二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.121 )
日時: 2014/02/04 20:14
名前: 風龍神奈 (ID: 3AcPJtE0)

 第15話 意味

 ———洸との戦いから2ヶ月。
 段々と冬の気配が近づく中、たまたま練習がなかったので。癒月は私服姿で稲妻町の外れにある森を訪れていた。
 何故かというと——少しでも力や感情をコントロールする為である。
 特に、一度感情に任せて破壊死書を解放してしまった事のある彼女は、もう二度とそれを起こさないように感情をコントロールする術を身につける努力をしていた。
「————」
 目を閉じて、息を吐き出す。
 集中しろ。心を乱すな。心で森全体を——見ろ。
 刹那、癒月から放たれた不可視の波動が、波打ちながら全体へと広がっていく。
「…!」
 森の入り口に、三つの気配。恐らく人。
 森全体にある疎らな気配。恐らく動物。
 そしてさらに——森の奥にある、一つの大きな気配。何なのかは分からない。
 何かを呟きながら、癒月は目を開けた。
 途端に、暗闇でも通常と同じように見えるようになる。
 この森——鎮守の森は、奥に行けば行く程、暗く見通しが悪くなっていくのだ。
「よし、出発だ」
 癒月は、森の奥へ向かった。
 後ろから三つの気配がついてきているのを彼女は感じていたから、スピードを上げて。

 ◆     ◆     ◆

「…『サクリファイス』は、どうなっている?」
「只今…鎮守の森の奥へ向かっています」
「! …そうか、鎮守の森にか…」
「一応、幾人か向かわせておりますが…」
「それでよい。——もうじきだな…ふはは!」
「××××様…」

 ◆     ◆     ◆

「何…? 此処…」
 癒月は、何なのかよく分からない気配があった場所に来ていた。
 だが、目の前には、大きな岩壁があった。
「どう…行くんだろう…」
 ぺたぺたとあちこちを触っていると、何かにか触れた。
「?」
 そこを見ると、文字のようなものが彫られていた。
『マルサグーロに縁ある者よ、その縁示さばこの扉開かれん』
 その文字を読んだ癒月の表情が驚きに変わる。
「…この先は」
 マルサグーロに関する場所ということか。
 何か、情報があるかもしれない。
 そう思ったのはいいのだが、縁を示す方法がわからなかった。
《力を、貸してあげようか?》
 その時、そんな声が脳内に響いて、癒月の両手が勝手に前に突き出される。
「————」
 何かよく分からない言葉が自らの口から紡がれて、瞬間目の前の岩壁がごうと音を立てて開いていく。
「…………」
 癒月は自分の体が勝手に動いたのに少々怪訝な気持ちを持ちながらも、中に入っていった。

 ◆     ◆     ◆

 癒月がマルサグーロの建物に潜入していた時、フェイは彼女を探していた。
「何処行ったんだろう…。色々と、訊くことがあったのに…。…あ、そうだ」
 何かを思いついて、フェイは目を閉じた。と同時に癒月の——破壊死書の居場所を探す。
「…!!」
 見つけた。が、何故鎮守の森にいるのか。
「何で……、!!」
 疑問に思った刹那、うなじの辺りを氷塊が滑り落ちる。
「無事でいて…、癒月…!!」
 すぐさま癒月の許へ向かうべく、鎮守の森の入り口までフェイは瞬転で移動した。

 ◆     ◆     ◆

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.122 )
日時: 2019/12/31 00:08
名前: 風龍神奈 (ID: p0V5n12H)

 岩壁の扉の先10m程は洞窟だったが、その先は——とても広かった。
 だが、真ん中には大きな筒状の容器が置かれ、周りには大小様々なケーブルやら何やらが繋がっている。更に、その横にパソコンのような物体と、小さい筒状の容器。
 間違いなく、何かが此処で行われていた。
「! …これは…」
 パソコンのような物体に近付いて、近くにあった書をぱらぱらと捲る。
「この事…知らせないと…」
《——誰に?》
 不意に、さっきの声が響いて、癒月は返答した。
「誰!?」
 刹那、いつの間にか、癒月はモノクロの空間にいた。
《もしかして、片割れに伝えるの? 意味ないのに》
 そういう声と同時に、
「!!?」
 彼女と同じ姿をした人が目の前に現れた。
「…貴女は、誰?」
《あら。まだ名乗ってなかったわね。私の名前はサクリファイス》
「!!」
 彼女が名乗った瞬間、癒月が瞠目する。
《私の事を知っているのかしら?》
「知らないわ。ただ、聞いた事があるだけ。…所で、いつまで人と同じ姿をしてるつもりなの?」
《無理。だって、私には、実体がないもの》
 サクリファイスがそう言って、笑う。
「実体が…ない?」
《そう。——だって、私は人間に作られたのだから》
「!?」
 癒月の反応を見て、サクリファイスはさも可笑しそうに笑った。
《あはは。人間って皆同じ反応するのね…、今まで憑いた奴と同じような》
「…もしかして、貴女は」
 何かに気付いた癒月が言いかける前に、サクリファイスが言った。
《…作られてから、ずっと、氷炎使い氷の継承者に憑いているわ。私に課された命は『氷炎使いの氷の継承者を探し出し、その者に憑き、破壊死書とその者の動向を調べよ』。本当なら、もう一つあるんだけど…それは教えられないわ。そもそも、こんな風に長々と会話すること自体があり得ないんだけど》
「………」
 無言で、サクリファイスの話を聞く癒月。
《——因みに、貴女、自分が普通じゃないって——私が今まで憑いてきた氷の継承者と全然違うって…気付いてた?》
「!? どういう事!?」
 今度の言葉に、癒月は反応した。
《元SSCだとはいえ、魔力を持ってて、魔法が扱える人間なんて、この世にはあんまり存在しない。それに…皆には隠しているみたいだけど、霊力も使える時点で、この世にそぐわない(イレギュラー)な存在なの。それでいて、氷炎使いの能力を完璧に使いこなせる何て、本当貴女はつくづく規格外よね。——でもさ、普通こんな人間がこの世に誕生すると思う?》
「する…じゃ……」
 癒月の喉の奥が凍り付いたかのように動かず、そこまでしか声は出なかった。
 体が震える。この先を聞きたくない。聞いてしまったら、駄目だ———。
《ほぼないわ。だから、本来貴女は存在しないはずなの。でもね——》
 止めたくても、声が出ない。体も動かない。
 耳を塞ぎたいのに。聞きたくないのに。
 体が硬直してしまったかのように動かなかった。
 から————

《貴女はね、氷炎使い、破壊死書、そして——組織に使われる為だけの道具として、産まれてきたから、存在しているの》

 聞いてしまった。聞こえてしまった。
 本来なら産まれない筈の自分が産まれてきた理由。そして、存在している理由を。
「……ッ」
 言葉にしたくても、喉の奥が凍り付いたように動かず、出来ない。
《…じゃあ、一緒に産まれた兄の方は? って顔をしてるわね。兄の方は、一切関係ないわ。一緒に産まれてきたのは、単なる偶然よ》
「!!」
《その顔を見るに、当たってたみたいね。…ま、兄の方も実はとある役目を持ってたり、持ってなかったりするけどね。多分…大丈夫よ、兄の方は》
 そう聞いて安堵した癒月の顔を見て、サクリファイスはくすりと笑うと、ふわりと舞い上がり、
《大丈夫、安心してね。暫くの間、貴女の体勝手に使うだけだから》
 癒月に向かってきた。
 刹那、何かが体内に入ってきた感触がしたと同時に、癒月の意識は消えた。


Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.123 )
日時: 2013/12/09 21:40
名前: 風龍神奈 (ID: L7cyWjuc)


 ◆     ◆     ◆

「…この先に…癒月が…」
 鎮守の森の入り口に降り立ったフェイは、この森は奥に行けばいく程、暗くなっていくのを知っていたので、自らに暗視の術をかけると、一歩足を踏み出した。
 が、そこで違和感に気付いて立ち止まる。
「これは…結界…!?」
 何かの侵入を防ぐかのように形成された結界は、どうやら鎮守の森全体にかかっているようだった。
 恐らく、自分と徒人の侵入を阻む為に。
「ふざけるなよ…! こんな結界、簡単さ…!!」
 フェイは、手を前に突き出して何かを唱えた。
 瞬間、目の前に形成されていた結界が、音を立てて砕け散る。
 それを見届けてから、フェイは中に入った。

 ◆     ◆     ◆

 癒月の後をつけていた謎の三人——マルサグーロが放った刺客三人は、岩壁の扉を抜けた先、巨大な広間の中央付近に倒れている癒月を見つけた。
「…おい、いたな。どうする?」
「どうするの前に、『サクリファイス』がいるかどうかの確認だろ」
「どうやって確認すんだよ」
「それはな、こうするんだよ」
 口々言い合っていた男の内一人が癒月に近付いて、耳元で囁いた。
「——おい、起きろ『サクリファイス』」
 刹那、ぴくりと癒月の指が動いて、瞼が開かれる。
「…ったく何よ、人の耳元でわんわんと五月蠅く言い合って」
 癒月が——サクリファイスが氷の結晶が映っている瞳に怒りを滲ませながら起き上る。
「…それはすまなかった。だが、何故此処に来ている? 報告なら、上でも出来るだろうに」
「この子に、私が産まれた理由(わけ)と私が何者か教えてあげたかった…じゃ駄目、かしら?」
「そんな事の為に、お前は、此処まで——自分が作られた場所まで来たというのか?」
「ええ」
 男の問いに、さらりと答えたサクリファイスは続けた。
「だって、自分が産まれた場所で教えた方が、分かりやすいじゃない。…でも、この子は気付かなかったけど、この場所を見つけてしまうとは。徒人には見つからないようにしていたのに…、本当、この子は規格外だわ」
 自分の胸を指しながら、彼女は言った。
「…ただたんに、教えに来ただけか?」
「ええ」
「そうか。なら、戻れ…と言いたい所だが、お前を××××様が呼んでいる」
 そう聞いたサクリファイスの顔が一瞬にして怪訝なものになる。
「は? 報告じゃなくて」
「ああ。実際に、会って話したいらしい。出来たら、片割れも一緒に、だそうだ」
「…片割れ…炎のあいつか……、!!」
 呟いていたサクリファイスが、急に入り口を見た。
「おい、どうした?」
「片割れが…来たわ」
 何の、と問う必要はなかった。
 一瞬にして、自分達の周りに炎の壁が出来た。
 と、それを平気で抜け、炎を纏って現れし人。
 その人物は——フェイだった。