二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.124 )
日時: 2014/02/04 20:15
名前: 風龍神奈 (ID: 3AcPJtE0)

 第16話 対峙

「———癒月を、どこに連れて行くつもりだ? サクリファイス」
 フェイが、低い声で尋ねる。
「…あら、よく私の事が分かったわね。流石…と言いたい所だけど、実は、貴方にも用があったの」
「…僕に何の用だ? 返答次第では——」
「攻撃する、とか言うんだろうけど、しないよね? だって、この体は貴方の大事な片割れの体だもの」
 フェイの言葉を遮って、サクリファイスが言い、彼が瞠目した。
「!」
「分かるのよ、それぐらい。——でね、用事というのは、これなんだけど」
 パチンと、サクリファイスが指を鳴らした。
 瞬間、近くにいた男達が一斉にフェイに襲い掛かる。
「!?」
 慌てて後方に跳躍したフェイは、自らが纏う炎を波打って攻撃しようとしたが。
「——いいの? この体がどうなっても」
 いつの間にか、サクリファイスが氷破刃を作り、切っ先を自らの首へ向けていた。
「!!」
 それに気付いたフェイが、悔しげに顔を歪めながら、炎を消す。
 瞬く間にフェイは男達に捕えられた。
「そうそう、大人しくしておいてね。何せ、用事というのは、貴方を××××様の許へ連れて行くことだから」
「それを断ったら…どうなる?」
 身動き一つ出来ないフェイは、しかし屈する事無く訊いた。
「そりゃあ、勿論。——この子に、死が訪れるだけよ」
 サクリファイスが自分の胸を指しながら言う。
「この子の命は私の手のひらの上も同然。だから、今すぐこの場で殺せるし、じわじわと命を削ることも可能よ。何なら…、してあげようか?」
「止めろ! するな!!」
「つれないわねぇ…」
 フェイの反応を見てがっかりしたサクリファイスは、一度肩を竦めると、言った。
「…ま、いいわ。長話もこれまでにしたかったし。移動するわよ。——天空移動」
 刹那、サクリファイスとフェイ達の姿が消え、炎の壁は空気中に溶けるかのように消えた。




Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.125 )
日時: 2013/12/12 21:20
名前: 風龍神奈 (ID: 03x.my9j)

 
 ◆     ◆     ◆

 癒月——サクリファイスと、フェイが現代からいなくなった翌日。
 雷門中サッカー部の面々は、いつまで経っても来ない二人を、心配していた。
「…なぁ、もしかしたら二人とも何かに巻き込まれたんじゃ…」
「…多分、ないと思いたいが…何せ二人には過去があるからなぁ…」
 神童の指した過去とは、二人が敵方の手に落ちた時の事だ。
 あれは本人等曰く、一生の不覚だったらしいが。
「……!」
 暫く考え込んでいた神童が、何かに気付いたようにして、雨宮に訊いた。
「雨宮、昨日癒月は家に帰ってきたか?」
「!」
 神童の問いの意に気付いた雨宮が、答える。
「…昨日、癒月は帰ってきていないです。夕方別れた後から…、姿を、見ていないです」
「!!」
 霧野が驚いたようにして、神童を見た。
 その視線を受け取りつつ、神童は言った。
「…やはり、な。——恐らく、癒月は確実に、昨日の夕方から行方不明になっている。フェイも…多分、同じだ」
「えっ…!?」「なっ…!?」
 彼の言葉に、二人はたじろぐ。
 だが、その時雨宮は何かを感じた。
「っ!?」
 背中を戦慄に似たものが這い登る。
「どうした? 雨宮?」
 しかし、何も答えずに、雨宮は背後を振り返る。
 と、そこには———

「おや、気付かれましたか」

 一人の男が立っていた。
「「「!!?」」」
 一斉に、皆の視線がその男へと集まる。
 白髪に黒いサングラスをかけた男は、その視線に臆する事無く言った。
「どうやら、今代氷炎使いがいなくなった事に気付いたようですが…、安心して下さい。彼等は現在我々マルサグーロが現在手元に置いております」
「「「!?」」」
 男の言った言葉に、皆は戸惑う。
「手元においてるって…、それって、連れ去ったて事じゃ…」
「さようですな。そういう事になります」
 雨宮の言葉を聞きとがめた男が、答える。
「安心して下さい。手荒な事は致しません。ただ、訊きたい事が我々のボスにはあったようでして、その為に連れ去ったのです。無論、事が済み次第お返しします。ただし…貴方方が大人しくしていなければ…、彼等にはあるものが訪れますので、ご注意を。——今回はそれを伝えに来ただけですので」
 そう言った男が踵を返しかけた時、雨宮が声をかけた。
「さっきの言葉の…あるものとはどういう意味だ?」
「…分からないのです? ——死、以外に何があると?」
「!!」
 男の言葉で雨宮が硬直した。
「無論、貴方方が大人しくしていれば、何も起きないのです。その事をお忘れなきよう」
 男の姿が一瞬ぶれたかと思うと、消えていた。

 ◆     ◆     ◆

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.126 )
日時: 2013/12/12 21:50
名前: 風龍神奈 (ID: 03x.my9j)

「——お久し振りですね、トレイター様」
 癒月の体を借りたサクリファイスが、恭しく礼をした。
「久しいの。サクリファイス。…主が覚醒した時から、ずっと連絡をくれなかったからのぉ」
「あら、それは失敬。でも、仕方ないんです。何せ、今代の氷の継承者は、私に体を使われるのがいやみたいで。だから、私がこの体を使えるのは、時々ぐらいしかないんですよ」
「ふむ。そうなのか」
 トレイターが、ふと視線をフェイに移した。
「主が…炎の継承者かの?」
「…!」
 その時、初めてトレイターの顔を見たフェイは、吃驚した。
「そんなにも儂が気になるかの?」
「——そういう冗談を言ってる暇があったら、紹介をしたらどうです?」
「そうだのぅ。——きちんと紹介しなくてはな」

 パチンッ!
 
 トレイターが指を鳴らした瞬間、彼が煙に包まれ、それが晴れた後には。
「っ!?」
 先程そこにいた老人の姿はなく、代わりに、精悍な顔つきの男がいた。
「——では、改めて、初めまして、炎の継承者よ。私の名はトレイター。君等の初代に破壊死書を渡した『賢者と愚者(マルサグーロ)』のボス、リーダーだ」
 年の頃は30代前半か後半か。黒髪に黒目、黒いスーツという黒づくめだが、その左目の上には傷跡があり、存在感を放っていた。
「マルサグーロの…!?」
「ああ、そうだ。そして、私は君に用がある」
「…何用だ」
 一瞬にして低い声へと変えたフェイの視線に動ずる事もなく、トレイターは言った。
「君等の師匠——先代氷炎使いの片割れは現在、EDSCから此方に身柄を移されたんだが、どうも納得していないようでな、暴れているんだ。だから、君等に止めてもらいたいんだ」
 トレイターが言った言葉に、フェイが驚きの視線を向ける。
「師匠が…!?」
「ああ、そうさ。君等を呼んだのは、この為だったんだよ」
「師匠の居場所は何処だ!!」
 いきり立つフェイを鎮めるかのように、言った。
「慌てるな。場所はサクリファイスが知っている。——案内してやれ」
「…ったくもう。…行くわよ」
 サクリファイスが踵を返し、その後をフェイはついていった。
 だから、知らなかった。

「さぁて。——氷の継承者を完全に染め上げる為の準備をするか」

 トレイターが、こんな事を言っていた事に。