二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.204 )
日時: 2023/10/04 21:01
名前: 風龍神奈 ◆NmgNyaN6Ak (ID: Wz7AUOMy)


 第28話  終章〜エピローグ〜


     ◇     ◇     ◇

「闇焉は……どうするの?」
「前みたいに放浪するかもな。お前達以外に身内がいるわけではないからな、気ままに旅をするほうが向いている」
「一緒に、来る気はない?」
「悪いが、それはない。そもそも異父兄妹とはいえ、俺とお前じゃ敵同士だった訳だ。役目としてもな。今はもうその役目はなくなったが。……俺はまだお前に償いきれていないしな。その償いが終わるまでは、一人にさせてくれ」
「……分かった。少し寂しいけれど、貴方がそう言うなら」
「――どうしてもって時は念じろ。気が向いたら返事してやるよ」
「その時はそうする。――それじゃあ、また」
「またな」
 天空移動の魔法陣が発動して、癒月達の姿が消える。
 暫くして、何も気配を感じなくなった事を確認して、懐からあるものを取り出す。
「……サクリファイス……」
 それは、彼女が消えた際に落ちたものだった。雪の結晶が硬化したような、宝石のようなもの。
「本気だったんだがな……」
 あの時の言葉は嘘偽りない。本心からの言葉だった。だからこそ、彼女にも伝わったのだろうが。しかし、彼女を消滅させたのは自分が原因なのも理解している。彼女の力を消したから、彼女は生存できなくなった。力があれば、また違う結末を辿ったかもしれない。ただ、あの時はあれが最善策だと思ったのだ。だからこそ、ああした。
『――馬鹿ね。分かっていたわ、そんな事』
「ッ!」
 耳に飛び込んできた声にぱっと顔を上げる。だが、目の前には何もいなかった。
『だから別に、貴方の事を恨んではないわ。寧ろ、解放してくれて、認めてくれてありがとう』
 新たな声が聞こえてきてその方向を見る。それは氷の結晶から発されていた。
「そこにいるのか……?」
『いる、というのは正しくないわ。でも、サクリファイス(わたし)であることに変わりはないわ』
「……そうか。ならば、伝えたい事があるんだな」
『ええ。感謝と、お願いがあるの――』
 後に紡がれた言葉に闇焉の表情が驚いた表情になり、やがて嬉しそうな表情になったと思うと、その場から消えた。

     ◇     ◇     ◇

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.205 )
日時: 2024/04/17 12:10
名前: 風龍神奈 (ID: dRBRhykh)

 雷門中に戻り、皆と合流し、事の顛末を掻い摘んで話した一週間後。
 癒月とフェイは未来世界の氷炎使いの拠点へと来ていた。
 今までの事を歴代のことが纏められた書物に書き留め、拠点を隠すためにだった。
「……この一年、本当に色んな事があったよね」
 書物にすらすらと文字を書きながら、癒月が呟く。
「本当にね……。まさか、破壊死書の封印が出来るとは思わなかったよ。後、役目を終える事も」
 書物の整理をしていたフェイがそれに反応する。
「ね。役目は、封印しても続くと思ってたけど、その代わりで十六夜の木が守ってくれる事になったみたいだから、結局……」
 言い差した癒月が気になって彼女の方を見た。
「…………」
 手が止まってそれを無言で見つめる癒月。
 顔が俯いているので表情は伺えず、何を考えているのかが分からない。
 だが、体が僅かに震えた事から、すぐに気付いて駆け寄る。
「癒月」
「ッ」
 最後の最後で耐えきれなかったのか、ぽつりと涙が零れ落ちた。
「ごめ……感情が……いっぱいになっちゃって……、氷を継承したから……いずれは……破壊死書に喰われて、死ぬ運命だったのに……私は……生きる事が……そう思ったら……色々止まらなくなって……私……っ」
「だよね、そうなるよ。大丈夫、安心して」
 破壊死書が負の感情に惹かれやすい故に、あまり考えないようにしていたであろう事でいっぱいになってしまったのだろう。その気持ちは分かる。
 だからそのまま、吐き出してほしい。抱えていたものを受け止めるから。
 言外の言葉が通じたのか、一瞬だけ表情が強張ったが、彼が傍にいたからか、ぽつりぽつりと話し始めた。
 氷の継承者としての覚悟は持っていたけど、本当は破壊死書に喰われて死にたくなかった事。呼び出さないように気をつけていたのに、呼び出してしまった事。周りに迷惑をかけてしまった事。ほのかに攫われた際に、霧野に自分の思いを話してしまった事。その時に、封印した所で守護から降りれる筈がないと再度自覚した事。次呼び出せば容赦なく喰われて死ぬであろう事。
 サクリファイスと邂逅して、自身が生きている理由を告げられてから、その言葉が離れなかった事。破壊死書に体を乗っ取られた事で身動きが取れなくなり、フェイを手に掛けた時の感触が未だに残っている事。その二つに苛まれ、一時期は早く死にたいと思っていた事。破壊死書が封印されたことによって解放されたが、神楽ははによって理由が明かされた時の衝撃。その後の神楽ははの死。漸く終わったかに思えたが、サクリファイスに体を奪われ、挙句の果てには命を半分奪われた事。破壊死書ではなく、彼女によって死ぬのだと思った事。最終的には、生き延びた事。
「本当は……私は道具として生まれたから役目を終えたら……存在意義がなくなって……死ぬのかと思ってて……特に、サクリファイスは知っていたから、それで命を奪おうとしたのかなって……思ったりもしたの……」
 それが本当かどうかはもう分からないけど。彼女の方が、亡くなってしまったから。
「私は……生きて良いのかな……生きている意味がないの」
「――馬鹿っ」
 言い終わる前に、フェイが抱き竦める。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.206 )
日時: 2024/04/17 12:13
名前: 風龍神奈 (ID: dRBRhykh)

「確かに、神楽の話を聞けばその通りかもしれない。けど、癒月だって一人の人間でしょ。道具として生まれてきたと言っても、サクリファイスと違って君は人だ。ならば当たり前に、生きる権利があるんだよ。生きて良いんだよ、癒月は」
「ッ」
 フェイの言葉に思わず癒月が息を呑んだ。
 抱き竦めていた腕を解いて、目線を合わせる。
「破壊死書は封印した。氷炎使いの役目も終わった。二つの組織もなくなった。僕達を縛るものは全てなくなった。僕達は自由になったんだ。だから、もう、好きな事をして、好きなように自分の人生を、生きて良いんだ」
「……自……由に……」
「そう。だからお願い、生きる意味とか(そういうこと)を考えずに、生きてほしい」
 フェイの言葉に、今まで暗い感情で覆われていた心の靄が、晴れていくような気がした。
 私は、生きて良いのか。許されるのか。
 ならば、私は――
「――ありがとう、フェイ」
 恐らく、忘れることは出来ないけれど。自身の根幹を揺るがすものだから。けど、考えないようには出来る。そうやって少しずつでも、考える先を変えていこう。目の前の、人の為に。
「どういたしまして。それに、僕らはどれだけ一緒にいたのか分かってるでしょ?」
「親の顔よりってやつだね。言われてみると確かにそうだし、分かっちゃうか」
「そういう事。全く、その辺は本当変わらないんだから……」
「……フェイだって変わってないからね。お互い様だよ」
「そ、それは分かってるからっ」
 少し早口で言った彼が面白かったのか癒月が笑った。 
 暫くしてから止まっていた作業を再開する。残りの部分を書き終えた書物を、整理された棚の空いたスペースに戻した。
 周辺を見て、やり残しがないか確認してから外に出る。
 氷炎使い以外には見えないように術をかける。後の作業は、今は現代で水無月の元に身を寄せている先代氷炎使い炎の継承者の月牙が、行う手筈になっていた。
「――これで本当に終わりだ」
「……そうだね」
 ここから先は、もう氷炎使いとして動くことはないし、その使命もない。この2年間、得たものもあれば失ったものもあった。全てが全て、良いものではなかったけれど、忘れることなく、前に進んでいきたい。
 互いに心の中で思っていたのが同じだったのか、一緒に顔を見合わせ思わず笑いが溢れる。
「行こうか、癒月」
「うん」
 揃って二人で歩き出す。
 その奥では、見事なまでの虹が空に輝いていた。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.207 )
日時: 2024/04/18 12:52
名前: 風龍神奈 (ID: dRBRhykh)


    ◆     ◆     ◆ 

「結局、全て解決したって事でいいのか?」
「ええ。ただ全て、というよりはほぼね。後は私の手で終わらせないといけないものも、幾つか残っているから」
 水無月が管理をしているとある盆地に座す、浅霧神社。
 その隣にある彼女の住まいの霊奇棟に、水無月と先代氷炎使い炎の継承者月城月牙はいた。
 フェイ達が破壊死書を封印した事で、彼女も役目から開放された。だが彼らと同じように彼女にも力は残された。恐らく、生き残っている氷炎使いに対して行われたのだろう。
「破門しない限り、私はあの子達の師匠だから。弟子の邪魔をするものは摘んでおかないとね」
 それが意味するものに気付いたのか、一瞬だけ水無月の表情が暗くなる。
「大丈夫よ。そんな怖い表情しなくても。家の始末と、氷炎使い関係の後始末だけだから。出来るだけ穏便に済ます予定よ」
「……それで何度か血みどろになった事があったよな……」
「それは過去の事だしあの子達に出会う前の話よ。若気の至りってやつね」
「そういう話じゃないんだけどな……」
 だが月牙がそういう人だというのは付き合いが長い故に分かっているので、ほぼ諦めの境地まで達している。
「止めても無駄だから止めないが……とりあえず無事に帰ってこいよ。あんたの今の居場所はここにあるんだから。それに、一緒に飲める人がいないのはつまらないからな」
「分かっているわ。折角役目から開放されたし、為すべき事を終えたら貴方と語り合いたいと思っているから」
「――ああ。楽しみにしている」
 立場は違えど、気の合う友人。
 その友人からの誘いに、柔らかな笑顔を向ける。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるわ。祝杯でも用意してくれてると助かるわね」
「おう、じゃあ用意して待ってる。気をつけてな」
 天空移動で消えていった月牙に、ひらひらと振っていた手を止め、それを見る。
 何の変哲もないように見えて、汚れた手。神社の巫女として、十六夜の樹の管理者として、氷炎使い(かのじょたち)とは違う形で、自身も手を染めてきた――行った後は禊をしてきたので実質的には穢れを纏ってはいないが、手を染めた事実は変わらない――。
「……ああいったけど、私だって似たようなもんなんだよな……」
 だからこそ、月牙と気が合うのだろう。似た者同士というやつだ。
 ふるふるとかぶりを振って頬を軽く叩く。
 気持ちを切り替えると、祝杯の為の準備に向かった。

 ◆     ◆     ◆

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 【板移行】【更新再開】 ( No.208 )
日時: 2024/05/14 18:08
名前: 風龍神奈 (ID: dRBRhykh)

     †



 現代へと戻った二人は、雷門中で皆に別れを告げた。
 元々は破壊死書を敵の手から守るために現代へと来ていたので、その役目がなくなった今二人が現代に留まる理由はなかった。それに、元々二人は未来人であるので、未来世界の方が家になるのだ――正確には癒月は現代生まれだが、月城家に預けられたので未来人になっている――。
 別れを惜しまれた二人だが、その代わり年に一度はサッカーをしに会いに来る約束を交わした。
 そうしてワンダバと共にイナズマTMキャラバンに乗り込み、二人は未来世界へと帰っていった。
 彼らが二人に会えるのは、一年後。寂しさはあるものの、その間に二人に追いつけるレベルになろうと、彼らは誓ったのだった。
 また、二人と色々な話が出来るように。
 積もり積もった話が出来るように。
 
 約束を胸に、それぞれの道を行く――


こうして、炎と氷を受け継ぎし者達は、運命を覆し、平穏な日々を手に入れたのであった。