを与えんばかりのあられもない姿にされていました。
……いやマジで、代理団長の威厳どこ行った?
「こ、こんな……こんな恥ずかしいところを……栄誉騎士に見られるなんて……わたしはぁ……///」
「………………何か遺言は??」
「「いくらなんでも誤解じゃないですか(だろ)!!??」」
──かれこれ、一連のやり取りで十分後。
「……コホン。先程は見苦しい所を見せてしまったな」
「……ジンさんのその鋼のメンタルは、本当に尊敬に値すると思います」(雷元素付着)
「私の方もごめんなさいね。つい勢いに任せてしまった面があるというか……」
「うぅ……とばっちりにも程があるぞ……」(雷元素付着)
……衣服を戻し正装となった状態で、改めて代理団長ジンとの対話が叶った。
それと、先程ジンが栄誉騎士という名を挙げていたのだが、これは龍災を一度退けた上に龍災問題の解決にもご協力をしてくれた例として、西風騎士団が旅人とパイモンに送った称号である。
ちなみに隣にいる紫色の魔女は、ジンが話していたようにリサという女性である。詳細職業は西風騎士団の図書館司書。
……尚、旅人とパイモンに雷元素が付着されているのは、彼女による(一方的な)お仕置きを受けたからに他ならない。
──ここで、冒頭の話を思い出していただきたい。
このテイワットの世界では、通常の人間には元素力は取り扱えないという話をしたはずだ。しかし、リサは雷元素を駆使して空達に制裁の雷(物理)を与えた。
これ即ち、リサは雷元素の「神の目」を所有しているという事に他ならない。
というか、これまでのお話で登場したメンバーは全員揃って……いや、1名除いて「神の目」を所持している。
アンバーとディルックが炎元素、バーバラが水元素、ガイアが氷元素、そしてジンが風元素の神の目を所有している。
……ではウェンティはどうなのか、と気になった方もいるだろう。改めて冒頭の説明をご確認いただきたい。
「通常の人間には元素力は取り扱えない」のである。
──逆に言えば、『神様は「神の目」など使用しなくても、初めから元素力を取り扱える』のである。
まぁ勿論、そんな事をしようものなら怪しまれるのは確実なので、普段はレプリカの神の目を所有してるようだが。
……えっ? ウェンティの取り扱う元素は何だって? なんで風神と呼ばれてるのかをよく考えてください。
「……そうか。では2人とも、元気でな」
「また可愛い子ちゃんたちに会える日を楽しみにしてるわ」
「おーい、ナレーショーン。お前が色々説明してる内に、帰りの挨拶済ませちまったぞー(小声)」
うっっっわいつの間に!?!?
まぁ別れの挨拶はここまで多岐にわたって展開してきたので、最後くらいは割愛しても許してつかぁさい←
さて、挨拶を済ませたので部屋を出ようとした空達だったのだが、ここで空がパイモンにこう告げた。
「あっ、ごめんパイモン。最後にもう1つ相談事があったから、一旦先に外に出てもらっていいか?」
「えっ、なんだよ。オイラに聞かれちゃマズい事だってのか?」
「個人単位で気になったことがあるんだよ……」
「ふーん……? まぁいいや、あんまり遅れるなよー」
渋々了承したパイモンは先に騎士団本部を後にした。
その後空は、リサの方に相談があるとして、2人でリサ管轄の図書館に場所を移した。
「さて……それで? あなたはわたくしにどんな相談事があったのかしら?」
「あぁ。先程のジンさんの衣装についてだったんだけど……」
──刹那、リサの眼が鋭く光る。
発言次第じゃタダでは済まさないと。そう威圧するには十分なものだった。
だが空は、ある確認がしたくて言葉を続けた。
「……あれ、ディルックさん用のデート衣装って認識で合ってたかな?」
……実は、空にも多少の覚えがあった。
モンドの龍災に纏わる事件を解決したと話をしたのだが、その当事者というのが空達、ウェンティ、ジン、ディルックの4(+1)名であった。えっ、あの酒場のバーテンダーそんなに強かったの?と思われるかもしれないが、後述のとある理由から察して頂けると、彼もまた強者なのだろうということが見て取れるかと思います。
その道中、ジンとディルックの両名は、過去に西風騎士団という組織に対する因縁、不信という理由で、もはや修復不可能とも呼べる程に関係が悪化した事があるという話を知った。
しかしながら、今回龍災事件を解決するにあたりディルックが助太刀を依頼したのは、他ならないジン「個人」であった。
ディルック曰く、自身も元西風騎士団の一員であり、ジンは当時の後輩だったという。
西風騎士団に対しては今も尚、露骨な嫌悪感を表す程のディルックが、何故代理団長のジンに「ただの一個人」と身分を置き換えてでも救援を依頼したのか。そして何故ジンは、そんな彼の無茶な要望に応えたのか。
──実はお互い、個人については今も認め合っているのでは?
そう考えれば確かに大体は合点がいくのである。
……しかし、空はもう1つある事に気づきつつあった。
(なんか旦那とジンさん、お互い気恥ずかしがってるな……?)
2人のやり取りを間近で見ていたからこそ気づけた事なのだが、両者が肯定的な意見や身を案じるような発言をしていた時は、何故か視線を横に逸らしていたり耳が微妙に赤く染まっていた事に彼は気づいてしまったのだ。
……最も、その場に他にいたのが、色気よりも食い気な白い飛行物体と、恋愛だって自由にしていいじゃないという理念のちゃらんぽらん風神だったので、この疑念を確信に変えることが出来ないでいたのだ。
これら一連の仮定が果たして本当に合っていたのか?
せっかくなのでこの答えを知りたかった空の目の前に映るリサの表情は──
──完全に、子供の成長に感極まったお姉さんの表情であった。
「……まさか、ただの可愛い子ちゃんかと思っていたら、人の恋心まで察してあげられる聡い子でもあったなんて……うふふっ、お姉さんもう惚れ惚れしちゃう」
「……ははっ、それはどうも」
……ともかく、何故西風騎士団の代理団長が友人の図書館司書に危ない衣服を着させられていたのか。その真相の確認が出来たことで、一先ずモンドを後にすることは出来るだろうと、空はそう思う事にした。
(2人とも……強く生きてください…………)
- ようこそ、どうしようもないテイワット大陸へ ( No.4 )
- 日時: 2023/06/13 22:49
- 名前: HAL (ID: J0KoWDkF)
さて、モンドを離れた旅人一行が次に目指したのは、テイワットでも最も商業が栄えているという隣国、「璃月」であった。
「自由」のモンドと相対するかのように、璃月は「契約」の国とも称され、法律や商業が盛んになるには確かにうってつけな象徴である事が見て取れるだろう。
パイモン曰く、璃月には岩神モラクスがいるのだそうで、年に一度の信託の場面くらいでしか大衆の前には現れないという噂を聞きつけて、急いで璃月の中心部「璃月港」にやってきた次第である。
──それからとんでもなーい事件が諸々あったからか、気づけばモンドを離れてから2ヶ月が経とうとしていた。
「……もうツッコまないからな?
も う ツ ッ コ ま な い か ら な ! ? 」
流石に天丼をツッコむ気はないとパイモンに言われたので、話をそのまま進めるとしよう。
璃月で巻き起こった数々の大問題の解決にも尽力してしまった空とパイモンは、モンドの栄誉騎士に続いて璃月でも英雄の1人としてすっかり認知されてしまった。その名声は、もはや人ならざるものにも行き渡るほどに。
「ほぉっ、ほぉっ。よく来てくれたねぇ、子供たち」
「えへっ。久しぶりだな、ピンばあや!」
「ご無沙汰してます」
この日、空達はとある人物に呼び出されて、璃月港の中でも取り分けお偉いさんが働いてるとされている玉京台に来ていた。
空とパイモンが中でも今日用事があったのが、ピンばあやという玉京台の片隅で茶器の一式を揃えて花を愛でて日々を過ごすおばあちゃんであった。
何故2人が彼女と縁があったかというと……璃月で起こった大問題を片付ける際、空達がとある依頼を受ける為にピンばあやのもとを訪れたのが事のきっかけだったと話しておこう。
「もうあの事件から一月経つ頃かのぉ。子供たちはその間、元気にしておったかい?」
「おう、もちろんだぜ!」
「それで、今日は何の用かな? 困り事があるならいくらでも手伝うけど……」
「いんや、子供たちは璃月港のために十分手助けをしてくれた。これ以上面倒はかけられんよ。むしろ今回は、ばあやの仲間たちと一緒に、子供たちに贈り物を用意したんじゃ」
「お、贈り物!!」
「そんなわざわざ…… 俺達は目的の為にやるべき事をやったまでですよ」
……そう。今回ピンばあやが2人を呼び出したのは、旅人達に贈り物を用意したからだった。
興奮するパイモンと謙遜する空を相手に、ピンばあやとしてはどうしても贈り物を受け取ってほしい訳があるようで……
「以前子供たちは、普段野宿で生活しているという話をしていたろう…… まだまだ旅は長いんじゃ、このままじゃいかん」
「幸い、ばあやは年こそ取ったものの、まだ僅かながら使える「外景」の力で、子供たちのための小さな世界を創造できる」
……えっ? 今急に話が飛躍しなかったかって?
ちゃんと少し前の文章を読みましたか?
空達の活躍は、「人ならざるもの達」も認める程のものだったんです。
たとえ小規模だろうと世界を創造する事が常人にできる筈がないのは明白でしょう?
実はピンばあやの本当の正体は「歌塵浪市真君」。こんな漢字まみれの名前な時点でうっすらと想定がつくかと思われるが、立派な『仙人』である。
……いやまぁ、いくら仙人の立場だからって、世界創造が出来てしまうのはやりすぎでは?と言われてしまったらそうではある;
「しかし…… 実はその贈り物なんじゃが、まだ最後の材料が足りておらんくてのう。あの子がそれを見つけられるといいんじゃが……」
ピンばあやが言うには、贈り物を完成させるにはまだ1つ足りない材料があるようだ。もう既に、ある人物に捜索依頼を出していたそうだが……
そんな話をしていると、不意に空達の後ろから声がした。
「ばあや、ただいま。……おや? この2人は……」
「おぉ、戻ってきたか。2人にも紹介しよう。この子は煙緋。さっき言ってた子じゃよ」
後ろを振り返ると、まるで博識な人物が被っているであろう紅い大きな帽子を身につけた、頭部から……角(?)のようなものが生えているのが特徴的な、炎元素の神の目を宿した少々開放的な衣装の少女がそこに立っていた。
「とすると、君達が件の…… あぁ、話は知ってるよ。千岩軍の記録に詳しく載っていたからね。私は煙緋、法律家だ。法律に関する困りごとがあれば、私を訪ねるといい」
「あぁ、どうぞ宜しく。……ん? 法律家?」
「えぇっと…… 見たところ確かに仙人っぽいんだけど……?」
「仙人? まぁ確かにそうとも言えるな。お父様は自分を仙人だと言っていたし」
煙緋から提示された情報に、一瞬頭に?が浮かんでしまった空とパイモン。
まぁ仙人と呼ぶにはあまりにもサバサバした性格、法律家という俗世に関わる気満々の職業、ついでに法律家名乗る気あるのかというレベルで開けた衣服であったのが一連の原因なのだが。
「ところでだ、ばあや。頼まれてたものはほぼ揃ったんだが、1つだけ現地では採ることが出来なかったものがあってな…… もしかしたら璃月港の市場に残ってるかもしれない。引き続き調査をしに行ってもいいか?」
「待ってくれ、良ければ俺も一緒に行っていいか?」
「! ほう、お前も一緒に来たいのか? 勿論ダメとは言わないが、出来れば横で見ているだけにしてくれ。安易に首を突っ込んで「法」に抵触しないようにな」
ピンばあやの贈り物を完成させるべく、旅人たちは煙緋に着いていく形となった。
この最中で、煙緋の法律家としての仕事の流儀などを目にするのだが、今回この話は物語の本編には関わらないので割愛する。
「ただいまー! 無事に最後の材料も集まったぞー!」
「煙緋のお陰で無事見つけられたよ。本当にありがとう」
「なぁに、私はばあやに頼まれたから引き受けたまでのことさ。それじゃあ私はもう帰らせてもらうよ。まだ大勢のお客さんが私のことを待っている」
パイモンとピンばあやが贈り物についてのやり取りをしている間、空は煙緋と別れの挨拶をしていた。
その場を離れようとしたその時、ふと何かを思い出したかのように煙緋はもう一度空に駆け寄った。
「あぁ、そうだ旅人。私から貰った名刺はちゃんと持っていてくれよ?」
「えっ?」
「最近は他国の法律や妙な法律についての研究もしているんだ。もし他所で法律に関する問題に遭遇してしまったら私を訪ねるといい。ときに……」
ここまで言うと煙緋は、何故か改めて周囲を見渡してまるで誰かが盗み聞きでもしてないかを確かめた。
問題がない事を確認した煙緋は、その後空にもう少し近づくよう手招きをし、先程よりも少し小さな声でこんな事を聞いてきた……
「……不躾を承知で質問する。君達は『裸族』というものに遭遇してしまった経験などはあるだろうか?」
「………………裸族? 聞いたことがないな……」
「あぁ、そうか…… いや、それならそれでいいんだ」
「何か面倒事でもあったのか?」
「いやな。ファデュイやアビス教団のような大掛かりな問題には法律が関わる機会はあまりないのだが、宝盗団のような中小規模の犯罪だと駆り出されることが多いんだ。だが最近、こうした刑事訴訟の割合に変化が表れ始めてね……」
……ちょっと待ってほしい。
なんか今、原神というコンテンツで遊んでいるユーザーならほぼ間違いなく聞いたことが無く、小説カキコを愛用していた民達にはやけに聞き覚えのある単語が飛び出してきたような気がするのだが……
「……つまり、裸族という謎の信仰がある団体が見かけられるようになったから、もし法的な裁きが必要な場合があったら連絡してほしいと」
「あぁ。出来れば一度も関わらないでいられるのが最も理想なのだが……」
…………落ち着け。まずは冷静になろう。
ここは一旦、先程煙緋が挙げた「現在の旅人の主な敵対組織」についての話をしよう。
まずはファデュイについて。
この集団は、テイワットの七国の1つ「スネージナヤ」を拠点にしており、女皇陛下──恐らく、即ち氷神の為に各国で暗躍をしている組織である。
実は璃月で起こった大問題というのも、大元を辿ると原因はこの集団である。それだけでも、危険度が高い集団であることは想像に難くない。
次はアビス教団について。
この集団はなんでも、アビスという深淵より来訪した者達により構成された組織……らしい。
というのも、教団的な側面はほぼ無いに等しく、被害状況を鑑みても人間への敵対、破壊行為を目的としてることが大多数である事から、どちらかというとテロ組織としての側面の方が強いのだ。
現に、モンドの龍災の大元の原因は実はこの集団である。
あとは宝盗団についてか。
戦力自体や犯罪規模、組織力だけでいうなら、ハッキリ言って前述の二例に比べると明らかに劣っている。まぁ名前の通り、ただの宝を手に入れたいが為に悪事に手を染めている集団だからという話なのだが。しかしながら、この集団の最大の問題点は、その数の多さにある。
テイワット大陸全土の至る所に分布が確認されており、日夜彼らの起こす面倒事に、各国の防衛組織は対応を余儀なくされている事が多い。
……で、話が戻ってくるわけで。
何? この面倒な集団の中に裸族組織まで関わってくるの? HAL世界線のテイワット大陸終わってない?
- ようこそ、どうしようもないテイワット大陸へ ( No.5 )
- 日時: 2023/06/13 22:52
- 名前: HAL (ID: J0KoWDkF)
煙緋からの衝撃の告白に対して一息ついたところで、空は再度ピンばあやから呼び出された。
「ほぉっほぉっ。随分と煙緋に気に入られたようじゃな」
「旅の忠告を受けてただけだよ。何やら不穏な話も伺ってしまったし」
「ふむ…… であれば尚のこと、この贈り物は受け取ってもらわないとねぇ。さあ、この『塵歌壺』を子供たちに贈ろう」
そう言ってピンばあやから贈られたのは……1つの小さな壺だった。どうやらピンばあやは、この小さな壺の中に旅人達の仮住まいとなるであろう生活空間を生み出したらしい。
「あぁ。それとこの「設計図」、壺の中をもっと賑やかにしたいなら、これを使うといい」
「何から何まで……本当にありがとう、ばあや」
「でも…… ばあや、この壺……どうやって使うんだ?」
「心配はいらないよ。もう「おチビちゃん」と……ばあやの仲間の一人を壺の中に呼んでおる。この塵歌壺に関することは、その子らに聞くといいじゃろ」
流石に頭の中が?で埋め尽くされそうになる2人だったが、結局は百聞は一見にしかず。
かつての依頼時に試した時と同じ要領で、彼らは壺の中を覗き込んだ……
2人が目を覚ますと、そこはもう玉京台の景色ではなかった。
かつて仙人の作りし秘境を冒険したことがある空達だったのだが、今目の前に広がっている光景はその時の情景に何処か似ているような気がした。
そして、かの幻想的な風景の真ん中には、ポツンと璃月で見られるような大きな一軒家が建っていた。恐らくはアレが2人の住宅なのだろうと確信した。
……しかしながら、まだまだ疑問点は残っている。
ピンばあやが言うには、おチビちゃんと……ばあやの仲間の一人という位には、また別の仙人がこの中に居るはずなのだ。
家の周囲を見渡していると、庭先に人並みの大きさの……ヤマガラだろうか? のほほんと1羽佇んでいるのが見えた。
「……おや。ようやく人が来ましたか。初めまして」
「どうも。多分ここは塵歌壺の中だと思うんだけど……あなたは?」
「はい。私は「壺の妖精」です。名前は……ええっと……」
「…………まぁ、とりあえず「マル」と呼んでください!」
「とりあえずで名前を決めるなよっ!!」
まんまるとしたマルと名乗るヤマガラっぽい妖精は、洞天──つまりこの壺の中の世界にまつわる雑事、相談事などを一手に引き受ける役割を持つことを話してくれた。確かに、四六時中壺の中にいる訳ではないのだから、彼女の存在がどれ程有り難いかはよく分かることだろう。
「あぁ、そうでした。ところでお二方、設計図は持っていますか? あれらには綺麗なお家や家具などが描かれており、必要な材料を用意してくれれば、あなたたちの望むがままに洞天を建て直すことが出来ます」
「設計図…… 多分ピンばあやが一緒にくれたものだよな? 旅人、試しに何か作ってみようぜ!」
マルが教えてくれた手順通りに、空は調度品を製作する。
もらった設計図を確認し、該当素材を用意した上で、頭の中で完成品、及び配置をイメージする……
──僅か数秒で、簡易的な工房が住宅前に現れた。
「す……すげぇ…………」
「お、おい、旅人! もっと、もっと色々作ってみようぜ!」
思わず興奮した空達は、さらなる洞天内改装の為に今度は住宅内に乗り込んだ。
「『──かくして、金髪の異邦人は多大な犠牲を払いながらも、なんとか港の脅威を鎮めたのであった。』ふぅ……まぁこれだけ書ければ上々でしょう」
「……おっと、ようやく物語の主人公がやってきた訳ですね。よくぞ来てくれました」
住居内では……恐らくピンばあやが話していたであろうもう1人の仙人(?)が、何やら書物を書いてるようだった。
「うわあああーーーーっ! ……ってビックリしたぞ! お前、何処の誰なんだよ!?」
「おや? ピンばあやからお話を伺いませんでしたか? 外にいたマルと一緒に、この壺でのお世話を受け持ったのですが……」
「……あっ、もしかして貴方が仙人の?」
書いていた作品に一段落が着いたからか、冴えない青年は筆を置いて2人に向き合った。
「仙人、かぁ。うん、まだそう呼んでもらってて構わないよ。俺の名前は……いや、こっちの方はちゃんとした名で言おうか。HALという。宜しく」
「初めまして、空です。こっちはパイモン。ええと、H……A…………??」
「つっはは。見慣れない言語だものな。困惑しちまうのも無理はなかったか、申し訳ない」
「そ、そんなヒルチャール語みたいな名前の奴、今まで聞いたこともないぞ……」
ここで豆知識を1つ。原神というゲームは当然ながら日本語対応もバッチリなのだが、その影響か日本人から見たテイワット大陸には英語の概念がほぼ無いのである。まさか筆者名がボケに直結するとは著者自身も思うまいて。
「まぁそうだな。俺は語の仙人だし『著者』とでも呼んでくれればそれでいい」
「わざわざすみません……」
「ところで、お前はマルと違ったなにか専門的な事が出来たりするのか?」
パイモンからの痛烈な質問に、正直冷や汗が垂れる。しかし、何も考えていない著者ではない。
「専門的、か。そうだな…… では空に1つ質問しよう。君は今後、この塵歌壺で何かをしてみたいという要望はあるだろうか?」
「えっ、自分がしたい事……?」
「あぁ。料理会でも運動会でも勉強会でも……何でもいい。とにかく、何かしらのイベントやアクションを起こしたい、けれどテイワット大陸で行うには無理がある、そんな時に俺を頼ってほしい。全力で君の願いをサポートさせてもらおう」
「な、なんか仙人にしちゃ効果がしょぼいな……」
まぁそう言われても仕方ない。
二次小説で著者に出来ることなど、せいぜい新しい物語の提供や、出来事を物語として昇華させる程度なのだから。
──逆を言えば、物語を生成する為ならば、だいぶ無茶な仕様も押し通してしまえる反則力業も併せ持つ。
ここまでを読み進めた読者ならば、幾つか心当たりがあるのではなかろうか?
「さて。とはいえ、君達の旅はプロローグの真っ最中だ。俺が出しゃばるにもまだ早い」
「「………………??」」
「一度屋敷を出るといい。俺達のこの洞天に対する理解度が十分になった事で、マルが重要なアイテムを生成してくれた筈だ」
「あぁ、俺が出してしまった道具類は気にしないでくれ。直ぐに片付けて、俺の本拠である屋根裏部屋に移しておくから。……最も、君達は屋根裏部屋には入れないんだけどもね」
著者からの誘導に従って屋敷から出ると、すぐ側にいたマルがこちらに声を掛けてくれた。
「おや、丁度いらしたようですね。よかったです」
「さっき、著者さんからマルがアイテムを用意したって話を聞いたんだけど……」
事前にお話を受けてたようならこれ幸いと、マルは空にとある札を渡してくれた。
「これは『洞天通行証』と言いまして、あなたたちの為に生み出されたこの洞天を自由に行き来することを許可するためのものになります」
「本来は個人単位で効力を発動するものなのですが、ピンから聞いた話によれば、あなたは既に数多くのご友人がいるそうですね。なので、著者さんのご協力もいただいて、私達の方で少しばかり改造しました」
「それを招待したい人の手のひらで軽く叩けば、あなたの気がその人の身に入り、あなたの洞天を行き来できるようになります。是非とも、1度やってみてください」
マルと著者という洞天の管理人に出会った空達は、そこで幾つかのまたしても幻想的なシステムに心を踊らされた。
この楽しみを共有したい者達を、最後に洞天に招待するとした。
- ようこそ、どうしようもないテイワット大陸へ ( No.6 )
- 日時: 2023/06/13 23:04
- 名前: HAL (ID: J0KoWDkF)
「……という事があってね。それで、君達を招待したかったのだけれど……」
「……なるほど。あなたからのお誘いをいただけるなんて嬉しいわね」
「……ここが「月海亭」でなければもっと良かったのだけれど;」
マルからの助言を受けて空達が最初に向かった場所「月海亭」という所は、言ってしまえば璃月のトップ層の人間が会議する為に集う職場である。日本でいう所の国会議事堂のようなもの。何故開幕でそこに突っ込んだ。
「私までお誘いしていただけるなんてそんな…… お気持ちは嬉しいのですが、そう容易くあなたの住まいに行けるとは思えなくて……」
「何言ってるのよ甘雨。この話の最大の焦点は「招待に応じれるかどうか」ではなく「招待に応じたいかどうか」よ。私としては興味深い話なのだけれど…… ねぇ旅人、その申請にはどれくらいの時間を要するの?」
月海亭で旅人が洞天への勧誘を行ったのは3名。
1人目は凝光。
事実上の璃月トップ組織『璃月七星』の一角、「天権」である。というか璃月七星の中でも取り分け代表格である。主に璃月の法務を取り仕切っており、司法経済の流れを巧みに操り、璃月の安寧と資産の万全性を確立している。
かつて璃月の上空には、まるで天空城を彷彿とさせる彼女の拠点「群玉閣」が浮遊していた。しかし、先の璃月全土を揺るがす大問題を鎮圧する為の最終兵器として、迫り来る旧き魔神を屠る為に放棄した経緯がある。
白、金、黒を基調とした中華風の衣服を身にまとった高身長の女性。左腰上部には岩元素の神の目を携えている。
2人目の困惑した表情の子は甘雨。
実は麒麟と人間のハーフと、煙緋に似通ったルーツがある。しかし煙緋とは異なり、彼女はおよそ三千年前から活動を始めた。
今は二千年以上の歴を誇る璃月七星全体の秘書を担当している。彼女が困惑してしまったのも、この仕事業務が恐らくテイワットでも1,2を争えるのではないかというレベルで膨大な量であるからだろう。
氷元素の神の目持ちで、頭には半仙の証かのように赤黒模様の角。しかしそれ以上に問題なのは服装で、黒の全身を覆うタイツに腹部から太もも辺りまでを申し訳程度にガードする程度である。つまりエ(ry
3人目の意欲的な少女が刻晴。
璃月七星の一角、「玉衡」。主に建築、土木関連を司っており、その業務内容の都合上、璃月各地を飛び回ってる事で知られる。こうした着工問題は日程に厳しい印象があるが、実直生真面目の塊である刻晴はハードワークを犠牲に完璧主義を貫いてきた。
一応オンオフの切り替え自体は昔からちゃんとしており、休むと決めた時は買い物に出かけるなど年頃の少女らしい一面もある。ただ、大体はやっぱりオーバーワークで、半仙の甘雨と異なり生身の彼女は無理が祟りやすい。空に必死に説得されて、ようやくほんの少しまともになったという。
雷元素の使い手で、紫色の服装をしている。その長髪で擬似的なケモ耳を作った上でツインテールにしてるので、遠くにいても一発で刻晴は分かるという。
……全員揃って、璃月重鎮の年頃な女達である。
璃月全土を揺るがす大事件だっただけに、岩神に逢う目的の為とはいえ、本当に凄い人物との縁を結んでいたというのがよく分かる。
「……っと。これで良し! 忙しい中で本当にごめん! 洞天に遊びに来る様なことがあったら、丁重におもてなしするから!」
「それじゃあな~」
……地の文で自己紹介をしている内に、3人とも招待契約交わしちゃったよ; まぁ前スレの最後に契約方法(超簡単)が載っていたので、あまり問題にはならなかったろうけど。
「全く。普段は真面目に業務の手伝いなどもこなしてくれるというのに、こうした些細な出来事には直ぐに目を光らせて…… 私達の都合も考えてほしいわね」
「ですが、彼の存在が今の璃月、ひいては私達にも影響を与えてくれたのは事実です」
「そうね。甘雨の言う通りよ。……こうなったら、益々仕事のペースを上げないといけないわ。今週末に十分な休み時間を設けて、彼の家に泊まるんだから!」
「……それは気が早すぎないかしら;」
刻晴達の招待に成功した空達は、尚も璃月を走り回っていた。どうやらあと数名ほど、今日中に招待しておきたい人達がいるらしい。
「お、おい旅人。そんなに焦るなって。別に塵歌壺への招待なんて機会があればいつでも出来るだろ?」
「そういう訳にもいかないんだよパイモン。人は業務に熱を持ってる内にそれに取り組まないと、いつか冷めてしまって事の優先度が落ちてしまうんだから」
……とはいえ、空のスタミナも決して無限ではない。息切れを起こしてしまった空は、次に思考を回転させ始めた。
──ふと何を思ったのか、空は自分の所持金を確認しだした。手元には30万モラ。
「……自分とパイモン、2人分なら多分いけるな」
そう呟いた後、空はとある店に向かって走り出した。
気づけば時間は21:30。通常であれば、この時間には2人はとっくに夕飯を食べ終わってる頃だった。しかし今は違う。
「も、もうお腹がペコペコだぞ…… けど正気か、空? この時間から「琉璃亭」で食事だなんて…… 財布のモラがすっからかんになっても知らないからな……!?」
パイモンがこう釘を刺すのには理由があった。
琉璃亭は、璃月の中でも二大とされる超有名料理店の片割れ。璃菜と呼ばれる山の幸をふんだんに使った一品は、筆舌に尽くし難い美味しさだと言われる。
そんな高級料理店に相当腹を空かせて行くだなんて、庶民からすれば考えがたい事であるのは確かだった。
しかし空は、ある記憶に基づいた仮説から、一か八かの賭けに出ていた。
琉璃亭の重い扉を開き、日中に予約した者だと告げた後、指定された座席を目指す。
……その矢先、彼はターゲットが今日たまたまこの店に来店していたことを見逃さなかった。
「……ハハッ、ビーンゴッ」
彼の視線の先には、2人の青年男性が璃菜を囲んで食事をしていた。
1人は、黒地に茶色の装飾をあしらったスーツを着用した、気品風流に溢れる男。
もう1人は、灰色を基調とした服、ベルトの右側に水元素の神の目、そして赤のマフラー(?)を巻いたイケメン……の筈だ。というのも、サイズがやけに大きい色つきメガネに分不相応のつけ髭までしており、明らかに誰かが変装を通じて姿を偽っているようにしか見えなかったのだ。
「すみません、お二方。今、お時間頂いても?」
「……む。これは驚いた。旅人達じゃないか」
「あっれれ、おっかしいなぁー。どうしてこんな所にやってきたんだい、相棒! 鍾離先生もこの反応だし……まさか独断で?」
「そっ、そのまさかだよ」
料理を待つ間の時間を使って、2人の話に参入することに成功した。
鍾離と呼ばれた男は、初めは驚いた顔をしていたが、直ぐに表情を戻すと話の本題を聞いてきた。
「お前達がわざわざ会食の最中にやってきたんだ。なにか話があって来たんだろう?」
「そうなんだよ…… オイラたち、今日ピンばあやから塵歌壺ってのを贈ってもらったんだけど、旅人が2人を招待したいって言って聞かなくて……」
「ほう、塵歌壺を。俺は別に構わないが、なぜ「公子」殿を? 一時行動を共にしていたとはいえ、仮にもお前はファデュイとは敵対関係にあるだろう?」
鍾離がこう聞き返すのにも訳があった。
実は空のことを"相棒"と呼び慕ってきたこの男。名をタルタリヤと言うのだが、実は彼の正体はれっきとしたファデュイ。しかも、ファデュイ組織の中でも選りすぐりからなる11名の執行官「ファトゥス」、その第十一位「公子」の名を授かる、指折りのやべー男なのである。
本スレで何度も語った璃月を襲った大事件の黒幕……と世間では言われており、もはや璃月では立つ瀬のない男であるが故に、尚も璃月に居座る時は(どう見てもバレそうなものだが)変装をしていたという事である。ちなみに本当の事件の真相は少しばかり異なる点があるのだが……その詳細は読者自身の目で確かめてもらいたい。
「まぁ、そりゃあ思いましたよ? この後モンドと璃月の知人をガンガン招待しようかなーと思ってる手前、ファデュイの執行官を住居に招待しようなんてね? 無謀にも程があるだろうって。……でもさぁ」
「タルタリヤの家族に対する愛情とか…… 他の執行官からはひしひし感じられる、欲望を根源とする怨み辛みが、コイツからはどうにも感じられなかったり…… あと……」
「……命賭けて、魂すリ減らして、この世界で初メて本気で闘いに興じることが出来たンだ。……認めちまッたんだよ、俺ノ本能が」
──そこには、モンドの栄誉騎士とも、璃月の英雄とも形容しがたい『ナニか』が残っていた。
或いは、冒頭に語ったあのおふざけの文章が、もしかしたら……
「ぷっ……ハハハハッ!! いやぁ、やはり俺の目に狂いはなかった。それでこそ、俺は君を"相棒"と認めたんだから!」
「……ふっ。何事も、表の事象があれば裏の事象もある。旅人は別に気にしなくてもいい。今ここにいるのは、狂気を武道に注いだ武人と、過去が摩耗していくだけの人間だ」
……かくして空は、鍾離だけでなく、タルタリヤをも洞天へと招待した。彼の洞天招待の旅は、まだ始まったばかりである。
「あっ。さっきも言ったけど、璃月の重鎮も平気で入ってくるから、面倒事はなるべく避けてくれよな」
「えっ、それ自己責任にするのかい!?」
……と、ここまでがプロローグになります。
次回は……何でしょうね。プロローグ後編とでも思ってもらえれば幸いです。
小説カキコでは恐らく自分以外取り扱ってるであろう形跡がない【原神】からの参戦。利用規約を考えると、恐らく本筋でコラボジャンルを用意する事はまぁ無いと思いますので、別案が思い浮かんだら、前作のオリキャラクロスオーバーを改変してお送りするかもしれませんね。
それでは感想をどうぞ!!