二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.111 )
日時: 2013/10/10 21:20
名前: 風龍神奈 (ID: D4rEl2O7)


 第14話 クロノストームVSクロノストーム

 目を開けると、いつの間にか、皆は寝ていた。
 どうやら今の時間帯は夜のようで(正確な時間帯は分からないのだが)、だから皆寝ているんだなぁと思った。
「…そういえば、私…」
 あの後、どうなった?
 皆にお礼を言いかけて、そしたら体の奥底で何かが跳ね上がった所までしか覚えてない。
 そこまで思った時、また体の——魂の奥底ともいえる場所で何かが跳ね上がる。
「———」
 瞬時に癒月の瞳から自我が消え、すうっと、その場に冷気が満ちていく。
「……っ」
 余りの寒さに目を覚ましたフェイは、何処も見ていない癒月の瞳を視界に捉え、すぐに耳元で叫んだ。
「癒月!!」
 びくっと癒月の体が震え、癒月の瞳に自我が戻ってくる。
「…あ…れ」
 癒月が辺りを見回す。と同時に、冷気は収束して消えた。
「——一体、何があったの?」
「…ううん、何も無いよ」
 笑って取り繕う。
 フェイは一瞬怪訝そうな顔をしたが、追及する事を止めて、別の事を口にした。
「…今日、試合があるから、きちんと寝ておかないと駄目だよ」
「うん」
 癒月が大人しく横になるのを見て、フェイも横になる。
(…何が、あったんだろう? 気になるけど…)
 さっきの、冷気を放出していた癒月の顔の方が、とても気になった。
(まるで…この場にいる全員を、殺そうとしてた…)
 殺気と冷気を身に纏い、余りにも恐ろしい表情をしていた癒月の顔が浮かび上がる。
(大丈夫…だよね? そんな風に、ならないよね? また)
 しかし、こればかりは癒月の問題なので、諦めて寝返りを打つ。
(今日の試合は、癒月の笑顔が見たいな…——)
 そう思いながら、眠った。

 あまりの眩しさで、目を覚ます。
 周りを見れば、皆も眩しさに目を覚ましたようで、目をこすったり、眠たそうにしている者が何人かいる。
「…相変わらず、のんびりなのね〜」
 瞬間的に、癒月が振り向く。
 そこには、癒月——カオスがいた。
「…朝っぱらから、何の用よ」
「皆が起きているかの確認に。一応、私は貴方達の世話係的な役目を持っているからね」
「そう」
「…冷たいのね」
「もとからあんた達みたいな敵には、冷たい反応を取るもので」
「あらそう。…まぁいいわ。別に、貴女に冷たい反応を取られても、平気だしね」
 くるりと踵を返して、肩越しに振り返って言った。
「そうそう。試合は、10時からね」
「有益な情報を有り難う。それだけは感謝するわ」
 癒月の言葉に答える事無く、カオスはそのままふっと消えた。

 そして、作戦会議をしている内に9時50分を過ぎそうになったので、クロノストームは慌てて場所を移動した。
 場所は、最初カオスに出迎えられた所だった。
 一同が、其処に着くと。
「——では、始めましょうか」
 カオスが指を鳴らす。と同時に、辺りに地響きが響き渡る。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.112 )
日時: 2019/09/16 21:44
名前: 風龍神奈 (ID: p0V5n12H)

と思うと、地面の真ん中が割れて、中からスタジアムが出てきた。
「「「!!?」」」
 思わず吃驚したクロノストームは、瞬間的に目を輝かせる。
「す、すっごいー!」
「どうなってるんだ!?」
「かっこいいー!」
 等と、絶賛の嵐がとぶ。
「…別に、そこまで凄くないわよ」
 カオスが、コート内に降り立つ。
 と、その横に洸と——焔が降り立った。
「——さて、お前達と戦う相手を紹介しよう」
 瞬間、カオスの後ろに、クロノストームが現れる。
「こいつらは、俺が心血注いで作り上げた、模造人間(クローン)さ。お前等と同じ能力を、全て持っている」
 洸が説明する。
「つまり、全てがお前等と互角ということさ」
「…そっちの方がやりがいあるじゃない…。一遍、自分と殺ってみたかったんだよね〜」
「…癒月」
 嬉しそうに微笑む彼女に、不安げな顔でフェイが言う。
「大丈夫。死にはしない」
 そういう彼女だったが、彼女にまたもや危機が訪れる事をまだ彼等は知らない。
「——さっさと、試合を始めましょう」
 癒月が、そう言った。

 ◆     ◆     ◆

「…あの後、『サクリファイス』は出てきたか?」
「一度、出てきたようですが、片割れによって戻ったみたいですね…」
「…片割れめ、最悪な事をしおって。…まぁ、いい。とりあえず、今は様子見だ」
「分かりました」

 ◆     ◆     ◆

「さぁ! 試合、開始です!!」

 ピイィィィ!!

 ホイッスルが鳴り響く。
 と同時に、癒月が、ボールを受け取って、相手を素早く躱しながら、ゴールへと向かう。
 そして、しょっぱなから。
「鏡花水月…G3」
 彼女の中の、最強必殺技を放つ。
 ボールは目の前で消え、ゴールに突き刺さる——はずだった。
「なっ…!?」
 だが、ボールは止められていた。——カオスによって。
「…弱いわね。こんなの、簡単に止められるじゃない」
 ボールを片足で止めたカオスが、笑って癒月を挑発する。
「洸様は言い忘れてたけど、私は、貴女の身体能力を遥かに上回っている能力を持っているの。だから、貴女が勝てるわけないのよ」
「…いいじゃない。元SSCの身体能力を上回る身体能力とか…最高だね」
 癒月が挑発に乗らずに、嬉しそうに笑う。
「随分威勢のいい事で。でも、——これを見て、そうでいれるかしら?」
 カオスが自陣のゴールから、
「月影乱舞…V4」
 を放った。
 放たれたLシュートは、威力を落とす事無く、ゴールへと突き刺さる。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.113 )
日時: 2013/10/10 21:57
名前: 風龍神奈 (ID: D4rEl2O7)

「ゴール! まずは、クロノストームが一点をとったぞ!!」
「…あながち、間違いじゃないみたいね」
「間違いなわけあるもんですか」
 カオスのそういう言葉を聞きながら、癒月は、
(さて…どうやって点を入れようか?)
 そう考えながら、戻っていった。

「…お兄ちゃん」
 ベンチで眺めていた焔が、洸に話しかける。
「どうした、焔?」
「…寝てもいい?」
 眠たそうな焔の顔を見て、洸はうん、と頷く。
「ありがとう…——」
 すうすう寝息を立てて眠る焔の顔を見て、洸は本当に帰ってきたんだと思った。
 これでまた、あの日のように、楽しく過ごせると。
 本当に、そう思っていた。
 だが、死者を復活させたから、代償はあるのに、それを無視して。
(ずっと…このまま、焔といたい…) 
 でも、今の自分は、この試合を見ておかなければならない。
 洸は焔を一瞥してから、試合の方へと目を向けた。

「くっ…!」
 またしても、技がはじき返される。
 先程から、癒月は何度か必殺技を放っているのだが、全て、跳ね返されていた。
 何故なら、カオスも強いのだが、信助——ウラノスも強かったからだ。
 癒月が再び、必殺技を放とうとした時。

 ピイィィィ!!
 
 とホイッスルが鳴り響いた。
「此処で前半終了〜!!」
 矢嶋の声が響く。
「…一点も入れれなかった…」
 これでは、エースストライカーの名が廃れてしまう。
「…どうにかしないと…」
 色々な事を思案しながら、癒月はベンチへと戻り、そのまま座り込む。
(一体、どうやったら、点を決めれるのだろう…。いっその事…)
 氷炎使いの能力を使おうとも思ったが、余り皆に知られたくない。
(どうしよう…)
《——なら、私が手を貸してあげようか?》
 突然、癒月の脳裏に声が響く。
「!?」
 癒月は吃驚して、辺りを見回すが、声の主はいない。
《大丈夫。少しの間、眠るだけだから…——》
 そう言って、女のような、男のような、子供のような、不思議な声は消える。
(…一体なんだったんだろう…)
 考える前に、後半が始まりそうになったので、慌てて癒月はフィールドへと出た。

「さぁ! 後半戦が始まるぞ〜!!」
 
 ピイィィィ!!

 前半同様ホイッスルが鳴り響き、後半戦がスタートする。
「今度こそ、必ず点を取ってみせる…!」
 癒月はボールを奪うと同時に、アームドとトランスの同時展開をした。
「真浪切一文字!!」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.114 )
日時: 2013/10/10 22:05
名前: 風龍神奈 (ID: D4rEl2O7)

 進化したトランス技を放つ。
 が。
「真大国謳歌!!」
 同じくアームドとトランスの同時展開をしたウラノスに止められる。
「な…」
 流石にこれには癒月も吃驚した。
「だから、言ったでしょ。貴女の能力じゃ、私達は倒せないって」
 カオスが、挑発する。
「…それは、どうかな。…天馬達!」
 癒月が天馬と神童と剣城に声をかけた途端、三人は頷き、カオスは表情を一変させた。
「…まさか…っ、あなた達は…」
「そう、そのまさか」
 神童達三人が、集まって化身を発動し、魔帝グリフォンを発動させる。
「「「ソード・オブ・ファイア!!!」」」
 放たれたボールが、ゴールへと向かう。
 ウラノスは、それを防ぐことが出来ず…
「ゴール! クロノストーム、初の得点だぁ!!」
 シュートを、決められた。
「やったぁ!」
 喜ぶ三人を見て、癒月に少しだけ焦りが生まれる。
(…早く決めないと)
 でも、焦ってやったら、ボールは奪えないのでそこら辺は分かっている筈だった。
《——だから、言ったのに。力を、貸してあげようかって》
 その時、また脳裏に声が響いた。
《大丈夫。本当に、貴女の意識が暫くの間、眠るだけだから…——》
 癒月の瞳に宿る光が拡散して、囚われたように表情が掻き消え、ゆらりと陽炎のように、白い冷気が立ち昇る。
 彼女の様子が変化した事に気付いた者は、誰もいなかった。

 続きが始まる。
 ボールを受け取った癒月は、華麗に相手を躱しながら、ゴール前へと攻める。
 と、癒月の動きが止まる。
 同時に、癒月の周りが暗くなり、彼女の手には、真っ赤な杯があった。ボールを、杯に入れ、それごと放る。
 瞬間、杯が溶けて消え、地面が水面のようになる。
 ボールは波紋を立てないまま、水面に落ちる。と、淡い色に輝いたボールを、癒月は蹴った。
 その瞬間だけ、あたりに大きな波紋が広がった。
「明鏡止水」
 放たれたボールは、ウラノスが技を繰り出す前にゴールへ突き刺さる。
「ゴール! クロノストーム、追加点だ!!」
「なっ…、新技ですって…!?」
 カオスが驚いて、癒月を見る。
 途端、彼女は気付いた。
「貴女は…癒月ではないね?」
「「「はっ?」」」
 カオスの言葉に、一斉に反応するクロノストームの面々。
「——あら、味方よりも、敵が先に気付くなんて」
 癒月が、ふふと笑う。
「そうよ、私は癒月ではないわ。でも、名乗るのは面倒くさいから、『癒月』と名乗っておこうかしら?」
 彼女の透き通った瞳の奥で真っ白な氷の結晶が少し揺らめく。
 それに気付いたフェイの表情が、さぁと青くなっていく。
「…あの…瞳の…結晶は…」
 間違いない。あれ、だ。
 まさか、癒月は、彼女は、あれだというのか。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.115 )
日時: 2013/10/10 22:11
名前: 風龍神奈 (ID: D4rEl2O7)

「…まぁ、でも私は、この子が、点を取りたがっていたから、手を貸しただけ。今からは、もう手伝わないわ。でも、この子がピンチになった時は…覚えておきなさい…——」
 フェイの気持ちとは裏腹に、『癒月』はそう言った。
 瞬間、瞳の奥にあった真っ白な氷の結晶が消えて、拡散していた光が、元に戻る。
「…あれ…?」
 きょろきょろと、辺りを見る。
 途中から、意識が無い。確か、三人が点をいれてから…。
「…貴女、何も覚えていないの?」
「は…?」
 カオスの言葉に、怪訝な顔を向ける。
 それを見て、何も覚えていないと判断したカオスは、とりあえず言った。
「言っておくけど、今、試合中だからね」
「!!」
 癒月は思い出したとばかりにスコアボードをみて、得点を確認する。
 1−2で、此方が勝っていた。
「えっ…」
 いつの間に、2点目を取ったのか。
 思案する前に、カオスにボールを奪われてしまう。
「あっ!」
 彼女らしくないミスを起こす。
「鏡花水月G3!!」
 カオスが鏡花水月を決める。
 これで、同点になった。
 が。
「…明鏡止水改」
 つい先程覚えたばかりの技を、レベルアップさせて、放つ。
 放たれたシュートはゴールへと突き刺さり、またもや逆転した。
「ゴール! クロノストーム、追加点だ! そして、此処で試合終了〜!!」

 ピイィィィ!!

 ホイッスルが鳴り響く。
「「「か、勝ったぁ〜!!!」」」
 わぁとクロノストームが喜ぶ中、癒月は一人、思案していた。
 だから、気付かなかった。
 洸が、後ろから近づいていた事を。
「っ!!」
 癒月の首元に短剣を突きつける。
「動くな。…さっき、ああなったのはどうしてだ?」
 洸が、質問する。
「知らないわよ。覚えていな…、!?」
 答えようとした癒月だったが、突如何かにか体の主導権を奪われた。
「…くくく。また会ったね、君」
 癒月の瞳が碧(あお)色から真紅へと変わる。
「き、貴様は…」
 洸が素早く下がって、焔を庇う様にして、前に立つ。
「覚えてくれていたんだね。でも、分かっているよな? 俺は今、君の命を取りに来たことを」
「…っ」
 洸が素早く焔を抱いて、後方へ跳躍した。
「…逃げても無駄だよ。——契約、したからな」
 あの時と同じ、ばらばらな口調、語尾、調子で喋る。
「それに、早くしないと、『サクリファイス』の体が崩れてしまうからね。さっさと、君の、お前の命を取りたいんだよ」
 癒月が飛び掛ろうとした瞬間。
「…止めて…!!」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.116 )
日時: 2013/10/10 22:16
名前: 風龍神奈 (ID: D4rEl2O7)

 小さな声が響いた。
「焔…っ!?」
 洸が驚いたように焔を見た。
「私が、悪いの。お兄ちゃんは悪くない…」
 焔が、若干涙目になりながら言う。
「…でもね。君の兄であるそいつは、君を取り戻したくて、俺を呼んだんだよ? だから、君は邪魔をしちゃいけない」
 癒月がそう告げても、焔がどく気配はない。
「お兄ちゃんは悪くない…。連れて行くのなら、私を連れて行って」
「焔! 駄目だそれは!!」
 焔がいった言葉に、洸が過敏に反応する。
「…駄目じゃないよ。私は、お兄ちゃんが連れて行かれるんだったら、私が代わりになる」
「——では、君は、もう一度、戻るというのかい? あの、場所へと」
 癒月が確認しようとして、焔に問う。
「うん。貴方が、お兄ちゃんを、連れて行かないっていうんだったら」
「焔!!」
 洸の悲痛な叫びを聞いて、焔が振り返る。
「…お兄ちゃんと過ごせた日々、楽しかったよ。少ししか、いれなかったけど、とても。——私は、あの時に死んでしまったから、私の分まで生きて」
 焔の体が燐光に包まれる。
「焔ぁ———!!!!」
 彼女の体から、魂だけが分離して、癒月の許へと行く。
「本当に、良かったのかい?」
『うん。…代わりに、お兄ちゃんを、そのまま…』
「ああ。分かったよ」
 焔の魂が、癒月の手の上でふわりと消える。
「…で、君の命は助かったわけだ。お前の、妹によって」
 癒月が、洸に向かって言い放つ。
「…俺は、また、焔を、殺した…。また…」
 だが、彼女の言葉は聞こえていなかったようだった。
「——また、あの時と、同じように、思うのかい? 今回も、また焔に庇われたと」
「…何故、それを知っている」
 洸が、癒月を睨み付ける。
「知っているに、決まっているだろう。あの時、彼女を迎えに来たのは、俺なんだから」
 そう、本当は、あの時死ぬのは、洸の方だったのだ。だが、ビルが破壊されて、瓦礫が真上から落ちてきた時、焔は洸を突き飛ばした。彼女が洸を突き飛ばした所は丁度、何も落ちて来なかった。
 だが、彼の代わりに、焔は瓦礫の下敷きとなり、死んでしまったのだ。
「…そして、その後やってきたこの子等の責任にし、自分はそれから逃げた。そして、責任をこの子等に擦り付けたまま、この子等を殺そうと思った。そうだろ?」
「…貴様…!」
 癒月の言葉で、洸が怒った。
「それ以上、語るな———っ!!」

 ザンッ

 そんな音がしたかと思うと、癒月の体から、血飛沫が飛び散った。
「なっ…」
 彼女が瞠目して、洸を見る。
 彼の手には、真っ赤に染まった短刀が握られていた。
「「「癒月!!?」」」
 それと同時に、クロノストームのメンバーが、気付いたが、驚きの余り、我を忘れてしまい、動けなくなる。
「…あーあ、やっちゃったねぇ」
 だが、右肩から左腰まで袈裟懸けに斬られた癒月は、平気な顔で洸を見た。
「これで、俺は君の命を取らないといけなくなった」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.117 )
日時: 2013/10/10 22:22
名前: 風龍神奈 (ID: D4rEl2O7)

「何…?」
 洸が訝しげな顔で、癒月を見た。
「まぁ、安心して? ——妹と同じ場所に、連れて行ってあげるから」
 瞬間、癒月の体がくず折れると同時に、何かが彼女の体から飛び出る。
 真っ黒なフードつき外套を被り、手には白銀に煌めく鎌を持ったモノ。ただ、フードの中の表情は分からない。
 ——外見だけでいうと、つまり、死神だった。
 死神は鎌を洸の首に当てながら訊いた。
「『死者を呼び出した者は、人を傷つけてはいけない』という事を、君は知っているのかな?」
「知るか、そんなもん」
 洸が臆する事無く、答える。
「そっか。——じゃあ、それを破った者は、地獄へと連れて行かれることもか…な!」
 死神が素早く鎌を薙いだ。
 しかし、鎌は洸の体を素通りする。
「………」
 だが、その瞬間、洸の瞳が虚ろになり、その場に倒れる。
 死神が洸を抱えて、癒月の方を見た。
 彼女の怪我は、まだ治っていないらしく、血溜まりが少しずつ大きくなっていく。対照的に、彼女の頬の色は、白さを増していく。
(何をやっているんだか、『サクリファイス』と破壊死書は。折角の、器(からだ)なのになぁ…)
「…おい、『サクリファイス』」
 死神が呼びかける。
 と同時に、ぴくりと指先が動き、癒月が目を開けた。
「…何かしら? 死神——いや、『コンヴィクション』」
 起き上がって、死神を見る。
『コンヴィクション』と呼ばれた死神は、癒月を見返す。
「…随分昔の名を出すんだねぇ。君は、一体、何度転生を繰り返してきたんだい?」
「転生じゃないわよ。一度死んで、その後また人間に宿っているだけよ」
「それを、転生といったりするんじゃないのかい?」
「知るか。…で、何なの? 唯の、世間話の為だけに私を呼んだとなれば、容赦はしないわよ。何せ、今の主は氷炎使いの片割れだからね」
「世間話の為に呼んだんじゃないさ。いい加減、受けた傷を、治してほしかったから、呼んだんだよ」
 癒月が自分の体を見る。
「…ああ、これね。あのうざかった奴がやった」
「それだよ。早く、治してくれないかな? こっちも、早く戻らないといけないんでね」
「分かったわよ」
 癒月が右手を傷口へと当て、それを治していく。
「OK。それで大丈夫だ」
 そう言って、消えようとした死神に、声を掛ける。
「所で、あれの用意は」
「全て、OKだよ。君が成長する上に、破壊死書まで成長させたら、もう使える」
「そう、ありがとう」
「どういたしまして」
 死神がその場で消える。
「…OK…か。いいじゃないの」
 癒月が笑みを浮かべると同時に瞼が唐突に閉じられ、彼女の体は倒れ込んだ。
 その音で、クロノストームのメンバーは我に返る。
「「「癒月!!」」」
 倒れている癒月を見つけて、さぁと顔が青くなっていくメンバーの中で、一部の人が、彼女の許へと駆けつける。
「…!」
 だが、その駆けつけた人達——フェイ、霧野、雨宮が、驚く。
「傷が…」
 傷跡が、どこにもなかった。血痕も、どこにも残されていない。
「一体…誰が…」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.118 )
日時: 2013/10/10 22:33
名前: 風龍神奈 (ID: D4rEl2O7)

 クロノストームのメンバーは動けなかったし、そもそも、その中で治癒等が出来るのはフェイだけだ。
 では、敵かと問われても、敵でもないだろう。
 そこまで思った時、ある事が一つ、思い浮かんだ。
「…『サクリファイス』…」
 フェイの震える唇から出て来た単語が、二人に突き刺さる。
「サクリ…ファイス?」
「何だい、それは」
「!!」
 明らかに失言した顔をしたフェイは、癒月を見ながら、
「…ごめん、今は言えない」
 ただ、それだけを言った。
 その一言で、何かを感じたのか、二人はそれ以上追及する事はしなかった。
 と、その時。
「……っ…」
 癒月が、目を覚ました。
「大丈夫か、癒月」
「…う…ん」
 小さく頷く動作も入れた彼女に、三人は揃って安堵した。
「…所で、他の皆は…?」
「あっちで、固まってるよ」
「は…?」
 癒月が起き上がって、指差された方向を見る。
 見ると、確かに固まっているような感じがしないでもない。
「…ふ…っ」
 小さな笑い声が聞こえたかと思うと、癒月が笑っていた。
「良かったぁ」
 暫く笑っていた彼女に、雨宮が手を伸ばした。
「さぁ、帰ろう」
「うん!」
 癒月は、無邪気な笑顔を見せると、双子の兄の手をしっかりと握り締めた。