二次創作小説(新・総合)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.88 )
日時: 2013/09/10 21:30
名前: 風龍神奈 (ID: bmqtkXtx)


 第9話 新たな勢力の出現

 破壊死書を狙う少年、聖煉闇焉が率いるチーム『ナイトメア』に辛くも引き分けにしたクロノストームは、雷門中へと戻っていた。
「フェイ! こっち!!」
 そう叫んだのは、現雷門——クロノストームのエースストライカー、月城癒月だ。
 彼女は一時期敵の許にいた事があるのだが、それは理由があっての事だった。
 その理由がなくなった彼女は、クロノストームへと舞い戻った。そんな彼女を、皆は迎えた。
 そもそも、彼女は自分の意思で抜け出した訳ではないのだ。だから、皆は温かく迎えた。
「行くよ! 真月影乱舞!!」
 放たれたLシュートが、誰もいないゴールへと突き刺さる。
「ナイスだ、癒月!」
 神童がそう声を掛ける。
「ありがとうございます!」
 癒月はそう返事すると、戻っていく。
「…癒月、強くなってないか?」
「そうだな。以前と比べて、かなり技が強くなっている」
 霧野と神童が、会話を交わす。
「それに比べて…俺達は…」
 霧野が若干俯き気味で、そう言った。
「——何言ってるんですか」
 だが、神童が答えるよりも先に、答えた声が一つ。
 さっきの会話に出ていた癒月だった。
「「癒月!?」」
 二人は彼女が目の前にいた事に驚き、声を上げた。
「? どうしたんですか?」
 癒月の目線が、何で驚いているんですか、と問うているようだった。
「い、いや…」「何も…」
 それぞれ答えるが、目が泳いでいる。
 癒月は怪訝そうな顔つきをしたが、理由が分かったような顔をすると、言った。
「…あっ、もしかして、私の事で?」
 そう言った瞬間、二人の顔が引き攣る。
 図星だったかと思いながら、癒月は言う。
「…舐めてたんですね、私の身体能力」
 更にぎくりと身を強張らせる二人を見て、勝ち誇ったような顔をする癒月。
「身体能力を舐めてはいけないですよ。——特に、元SSCのメンバーのね」
 くるりと踵を返しながら、癒月は肩越しに振り返った。
「ああ、さっきの言葉の意味ですけど。皆さん、そこらの他校より、強いですよ。何たって、——最強と称される未来のチームと戦ってきたんですからね」
 そう言って、癒月はくるりと一回転して、剣城から天馬へとパスされたボールを空中で奪った。
「あ、癒月!!」
「悔しかったら、取り返してよね!!」
 癒月はそのままゴールへと切り込む。
「…そうか」
 呟かれた言葉を聞いて、神童が霧野へと視線を向ける。
「俺は…俺達は、強かったんだな…」
 そう言って皆を見つめる霧野に、神童は。
「当たり前だ」
 ただ、その一言だけを言った。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.89 )
日時: 2013/09/10 21:31
名前: 風龍神奈 (ID: bmqtkXtx)


 ◆     ◆     ◆

「——そろそろ、攻め時かな」
 ひっそりとした森の中で、誰かの声が聞こえた。
「必ず、奴等は俺の手で葬り去ってやる。…だから、待ってろ、焔(ほむら)」
 誰かは、一瞬悲しそうな瞳をすると、そのままその場からいなくなった。

 ◆     ◆     ◆

 練習の合間の休憩タイム。
「ハァ、疲れた〜」
 片手にボトルを持ちながら、癒月が座り込む。
「いやいや。疲れてないんだろ? 癒月」
 その隣で、雨宮がそう訊く。
「…流石に技を連発したから、疲れているんですけど」
 実の兄に怒りを向ける癒月。
「…何なら、勝負でもする? どちらが一分間でより多くシュートを決めれるかで」
 雨宮が、恐怖の笑みを浮かべる。
 それに対し、癒月は。
「全然いいけど。絶対太兄には負けないから!」
 物怖じする事無く、雨宮の勝負を受けて立った。

 二つあるゴールの前に、それぞれ癒月と雨宮が立つ。
 周りには、大量にばら撒かれたボール。
「一分間で多くのシュートを決めた者の勝ちだからな。…ずるは無しだぞ」
「とっとと始めて下さい」
 癒月のそんな声が飛んできて、神童は若干肩を落としながらも言った。
「——始め!!」
 瞬間、猛スピードでボールがゴールへと吸い込まれていった。
 二人の見えない足捌きに、クロノストームのメンバーは、感嘆するばかりだった。
「あのスピードはありえないだろ…」
「何かもう、別次元の存在のような…」
「雨宮は10年に一人の天才、癒月は100年に一人の天才と言われた兄妹だからな。…だが、流石にあれは人の範疇を超えているぞ」
 霧野、フェイ、神童の会話。
「…それでいて、癒月は元SSCだからなぁ…。殆どの部分で、太陽に勝っていると思うんだけどなぁ…」
「けど? どういう事だ、フェイ?」
 フェイの言葉を聞きとめた霧野が訊く。
「癒月は——彼女は、はっきり言って、一部の感情がコントロール出来ないんです。その部分以外の感情は完璧なんですけど」
「一部の感情?」
「…でっかく言うと、負の感情です。癒月は、破壊死書をその身にさげているからか、負の感情が、コントロールしにくいんです。それは、破壊死書にとっては最高の餌となりうるから」
「…じゃあ、あの時のあれも」
「ええ。癒月が、感情をコントロール出来ない故に、呼び出してしまったんです。——だから、癒月の前だと、負の感情を引き出しそうな事はしないようにしているんです。…どうやら、終わったみたいですね」
 フェイがそう言って、ゴールに注目する。
 つられて、神童と霧野も、見る。
 ゴールに入れられた大量のボールが、山のように積み重なっている。
 僅差で、癒月が勝っているようにも思えた。
「…天馬、剣城。ボールの個数の確認に行ってくれ」
「「はい」」
 二人は二手に分かれて個数を数えにいく。
 暫くしてから、1や、4等の個数を数える声が聞こえてきた。
「神童先輩、太陽の数は200ぴったしでした」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.90 )
日時: 2013/09/10 21:31
名前: 風龍神奈 (ID: bmqtkXtx)

「癒月は250でした」
「そうか」
 神童はそう言って、癒月と雨宮を見た。
「ほらね! だから言ったでしょ、私が勝つって!!」
「次こそは負けないからな!!」
「次の勝負は受けないよー、だ!!」
「勝ち逃げとか…言語道断!!」
 二人の言い争いが聞こえる。
「ほらほら。そこまでにしておこうよ、癒月。皆、困ってるよ」
 フェイに宥められた癒月は、仕方なく黙り込む。
「…次勝負挑んできたら兄だろうがぶっ飛ばす…」
 等と言う言葉を吐いていたのは気のせいだと錯覚しておこう。
「まぁまぁ。ふたりとも、分かったんでしょ? 自分の実力」
「分かったけど…妹に負けると」
「太兄が勝つとかありえないし!」
 雨宮の言葉を遮って、癒月が言う。
「…癒月、次は覚悟しておけよ…」
 太陽が黒い笑みを浮かべながら、癒月に言う。
「太兄こそ、覚悟しときなさい。兄だろうが何だろうが遠くまでぶっ飛ばしてやるから」
 癒月も、同じく黒い笑みを浮かべながら、答える。
 そもそも、二人はこんなに喧嘩をしないのだ。
 何故なら、二人は生まれた時に引き離されたので、互いの存在を知らずに、育ってきた。からこそ、出会った当初はとても仲が良かった。
 このような喧嘩をしょっちゅう起こすようになったのは、二人の能力の差が原因だからだ。
 10年に一人の天才と、100年に一人の天才。
 そう謳われる二人だが、時代が違う。
 雨宮は現代だが、癒月は未来だ。現代と未来では、意味が違う。
 でも、二人はやはり兄妹だからと思っているのだろう。時折仲良くする姿を目撃する人もいたりした。
 が、喧嘩が起きる回数が増えたのには変わりは無い。
「…あーもう分かったから、喧嘩は止めようか?」
 一瞬、フェイの背後に、魔王の姿が浮かび上がった。
 それに吃驚した二人は、大人しく、はい、というのだった。

 ◆     ◆     ◆

「…此処が、稲妻町…」
 稲妻町の鉄塔広場近くの森の中に降り立った人物が一人。
「…俺の…憎き相手が…いる場所…」
 誰かは、そう呟くと、その相手がいる場所へと向かった。

 ◆     ◆     ◆


「よーし、練習再開するぞー」
 神童の言葉で、全員が動き出す。
 パス練、シュート練等、様々な練習を思い思いにしていくメンバー。
 だが。

 キィン———

 耳鳴りのような音がしたと思うと、その場で全員の動きが止まっていた。
「…え?」
「何で…?」
 その中で、癒月とフェイだけが、動けていた。
「——悪いな。お前等だけと話をしたかったから、時を止めた」
 その声と同時に、柱の影から、二人が知らない人物が出てくる。

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.91 )
日時: 2013/09/10 21:33
名前: 風龍神奈 (ID: bmqtkXtx)

 その人物は、異質な何かを放っていた。
 顔つきや体型等は、サッカー部の面々と余り遜色ない。だが、頭の上に巻かれている、真紅色をしたバンダナが、それを放っていた。
 其の人物の瞳も、同じような紅色の瞳。
「…貴方は誰?」
 癒月が若干声を低くしながら誰何する。
「…先にお前等の名が訊きたい」
 少年は、ただそれだけを言う。
「答えてくれない奴に名乗る名は無い」
 癒月がそう返す。
「…ふっ。まぁいいさ。調べはついてる」
 少年の言葉に、癒月達は違和感を覚えた。
「は…?」
「——お前等が、氷炎使いなのも、元SSCだという事も調べがついている。そして、一度、それを発動させていることもな」
 少年がすらすらと喋ると、驚きの声が返ってくる。
「あんたがどうしてそんな事を…!?」
「…覚えていないのか」
「覚えていない…?」
 少年はサッカー部の面々を一瞥すると、言った。
「——俺の名は洸(ほのか)。お前等に、大事な妹を殺された男だ」
 少年——洸はそう名乗る。
「は…? 私達、そんな事してないけど」
「したんだよ。詳しく言えば、お前等がまだSSCに在籍している時にな」
「…何言ってるの?」
 癒月が訳分かんないという体で洸を見る。
 だが、彼を見つめた瞬間。
 記憶が、二人の中でフラッシュバックした。
「「…っ!?」」
 現れるのは、誰かが目の前で、血塗れで倒れている映像。その横に、目の前にいる人物がいる。
「…何…これ…!?」
「…どうやら、思い出したみたいだな。——本当の事を言えば、直接手を下したのはお前等じゃないが、俺はお前等に用事があってな」
「な…によ…」
 脳裏で点滅していく記憶の映像と戦いながら、癒月は訊いた。
「——お前等の持っている破壊死書をよこせ。それを使って、俺は妹を復活させる」