二次創作小説(新・総合)
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.199 )
- 日時: 2023/09/27 00:26
- 名前: 風龍神奈 ◆NmgNyaN6Ak (ID: Wz7AUOMy)
「……うん」
懐に入れる。その上から落ちないように細工して、二人を見やる。
かなり回復はした。
だが、癒月の命を預かった以上、この場にいる方がいいと判断した。
本当は自分の手で決着をつけたかったが、おそらく彼も同じ気持ちであろうなので、任せることにする。それに、彼が戦ってくれたからこそ、取り戻せた訳だ。
「……っ……ぅ……っ」
貫かれた傷口を押さえながら、サクリファイスはこちらを見る。
「どうだ、気分は?」
かつかつと歩み寄った闇焉に、そう問われる。
「最……悪……以外に……ないわ……」
殆どの力を削がれた。自身の傷を癒せない程に。先程までの行動が嘘だったかのように。
「……氷炎使いを殺す者(その力)を……使われるとは……思っていなかったから……私の負け……ね……」
もう終わりと悟ったのか、諦めの表情でサクリファイスが呟く。
「いいわ……さっさと……殺って……」
「――お前を殺すと、俺は言ったか?」
「……え?」
想定外の言葉をかけられ、思わずそんな声が出る。
「少なくとも、俺はお前を殺したいとは思っていない。まぁお前がしでかした事を考えれば……殺す事が良いんだろうが。だが、お前は理由があってこのような行動を起こした。そうだろ? それを遂げずに、終わって良いのか?」
「ッ」
見透かされた?
炎の継承者には気付かれずに済んだのに。氷炎使いを殺す者には、気付かれたというのか。
そこまで思案して、ふと思い出す。
彼が、その力を使った事。その力で、相手の想いを見る事が出来る事を。
(成程ね……でも全てを見れたって事ではないのね。だからこそ、私の口から言わそうとしている)
言った所で、叶う筈もないけれど。遂げる事は出来ないけれど。
でも、誰かに自分の事を――刻んで貰えるのなら。
「……私は二つ目的があるって言ったわね。でも実は、もう一つあったのよ。それは――――誰かに、愛してもらいたかった」
「「「ッ」」」
その場にいた皆が目を見張る。
「前に話したでしょう? 私が生まれた理由。そして、素体がいた事。でも素体は素体であって私じゃない。素体には愛して貰った記憶があったけれど――私には、なかった。まぁ、あんな環境じゃ無理な話なのだけれども」
だからこそ、知りたかった。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.200 )
- 日時: 2023/10/04 21:08
- 名前: 風龍神奈 ◆NmgNyaN6Ak (ID: Wz7AUOMy)
組織でも、氷炎使いでも恋仲になり互いに愛し合う者達がいた。一体それはどんなものだろうと、気になっていた。だが、実体のない、取り憑いたり人の姿を取ることしか出来ない自分に、そんな事を伝えてくれる人はいる筈もなく。実際には、殆ど氷の継承者に憑いていたから、そんな機会はないに等しかった。
「……ただ、それより大事だったのが、与えられた目的と、私が決めた目的。愛されたかったのも本当だけれど、その目的を達成してからだと思って、封じていたの」
そして、漸く機会が訪れた。破壊死書は封印され、自身は癒月を乗っ取って【破滅と破壊の装置】を起動させることに成功した。しかし。
「結果は見ての通り。【破滅と破壊の装置】は破壊され、私自身もここまで追い込まれた。目的は与えられたものしか、達成できなかった。自分で決めた目的は、全て潰えた。結局、人間に作られた私は、ただのモノだったのよ」
人間にはなれない、愛して貰えない――何者でもない、ただのモノ。かつて癒月に癒月が存在している意味を告げたが、彼女の方が余程ましだ。人間として生まれているから。きっと、気付かないだけでその嫉妬もあったのだろうと、今は思う。
「……本当に……私は……」
一筋涙が流れ落ちる。様々な感情でいっぱいになったのか、その後が紡がれる事はなかった。
「サクリファイス……」
復讐のために世界を滅ぼすなんて言っていた彼女が、実はこんな想いを抱えていただなんて、思いもしなかった。
かける言葉が見つからない。
きっと彼女は同情を求めない。慰めを求めている訳でもない。ただ、覚えてほしいだけなのだ。自分という存在を。
「――馬鹿だな」
そんな言葉を放って沈黙を破ったのは、闇焉だった。
「……ええ。私でも分かってるわ」
普段なら反発しそうな言葉にも、弱っているのか素直に認める。
「同じように感情があり、与えられた目的だけでなく自分で目的を決めて行動する。他人を助ける。他人を傷つける。それが人間でないなら、俺達だってただのモノになる」
「――え?」
だがその後に続けられた言葉に、思わず彼を見る。
「俺はお前をモノだなんて思っていない。実際には作られてるからモノが正しいかもしれないが……少なくとも、さっき言った通りの事をしているお前は、俺から見れば人間と同じだ」
「ッ」
肯定でも、否定でも、同情でもなく。人間だと、認めてくれるというのか。
「俺と共に来ないか? もう組織もトップがそれぞれ死んだから解散になるだろうし、お前の与えられた目的も終わったはずだ。ならば、お前を縛るものはない。俺はお前を気に入っている。お前さえ良ければ、行動を共にして良い」
「!?」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.201 )
- 日時: 2023/09/29 00:38
- 名前: 風龍神奈 ◆NmgNyaN6Ak (ID: Wz7AUOMy)
目線を合わせられ告げられた言葉に、思わず顔が朱に染まる。
「な……何言って……」
「俺は本気だぞ」
「ッ」
ある意味告白とも言える言葉――因みに闇焉はそういう気で言っていない――に、耐えきれなくなったのかサクリファイスが顔を逸した。
「……凄く、嬉しい申し出ね。――けど」
私はもう、時間がない。
そんな言葉が聞こえたかと思うと、少しずつ彼女の身体がホログラムのように散り始める。
「……ありがとう。最期にとても良いものを貰ったわ。出来ることなら……貴方と一緒に行きたかったけど……力を失った以上は、もう……」
そっと目を伏せて、だが思い出したかのように顔を上げる。
「そうだわ……癒月に……ごめんなさいって、伝えてもらえるかしら……その言葉じゃ、足りない程の事をしてきたけれど……」
「必ず」
首肯した彼に、サクリファイスは、今までに見た事のない花のような笑みを浮かべると。
「ありがとう……今度は、人間に……なって……貴方に……――」
言葉を言い終える事なく、最後の光が消えると同時に、キィンと何かが落ちる。
無言でそれを拾い上げると、懐へと仕舞う。
「……闇焉……」
「大丈夫だ。別れには慣れている。それより、さっさと戻すぞ」
ほんの一瞬だけ、悲しそうな瞳をした彼は、それを見せぬようにして踵を返したので、慌ててついていく。
癒月の元まで来ると、かけていた結界を解除すると同時に、フェイが仕舞い込んでいた白い玉を胸に置いた。
刹那、玉が輝いたかと思うと彼女に溶け込んでいく。
ゆっくりとだが、青白かった頬に赤みが差していく。
「…………ッ……」
閉じられていた瞼が緩やかに上がり、焦点の合わない蒼玉の瞳が現れる。
「癒月……!!」
皆が集まって来たのに反応したのか、瞳がこちらを向き焦点が合った。
「み……んな……」
その声は少し掠れていたが、まごうことなく癒月の声だった。表情も、仕草も。
「良かった……癒月、何か違和感あったりしない? 大丈夫?」
声を聞けた事に安堵したが、念の為に調子を訊く。取り戻したとはいえ、元はサクリファイスの術がかけられていたので、その影響があるかどうかの為だった。
「……多分、大丈夫……。でも……ちょっと胸が……空っぽな感じが……」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.202 )
- 日時: 2023/09/30 22:14
- 名前: 風龍神奈 ◆NmgNyaN6Ak (ID: Wz7AUOMy)
今までいたものがなくなった感覚。喪失感。
そっと胸に手を当てる。やはり、何かがない気がする。
「――サクリファイスが消えた。それが原因だと思う。後は、破壊死書を封印したからかもな」
言いあぐねていたフェイの横で、闇焉がそう伝える。
「それと伝言だ。サクリファイスから。『ごめんなさい』だと」
「――っ」
その言葉で全てを察したのか、癒月が息を呑んだ。
「やっぱり……さっき、一瞬だけ気配を感じて……何も言われなかったけど……そういう……っ」
涙が溢れてくる。何か言ってくれても良かったのに。散々身体を好き勝手され、自身の生まれた理由も告げられ、絶望の淵にまで追い込まれた相手ではあったけど。それでも、彼女の事を嫌いにはなれなくて。彼女の行動理念も、最後まで教えてもらえなかったけど。でも、自分と似た雰囲気があったから。人知れず、悩みを抱えて、誰にも話さず、自分だけでどうにかしようとする。敵じゃなければそういう出会いじゃなければ、きっと良い友達になれた。
「もう……届かないかもしれないけど……ありがとう、サクリファイス」
願わくは、貴方の願いが叶いますように。
「癒月……」
涙を拭って体を起こした癒月に、心配そうにフェイが声をかける。
「――大丈夫。お別れが、済んだから」
そう言うと、皆を見た。
「巻き込んでしまって、ごめんなさい」
頭を下げた彼女に、慌てて雨宮達が首を振る。
「大丈夫だよ。まぁ、ボクも実質関わりがあったからなのかもしれないけど……」
「俺達は……完全に巻き込まれだけど……でもある意味普通に生きてただけじゃ、知れなかった事を知れて、経験できたという件では……な?」
「そうだな……非日常を経験できたという点では俺も気にしてはない」
口々に問題ないと言われ、少しホッとする。
ずっと、気掛かりだったのだ。一般人を巻き込んではいけないと教えを受けておきながら、正体を明かしたあの時から。あの時にはあったとしても双子の兄である雨宮しか可能性はないと思っていたが、結果的には神童と霧野の二人を巻き込んだから。
「それを言うなら僕からも謝らなきゃ。癒月がいない時に結構力を使ってしまったし……結果的に怖い思いをさせたのは僕のほうが多いと思う。皆、ごめん」
同じように頭を下げたフェイに、同じく大丈夫だと返す。
「当事者の二人のほうが大変だったと思うから。そこは全然、気にしてないから大丈夫」
「……うん、ありがとう」
柔らかな笑みを浮かべて彼が感謝を伝える。
それを見て、癒月も花のような可愛らしい笑顔を浮かべて。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.203 )
- 日時: 2023/10/03 00:44
- 名前: 風龍神奈 ◆NmgNyaN6Ak (ID: Wz7AUOMy)
「――皆、助けてくれて、ありがとう」
心からのお礼を伝えた。
ハモったどういたしましての声に思わず皆で笑顔になる。
一頻り笑いあった後に。
「それじゃ、帰ろうか」
雨宮から差し伸ばされた手を。
「――うんっ」
嬉しそうな表情で、癒月はその手を握った。