二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.134 )
- 日時: 2018/04/16 16:53
- 名前: テール (ID: LAu9zylb)
第九章 彼女のための旋律
「自分のこと 委ねてみるんだ そこから絆が はじまる」
フォアは、ベッドに横になる少女に向かって歌っていた。
少女はフォアの歌声を静かに聞いていた。
「フォアはとても魅力的な歌声だよね。」
少女は歌い終わったフォアを見てにこりと笑った。
フォアは、少女の頭をなでる。
「私にはこんな事しかできないけど、ね。」
「ううん、毎日私を見に来てくれるもの。
・・・お金にもならないのに。」
少女は窓の外を見る。
窓の外には大きな木がそびえたっており、
木漏れ日が静かにこちらをのぞいていた。
「お金なんかいらないさ。
私の歌声は誰かのためにあるからね・・・「ティア」。」
ティアと呼ばれた少女はフォアを見る。
白く長い髪、金色の瞳の少しやせた少女であった。
顔色も悪く、青色のワンピースのような寝間着を着てベッドに横たわる彼女は、
もう長くないとわかる顔色であった。
「あなただけだよ、もう長くないこんな私のために、
毎日会いに来てくれるのは。」
ティアは窓の外を見て寂しげな表情でつぶやく。
「あたりまえだよ。君は僕を助けてくれたんだから。
・・・・君がいなければ、私は帝国軍に殺されていたさ。」
「気まぐれよ、ただの。」
フォアの言葉に、ふふっと笑うティア。
フォアがこの街に来て間もなくして、追手の帝国軍に追われていた。
そして、追い詰められた時に、窓から水の入ったバケツを帝国軍に投げつけて、
自身の家に匿っていた。
「でも正直、君がいなかったらどうなってたやら。」
「ところで、ギルドの仕事はうまくいってるの?」
唐突に話題を変えるティア。
「ああ」とフォアは苦笑い。
「いってるよ、最近楽しくってね。」
「いいことじゃない。私が見られない世界をどこまでも見に行けるなんて、
本当に素晴らしいことだわ。」
「いつか、・・・・いつか!」
フォアは思い切った表情でティアを見る。
「いつか君の身体がよくなったら、君の望む場所に連れていくよ!」
ティアはフォアの表情を見てきょとんとした顔になる。
そして、すぐに噴き出した。
「ぷっ・・・あははっ!」
ティアはおかしくてたまらないという様子で笑う。
「そんな真剣な顔で言わなくてもいいじゃない!ふふっ・・・」
「いや、おかしなことを言ったかなあ・・・」
フォアは困ったような表情でティアを見る。
「ううん、でも叶う事なら、死ぬ前に一度だけ・・・
兄さんと一緒に行った、あの海に行きたいものね・・・。」
ティアはそういうと、部屋のドアが開く。
「ティア・・・あ、フォアさん。」
青い髪を一つに結わえた、青のバンダナを巻いて、
薄紫のマントを羽織り、青い服、背中には矢筒を背負っている
女性のような体格の弓兵が部屋に入ってくる。
「ああ、すみません、勝手にお邪魔しています。」
「いえ、あなたが来てから、ティアは毎日機嫌がいいんですよ。」
「ちょっと兄さん!」
「本当のことじゃないか。」
ティアの兄「ミュリエル・ミトライユーズ」が真顔でティアを弄っていた。
ティアは顔を真っ赤にしてシーツで顔を隠す。
「ああ、もうこんな時間か・・・ティア、私はここでお暇するよ。」
フォアはそういうと、椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする。
「フォア、また明日も来てね。」
ティアはシーツから顔を出して、フォアにそういう。
フォアはそれを見ると、にっと笑い、部屋を出ていった。
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.135 )
- 日時: 2018/04/16 21:49
- 名前: テール (ID: LAu9zylb)
「ただいま、みんな。」
フォアは「自由な風」の拠点へと戻ってきた。
「フォア、毎日遅くまでご苦労様。
晩御飯できてるわよ、今日は私だから、味は保証するわ。」
ティルがフォアを迎え、テーブルへ案内する。
皆は既に食べ始めていて、各々談笑を交わしていた。
「そういえば、最近帝国軍がこの街を歩き回ってるの。
みんな、気を付けてほしいの。」
スピカがフォークで牛肉のソテーを口に入れながらそんなことを言う。
カグラが驚いた様子で、むせていた。
「それは本当かスピカ?五大ギルドが動かないのはなぜだ?」
「おそらくギルドと帝国の全面戦争を回避するためだと思う。」
ルドガーはそう答えると、パンを口に入れる。
ネイラは口に手をあてて考えた。
「だとしても、五大ギルドが何も言わないのはおかしいわね・・・
何かあったのかしら?」
「まあ、そんなこと考えたってしょうがないじゃない。
明日だって依頼があるんだからさ、仕事仕事!」
ティルはシチューを皿に盛りながら、そんなことを言った。
そして、シチューをフォアの前に出す。
「フォア、あんた・・・仕事帰りにどこいってるの?」
ティルはにやにやとした笑顔でフォアに尋ねる。
「えっ!?・・・あいや、歌の練習にね。」
フォアは明らかに顔を赤らめた様子ではははっと笑う。
ティルは「ふーん」と目を細めながら声を出す。
そして、自分の分のシチューを皿に盛った。
「まあどこに行くにせよ、あんまり遅くならないでよね。」
「あ、ああ・・・すみません。」
フォアは頭を下げ、シチューを口にした。
次の日、フォアは仕事を終えて、街角を歩く。
向かっている先は、昨日と同じくミュリエルとティアの家であった。
夕陽が街を照らし、街灯がともり始める。
「ティア、すまない遅くなって。」
「フォア!・・・・ふふっ、今日は昨日より早いわね。」
ティアはくすっと笑いながらフォアを見る。
相変わらずベッドから上半身だけ起こした状態であったが、
昨日より顔色が悪くなっているような気がする。
「今日も歌を聞いてくれるかい?」
「もちろん、私・・・毎日あなたの歌を聴くだけで、今日を生きたって実感できるもの。」
フォアは竪琴を取り出し、演奏を始めた。
ポロンという音が鳴り、フォアは歌い始めた。
「新しい季節を感じて 光と影に そっと瞳を開く
流した涙はいつの日か あなたの笑顔 強く輝かせるから」
フォアは歌い、ティアは静かに聞く。
歌い終わると、ティアは拍手をする。
「今日もいいカンジね。」
「ありがとう。」
ふと、ティアはフォアの竪琴を見る。
「その竪琴、綺麗ね・・・・どういったものなの?」
「ああ、これね。今日は満月か・・・」
フォアは窓の外を見ると、すっかり暗くなり、満月の光が部屋に漏れていた。
青白く部屋を照らし、照明が必要がないくらいに明るい。
「この竪琴は、私の育ての親がくれたんだよ。」
そういうと、フォアは竪琴を窓の近くに置く。
すると、フォアの竪琴が青く光り、美しく発光した。
「すごい!満月の光に反応しているの?」
「そうだよ。私の育ての親は、クレセリア族の歌姫でね。・・・・形見だよ。」
フォアは最後の方を小声でボソボソとつぶやく。
「クレセリア族の?・・・すごいわね。どういった所以の竪琴なの?」
「うん、これは「月影の竪琴クレセントルナ」。
クレセリア族が人々の悪夢を振り払うために、この竪琴を用いて演奏するんだって。」
ティアはそれを聞くと、「へぇ~」っと声を上げる。
そこへ、ミュリエルが部屋に入ってくる。
「フォアさん、今日も来てくれたんですね。」
「ああ、ミュリエルさん・・・お邪魔しています。」
ミュリエルはフォアの竪琴が光っていることを見ると、驚く。
「美しい光ですね・・・まるで心が洗われるようです・・・」
「はい、満月の日にしか光らない特別な竪琴なんです。」
「なるほど、クレセリア族の竪琴ですね。」
ミュリエルは頷く。
ティアは驚いて、ミュリエルに尋ねた。
「兄さん、知っているの?」
「はい、僕も一応大陸を回っていますからね。」
ティアは目を輝かせる。
ミュリエルは思い出したかのようにフォアに尋ねた。
「ああ、そうだ。
フォアさん、今日はうちで食べていってください。
その方がティアも喜ぶ。」
ミュリエルはそういうと、ティアが顔を真っ赤にして反論した。
「べ、別に喜ばないわよ!」
「はははっ、・・・・どうですか、フォアさん?」
「お言葉に甘えて・・・」
フォアが頷くとミュリエルは笑顔を見せた。