二次創作小説(新・総合)
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【受験の為不定期更新】 ( No.169 )
- 日時: 2019/12/03 23:34
- 名前: 風龍神奈@紅葉@Twitter (ID: p0V5n12H)
第23話 破壊死書トハ
「何故、貴様等が此処にいる? 帰ったのではなかったのか」
破壊死書が此方を睨む。
「…君に話があって、いたんだよ。…その前に、君は怒って外に出て行ったのにもう帰ってきたけど、何かあったの?」
フェイの言葉に、苛立ちを彼女は覚えたようだが、魔法が使えないので舌打ちをしながら言った。
「…貴様に言う様な事ではない」
「そっか。ならいいや」
あっさりとそう言ったフェイに若干眉をひそめつつ、彼女は雨宮へと視線を向けた。
「…して、何故そいつは共にいる? ただの、人間なのに」
「君が奪っている体の持ち主の双子の兄だっていうのに、それはないよね? 彼が、ただの人間なわけないでしょ?」
「なっ」「えっ」
フェイの言葉に、破壊死書と雨宮が同時に驚く。
「…フェ、フェイ、どういう事だ…?」
彼の言葉に困惑した雨宮が訊く。
「さっきいったじゃないか、君にしか出来ない事を。その時点で、君はただの力を持たない人間じゃなくなったんだよ」
言って、破壊死書を見る。
「——そろそろ本題に入ろうか。僕が君に聞きたい事。何故君は生まれたのか、何故癒月を呑み込もうとするのか、——そして、何故君は大晦日まで待ったのかだ」
「……いいだろう。話してやる」
そう言って破壊死書は椅子に腰掛けると、静かに自分の事について話し始めた。
破壊死書が生まれたのは、この世界が生まれてすぐだった。
この世界にまだ何もなかった頃、この世界の神が何かある事を望み、作られたのが破壊死書だった。
実は、破壊死書は最初、生命を作るためのものとして、神に作られたのだ。
そして、作られ生まれた破壊死書は、生命を作り、この世界を命ある世界にした。
やがて、生命が自ら増えていくようになったのを見届けた破壊死書は、生命の繁殖に任せ、自身は神に作られたもうた完全な存在として、眠りにつく事にしたのだ。いつか自らの力が悪用された時が来たらこの世界は崩壊してしまう、神から与えられた使命を果たせなくなってしまう、だから破壊死書は誰も知らない深い深い森の奥、そこにある洞窟で眠りについたのだ。その森を神秘の力で満たし、自分の姿を隠すようにして。
だが、生命を見守り始めてから数百年後。一つの人間が構成した探検隊と呼ばれる部隊に、神秘の力に満ちた深い深い森の奥の洞窟で、見つかったのだ。
破壊死書は眠りから目を覚まし、様々な魔法を繰り出して人間達を追い返そうとした。だが、それに屈する事なく自身を手に入れた男がいた。その男に捕まった時、破壊死書は己の失態を呪った。すると、破壊死書は小さくなり、手の平に収まる程のサイズになった。その時に破壊死書は気付いたのだ。自分はもう、人間から逃れられないのだと。もう、今までのようには出来ないのだと。神から与えられた使命を果たせないのだと。
だから、破壊死書は様々なものを呼び出し自身を手に入れた男を暴走に巻き込んで死なせた。それで返されるかと思ったが、返される事なく別の男の手に渡った。しかし、その男は暴走を恐れ、風の噂で聞いた事のあるとある二人を訪ね、その二人に破壊死書を預けた。その二人に渡った時、いままで感じていたのとは違うものを感じた破壊死書は、二人を観察することにする。
二人が破壊死書だと気付いた時にはもうその男はなく、どうしようかと思案している二人の許に闖入者が現れる。危うく彼女を殺されそうになるが何とか撃退した二人をみて、破壊死書は安心していた。そして、二人はまた狙われるのを防ぐためか、遠い地へ向かうという事を破壊死書に話し、また、名前を破壊死書にした事も言った。元から生命のすべての言葉を理解していた破壊死書は、その二人に話しかけた。驚く二人に、名の代わりにととある二つの力をそれぞれに授けた。その、破壊死書が授けたのが炎と氷の力である。
そして、炎と氷を操りし者——氷炎使いと名乗るようになった二人の、氷を受け継いだ者の首に、ペンダントとしている事になったのである。
「…以上が、我が生まれた理由と力を与えた理由だ」
息をついた破壊死書がお茶を飲み干す。
それを机に置くと「…次はこいつを呑み込む理由だったな」と言い、話し始めた。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【受験の為不定期更新】 ( No.170 )
- 日時: 2015/02/16 23:04
- 名前: 風龍神奈@紅葉@Twitter (ID: 3NsP64Ez)
「我がこいつを呑み込もうとするのは単純明快、我を呼び出したのに呑み込まれないからだ。代々の氷炎使い氷の継承者は我を呼び出す権限を持つ。だが、その代わり我は初代氷炎使いにより不完全な存在になったから使命を果たせなくなったから、呼び出した者は喰らわなければならないというのを言っていた。だから、呼び出す事は少ないと思っていたんだが…結局、11代目氷炎使いまでもが、我を呼び出してしまった。
代々の氷の継承者は呼び出して目的を達成した後我に喰われて魂だけが残った。その魂を炎の継承者はそれぞれの聖域に連れて行った。今でも一部の炎の継承者は聖域の番をせずに様々な事をしているのは知っている。
…話がそれたが、こいつを呑み込めば、我は完全な存在になれるのだ。今まで氷の継承者を食っていったが、漸くこいつで元の完全な存在に戻れるからだ。我がこいつを呑み込もうとするのは、それが理由だ」
話し終えた破壊死書の話を聞いて、フェイと雨宮は瞠目していた。
癒月を呑み込んだら完全な存在へと戻れるから呑み込む、だと?
そんな事をさせて、たまるものか。
「…話は大体分かった。でも、まだなんで大晦日なのかっていうのは言われてないけど…予想するに、大晦日の日が一番力があるって事かな?」
フェイが訊く。
「まぁ大体そうだな。大晦日は一年の一番最後。生と死を持つ我にとっては最も力が発揮される日なのだよ。…まぁ、今までずっと力をためていたから、やっと発揮出来るのだがな」
そう答え、違う方向を見ると、破壊死書は呟いた。
「…やっと…我は元に戻れるのだ…使命を果たせるのだ…」
「…もし、仮に君が癒月を呑み込んだとして…彼女が消えたら、彼女の存在はどうなるんだ?」
思案しているフェイの横で、雨宮が訊いた。
「…前にも言ったと思うが。魂だけが残り、その魂も聖域へ連れていかれるから、こいつが存在していたというのは人々の記憶に残らないだろうな。代々の氷炎使い氷の継承者も、皆記憶から忘れ去られている。ただし、相方である炎の継承者以外が忘れているのだがな。炎の継承者は聖域をまもる役目も持っているから、氷の継承者の事は皆覚えているのだよ」
そう言った破壊死書に、雨宮は驚きを隠せなかった。
炎の継承者以外の皆が忘れるというなら、自分も癒月を…大事な妹を忘れるというのか。
「…ただ、ほんの時々、忘れていない者もいるらしいがな。身内だった者とかでな」
雨宮の胸中に気付いたのか、彼女が言う。
「…ッ」
その言葉を聞いて、少し安堵しつつも、やはり彼女を失うという事が理解出来ない。
「………」
俯いた雨宮の思いに気付きながらも、フェイはまだ思案していた。
「——そろそろ、夜が明けるな。…3日後が、大晦日だ」
部屋の上に取り付けられた唯一の窓をみながら、破壊死書は言った。
みただけではあまりわからないものの、群青色が少しずつ薄くなっているのが分かる。
「…3日後。それまでに…」
何やらぼそぼそと言っていたフェイは、急に立ち上がると「…大晦日までに、癒月を救い出してみせるから」と言って部屋を出て行く。
彼の行動に瞠目していた雨宮は、置いて行かれた事に気付いて慌ててついていこうとする。
「…待て」
が、破壊死書にそう言われ、肩ごしに振り返った。
「…何だい?」
「…我は何とかして、この身にかけられている術を解く。…行動を起こすのは、それが終わってからだ」
その言葉だけで何かを察した雨宮は、一瞬彼女と視線を合わせると、そのままフェイを追いかけていった。
「あいつがそこまで馬鹿ではない事を祈りたいが…まぁ我と目線を合わせたという事は理解したととってもいいだろう…。…こいつの兄ならば、分かるはずだ」
そう呟いた破壊死書は、静かに目を閉じると、意識を闇の中に落としていった。