二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.102 )
- 日時: 2018/04/03 23:22
- 名前: テール (ID: LAu9zylb)
そして、各々が芝居の練習をしている間にも、時間は経ち、とうとう前日を迎えた。
舞台での衣装を着てでのリハーサルに、一同は息をのむ。
「胸きついなぁ、これ。」
ティルはそういって、胸をぽんぽんと叩く。
いつもの髪型とは違い、三つ編みで後頭部にまとめ、余った髪を垂らすようなヘアスタイル、
黒いマントを羽織り、下は黒地の服、
顔には赤い魔神の紋章が描かれている。
胸はさらしで巻いているため、目立たず、見た目は美少年のような姿である。
「我慢なさい、4日間このスタイルで行くんだから。」
「4日間!?・・・きっつぅ」
ティルは肩を落とした。
少年はそんなティルをぽんぽんと叩いて励ます。
「これから前日のリハーサルが始まりますが、
リハーサルとはいえ、気を抜かないようお願いいたします。」
団長が全員に大きな声で伝える。
その時、客席から数十人の声が聞こえる。
おそらく、劇団の関係者であろう。
「わわっ、結構いるなぁ・・・」
「多分スポンサーの人とかだろ、結構いるな・・・」
幕のカーテンの隙間からクーとルドガーが客席の様子を見て声を上げる。
「二人とも、始まるわよ!」
「は、はーい!」
「おう!」
ネイラはそんな二人に声をかけ、持ち場につかせた。
しばらくして、全員が持ち場で待機すると・・・
舞台は薄暗くなり、リハーサルが始まった。
「今、世界は大きく揺らいでいる!」
ライトアップされた、ユフラテ役のリベルテが舞台の中央へ立っていた。
力強くはきはきと口にする口調は、
今迄の引っ込み思案のリベルテとはかなり異なっていた。
衣装は、白い鎧と赤いマントを着こみ、額に金色のサークレットをつけている。
髪型は長い前髪を髪留めで止めて、後頭部にひとつに結わえた、勇ましい騎士のようである。
普段はおろおろしている様子のリベルテとは違った姿を見た一同は、
驚きを隠せなかった。
「あれがリベルン!?すごいなあ・・・」
「人間やればできるものだね。」
そしてシーンが変わり、アナンタ役であるリーヴェシアが登場した。
衣装は純白のドレス、髪型は左右の耳から上の後ろ髪をひとつにまとめたもので、
神々しい光と共に舞台上に現れる。
そのシーンでは、アナンタがユフラテに光の力を与え、
ディアボロスに打ち克つ力を手に入れるというものであった。
両者の演技に、客席で見ていた関係者は息をのむ。
「これは復讐だ、我を蔑ろにした世界へのな!」
シーンが変わり、ディアボロス役のレイが登場する。
衣装は黒いツノを頭から生やし、黒いマントの下に、胸辺りまで開いた紺色のシャツ、右頬に黒いフェイスペイントが施されていた。
髪型は普段は左目を隠している前髪を、両目が見えるように髪留めで止めたものであった。
左目は普段隠していたので確認できなかったが、赤色の瞳であった。
そして、ティルが登場する。
表情は無表情で、緊張などは感じられなかった。
「ティルヴィングよ、魔神の名において命ずる・・・
世界を破滅へと導き、この世界のすべての人間を根絶やしにせよ」
レイは口元を歪ませ、ティルヴィング役のティルに命ずる。
ティルは手に持った黒い剣を天へと掲げ、力強く叫んだ。
「承知しました、我が力を以って世界に住む愚者を根絶やしにしましょう!」
その演技に、客席にいる関係者も、周りの劇団も驚いた。
昨日まで「自信がない」と言っていたので、正直不安ではあったが、
迫真の演技に、言葉も出ない。
「流石本番に強い子ね・・・」
ネイラは感心してその演技を見た。
そうして、リハーサルは順調に進み、
ラストシーンの聖騎士と魔神の戦いの後、幕は閉じ、拍手喝采する関係者たち。
団長も、皆の演技と演出を見て頷きながら笑う。
「これなら明日からも大丈夫そうだな。
明日からいよいよ本番だ、3日間気を抜かずにいこう!」
団長の言葉に、各々返事を返した。
いよいよ明日からは本番だと、ティルも拳を握りしめる。
少年も、その様子を見て、両手にぐっと力を込めた。
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.103 )
- 日時: 2018/04/04 19:51
- 名前: テール (ID: LAu9zylb)
公演初日、劇場内は観客で埋まっていた。
「いっぱいいるよー。」
スピカがカーテンの隙間からのぞいて皆に報告する。
大々的に劇団ミュトスと五大ギルドの一つである「幸福の市場」が大陸中に宣伝し、
大陸のあらゆる場所から人が集まってきたようである。
「こんだけいるとクーちゃんワクワクしちゃうなー♪」
クーは衣装を着たままピョンピョンと跳ねる。
クーはバンダナのような太い布を頭に巻き付け、
赤を基調とした様々なラインが重なる一枚の布を身体に巻き付けた衣装を身に着けていた。
髪型は、三つ編みのリングを両耳の上から垂らしているものである。
「ちょっとクー!せっかく身に着けた衣装が崩れちゃうわよ!」
ネイラは飛び跳ねるクーを見てしかりつける。
ネイラはまるで占い師のような衣装で、
水色の半透明のベールを頭からかぶっており、水晶玉も手に持っている。
髪型は髪を下ろし、髪先近くで赤い髪飾りで二つに結わえたものであった。
「ネー先生、綺麗だね。」
「あ、あら、そうかしら?・・・・ってじゃなくて!」
ネイラはクーを捕まえて、おとなしくさせる。
「本番前なんだから、落ち着きなさい!
先が思いやられるわねえ・・・」
ネイラはため息をついてクーを見下ろす。
クーはあははと頭をかきながら笑った。
初日、2日目と公演は続き、どちらも高評価を得た。
何のアクシデントもなく、すんなり終わり、劇団の団員たちは
「このまま何事もなく終わるといいなあ」と安堵も含めたため息で3日目を迎えた。
「うーん・・・」
控室にいたカグラとイリスは、時間まで休憩をしている。
カグラは今朝の新聞を見て腕を組んで頭を悩ませていた。
「どうしたんですの、カグラ。」
イリスはその様子にカグラに声をかける。
「おや、イリス。
いやね、凶悪な指名手配犯が昨日逃げ出したという記事がありましてね。
傭兵ギルドが見かけたら捕まえてギルドに引き渡すか、
ギルドに通報しろ・・・だってさ。」
「ふーん・・・なるほど」
イリスはカグラから渡された新聞を読んだ。
確かに、凶悪犯の顔写真と傭兵ギルドへの連絡先が書いてあった。
傭兵ギルド「蒼穹の傭兵団」とある。
「蒼穹の傭兵団」といえば、五大ギルドの一つである。
「人相が悪いですわね」
「まあ、今日は公演を大成功させる。それだけを考えよう。」
イリスは頷き、カグラは新聞を机に置いて、
イリスと共に劇場へと向かった。
「ええい、畜生!」
一人の小汚い男が、街を走っていた。
それを鎧を着込んだ傭兵が二人追いかけている。
「待て、待つんだシャクス!」
人ごみをかき分けて走るシャクス。
しかし、尚も二人の傭兵は追いかける。
「・・・・くぅ、どこかに隠れる場所は・・・!!」
シャクスは周りを見る。
すると、人だかりができている大きな建物が目に入った。
「あそこで時間を稼ごう!」
シャクスは建物に入り、人ごみに紛れ込んでしまった。
傭兵二人は建物に入ったことを確認したが、シャクスの姿を見失ってしまった。
「あの建物内に逃げ込んだようだな」
「俺は副団長に協力を仰ぐ、お前は事を荒立てずにシャクスを探すんだ。」
「わかった!急いでくれよ!」
傭兵の内一人は街に走り、もう一人は劇場内へと入り込んだ。
「あらん、ここが劇場なのねぇ」
チラシを見ていた、長い青い髪の体つきががっちりとした青いマーメイドドレスを着た男性が、
劇場を見て感心する。
「今日はギルドのお仕事がお休みだから来てみたけれど、
楽しそうねえ~、うふふ。」
女性のような口調の男性がそう笑うと、中へと入っていった。
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.104 )
- 日時: 2018/04/09 21:44
- 名前: テール (ID: LAu9zylb)
「あ、マーリン師匠!こっちですこっち!」
赤い髪のゆるやかな長い髪をなびかせる、レースの入ったケープ、
赤いワンピースを着こなす少女が、マーリンと呼んだ青い髪の男性を呼ぶ。
「あら、アリアドネちゃん。よかったわ、無事合流できて。」
アリアドネはにこっと笑い、隣の空いた席をポンポンと叩く。
マーリンはそこへ座り、劇場内を見る。
「すごい人数ねえ・・・」
「そりゃそうですよ、1日目、2日目はすごく評判が良かったらしいですし!
当日券は完売ですよ、完売!」
アリアドネは目を輝かせて腕をぶんぶんと上下に振る。
マーリンはその様子に力なく笑った。
「はしゃぎすぎよ、でも気持ちはわかるわね。
ワタシたちのつくった衣装を着た演者さん達が出演するんですもの。」
「そうです!一生懸命作りましたから、丹精込めて!」
アリアドネとマーリンがそんなことを話していると、劇場内が暗くなる。
そして、壮大な音響とともに、幕が上がった。
ステージ上には、美しい占い師が立っており、スポットライトが当たったと同時に、
水晶玉を天に掲げる。
周りにはボロボロの服を着た人々が、占い師の言葉を待っていた。
「予言しましょう、この大陸は間もなく闇と混沌に閉ざされることでしょう!」
占い師の言葉に、一人の若者が立ち上がる。
「予言者ミルトよ、なぜこの大陸に闇が迫っているのでしょうか?」
「魔神ディアボロスです。魔神ディアボロスがこの大陸に、静かに迫っているのです!」
ミルトの言葉を聞いた人々はざわざわと口々に騒ぎ出す。
「七年と七月と七日、神竜アナンタに祈るのです。
さすれば神竜が私たちに力をお貸しくださるでしょう!」
ミルトはそう叫ぶと、人々は希望を見出したかのような顔で、ミルトを見る。
「なかなかいいカンジの衣装だな。」
「確か提供は・・・」
隣からそんな会話が聞こえてきて、アリアドネはにまーっと笑う。
「師匠、師匠!明日からお客様が増えそうですよ!」
「もう、そればっかりね。」
マーリンはそんなアリアドネを見て呆れる。
「クソッ、しつけえやつだ!」
一方、舞台裏に逃げ込んだシャクスは、傭兵に見つかり逃げている。
「待て!・・・クソッ、逃げ足だけは速いな・・・!」
傭兵は一筋の汗を流す。
互いは追いかけ、追いかけまわされていた。
ふと、シャクスは明かりに気づく。
「あそこは、出口か?」
シャクスは明かりに向かって走り出す。
「ッ!あそこは・・・!止まれ!!」
「魔剣ティルヴィングよ!我の力となり、全てを暗黒へと誘え!」
舞台上では、いよいよクライマックスのシーンであり、
魔神と聖騎士の戦いが始まっていた。
「私は負けない!神竜の・・・この世界の人々のために!!」
純白の剣を構え、ディアボロスに向けるユフラテ。
音楽も相まって、観客も息をのむ一瞬であった。
しかし、その緊張を乱すように、足音が舞台上に響いた。
「えっ、誰?」
ティルはそんなことをつぶやいて、突然舞台上に現れた男を見た。
「・・・!!舞台上に出たか!?」
「え、どなたですか、あなた・・・・!?
えとえと、ここは関係者以外立ち入り禁止・・・・ですよ?」
リベルテは先ほどまでの演技と打って変わっておろおろとし始める。
「まあいい、その方が好都合だ!」
と男が言うと、リベルテに突進した。
「リベルテ、危ないッ!!」
レイがそう叫ぶが、リベルテは男に手を掴まれ、喉元にナイフを突きつけられる。
「ひゃあっ!」
「リベルテッ!」
男は素早くリベルテの背中に回り込み、にやりと笑う。
「動くな、この女の首が吹っ飛ぶことになるぜ」
クーとティルが舞台上に現れ、男に向かって叫ぶ。
「ちょっとあんた、なんなのよ!?リベルテを放しなさいッ!!」
「そうだよ!リベルンを放してよ!」
「あら?このお話、こんな展開になるんだっけ?」
アリアドネがぽかんとしてつぶやく。
「オリジナルを組み込んだんじゃないかしらん」
マーリンが呑気な事を言う。
周囲の観客も、困惑していたが、マーリンと同じく、
オリジナルの展開を組み込んでいるんだなとワクワクしていた。
「どうなるんでしょう、この話!」
アリアドネは目を輝かせた。
「あんた何者よ、何が目的なの!?」
ティルは男に尋ねる。
その声は怒声が混じっていた。
「ふん、俺のことはもう知っているだろう?」
「は?」
ティルは目が点になり、頬に手をあてて考える。
「その男は、今朝の新聞に載っていた脱獄囚「シャクス・ヴォイド」だよ!
連続殺人事件の容疑者の!」
カグラが舞台上に現れ、皆に伝える。
一同は「えぇ!?」と声を上げて驚いた。
「ふん、わかってる奴がいるじゃねえか。」
シャクスはリベルテに突き立てるナイフをそのままに笑う。
「時事ネタも盛り込んできたわね。」
「どうなるんでしょう、この話!」
アリアドネが腕を上下に振ってワクワクとしていた。
「あなた、何が目的でここに来たんですか?」
その場にいたリーヴェシアが静かに尋ね、シャクスは答えた。
「まあここに来たのは偶然だよ。
・・・・要求は、異大陸行の逃亡用の船を用意することだ。」
「そ、そんなの無理に決まってます!」
リベルテが叫ぶが、グッと力を込められ、首が閉まる
「うるせえ!俺はこんな大陸からおさらばしてえんだよ!
どうせ武器なんか持たねえてめえらなんかに何もできやしねえんだからよ!」
「ぐ、ぐぐ・・・・」
「お、おい、やめろ!!」
レイが思わずシャクスに向かって声を上げる。
そしてティルを見て珍しく動揺している。
「ど、どうすんだよ!このままじゃ・・・!」
「ねえレイ、あんた、今魔導書持ってる?」
「へ?・・・一応カンナカムイがある。」
「だったら・・・ごにょごにょ・・・・」
「・・・・・一か八か、か。いいだろう。」
ティルとレイは頷いて、時を待つ。
「おい、何を相談してるか知らねえが、さっさとしろ!
この女がどうなってもいいのか!?」
「ひゃうっ!」
シャクスが叫び、リベルテの喉元にナイフを寸前まで近づけた。
と、一瞬ライトがバチッと音を立て、消えたが、すぐに戻る。
「な、なんだ!?」
「カンナカムイ!」
レイがそう叫ぶと、黒い雷がシャクスを襲う。
「な、なにっ!?」
驚いてシャクスはリベルテを放してしまう。
雷はその瞬間消え、ティルがシャクスの下へ突進する。
「いくわよ、脱獄囚!」
ティルはシャクスの腹に蹴りを入れる。
シャクスは声を上げて仰向けに倒れた。
「このアマ・・・!」
「まだよ、でやあっ!」
立ち上がろうとするシャクスに連続して拳を突き出し、
ふらついたシャクスの顔を思いっきり蹴り飛ばした。
「ぐおぉーっ!!」
壁に叩きつけられ、シャクスは気絶してしまった。
「覚えておきなさい、武器がなくたって女は戦えるのよ」
ティルがそういうと、不敵に笑った。
すると、観客席から拍手喝采が響き渡り、観客が口々に演劇を絶賛した。
「すっごい!なにこれ、面白かった!!」
「話の展開はよくわからなかったけど、悪い奴が吹っ飛ばされて、
なんかスッキリしたわね!」
アリアドネとマーリンも拍手しながら劇団の演劇を大絶賛。
舞台上の劇団員は、困惑していた。
「あ、あれ?お客様の反応がおかしくない?」
「いや、いいわこれで。
このまま幕を下ろしましょう。」
ネイラがそういうと、皆に合図を送る。
劇団団員が全員舞台上に現れて、皆で手をつなぎ、天へと掲げる。
そして、幕は降りて、最終日の公演は終了となった。