二次創作小説(新・総合)

chapter 0:re プロローグ ( No.2 )
日時: 2024/08/20 13:05
名前: kuzan (ID: N.hBywMC)

雲ひとつない晴天。
それはまるで、私の新しい門出を祝ってくれているかと思えるくらい、気持ちのいい日だった。
心地の良いそよ風が吹き、桜の花びらがひらり、ひらりと優雅に舞う、一見なんでもない日に見える"特別な日"。

私は、目の前にそびえ立つ巨大な建物を見上げる。
そう、その巨大な学園は、都会のど真ん中の一等地にそびえ立っていた。
まるで、そこが世界の中心でもあるかのように……。





『私立 希望ヶ峰学園』





そこは、あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げることを目的とした、政府公認の超特権的な学園。
『この学園を卒業すれば、人生において成功したも同然』とまで言われている。
何百年という歴史を持ち、各界に有望な人材を送り続けている伝統の学園らしい。
国の将来を担う"将来"を育て上げることを目的とした、まさに、"希望の学園"と呼ぶにふさわしい場所。

そして、この学園に入る条件は二つ。

1つ、“現役の高校生であること”
2つ、“各分野において一流であること”

新入生の募集は一切行っておらず、学園側にスカウトされた生徒のみがその入学が許可される。
そんな日常生活とはかけ離れた、とんでもない場所の前に、私は立っている。
もちろん冷やかしで簡単に来れるような場所じゃないし、何度も間違いないか確認した。
だけど、実際に目の前にすると、本当に自分がここにいていいのか、と思ってしまう。
しかしそんな考えを自分の手の中にあるパンフレットと自分宛に届いた招待状が否定する。してくれる。

それは先週、通っていた学校から帰ってきた私の元に届けられた一通の手紙だった。

前田まえだ 言菜ことな
あなたを超高校級の幸運として我が学園の生徒としてお迎え致します。
希望ヶ峰学園 学園長』

そう、私は今、何度でも言うけど!何かの間違いかと思うくらいラッキーで喜ばしいことに超高校級の幸運としてこの学園の前にいるんだ。

「本当に…。本当に間違いじゃ、ないんだよね。」

寒い訳では無いのに、身体全体がガタガタと震える。
傍から見れば情けない姿だが、想像していたよりも遥かに大きい。
恐らく、世界各国でここまで大きな教育機関は存在しないだろう。

…そんな情けない私の自己紹介をしておこうと思う。

私の名前は、前田まえだ 言菜ことな
学校が終われば友達と一緒に帰路につき、その帰り道にカラオケに寄ったり、タピオカを飲んだりしている、どこにでもいる普通の女子高生だよ。
何かの部活に所属しているわけでもなかったし、勉強だって運動だって平均くらい。
…いや、むしろ平均より少し下かも…。
それ以外に何か特徴を言えと言われても困っちゃうし、出て来ない。
そんな普通の女子高生が、凄い才能を持つ人達の中に投げ入れられる気分はまるで動物園のライオンの檻に1人で入れられる気分なんだろうなぁ…
なんてくだらないことを考えている。
それはそうだ。
今回私と勉学を共にする、79期生の面々は、とんでもない才能を持つ人ばかりなんだ。

例えば、どんな荒れたクラスでも取り纏め、一瞬で静かにさせるほどのカリスマ性を持つ、”超高校級の学級委員長”

例えば、未発見の希少な細胞を発見し、それを医療機関に寄付すると、難病指定されていた病気の治療に貢献した”超高校級の科学者”

例えば、東京裏社会に君臨し、夜の街を暴力と金で手に収めた、”超高校級のマフィア”

他にも『体育委員』『社長』『ソムリエ』『ハッカー』『バレー部』『Vtuber』『音楽家』『侍』『美容師』『設計士』『漁師』と、分野はバラバラだけど、各分野の超一流達が揃っている。

「うん!悩んでても仕方ないよね…!
よし!行こう…!」

自分を鼓舞しながら私は勇気を持って一歩踏み出す!
これから希望の道が待っているんだ!

そう、思った矢先。

「…あ………れ……………?」

門への一歩を踏み入れた瞬間、視界がぐにゃり、ぐにゃりと曲がり、足取りがおぼつかなくなる。
それはまるで、遊園地のからくり屋敷の中にある、床が揺れる部屋のようだ。
揺れる視界の中、耳障りな誰かの高笑いが聞こえたかと思えば、私の意識がシャットダウンしたかのようにプツリ、と切れる。

このとき、気づくべきだったのかもしれない。
いや、気づけなかったんだ。
私は超高校級の幸運なんかじゃなくて、
”超高校級の不運”だったってことを。



おかえりなさい、もうひとつの絶望学園
_Welcome Back To Another School

chapter 0:re プロローグ ( No.3 )
日時: 2024/08/19 20:30
名前: kuzan (ID: UIQja7kt)

「あ……れ………。」

私は腕と顔に感じる硬い感触に気が付き、ゆっくりと目を覚ます。
体がダルい。頭が痛い。
なんだ、夢か。いつも通り授業中に居眠りしてただけで、希望ヶ峰学園に入学するなんて嘘か。
なんて、寝ぼけながら目を擦る。

___違う。ここは自分の居た学校じゃない。
黒板に机、ロッカー。これだけ見れば普通の学校だ。
しかし、教壇に刻まれている希望ヶ峰学園の校章がこれは夢じゃない、と現実へと引き戻す。

「…てことは…。
やった!本当に希望ヶ峰学園に入れたんだ!
きっと校門で緊張しちゃって倒れちゃったんだ!
それで、誰かがここまで運んでくれた感じかな?」

教室内をぐるり、と見渡す。
だが、そこには誰も居ない。
それどころか、少し違和感がある。
…もう少し教室内を詳しく見た方が良さそうだ。

ー探索開始ー

【カメラとモニター】

防犯だろうか、大きな監視カメラとモニターが黒板を挟んで対極に備え付けられている。

「さすが希望ヶ峰学園…。
防犯の規模も違うなぁ。
これも希望の才能を護る為なのかな。」

【鉄板】

「えっ!?何これ…鉄板!?
ここ、本来窓が在るべき場所だよね…?これも防犯の為、かな?」

とはいえ、明らかにやりすぎだ。
私は思いっきり鉄板を取り付けている大きなボルトを回そうとしてみる。

「分かってたけど…うん!無理!」

こんなところで勉強しろ!と言われても正直気分が乗らないし、暗いのは嫌だ。
後で苦情を入れよう。

【机】

先程まで自分が突っ伏していた机だ。
ヨダレの跡がべっとりと就いている。
…まさか入学して早々に居眠りをしてしまうことになるとは…。

「…ん?これは?」

トホホ、と思いつつよく机を見てみると、何かが書かれている小さな便箋と手書きで校内のマップが書かれた紙を見つける。

「私をここまで運んでくれた人からの伝言かな…?
なになに…?」

便箋を手に取り、内容に目を通す。
…お世辞には綺麗とは言えない文字で、小学生が書いているかと思いつつ、読み進める。

『にゅーがくあんない!

新しい学期が始まりました!
心機一転、これからはこの学園内がオマエラの新しい世界になります!
8時になりましたら入学式を体育館にて行いますので、とっとと体育館に集まってください!』

「何これ!?
『オマエラ』『とっとと』って…。
上から目線だなぁ…!」

内心、苛立ちを覚えつつ、希望の学園だから一般人の自分には辺りが強いのかもしれないと、正当化し、落ち着くことにした。

【時計】

時刻は8時05分。
私が学園に入ったのが確か『7時10分』だったから1時間近く寝ていたことになる…って…

「8時5分!?
初日から遅刻はマズいって!」

私は急ぎで教室から飛び出し、手書きのマップを見ながら体育館へと向かう。
そして体育館にたどり着き、締め切られているその扉をバン、と勢いよく開ける。

「おうおう!
最後の一人が来たみたいだぜぃ!」

髪が上に逆立っており、アロハシャツの上に学ランを羽織っているガタイのいい茶髪の男性が私を見て周りの人物に声をかける。

「デカい声を出さなくてもわかる。
耳がキンキンして不快だ。」

不機嫌そうに腕を組み、どこか見下すような表情を浮かべるのは、センターで分けられた髪型で、メガネをかけている高そうなスーツを着た、黒髪の男性だ。

『でもでも!
これで全員っぽいよね!
アタシら15人!事前情報エゴサ通り☆』

約165cmくらいはあるだろうモニターから胸元が強調された黄色とピンクを基調としたアイドルのような衣装に身を纏い、わたわたと忙しそうに画面の中を動き回る、金髪ツインテールの…3Dモデルの女性がモニター越しの音声で話す。

「そんなことよりあなたっ!」

そう言いながら眼前に迫るのは、赤いカッターシャツに黒色のベストを身に纏う、黒髪ロングで睨みつけられたら背筋が凍るような赤い目をした女性がビシッと指を指して話しかけてくる。
その制服に付けられた腕章には、『学級委員長』。

「8時には到着しなさいと入学案内には書かれていたハズよっ!
どうして遅れてしまったのか、30文字以内で答えなさいっ!」

ズイッ、と私の顔にその女性が顔を近づけたところで、肩まで伸びる海藻のような白髪に(矛盾しているが)黒の白衣、中には炎が燃えるかのようなプリントがされたシャツを着た男性が女性の肩に手を置く。

「分析した結果、明らかに異常事態だ。
今俺らで揉めてても意味が無い。
自重しろ。」

鋭い眼光でその男性は女性に語りかける
するとそれを聞いた彼女は、渋々と言ったように身を引く。
そして、そのまま男性が続ける。

「これでようやく15人揃った。
改めて、身の丈を明かし合おう。
親睦を深めるために。」

「あっちょっと!それ私の役目よっ!」

白髪の男性の言葉に呼応するかのように、14人の高校生は私の眼前に並び始める。
その様子はどこか圧巻であり、迫力がある。

…これが、これから学園生活を共にする、超高校級の生徒達……!

ー探索開始ー

chapter 0:re プロローグ ( No.4 )
日時: 2024/08/20 16:14
名前: kuzan (ID: J85uaMhP)

まず私は最初に声を上げたアロハシャツの男性に声をかける。

「おぅおぅ!最初にオレっちとはお目が高いぜぃ!
うーっす!オレっちは龍崎りゅうざき 哲平てっぺいってんだ!一本釣りなら任せなぃ!
よろしく頼むぜぃ!」

ー超高校級の漁師ー
リュウザキ テッペイ

龍崎 哲平…。
漁船、一本丸を相棒とし、これはこだわりなのかただ単に何も考えてないのか、安い釣竿1本でどんな魚でも釣り上げてしまう、超高校級の"漁師"だったっけ。
彼によって発見された新種の魚はどうやら20種類にもなるらしい。
…いやスゴすぎ。

「よろしくね。私は前田 言菜。
一応、『超高校級の幸運』で入学できたみたい。」

「へぇーっ!超高校級の幸運!
そいつァラッキーだったねぃ!
って事は、言菜っちを隣に乗せたら、超激レアの激ヤバの激アツ魚が釣れちまうっつー事かぃ!?
今度一緒に船に乗ってくれよ!一生のお願いだぜぃ!」

龍崎クンが両手をパン、と合わせたかと思えば、私に向かって深く頭を下げる。

「え、ええ!?
私なんか連れてってくれるの!?
私なんも出来ないよ!?幸運って言っても自信ないんだから!?」

困惑し、1歩、また1歩と後退りする私を、龍崎くんがそのままの体制で少しづつ距離を潰してくる。
怖くなった私は逃げるように別の人の所へと向かうことにした。

逃げた先は、見るからに高級そうなスーツを見に纏い、腕を組みながら明らかに私を見下しているような視線を向けるセンター分けの男性だ。

「私の名は成城なるき 朋嗣ともつぐ
君とは存在している次元が違うのだよ。」

ー超高校級の社長ー
ナルキ トモツグ

成城 朋嗣…若くして名を轟かせる会社、『成城グループ』を立ち上げ、今まで誰もしてこなかったような事業をして国内外シェアNO1にわずか1ヶ月足らずした、超敏腕社長だったっけ。
…ただ、偉そうな態度が玉に瑕、とか。
うん、今実際に会ってみてわかったよ。

「超高校級の幸運…。
フン、たかがくじ引きを引かれ、選ばれた程度の無能でしかないな。
他の連中なら私の会社にスカウトしても良いと思っていたが…
きみは必要無さそうだな。」

成城クンは嘲笑うかのように嘲笑し、軽蔑するような目で私を見る。

「でも、運が味方してくれることだってあるかもしれないよ?
そういう経験ない?成城クンだって何も実力だけで会社を立ち上げた訳じゃないでしょ?」

少しイラッとしちゃったから、私は成城クンに平然とした態度でこう返す。

「…チッ、よく口が回る無能だ。」

さすがに頭に来たのか、それとも思うところがあったのか、今までの態度とは一変し、心底腹立たしそうな表情を浮かべ、そっぽを向いてしまった。ヨシッ。
私はガッツポーズをしながら、次の人の元へと向かうのだった。

次の人は……
人と言っていいのか正直分からない。モニターの中で楽しそうにいそいそと動く彼女は、モニターの前に来た私を見つけると、手をブンブンと振る。

「ヤッホー☆
アタシは、雲上 きらり!
超高校級の天才美少女VTuberでーっす!」

ー超高校級のVtuberー
クモウエ キラリ

雲上 きらり…。
事務所に所属しない、いわゆる個人勢Vtuberで、その魅力的な綺麗な声で容赦なく紹介した商品を切り捨てて行くその様子が爽快だと話題になります、デビューしてからわずか10日たらずで100万人、更には1ヶ月で1000万人登録者が集り、トップYo!Tuberの仲間入りになったという超売れっ子だ。
そしてかく言う私も、彼女のリスナー、『きらりすなー』だったりする。

「雲上 きらりさん!
いや!きらりちゃん!えっとその!
その綺麗な声と可愛らしい声が好きっていうか!
動画も配信ももちろん追ってて!
えっとえっと!あ!あの動画好きだった!えっと、『【美味しいと話題!?】キムチとコーヒーがコラボした《キムコーヒー》【そんなわけない】』!
容赦なくバッサバッサ切り捨てていく感じが爽快で!それからそれから!」

『オーケーオーケー!
落ち着いてオタクちゃん。
つまるところ、アタシのこれが欲しいってことね☆』

私が興奮してモニターの前ではしゃいでいると、目の前のモニターの中央部分に穴が開き、私の名前が書かれたきらりちゃん直筆のサインが出てくる。

「え、凄っ!?
これどうやったの!?」

そのサインを受けとり、目をキラキラさせていると、きらりちゃんが得意げに胸を張る。

『このモニターはアタシ専用に作ってもらったんだ!街をこれで散歩しててもオタククンちゃん達にファンサできるようにね☆
そこに超高性能AIVtuberであるアタシの超高性能コンピュータを繋いでなんでも出来ちゃうって訳!
だからVtuberに中身なんていないんだよ。』

そう、この雲上 きらりちゃんは人工知能。いわゆる『AI』と呼ばれる代物で、隔てなく行うファンサで有名でもある。
そう、中身なんて居ないんだよ。
もっと話したい気持ちを胸に、私は次の人の元へと向かう。

黒髪のロングヘア、赤シャツに黒ベストを来た腕に学級委員長の腕章の女性だ。

「起立!気をつけ!礼!
おはようございます!」

彼女がビシッ、と綺麗な姿勢を取り、斜め45度にさっ、と頭を下げる。

「お、おはようございます!」

それに釣られ、私も頭を下げる。
それを見て満足したような表情を彼女が浮かべれば、腰に手を当て、話し始める。

「私は超高校級の学級委員長!
蛍雪けいせつ まなよっ!
よろしくねっ!」

ー超高校級の学級委員長ー
ケイセツ マナ

蛍雪 学…。
どんな荒れ果てたクラスでも一瞬で取り纏め、ハキハキと話すその声と容姿端麗な事を利用し、一斉に注目を集めることを得意とする、超高校級の学級委員長…。
もちろん勉学も運動神経もバツグンで、常に全国模試ではトップクラスにいるとか…。
あはは、私とは真反対の人だ…。

「前田さん、だったっけ?
アナタは勉強は好き?」

蛍雪さんはふわり、とその長い髪を後ろに流しながら私にそう問いかけてくる。
きっと私はその時、露骨に嫌な顔をしたのだろう。
それを見ると彼女はニコッと笑う。

「大丈夫!私のクラスになるからにはきっと好きになってるから!
たっくさん一緒に勉学に励もうっ!」

「うへぇ…勉強苦手なんだけどぉ…。」

私は再び嫌な表情をうかべる。
すると蛍雪さんは私にサムズアップすると、続ける。

「大丈夫!勉強が好きな人なんて、最初は誰もいないんだからっ!
私はこれでも何人も勉強を好きにさせてきたから!安心して!」

ニッコリ、と綺麗な笑顔を見せる彼女はとても美しく、同性の私が見とれてしまうほどだった。
…なるほど、これが超高校級の学級委員長…。
感心しながら、私は次の人の元へと向かう。

黒衣を見に纏い、フードが着いた炎が燃えるようなプリントがされたシャツを来た白髪の男性は、前に来た私に気がつくと、目を合わせてくる。
なんというか、不思議な雰囲気を持った男性だ。

「俺は呉霧くれきり ほむら。
しがない科学者をやらせてもらってる。」

ー超高校級の科学者ー
クレキリ ホムラ

呉霧 ほむら…。
未発見の希少な細胞を発見し、医療機関に提供したことで、大幅に次の段階へと移動し、医療に大きな貢献をした、超高校級の科学者、だったっけ。
他にも、南極に存在する山脈の中にある古代遺跡の調査に同行したり、新種の恐竜の化石の研究に協力し、恐竜復活の論文を発表したことで有名になったとか…。

「…分析した結果、俺達が置かれたこの現状…。
とても違和感がある。
前田、この学園に足を踏み入れた際、違和感などなかったか?」

呉霧クンは、手を口元に当て、何かを考えた様子をしている。

「そういえば…!
立ちくらみというか、足元がおぼつかないというか…!
それで倒れちゃったんだよね。」

私の目をじっくり見ていた呉霧クンは、それを聞くとため息を漏らす。

「…やはりか。
ここにいる全員が同じ現象。明らかに異常事態に変わりは無い。
悪い。少し頭を整理する。離れてくれないか。」

呉霧クンはそのままの体制で考え込む。
なんというか、とても真面目な人だ。
私は邪魔にならないようにそっとその場から離れた。

chapter 0:re プロローグ ( No.5 )
日時: 2024/08/21 20:23
名前: kuzan (ID: 6kBwDVDs)

呉霧クンの元から離れた私は、次に目に入った赤い革ジャンに黒のパーカー、頭には黒のハットを被った糸目の男性に話しかける。

「初めまして。
ボクは我津われつ 絢也けんやと申します。
どうか仲良くしてくださいね。」

ー超高校級のマフィアー
ワレツ ケンヤ

我津 絢也…!
東京の裏社会に名を轟かせる泣く子も黙るマフィア組織『曇飛樹どんびき』を率いるボスだったっけ…!?
この歳で1組織を圧倒的な力で纏めて極道と大規模な戦争を起こした結果、死者を出さずに壊滅させ、繁華街『紅嵐町くらんちょう』をナワバリとして収める超危険人物!
だと思ってたけど…

「思ったより和やかな雰囲気だな、なんて思ってます?」

我津クンがニヤリ、と妖しい笑みを口元に作ると、私の考えていることをそのまま口に出した。

「えっ!?
なんでわかったんですか!?」

私は恐怖のあまり、同級生なのに敬語を使う。
そんな私を見た我津クンは「ぷっ…!」と吹き出す。

「あっははははは!
そんなにかしこまらないでください。アナタの考えていることを言い当てれたのは、幼少の頃から特殊な環境で育ってきた故に、人の心情を少しだけ理解出来るだけです。
ここにいる間は皆さんと同じ一生徒として過ごすつもりです。
ここではマフィア『曇飛樹』のボスとしてではなく、アナタ達のご友人としてお話させてください。」

そう語る彼の口調は驚く程に穏やかで、優しく、どこか惹き込まれそうな雰囲気があった。
これもマフィアのボスとして培ってきた経験、なのかな。
そう思いながら次の人物の元へと向かう。

先程とは打って変わって驚く程穏やかな雰囲気。
白いハットに茶髪のおさげ、制服は鮮やかな黄緑色のブレザーを来た女性に話しかける。

「初めまして!
私は藍川あいかわ ねいだよー!
これからよろしくね♪」

ー超高校級の音楽家ー
アイカワ ネイ

藍川 嚀…。
世界中を飛び回り、各国で演奏会を開くほどの実力を持つ、フルート奏者、だったかな?
その演奏会のチケットは世界のどこで行われようがネットで販売を開始した瞬間、一瞬で売り切れになるほど、1度聞けば絶対に忘れられない音色らしい。
実際調べている時にどんな音色が気になった私はYo!tubeで検索をかけて聴いてみた結果、一瞬で眠くなってしまった。
ネットで聴いてみた結果があれなら、実際に聴いたらどうなるのだろう…。

「ねぇねぇ!前田ちゃん!
音楽好き?」

藍川さんが眼前に迫り、無邪気に聴いてくる。

「ええっと…
好きか嫌いかで聞かれたら…まぁ好きかな。
でも流行とかに疎いほうでさ…あんまり聞かないというか…」

私は少し申し訳なく思い、彼女から目を逸らして答える。
が、藍川さんはそれに合わせて顔を動かして来、しっかり目を合わせてくる。

「大丈夫だよ!
学ちゃんと似たようなこと言うけど!
私といれば嫌でも好きになっちゃうんだから!楽しみにしてて!」

そう言いながら彼女は私のことを抱き締める。
距離感どうなってるの…!?
そう思いつつ、彼女からふわりといい匂いがした。
しばらく抱き合って離れると、私は次の人の元へと向かう。

少し大人な雰囲気を感じられる彼女は、ピンク髪のショートヘアで、耳には金色のピアスをつけており、ピンクのカッターシャツ、チェックのスカートから覗く足にはポーチが取り付けられている。

「あら、初めまして。
私の名前は神切かみきり あきよ。
以後よろしくお願いするわね。」

ー超高校級の美容師ー
カミキリ アキ

神切 秋…。
器用な手先で髪を整え、最後にはどんな人にもぴったり似合う髪型にしてしまう天才美容師、だったっけ。
高校生にしてもう既に自分のサロンを持ち、毎日予約でいっぱいになっていると言う。
それでも美容サイトの口コミは悪いコメントがなく、常に☆5を維持し続けているらしい。
うへぇ…同じ高校生とは思えないよ…。

「………。」

自己紹介が終わった後、神切さんは、じっ、と私の髪を凝視する。

「え、えっと…。」

困惑する私を差し置いて彼女は私の周りをぐるっと1周回り、やっと口を開く。

「前田さん、アナタ、髪どこで切ってもらってるの?
…いや、答えてもらわなくても分かるわ。
格安の床屋で切ってもらってるでしょ。千円くらいで切れるところ。」

「えっ!?
なんでわかったの!?」

私は分かりやすく驚く。
だって私はいつも神切さんの言った通り、駅の地下やショッピングモールの隅っこの方にある1000円で15分くらいで髪を切ってもらえる床屋さんを利用しているから!
呆気にとられている私の反応を見て神切さんが頭を抑える。

「はぁ、ダメよ。せっかく可愛いんだから、髪型もちゃんと整えなきゃ。
ねぇ前田さん。
今度私に整えさせて。絶対に。」

そう言って彼女は目を見開き、私を睨み付けんばかりに眺める。
髪型の事になると熱くなっちゃうのかな…?
内心嬉しく楽しみに思いつつ、私は次の人の元へ向かう。

龍崎クン程では無いが、がっちりと鍛え上げられた肉体。パツパツの学ランの中には体操服を着込んでおり、その下は半ズボンを来た少し茶色が混じった黒髪のショートヘアの男性がそこには立っていた。

「おーっす!
オイラの名前は田川たがわ 大雅たいがって言うんだよね。
よろしくだよね!」

ー超高校級の体育委員ー
タガワ タイガ

田川 大雅…。
運動の申し子と呼ばれるほどの体力を持ち、どんな運動音痴でも彼の手にかかれば得意なスポーツ分野を見出すと、それにあったトレーニング法を組み、その通りにこなすととてつもないスピードでプロ並みになってしまうらしい。
彼本人もスポーツは卒無なくこなすことが出来て、その中でもすごいのは不眠で本州一周の長距離走を成し遂げたらしい。
…スゴすぎ。

「むむ……。
前田ちゃん……。」

そう唸りながら彼は先程の神切さんと同様に私の体を舐めまわすように眺める。
もしかして私に合うスポーツを探してくれているのかも!
…そう思った矢先。

「スカートからすらっと伸びた足…!程よく引き締まったおしりと程いい肉付きの腰!そして控えめの胸に悪くないルックス…!
うーん前田ちゃん!1発y」

…田川クンがなんか言おうとした瞬間、隣からとんでもない速度の平手打ちが飛んでくる。

「ヘブゥッ!?」

そのまま床に顔面が着き、彼は10mほどスライドして行った…。
そして、私はその攻撃の主を見る。

「何度も言ったけれど、初対面早々にセクハラなんて最ッ低!
女子をあんまり舐めないで欲しいわね。」

「舐めるってそこまd」

………再び田川クンがセクハラしようとした瞬間、茶髪のポニーテールに赤いジャージの中に白いカッターシャツ、そして黒いズボンを履いた女性がその手にしていたバレーボールをものすごい勢いでレシーブすると、バシンという大きな音が体育館中に響くと、そのまま一直線に田川クンに飛んでいく。

「ギャーーーッスッ!」

田川クンは、即座に起き上がり、ボールを受け止めようと構えたが、衝撃を殺しきれずに腹にめり込み、壁まで飛んで行った。
…いやどんな攻撃力してるの…?

「フン、これだから男は…。
アンタ、助けたんだからアタシの貸しね!
超高校級のバレー部、飛鳥あすか 春香はるかとはアタシの事よ。
別に仲良くしてやってもいいわよ。」

ー超高校級のバレー部ー
アスカ ハルカ

飛鳥 春香…。
毎年開催される国際大会では所属するチームに必ず勝利を届けると言ってもいいほどすごい実力を持つ、超高校級のバレー部…。
得意とする技はスマッシュであり、彼女のそのスマッシュは、床に穴を開けるほどの威力らしい。
名前の通り、まさに『殺人スマッシュ』...。
大丈夫?田川クン死んでない…?

「大丈夫よ。
あれくらいで死んでたら"超高校級の体育委員"なんて務まってないから。」

心配そうな表情を見抜かれたのか、飛鳥さんは田川クンの方を見ながら私にそう答えてくれる。
当の本人はケロッと起き上がって来、ピカピカの笑顔で近づいてくる。

「いや〜!
さすが飛鳥ちゃんなんだよな!
鍛え上げられた肉体!実に唆る!
今夜オイラと………。」

そこまで言うと田川クンは急に黙り込む。
嫌な予感がして飛鳥さんの方を見ると、彼女は鬼の形相をして手を振りあげていた。
私でもわかる。これは本気マジで殺る。

…恐怖を覚えた私は、次の人の元へと向かうのだった。

chapter 0:re プロローグ ( No.6 )
日時: 2024/08/24 00:32
名前: kuzan (ID: kct9F1dw)

次に私は、黒縁メガネをかけており、白のボーダーが入った燕尾服を着たツーブロックに七三分けがされた髪型をした、白人の男性に話しかける。
すると彼は白いトーションを腕に掛け、深々とお辞儀をする。

「Bonjour.ボクの名前はオリヴ。
オリヴィエ・ヴァインケルナーと申します。
以後お見知り置きを。」

ー超高校級のソムリエー
オリヴィエ・ヴァインケルナー

オリヴィエ・ヴァインケルナー…。
幼い頃からワインに関する知識を叩き込まれ、ワインに関する膨大な知識を持つ、フランス出身の超敏腕ソムリエ。
若くして世界中のソムリエが集まる大会で、1位になったこともあるそうだ。
料理に合うワインを提供するのはもちろん、ワインに合う料理を作るのも得意だとか。

「この国の法律はとても残念だ。
飲酒は20歳になってから…。
キミ達に特上のワインを振る舞うことが出来ないなんて。」

表情と声色は変わらないが、私の目をじっと見て話す彼は嘘をついていないのだろう。

「うん、そうだね…。
私もオリヴクンが選んだワインが飲めないのは残念。
また20歳になった時はみんなで飲も?ね!」

私は彼を元気づける為に笑顔で彼の目を見て言う。
すると彼は無表情を保ち、メガネをグイ、と指で押し上げる。
…私にはわかる。何も語りはしないが、喜んでくれているのだろう。
彼の態度に嬉しく思った私は、また別の人の元へと向かった。

その人物は、事前情報のどこにも書いていなかった。
黒のセーラー服に灰色のスカート。黒のハイソックスを来た彼女は、燃えるように赤い髪をポニーテールに括っていた。

「初めまして。
わたくし周防すおう
周防すおう りんと申します。不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します。」

ー超高校級の侍ー
スオウ リン

周防 凛…!?
事前情報が掲示されているスレでは、ガチャガチャとした仰々しい赤い甲冑に額に『凛』と刻まれた兜を被った画像しか出てこなかったから、男性だと思っていたけどまさか女性とは…!
ええと、確か…
鎌倉時代から続く武士の家系で大政奉還後の明治時代の後も刀を握り続け、自分達は武士だと主張し続けてきた一族の末裔、だったっけ。
現代においても侍関係のイベント事などで引っ張りだこになっており、海外でも大活躍中、だとか…。
また、彼…じゃない。彼女は周防家の完成品と言われており、15歳の頃には特例で居合道の1番上である十段になったとか…。
同じ女性だけどかっこいい…。
尊敬の目で彼女を見ていると、それに気がついたのか、周防さんがふるふると震える自らの体を両手で抑えていた。

「あぁ、行けません前田様…。
そんな目を向けられたら私……私……!」

そう話しながら彼女の体の震えがさらに強くなっていく。

「えっ…!?私何か失礼なことしたかな…!?」

「…昂ってしまいます……!」

「…えっ?」

私の心配を他所に、周防さんはヨダレを垂らし、恍惚とした表情を浮かべる。

「熱い眼差し……!つまりそれは戦の証………!
血湧き肉躍る合戦………!
あぁ…なんて素敵なのでしょう………!」

………彼女の美しい外見からは想像できないほどなんというか…下品な表情を浮かべていた。
事前情報を再び思い出す。彼女は巷ではこんな風に呼ばれている。
『生まれるのが500年遅かった武士』。
そう言われている所以は、尊敬の眼差しや喧嘩をふっかけようとすると、侍としての本能からか、気持ちが昂り、直ぐに命のやり取りを行おうと興奮してしまうらしい。
それを思い出してドン引きしていたら、理性を取り戻したのか、周防さんはハッ、とした表情を浮かべる。

「すみません、私ったら、はしたないところを見せてしまいました…。
この腹、斬ってお詫び致します…!」

「いやダメだよ!?」

申し訳なさそうな表情をした瞬間、彼女は制服を開き、腹部を露出させる。
それを見た私はなんとか彼女に落ち着いてもらうよう宥め、次の人の元へと向かった。
…大変だったなぁ。

黒いパーカーと深く被った青みがかかった黒髪ボブの女性。
首にはヘッドホンがかけられている。

「……私……?
……超高校級のハッカー。
佐原さはら 沙希さき
………それだけ。」

ー超高校級のハッカーー
サハラ サキ

佐原 沙希…。
国家公認のホワイトハッカー。
元々は自分の腕試しがてら企業の情報を抜きとるブラックハッカーだったが、あるハッカーに打ち負け、国を守るホワイトハッカーになったのだとか。
その結果国の一大情報を抜き取ろうとしてきた某国の攻撃を跳ね返し、更には情報を抜き取り返すという快挙を成し遂げたらしい。

「………。」

「………。」

「………いつまでそこにいる気?
私と話していても、時間の無駄………。」

なにか話そうか、と考えていた時、彼女はパーカーを深く被り直し、後ろを向いてしまった。
…仲良くできるかな、なんて考えながら次の人の元へと向かった。

その人物は私が近づいてくると、にっ、と笑い、サムズアップをする。
オレンジのツナギを着ており、髪型もオレンジでオールバック、耳には金色のピアスを付けた男性だ。

「うーっす!
オレは雷桐らいどう 彪雅ひゅうがっつーんだわ!
前田、よろしくな!」

ー超高校級の設計士ー
ライドウ ヒュウガ

雷桐 彪雅…。
建築業界や自動車業界、更には映画業界やプログラミング業界など、様々な業界に顔が広い超高校級の設計士。
彼の設計通りに作ったモノはどれも一級品になり、数々の経済難を救ってきたとかなんとか。

「なんつーかさ、みんなすげー才能ばっかだよな。
俺なんてパッとしねぇ才能だしさ。」

雷桐クンはそう言いながら頭をボリボリと掻く。

「でも私から見たら雷桐クンの才能だって凄いと思うよ!
その腕で色んな人達を救ってきたんでしょ?
幸運なんかの私とは全然違うよ!」

私は彼が私にやって見せたように、サムズアップをして見せる。
それを見た雷桐クンは呆気に取られた表情を浮かべていたが、直ぐに笑顔を作ってみせる。

「そっか…。
そうだよな!確かに色んな人に頼られて来たしできる範囲で助けてきたわ!
でも前田の幸運だってスゲーと思うぜ!運も才能のうちって言うしさ!」

雷桐クンは元気にそう言って私を励ましてくれる。

「うん、ありがとう雷桐クン。
これからもよろしくね。」

…よし、これで14人全員話しかけたかな。
そう思った時、バン、と扉が開く音がする。

「ごめんなさい!
遅れました!」

両手を合わせ、深々と頭を下げるその女性は白黒のセーターを来ており、髪型も白黒のボブをしていた。

氷海ひょうかい 水華すいかって言います!
よろしくお願いします!」

彼女はそう自己紹介をしながら、ビシッと敬礼をする。
なんというか、元気な子だ。

「…氷海…?
…分析した結果、そんな名前オレの記憶にないぞ。」

呉霧クンがそう言いながら、口元に手を当てる。
私も記憶の引き出しを開く。
…希望ヶ峰学園79期生入学リスト…。
確かに、私、一般人枠の超高校級の幸運、前田 言菜の名前と彼女、氷海 水華の名前はなかった。

「ギャーーー!不審者でぃ!
この学園に不審者が侵入しているんでぃ!」

龍崎クンが失礼にも氷海さんを指さし、騒ぎ立てる。
それに対し氷海さんは慌てたように両手をあげる。

「ち、違うよ!
私も超高校級の才能の持ち主でこの希望ヶ峰学園に入学してそれで校内に入った瞬間意識がなくなって……。
…あれ…?」

氷海さんがそこまで言うと、困ったような表情になる。

「超高校級の……なんだっけ………。
自分の才能が……
思い出せない…?」

ー超高校級の???ー
ヒョウカイ スイカ

「自分の才能が思い出せないだと?
フン、どうせ思い出せない程度の無能なのだろう。そこの地味女と同じで。」

成城クンが見下すような表情をして顎で私と氷海さんを指す。

「成城社長。
あまりおいたが過ぎると…
何するか分かりませんよ。」

なにか言い返してやろうか、そう思った矢先、我津クンが成城クンの眼前に近づき、目を見開く。
離れていてもわかる。なかなかの重圧だ。
足が竦む。
これがマフィアのボスか…!
情けないことにそう思っている私とは対称的に成城クンは腕を組みなおし、彼を見下す。

「フン、社会のクズごときが私に意見するとはいい度胸だ。」

両者に緊張感が走る。
一触即発の場面。

「あー!あーッ!
マイクテスッ!マイクテスッ!大丈夫聞こえてるよね?
最初っからブッ放してくれるのはいいけどさ!
何事にも順序ってのは必要だよね!
ということで役者が揃ったところでオマエラー!
壇上にご注目くださいッ!」

___その場違いなほど陽気で耳障りな声は、スピーカーから響いてくる。
その場に集まった16人の男女は、一斉に体育館のステージに注目する。

設置された教卓の下から陽気に体の半分で白と黒に分けられたクマが飛び出してくる。

この瞬間が、全ての始まりだった。

chapter 0:re プロローグ ( No.7 )
日時: 2024/08/24 00:37
名前: kuzan (ID: kct9F1dw)

元気に飛び出してきたぬいぐるみのような白黒のクマは、私達16人の視線を一斉に受ける。
それを見た成城クンは、ズカズカと歩を進め、ソレの前へと迫った。

「キミか。
私を『オマエラ』扱いした無能は。
どういうことが説明してもらおうか。」

激昂する成城クンの手には、私が教室から持ってきた入学案内と書かれた紙が握られており、そのクマの眼前に突きつけられていた。

「オマエさ、空気読んでよね。
さっきも言ったけど何事にも順序が大事なんだよ。エンタメって分かる?
ここはオマエラが『クマ!?』『ヌイグルミ!?』『ロボットかな!?』とか動揺するシーンなんだって。」

そのクマも怒っているのか、赤い目を光らせ、その手からは鋭い爪を覗かせており、成城クンの喉元に突きつける。

「…フン、命拾いしたな。」

諦めたかのように彼は踵を返すと、大人しく壇上から降り、私達の元へと帰ってくる。
彼はどこか不機嫌そうにしており、組まれた腕に指をトントンとしている。

「物分りがいい生徒で良かったよ!
えー、コホン…。」

クマは、爪を収め、今までとは打って変わって穏やかな雰囲気になれば、ひとつ咳払いをする。

「オマエラ!
おはようございます!」

「おはようございますっ!」

「挨拶するんですね…。」

クマがぺこり、と頭を下げると、蛍雪さんが反射神経のように綺麗に頭を下げる。
その様子を呆れたように薄ら笑いで我津クンが眺めていた。

「えー、ボクはモノクマ。
この学園の学園長なのですっ!」

モノクマがそう元気に挨拶をすると、周りがざわつき始める。

「学園長なんだよね!?」

「あのベアが…学園長…?」

「きっと学園からのサプライズだよ〜!」

「……。」

驚く者、不審に思う者、楽しそうにする者、無言で話を聞いている者…。
反応は皆それぞれだったが、全員がそのクマ、モノクマの話に耳を傾けていた。

「ボクはヌイグルミじゃないしロボットでもないよ!
正真正銘プリティーで最高で完璧で究極の学園長アイドルなんだから!」

えっへん、とモノクマは胸を張り、その身体を見せびらかすようなポーズを取る。

「それで?なんかのドッキリなんでしょ?
さすが希望ヶ峰学園ね。こんな大々的に歓迎してくれるなんて。褒めてあげるわ!」

「ほえ?ドッキリ?」

飛鳥さんがビシッとモノクマに指を指す。
しかしモノクマは、惚けたように首を傾げる。

「きっと学園長殿はまだお言葉を残していらっしゃるかと思われます。
動揺するやもしれませんが、少し耳を傾けてみましょう。」

なにか不穏な空気を感じ取ったのか、周防さんが周りの人物の目を見て言う。

「さすがラストサムライ!空気読めるよね!
えー、それでは改めて、入学式に先立ちまして、ボクからのありがたぁいお言葉です。
耳かっぽじってよく聞きやがれクマー!」

モノクマは何故か爪を立て、威嚇しながらそう言う。

「そんな威嚇しなくてもちゃんと聞いてるよぉ…。」

氷海さんが少しビクッ、としながら弱々しく呟く。

「さっきからボクの言葉を妨害する不届き者がいるからね。
ちゃんと立場ってのは弁えてもらわないと!
えー、コホン!
オマエラのような才能あふれる高校生は、"世界の希望"に他なりません!
そんなすばらしい希望をもっと高めてもらうために、オマエラにはこの学園だけで、共同生活を送ってもらいます!
みんな仲良く秩序を守って暮らすようにね!」

「オイオイ!?今なんつった…!?」

雷桐クンが何かを言おうとしていたが、隣にいたオリヴクンの右手がそれを制した。

「だーかーらー!オマエラにはこの学園内で一生!
一緒に過ごしてもらうんだよ!ホンットに物分りが悪いなぁ!」

プンプン、とわかりやすい態度で怒るモノクマとサラッと言い流された"一生"という言葉。
それは再び体育館をざわつかせる。

「…今、とんでもない事を言わなかったかしら?」

神切さんがモノクマを鋭い目で睨みつける。

「だいじょーぶだいじょーぶ!
予算は豊富だし、オマエラを不自由させることはないと思うよ!
いやー!やっさしーなぁーボクってば!」

『でもでもー!一生ここで暮らすってなると、不便って言うかー!
アタシらにもやることがあるって言うかー?
出して欲しいんだけどー!』

きらりちゃんが腕をパタパタと振りながらモノクマに抗議する。

「何?出たいの?
一生困らないって言ってるのにさ!
…まぁいいよ。ボクは優しいから、学園から出たい人のために特別ルールを設けたのですっ!」

えっへん、と両手を腰に当てるとモノクマは続ける。

「それが『卒業』というルール!では、この特別ルールについて説明していきましょう。
オマエラには、この学園だけでの『秩序』を守った共同生活が義務付けられたわけですが、もし、その秩序を破った者が現れた場合、その人物だけは、学園から出ていくことになるのです。それが『卒業』のルールなのです!」

「なんでぃ、ちゃんとしてるんだな!」

「…いや、分析した結果、言い草的にヤツはきっとなにか狙いがある。
そうだろう、モノクマ。
『秩序を破る』というのはどういう事だ。」

冷静に呉霧クンはモノクマに言い放つ。
それに対し、モノクマは赤い目を光らせ、驚くほど場違いな明るい声を上げる。

「ヒトが、ヒトを殺すことだよ。」

「…ほう?」

モノクマがそう言うと、今日初めて興味深そうに成城クンが耳を傾ける。

「殺人…。」

周防さんはモノクマの目をじっ、と見据える。

「ですか。」

殺しの現場になれているであろう我津クンも冷静に話を聞き続ける。

「その通りっ!手段は問いません!殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺!
好きな方法で好きに殺っちゃってちょーだいっ!」

再三、体育館にどよめきが生まれる。
だってそうだ。
ヒトがヒトを殺すなんて、考えられないから。

chapter 0:re プロローグ ( No.8 )
日時: 2024/08/25 09:10
名前: kuzan (ID: b9FZOMBf)

続く静寂。
満足気に笑う学園長を名乗るクマと様々な思考をめぐらせる16人の高校生達。
そんな静寂を破った人物がいた。

「ふざけるなー!
こんなの横暴だ横暴!
オイラ達をここから出せー!」

「そ、そうよ!
いくら設備や物資が整ってるからってこんな所に一生居れるわけないじゃない!
それに、ひ、人を殺すなんてできるはずないじゃない!」

田川クン、飛鳥さんがモノクマを指差し、騒ぎ立てる。

「なんで?
社会のあれやこれやに巻き込まれずに学生気分でずーっとこの学園の中で居れるしどーしても我慢できなかったら人のひとりやふたりを殺しちゃえばいいだけの話だよ?
希望の才能を持つオマエラならそんなこと容易い御用だと思うんだけど?」

モノクマは首をかしげ、当然のように言い放つ。

「それが出来ないからこうやって言ってるんだよな!
そっちの都合ばっかり押し付けるなー!」

再び田川クンがモノクマに向かって抗議する。

「…ばっかり…?」

すると突然モノクマは電源が切れたかのように腕をプラン、と下にたらし田川クンを睨みつけ、うわ言のように呟き始める。

「ばっかりって何だよばっかりって。
ばっかりなんて言い草するなよ。何度も何度も説明してやってるのに、ホンットに物分りが悪い連中だよね。何がここから出せだ。何が帰せだ。ここから出てもクソみたいな社会しかないのにさ。
いいか?これからはこの学園がオマエラの家である明るい社会であり希望の世界なんだ。やりたい放題やらしてやるんだから、殺って殺って殺りまくっちゃえーっつの。」

可愛らしい声からは想像できないほどのおぞましい内容と圧力。
それに思わず田川クンは膠着してしまう。
だが、さすがと言うべきか、彼の代わりに動いた者がいた。

「もう我慢ならねぇでぃ!
オレっちがモノクマをぶっ壊して裏にいる人物を引きずり出してやりぃ!」

そう言いながら龍崎クンが壇上に上がり、モノクマを鷲掴みにする。

「ギャー!
学園長への暴力はこここ、校則違反だよ!」

そのまま持ち上げられたモノクマは、手足をバタバタさせ、必死に足掻こうとする。

「知るかぃ!これでもオレっちは地元でブイブイ言わせてた方なんでぃ!
このままぶっ潰して…ァん?」

ブンブンと腕を上下させてモノクマを振り回していた龍崎クンだったが、突如としてその腕を止める。
モノクマは動きを止め、電源が切れたかのように全く動かなくなっていた。

「なんでぃ!オレっちの力、恐れちまったかぃ?
さすがオレっちだぜぃ!」

龍崎クンが満足そうに胸を張り、高らかに勝利宣言していた。
…だが、何かがおかしい。
持ち上げられた時だって、成城クンを脅して見せた時のように、鋭利な爪で抵抗できたはずだ。しかしモノクマは何もしなかった。
それどころか、ピコーン、ピコーン、と謎の機械音を鳴らし始め、その音が鳴る度にどんどんと速度が増し始める。

「…?なんでぃこの音…。」

当の本人もそれに気がついたようで、呆気にとられた表情をする。

「…この匂い………
まさか………!」

そう呟く呉霧クンの顔は、どんどんと青ざめていく。

「呉霧クン、何かわかりましたか?」

我津クンが涼しい顔をして呉霧クンの隣に並ぶ。

「…分析した結果、C7H5N3O6。
通称トリニトロトルエン…!
そいつは爆弾だ!」

「な、なんだってぃ!?」

呉霧クンが迫真の表情でそう言うと、ソレを持っている龍崎クンの顔色が真っ青になっていく。
そんな中、我津クンが壇上へと走り出す。

「龍崎クン、失礼ッ!
墳ッ!」

龍崎クンの強ばってる腕からモノクマを取り上げ、上に投げると、タン、と地面を蹴り、渾身の力を込めて上空にモノクマを蹴り飛ばす。

すると___

ドォォォォォンッッッ!!!

___ものすごい轟音を鳴らし、モノクマが大爆発を起こした。

「ヒィ…!
ば、爆発した…!」

先程までモノクマを掴んでいた当の本人は腰を抜かし、地面に座り込んでいた。

「さすが学者様。
お陰様で大惨事を防ぐことが出来ました。
…問題は、学園長様の方、ですね。」

爆弾モノクマを蹴り飛ばした本人は、ケロッとした顔をしており、拳法家のような姿勢をとり、警戒し続ける。

「ええ、アレで終わりとは思いませぬ。」

更に周防さんがどこからか竹刀を手に取り、眼前で構えて警戒する。
…戦闘系の才能の人達、頼もしすぎない?

『イエス!アレで終わるようなボクじゃありませーん!』

再び、スピーカーから陽気な声が響く。
モノクマが体育館の床下から何かを抱えながら飛び出して来て、龍崎クンの前にちょこん、と座る。

「あのさ、今回は初回の警告ってことで済ませといてやるけど次やったら容赦しないからね!
仏の顔も三度までって言うけど!モノクマの顔は1度までだからね!
次やったら、お尻ペンペンのオシオキで済まさないから、覚悟しててね。」

そう言いながらモノクマは手に持っていた板状の何かを私達に手渡してくる。

「これは?」

そう言いながら私はソレを起動する。
すると、画面に自分の名前がデカデカと表示される。

「これは電子化された生徒手帳!
その名を電子生徒手帳ですっ!
『そのままじゃん!』っていうツッコミは受け付けません!
…あ、雲上さんには後でデータを送っとくね。
とりあえずコレは学園生活に欠かせないものだから絶対に無くさないでよね!それと、起動時に自分の本名が表示されるから、ちゃんと確認しておいてね。単なる手帳以外にも使い道はあるんだから。
ちなみに、電子生徒手帳は完全防水で、水に沈めても壊れない優れもの!耐久性も抜群で、10トンぐらいの重さなら平気だよ!
詳しい校則も書いてあるから、各自じっくり読んでおくように!
何度も言うけど、ぜーったい校則違反は許せないんだから!
破られた場合はグレートで超エキサイティングなオシオキが待ってるから!
てことで入学式はこれで終了しまーっす!
じゃ、待ったねーい!」

唖然としている私達を置いて、心底楽しそうにしながらモノクマは地面に消えて行く。

「…ねえ、学園長さんが言ってたことって…本当なのかな…?」

藍川さんが弱々しく声を漏らす。

「本当のことかどうかなんてものは、重要じゃない。」

重々しい空気の中、呉霧クンが口を開く。

「そ、そうだよ…!
問題は…。」

氷海さんは胸の前で手を組み、弱々しくしながらも、勇気を振り絞ったかのように続ける。

「この中に、誰かを殺そうって考えてる人がいるかどうか…だよ…!」

その言葉を皮切りに、私達は目を見合わせる。

-誰かを殺そうって考えてる人がいるかどうか-

そう考えると、恐ろしかった。
殺し、殺され、この学園で一生を過ごすか、誰かを殺めて外に出るか…。
全く予想できない、絶望の学園生活が、幕を開けたのだった。

ー chapter 0:re プロローグ END ー

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