二次創作小説(新・総合)
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【最終章開始】 ( No.151 )
- 日時: 2014/08/01 21:02
- 名前: 風龍神奈 (ID: hR0c4sNb)
第20話 彼ノ目的ト消エタ仲間
12月某日の朝の事。
サッカー棟に朝練をしに集まっていた雷門サッカー部の皆は、未だ行方不明の癒月の事を心配しながらも、朝練をやっていた。
「え? 癒月(破壊死書)に会ったって?」
「うん。右頬に痣があって、胸元に破壊死書がなかったから」
癒月——破壊死書に会った事を、フェイはその事を知っている神童、霧野、雨宮に話していた。
本来、彼等はその事を知らないで過ごす筈だった。が、マルサグーロが無関係な三人を巻き込む、と決めた時に、彼等の運命は変わってしまったのである。
氷炎使いに関わりを持った者は、敵から狙われやすくなり、氷炎使いに起きた事は、全て聞かないといけない。だから、フェイは今、彼等に話していたのだった。
「一体、何をしに現れたんだ?」
「聖域の場所を、訊きに来たみたい」
「「「聖域?」」」
三人の声が綺麗にハモり、フェイが頷く。
「うん。僕等氷炎使いしか知らない場所に聖域と呼ばれる場所があるんだ。破壊死書は、其処に隠れたかったようだけど…、聖域には、氷の継承者が埋葬されているし、炎の継承者が門番を務めているのもあって、許可をしなかった」
「埋葬? 氷炎使いも死ぬのか?」
「…うーん、正確に言うとちょっと違うよ。氷炎使いになった人は全員、皆長じて不老不死になるんだ」
「「「不老不死っ!?」」」
目を丸くする三人を見て、フェイは若干苦笑した。
「そんなに驚く事じゃないよ。不老不死になるけど、破壊死書に喰われたら、『死』が訪れるし」
「破壊死書に喰われる?」
「うん。前に癒月が破壊死書を解放してしまった時があったでしょ? あの時破壊死書が言っていた言葉、『我を呼び出した者は喰らわなければならない』。この言葉通り、破壊死書に喰われた氷の継承者は、魂だけを残して、この世からいなくなるんだ。そして、その残った魂を埋葬するのが、二箇所にある聖域。奇数の代と偶数の代で、埋葬される聖域が違うから」
「そうなのか…」
「それで、無事だった方の炎の継承者は、聖域と、氷の継承者を護る為に門番となるんだ」
「…成程、そういう事か。ありがとうな、フェイ」
「…僕は、必要だから話しただけだよ。他の皆よりも、深く僕達と関わってしまった、君達の為に」
フェイがそう返して、踵を返しかけた時。
「——よぉ。久し振りだな」
何処からかそんな声が飛んできた。
「誰だ!?」
振り返ったフェイは、その声の主を見て、絶句した。
「…!?」
「おいおい、無言だ何て酷いな。折角、いい情報を持ってきてやったというのに」
——そこにいたのは、全身黒ずくめの、聖煉闇焉だった。
◆ ◆ ◆
フェイ達が闇焉と対面していた時、破壊死書は、鬱蒼とした森の中である人物と対面していた。
「…貴様は、誰だ?」
「さぁ? でも、貴方の味方だって事は分かってるわよ?」
「………」
無言で返す破壊死書に、その人物は口角を吊り上げた。
「信用していないのね。なら、これを見せたら分かるかしら?」
その人物が何かを見せる。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.152 )
- 日時: 2014/08/01 21:30
- 名前: 風龍神奈 (ID: hR0c4sNb)
瞬間、破壊死書の表情が一気に驚愕へと変わった。
「…貴様、何故それを…!?」
「さぁね。でも、これで分かったでしょ。私が、貴方の味方だって」
その人物がくすりと笑う。
「…いいだろう、信用してやる」
「そう、ならOK。じゃあ、連れて行ってあげるわ、我等の居場所へ」
その人物と共に、破壊死書はいなくなった。
◆ ◆ ◆
「…いい情報を、持ってきた?」
闇焉が言った言葉を、フェイが胡乱気に聞き返した。
「ああ、そうだよ。お前達にとって、いい情報をな」
彼はそう言って、ちらりと周りを一瞥すると、視線をフェイ達に戻した。
「だがま…、条件がある」
「何が条件なの?」
「——お前等4人だけ、何処か違う所へ移れ。他の奴らには聞かせたくないからな」
「…その違う場所には、他の誰かがいたらまずいの?」
条件を言った闇焉に、フェイが訊いた。
「お前の協力者等の場合は別だ」
「じゃあ、いい場所があるよ。案内する。——天空移動」
その場にいた者達は、何も伝えずに消えた。
◆ ◆ ◆
「…破……書の中…サ…ファ…はい…の…か…?」
「い…え、いな…よ…で…」
「で…、何処…い…ん…?」
「…も…や、片…れに…るか…し……せ……」
「! ……ら、片……も…れて…い…」
「了…で……」
暗い何処かの部屋で聞こえていたくぐもった声は、それを境に消えた。
◆ ◆ ◆
天空移動を使って、フェイ達が移動した先は、水無月のいる神社だった。
フェイは、その場から動かないよう皆に言うと、事情を説明する為に水無月の許に向かった。
境内を掃除していた彼女は、誰かに呼びかけられたような気がして、後ろを振り返った。
「!? フェイ!?」
駆け寄って来る彼を見て、水無月は驚いた。
何故、フェイが此処にいるのかと。
「…水無月、実は……」
フェイが、此処にいる理由を全て話した。
それを聞き終わってから、水無月が口を開いた。
「…それの為だけに、此処に?」
「うん、ゴメンね水無月。此処以外思いつかなくてさ…」
「…まぁ、別に構わないが…何処でその話をするんだ?」
「十六夜樹の所かな。そこぐらいしか思いつかないんだよね」
「…十六夜樹の所は聖域だからって事か?」
「うん、それもあるけど、一応あそこは誰も立ち入らない場所だから、安全に話せると思って」
「なら…いいけど…、何かあったら飛ばせよ」
「分かった〜」
フェイはそう答えると、皆の許に戻っていった。
◆ ◆ ◆
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.153 )
- 日時: 2019/11/28 22:29
- 名前: 風龍神奈 (ID: p0V5n12H)
「…さ、此処が我等の居場所よ。今から貴方の隠れ場所にもなる所ね」
謎の女性に連れてこられたのは、何処かで見たことあるような景色をした所だった。
暫くその景色を見ていた破壊死書は、不意に問うた。
「…本当に、貴様等を信用していいんだな?」
「言ったじゃないの。私達は、味方だって。あれだって、見せたし」
「…………」
無言になった破壊死書に、彼女は優しく言った。
「今から、部屋へ案内するわ。貴方用の部屋へ、ね」
そう言った彼女の瞳の奥が、狂気に満ちていた事に、破壊死書は気付かなかった。
◆ ◆ ◆
闇焉達は、フェイに連れられ十六夜樹の許へ来ていた。
「…此処なら、誰もいないから、安心して話せるでしょ?」
「…まぁ、確かに…な」
辺りを見回してから、闇焉は視線を4人に戻す。
「——で、俺がお前等に伝えたい事は、サクリファイスの事についてだ」
「「「「え?」」」」
彼が言った言葉に、4人は瞠目する。
「…もしかして、闇焉、君はサクリファイスが受けたとされるもう一つの——極秘密裏の命を、知っているの?」
フェイが訊いた事に、彼は頷く。
「…ああ、知っているさ。今回、それを伝えに来たん——」
不意に、闇焉の言葉が途切れた。ような気が、した。
——次の瞬間、フェイはその場に倒れていた。
「「「フェイ!?」」」
急に倒れた彼を見て、雨宮達が声を上げる。
雨宮はフェイを抱えようとして、だが次の瞬間感じた気配が彼を振り返らせる。
「——こんな所にいたのね、炎の継承者は」
そこにいたのは、一人の女性と従者と思える男二人。
ただの一般人のように見える彼女等に、怪訝な視線を向けていた三人は、不意に雨宮の表情が青ざめているのに気付いた。
「…雨宮、どうし…」
「何で…母さんが…此処に…!?」
訊こうとした神童の言葉を遮って、雨宮が呟く。
「「えっ?」」
と声を上げたのは神童と霧野で、闇焉は相手をじっと見ている。
「…あら、太陽もいたのね。どうしたの?」
「…何で、母さんが此処にいるんだ…!!」
「何でって、そこにいる炎の継承者さんに用があったに決まっているじゃない。彼の中に、サクリファイスがいるんだから」
「「何…!?」」「「何だと…!?」」
女性が言った言葉に、4人は瞠目する。
「あら? そこの黒い子と太陽は兎も角、貴方達一般人まで知ってる何て。今代氷炎使いは、どれ程の人を巻き込んだのかしら?」
女性が神童と霧野を指差して、笑った。
「…まぁ、でもそれは関係ない事だわ。何せ、今の目的は、炎の継承者の中から、サクリファイスを呼び出す事だから。破壊死書に押し出されたサクリファイスを、再び氷の継承者に憑かせる為に、ね」
パチン、と女性は指を鳴らした。
刹那。
「—————ッ!!!!」
気を失っていた筈のフェイが声にならない悲鳴を上げ、その場をのた打ち回る。
「「「フ、フェイっ!?」」」
三人のそんな声が響いたかと思うと、彼の動きが止まった。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.154 )
- 日時: 2014/08/01 21:48
- 名前: 風龍神奈 (ID: hR0c4sNb)
と、彼の体内から、何か白いモノが出てくる。
その白い何かは、ふわふわと漂いながら、女性の許へ向かっていく。
だが。
「——行クナ、サクリファイス」
それまで黙っていた人物の一言で、白い何かの動きが止まり、ふわふわと此方に戻ってくる。
「…どういうつもりかしら? 黒い子君?」
「俺の名前は聖煉闇焉だ。
雨宮澪(れい)——今は神楽(かぐら)か」
「!! どうして母さんの名を…!? てか、澪って…!?」
闇焉が言った女性の名を聞いて、雨宮が瞠目する。
彼は、戻ってきた白い何かを胸に抱えながら、言った。
「…知らないのか? こいつは一言で表せば、“化ケ物”だよ」
「「「!?」」」
闇焉の言った言葉に、一同は瞠目した。
「化ケ物何て、酷いわねぇ。大人の女性に言う言葉じゃないわよぉ?」
「黙れ。
永遠の時を生き、一度破壊死書によって呼び戻されたモノ何て、“化ケ物”で十分だろうが」
「「「…!?」」」
話が読めない3人を置いてけぼりにして、闇焉と女性——神楽は話を続ける。
「…まぁ、入るかもしれないわねぇ、よくよく考えたら。…でも、この話はあまり好きじゃないの。だから、この話を止めると共に、ソレを渡してくれないかしら?」
「断るな、サクリファイスを渡すのは。サクリファイスは、俺に今必要だ」
「…………」
そう言った闇焉を無言で睨む神楽に、同じように彼も睨め返す。
だが、彼女の隣にいた男が何かを耳元で囁く。
「…仕方ないわね。暫く、サクリファイスは優秀な貴方に預けておくわ。それと、我等の組織とマルサグーロは、手を組んだから。…それから、太陽達へ。今戻っても、貴方達の大切な何かはいないわよ? 救いたければ、明日、此処へ来る事ね。そこの、黒い子を連れてね」
そう伝えると、神楽は従者らしき男二人と一緒に消える。
とそれに入れ替わるようにして、水無月が現れた。
「!? 水無月さん!?」
「一体何があった!! 詳しく教え…、フェイ!!」
そこにいた4人に問おうとして、だがフェイが倒れているのに気付いた水無月は彼の許に駆け寄る。
「おい、フェイ! 大丈夫か!?」
彼女に揺さぶられたフェイは、暫くしてから小さく呻き声を上げ、うっすらと目を開ける。
「…水無月…?」
「気が付いたか、フェイ。大丈夫か?」
「…うん…、大丈夫だよ…」
彼の言葉を聞いて、大丈夫だと判断した水無月は、フェイを起こして、4人に問うた。
「一体、何があったんだ?」
「——俺が話している途中で急にそいつが倒れ、その後、こいつの母親が現れた。母親——神楽はサクリファイスを捕らえに来たが、結局捕らえずに帰った」
先程の説明をした闇焉を一瞥して、水無月は他の三人を見る。
「闇焉の言う通りなのか?」
顔を見合わせた三人は、強ち間違ってはいないのでこくりと頷く。
「てか…どうしてフェイは倒れたんだ?」
「それが…よく分かんないんだ。急に、闇焉の言葉が途切れたと思ったら、そこから意識がなくて…」
「…こうなったら奴に直接連絡を取るか…」
誰にも聞こえない程の声量で呟いた水無月は、皆に言った。
「一先ず、お前等は雷門に帰れ。何か仕掛けているんだろうしな、奴等の事だから。もし、何かあったら…フェイ、連絡をよこせ。術使えば簡単だろう?」
「分かった。何かあったら連絡するね。——天空移動」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.155 )
- 日時: 2014/08/01 22:00
- 名前: 風龍神奈 (ID: hR0c4sNb)
フェイはそう答えると、呪文を唱えて、皆と共に消えた。
「…さぁて、私は月牙と連絡を取らないとな」
彼女は、十六夜樹の許から出ると、霊奇棟へと向かった。
◆ ◆ ◆
コンコン。
二回扉をノックする。が、反応が無かったので神楽は扉を開けて中に入った。
と、少し歩いた先にある居間のような場所で、二人掛けソファに凭れて寝ている人物がいた。
「…何で、寝ているのかしら? そもそも、眠りは必要な……」
言い差して、彼女は気付く。
ソファに凭れて寝ている破壊死書の体は、マルサグーロの力で赤の他人の癒月の体だという事を。
「…だから、ね…」
そう呟いた彼女は、眠っている破壊死書を一瞥すると、部屋を出て行った。
◆ ◆ ◆
「……っ、何で誰も…!?」
雷門中へと戻ったフェイ達は、サッカー棟の中が蛻の殻になっているのに気付いた。
「…やはり、やったか…」
そうぼやく闇焉の横で、白い何かはふわふわ浮いている。
「…どうした? 何か言いたい事があるのか?」
《…仲間ハ…連レ…去ラレタ…テ…伝エテ…》
そんな言葉が脳裏に浮かぶと同時に、白い何かはふっとフェイの体内へと入り込む。
「…………」
少し思案した闇焉は、皆を呼ぶと、言った。
「簡潔に言おう。お前等の仲間は、全員神楽のいる組織へと連れて行かれた」
「「「「!!?」」」」
彼が言った言葉に、一同は瞠目した。
「あの時、神楽が言っていただろう? 『大切な何かはいない』ってな。恐らく、それはお前等の仲間の事だ」
「…じゃあ、皆は僕の所為で連れ去られたって事!?」
「…かも、しれないな」
「…っ!!」
フェイが俯いて、ぎゅっと拳を握り締める。
「…………」
その場にいた皆が無言になり、暫く重苦しい空気が流れる。
「——一つだけ、方法がある」
「「「「!?」」」」
が、その空気を破って言った闇焉の言葉に、皆は驚いた。
「神楽が言った最後の言葉を信じてみろ。奴は、救いたければ明日、十六夜樹の所に来いと言った。…神楽はこういう事をする奴だが、言った言葉を違えるような人じゃない」
「…どうして、そう断言出来るの?」
神楽の為人を言った闇焉に、フェイは問い、彼は答える。
「…それは、な。
——昔、一時期だけ神楽と一緒に過ごしてた時が、あったからだよ」
◆ ◆ ◆
『…あら、どうしたの?』
ぼやけていた水鏡が、そんな声と共に相手の姿をはっきりと映し出す。
「ちょっと、訊きたい事があってな。それで連絡した」
『何の事についてかしら? 私は、そんなには知らないわよ、水無月』
「どこがだ、月牙。お前も、不老不死の身だろうが」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.156 )
- 日時: 2014/08/01 22:07
- 名前: 風龍神奈 (ID: hR0c4sNb)
そう言ってから、水無月は急に真面目な顔になる。
「——それで、お前に訊きたい事は、聖煉闇焉という少年について、だ」
水無月の口からその名前が出た瞬間、月牙が絶句した。
ややあって、彼女が訊く。
『…何処で、その名前を?』
「フェイ達と、一緒に行動していたからだ」
『…っ』
水無月がそんな嘘をつかないと思っていたから、月牙は俯いて唇を噛んだ。
絶対に、彼と一緒に行動させたくなかったのに。
「…そいつは、一体何者なんだ? 氷の継承者として育てられたと言っていたが——」
『奴は…闇焉は絶対に氷炎使いと一緒に行動させてはいけないの…!!』
水無月の言葉を遮って、月牙が言った。
「何故だ?」
『何故って、簡単よ。何せ、あいつは…!
——奴は、癒月の実の母親の隠し子であり、「氷炎使いを殺す者(トラディメント)」何だから…!!!』
◆ ◆ ◆
「一時期だけ…、一緒に過ごしていた…!?」
闇焉の言葉に、雨宮は驚いた。
自分の記憶の中に、そんな記憶はない。物心ついた時に、母親などいなかった。
一応、癒月にも訊いてみた事があるのだが、同じく彼女も記憶が無かった。だが、彼女の場合、養子になった為、義母(月牙)との記憶は一応あるのだ。
だが、雨宮は母親がいない状況で育った。では何故、彼が母の事を知っているかというと、父親に色々と教えられたのだ。写真も見せられた。だから、あの時彼は神楽が母親だと分かったのだ。
一緒に過ごした記憶のない母親と一時期過ごしていた人物が、目の前にいる。
「ああ、そうだ。俺は、神楽と一時期過ごしていた。だから、奴の為人を知っている」
闇焉はそう言うと、それ以上詳しく語らず言った。
「——俺が怪しいと思うなら、お前等は仲間を助けに行くな。神楽は、俺もいないと救えないと言った。だから、仲間を助けに行きたいのなら、俺について来る事だな」
彼のその言葉に、反論を唱える者は居なかった。