二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜  ( No.176 )
日時: 2023/08/11 22:42
名前: 風龍神奈 (ID: Wz7AUOMy)

「どうやら…ちゃんと戻ったようだな」
 そのままそれを握りつぶし、立ち上がる。
 行き先は、――片割れのいる場所。
「…お前らを葬った後、この組織も潰してやる」
 そう呟くと、破壊死書は扉に向かっていった。

 ◆     ◆     ◆

 ――来た
 気配で察したフェイは、前を向く。
 と、目の前に破壊死書が現れた。
「…やっぱり、来たんだね」
「…当たり前だろう。先に貴様等を葬ってから、この組織を潰すのだからな」
 さも当然かのように、破壊死書が言い放つ。
「僕等は死ぬわけにはいかない。癒月を助け出すまでは」
 フェイも言い放ち、背後にいた三人と自分にリミッドシールドをかけた。
 刹那。
 破壊死書は一気に大量の氷破刃を作り出すと、それを纏めて巨大な刃を作り、放つ。
 しかし、リミッドシールドによって防がれる。
「――スノウテンペスト!!」
 すぐさま破壊死書は別の技を唱え、吹雪を纏った嵐を呼び起こす。
 それにフェイは、
「ライトニングフレイム!」
 雷を纏った炎を起こし対抗した。
 両者はぶつかり合い、拮抗するが、僅かに破壊死書の方が上であった。
 吹雪を纏った嵐は、雷を纏った炎を打ち消し、フェイ達に襲いかかる。
 何とか障壁によって防げたが、それにひびが入る程だった。
(やっぱ、癒月が魔法系が得意な上にその体を使っているから威力が大きい…特に僕は後ろに仲間がいるから守りが重要でそんなに攻撃に意識を向けられない…どうすれば…)
 考えつつも、フェイは魔法を放っていく。
 しかし、破壊死書は難なく躱し、隙を突いて魔法を放ってくる。
 躱しながら放つからか、威力は先程のスノウテンペストに比べれば低いため、まだ障壁は保てていた。
 念の為に一度張り直し、まっさらなリミッドシールドを作り上げる。
 その隙を突いて、破壊死書が魔法を放ってきたが、間一髪で障壁が間に合った。
「あっぶな…!」
 目の前で氷の結晶が砕けていくのを見て、癒月の力がどれだけだったのかを知る。そしてそれを普段秘めていた事も。よほどの事が起きない限り、彼女は力をセーブしていた。…というよりも、力を使う前に敵に捕われたりしていたので、使えなかったという方が正しいか。
 後ろの仲間も、癒月の実力に驚いているのか、そんな表情をしている。
「ちっ…しぶといな」
「そりゃまあ、炎の継承者だからね。――君のことは分かってる」
 言い終わると同時に、フェイから反撃した。
 だが、読まれていたのか築いた障壁で防がれる。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜  ( No.177 )
日時: 2023/08/13 22:16
名前: 風龍神奈 (ID: Wz7AUOMy)

「それは我も同じことだぞ。それに貴様は我と違って――この体を傷つけることはできまい」
「ッ」
 一瞬フェイの表情が歪んだのを、破壊死書は見逃さなかった。
 彼の背後にいる雨宮達は、表情は分からないものの、その言葉から彼が本気を出せていないのが分かる。
 確かに、今は破壊死書が乗っ取っているとはいえ、その体は癒月のものだ。しかも、彼女を無傷で取り返す為に戦っているので、傷つけたら元も子もない。だから、フェイは本気が出せないのだ。
「我は貴様の事などどうでも良いからな。思う存分、力を振るえる」
「…いいよ」
 俯いていた彼の口から、そんな言葉が漏れた。
「…何だと?」
「――癒月を出来るだけ傷つけたくなかったから、抑えてたけど…いいよ。今の状態で僅差なら――本気を出せば、勝てるってことだ」
 瞬間、彼の体から魔力が放出される。
「なっ…んだ!?」
 放出された魔力の風に押され、数歩後ろに引いた破壊死書が驚く。
「それじゃあ…本気でやろうか」
 魔力を炎のように纏いながら、フェイが笑う。
「…いいだろう。それが貴様の本気というなら――我も本気を見せてやろう」
 同じように氷のように魔力を纏うと、再び戦いが始まった。

 本気になった二人の戦いを、雨宮達は離れた所から見ていた。
「フェイも…癒月も…本当はあんなに強かったんだな…」
 呆然としながら呟く神童に、霧野が同意するように頷く。
「その力をこっちには出さないでいてくれたんだな…」
「ああ…。だが、あれでサッカーも上手いとなると…立つ瀬がないな」
「そんな事ないぞ神童。言われただろ、癒月から」
「…そうだな。癒月を無事に連れて帰れたら、また皆でやりたいな」
「ああ」
 二人の会話に入らずに、じっと雨宮は癒月――破壊死書を見ている。
 あ。今ひと呼吸遅れた。
 そう思った瞬間、フェイの魔力が掠り、彼女の頬に浅い傷が出来て、血が一筋流れた。
「…ッ!?」
 それを見た刹那、雨宮の脳裏に映像が流れてきた。
『…太陽、ごめんなさい。貴方は…この子と共に生まれてきたから…役目を背負わせてしまう事に…。でも…貴方の役目は…重要な事…最後に…必要になる……だから、時が来るまで…この事についての記憶は…封じておくわ…。それを…解くには……この子の…癒月の…頬から血が流れる所を…見ること…。そうすれば…記憶が戻って…貴方の役目を果たす事が…出来る…。……どうか…皆を…癒月を……救ってあげて……太陽…』
 映像はぼやけていて、誰が写っているのか分からない。だが、声と中身で彼は――母親である神楽だと思った。
 おそらく、自分が生まれてすぐの時。癒月を、月城家に預ける前。救う為の道具として生まれてきた癒月と、偶然一緒に生まれてしまった事で、とある役目を背負ってしまった太陽。彼は、その役目以外は徒人である為に、役目を果たせるようにと記憶を封じられたのだろう。事実、雨宮はフェイから知らされるまで、何も知らなかったし、覚えてもいなかった。記憶の封印が成功していたという事だ。そして、それが解除された事も。癒月から血が流れるのを、見た故に。
「――雨宮!!」
「ッ!」
 呼ばれて意識が浮上した彼は、神童を見た。
「先輩…?」
「大丈夫か? 急に動かなくなったから、心配になって声をかけたんだが、全然返事がなくて…」
「…すみません、思い出しただけです(・・・・・・・・・)」 ※強調の・・・です
「「!」」
 彼の言葉に、二人が反応する。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜  ( No.178 )
日時: 2023/08/15 21:16
名前: 風龍神奈 (ID: Wz7AUOMy)

 彼の言葉に、二人が反応する。
「雨宮、それって…」
「はい。…ボクの、役目の事です」
 視線を未だ戦っている二人のほうに向けると
「…全部思い出しました。だから、後はフェイが…」
 そう答える。
「…信じよう」
「ああ」
 段々と戦いが終わりに近付いている事を、気付く者はいなかった。

 本気を出した二人は、互角であった。故に中々決着がつかない。大魔法を繰り出すも、互いに打ち消し合うことが多かった。
(埒があかない…)
 本気で互角な以上、このままやっていても時間が過ぎていくだけだ。
 残された時間は少ないというのに。何か、自分が勝てる方法がないのか。
 ちらりと破壊死書を見る。瞳の奥に、何かが一瞬見えたような気がする。
 ふと、一つ思いついた。癒月に――破壊死書に勝てる事。
「――破壊死書」
「…何だ」
 突然立ち止まって纏っていた魔力を消したフェイに、怪訝に思いつつも、同じようにした破壊死書に。
「このままだとキリがない。だから、一つ、勝負をしよう」
「勝負とは、何だ」
「単純な事さ。――サッカーだよ」
「…何だと?」
 突然現れたサッカーボールに驚きつつも、破壊死書が訊く。
「それで、どうやって勝負をすると?」
「ルールは簡単。君がボールをキープし続けてゴールを決めたら君の勝ち。逆にボクがボールを奪ってゴールを決めたらボクの勝ち。君が勝った時は癒月を諦める。けど、ボクが勝った時は癒月を返してもらう」
「……いいだろう。この体はかなりの腕前のようだからな」
 そして、両者が向き合う。
 何処からともなく落ちてきた水滴が、地面に落ちた瞬間――
 両者は同時に動いた。
 やはり癒月の体なだけあり、破壊死書の動きは素早い。だが、それにタイミングを合わせて、フェイが奪いにかかる。
「ふっ…中々やるようだが、勝てると思っているのか?」
「勝てると思っているさ…!」
 しかし、僅かばかり癒月の体の方が上のようで、絶妙なタイミングで躱される。
「この体はやはり良いな…素晴らしい」
 ボールの攻防戦をしながら、破壊死書がぼそりと呟く。
 だが、彼女がボールをキープ出来ているものの、シュートに持っていける様子はなかった。
 そしてフェイは無言で、あるタイミングを待っていた。
 何年も一緒にいたからこそ、わかるタイミング。他の人には決して、分からないもの。
「これで終わり――、ッ!?」
 彼女は、シュートを決める間際に、コンマ数秒ほど体を硬直させる癖があった。恐らく、本人も気付いていない癖。

「何もかも一緒に過ごしていたボクが――癒月の事見逃すわけがないだろ」
 
 そのタイミングを狙って、フェイがボールを奪った。
「なっ…!!」
 一気に駆け出した彼を追いかけようと、一歩足を踏み出す。が。
 もう片方の足が動かず、倒れ込んでしまう。
「な…ぜだ…!」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.179 )
日時: 2023/08/17 22:23
名前: 風龍神奈 (ID: Wz7AUOMy)

 何故、動かない。本来の持ち主である癒月は体内で精神が壊れかけているから、主導権を奪われる事はないのに。
 自身が心の奥底で願っている事に――本当は封印を望んでいる事に、破壊死書は気付かない。故に、体が動かなくなった事も。
 そして、フェイの放ったシュートがゴールに突き刺さる。
 ただそれを見ている事しか出来なかった。

「…さて、これでボクの勝ちな訳だけど…」
「…我は負けてなどいない」
 その場に座り込んだ破壊死書は、負けを認めようとしない。
「…破壊死書…」
 遠くから見守っていた雨宮達も、二人の許へ来る。
「君さ…本当は、どう思ってるの?」
「本当は、だと?」
 ぴくりと眉を寄せた破壊死書に、問うように語りかける。
「最後、体が動いてなかったよね。――本当は、封印されるのを望んでいるんじゃないの?」
「………」
 封印されるのを望んでいた故に、心が負けるのを認めた。
 そんな事。そんな事は……。――ないと、言い切れるのだろうか。本当は、自分は……平穏に、誰の目にもつかずに、眠りたいのだ。人の争いに巻き込まれるのは、もう疲れたのだ。自身が眠っていた場所で、また眠りにつきたい。
「……そう…だな…」
 自身の心と向き合って、気持ちを認めた破壊死書は、ぽつりと零した。
「本当は…もう、眠りにつきたいのだ…平穏に…我が眠っていた所で…このような事は…疲れたから…」
 一筋涙を流した彼女に、雨宮が優しく声をかける。
「大丈夫だよ。――僕も、思い出したから。君を、封印する術を」
「…そうか」
 なら、戻るだけか。
 そう思い、呪文を呟こうとした破壊死書に。
「――間に合った…!!」
 そんな声が届いた。
「水無月っ!?」
 声の主に、フェイが驚く。何故、水無月がここに。
「ちょっと待ってくれ破壊死書。こいつに渡すものがある」
 言うやいなや、フェイの手の平に小さな茶色い種が渡される。
「これは?」
「十六夜樹…正確には、それに宿る精霊から渡されたものだ。破壊死書の封印が妨げられないように、守ってくれるらしい。これを、一緒にと頼まれた」
「…分かった。ありがとう、水無月」
 深くは聞かずに、お礼を言うと
「私も、深くは聞かない。だが、全て終わったら教えろよ。出来る範囲で」
 そう返して、水無月は消えた。
「準備はいいか」
 破壊死書から問われ、種を落とさないように握ると、大丈夫と答える。
「なら、行くぞ。――天空移動」
 その場にいた五人の姿が消えた。

 気が付くと、神秘的な気配が漂う、奥深い森の中、ひっそりとある洞窟の中にいた。
「此処は…」
「――此処が我が眠っていた場所だ。つまり、始まりの場所でもある」
 破壊死書がそう答える。
「封印されるのであれば、此処が良い。一番心地よいのだ、此処が」
 振り返って、雨宮を見る。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【更新再開】 ( No.180 )
日時: 2023/08/21 23:48
名前: 風龍神奈 (ID: Wz7AUOMy)

「始めていいぞ」
「…ああ。――全ての始まり、この地にて――」
 高らかに謳い上げる雨宮の前で、癒月の体が浮き上がる。
 キィンと耳鳴りのような音がしたかと思うと、彼女の体から破壊死書が抜け出た。
 解放されふわりと落ちてくる癒月を、フェイが抱きとめる。
「――我は破壊死書が思う限りの眠りをつかせ給うことを希う――願わくは破壊死書の安寧――浄化の力を奉りて封印することを誓う」
 封印の言葉を終え、破壊死書がゆっくりと降りてくる。
『これで、良いのだな?』
「多分。もう、君が苦しむ事はないと思うよ」
『そうか。…おい、炎の継承者』
 ふと、何かを思い出したかのように、フェイを呼ぶ。
「何だい? 破壊死書」
『…悪かったな、色々と』
「ッ!」
 突然の謝罪に、癒月を抱いたまま驚く。
『貴様らのおかげで…我はまた眠りにつく事が出来る…。どの意味でも良いが…まあ礼だ。貴様らが今まで使っていた氷炎使いの力、そのままにしておいてやる。ただ、我からの供給はないからな。気をつけろよ』
「分かった。ありがとう、破壊死書」
 心からの笑顔に、一瞬たじろいだらしき破壊死書は
『…ふん、まあ良い。我はこれで眠る。…たまには、思い出してくれても良いぞ…』
 そう言うと、炎のような氷に包まれていく。
 こうして、破壊死書は封印されたのだった。
「…ごめん太陽、これ、破壊死書の許に置いてくれないかな」
「いいよ」
 先程水無月から渡された種を、受け取って破壊死書の許へ埋める。
 すると、それを守るようにして囲みながら成長した。
「…成程。守るための樹…」
 これならば、大丈夫だろう。
「フェイ、癒月の様子は…」
 来てからの光景が驚きのあまり、暫く固まっていた神童が訊いた。
「意識はないけど…弱いけど呼吸があるから、生きてはいるよ。大丈夫」
「そうか…なら、早く戻らないとな」
「うん。戻ろう――天空移動」
 神秘的な雰囲気を放つ奥深い森の中から、五人の気配が消えた。
 後には、封印され、眠りについた破壊死書と。それを守るかのように、生えている守りの樹だけが残されていた―――。