二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.68 )
日時: 2013/06/17 21:54
名前: 風龍神奈 (ID: f48TOEiV)
参照: 暫くサッカーではないイナクロをお楽しみ下さい

 フェイは、今いる裏山——本当の名は朝霧山——のパワースポットと呼ばれている場所に向かっていた。
 この山は何故か山全体が聖域になっていて、いたる所で加護を受けられるようになっている。(そんな所で、フェイはとんでもない事をしでかしたのだが)
 その中でも、一般の人々は立ち入れない、聖域の中のパワースポットがあり、そこをフェイは目指していたのだった。
「…着いた」
 一般人立ち入り禁止の看板とロープを潜り抜け、洞窟内を通ってフェイが辿り着いた先には、巨大な樹があった。
 幹の大きさも高さも、全て巨大だ。そして、枝に生っていたのは、多種多様な色合いをした、小さな実だった。
 それが、他の色の実と重なり合い、不思議な色を醸し出している。
「…これが、この山のパワースポット——『十六夜樹(いざよいのき)』…。陰暦で16日目の月の晩に、実を落とすという…この山の中が、『異界』だという印」
 十六夜樹を見つめながら、説明するようにフェイはひとりごちた。
 十六夜樹は、この山——朝霧山の中が、異界だと示す印のパワースポットだ。実はこの山は一見、普通の山に見えるが、中は、異界と繋がっており、時々その異界から魔物や異形のモノが這い出てくるのだ。
 それを防ぐ為に、水無月の祖先が、ある所から十六夜樹を持ってきて、植える事で封印した。だが、暫くすれば魔物達がその樹を枯らして出ようとする為、十六夜樹は陰暦で16日目の月の晩——満月の次の晩に、実を落とし、地面を浄化するのだ。
 それで魔物達を撃退する事に成功し、今日まで封印は続いている。だが。
「——十六夜樹(いざよいのき)の寿命は、後僅か」
 十六夜樹は水無月の祖先の代からある為、樹齢は何千年も超えていた。それでいて、浄化までしていたので、徐々に弱まっていったのだ。
 だから寿命は——後1週間持つかどうか。
「…寿命が近づくと、後継者が出るはずなんだけど…」
 フェイは十六夜樹の幹の周りを巡った。ら。
「…あった」
 フェイがいた所とは反対側に、十六夜樹の根元に守られるようにして、小さな芽が生えていた。
「これが、これから封印と浄化を担う二代目十六夜樹か…」
 こんな小さなモノの運命すら決められているなんて、神は、どんな意志をもってそうしているのだろう。
 この地球上に生まれて来た者は全て、運命が決められている。それは、抗ったり、覆せたりする。けど。
 そんなモノがある地球に生まれて、皆はどんなに後悔しているだろうか、悔しんでるだろうか、——喜んでいるだろうか。
「…ふふ、君を見てたら何だか元気が出てきたよ。…ありがとうね」
 フェイはにっこりと微笑むと、その場を後にした。


「…遅いねぇ、水無月さんもフェイも」
 霊奇(れいき)棟の鳳(おおとり)の間で、天馬がボソッと呟いた。
「…そうだな。もう外は暗いのに…」
 それが聞えたのか、剣城が答える。
「大丈夫だと、いいんだけど…」
 その横で、太陽が窓の外を見ながらひとりごちた。


 フェイが霊奇棟に戻って来た時には、雷門メンバーは寝ていた。
 その中、静かにフェイは足音を立てないように荷物をとって、ある部屋へと向かう。
 そこを開けると、中には水無月がいた。
「…ただいま、水無月」
 後ろ手で扉を閉めながら、フェイは言った。
「おかえり。——で、お前は一般立ち入り禁止の十六夜樹(いざよいのき)に行ったのか?」
 率直に訊いた水無月。
「行ったよ。…で、後継者見てきた」
「何。もう後継者が出来てんのか?」
「うん、出来てたよ」
「マジか…」
 そろそろ儀式をしないといけないなぁ、とぼやいている水無月の傍らに、ハクビがいない事に気付いたフェイは、首を傾げた。
「…ん? ああ、ハクビならあいつらの許にいるよ。本来なら私の霊力がきれるんでね、元に戻すが、今回は特別だ」
 フェイの目線に気付いた水無月が、答える。
「そっか。…ねぇ、水無月」
「何だ?」
「水無月ってさ、——人、もしくは魔物とかを、殺した事ある?」
 唐突に、フェイが訊いた。
「っ!!?」
 その質問に水無月は一気に戸惑った。
「——あるに、決まってんだろ。…私のしてる仕事は、そういうのがよくあるんだから」
 だが、冷静さを取り戻した彼女ははっきりと答えた。
「…だよね」
「一体何があったんだ? 何を見たんだ? お前がそう訊いてくる事は殆どないだろう?」
 矢継ぎ早に質問する水無月。
「…いや、ね。二代目十六夜樹(いざよいのき)を見てる時に、悪しき人の匂いと、魔物独特の匂いがしたから…」
「何だと!? それは本当か!?」
 水無月が勢いよく立ち上がる。
「うん、本当。——氷炎使い(アイスファイアーダンサー)の片割れが言うんだもの、信じてほしいな」
「まぁ、お前の言う事だったら信じるが…、だとしたらヤバイな」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.69 )
日時: 2013/06/18 22:32
名前: 風龍神奈 (ID: Sn/ReK/b)
参照: 明日から三日間期末テスト…orz

「何がヤバイの?」
 困惑した状態になっている水無月に、フェイは訊いた。
「初代十六夜樹(いざよいのき)が実を落として浄化する前に、魔物達が出てくるかもしれねぇ」
「えっ!?」
「それに…次の満月は1週間後。…丁度、初代の寿命がきれる時と同じだ」
「そんな…」
「最後、寿命がきれる前に実を落として浄化して、二代目が成長するのを待つ算段だろうけど…暫くは私がしないといけないかもな」
「…僕に手伝える事はない?」
「…いや、大丈夫だ。特に人手が足りるような……と思ったけど、魔物がもし現れた時に撃退する奴がいないわ。出来る事には出来るけど、私は浄化に専念しないといけないからな」
「…て事は」
「ああ。お前に魔物退治は任せるよ。出来るんだろ? ——炎を受け継いだんだから」
「勿論」
「…まぁ、詳しくは明日話すと言う事で、もう寝ろ」
「…は〜い」
「何かあったら、呼んでくれ」
「了解〜」
 水無月は自室へと戻っていった。
 フェイは、少し部屋を片付けると、布団の中に潜り込んだ。


 次の日。
 天馬達は朝早くから起きて、特訓をしていた。
 ゴールがないのでドリブルやパスなどの練習である。
「…皆早いな、こんな朝早いのに」
 いつもと同じ時間に起きてきた水無月が、天馬達の姿を認めて思わずひとりごちた。
 因みに朝起きた水無月がする事は、人目につかない内に十六夜樹(いざよいのき)を確認しに行く事である。
「…こりゃ、バレないように行くには骨が折れそうだな…」
「どうしたの? 水無月?」
「へっ!?」
 不意に後ろから声をかけられた水無月は吃驚して、思わず振り向いた。
 とそこには、フェイがいた。
「あ、もしかしてあそこに行くの?」
「お前の場所で当たってるが、行き成り人を驚かすな」
「ごめん。水無月が弄りやすい場所にいたからさ、ちょっと驚かせようと思って」
「そこは思ったら駄目だ」
「は〜い」
 水無月は天馬達を一瞥すると、フェイの方を向いた。
「でさ、此処からどうやって十六夜樹に行けばいい?」
「ああ、それはね、こっち」
 フェイに誘われるように、水無月は後をついて行く。
「昨日、帰って来るときに、こっそりと自分で道を作ったんだ。最終的にはこの裏山——朝霧山の参道に出るんだけど」
「…お前、凄いな」
「まあ…ね。…てかさ、この山の名の由来って、朝霧がしょっちゅう出るからだよね?」
「そうだけど——ある時だけ、朝霧がでな——!!」
 言い差して、水無月はだっと駆け出した。
「どうしたの、水無月!?」
「朝霧が出ない時って、大抵十六夜樹に異変か何かが起こってる時なんだよ!!」
「えっ!?」
「だから、急がねぇと…手遅れになる…」
 水無月とフェイは、全速力で十六夜樹(いざよいのき)に向かった。

「っ! 何であれが出てきているんだ…!!」
「あれって…! まさか…!?」
 十六夜樹の許に辿り着いた二人は、その樹の許に、何かがいるのに気付いた。
 全身真っ黒で、背と腹に棘のような剣が飛び出、異形だと言う事を知らせていた。
「何で、魔物がいるんだ…!」
「魔物…。僕達のいる世界とは別の異界に住んでいる異形の生き物。この樹の根元がその異界と繋がっているから、それでこの樹は浄化と封印をしていた筈なのに…、何で…!!」
 と相手は此方に気付いたのか、体を持ち上げると突進してきた。