二次創作小説(新・総合)
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.96 )
- 日時: 2013/10/03 16:56
- 名前: 風龍神奈 (ID: d8lWLfwU)
第11話 攫われた癒月と霧野
稲妻町にある雷門中のサッカー棟では、いつものように練習が続いていた。
「天馬! こっち!!」
フェイにそう言われ、天馬はパスを出す。
そこへ、霧野が必殺技を出した。
「ディープミストV3!!」
だが、辛うじてフェイはそれを躱す。
そして、アームドとトランスを同時展開して、
「新王者の牙!!」
を放った。
だが。
「ミキシトランス劉備!! 新大国謳歌!!」
信助によって止められた。
「…と、止められた〜!」
信助は何故か喜んでいた。
「…僕も若干弱くなったみたいだな…」
喜ぶ信助とは反対に、フェイは悲しそうな表情をしていた。
「それはないよ」
と、いつの間にか近くに来ていた癒月が、フェイにそう言った。
「信助が強くなっているだけで、私達は弱くなっていない。お互い、成長しているんだよ」
癒月が雷門メンバーを見回しながら言った。
「そっか。…有り難う、癒月」
「ううん。私こそ有り難うだよ」
癒月の言った言葉の意味を、フェイは理解できなかった。
◆ ◆ ◆
水滴が落ちる音が一つ、響いた。
「…っ」
その音を聞いて、癒月ははっと目を開けた。
「…此処は…」
周りを見回すが、完全な石造りの部屋だった。
叩いたり蹴ったりしても、びくともしなさそうなほどの。
思わず癒月は立ち上がろうとして、だが何かに引っ張られたような感覚がして、足元と腕を見た。
「………」
彼女は沈黙した。
やばい、確実にやばい。
癒月の左足には枷が嵌められ、それの鎖は、すぐ後ろにある壁のあいた穴に嵌め込まれている鉄格子に繋がっており、両手首は後ろで縛られていた。
(…この状況はまずいよなぁ…。でも、逃げれないし…)
手首を縛られている以上、印を組む事が出来ないので、氷炎使いの能力も使えないのだった。
癒月がどう脱出しようか思案している時。
突然、目の前に洸が現れた。
「…よぉ、気分はどうだ?」
「…あんたの所為で、最悪よ。しかも、私を使って私を捕らえるとか、悪趣味な事で」
癒月が皮肉気に言った。
「お前さ、今の立場分かってんの? 俺の機嫌一つで、お前は死ぬんだぜ?」
彼女の言葉にむかついたのか、洸がそう言った。
「分かってるわよ。だからこそ、こんな態度をとってるんでしょうが」
癒月がじっと洸を睨み付ける。
「…まぁいい。お前がそんな態度をとっていられるのも、今の内だけだからな」
「…は? どういう事?」
洸の言葉の意が分からなかった癒月が、問うた。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.97 )
- 日時: 2013/10/03 17:13
- 名前: 風龍神奈 (ID: d8lWLfwU)
「——それは、こいつの事だよ」
洸が指を鳴らす。
瞬間、癒月の隣に、同じように縛られた霧野が現れた。
「き、霧野先輩!?」
「ゆ、癒月? どうして…」
癒月に気付いた霧野が、何故此処にいるのかを問おうとした時、
「どうしても何も、お前等二人は大事な捕虜だ。あいつ等を、呼び出す為のな。
——精々、奴等が来てくれる事を祈るんだな」
洸はそう言って消えた。
◆ ◆ ◆
「…皆、大変だ!!」
雷門メンバーが休憩していた所に、神童が青い顔をして飛び込んできた。
「どうしたんですか? 神童先輩」
剣城が神童に訊いた。
「…霧野が、何処にもいないんだ…!!」
「えっ…!?」
「霧野が行きそうな場所やいそうな場所を全て捜したが、何処にもいなかったんだ。…一体、何処に言ったんだ、霧野…」
最後の言葉は、涙声だった。
「…皆で、霧野先輩を捜そう」
雷門メンバーの誰かが言った一言に、全員が頷き、ばらばらに散れていく。
だが。
その中で、癒月は一人、嗤っていた。
(…馬鹿ね、皆。霧野先輩じゃなく、私も攫われている事に気付かないとは)
そして、癒月は、違う方向に去った。
◆ ◆ ◆
ただ単に、時間だけが過ぎていく部屋で、癒月と霧野は、会話をしていた。
「…霧野先輩は、いつ此処に?」
「いつの間にか、来てたんだ」
「…もしかして、私に攫われました?」
「!」
霧野が瞠目した。
「やっぱりですか…。…私は、何処まで使われるんだろうな…」
後半を聞こえないように言いながら、癒月は項垂れた。
自分が攫われたのも、霧野先輩が攫われたのも、全部自分の所為だ。私が、洸にもっと気を付けていれば、
こんな事にならなかったのに。
そう考えていくうちに、癒月はふと破壊死書を見て、慌てて思考を変更した。
負の感情を持ってしまったら、これが蠢いてしまう。
そんな癒月の様子に気付かず、霧野はある事を聞きたくなり、訊いた。
「なぁ、癒月」
「何ですか?」
「——癒月には、彼氏がいたりするのか?」
「!??」
癒月が一瞬赤面して、すぐ表情を元に戻した。
「…何で、そういう事を…?」
「聞きたかっただけ」
「あ、そうですか」
慇懃な態度をとった後、癒月は一瞬躊躇った。
話しても、大丈夫だろうか。
複雑な計算を数秒で終わらせた結果、話しても大丈夫という結果が出たので、癒月は話すことにした。
「霧野先輩」
「何だ? もしかして、ほんとにいたりするのか?」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.98 )
- 日時: 2013/09/18 22:40
- 名前: 風龍神奈 (ID: qWu1bQD1)
「いたりしませんよ。——だって、氷炎使いはそれは持てませんから」
「…は?」
癒月の言葉に、怪訝そうな顔を浮かべる霧野。
「氷炎使いの、片方——氷を継承した人は、恋愛感情が持てないんです。…とは言っても、誰かを好きになるのは出来るんです。ただ、両思いになれないんです。何故なら、——破壊死書が、嫌うからです。破壊死書は負の感情が大好き。それ以外の感情は、『イラナイ』と思っているんです、これは」
手が使えないので、顎で示す。
「だから、氷を継承した人は——私は、人を、誰かを、好きになっても、片思いでしか、いれないんです。しかも、私は、破壊死書をこの身にさげている限り、何処かでか死ぬ。結局、先代や祖先と同じ道を、辿る運命何です。」
一粒の水滴が、癒月の俯いた顔から落ちる。
「——何故、そう決め付ける」
暫く黙って話を聞いていた霧野が、そう言った。
癒月が涙に濡れた瞳を、霧野へと向ける。
「俺には、氷炎使いの事とか、破壊死書の事はよく分からない。けど、それ等が勝手に決め付けた規則(ルール)の中で生きていくとか、絶対に出来ない。俺だったら、それ等に全部抗うさ」
霧野はそう言って笑った。
「それに、皆で楽しく生きた方が良いのに、何で癒月はそうやって先代と同じ道を歩もうとするんだ? 何か、理由でもあるのか?」
矢継ぎ早に質問を続ける霧野。
「…理由は、特にありませんよ。ただ、先代と同じ道を歩まなければならない運命なだけで…」
癒月は一瞬躊躇った。
氷炎使いや、破壊死書について詳しい事を知らない人に、自分の本音を、吐露してもいいんだろうか、と。
だが。
「——ちゃんと、あるんだろう? 自分の、本当の気持ちは」
霧野にそう言われて、癒月は決心した。
「——本当は、私、生きたいんです。皆と楽しく過ごしたいんです。でも、でも、それを、破壊死書が、許してくれない。私は、もっと、自由に生きたいのに、破壊死書が、氷炎使いが、それから遠ざける。私はただ、自由に、皆と、楽しく過ごしたいだけなのに…——」
癒月の泣きながらの本音を聞いて、霧野は思った。
氷炎使いがどうとか言う前に、癒月も一人の女の子何だ。黄名子と同じような。
「…だったら、それをどうにかすればいい」
「…え?」
霧野の言葉の意が分からなかったのか、癒月が顔を向ける。
「…まさか、破壊死書を…」
「多分、そのまさかだな」
「そんな!」
癒月が想像していた言葉とあっていたのか、霧野がそう言うと、癒月は驚愕の表情を浮かべた。
「これを……するなんて…そしたら、代々の氷炎使いに、申し訳が…」
「申し訳以前に、癒月は普通に過ごしたいんだろう?」
「そう…ですけど」
「なら、氷炎使いの役目を、癒月達の代で終わらせたらいいんじゃないか?」
「それは駄目です!!」
癒月が大きい声を出した。
「氷炎使いの役目は、破壊死書の守護。例え、これを、封印しても、私達はその傍にいなくてはならない。
つまり、どうしようがこうしようが、私達氷炎使いは破壊死書から逃れられない存在何です」
癒月が、虚空を見つめるように言った。
「それに…氷炎使いの存在を作り出したのも、破壊死書ですから」
「…それは、どういう…」
「——これから先は、時が来た時に話します。何故、破壊死書が作られたか、何故、氷炎使いという役目がうまれたか…。全て、話します」
癒月はそう言った後。
「…どうやら、戻ってきたみたい…」
彼女の言葉の語尾が宙に溶けて消えた瞬間、洸が現れた。
◆ ◆ ◆
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.99 )
- 日時: 2013/09/18 22:46
- 名前: 風龍神奈 (ID: qWu1bQD1)
「葵、その…皆に付けてるGPSに、反応ないの?」
「…ないみたい。どうやら、電波が遮断されている所に、いるみたいだよ」
「そっか…。ありがと、葵」
「ううん」
天馬が葵の言葉を頼りに、先程まで捜していた場所とは違う方向に向かう。
ふと、葵は後ろを振り返った。
「あれ…? あれって、癒月…だよね?」
癒月が、一人で何処かへと向かっていく。
嫌な衝動に駆られた葵は、こっそりと癒月の後をつけていった。
暫く歩いていた癒月が立ち止まったのは、サッカー棟に程近い、林の中だった。
葵は彼女に姿がばれないよう、木の陰に隠れて様子を伺う。
懐から何かを取り出した癒月は、それを目の前に放った。
と同時に、目の前に映像が映った。
『…どうだ、上手く出来ているか、カオス』
「はい。今の所、誰も月城と霧野が攫われた事に気付いておりません」
(どういう事…!?)
癒月——カオスと呼ばれた癒月の偽者の言葉に、葵は驚愕する。
「それに、皆は私が偽者だという事にも気付いていないようです」
『そうか。…それで、全員分、取ってあるんだよな?』
「ええ。全て、サンプルを取っております」
『分かった。——では、そろそろ招待の準備を始めるか』
「了解しました。其方に、送りたいと思います」
『ああ。…後は任せたぞ』
「はっ」
映像は消え、カオスが右手に持っていた物も消えた。
(やばい…。皆に伝えないと…!)
葵はばれないようにそこを抜け出すと、携帯を取り出し、全員にメールを送った。