二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.141 )
日時: 2014/02/04 20:21
名前: 風龍神奈 (ID: 3AcPJtE0)

 第19話 サクリファイスと呼ばれるモノ

 ◇     ◇     ◇

——おい、完成したぞ…!
——何、本当か…!
——ああ…! これで、我等の悲願を達成できるぞ…!

 最初に覚醒した時、聞こえてきたのはそんな言葉だった。
 不思議な色の何かに包まれ、暗い場所で聞いたのは。

 ◇     ◇     ◇

 久し振りに、夢を見た。
 他人の意識の中で眠っている時に。
「………」
 目が覚めて、最初に思った事はそれだった。
「…久し振りに、見たわね…、自分が作られたときの事…」
 彼女は——サクリファイスは、自分が作られた時の事を、夢としてみていた。
「作られてから何百年余り…経ったかしら? 未だに、課された命のもうひとつが達成出来ていないけど…」
 彼女は、何百年も昔に作られ、ずっと氷炎使い氷の継承者に憑いて来た。
 だから、氷炎使い炎の継承者に憑いたのは、初めてだった。
 でも、大丈夫だった。氷炎使いだったから。
 その人——フェイの中で、そう思いながらもサクリファイスは揺ゆ蕩っていた。
「…にしても破壊死書、私をあの子から追い出すとは。許される行為ではないというの…」
 言いかけた時、彼女は自分の体がぶれた事に気付いた。
「…っ!」
 サクリファイスが上を仰ぐ。
「一体、破壊死書は何をしようとしているの…? まさか…。——時間がないわ」
 何かを決意したサクリファイスは、浮上していった。

 ◆     ◆     ◆

 鬱蒼と茂った森の中に、一つの影があった。
「…此処じゃ、少し厳しいか。やはり…、あの場所がいいだろう…」
 そんな呟きとともに、影は何処かへと飛び去った。

 ◆     ◆     ◆

 神童達が現代へと戻されてから数日後の事。
 サッカー棟サロンに集まっていた皆は、中々来ない二人の心配をしていた。
 …一部の人を除いてだが。
「…ねぇ、癒月とフェイは?」
 ふと誰かがそう言った瞬間、フェイが現れた。
「ごめんね。遅れて」
「ううん、大丈夫だけど…、癒月は? どうしたの?」
 そう訊かれて、一瞬彼は返事に戸惑った。
 が、何れ知られるならばと思い、フェイは全てを説明した。
 癒月が破壊死書に体を取られた事、今年の大晦日までに彼女を取り戻さなければ彼女は二度と帰って来ない事を。
 話を聞くにつれて、皆の表情が変わったのに彼は気付いたが、気付かないふりをして話し終えると、問いかけた。
「——それで、皆はどうしたい? 癒月を、助けたい?」
「「「当たり前だ!!」」」
 一斉に、声が返ってきた。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.142 )
日時: 2019/09/17 22:41
名前: 風龍神奈 (ID: p0V5n12H)

 それを見て、フェイは何故だか安堵した。
「…良かった…」
 誰にも聞こえないようにそう呟いた時、ふと彼は天井を見た。
「っ!?」
 次いで、フェイは瞠目した。
「「「?」」」
 フェイが天井を見て瞠目しているのに気付いた皆は、訝しげな顔をしながらも天井を見た。
「「「っ!!?」」」
 天井には——癒月が、いた。
 そのまま、ふわりと癒月は降りてくる。
「…癒月…なの、か…?」
「『癒月』ではないわ。私の名前はサクリファイス。この姿はあの子の姿を借りているだけ」
「サクリ…ファイス?」
「ええ。多分、貴方達なら聞いた事あるはずよ。そこの片割れから」
 サクリファイスが雨宮、神童、霧野を指差して、そしてフェイを指す。
 皆の視線が、フェイへと集まる。
 彼は一瞬焦りの表情を浮かべて、だがしかしそれをすぐに打ち消して、静かに言った。
「…うん、確かに言ったよ。でも、あの時は君がいるなんて思ってもいなかったし」
「極力、姿を現さないようにしているからそう思うのも無理は無いわ。何せ、私に課された命は、出来る限り氷炎使いにばれてはいけない事ですもの」
「だからと言って、ひょいひょい癒月の体を使うのはどうかと思うけど?」
「仕方ないのよ。私には実体が無いから、あの子の体を使わないと命を果たせないのよ」
「…それで、癒月の体を使っていたと言う事か」
「ええ、まぁそういう事ね」
 一旦会話を終了させたサクリファイスは、皆を一瞥すると言った。

「お願い。——あの子を、癒月を救ってほしいの」

「「「!?」」」
 思いもよらない彼女の言葉に、一同は瞠目した。
「私は本来、氷の継承者の中にいなくてはならない。氷の継承者から出てしまうと、その日のうちに死ぬほどね。今は…、同じ氷炎使いの炎の継承者…貴方の体を借りているから生きているけど…、やっぱり、あの子じゃないと駄目なの」
「…でも…君は…」
「分かっているわ。私はマルサグーロに作られた、だから敵じゃないかって言いたいんでしょ?」
「? 作…られた?」
「あら、知らなかった? 

 私は、マルサグーロ——人間に作られたのよ」

「!!」
 吃驚するフェイに、サクリファイスは嘆息して、何かを思いついたように言った。
「…私の事を話せば、いいのかしら?」
「え?」
 間髪入れずに、サクリファイスが両手を掲げる。
「教えて、あげるわ。私が作られた時の事を———………」
 瞬間、一同を睡魔が襲ったと同時に、記憶が流れ込んできた。

 ◇     ◇     ◇

 今より、何百年も昔の事。
 それより何千年も昔に、破壊死書を見つけ、その後初代氷炎使いとなる男にそれを渡してから、マルサグーロは破壊死書と氷炎使いの関係について調べていた。
 だが、その関係よりも先に、破壊死書を使って、とある事が出来ると判明してしまった。
 それからというもの、マルサグーロは必死にあの男の子孫を探し出したり、破壊死書の気配を探ったりした。
 が、行方は杳として知れず、探す日々が増えていくだけだった。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.143 )
日時: 2013/12/31 21:45
名前: 風龍神奈 (ID: OK7TThtZ)

 しかし、それから5年後。彼等に転機が訪れた。
 その頃マルサグーロにいた科学者2人が、あるモノを作り出したのだ。
 それが、——サクリファイスだった。
「おい、完成したぞ…!」
「何、本当か…!!」
「ああ、本当だ。これで、我らは氷炎使いを探し出せるぞ…!」
 科学者がそんな話をしている時に、サクリファイスは不思議な色の液体の中で、それを聞いていた。
(…私は、その為に作られたのか…)
 こぽこぽと音を立てる液の音を聞きながら、サクリファイスは思った。
「実体を持たなかったのは失敗かと思ったが…、案外ない方がいいかもな」
「そうだな。何せ、これには氷の継承者に憑いてもらうからな」
 彼女が覚えているのは、此処までだった。

 ◇     ◇     ◇

 気が付くと、皆は眠りに落ちていた。
「…あら、気付くのが早かったわね」
 癒月の姿を借りたサクリファイスが、柱に凭れた状態でそう言ってきた。
「今、見せていたのは、君の過去?」
「ええ、そうよ。私が作られていた時のよ。…あの後、私は3日後に氷の継承者を見つけ出して、憑いたわ。
暫くその人は元気に過ごしてた。私に動向や状態を知られているともしらずにね。でも、——ある時突然死んだわ」
「!?」
 サクリファイスが淡々と告げた言葉に、フェイは瞠目した。
「…その時に、破壊死書を解放してしまったのもあるでしょうけど…、私にも一理あるわ。人間の体何て、交わらない二つの魂が入っていたら、すぐに体力を消耗する弱くて脆い体だから。——で、その時私も一緒に死んだわ。でも、何故か破壊死書の中に意識があって、次の代に渡った瞬間、すぐにつけた」
「…それは、ありえないよね。破壊死書の中にいるなんて…」
「そうね、普通ならそんな事は出来ない。破壊死書の中に入り込めるのは、誰もいないわ。だから、私は破壊死書の中に入り込めれる唯一の存在なのよ」
「…入り込んで楔を打ち込む、からサクリファイスなのか?」
「さぁ。私の意味は知らないわ。…そろそろ、他が目覚めそうだから、私はお暇するわね」
 くるりと身を翻しかけて、彼女は立ち止まる。
「最後に、一つだけ教えてあげるわ。全ての鍵(キー)は、マルサグーロ、破壊死書、氷炎使いにあるわ」
「!? どういう意…」
 フェイが訊く寸前に、サクリファイスは消えた。
 瞬間、皆が目を覚ました。
「…今のは…一体…」
「過去だよ、サクリファイスの。…本人は、いなくなったけどね」
 意味深な言葉を残して。
 彼女は、一体何がしたいのだろう——。
「フェイ、どうしたの?」
 考えに没頭しかけていたフェイは、呼ばれたのに気付いて慌てて答えた。
「…何でも、ないよ」
「なら、いいけど…」
「——ごめんね」
「「「へっ?」」」
 突然、フェイの口から紡がれた謝罪の言葉に、皆は目を丸くした。
「暫く、別行動をさせてもらうね。——瞬転」
 彼はそう言うと、呪を唱えて消えた。



「…あった!」
 目的の物を探し出して、手に取る。
 その物は——一冊の本は、かなり薄く、古そうだった。作者名すらのっていない。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.144 )
日時: 2013/12/31 21:52
名前: 風龍神奈 (ID: OK7TThtZ)

「題は…『楔贄ノ存在』」
 ぱらぱらと、最初を捲ってみる。
『サクリファイス…「楔贄ノ存在(サクリファイス)」と言われるその存在は、何百年も前に「賢者ト愚者(マルサグーロ)」が氷炎使いと破壊死書の居場所を探す為に作った遺伝子を走査して見つけるプログラム(機械)の事である。サクリファイスしか行けない世界があり、そこから様々な情報や遺伝子を引き出したり、走査していると思われる。マルサグーロがサクリファイスに課した命は、氷炎使いと破壊死書の動向を報告するという命である。が、それ以外に極秘密裏に——上層部の一部しか知らない命も課されており、それは———』
「! …破けてる」
 その秘密裏に課された命が載っているであろう頁が、破かれていた。
 一体誰が破いたのか。前読んだ時は気にもしなかったけど、あった筈だ。
「——よもや、炎の継承者に見られるとはな」
「!? 誰だ!?」
 不意に誰かの声が聞こえ、フェイは振り返った。
 と、そこには——入り口に凭れかかる、癒月がいた。
 一瞬彼女の名を口に出そうとしたが、彼女の右頬に痣があるのを見て、フェイはすぐに破壊死書だと分かった。
「だがまぁ、貴様に見られた所で、どうにもならないがな」
「! 破壊死書、お前が…!?」
「ああ、我が破った。貴様等には見られたくない情報なのでね」
「何だと…!!」
 激昂しかけたフェイの前で、破壊死書は氷破刃を作り出した。
「——それ以上言うなら、こいつの喉笛を切り裂くぞ」
「…っ」
 有無を言わない表情の破壊死書に、大人しくフェイは従う。
「…そうそう、貴様に用があってな」
「僕に何の用だ」
「——『神々の聖域(セオラード・センクチュアリ)』への行き方について教えろ」
「!!!」
 フェイの表情が、一瞬にして驚きへと変化する。
「知っているのだろう? 何せ炎の継承者は、代々それの門番を務めるのだから」
 破壊死書が、そう言って笑う。
「何を…するつもりだ? あそこは完全なる聖域。僕等——氷炎使い以外は、決して立ち入れない場所だ」
「そんな事、我が知るか。第一、我の目的は今の世が終わるその日まで身を隠すこと。『神々の聖域』は、まさにうってつけの場所だ」
 黙って破壊死書の言葉を聞いていたフェイが、不意に笑った。
「はは…あはははは!」
「…何がおかしい」
 彼の笑いを見て、破壊死書は怪訝そうに尋ねた。
 それに対して、フェイは。

「うってつけの場所? 『神々の聖域』が? ——はっ、笑えすぎて逆に可哀想って思えるね」

 そう答え、また笑った。
「何だと…?」
 破壊死書の表情が、怒りに満ちる。
 それに気付きながらも、フェイは続けた。
「君は、分かってて言ってるんだよね? あそこには、代々の氷炎使い氷の継承者が埋葬されてるのを知ってて」
「!」
「氷炎使いになった者は、皆長じて不老不死になるけど、破壊死書に喰われた場合は、死が訪れる。だけど、君に喰われた場合は、魂しか残らない。——じゃあ、逆に質問するけど、その残された魂は、どうなると思う?」
 フェイの問いに答える前に、破壊死書は気付いた。
「…全て、『神々の聖域』に行くという事か」
「半分当たり、半分はずれ。正確に言えば、偶数の代の氷炎使いはそこへは行けない。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.145 )
日時: 2013/12/31 22:00
名前: 風龍神奈 (ID: OK7TThtZ)

 何故なら——天と地、両方から護らないといけないから」
「! …地下にも、あるのか?」
「あるよ、『魔王の聖域(サタナス・センクチュアリ)』が。ただし、偶数の代の氷炎使いしか行けないけどね。——ま、僕は君を聖域へと入れる気はないけど」
 そう言って、踵を返しかけたフェイに。
「貴様等の代は…どちらだ?」
 破壊死書は問いかけた。
「…僕等は、11代目さ」
 答えて、フェイは消えた。