二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.159 )
日時: 2014/08/04 11:58
名前: 風龍神奈 (ID: rRtxGeJP)


 第25話 「マルサグーロ」ト「マルペメーソ」

  ◆     ◆     ◆

「何…だと!?」
 月牙が言った言葉に、水無月は瞠目した。
「どういう事だ、それは! 『氷炎使いを殺す者(トラディメント)』って、一体何だ!?」
『…貴女には、教えられないわ。だって、貴女は一般人だから。幾ら、私の弟子二人の里親的存在であっても、貴女が一般人だという事に、かわりは無いのだから』
「…ッ!!」
 悔しさに唇を噛む水無月を見て、月牙は同情を駆られそうになるが、氷炎使いと一般人の違いだと割り切る。
「じゃあ、だとしたらフェイ達の仲間はどうなる!? あいつらも、一般人だろう!?」
『彼等は…仕方ないの』
 月牙が言葉を切って、言った。

『癒月達が、雷門中サッカー部に入った時点で、彼等が巻き込まれるのは運命になったんだから』

「…!!?」
 水無月は驚き、次いで俯くと、拳を握り締めた。
 癒月達に学校を勧めたのは自分だ。だから、今回の事で巻き込まれてしまった彼等の運命は、自分がそうさせてしまったようなものなのだ。
 その思いが自身を、胸の奥から苛む。
『兎も角、話はこれで終わり。私には、これから準備があるから。…それじゃあね』
 その言葉と共に水鏡が消え、月牙の姿は確認できなくなった。

 ◆     ◆     ◆

——次の日。
 闇焉達は、十六夜樹の許に来ていた。
「——あら、ちゃんと来たのね。えらいえらい」
 そんな言葉が聞こえたかと思うと、神楽が背後に立っていた。
「…それで、返してくれるんだよね? 勿論、仲間の事だとは分かっているだろうけど」
「どうかしら? 分かっているんでしょう? 君が、仲間を巻き込んだ事。君が、選択しなければ、巻き込まれる事は無かったのは」
 神楽の問いに、フェイは答えた。
「…分かっているさ、そんな事。全て、僕と癒月が原因だってね! 僕等が存在しなければ、こんな事にならなかった事ぐらい!!」
「…分かっているのなら、いいわ。案内してあげるわ、君達の仲間の許へ」
 神楽の言った言葉の後に、そこにいた一同は一刹那の間に消えた。

 ◆     ◆     ◆

(………此処…は…何処……?)
 真っ暗な、虚無に包まれた空間の中で、そんな声が響く。
(私は……一体………)
 その声と共に、ジャラリ、と鎖の鳴る音がする。
 と同時に、真っ暗な空間が震えた。
(…だよ……そんなの…気にしちゃいけない……だって……私は…………)
 真っ暗な空間が更に震えて、その声を掻き消す。
(……また………眠ろう………そしたら……全てを……忘れ…られる………から……)
 声はそれきり、聞こえなくなった。

 ◆     ◆     ◆

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.160 )
日時: 2014/08/04 12:10
名前: 風龍神奈 (ID: rRtxGeJP)

 神楽に連れられ、降り立った場所は、前に訪れたマルサグーロの所だった。
「…!?」
 とまどいを隠せないフェイに、神楽は言った。
「だから、言ったでしょう? 我等の組織、『禁忌を行いしモノ(マルペメーソ)』と、『賢者と愚者(マルサグーロ)』は、手を組んだって」
 マルサグーロのような組織がまだあった事を今始めて知ったフェイは、何とも言えない表情になった。
「あら、勘違いをしないでね。元々はマルサグーロしかなくて、我等の組織は、新しく出来たのよ。とは言っても、マルサグーロが出来てから、10年後に出来たんだけどね」
「…それに突っ込みを入れる前に、そんな組織があるのがおかしいと思うけど?」
 フェイの言葉の前半を無視した神楽は、後半に答える。
「そう思うようさせたのは、先代氷炎使い炎の継承者月城月牙かしら?」
「!? どうしてそれを!?」
 確かに、フェイと癒月は月牙から、マルサグーロみたいな組織は存在してはいけない、だから消さなければならない、と言われていた。
 だからと言って、それを誰にも話した事など無いし、ましてや、敵の立ち位置である神楽が知っている訳が無い。
 神楽の言葉を待つと、彼女から驚きの言葉が発せられた。
「知ってるわよ。

 だって、癒月を彼女に預けたのは私何だから」

「「「「!!?」」」」
 闇焉を除く4人が驚き、次いでフェイと雨宮が同時に言った。
「「何で、癒月を預けたんだ!?」」
「仕方なかったのよ。それに、そもそも癒月が産まれた訳を知らない輩に言われたくないわ」
「!? どういう事だ!?」
 そう訊いた霧野に、神楽は答えた。
「癒月は、あれは我等の組織と、マルサグーロ、破壊死書、氷炎使いの道具として産まれてきたの。これら全ての因縁を断ち切り、この世界を平和に導く為にね」
「「「「…!?」」」」
 後半の言葉の意味が分からず、4人は困惑した。
 この人は、一体何がしたいのか。
 敵かと思えば、味方のような発言をし、意味の分からない発言もし、全く以(も)ってこの人の為人(ひととなり)が分からない。
「…さぁ、着いたわよ」
 そうこう考えている内に、仲間のいる所まで来たらしい。
「——あ、でも、貴方達を逃がしてあげるなんて、一言も言っていないからね♪」
 そんな声と同時に、『4』人は背中をどんと押された。

 ◆     ◆     ◆

 唐突に目を覚ました破壊死書は、部屋の電気が暗くなっている事に気付いた。
「…何だ、一体。我は何もしていないの…、っ!!」
 急に部屋が明るくなり、彼女—破壊死書は癒月の体に今は入っている—は、目を瞑る。
 数秒後、目を開けると、部屋は明るくなっていた。
「今のは、何だったのだ…。…ん…?」
 ふと、自分の胸に手を当ててみると、前まで普通に感じていた“音”が、今は弱々しくなっている事に気付いた。
「だろうな。後数日で、我に呑み込まれるのだからな…」
——…もう…やだ……このまま……消え……
 唐突に響いたその声に、破壊死書は驚いた。
「一体、どうしたのだ?」
 大分前に聞いた時は、まだ諦めていない言葉だった。
 なのに今の声は、『消えたい』という、前の時とは違う言葉。早く“死”を望んでいる言葉だった。
「何が…起こっているのだ…。それは…我にも…来るのか…?」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.161 )
日時: 2014/08/04 12:17
名前: 風龍神奈 (ID: rRtxGeJP)

 初めて味わったものに、破壊死書は不安を覚えた。

 ◆     ◆     ◆

 水無月との通信を切った後、月牙はある所に向かっていた。
「——いますか? 義父上?」
 辿り着いた先にあった、小屋のような建物の所で、扉をノックする。
 ややあって、扉が開き、従者と思われる人が出てきた。
「…10代目氷炎使い炎の継承者月城月牙様ですね? 主人がお待ちしております」
「分かったわ」
 月牙はそう答えると、従者に連れられて中に入る。
 が、中には何も無く、がらりと何も無い空間があるだけだった。
「××××」
 突然、従者が何かを呟いた。
 すると、床板の一部がずれ、地下へと続く階段が現われた。
「…相変わらず、こんなのが趣味って…、流石、仕掛けが大好きな人で」
「これは最近主人が作られたものですよ。…昔に比べて、作る量は減りましたけど。最近は、何かに夢中になっているようですし」
 螺旋階段を下りながら、従者は言った。
(…珍しいわね…あの人が…)
 そう考えるうちに、螺旋階段が終わり、従者が目の前にあった扉を開いた。
「!!」
 開かれた先の空間を見て、月牙は驚いた。
 先程の小屋の広さと比べる必要も無いぐらい広く、壁の色が白だった為、光が反射して明るくなっていた。
「主人の研究部屋です。——主様、月牙様をお連れ致しました」
「—そうか。ありがとうな、梓。下がってていいぞ」
「承りました」
 そう言って、従者——梓はその場を離れる。
「——お久しぶりですね、義父上」
「だな。お前と会うのはいつ以来だ?」
 何かに熱中していた人物が、此方を振り返る。
 年の頃は30代前半か後半か。藍色の髪に同じような瞳を持ち、白衣を着ている。
 背が高く、あまり脂肪がついていないように見える為、ひ弱そうに見えるが、それは白衣がそう見せているのだと、月牙は分かっていた。
 彼の体は、無駄なくつけられた筋肉に包まれているのを、彼女は知っている。
 何故なら——彼、月城藍青(つきしろらんじょう)は、月牙の義父であり、9代目氷炎使い炎の継承者なのだから。

 ◆     ◆     ◆

「…っ、てて…」
 部屋の中に放り込まれたフェイ達は、ごろごろと転がって止まる。
「行き成り放り込むとかやめてほし…、皆…!?」
 ぶつぶつと愚痴っていたフェイは、あちらこちらに倒れている皆を見つけて驚いた。
 が、すぐに近くにいた一人に駆け寄り、首筋に手を当てると、脈打つ音を確認した。
「…眠らせられているだけか…」
 そう思い安堵したのも束の間。
 突然、フェイは胸に鋭い痛みを覚えた。
「っ!!」
 何とか両腕で体を支える事に成功したが、痛みの直後に襲ってきた睡魔に、勝つ事は出来なかった。
(…しま…た……)
 その場に倒れたと同時に、彼の瞼が閉じられる。
「…………」
 それを行い見届けた彼——闇焉は、くるりと身を翻すと、その事を神楽に伝えるべく、彼女の許に向かった。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.162 )
日時: 2014/08/04 12:27
名前: 風龍神奈 (ID: rRtxGeJP)


 ◆     ◆     ◆
 
「…3、40年ぐらいじゃないですか?私が氷炎使い(この役目)を引き継いだ後から、ずっと会っていなかったんですし」
「その間に…、お前は勝手に譲ったのか」
 藍青の言葉に、月牙は肩を竦める。
「譲ってなんかいませんよ。私は、相方がいなくなってしまったから。それに、あの子等は氷炎使いになってから、まだそんなに経っていませんし」
「…俺みたいに、相方が無くなってからも、少しはすればよかったのにな」
 その言葉を聞いた月牙の目が細められる。
「——義父上には言われたくないですね。態(わざ)と相方が喰われるように仕向けたあなたには」
「!!!」
 藍青が瞠目した。それを見て、あの事は本当だったのかと月牙は思った。
「知っているんですよ。貴方が、破壊死書を使うように仕向けた事。それに、彼女の魂を『神々の聖域』に連れて行っていない事。全て、とある人から聞きました」
「…それは、誰だ?」
 人物を訊きだす様に低い声で尋ねた藍青に、月牙は答える。
「答えるわけがないでしょう? 貴方に教えたら、抹消されますから」
「——そうか」
 諦めたように言った彼の言葉に、彼女は安心しかけ——

「なら、直接お前の脳から訊き出すだけだ」

 そう言った藍青に戦慄した。
「…っ、何を、しようと思っているんですの?」
「お前を拘束してから、新しく作り上げた薬を使って、お前を眠らせて、ゆっくりと訊き出すだけだが?」
 さらりと告げた彼に、月牙は口中で呪を唱えた。
「——空縛」
「っ!!」
 突然、何かに縛られた藍青は、月牙を睨みつける。
 その視線を受け止めながら、彼女は言った。
「そんな事をされるのはごめんだわ。それに、私は貴方の玩具(おもちゃ)ではないし、物でもない」
 そう言って、月牙はその場を去っていった。

 ◆     ◆     ◆

 神楽を探してとある部屋に入ると、そこには彼女と破壊死書がいた。
「っ!?」
 驚く闇焉を見て、神楽は笑みながら言った。
「また眠っているから、大丈夫よ。——それで、どう? あの子等は」
「炎のが動こうとしていたから、気絶させておいたよ」
「そう。なら、OKね」
 神楽がそう言って、ソファに凭れて眠っている破壊死書の額を、軽く押した。
 刹那、破壊死書の体を鎖が包んだと思うと、それは消える。
「…よし、これで暫くの間、能力は使えないわ。能力の使えない破壊死書等、赤子にも等しいし、それに…、私達の悲願も近付いているわ」
「そうだな…母さん」
 神楽の言葉に、闇焉は頷いた。

 ◆     ◆     ◆

『我等は、あるお方の許に結成された、正しき組織だ! あのお方が逃した破壊死書を調べ尽くし、探し、実験台にし、氷炎使いを手に掛けるために、このマルサグーロは作られた!』
『我等は、トレイター様の野望に答えなければならない!!』
『我等は、トレイター様の為に存在する!!』

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.163 )
日時: 2014/08/04 12:54
名前: 風龍神奈 (ID: LMPzgpkP)

 一人の男がいった言葉に、大勢の人が答える。
 その光景を見ていたフェイは、それがマルサグーロの結成だという事を理解する。
(…これは、マルサグーロが出来た時の光景だ…)
 目を瞠りつつも、その光景を焼き付ける。
 その映像は、このような感じだった…。

 破壊死書を詳しく調べているうちに、マルサグーロは破壊死書は氷炎使いと切っても切れない縁で完全に繋がっているのを発見し、更には密接な関係を見つけた。
 だが、それはとある事件により、全て失われる。
 突如、マルサグーロを襲った襲撃事件により、破壊死書に関する情報全てが持ち去られ、更には一部の研究員が攫われた。活動の出来なくなったマルサグーロは、逃げるようにして表舞台から消え、ひっそりと研究を続けていた。そして、また十分に研究資料が集まったマルサグーロは、表舞台へと舞い戻ったのである。

(その3年後…マルサグーロは研究を進め、僕達にある秘密があるのを知った…。それで、マルサグーロは敵になったのか…)
 そう思ったフェイは、だがしかし、マルペメーソについての情報が何もない事に気付いた。
(あれ…。マルペメーソってどうやって出来たんだ…?)
 瞬間、先程とは別の映像が映し出される。
 その映像を見て、フェイはマルペメーソのだとすぐに分かった。
(見届けてやろうじゃんか…。どうせ、何れは知る事になるんだし…)
 マルペメーソについての映像を、彼は食い入るように見つめる。

 マルサグーロが結成されてから10年後。
 マルペメーソは、マルサグーロが表舞台から消えた後に結成された。
 だが、マルペメーソが10年後に結成されたのには訳がある。マルサグーロを襲った襲撃事件、あれを起こしたのはマルペメーソを結成した人物達なのだ。その人物達は、マルサグーロの研究資料を奪うと、マルサグーロが表舞台から消えるのを待った。そして、消えたと同時にマルペメーソを作り上げ、そして研究を始めたのである。
 マルサグーロの研究資料のおかげで、研究はどんどん進んでいった。だが、ある時急に主——ボスとも言える存在がいなくなってしまったのだ。だから、マルペメーソは表舞台から消えるしかなかった。主がいなければ、研究は出来ないのだ。
——それが60年前の事であり、それから今年になって、また両者とも現れたのだった。

(…全く以って、意味が分からない…)
 マルサグーロの事は分かる。だが、マルペメーソの事が分からないのだ。
 何故、マルサグーロの資料を奪い、自らの物としたものの、結局は主の不在によりいなくなったのか。
(…仕方ない、今度というか次に会ったら絶対に問い詰めてやる、神楽を…)
 癒月の実の母であり、雨宮の母でもある雨宮神楽。
 彼女の正体は一体何なのか。
 分からないまま、フェイの意識は闇の中に落ちてった。

 ◆     ◆     ◆

 自身の住処にもなっている場所——霧雨神社に戻ってきた水無月は、新しく二代目となった十六夜樹の許にいた。
 フェイと一緒に見た時は小さかったその樹も、今はもう見上げる位の大きさになっている。
「………」
 無言のまま、手を添えていた水無月は、不意に何かの気配を感じて振り返る。
「——今日は、初めまして」
 そこにいたのは、古代風な衣装を纏った、顔立ちが整った女とも男ともとれる人だった。—否、人というのはおかしいだろう、何せ、その人物から放たれているのは人が放たないものだから。
「…貴女は、誰?」
 直感で女性と感じた水無月は、誰何した。
「…私は……」
 古代風な衣装の裾を翻しながら告げる。 
 その言葉に、水無月は瞠目した。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.164 )
日時: 2014/08/04 15:54
名前: 風龍神奈 (ID: LMPzgpkP)


 ◆     ◆     ◆

「…っ!」
 唐突に目を覚ましたフェイは、がばっと起き上がると、周りを見回した。
 そして、ぼちぼちと目を覚ましている皆を見て安堵したが、自分の近くに神楽が降り立ったのを見て、すっと手を後ろにすると皆に結界を張り、見えなくした。
 臨戦態勢をとりながら、フェイは彼女の目を見る。
「あら、目覚めたのね。どうだった? あの夢は」
「“夢”じゃなく、現実であった事でしょ?あれらは全て、貴女が見た光景なんだよね?」
「…ええ、そうよ。私が見た光景を、一部変えて視せたのよ。貴方だけにね」
  フェイの言葉を受けて、神楽が言った。
「…それで、どうせ君が訊きたいのは、我等の組織『マルペメーソ』についてでしょ? あれじゃ、よく分からないからね」
「! 何でその事を!?」
 彼の言葉を無視して、彼女は微笑んだ。
「いいわ、全て教えてあげる。——この組織を作ったのは、私よ。私は、氷炎使いや破壊死書の事をあの男に調べられるのが嫌だった。だから、研究者達を連れ去って、資料を奪って、私の組織でさせた。…でも、ある時、私は落ちてしまった」
「…落ち…た…?」
 神楽が言った言葉に、フェイが反応した。
「そう。私は、恋に落ちた。しかも、相手はあの男——トレイター」
「っ!? どういう事だ!?」
 彼女の口からトレイターの名前が出たのに驚いたフェイは、問う。
「その話は、過去の、何十年も前の話でしょ! 何で、トレイターの名前が…!!」
「そうよ。…もしかして、貴方は知らない?」
 神楽が、驚くべき発言をさらりと言った。

「——初代氷炎使いは、私と、トレイターだった事を」