二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.78 )
日時: 2013/07/20 23:06
名前: 風龍神奈 (ID: lDEsvGbw)


 第8話 クロノストームVSナイトメア【後編】

「さぁ! 後半戦が始まるぞぉ!! 現在の得点状況は0‐3でナイトメアが有利だぁ! 果たして、それは覆されるのか!」

 ピイィィィ!!

 矢嶋の声とともにホイッスルが鳴り響き、後半戦がスタートした。
「一気に攻めあがる!」
 ボールを受け取った剣城が、一気に駆け上がり、そして、
「ミキシトランス、沖田!!」
 をした。
「菊一文字!!」
 ミキシ技が相手ゴールを襲う。
 それに対し、ネイは。
「…ふっ」
 と笑って、地面から無数の黒い手を出した。
「デビルハンド!!」
 ボールの威力を消し、止めた。
「ミキシマックスでも駄目か」
 剣城が吐き捨てるように言った。
「言っておくが、お前等にこのゴールは破れねぇよ」
 とネイが、嘲るように挑発する。
「…ちっ」
 その儘喧嘩しても埒が明かないと思ったのか、剣城が舌打ちをして戻っていく。
「…お前等が」
 海音を覚えていれば別だったのによ。
 新たな怒りを胸に、ゴールを守るのだった。

「…そろそろ、俺も本気出すか」
「えっ…? 闇焉、今、本気出すって言わなかった…?」
「言ったさ。まぁ、お前達が一通り動いた後だがな」
「…一通り動いた後って…」
「——意味は、分かっているだろう?」
「分かってるよ」

「…神童、どうする? 此の儘じゃ、癒月を取り返せないぞ」
「分かってるさ、霧野。どうにかしようとは思っているが、並大抵の技じゃ点は取れないと言う事が分かってるからな、色々と考えてみたんだが、策が思いつかない」
 色々と考えていたらしい神童は、其の儘霧野に告げる。
「…だったら、二人技や三人技、最終的には、最強イレブン波動あたりを使ってみればいいんじゃないか?」
「多分、試してみる価値はあるだろうが…成功するか分からんぞ」
「俺なら試すさ。その成功率が何百万の一の確立だろうが」
「——ああ、そうだな」
 二人はそう言いあって、笑った。

 神童と霧野が考えた策は、すぐに実施された。
 最初に出された技は、
「「ジョーカーレインズ!!」」
 神童と剣城の合体技(アームド状態)だった。
 放たれたそれは、ゴールを突き破るのではないかと思う程の威力で向かっていく。
 しかし。
 ネイは不敵に笑うと化身を発動した。
「堕天使ルシファー!」
 そして向かってきたボールをルシファーの黒い翼で包み込むようにして止めた。
「フェールンエンゼル!!」
 ボールを止め、ネイが鼻で笑う。
「…だった、化身を使える事を失念していた…」
「神童先輩…」
「…あ、そういえば神童先輩」
「何だ天馬」
 突然乱入して来た天馬に、怪訝そうな顔を向けながらも神童は訊いた。
「…あれなら、いけるかもしれません」
「あれ…?」
「…『グリフォン』だと言ったら、分かりますよね?」
「…ああ! 確かに、いけるかもな」
 天馬の言葉の意を理解した神童と剣城が頷く。
「——なら、それでいくぞ」
「「はい!」」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.79 )
日時: 2013/08/07 22:42
名前: 風龍神奈 (ID: Cyd1DlTj)

「行くぞ!」
「「はい!!」」
 神童、天馬、剣城の三人は、ボールを持って一斉に走り始め、化身を合体させ、魔帝グリフォンを発動した。
 そして、化身技、ソード・オブ・ファイアを繰り出す。
「——っ!!」
 止められるかと思ったシュートは、予想を反してゴールへと突き刺さる。
「ゴール! クロノストーム、初の得点だぁ!!」
「入った…!!」
 クロノストーム側は歓喜に溢れ、逆にナイトメアは焦りが見え始めた。
「…やばい、このままじゃ…!」
 特に焦っていたのは、癒月だった。
 何せ、このチームのメンバーが解放される理由は、クロノストームに勝たないといけないからだ。
「……こうなったら」
 闇焉の意に反するが、徹底的にボールを奪わないと。
 癒月は密かに心に決めた。

 
 試合が再開されると同時に、ボールを奪われたナイトメアだったが、闇焉の意を無視した癒月によって取り返された。
 そこに、フェイが当たる。
「癒月、前に言ってた、僕達が犠牲にされてるって、どういう事?」
「…まだ分からないの? ——彼が、闇焉が、あなた達の事を詳しく見ている事に」
「は…?」
「あなた達が勝ったらナイトメアは崩壊。全員死ぬ。けど、私達、ナイトメアが勝ったら、あなた達の中から優れている人物を全て洗脳して、私達のチームに引き入れるつもりなのよ。その為に、この試合をし、あなた達を散々痛めつけてるの。人間ってのは、そういう時に一番力を発揮するから。それに、彼は私達ナイトメアをも観察しているのよ。——これで、分かった? あなた達が、犠牲になってる理由」
「…もし、それが本当だったとしても、癒月は、どうするの…?」
「勿論、負ければ私はあなた達のチームに戻れるけど、このチームとともに死を選ぶ。勝てば、その儘残る」
 そう言い残して、癒月はフェイを抜くと、海音へとパスした。
「海音!」
 癒月からパスを受け取った海音は、相手を躱しながら、ゴール前へと出、ボールをダイヤモンドのように輝かせ、とてつもない硬度のシュートを放った。
「ダイヤモンドショット!!」
「っ!!」
 放たれたボールは、信助に技を出させない儘、突き刺さる。
「ゴール! ナイトメア、追加点だぁ!!」
 矢嶋の声を聞きながら、海音は自分のポジションへと戻っていった。






 

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.80 )
日時: 2013/09/04 20:09
名前: 風龍神奈 (ID: b/D5tvZu)

「…今、何点差か分かるか? 剣城」
「三点差ですね」
「三点か…。まだやれそうか?」
「…もって後二回ぐらいですかね。…もしかしたら止められるかもしれませんが」
 剣城は、ナイトメアの方を見ながら答える。
「そうか…。そうなると、残りは全員に頑張ってもらうしかないな」
 暫く思案して、神童は頭を振った。
「…まずはともかく、点を稼がなければ」
 そうしないと、癒月が取り戻せない。
 神童はそう考えると、試合に集中した。

「——闇焉」
「何だ? 癒月」
 そう問うた闇焉の許に、癒月が来る。
「本気出すって、聞いたけど、本当なの?」
「…そう思ったがな。——勝ちそうだから、止める事にした」
「…は? それって」
「矛盾になってるけどな。それに…こっちには切り札がある」
「切り札?」
 闇焉が出した単語に反応する癒月。
「…おっと。それは聞いちゃいけない事だぜ。——それに、あちらは画策を立てているようだよ」
 癒月は黙って踵を返す。
 彼女に聞こえない位の音量で、闇焉は呟きながら嗤った。
「切り札は、お前何だよ」

「「「ソード・オブ・ファイア!!!」」」
 神童達三人の声が合わさる。
 と同時に、シュートがゴールに決まる。
「ゴール! クロノストーム、追加点だぁ!!」
 矢嶋が叫ぶ。
「後、二点差か…」
「勝利、もしくは同点で終われば、癒月は帰って来るな」
「——もしかしたら、それはないかもしれない」
 突然割り込んできたフェイが、そう言った。
「ないかもしれない? だと?」
「ああ。さっき、癒月と対峙した時、癒月が言ったんだ。『戻れはするけど、私は戻らずにそのまま残る』って」
「な…っ」
 それを聞いた神童の表情が驚愕に彩られる。
「何故だ? 何故癒月は、あのチームにいようとする?」
「…多分、僕達の中から抜け落ちてる何かがあるんだよ。それが、癒月を引き止めてるのかもしれない」
「確かに…見覚えのある人物が数人いたような気がするが…」
 その場にいた神童、天馬、剣城が記憶を掘り起こしながら答える。
(それじゃないんだけどなぁ。…まぁ、いっか)
「…その前に、まずは相手に勝つ事を考えたら?」
 記憶掘り起こし作業中の三人に声を掛けてから、フェイは戻り、相手から素早くボールを奪う。
「なっ!?」
 其の儘駆け上がり、アームドとトランスを同時に発動すると、フェイは、
「王者の牙!!」
 を放った。
 それに対し、ネイは、
「デビルハンド!!」
 を放ったが。
 僅差で破れ、王者の牙が突き刺さった。
「ゴール!! クロノストーム、また追加点だぁ!!」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.81 )
日時: 2013/09/04 20:10
名前: 風龍神奈 (ID: b/D5tvZu)

矢嶋が興奮する。
「…ちっ。…海音を覚えていない奴等に破られるとは…最悪な気分だな」
 ネイがぼそっと吐いた言葉を、フェイは聞こえていないふりをして遠ざかる。
(…海音…。何故か、凄く聞き覚えがあるような…)
 記憶の奥底まで手繰るが、出てこない。
 その時、フェイは癒月が離れようとしない理由が分かった。
(成程…。そっか…)
 伝えた方がいいのかなと思ったが、フェイは伝えない方がいいと思った。
 覚えていない以上、伝えるのは危険だと思ったからだった。
「…まぁ、まず同点に追いつかないとね」
 彼の目がきらりと光った。

「……っ」
 ナイトメアの中で、一番焦っている人物が一人。
「…ま、負ける…」
 負けたら、このメンバーは亡くなってしまう。記憶から忘れ去られているメンバーも。
 其の人物は——癒月は、首からさげている破壊死書を握った。
 落ち着こうとするが、落ち着けない。
 そこに、ゆっくりと近づいてくる人物が一人。
 癒月は、気付けなかった。

「クロノストーム追加点!! そして、とうとうナイトメアと並んだぞぉ!!」
 残り一発のソード・オブ・ファイアが決まり、とうとうクロノストームの点数はナイトメアと並んだ。
「よし、次に点を入れたらこちらの勝利だ!!」
「「「おお!!!」」」
 クロノストーム全員が声を上げ、全員の士気が上がる。
 だが、その士気を凍りつけるような寒さが、全員を襲った。
「「「!!?」」」
 クロノストームのメンバーは、ナイトメアの一点を——殺気の原点を見た。
 彼等彼女等の目に映ったのは、癒月とその許にいる闇焉。
 彼女が何かを言われて震えているのが、此処からでも一発で分かるほど、癒月は震えていた。
「…癒月…!!?」
 フェイの唇から、言葉が漏れた。

「…え、今、何て…言ったの…」
 闇焉の言葉を聞いて、癒月は耳を疑った。
 まさか、そんな。
 信じたくなかったそれは、あっさりともう一度言われる。
「だから。——こいつらは、このチームは、勝とうが負けようが同点になろうが、『死』ぬんだよ。全員、塵一つ残さずにな」
「……っ」
 少しずつ震えていく癒月を、彼女の精神を傷つけるような言葉をどんどん投げかける。
「お前が頑張っても、意味がないんだよ。どうせ、このメンバーは死ぬ。お前だけが生き残る。そして、お前はずっと苦悩していく運命になるんだよ。ずっと俺達の事を忘れられずにな」
 癒月の瞳から、涙が一粒ずつ落ちていく。
「う…嘘…。嘘…付いているんでしょ…」 
「この試合で勝ったら、こいつらを解放してやると言ったが。あれも、嘘だ。お前を引っこ抜き、そして、俺達のチームに入らせるためのな」
「…そ…そんな…!!」
「言っておくが、お前に道は残されていない。——この試合は、俺達の死で終わる」
「……っ!!」
 癒月は首からさげた破壊死書を手で握った。
「————ッ!!!!」
 そして、金切り声を上げながらその裏で別の言葉を詠唱する。
 瞬間、凄まじい爆発が起こった。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.82 )
日時: 2013/09/04 20:11
名前: 風龍神奈 (ID: b/D5tvZu)

 其の爆風で、周りにいたナイトメアのメンバーと、遠めの位置にいた筈のクロノストームのメンバー両方が弾き飛ばされる。
 其の中で、一番中心にいたはずの闇焉は、無傷で立っていた。
「…おお、怖いねぇ〜、破壊死書の力は」
 からかうように挑発した闇焉は、癒月がいない事に気付いた。
「——貴様だけは許さん」
 瞬間、背後から癒月が襲い掛かる。
 が、あっさりと躱される。
「何だい、今度は。——もしや、それが破壊死書の本当の姿なのかな?」
 土煙が晴れ、闇焉と癒月の姿が現れる。
 しかし、癒月の姿は変わっていた。
 金髪だった髪の色は、おぞましく恐怖を感じる黒色に、瞳は真紅に染まり、口元からは牙が覗き、手足も大きく獣のように変化していた。
「…そんな事、お前が知る必要など無い。どうせ、お前は殺されるのだからな」
 その口から放たれる言葉も抑揚も、調子も、全てが低くなっていた。
 ドスをきかせたトーンよりも、低い声が、全員の耳に響く。
 それを聞いて、一斉に全員のうなじを冷たいものが駆け上がる。
「…癒月」
 其の中でも、フェイともう一人だけは、癒月をずっと見つめていた。
「駄目だ、癒月。そんな事をしたら、君は…!!」
 君は————。
 しかし、フェイの言葉は届いていなかった。—否、癒月の耳には、闇焉の声と、自身の声しか聞こえていなかった。
「癒月…!!」
 もう一人の人物——海音は、癒月のその姿にぞっとしながらも、見ていた。
「駄目だよ、癒月…! お願い…!!」
 止(や)めて——。
 しかし、海音の言葉も届く事は無かった。
「ほう? 殺れるものならやってみな」
 闇焉が挑発をする。
「望む所だ」
 瞬間、癒月が跳躍し、消えた。素早く闇焉の死角に潜り込み、彼の心臓を抉り出そうと手を背に突っ込ませる。
「これでお仕舞いだ」
 癒月が引き抜こうとした瞬間。
「これで仕舞いだ何て、誰が言った?」
 闇焉が素早く振り向いて、癒月を蹴り上げる。
「っ!!」
 癒月は空中で上手く体勢を整えると、くるりと着地した。
「へぇ、意外とタフ何だ」
「貴様に言われたくない。それに、貴様は背に穴が開いたが、平気なのだろう?」
 闇焉の背には、穴が開いていた。そこから血が大量に流れているのに、闇焉は平気で立っている。
「…そりゃあな。元々持ってる性質のせいでね」
「そうか。——という事は、貴様を嬲り殺せる」
 癒月はそう言って、闇焉に飛び掛る。
 只管(ひたすら)の攻防戦が続く。
 その場にいたメンバーは、ただ見ている事しか出来なかった。
 だが、其処で動く人物が二人。
 フェイと海音だった。
「癒月…お願い、止めて…」
「癒月…そんな事をしたら…」
 彼女を止めたい、彼女を救いたいから、其の為に向かう海音とフェイ。
 そんな二人を、見ている人物等、いなかった。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.83 )
日時: 2013/09/04 20:12
名前: 風龍神奈 (ID: b/D5tvZu)

「…ハァ、これは中々骨が折れるぜ。どちらもくたばらないんだからな」
 僅かな隙さえも見せれない攻防戦の中で、闇焉がぼそりと呟いた。
「それは貴様がくたばればすぐに済む話だ」
 それを、癒月がばっさりと返す。
 と同時に、癒月が闇焉の死角へと潜り込んだ。
「二度も同じ手はくらうかよ」
 闇焉が素早く躱す。
「——誰が同じ手だと言った?」
 そんな声が聞こえたと同時に、闇焉の両手の甲に鋭い爪が突き刺さる。
「…っ、ずりぃな、そんな物を使うとは」
「ずるくはないさ」
 癒月が闇焉を後方の壁の方向へと蹴り飛ばす。
「っ!!」
 両手に突き刺さっていた爪が、壁に食い込み、闇焉は動けなくなった。
「——どうやら仕舞いのようだな」
 癒月が近寄る。
「大人しく、喰らわれろ。こいつ諸共にな」
「…は?」
 今の後者の言葉が意味不明だったのか、闇焉が素っ頓狂な声を上げる。
「お前は知らなくとも良い。どうせ——」
「「癒月!!」」
 癒月の言葉を防いだ、二人の声。
 彼女は鬱陶しそうに、其の人物——フェイと海音を、見た。
「…貴様等は何だ。…いや、もう一人はこいつの片割れか」
 癒月の真紅の瞳が、闇焉を一瞥する。
「…邪魔をするのなら、貴様等も喰らうぞ」
「邪魔等しに来ていないさ。癒月を取り返す為に来たんだ」
 フェイが癒月の瞳を真っ直ぐに見返して答える。
 そう聞いて、癒月はせせら笑った。
「貴様等が? ——巫山戯るなよ、この人間が」
「「っ!!」」
 化け物じみた殺気が、周りの全員を襲う。
「この小生の、我の気持ちを知らない奴がそんな言葉を吐くな。虫唾が走る」
「…貴様は、誰だ?」
 海音が低く問うた。
「我か? ——破壊死書だよ、我は。この姿は、仮の姿ではあるが、正真正銘、破壊死書だよ」
 癒月は——破壊死書は、そう答えた。
「癒月を返せ、破壊死書」
「それは出来ない相談だ」
 破壊死書はばっさりと切り捨てる。
「我の中には、鉄則(ルール)がある。それは『我を呼び出した者は、喰らわないといけない』というものだ。無論、呼び出した者が殺したい相手も一緒に喰らうわけだが」
「…それが、さっきの言葉の意味ってわけか…」
 壁に若干磔状態にされた闇焉が、呟く。
「何だと…!? 第一、破壊死書は…」
「『人間を喰らう事はしてはいけない』、だろう? 片割れ」
 言葉を防がれたフェイは、黙って破壊死書の言葉を聞く。
「甘いんだよ。そもそも、我がそんなルールを守ると思うか? 思わないよな。我は、ずっと彼の昔から、人間を喰らって生きているんだよ。そんなルールは、人間共が勝手に作り出したものだ」
 破壊死書の言葉は続く。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.84 )
日時: 2013/09/04 20:13
名前: 風龍神奈 (ID: b/D5tvZu)

「——それに、我が人間を喰らうようになったのは、貴様等人間の所為だ。貴様等が、我を負の感情を持っている時に呼び出したから、我はそうなったのだ」
 元々、破壊死書は、災厄を運んで来る物ではなかった。寧ろ、世界を守る為に存在していたのだ。
 だが。
「我を手に入れた初代が、大事な人を殺された怨嗟や憎悪を持った儘呼び出したから、我はそれに感化され、人間を喰らう様になった。そして、——完全だった我を、不完全にしたのも貴様等人間だ」
 正義と悪、両方を備えていた破壊死書は、完全なる存在として生きていた。しかし、それも初代の所為で、正義の方を無くした。邪悪しか残っていなかった破壊死書は、不完全な存在として生きる事になってしまったのだ。
「だから、我は人間を、——負の感情を持つ人間を喰らわないといけなくなった。喰わなければ、我は永遠にこの世から消えてしまうからだ」
 人間を喰らわなければ、生きられない。だから、人間を喰らう。
「それで、貴様氷炎使いは二人いるのだ。どちらかが喰われても、我を守護できるように。それに、代々氷炎使い共は我を召喚していたが、今回はそれはないなと思ったのに、やはり召喚するか。誰も、伝えていなかったのだろうな。——我がどれだけ残虐で、残酷で、人間嫌いかを」
 破壊死書はそこまで言って、闇焉の方を向く。
「——昔話は此処までだ。我の邪魔をするなよ」
 破壊死書が闇焉に近付いて行く。
 だが、二人は。
「絶対に、行かせない…!! 癒月を、喰わせるもんか…!!」
「癒月を護るんだって、僕は誓ったんだ…!!」
 破壊死書の足にしがみ付いた。
「放せ。さもなくば、——食い殺すぞ」
 破壊死書から放たれた殺気にも物怖じせず、二人はしがみ付いて行かせないようにする。
「絶対に放さない…!」
「此処で手放したら、絶対後悔するから…!!」
 だから、だから。
 もう、止めてくれ。癒月、——破壊死書。
 全部、受け止めてやるから。
 喰われてもいい。それで、癒月が救えるなら。
 彼女の為だったら、全てを擲(なげう)っても構わない。
「…っ」
 二人の思いを感じ取ったのか、破壊死書がたじろぐ。
「止めろ、止めろ、止めろ、止めろ!!!!」
 破壊死書が、耳を塞ぐ。
 その時闇焉を縫い止めていた爪が落ち、彼は自由になる。
「—————ッ!!!!!!」
 だが、その時破壊死書から、声にならない絶叫が上がり、辺りを迸る。
 同時に、破壊死書を何かが取り囲む。それはやがて瘴気となり、周りにじわじわと広がっていく。
「「癒月…!!」」
 癒月の安否を誰よりも確認したい二人が、瘴気の中に突っ込む。
「…来ないで…! もう…!!」
 癒月の声が、ごく小さくだが聞こえた。
 その声を頼りに、二人は進み、辿り着いた。
 そこには、破壊死書から解放された癒月と、本当の姿で空中に浮いている破壊死書がいた。
「癒月!!」
 海音が駆け寄ろうとする。
「嫌…! もう、止めて…!!」
 だが、癒月は耳を塞ぎ、周りの音を遮断していた。
 海音の声等聞こえていなかった。
「癒月に何をした!!」
 フェイが破壊死書に問う。
《そいつは、我に喰らわれる事を拒否した。だから、精神的ダメージを与えている》
 破壊死書が答える。
「巫山戯るな!!」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.85 )
日時: 2013/09/04 20:14
名前: 風龍神奈 (ID: b/D5tvZu)

フェイが叫ぶ。
「そんな事をやってもいいというのか、お前は!!」
《仕方ないのだ。そうしないと、喰らえないからな》
 破壊死書は言う。
《そもそも、そいつが拒否したのが原因なのだ。大人しく喰われれば、良かったものを》
「お前に喰われるって事は、この世からいなくなると言う事なんだろ!!」
《そうだ》
 破壊死書は、冷静に答える。
《だが、それも氷炎使いの、——氷を受け継いだ方の宿命なんだよ。代々、氷を受け継いだ人間は、全員喰われている。そいつもまた、喰われる為に氷の継承者となったのだ》
「……っ!!」
 どうしよう。このままじゃ、癒月は消えてしまう。 
 何か手はないか、フェイは思案する。
「——なら、俺を喰らえばいい」
 不意に、誰かの声が響いた。
「俺は、——貴様の求めている氷の、継承者だったんだからな」
 其の者は、闇焉だった。
「…は? 氷の、継承者だった…?」
「そうだ。本来なら、俺が受け継ぐはずだった。が、俺は攫われたんだ。だから、お前と癒月がなった」
 簡潔になれなかった理由を告げる闇焉。
《貴様から、何とも似たような気配を感じていたが、それだったのか》
 破壊死書が闇焉の方を向いた、其の時。
「癒月…!?」
 海音のそんな声が響いたと思うと、癒月が顔を上げていた。
 目から、赤い涙が溢れ出ている。
《ぬ…!》
 破壊死書がピクリと反応する。
「…全ての……」
 癒月がよく分からない言葉を唄うように詠唱する。
 赤い涙を流しながら、癒月は続ける。
《くっ…! 止めろ…!!》
 破壊死書が逃げるように動く。
「何が…起きてるんだ…?」
 今一状況の理解できていない海音の隣で、フェイがぼそっと呟く。
「…破壊死書の、封印の言葉…。何故、癒月が…」
 破壊死書の封印の言葉。
 それは、癒月が今、詠唱している言葉だった。
 一般人にはただの意味不明な言葉にしか聞こえない、言葉。
 フェイと闇焉は、封印の言葉が聞こえていた。
《止めろっ!!!!!》
 そう叫んだと同時に、破壊死書が癒月へと向かう。
「癒月!!」
 だが、彼女は詠唱に夢中で、気付いていない。
 喰われる、と思った其の時。
「くっ…」
 フェイが癒月の前に出て、破壊死書に左手を喰わせた。
「——今、全ての許において、封印されよ、破壊死書!!」
 そして、詠唱が終わり、破壊死書が小さくなっていく。
《——いつでも、我は貴様等を狙っているからな…》
 そう言葉を残して、破壊死書はペンダントとして癒月の首に収まる。
 と、同時に、癒月の体が傾いだ。
 慌てて、海音が寸での所で受け止める。
「癒月…」
 そう呟く海音。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.86 )
日時: 2013/09/18 22:41
名前: 風龍神奈 (ID: qWu1bQD1)

 いつの間にか、瘴気は止んでいた。 
 そして、周りにクロノストーム、ナイトメアのメンバーが集まる。
 皆が集まっている中、少しだけ、癒月の体が動いた。
「っ!!」
 全員が息を呑むと同時に、癒月の瞼がゆっくりと持ち上げられる。
「………」
 誰かを探すように、視線を動かしていた癒月は、周りを見てから、二人に気付く。
「…海音…フェイ…」
 思ったよりも、癒月の声は掠れていた。
 彼女の声を聞いて、安堵したのか、全員が、安堵の表情をとる。
「…っ!」
 記憶整理していた癒月はふと気が付くと、体を起こして、首元に掛けられている破壊死書に触れた。
「良かった…」
 あの時は解放してしまったから。
 癒月は自分の行いを恥じた。
 絶対に、今度からは、破壊死書の力に頼ろうとしないと、心に決めたりする。
 そして、癒月は言い忘れた事のがあったのを思い出した。
「皆…ゴメン…」
 彼女は謝った。
 もしかしたら、自分の所為で傷ついた人がいるのかもしれない。
 そう思うと、謝れずにはいれなかった。
「大丈夫。皆、平気だよ」
 海音が答える。
 そう言われて、癒月は何かが頬を伝ったのを感じた。
「本当に…ゴメン…!!」
 涙が溢れて止まらない癒月を、慰める海音とフェイ。
 と、其の時。

 ピイィィィ!

 とホイッスルが鳴った。
「此処で試合終了〜! 4−4で、両者引き分けだぁ!!」
 矢嶋の声が鳴り響く。
「…そういえば」
 皆、どうなってしまうんだろう。
 癒月は、闇焉から言われた事を思い出す。
——勝とうが負けようが、このチームは『死』ぬんだよ
 彼女は知らず知らずの内に、破壊死書をぎゅっと握っていた。
 ようやく、涙が出なくなり始めた頃。
 闇焉が癒月の前に現れ、耳元で囁いた。
「——助けてもらった借りに、こいつ等は生かしてやるよ」
 そう言って、闇焉は消えた。
「…良かった…!!」
 何はともあれ、ナイトメアのメンバーは助かったのだ。
 癒月は一人、違う意味で歓喜に震えていた。