二次創作小説(新・総合)
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.173 )
- 日時: 2015/08/10 01:55
- 名前: 風龍神奈@ツイッタ名は秋菊/紅葉 (ID: PqA5kJXh)
瞠目した水無月に、十六夜樹の精霊は続ける。
「三日後のいつに起こるかはわかりません。ですが、感じるのです。時空を超えた先…未来から。また、未来のとある地で封印が行われ、何かが起こると」
「…そうか…。フェイが…」
とうとう決意したのか。それとも、癒月を引き剥がす算段でも見つかったのだろうか。
否、違う。多分、彼女の兄——雨宮に、あるんだ。
前に会った時に感じた、僅かな力。恐らく癒月と一緒に生まれたが故に持った、とある力。
それが目覚めたのかどうかわからない。
「——それで、主様に頼みがあります」
「頼み?」
首を傾げる水無月の前に手を差し出す。
と、その上に茶色の小さな種が現れる。
「これを、破壊死書が封印された後に持って行って埋めて下さい。そうすれば、もう二度と破壊死書の眠りが妨げられる事はないです」
それを受け取ると、十六夜樹の精霊は一歩後ろに下がった。
「お伝えしたかった事は以上です。主様の手を煩わせるような事をお願いして申し訳ありませんが、どうか宜しくお願いします。…その実から育って破壊死書を守る事になるのは…妹とも呼べるものでありますから」
言って、十六夜樹の精霊の姿がふっと掻き消えた。
◆ ◆ ◆
真っ暗。虚無。何も無い。見えない。感じるのは、ジャラジャラとした物だけ。それ以外、何も感じない。
(…………)
感じないのなら。見えないのなら。眠ればいい。眠ってしまえばいい。それが、一番——
◆ ◆ ◆
「——!」
最後の言葉を言い終えた刹那、床に描かれた魔法陣が浮かび上がり、光を放つ。
と、その魔法陣の上にいた、この事を知らないメンバーの姿が次々と消えていく。
ややあって、全員が転送完了すると、光が消え魔法陣がなくなった。
「…よし」
これで皆は大丈夫。
まだ、巻き込む人を少なくする事が出来た。
…神童と霧野には、悪いけど。
最後にもう一度、魔法陣が消えたか確認をしてから神童達の許へ向かう。
「終わったのか?」
心配そうに神童が訊いた。
「終わったよ。無事皆を雷門中まで送り届ける事が出来たし。…それに、一緒に手紙まで送ったから心配はいらない」
「そうか。…なら、後は癒月を取り戻すだけだな」
霧野が簡単そうに言ったが、実際は皆彼女を取り戻すのが容易ではないと分かっていた。
今癒月の体は、体内にある破壊死書が操っている。隅々まで根付き、彼女の魂を奥深くに閉じ込めている状態で、上手く破壊死書のみを剥がすのは難しい。
そこで、雨宮が持つ役目が必要となる。
「…まぁ、二日後まではゆっくりと過ごそう。——そこから先は、今みたいに出来ないから」
そうフェイが告げると、皆は頷いて、各々好きな事をし始めた。
◆ ◆ ◆
「…ッ」
何かに見られているような気がして、破壊死書は目を覚ました。
周りを見回して何か怪しいものはないかと勘ぐるが、特に怪しいものは見つからない。
気のせいだったか、と思ったその時。
「——おいおい、こんな事にも気付かないなんて」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.174 )
- 日時: 2015/08/10 02:57
- 名前: 風龍神奈@ツイッタ名は秋菊/紅葉 (ID: PqA5kJXh)
「ッ!?」
ばっと後ろを振り向く。と、そこには窓から漏れる月光が当たり、突き出している小刀をきらりと反射させる、闇焉の姿があった。
「なっ…」
瞠目する破壊死書の前で、小刀をしまうと闇焉は言った。
「こんな事にも気付かないなんてなぁ…もしかして術の封印で勘まで鈍ったかぁ?」
「そんなわけないだろう。今のはただ寝ていたから反応が遅れただけだ」
「へぇ…」
す、と闇焉が動く。
ここからいなくなるのかと思った、その刹那。
「——所で、お前は何を企んでいるんだ?」
先程しまわれた筈の小刀を首に突きつけられ、闇焉の低い声が耳元で囁かれる。
びくり、と体を跳ねさせた破壊死書に、更に畳み掛けるように低い声で囁く。
「もしかして、この術を解こうとしているのか?」
「べ、別に何も企んでいなど…っ」
首元に突きつけられた小刀がある事を分かっていながらも、破壊死書は企んでいないと答える。
「…まぁ、ならいいが」
小刀を戻し、破壊死書から離れる。
無意識の内に息を詰めていたようで、ひゅっと喉が鳴る音が響いた。
「…別に、俺はお前に興味はない。だが、俺はトラディメントだからな。お前が宿っている体の方に興味がある」
「…トラディメントなのに、貴様は氷の継承者として育てられていたというのか」
破壊死書の問いに、ああと頷く。
「だが…それは全部母さんの指示でした事だ。……俺自身が、決めたことじゃない…」
後半を誰にも聞こえないように呟いて、闇焉は踵を返す。
「…そうそう、ひとつだけ言っといてやる。その術…解除法があるから頑張って探してみな」
じゃ、明後日な。
言って、闇焉は扉の方向に向かっていった。
「…あ奴…もしかして……」
破壊死書がその続きを、口にする事はなかった。
◆ ◆ ◆
——あの時、癒月が破壊死書に乗っ取られてフェイを殺そうとしたあの日。
その時にいわれた、大晦日——つまり、12月31日に、なった。
「———」
静かに深呼吸をしていたフェイは目を開ける。
今日。今日で最後だ。今日で失敗したら、癒月はもう二度と帰ってこない。可愛らしい笑顔も、綺麗な声も、端麗な容姿も、強さも、何もかも、もう二度と、見れなくなる。
「…大丈夫だ…癒月は絶対…僕が救うから…」
心に刻みつけ、立ち上がる。
雨宮の証言で言えば、今日破壊死書は自身にかけられた術を解いて動く、だった。
ここから先はフェイの予想だが、破壊死書はここに来ると思っていた。
何故と理由を問われれば答える事は出来ない。勘と、破壊死書が根付いている癒月の体にかけたのだ。
幾ら破壊死書が支配しているとは言え、元の持ち主が魂の奥底に閉じ込められているのならば、そちらの言う事を聞く可能性も高いわけだ。だが、癒月がそこでどのような状態になっているのかは分からないが。
いつの間にか目覚めていたらしい三人が、彼の許に寄って来た。
◆ ◆ ◆
「分かった…これだな…っ!」
自身にかけられた術の解除法が分かり、破壊死書は素早くそれを唱えた。
刹那、鎖が外れたような音がして、体が軽くなる。
「……」
無言で手の平の上に水分を集めて氷破刃を作る。
と、その上でそれが形成された。