二次創作小説(新・総合)
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.106 )
- 日時: 2013/10/01 18:04
- 名前: 風龍神奈 (ID: aS9uLd49)
第13話 禁忌の蘇生術
◆ ◆ ◆
水滴が落ちる音が響く。
それの一つが、額へと当たる。
「ひゃっ」
余りの冷たさに驚いた癒月が、そんな悲鳴を上げる。
「…何をやっているんだか…」
その横で、癒月の様子を見ていた霧野が、苦笑する。
「…酷いですね、霧野先輩は。…霧野先輩もくらえばいいのに…」
後半を若干呪いの言葉にしつつ、癒月は言った。
と、その瞬間。
「わっ」
霧野の額に、水滴が落ちた。
「…くらいましたね、霧野先輩も…」
隣で癒月がくすくすと笑った。
「わ、悪かったな」
霧野がそう言って、そっぽを向く。
(何だか癒月は、狩屋に似てきたような…)
雷門中にいるであろう後輩の顔を思い浮かべ、霧野は思った。
「…! 霧野先輩、来ます」
不意に、癒月がそう言った。
と同時に、洸(ほのか)が目の前に現れる。
「——どうやら、お仲間が来たみたいだぜ」
「…だから、どうするの?」
洸の言った言葉を、癒月が疑問にして返す。
「何も。ただ、お前等を、仲間の許へ返すだけだ。——ただし、少し痛めつけてからな」
洸が懐から、短刀を取り出した。
◆ ◆ ◆
「…此処だよ、ね? 招待状に載っていた場所って…」
クロノストームこと、雷門中のメンバーは、招待状が指定していた場所に来ていた。
が、周りには、崖があるばかりで、何もない。
「偽物だという事?」
「それは無いと思う」
「多分、何かがあるよ」
次から次へと、色々な意見が飛び交う。
暫く議論していた雷門メンバーは、何かが降り立ったような気配がして、振り向いた。
「——ようこそ、皆さん。我等が主の、影の館(ソンプラ・ハウス)へ」
そこには、癒月——カオスがいた。
「まずは、会場へとご案内します♪」
カオスが、何かを呟く。
と、目の前の崖の一部が、扉のように開いていく。
「此方から、お進み下さい。…ああ、それと、一つ」
カオスが入り口の前に降り立ち、言った。
「——まだ、此方にお二方の命がある事を、しっかりと自覚して下さいね」
カオスはまたも、妖艶な笑みを浮かべて消えた。
中は余り暗くなく、所々に、揺ら揺らと松明が揺れていた。
真っ直ぐ廊下らしき場所を進み、突き当たりにあった扉を開ける。
開けた瞬間、目映いほどの光が廊下へと入り込み、メンバーの目を直撃する。
「っ!!」
一瞬にして目をやられた雷門メンバーは、片手で目をおさえながら、扉を潜り抜ける。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.107 )
- 日時: 2013/10/03 17:20
- 名前: 風龍神奈 (ID: d8lWLfwU)
暫くすると、目の視界が戻ってきた。
「なっ…」
目の前の光景は、信じがたいものだった。
「癒月!? 霧野!?」
そこには、何かにずたずたにされたような姿で横たわっていた、癒月と霧野がいた。
フェイが、癒月に駆け寄る。
「…フェ…イ…、霧野…先輩の…治療…」
癒月がそう言って、視線を霧野へと向ける。
「でも…」
「お…願い」
癒月が霧野に向ける視線に、何かを感じたフェイは、気付かないふりをして、霧野の許へ行く。
「…じっとしていて下さい」
霧野にそう声を掛け、手をつき出す。
聖印が出ないように意識を集中しながら、治癒力を持つオーラを傷へと当てる。
一瞬の内に、傷はなくなり、傷口が塞がれる。
「………」
それを見届けてから、すぐさまフェイは癒月の許へと取って返そうとした。だが。
「——残念だったな」
そういう声と同時に、真上から鉄格子が降りてきて、癒月を周りから引き離した。
「「「癒月!!」」」
何人かが一斉に叫ぶ。
「無駄だ。そいつはもう、意識を失っている」
洸が、皆の前に降り立つ。
「…それに、死人を復活させる為には、破壊死書と、それを持つ者の血と体が必要だからな。——お前なら、分かるんだろう? そいつの片割れ、炎の継承者」
皆の視線が、一気にフェイへと集まる。
「…知っているさ。死んだ人を生き返らせるためには、破壊死書と、それを持つ者の血と体が必要な事ぐらい。そして、生き返った人の魂は、破壊死書を持つ者の体に一回入った後、それから自らの体に入る事、その間、その体の魂は、その場を彷徨う事、血は、破壊死書の力を使いこなす為と、楔にする為だって言う事もね」
フェイが淡々と喋り、視線を洸へと向ける。
「…で、君はそれを実行しようとするんだろ? 禁忌である、蘇生術を」
「禁忌だろうが、何だろうが、関係ねぇ。それに、禁忌はお前等の中でだろうが」
「破壊死書を使って人を復活させようという時点で、禁忌何だよ」
フェイはそう言って、癒月を一瞥する。
「…このままじゃ埒があかねぇ。——後は、任せたぞ」
洸が癒月を担いで消える。
「——では、皆さんには、暫く此処で待っていただきます。でも、ただ待つだけではつまらないので、余興を一つ」
カオスが、指を鳴らす。
瞬間、カオスが立っている部分以外、鉄格子が降り立ち、同時に、大きな扉が現れる。
「今から、皆さんには、ある怪物と戦ってもらいます。果たして、特に攻撃に特化している炎を受け継いだ継承者は、聖印を皆に見せる事無く、上手く能力(ちから)を隠しながら、倒せるんでしょうかねぇ〜」
「…貴様…っ!!」
フェイが、カオスを睨み付ける。
「私は、此処で見学させてもらいますから〜。精々、頑張って下さいね、炎の継承者さん」
カオスが、壁に寄り掛かって、此方を見る。
と同時に、扉が開き、中から——バジリスクと呼ばれる怪物が現れた。
「! 怪物…というか」
魔物に属する類だ。完全な魔物ではないが、それに近い存在。
「…っ」
その場にいた、フェイ以外の残りが、息を呑んだ。
恐怖が足元から襲い掛かり、その場から動けなくなる。
「皆、その場に! ——リミッドシールド!!」
瞬間、雷門メンバーの足元から、不可視の障壁が伸びた。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.108 )
- 日時: 2013/10/03 17:21
- 名前: 風龍神奈 (ID: d8lWLfwU)
とそれは、瞬間的に伸びていたバジリスクの尻尾を防いだ。
「間一髪…」
危なかった。
ほっとしたのも束の間、続けて第二攻撃が襲ってくる。
「っ!」
寸前で躱し、メンバーにかけた障壁(上位中上位の障壁魔法)がまだ作動している事を確認し、叫ぶ。
「皆、その場にしゃがんで!」
さっと全員がしゃがんだ瞬間、フェイは唱えた。
「ライトニングヴィアベル!!」
雷門メンバーの頭すれすれを、大量の稲妻が走って、バジリスクに当たり、更に渦が叩き込まれる。
稲妻と渦にもみくちゃにされるバジリスクを見て、フェイを除いた彼等彼女等は戦慄した。
氷炎使いは、こんなにも強いのかと。
そして、こうも思った。
もし、彼が此方に襲い掛かってきたら、皆、終わりだと。
「…っ、まだくたばらないのか…。こっちは上位使いまくって大変なのに」
普段、癒月がいるんだったら、破壊死書の力が此方にも流れてくるのでいくら大量に消費しようが、問題ないのだが、今は癒月がいないので、消費を余り出来ない。
が、相手のバジリスクは怪物なので、生半可な技では、倒せないのだ。
「グアァァァァアア!!」
バジリスクが咆哮を上げる。
それを見て、フェイは一か八か、大技を仕掛けようと決める。
多分それを放ったら、それ以降は技は使えない。
から、それで生き残られたら、もうなす術は無い。
「全員! 僕の後ろに!!」
フェイの声で、一斉に雷門メンバーがわぁと集まって、後ろで固まる。
意識を集中し、大技の詠唱を開始する。
「——今、我の中の魔力を全て使い果たし、全てを破壊し、浄化する事を誓おう。代わりに、最高の力を——」
バジリスクを見て、唱えた。
「——インフィニティ」
刹那。
時が、止まったかのように、見え、た。
◆ ◆ ◆
部屋の中心に描かれている魔法陣のようなものの上に、二つの者。
気を失っている癒月と、遺体となった焔だった。
そして、その傍に洸はいた。
「……」
無言で癒月の首にかけられている破壊死書を取り、彼女から流れ出ていた血の内、一滴を破壊死書につけ、
更に、もう一滴を、焔へと垂らした。
「…創める」
洸が手のひらに破壊死書をのせ、流れるように詠う。
「——我は、【犯罪者】。してはいけない事をし、人を生き返らせようとする者。だが、それに神は振り向かなくとも、悪魔は振り向く。たった今、我は悪魔と契約し、生き返らせる事を決意した」
魔法陣から、ゆっくりと光と螺旋階段があがってくる。
「我の願いを聞き届けし、悪魔よ。今、我の願いを叶えよ。さすれば、この命、差し出してやろう。だから——大事な、愛する人を復活させたまえ…!」
瞬間、あがっていた螺旋階段が、光を纏って盛大に光った。
と同時に、白いぼんやりしたモノが、天から降りてくる。
「——!!」
その白いモノは、ほわほわと周りを漂ってから、素早く癒月の体へと飛び込んだ。
「焔…!!」
洸がその名を呼ぶと同時に、白いモノは横にある自らの体に入り込み、目を開ける。
「…お…兄ちゃん…?」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.109 )
- 日時: 2013/10/01 18:25
- 名前: 風龍神奈 (ID: aS9uLd49)
そう問うてくる焔の口調や、声は全て昔と同じだった。
「…焔…っ!!」
洸は精一杯焔を抱きしめた。
まさか、本当に生き返るとは、思ってもいなかった。
もう、これ以上は、何もいらない。
そう、思った時だった。
「———」
何かに見られているような気がして、洸は後ろを振り向いた。
「っ!?」
癒月が、起き上がって、俯いていた。
「…やはり、いいなぁ」
彼女の口から低い男の声が紡がれると同時に、口元が歪んだ。
「——で、君が望んだ人は返ってきたのかな?」
癒月が顔を上げて、微笑む。
「…貴様は、誰だ?」
嫌な予感がした洸は、焔を後ろへとやりながら、誰何する。
「分からないのかい? 君が魂を売った、悪魔で——破壊死書でもあるモノだよ」
彼女の、癒月の、綺麗な碧(あお)色の瞳が、瞬時に血のような真紅色へと変わる。
「何…だと」
洸が焔と共に一歩後ろへと下がる。
「君は、契約したよね? シタヨナ? 呼んだもんね、大事な人の名をな」
「…っ」
癒月が、じっくりと洸を追い詰める。
彼の後ろで、焔が小さく縮こまっている。
「——何てな。別に俺は、我は、君の、お前の命を取りに来たわけじゃないよ」
ばらばらな口調、調子、語尾で喋る。
「ただ、無事に冥界から呼び戻された魂が、戻れたかどうかを確かめに来ただけ。…それに、そろそろ限界のようだ」
プシュ、と音がしたかと思うと、癒月の額が切れ、たらたらと血が流れ始める。
「限界というのは…その体にいる事か」
「そうだよ。今は血が流れる程度だけど、このまま留まれば、肉体が少しずつ崩れていく。から、戻るよ。
——こいつは、俺等の大事な『サクリファイス』だからな」
そう言って、目を閉じる。
「きちんと、破壊死書は返してやれ。それは、『サクリファイス』を捕らえて置くように必要だからな…——」
語尾が空中にとけると同時に、癒月の体が地面に崩れ落ちた。
◆ ◆ ◆
「なっ…」
フェイの後ろにいた雷門メンバーは絶句した。
何故なら、目の前にいたバジリスクが動きを止めたと同時に、昏い闇に呑まれて消えたから。
「…ハァ、ハァ……ハァ…」
一方で、フェイは荒い息を継いでいた。
多分、今日はもう動けないだろう。皆の手を借りることになりそうだな。
そう、思った。
「——お見事ですね〜。まさか、氷炎使いでも限られた人しか使えない『無窮闇冥呑(インフィニティ)』を使うとは」
カオスの声が響く。
「…あちらも終わったようですし、皆さんとの試合は、明日に延期ですかね〜。まぁ、でも皆さんにはここで待ってもらいますけど」
そう言われて、息を整えていたフェイが、問う。
「まだ、何か出したりしないよな?」
あの時と同じ声が、フェイの口から発される。
「もう出しませんよ〜。——強いて言うなら、彼女を出現させる事…かな?」
カオスが指を鳴らす。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.110 )
- 日時: 2013/10/03 17:29
- 名前: 風龍神奈 (ID: d8lWLfwU)
瞬間、空中に癒月が現れた。
「「「!!?」」」
危うく地面に当たりそうになるのを、寸前で霧野が受け止める。
「………ぅ……」
それで意識が若干覚醒したのか、癒月がうっすらと目を開けた。
「……?」
目の前に見えた人物を見て、癒月の意識は完全に覚めた。
「…っ!!」
手を伸ばそうとして、だが、まだ縛られている事に気付く。
「…ごめ…手の縄…」
言われた通りに、手首の縄を丁寧に解く。
ようやっと解放された癒月は、周りにいた雷門メンバーを見回した。
「——また、巻き込んでしまって、ごめんなさい…」
消え入りそうな癒月の声とは裏腹に、皆は首を一斉に横に振った。
「大丈夫。巻き込まれる事には、もう慣れたさ」
それを聞いた、癒月の頬を、温かいものが伝わっていく。
「皆…!!」
とめどなく溢れてくる涙を、拭う事無く癒月は言った。
「本当に、ありがと……、!?」
不意に、体の奥底で跳ね上がった、何か。
何かは分かる前に、癒月の瞳から自我が消える。
「…癒月…?」
急に静かになった癒月を、怪訝そうにフェイは見た。
が。
「! 癒月!!」
異変に気付いて、素早く呼びかけたが、反応は無い。
「…あらら、大変な事になったみたいね。…まぁ、関係ないけど。——さて、私は戻りますかと」
皆の意識が癒月へと集中している中、カオスが消えた、その瞬間。
癒月の口が、何かを紡ぎ始めた。
「…我等は、『マルサグーロ』と呼ばれる者。我等が、創り、託した、破壊死書。それを、創った者であり、それの、親でもある」
「!!」
その言葉に反応したのはフェイだけで、それ以外の全員は黙って聞いている。
「我等が創りし破壊死書を持つ者よ。『サクリファイス』の者を連れて、破壊死書が見つかりし場所へと行け。さすれば、全ての事が分かるだろう。だが、」
癒月が言葉を一旦切る。
「この時代の持つ者は、来るのには早すぎる。『サクリファイス』を成長させ、破壊死書をも完全にした後、見つかりし場所へと向かえばよい……——」
癒月の瞳の奥に、一刹那真っ白な氷の結晶が見えたのを、霧野は見た。
唐突に、瞼が落ちる。
癒月はその場にくずおれた。
◆ ◆ ◆
「…とうとう、『サクリファイス』が姿を現してきたか…」
「…では、そろそろ…」
「そうだな。準備を、しなければだな。——完璧になった、『サクリファイス』と破壊死書を迎える為の」
◆ ◆ ◆